機動戦士ガンダム00 統合戦争緒戦記
第7話 GNX-803T/CF/Fol GN-XIVフォルティス
軍人はヒーローではないものだ。
与えられた仕事をこなし、上の者からの命令には如何なる事でも従わねばならない。
相手の為に、周りの為に自分でなんとかしたくても、そこまでの力はなく他人を信じるしかない。
戦場の後方にいる兵士の場合では、敵が目の前に来ても抵抗も何も出来ない場合がある。
自分がどれだけ任務を遂行していた所で、味方もろとも攻撃に巻き込まれてしまうかもしれない。
それでも兵士達は、相手と部隊、指揮官を信じて、自分に下された任務という戦場の下で戦わなければならなかった。
たとえ死んで未来を掴めなくても、誰かがその意志を受け継いでくれる事を期待しなければ、
この地獄のような場所に心が保てなかっただろう。
プリームムポリスで起きた反イノベイター部隊の反乱から1ヶ月、
アーミア・リーの護衛部隊であるドニエプル隊独自の調査により旧人類軍の存在が明らかになった。
彼らの目的は増えつつあるイノベイターの抹殺。世界各地で頻発するテロや反乱の大方を、背後で支援しているという。
当の連邦政府はアロウズ時代の二の舞を恐れており、鎮圧部隊を派遣しても地域規模の反乱には正面衝突を躊躇っていた。
ドニエプル隊は戦争に消極的な連邦政府を見限り、代わって旧人類軍と正面衝突を辞さない構えを取った。
独自に戦力と協力者、スポンサーを集め、L5方面のコロニー「カルト・ハダシュト」を拠点に艦隊を結成。
地球連邦軍部隊を中核にPMCや傭兵、予備役連邦兵から構成、一拠点なら攻略可能な戦力の確保した。
来たる旧人類軍との決戦に備えて、部隊規模の戦闘が出来るよう訓練と演習が始まった。
白いレーザー光線が3本、機体の右を掠める。
攻撃から避けようと横に避ければ、その方向へ急加速で行ってしまう。
GN-XIVを越える速度で動くのでは、これは回避を通り越して移動ではないだろうか。
動きが過敏で通常の倍の速さについていくのはやっとだった。
「フェイロン3、敵中に入り込んでいる!応射、来るぞ!」
無線より指揮官ベガ・ハッシュマン大尉の怒声が鳴り響く。
モニターからは敵機担当のMSが6機を確認。左右とも斜線陣形をとり、こちらを両翼包囲しようとしていた。
左右からレーザー光線が発射。それらの火線をロールとループなどを駆使して避けながら後退に移行するが、機動を終えた直後に右肩部装甲に被弾した。
訓練なので無威力のレーザーガンが使われるが、被弾すると火器に応じてダメージとして被弾箇所が稼動不能になる。
この一撃で武器を取り扱う右腕部が丸ごと失われ、残る装備は敵襲時のGNバルカンとビームサーベルしかなくなった。
「動きが早すぎる!?」
これまで乗ってきたGN-XIVと今回搭乗する改修機は、動作の面で取り扱いに難があった。
通称GN-XIVフォルティスは、肩部に小型擬似GNドライヴもしくは粒子貯蔵タンク内蔵の小型GNシールド2基を装備、武装も一新されている。
来たるべき旧人類軍との決戦の為に改修した、一般パイロット向けのGN-XIVの総合性能強化型である。
操縦性はフェラータGN-Xより数段マシなだけであって、従来機に乗り慣れた一般パイロットには少し扱い辛い機体であった。
パイロットの操作で組み合わせた回避機動を早く済ませてしまい、慣性制御の一瞬を突かれてしまったのだ。
「っくっ、こちらフェイロン3!肩がやられた!戦闘不能!」
「じゃあ敵から奪え!俺とアーミアが突貫する!フェイロン2は3を援護だ!アーミア、俺に続け!」
「了解です!」
「了解!」
「りょ、了解しました・・・!」
2機の改修GN-XIVが、擬似GNドライヴよりそれぞれ大小の輪とオレンジ色のGN粒子を放ちながら、敵部隊に突っ込む。
相手はPMC出身パイロット達が乗る、こちらと同型機のGN-Xフォルティス。
たちまち撃ち合うレーザー光線と弧を描く粒子の筋で、黒い宇宙空間に絵画を描き始めた。
こちらが旧人類軍役を担当し、自軍役を多数相手に戦うのは実に骨の折れる仕事だ。
それでもお互い役を取り替えながら、これからの戦いに体を機体に馴染ませる必要がある。
「あっ、あれは?!」
「おいおい、なんだ今のは!?」
このレン少尉ことフェイロン3と、彼と見かた2機の援護射撃に当たっていたフェイロン2は、目に映ったモニターに凝視した。
