機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
第8話 GNX-609T/WS ホワイトスネイクGN-X
西暦2312年、アロウズのスキャンダル以来、地球連邦の軍隊による武力行使は慎重になった。
無論それに乗じてこれまで押え付けられた反連邦活動を、再び巻き返す動きが各地で起こった。
これに対し新政権は前政権の二の轍を踏まぬよう、時間がかかっても相手に歩み寄り、対話を重ね続けた。
すぐに武力行使を起こせない宥和政策の裏を掻いて、軍備増強という形で真正面から逆らう非加盟国に、
世界の秩序の為にやむなく軍隊による封鎖という形で威嚇せざる得ない時もあった。
それでも話し合いで解決を目指す新政権に、世界の国々は次第に手を取り合い、それまで各地で続いていた紛争は静まりつつあった。
だが世界はまもなく再び動乱の時代に入る事になる。
金属異星体ELSの飛来と相互の誤解から起こった戦争、その三年後より何十年も続く内戦の時代へ。
変革を遂げた新人類イノベイターの存否を巡る、人類最後の戦争「統合戦争」である。
2年前に開業したPMCホワイトスネイクには裏の顔を持つ。
戦争根絶を掲げる私設武装組織ソレスタルビーイングの下部組織の一つで、
表立って行えない武力介入と更に重みを増す資金難の解決の為にあった。
警備を中心に偵察や狙撃など担当し、短期間で連邦政府御用達の傭兵にのし上がった。
今回の業務はL1、L5中間点で勃発した反乱軍同士の戦場の偵察。鎮圧部隊派遣に先駆けての情報収集だった。
「予定宙域まで一万を切った。全機、ガス逆噴射!」
トランザムでの急加速の後、宇宙空間を利用した慣性航行を続けて三時間経った。
GN粒子でセンサーを封じれるとはいえ、その粒子の色まで敵を欺瞞出来ない。
装甲表面のナノマシンで機体を周囲に溶け込んだ上に、GN粒子は最初の加速のみに留め、
ガスバーニアで姿勢制御してやっとカムフラージュを果たせたのだった。
このGN-XIIIホワイトスネイクのコーン型スラスターに装備する大型ガスバーニアが、肩越しに機体前方に逆噴射。
速度が次第に遅くなっていった。
「これより通信はワイヤー通信に限定。音声通信を切る」
「「了解」」
部下三人の返信の後、自分達三人のMSの通信は断ち切られる。
隊長の一番機はガンカメラ装備の偵察仕様、護衛はGNソード装備の白兵仕様が二、三番機、リニアマシンガン装備の四番機からなる。
それぞれ隠密作戦の為にガスバーニアとダミーバルーンポッドを装備していた。
目の前に広がるのは元連邦軍と思われる反乱軍同士の艦隊戦。
オレンジ色の粒子ビームの大小の何十もの束が飛んでは消え、爆発の火球が双方で生み合った。
「ウイング1よりトネ沈没!なんて極太ビームなんだ!!」
「うわっ・・・、コアファイターが・・・動かない!ひぃあああああああああ!!」
「ここでコロニー軍を一気に叩き付けろ!連邦軍が動く前にだ!」
「おいバカか!?敵を前にして脱出するな!後ろに向けろ!」
偵察用の傍聴機が集めた通信からは、飛び交う兵士達の怒号と悲鳴が溢れかえっていた。
何十何百の声が響き戦場の激しさが嫌でも感じさせられる。
「向こうドニエプル軍に雇われた方からの情報通りに戦ってるな・・・・・・。相手は旧人類軍か・・・。
お互いヴェーダに察知されずにここまで軍事力を揃えてきたとは・・・・・・」
両軍の間で艦砲射撃の粒子ビームと粒子ミサイルが飛び交い、GN-XIII無人型がGNメガランチャーを遠距離で撃ち合う。
ドニエプル軍のGN-XIVフォルティスが、機体数がやや多い旧人類軍のGN-XIVを相手に互角に戦っている。
こちら連邦側のスパイを兼ねている、ホワイトスネイク社の部隊は遊撃戦力として各戦線の援護に回っていた。
狙撃機が敵艦の艦橋やエンジンを狙い撃ち、近接機が敵MSから狙撃機を守り、火力支援機がGN徹甲弾の弾幕を敵部隊に浴びせた。
「第一MS中隊、敵艦隊より砲撃に遭っている!援護砲撃を頼む!」
「補給済みの無人機を出す!」
艦船の側ではヘリオンやティエレンが火器用GNコンデンサーと予備の火器を味方に手渡したり、
損傷機を予備パーツで修理して部隊ごと戦場に舞い戻らせる。
ビームが貫けばすぐ爆散するMS、コアファイターで脱出するパイロットがいれば、
故障やタイミング違いで上手くいかずに爆発に巻き込まれてしまうパイロットもいる。
「ずいぶんな規模だな・・・・・・。まあ、それもGN機同士じゃそうなるわな」
最近2ヶ月の間、反イノベイター勢力の独自調査を行う勢力の存在を察知していた。
だが詳細が判明した時には一ヶ月前で、その時点で一個の軍隊にまで強大化していたとは予想外だった。
それは旧人類軍に対しても同じ事が言える。双方とも十隻以上の艦船と百機程のMSを揃えていて、ほとんどがGN機だ。
彼らが世界中に公開した反イノベイター勢力の詳細は、相次ぐテロと反乱で混乱した地球連邦の足並みを揃えてくれたのは吉報である。
現政権の推し進める宥和政策の限界を把握でき、有効な対策を考える重要な資料となったのだから。
