機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
第10話 GN-XIVフルミナータ
同じGN機でも、基幹を成すガンダムは圧倒的に強力だ。
それより分岐した連邦機は一部を除いて平凡で物量を優先する。
強い弱いでも連邦側が無能という訳ではない。
ガンダムを保有する私設武装組織ソレスタルビーイングが、世界より先んじて粒子技術を発達させた事もあろう。
だが彼らのGNドライヴは粒子生成は無制限で半永久的に稼動できるが、木星など高重力環境下でなければ作れないのが問題だ。
多くても二基から五基くらいが限界で、故にガンダムもGNドライヴの台数で機体数が制限されてしまう。
対する地球連邦は私設武装組織の裏切り者の提供から始まり、その技術を習熱するなどガンダムに追い付くには時間をかかった。
提供された太陽炉は電力供給を要する稼動有限だったが、
圧倒的多数の戦力を有する連邦軍では支援が期待されさほど問題ではなかった。
そうした環境が、両者のMSの方向性を位置づかせたのだ。
ガンダムは多数の敵相手の一騎当千というべき戦闘力を求められ、
連邦機はどのパイロットでも機体性能を引き出せる操縦性と、何百機も揃えられる生産性を要求されて。
それでも時として方向性が変わる時が来る。
逼迫した戦況や人員が足りない状況、敵がかなり強い場合に。
強い相手には戦術か性能向上か、それは火力か、機動力か、防御なのか、それとも索敵なのだろうか。
MSはその都度、環境に合わせてその姿を変えていく。
連邦軍より脱走したドニエプル部隊は各地で協力者を集め、
今や軍事産業や多くのコロニーを味方にする一艦隊に拡大、そしてドニエプル軍を名乗る。
作戦どおり旧人類軍が拠点を構えるL1に侵攻を開始。
それに対して艦隊を迎撃に出させ、両者はここL4、L1中間点で会敵し艦隊戦が開始された。
艦隊同士遠距離での撃ち合いから始まった戦いは、どちらも埒が開かないと判断。
次の段階、MSの展開による迎撃MSの駆逐、艦隊の直接攻撃が試みられた。
「第1特別砲撃MS小隊に告ぐ。戦況は想定どおりにあり、プランA1で出撃されたし」
「へぇ~、事は順調なんだなぁ」
オペレーターよりのアナウンスに呑気に返答。
このパイロット―――アレクサンドル・ウォルコフスキーは精鋭の一角を成すMS小隊長を務めている。
元々カルト・ハダシュト自衛軍所属だったが、
ドニエプル軍結成の際に彼の射撃の腕を見込まれコロニーより派遣された。
同じように最も射撃が得意なパイロットが、傭兵やPMC問わずこの二個特別砲撃小隊に構成されていた。
この部隊の任務はMS部隊の最初の射撃の後に予備戦力として待機、不利な戦線の支援を担当である。
火力支援でもGN-XIII無人型では柔軟性が欠け瞬間火力が欠ける。
そこでこの火力支援特化のGN-XIVが戦場で火消しに回るのだ。
最も対応が求めたれるのは敵イノベイター機の牽制もしくは撃破の二つ。
あれが装備する二十二基もの大小のGNファングとイノベイターの実力は、こちらにとって最大の脅威なのだ。
GN-XIVフルミナータは最大の脅威の排除の切り札であった。
機体最終調整は済んだがもう一度確認してみる。新型の大型粒子制御装置、各火器、フレーム全て異常なし。
シミュレーターと演習で短い間に、出来るだけありったけ動かしたが実戦はこれが始めてだ。
この火力支援の改修GN-XIVフルミーナータ。
マニピュレーターが持つGNメガランチャーの他にも、肩部の連装GNビームキャノンに対艦ミサイル発射機を装備。
更に同じ肩部にGN-X用擬似GNドライヴ2基搭載するトリプルドライヴで、
