機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
第2部 第16話 00クアンタR1
組織復活までに約十年!
ELSとの対話から戦乱に突入して、私設武装組織ソレスタルビーイングが本格的に動き出せるようになるまでの年月である。
当時既にスポンサーは亡くられ、資金は乏しく、太陽炉は相次ぐ戦いで減り、切り札は対話の旅に出た。
そんな困窮の極みに、組織は紛争根絶の為に立て直しに歳月を費やされたのだ。
幸い世界のガンダムに対する評価はアロウズ介入とELS戦の功績で好転しており、少しずつだが新たな賛同者が集ってきた。
資金源に民間企業を傘下に治め新たなスポンサー達を得て今に至る。
それまでの苦しい十年間も天上者達は解散していた訳ではなかった。
それでも統合戦争の局所―――最悪な場面へ発展を予想される戦場の武力介入を最低限ながら行い続け、
戦火の拡大と民間人、イノベイターの被害をなるべく抑えてきた。
だが次第に進歩していく連邦と反イノベイター勢力などの両者のMSに、ガンダムとてやがて対抗できなくなるだろう。
天才技術者の知恵をどれだけ振り絞っても。
シングルドライヴ式の機体をコンデンサー技術で補おうとも。
ビット兵器で外付け強化を図っても。だ。
加えて地球連邦政府は穏健派から代わって強硬派が政権を握り、宥和政策を改め強硬路線に転じさせ、
かねてより続いていた内乱を激化に向かわせようとしていた。
反イノベイター政策こそ行っていないが右傾するとあっては、紛争幇助対象として連邦を看過する訳にはいかない。
来る大々的な武力介入再開まで、後残るは新世代ガンダムの運用試験のみ。
力の源である太陽炉が次々揃い機体が造られ、全ての準備が整った。
「GNドライヴ出力40%突破!異常なしです!」
「00クアンタR1、安定領域突破までおよそ20秒と予測!」
「これが新型太陽炉の力・・・。なんという力だ・・・・・・!」
地球どころか火星より向こうの、小惑星帯にソレスタルビーイングの秘密基地が存在する。
以前に引き続き小惑星をくり抜いた構造は、表面のステルス迷彩と相まって肉眼ではただの自然物しか見えない。
ただ違うのは、地球連邦の勢力が介入当時より飛躍的に拡大した為に、
組織の活動が制限され拠点を地球圏外より遠く離さなければなくなった点だ。
「50%突破!」
「安定領域まで残り10秒!」
基地内の薄暗い管制室。
彼らはオペレーター達が端末を操りモニターを見遣りながら、基地内の管理に勤しむ。
格納庫で機体より放出されるGN粒子の圧倒的な量に、目の当たりにした老人は絶句した。
しわが刻み込まれた顔には驚愕と歓喜と共に浮かび上がる。
彼の名はイアン・ヴァスティ。歳は七十代に達しつつある六十九の総合整備士。
ソレスタルビーイングのガンダムの発展に貢献した、一世一代の天才ある。
「30%の時点で初期型の限界を超えている・・・!それがこいつだと・・・!」
言葉が続けられない程の興奮が込み上がってくる。
それはそうなって当然だ。
(これまでスポンサーがおらず、資金が無く、俺の腕で上げてきた技術・・・。
新しいスポンサーの資金のおかげで、十年前の機体がこれ程に仕上がるとは・・・・・・!)
