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No.35536の一覧
[0] 【チラ裏より】Muv-Luv Alternative Change The World[maeve](2016/05/06 12:09)
[1] §01 2001,10,22(Mon) 08:00 白銀家武自室[maeve](2012/10/20 17:45)
[2] §02 2001,10,22(Mon) 08:35 白銀家武自室 考察 3周目[maeve](2013/05/15 19:59)
[3] §03 2001,10,22(Mon) 13:00 白銀家武自室 考察 BETA世界[maeve](2012/10/20 17:46)
[4] §04 2001,10,22(Mon) 20:00 横浜基地面会室 接触[maeve](2012/12/12 17:12)
[5] §05 2001,10,22(Mon) 21:00 B19夕呼執務室 交渉[maeve](2012/12/06 20:40)
[6] §06 2001,10,22(Mon) 21:30 B19夕呼執務室 対価[maeve](2012/10/20 17:47)
[7] §07 2001,10,22(Mon) 22:00 B19夕呼執務室 考察 鑑純夏[maeve](2012/10/20 17:47)
[8] §08 2001,10,22(Mon) 22:30 B19夕呼執務室 考察 分岐世界[maeve](2012/10/20 17:47)
[9] §09 2001,10,22(Mon) 23:00 B19シリンダールーム[maeve](2012/10/20 17:48)
[10] §10 2001,10,23(Tue) 08:00 B19夕呼執務室[maeve](2012/12/06 21:12)
[11] §11 2001,10,23(Tue) 09:15 シミュレータルーム 考察 BETA戦[maeve](2013/01/19 17:36)
[12] §12 2001,10,23(Tue) 10:00 シミュレータルーム 考察 ハイヴ戦[maeve](2015/02/08 11:03)
[13] §13 2001,10,23(Tue) 11:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:23)
[14] §14 2001,10,23(Tue) 12:20 PX それぞれの再会[maeve](2012/12/16 23:01)
[15] §15 2001,10,23(Tue) 13:00 教室[maeve](2012/12/06 00:01)
[16] §16 2001,10,23(Tue) 13:50 ブリーフィングルーム[maeve](2013/05/15 20:03)
[17] §17 2001,10,23(Tue) 18:30 シミュレータルーム[maeve](2015/03/06 21:04)
[18] §18 2001,10,23(Tue) 22:00 B15白銀武個室[maeve](2015/06/19 19:23)
[19] §19 2001,10,23(Tue) 23:10 B19夕呼執務室 考察 因果特異体[maeve](2012/10/20 17:51)
[20] §20 2001,10,24(Wed) 09:00 B05医療センター Op.Milkyway[maeve](2015/02/08 11:06)
[21] §21 2001,10,24(Wed) 10:00 シミュレータルーム 考察 XM3[maeve](2012/12/06 21:17)
[22] §22 2001,10,24(Wed) 13:00 横浜某所 遺産[maeve](2012/11/10 07:00)
[23] §23 2001,10,24(Wed) 21:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/01/13 23:30)
[24] §24 2001,10,24(Wed) 22:00 B19シリンダールーム 暴露(改稿)[maeve](2013/04/04 22:05)
[25] §25 2001,10,24(Wed) 23:00 B19シリンダールーム 覚醒[maeve](2013/04/08 22:10)
[26] §26 2001,10,25(Thu) 10:00 帝都城 悠陽執務室[maeve](2016/05/06 11:58)
[27] §27 2001,10,26(Fri) 22:00 B19夕呼執務室[maeve](2016/05/06 12:35)
[28] §28 2001,10,27(Sat) 09:45 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:22)
[29] §29 2001,10,27(Sat) 11:00 帝都浜離宮茶室[maeve](2015/02/08 10:15)
[30] §30 2001,10,27(Sat) 12:45 帝都浜離宮 回想(改稿)[maeve](2012/12/16 18:30)
[31] §31 2001,10,27(Sat) 14:00 帝都城第2演武場[maeve](2015/01/23 23:26)
[32] §32 2001,10,27(Sat) 15:00 帝都城第2演武場管制棟[maeve](2016/05/06 11:59)
[33] §33 2001,10,27(Sat) 16:00 帝都浜離宮[maeve](2015/01/23 23:31)
[34] §34 2001,10,28(Sun) 10:00 帝都城第2演武場講堂 初期教導[maeve](2016/05/06 12:00)
[36] §35 2001,10,28(Sun) 13:00 帝都城来賓室[maeve](2016/05/06 12:00)
[37] §36 2001,10,28(Sun) 国連横浜基地[maeve](2012/11/08 22:20)
[38] §37 2001,10,29(Mon) 15:00  B19シリンダールーム 復活[maeve](2013/04/04 22:18)