ただでさえ強力な火力を三倍に引き上げられ、フェラータGN-Xと同じ火力を長時間発揮できるように仕上がっている。
ラテン語で「落雷」を意味する機体は、敵たる旧人類軍にどれほど火力を発揮できるのか。
「まず盛大な雷を落とすんだ・・・!いっくぜ俺様!」
戦いの喜びと死の恐怖がない交ぜになって、脳内麻薬の分泌が促進される。
今までで最高の乗機でこれから戦いに赴く男の奮起の中、母艦の出撃準備が慌しく進んでいく。
「GNドライヴ点火!」
それまで背部のコーンと接続していたスターターが擬似GNドライヴを起動。
「ハッチ開放!全機、幸運を祈る!」
「了解!ウィル・ハミルトン、GN-XIVフルミナータ、出るぜ!」
スロットルを全開、粒子生成を最大に引き上げ、このウラル級輸送艦ナロードナヤから機体を飛翔させた。
続いて同型の二、三番機が出撃、アローフォーメーションを組み先頭に立つ。
「各機、メガランチャーのチャージ始めろ!」
前方の主力艦隊を飛び越えた先は粒子ビームとミサイルが飛び交う戦場である。
気が付けば自分達の周辺は火力支援担当のGN-XIII無人型が、GNメガランチャーを構え横隊を組み始めていた。
作戦通りに指揮官は
「各機、無人部隊と歩調合わせろ!」
と部下に指示を下し、第1小隊は第2小隊と共に二十機もの無人部隊の中央に加わっていった。
後続には主力MS部隊が、GN-XIVフォルティスが同じく横隊を組んで、こちらと距離を置いて前進している。
「こちらドニエプル。現在作戦は順調。プランA1を継続せよ」
「ドラゴン・アルファ、了解!全機チャージ完了!」
「ドラゴン・ベータ、了解!こちらも同じくチャージ完了です!」
旧人類軍艦隊はこちらに合わせてMS部隊を展開、いよいよぶつかり合い乱戦が始まる。
「全機チャージを確認!・・・撃ち方始めぃ!」
軍司令ジョンソンの号令の元、先陣がそれぞれの火器で一斉に発射した。
火を噴かせた二十機以上もの火力支援機の一斉砲撃は圧巻の一言に尽きるものだった。
粒子ビームがMSを軽く飲み込む太さで放たれ、敵艦隊の砲撃が当たっても物とせず敵軍に飛んでいく。
GN-XIII無人型はGNメガランチャーを撃つが、GN-XIVフルミナータは
やや遅れて敵の斉射が開始、遥か遠くからこちらを襲う。
「後退だ!次蜂に道を明けながらだぞ、いいな!!」
「「了解!」」
第一陣は反撃から小隊ごとの散開での回避に移行。
幾十もの火線からそれぞれ掻い潜るも、それでも敵の照準は甘くなく、見た限り四機の無人機が撃墜された。
砲撃部隊はそのまま後退し主力部隊の背後に回り、打撃から支援砲撃に当たった。
一方の特別砲撃部隊は彼らから離れ、更に後方の艦隊へ退いていく。
「牽制攻撃しながらだ!背を向けねぇで前に向きながらだ!」
敵の弾幕は激しく大小の粒子ビームが次から次へ飛び込んで来る。
戦場で背を向けば容易に撃たれやすくなるのは、過去から続く戦闘での原則だ。
後ろから来る味方の攻撃に巻き添えを喰らう危険性はあるが、
味方と識別されている以上敵に撃たれるほどの確立は少ないだろう。
艦隊に戻るまで特別砲撃部隊の被害は皆無だったが、戦いはまだ始まってまだ間もない。
予備戦力としてとんぼ返りしても、指示一つですぐに動かなければならないのだ。
MSの激突から30分経過した。
戦いは一進一退でドニエプル軍と旧人類軍は膠着状態に陥っていた。
損害は7%でまだ戦えるが戦況を好転させねば、消耗戦となって勝っても意味がなくなる。
母艦ナロードナヤで待機中の第一小隊は、帰還してから出撃命令がないまま待機を続けていた。
「第15MS小隊が帰還した。第2整備MS小隊が対応に当たれ!」
「43番機のコックピットハッチが開かない!壊してやるしかない!