「だからって好きには出来ないってもんだ。・・・このままじゃ紛争が次々起こる」
この地球圏に存在する軍隊は、超大国にしては軍縮で小規模な地球連邦平和維持軍か、
小国にしては大規模だが旧式兵器しかない非加盟国の軍だけだ。
地球連邦では現在軍隊は正規軍だけで、それ以外に軍隊を立ち上げてはいけない事になっている。
現状を許せば連邦内であちこち軍が乱立し、保たれてきた秩序が乱れる。
そして自衛の名の下に各地で争いが頻発、やがて統一された世界が瓦解してしまうのだ。
「止めたくても、戦えば泥沼の紛争になる・・・。政府は慎重に行きたいって訳だ・・・」
統一国家がすぐに軍を派遣すれば、ただでさえイノベイター賛否で混乱している現地から反発を受けてしまう。
旧人類軍は元より反イノベイター勢力であり、連邦に最初から反抗する姿勢を構えている。
対するドニエプル軍は、連邦の宥和政策に不満で離反した部隊が結成した勢力なので、すぐに従わないだろう。
まずは軍を直接鎮圧に送らずにPMCで偵察してから、状況を見極め次第、軍の軍事介入が決定された。
その偵察を担うのが、彼らホワイトスネイク社だったのだ。
「ウイング1前方に増援!敵ガンダム2機と護衛のGN-XIV6機!くっそ!」
「こちらウイング4モーデル!前方より敵増援を確認!例のスローネ系2機にGN-XIV6機!」
「両翼に切り札を出した!このまま敵を突き崩すぞ!」
集めた通信から旧人類軍がガンダム系の投入をしてきたという。
大体の場所は盗聴でわかるが戦場はかなり広い。一番粒子放出が多い機体から搾り出す事にした。
「ドニエプル軍はGN-XIVの改修機が主力・・・。旧人類軍はGN-XIVが主力、・・・連邦機と変わらんな.
資料ではあいつらはイノベイター専用ガンダムを持ってるというが、どこにいるか・・・・・・?って、いた!まず2機発見!」
自機から見て右側に観測していたライフル型のガンカメラが、灰色のガンダム・・・ガゼインを発見。ついで左側にも同型畿2機を確認する。
ありったけのファングを飛ばしながら両手の得物で暴れ回っていた。事実、彼らの周囲の方が他の宙域より、戦火が激しく火球の密度が濃い。
それは2機が撃墜したMSの爆発だけではなかった。応戦する相手のミサイルの迎撃、必死の防空で撃ち落されるファング。
中には果敢にもファングの何十もの火線を突破し、ガゼインを怯ませるGN-XIVフォルティスの小隊までいる。
「ん?右翼に例のピーキーGN-Xがいる。となるとあの女が乗っているのか」
連邦政府の若きオブザーバーを勤めていたのだったが、コロニー「プリームムポリス」の反乱でドニエプル軍に加わった義勇兵。
人類とイノベイター、ELSの橋渡しを担う、ハイブリッド・イノベイターでもあるアーミア・リーが。
両肩に擬似GNドライヴを背負ったフェラータGN-Xが、オレンジ色の粒子の輪を何十も宇宙に生みながら縦横無尽に飛び回る。
全周囲を飛び交うGNファングを落とし、襲い来る敵GN-XIVを両断し、ガゼインとぶつかり合う。
その姿と光景は5年前の00ライザーと重なって見える。アロウズを打ち倒した二輪の天使に。
「連邦版00ライザーって奴か?これって」
彼はジョーク交じりで率直な感想を述べた。
当時乗っていたガンダムマイスターほどの技量はないが、イノベイターの力と機体の性能が彼女を助けている。
「では、左翼はどうか・・・?」
ガンカメラの軸を変えるとそこはそこで激戦区だった。
「撃って撃ちまくれ!」
「弾切れ、バレル加熱に気にするな!後方部隊、予備火器をどっと持って来い!持って来てくれなきゃ、みんなおしまいだぞ!!」
「こちらカザン!待機中の後方部隊は現在3個小隊!応援まで待て!」
「なるべく急いでくれ!」
「粒子の雨をお見舞いしてやる!おらおらぁぁ!!」
襲い来るファング群を、ビーム、小型GNミサイルの雨が出迎えている。
それも途切れ無く降り注ぐスコールというべき勢いで、ガゼインとファングをこちらに寄せ付けまいと釘付けにしていたのだ。
迎撃する最前線のGN-XIVフォルティスに続いて火力支援担当のGN-XIII無人型、更には艦砲射撃が加わる。
巨大な粒子ビームに近接信管設定のGN対艦ミサイルが迎撃のスコールに加わり、
濃密な火線を掻い潜るファングを一基、続いて5基と次々落としていく。
「イノベイター相手に飽和攻撃とは・・・。これほど撃ちまくるんだなぁ・・・・・・」
片方が切り札で戦線突破を図れば、反対側は切り札と戦術で押し留める。
ドニエプル軍と旧人類軍の艦隊戦は一進一退の様相を見せ始めた。
「全機、ここは撤退する!」
周囲に散開し警戒する部下に光通信、了解の返信を確認するとガスバーニアを投棄した。
「通信開け。トランザムで離脱だ!」
重いガスバーニアから開放され軽くなった機体でトランザム。四機は瞬く間に戦場から離れていった。
両軍の戦力はこの目で推し量った。後は軍が作戦を立てて紛争介入を行う。
その為に敵に見つかる事なく逃げ切ればこちらの最初の勝利だ。
地球連邦軍の戦いは始まったばかり。現時点でその戦いに彼らは未だに最初の勝利すら収めていない。