純正太陽炉は粒子生成に制限がない、半永久的な稼働を可能にする。
だが一度に生成できる量は限られ、これ以上増やせられない事。
そして製造に高重力を必要とし、生産性が低いのが問題点だった。
新ガンダムマイスターの顔がモニターに映し出された。
二十代前半なもののスキンヘッドで既にヒゲを生やした男だ。
「100%突破!システムオールグリーン!」
「こちら管制室、機体良好を確認!これよりハッチ開放します!」
「どうだい、アサネル?この00クアンタR1の調子は?!」
彼、アサネル・コープはソレスタルビーイングが十二年振りに外界よりスカウトした、新ガンダムマイスターの一人。
連邦軍所属の非イノベイターの中堅パイロットだが、彼の堅実な性格と実力をヴェーダが評価し、メンバーに指名したという。
その新ガンダムマイスターに、イアンは早速訊きだす。
「素晴らしいに尽きます。これぞ新世代の先駆けに相応しい機体です。」
落ち着いた声色で、それでも笑顔を微かに浮かべる顔で返事された。
「もっと喜んで良いんだぜ?ここは」
GN-0000Q/RI 00クアンタR(リペア)1は、
00クアンタ二号機に最新技術と三世代太陽炉を盛り込んだテスト機である。
来る武力介入に用いる新世代ガンダム開発の為に、
粒子制御と量子ワープを利用した戦法や装備の模索するなど、実働データ収集を目的としている。
その性能は最初のイノベイターの操縦する一号機を上回る。
とはいえ
「お言葉ですが、それは介入用のに乗った時に置いておきます」
「謙遜すんなよぉ・・・おい」
アサネルが何事も冷静なのは承知の上である。
苦笑いするイアンをよそに、指揮官はアサネルに指示を下した。
「準備は出来ているな?ではハッチ開放せよ!」
「了解!」
元より真空状態の格納庫のハッチが開かれていく。
次第に外が、宇宙が見えていく。
「ハッチ開放。アサネル・コープ、発進を許可する」
「アサネル・コープ、00クアンタR1、出る!」
同調された新型太陽炉二基の粒子による圧倒的な初速は、機体をハッチより遥か二キロまで突き進んだ。
これほどの急加速がもたらす強烈なGは、GN粒子の慣性制御によって緩和され、ガンダムマイスターの肉体を軽く軋ませる程度だった。
「00クアンタR1、テスト宙域まで三十秒と推測」
彼らのいる、地球や火星より遠くの小惑星帯の秘密基地から、テスト宙域まで四百キロ程遠く離れている。
それ程の距離を軽く走破するツインドライヴ機の恐るべき移動速度。
量子ワープなしですら可変MSをも上回る速さではないか。
「テスト宙域到着しました。いつでも行動を開始できます」
「メニュー通りに進めるぞ」
「了解」
00クアンタR1の目前に突進するGN-XIII無人型が八機。
それらは四機一個小隊の横隊が縦二列に組んでおり、
前衛小隊はGNランス装備、後衛小隊はGNメガランチャーとNGNバズーカの混成となっている。
敵役のそのMSは地球圏で民間用に出回っており、なおかつGN機と、テストの標的としてこれ程ふさわしい物はない。
「小手調べに・・・良いな!」
前衛は前進から散開に切り替え、ガンダムに粒子ビームの雨を浴びせながら両面包囲を仕掛ける。
だがアサネルは操縦桿をどこにも動かさずに回避させようとはしなかった。
機体はそのまま微動たにせず、敵の射撃に蜂の巣となろうとした。このままならば。
ところ粒子の火線が機体に届く直前に全て散らばっていき、その衝撃で濃縮状態から目に見えない粒子に拡散され宇宙空間の果てまで飛んでいった。
(複合GNフィールドがビームを無効化にする・・・。
一層目のGNフィールドは機体表面に展開され、粒子対流で粒子ビームを外側に弾かせる)
「粒子ビームの貫通はなく機体にダメージなし」
「そんじゃあ、全標的をフルにするぞ!」
後衛二機のGNメガランチャー。
対艦・要塞用高威力の圧縮粒子の束が、00クアンタR1にめがけて放たれる。
(ここは・・・多めに張るか!)
