機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
第2話 ドニエプル級防空巡洋艦
24世紀は人類の革新の世紀である。
革新といえば、農業、産業革命、宇宙進出などいくらでもあるように思える。
だが種としてのそれは、この時が、人は文明を発達させて始めてだった。
大小の程度はあれ変革には必ず反動が来るものだ。
農業は文明を生み出したが、貧富の差と戦争、犯罪を生み出した。
産業革命は生活を豊かにしたが、地球規模の環境破壊と先進国と後進国の摩擦、戦争の激化を生んだ。
そして人類の変革は、理解と無理解、統合と分離を生む事になる。
しかし忘れてはならない。
反動は革新を遂げる過程で避けては通れない痛みだという事を。
最新鋭の防空巡洋艦ドニエプルが、政府の要人を護衛対象に乗せて目的地のコロニーに向かう最中の事だった。
金属異星体ELS襲来とイノベイター増加が重なって以来、
戦乱から開放されたばかりの地球に再び暗雲が立ち込めた。
宇宙開発の進行による人類の進出は、宇宙犯罪の発生へと繋がった。
資材と財産を狙った宇宙海賊の襲撃、イノベイターを狙ったテロなどがこの所増加の一途を辿っている。
地球から上がった宇宙移民の第一波の安全を守るのに、連邦軍が直々に動かなければならない状況だ。
とはいえ、連邦政府の要人をわざわざ巡洋艦に乗せるなど、護衛戦力が過剰に強力すぎる。
これほど厳重にしたのは、イノベイターとELSの融合体、対話の窓口である唯一の要人なのだ。
「所属不明勢力、ヘリオン系6機で構成」
オペレーターの状況報告に、席に腰を掛けていた艦長はカメラから映し出されたモニターに睨み付ける。
「本艦への応答はどうだ?」
「未だにありません。・・・ミサイル発射を確認!弾数6発!」
「迎撃せよ!これより敵性勢力と認定する!」
先程から前方よりセンサーに反応したMS群に、何度もコンタクトをかけ所属を明かしに呼びかけてきた。
だがそれらの試みを無視され、こちらに攻撃をかけてきたのだ。
相手は恐らくテロリスト達の集まりか、宇宙海賊なのだろう。
コンタクトを拒み攻撃を仕掛けたならば、こちらが武力でねじ伏せるのが当然の道理だ。
「GN対艦ミサイル2発発射!全弾近接信管に設定!ミサイル群を一網打尽にしろ!」
「左発射機よりミサイル2発発射!近接信管に設定完了!」
サイドスラスター前方の前方より、オレンジ色のGN粒子を噴出しながら2発ミサイルが飛び放たれた。
粒子の筋を描いた遥か先に火球が6つ、近距離炸裂で全てのミサイルを撃墜させた。
その矢先、火の玉から白い煙があがり、たちまち艦の先に壁のように立ちふさがった。
このスモークで敵は何がしたいのか?嫌がらせか?次の策を隠す為か?
「取り舵一杯!スモークの中に入るな!」
民間の船ではない、完全武装の巡洋艦を相手にしている敵だ。
ただの犯罪者達が正規軍に正面から殴り込む辺り、ただの特攻でも自殺願望でもない。
こちらを沈める為の策があるだろう。
「第2MS小隊、左舷より展開しろ!右舷は警戒を厳にして、展開が終わり次第GNフィールドを張れ!」
艦長の命令はまずブリッジのクルーによって全クルーに伝えられる。
指揮官より下された命令に、個々はその担当の中で遂行し始めた。
脅威が確認されない左舷より、艦載機のGN-XIVコアファイター搭載型3機が一斉に宇宙に放たれた。
臨機応変に動けるMS小隊とGNフィールドで身を固めたドニエプル。
スモークの脇を通りながら様子を伺っていると、新たな動きが起こった。
「敵ヘリオン全機、右113度よりスモークから出現!」
オペレーターが叫んだ直後、ヘリオンがそれぞれ2機ずつ担いでいた巨大な箱から、ミサイル6発がこちらに向けて放たれた。
攻撃を仕掛けた直後、ヘリオン6機全て護衛のMS小隊に撃墜された。
だが問題はその後だ。撃ってきたミサイルは全てオレンジ色の粒子を振りまいていたのだ。
「GNミサイルだと!?」
いかなる状況でもクールだった艦長は、この時ばかりは絶句した。
GN粒子で推進するミサイルは、目標に接触と同時にGN粒子を注入し内部より炸裂させる。
どんなに厚い装甲も歯が立たない上、GNフィールドを張っても弾頭に纏ったGNフィールドで突き破れると来ている。
発射されたGNミサイル6発は、クルーの反応より先にドニエプルの船尾に殺到した。
GNフィールドを激突するもそのまま貫通、1秒で船体を貫けるのはほぼ確実だった。
だが最悪のシナリオは回避された。
艦船の強固な防御の壁を突き破るのに少しでも時間を浪費したGNミサイルに、
サイドスラスター部より無数のビームが一斉に放たれたのである。
全てのミサイルがGNフィールドを突き破るまでに、粒子ビームに焼き払われた。
4連装GNビーム機銃という、サイドスラスターに搭載された兵器は、指向性が高くどんな方向の目標も撃ち落せる。
更に粒子を偏向させて主砲と同じ威力で撃つ事もできる優れものだ。
先の不意打ちに放たれたGNミサイルを瞬時に撃墜できたのも、本級が防空の肩書きがある所以だ。
「敵全弾撃墜!敵に第2波の気配はなし!」
「GNフィールド発生停止!艦の進路方向を航路に修正!MS小隊、本艦は警戒をそのまま維持せよ!」
こちらの損害はいっさい無し。MSも敵にダメージを受けていない。
「艦を停止させろ!先の奴らを残骸でも回収しろ!