アーミアが操縦するフェラータGN-Xが敵機に正面衝突したと思いきや、
寸前の所で両脚を後ろに、胸部を前に折り曲げ、AMBACで逆反転と同時に機体を敵に向けつつ急上昇。
その次に蹴りを相手の右肩部に加えて、その衝撃で一時行動不能になった相手をレーザーガンを胸部に一発。撃墜判定を出す。
「ほらっ、代わりのレーザーガン、確かに手に入れました!」
「本当にあの小娘、やりやがったか!」
「あの敵中にかよ!?」
敵機のレーザーガンをひったくって、レンの乗る損傷機に放り投げる彼女に、二人は呆然となった。
味方の撃墜に反応した敵部隊の反撃に、フェラータGN-Xは離脱に移行。
ベガとアーミアの二機は、相手が2機失うも数的に未だに優勢な敵四機を相手に、互角に戦っている。
数的不利を覆す技量というものに、部下の二人はただ感心するしかなかった。
しかし今は演習中だ。すぐに意識を現実に戻し、前進して前衛2機と合流、反撃に転じた。
今日も艦隊挙げての慣熟訓練が終わり、帰投したMSがドニエプルの側面ハッチに着艦してきた。
「第1小隊、アーミア機着艦!お出迎えだ!」
整備長の叫びに整備士達が、担当の機体へメンテナンスの為に魚のように群がった。
宇宙服を纏い工具を携えた者、作業用パワードスーツをその上に装備した者が、作業用オートマトンが、
無重力空間の格納庫に詰め所から押し寄せてくる。
「GNドライヴと固定アームの接続に異常なし!」
「強制冷却急げ!」
機体の固定箇所の確認、整備の下準備に取り掛かる中、コックピットハッチからパイロットが降りてきた。
アーミア機以外の3機はフェラータGN-Xを参考に、一般パイロット向けに改修したGN-XIVだ。
「おいチェリオ!機体の挙動がまだ早すぎる!小型GNドライヴの粒子生成を20%抑えといてくれ!」
降りてくるなり第1MS小隊のレン少尉が自機担当の整備士チェリオに怒鳴り上げた。
出撃前の機体調整が不満だったか。一刻も早く高揚した気を鎮めたいのか、焦っている様子だった。
「5分の1も?!それじゃあ作戦通りに動けなくなりますよ!?アーミア機の援護ができる程度のスピードが出せなくなります!」
「リミッターかければ良い!普段からあの出力じゃあ、神経が機体に付いて来れん!
それと、コンピューターの動作プログラムに緊急回避の種類を増やしてくれないか!」
「駆け付ける時に全開で行けば良いですね?!了解しました!
緊急回避の方はアーミア機と隊長機のデータとリンクさせるよう、整備長と隊長に取り計らいます!」
「じゃあ頼んだぞ!」
量産機には、それぞれのパイロットの適正に合うよう、機体の出力や挙動の強弱が調整されている。
この24世紀の高度に発達した、機体制御コンピューターがそれぞれのパイロットの特性に適合しても、
常に人間の癖を機体に馴染ませるには整備班の熟練した技術がなくてはならない。
「あっ!あと、アーミアのお嬢ちゃんから差し入れのアイスクリームが来てるんで!」
「おう!そいつは嬉しいニュースだぜ!」
主力機として更新したGN-XIVフォルティスは、ドニエプルの整備班の基本設計図を基に軍事産業が開発した改修機である。
最前線での急造品より品質が良く信頼性はあり公式にテストが済んでいる。
しかしテスト済みなのは確かだが、戦時体制で時間があまりないので、誰でも無難に使える最低限の確認しか成されていない。
あとはパイロットと整備班がそれぞれ機体を調整しなければならなかった。
「アイスなら待機ブースの冷蔵庫にあるんで!味はバニラ、チョコ、ストロベリーなので」
「わかった!もしあの娘に会ったら礼を言ってくる!」
愛機を蹴った勢いと足による方向転換で、廊下へと飛んでいく。
「ありったけのGN-XIII無人型とガラクタでやりくりした頃と別のハードさだぜ・・・」
真空状態で汗が滲み出ても手で掻けないのを恨みながらも、黙って部下と共に冷却されたMS装甲を端末で開放。
フレームや機器、GNコンデンサーなどの不具合の確認に取り込んだ。
パイロットには出来ない戦いは整備士達が受け持つ。
この整備がパイロットの技量を機体に、100%に近くに反映させれる、屋台骨を成す仕事なのだから。
自分達が手入れしたMSが無事に帰ってくれれば、努力と汗が報われた勝利を得られるのだから。