急げ!パイロットは負傷してるんだぞ!」
「担当のティエレンが来ました、班長!」
「おいバカ!MSが来てるんだ!ぶつかっちまう!」
オペレーターや整備班の怒号が飛び交っている。
何もしないで待機したいところだが待機が厳命されており、コックピットにいなければならなかった。
配給の栄養ゼリーを飲みながら心内不満を垂らしていると通信が入った。
「ドラゴン・アルファよりこちらナロードナヤ。ドニエプルより出撃命令が出た」
「了解!」
声はオペレーター、慌しく言う辺り戦況が変化しているだろう。・・・・・・悪い意味で。
再び宇宙に飛び出た第一小隊にドニエプルからの通信が来た。
「こちらドニエプル。両翼よりイノベイター部隊が侵攻して来た。現在防戦しているが撃退すら至っていない
第一小隊は左翼へ、第二小隊は右翼へ火力支援に回り、戦線崩壊を阻止せよ」
「ドラゴン・アルファ了解!」
「ドラゴン・ベータ了解!」
予感はお見事に的中した。戦況は逼迫しかかっているが、いよいよ部隊の本領発揮の時が遂に来た。
アレクサンドルは改めて気合を入れ、旗艦よりデータ送信された指定座標へ急行。
向かった先、艦隊左翼は思った以上の戦火というべき火球が沢山生まれており、
「あれがイノベイター機・・・・・・ガゼインか・・・。まんまガンダムだろ!」
二機の灰色のガンダム系が大剣と大量のファングで味方部隊を押している所だった。
彼らの実力はドニエプル軍のジョンソン司令と義勇兵アーミアから聞いた通り、
死神を髣髴させる勢いで圧倒的多数のはずの相手に死の鎌で冥界に次々送り込んでいく。
火力強化されたGN-Xフォルティスすら防戦に精一杯で、既にファングの一部は戦線突破される有様にあった。
さすが新人類と言うイノベイターか。だが、かといってこうして攻撃に甘受されるわけにはいかない。
「前方より小型ファング六機!だが気をつけろよ!!各機、牽制射撃!」
増援に来たこちらを気づいたらしく、突破させたファング群を尖兵に差し向けてきた。
三機がGNビームキャノンを小威力で連射。
ファング群の周囲にばら撒いて、徐々に中心へと撃っていき進行方向を限定させる。
牽制射撃が絶え間なく続く中、肩部に装着した発射機より対艦GNミサイルが隊長機より一発撃ち放った。
艦船用と同じサイズの対艦ミサイルは輪を描く砲火の空白の中心に導かれていく。
ファングと接触するより前、数百メートル手前で炸裂。圧縮粒子が進行方向に拡散されファングへと降り注ぐ。
四機が圧縮粒子の雨に叩き付けられ撃墜。もう二機は避けるも攻撃第二派の粒子ビームを浴びて蒸発。
「全ファング撃墜!」
部下が喜びに声を上げる。
「何言ってやがるバカが!あんなのほんの一部だろうが!」
まだ三十機以上のファングが残っているのだ。今のはほんの序の口でしかない。
援軍に気付いた味方機は後退し始めている。そうなれば全周囲を飛び交っていたファングは追撃に正面に飛ぶはずだ。
「全機一斉発射だ!」
各機一発ずつの三発、その後にメガランチャー拡散モードとビームキャノン連射モードが続いた。
近接信管による炸裂で周囲に火達磨を生まれる。ファングが命中し爆発したのだ。
逃れたファングは火力特化機によるスコールとも言うべき猛烈な対空砲火で、回避想定位置に粒子ビームを叩き込む。
今度は先よりも猛烈で本気というべき弾幕は、掻い潜りながら押し寄せるファング群に損耗を強いらせていく。
いかに人の脳量子波を感じ取れるイノベイターとはいえども、一方方向からの集中砲火は読めても全部撥ね付けられないのだ。
そこへ三機のGNメガランチャー、それもバーストモードの砲火がファングを粒子の奔流に飲み込んだ。
粒子砲撃はまだ続く。射線を横にずらしていき、生き残りの分ごと面にある全ての物を焼き尽くす。
砲撃の最中、Eセンサーが機影を反応した。数は十二機で全て味方機だ。
「こちら第三MS中隊!戦線を押し戻しに来た!済まない、無人機連れてくのに時間食った!」
「こちら第一特別砲撃小隊、応援に感謝します!」
GN-XIVフォルティス九と機GN-XIII無人型三機のフルバースト砲撃が、
フルミナータと共に残存ファング群の駆逐に取り掛かる。
一度イノベイター部隊に押されたがまだ負けていない。今ここで形勢を逆転させるチャンスが転がり込んできたのだから。