粒子兵器を持っている辺り、ただのテロリストではないぞ!」
あの敵はなんだったのか?
テロリストや宇宙海賊で粒子兵器を装備しているとは思っていなかった。
それを現実に持っていて使っていたならば、一体どこで仕入れたか?
艦長は予測に思考を張り巡らせた。
正規軍の輸送艦から奪ったか?だがそんな話は今まで聞いていない。
では軍事企業から奪ったか?それでは通信痕跡や金銭と商品の流通に不自然な点があったはずだ。
ヴェーダを確保した連邦すら、確認しきれない動きがあるという事なのか?
憶測が幾らか上がっても結論に至らない。
真相はわからないが、ただわかる事が一つある。
強力なGN粒子兵器が民間に広がり始めた事だ。
このままいけば地球連邦は内紛状態となり、統一政体の危機と平和の崩壊を招こう。
まず残骸を調査し、報告書を作成して対策を上に仰いどいて、こっちも出来るだけ情報収集に当たろう。
軍人である俺ができる事は限られているのだから。
その後俺は、休憩時間を利用して端末を操作し、これまでの宇宙の動きを整理した。
宇宙犯罪が起こったのはここ1年前の宇宙移民の開始からだ。
従来の研究拠点としてではない、市民の生活の為の大型コロニーが遂に建った事で、
移民者の財産と建設用資材を狙った犯罪から始まった。
そうした者達はMSの中でもかなり旧式のヘリオンやティエレンを使っている。
だが今回の襲撃では、MSこそ同じ機体だが粒子兵器を使用していたのが問題だった。
GN粒子を生成する擬似太陽炉は、正規軍とコロニー公社の警備隊しか扱っていない事になっていた。
その粒子関連の装備を犯罪者が使っている事は、裏に連邦の構成員、それも位の高い者が絡んでいるはずだ。
そしてこれだけの攻撃をこちらに仕掛けたならば、
こちらがハイブリッドイノベイターを乗せていると知っていなければおかしい。
・・・・・・・・・・・・艦内にスパイが紛れ込んでいるのか?
可能性がある以上、対策を講じねばならない。
あのイノベイターを狙っているならば、連邦に報告を出しても動いてくれないならば、
俺は今後あのテロリストらの背後を突き止められなくなる。
最悪の場合、反逆者覚悟でこの艦を動かしてでも、奴らを探らなければならない。
「今の連邦は腐っている・・・・・・」
3年間、俺が思ってきた不信は決定的なものになりつつある。
ELSとの戦いで大打撃を受けた事で、人類は地球外生命体の脅威に目覚めた。
だが当の連邦政府は今まで通りの宥和政策と軍縮を推し進めた。
ハイブリッドイノベイターを通した対話で、ELSに敵意はないと真意を理解したという。
だがあまりに相手を信用しすぎると思う。まるでお人好しのようだ。
向こうが人間を観察して、こちらの醜さまで理解したらどう動くのか・・・?
地球に来るまで争った事のなかった種族の事だ。
動転するなり絶望するだろう。まるで清楚な子供が、親の痴態を見た時のように。
イノベイターによる相互理解も好きになれない。
分かり合えないと困る場面は確かにあろうが、完全に分かり合えたら不気味だ。
まずもって分かり合える前提に相手に関われば、相互の意思が噛み合わなかった場合の対処が面倒になる。
それならばいっそ、完全に分かり合えないと割り切れば、理解できなくとも打算と損得で妥協できる。
完全に相互理解を果たせば、支配の正当性が失うだろう。
支配は組織の骨組みだ。支配できなくなればこの惑星規模の文明は成り立たなくなる。
文明がなくなれば、あとは相互理解出来る人間の無数の平和な集団からなる、大自然に支えられた狩猟採取時代に逆戻りだ。
これでは宇宙進出は永遠に叶わない夢となってしまう。
「対話は所詮妥協でしかない。対話が効かない敵は叩きのめすのみ・・・・・・」
俺はぼそりと呟き、その次に眠気覚ましのコーヒーを口にした。
奴らの影を見つけ出すか、任務を忠実にこなし問題を先送りするか、
どっちを選んでも地球連邦に待っているのは新たなる内戦だ。
外宇宙進出をいかなる形で行うか、人類の未来を決める岐路はいよいよ近い。