「GNソードV、GNフィールド展開!」
機体表面のGNフィールドの粒子量を増大させ圧縮率を高め、同時に主装備がここで使用された。
新世代に向けた技術研究に、新機能を数多く盛り込んだ複合装備、GNソードVという装備が。
マニピュレーターより居給される粒子が切っ先へと流れていき、そこから円状に放射して緑色の膜を張る。
切っ先より展開された防壁はGNメガランチャーの砲撃を容易く弾いていった。
「アサネル、両翼よりミサイル群だ!」
続けてGNミサイルがこちらを襲い来る。片翼につき四発、全部で八発。
(両方の対処は難しい・・・。ならば!)
GNソードVの切っ先を右に少しずらし、なお放ち続けられるGNメガランチャーの砲火を本機より逸らした。
鉄壁の防御に火線を曲げられそれ自体が盾と化した粒子ビームの奔流に、そのまま右翼のミサイル群が突っ込み炸裂する前に蒸発していく。
もう一方のミサイル群に対しては、左に掲げられたGNシールドで受け止め、注入してくる圧縮粒子より機体本体を守る。
(ここで反撃に出る!)
ミサイルを全て防いだ今、唯一の脅威に当たるGNメガランチャーは撃ち尽くしてチャージ中にある。
緑色の粒子の輪を放つと共に、00クアンタR1が攻勢に切り替え、白い天使の乱舞を宇宙に描き始めた。
襲い来るビームもミサイルもこのMSの機動に補足しきれず、いとも用意に振り切られてしまう。
猛烈なはずの砲火をすべて掻い潜り抜けて、膨大なGN粒子を微細な機動から急激な加速へ切り替え敵に突撃する。
前衛一機目を剣で肩から腰へと袈裟斬り。
続いて前衛小隊を突破した勢いで二機目のGNメガランチャー装備の後衛機を、
ライフルモードに切り替えたGNソードVで二発、腰と胸部のGNドライヴカバーを撃ち抜く。
勢いを落とさないまま機体を後衛に肉薄し、ソードモードに戻して同装備の三機目を両断。
「三機も・・・・!一分足らずで三機撃墜しました!」
「その調子だぜ!ガンダム!アサネル・・・!」
「これが・・・00クアンタR1・・・・・・」
前半では防御力抜群と改めて確認できた。
そして反撃に切り替えた今、一対六と圧倒的物量差で押しているはずの敵を、
逆に機動力で翻弄し攻めかかれば次々敵を落としていっている。
「00クアンタR1、前衛小隊に再襲撃!あっ三機撃墜!」
続けて管制室に届けられる戦果に彼らは圧倒された。
モニターには宙を駆け抜ける、00クアンタR1の雄姿がそこにあった。
格闘戦にて、質量がこちらより大きいGNランスを逆に圧しやり、刃が表面に食い込み機体ごと断ち切る。
これで最後の六機目を落とし全機撃墜を果たしたのだった。
「二分経つ前に・・・」
「すごい・・・・・・」
オペレーターが絶句している。あのガンダムの力を目の当たりにして。
「んなもんまだ序の口だろ。これは運用テストの始めに過ぎねぇんだぞ。
・・・基本装備と基本性能のな。いちいち驚くな!」
「はっ、はい!」
「申し訳ありません」
イアンはそれでも満足していない。
日に日に進歩を続ける擬似GN機に、それも何百機もの大軍と対するには、依然として性能差が開いていないのだ。
それにGN粒子の可能性はまだまだ沢山残っているし、解明されている量子ワープを利用した戦術と装備は未開発にある。
テストを重ね続ける事に新ガンダムの開発ノウハウを溜める意味があるのだ。
「00クアンタR1はテスト機なんだ。新ガンダムを作る為のな・・・」
その道は途中までしか達していないが、準備は全て整っている。
資金も、資材も、人材も全て。
「こちらアサネル。機体損傷0%、全システム異常なし」
「こちら管制室。テスト継続せよ」
西暦2324年。
私設武装組織ソレスタル・ビーイングは未だに動き出していなかった。
だが活動まで日は近い事は間違いなかった。