[39] §38 2001,10,30(Tue) 10:00  A-00部隊執務室 唯依出向[maeve](2016/05/06 12:01)
[40] §39 2001,10,30(Tue) 11:00  B19夕呼執務室 考察 G元素(1)[maeve](2015/03/06 21:07)
[41] §40 2001,10,30(Tue) 15:00  A-00部隊執務室[maeve](2015/02/03 20:59)
[42] §41 2001,10,31(Wed) 10:00 シミュレータルーム[maeve](2016/05/06 12:03)
[43] §42 2001,10,31(Wed) 06:00 アラスカ州ユーコン川[maeve](2016/05/06 12:03)
[44] §43 2001,10,31(Wed) 10:00 司令部ビル 来賓応接室[maeve](2016/06/03 19:20)
[45] §44 2001,10,31(Wed) 12:00 ソ連軍統治区画内 機密研究エリア[maeve](2016/05/06 12:05)
[46] §45 2001,11,01(Thu) 13:00 アルゴス試験小隊専用野外格納庫 考察 戦術機[maeve](2016/05/06 12:06)
[47] §46 2001,11,02(Fri) 12:00 テストサイト18第2演習区画 E-102演習場[maeve](2016/05/06 11:50)
[48] §47 2001,11,02(Fri) 12:15 司令部棟 B05 相互評価演習専用指揮所[maeve](2016/05/06 12:06)
[49] §48 2001,11,03(Sat) 05:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/02/03 21:01)
[50] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島[maeve](2015/01/04 19:23)
[51] §50 2001,11,02(Fri) 20:00 ユーコン基地[maeve](2016/05/06 12:07)
[52] §51 2001,11,03(Sat) 点景[maeve](2016/05/06 12:08)
[53] §52 2001,11,04(Sun) 07:30  A-00部隊執務室[maeve](2016/05/06 12:08)
[55] §53 2001,11,04(Sun) 20:00 B19夕呼執務室[maeve](2015/06/19 19:45)
[56] §54 2001,11,05(Mon) 09:00 ブリーフィングルーム[maeve](2015/01/24 18:43)
[57] §55 2001,11,06(Tue) 10:00 帝都城第2連隊戦術機ハンガー[maeve](2015/06/05 13:06)
[58] §56 2001,11,07(Wed) 10:00 横浜基地70番ハンガー[maeve](2015/03/06 20:56)
[59] §57 2001,11,08(Thu) 14:00 帝都浜離宮来賓室[maeve](2015/09/05 17:29)
[60] §58 2001,11,08(Thu) 15:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(1)[maeve](2013/04/16 21:00)
[61] §59 2001,11,08(Thu) 15:30 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(2)[maeve](2015/01/04 19:04)
[62] §60 2001,11,08(Thu) 16:00 帝都浜離宮来賓室 考察 創造主(3)[maeve](2015/02/03 21:19)
[63] §61 2001,11,09(Fri) 11:05 新潟空港跡地付近[maeve](2015/10/07 16:50)
[64] §62 2001,11,10(Sat) 23:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/03/06 21:15)
[65] §63 2001,11,11(Sun) 05:50 燕市スポーツ施設体育センター跡[maeve](2015/06/19 19:48)
[66] §64 2001,11,11(Sun) 06:52 旧海辺の森跡付近[maeve](2016/06/03 19:25)
[67] §65 2001,11,11(Sun) 07:15 旧燕市公民館跡付近[maeve](2016/05/06 11:55)
[68] §66 2001,11,11(Sun) 07:24 連合艦隊第2艦隊旗艦“信濃”[maeve](2016/05/06 11:56)
[69] §67 2001,11,11(Sun) 07:44 旧新潟亀田IC付近[maeve](2015/09/11 17:22)
[70] §68 2001,11,11(Sun) 08:00 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 09:53)
[71] §69 2001,11,11(Sun) 08:15 三条市グリーンスポーツセンター跡[maeve](2015/02/08 10:00)
[72] §70 2001,11,11(Sun) 08:20 旧北陸自動車道新潟西IC付近[maeve](2014/12/29 20:34)
[73] §71 2001,11,11(Sun) 08:25 帝都上空[maeve](2015/08/21 18:44)
[74] §72 2001,11,11(Sun) 10:30 三条市荒沢R289沿い[maeve](2015/02/04 22:07)
[75] §73 2001.11.12(Mon) 09:30 PX[maeve](2015/09/05 17:34)
[76] §74 2001.11.13(Tue) 09:00 帝都港区赤坂 九條本家[maeve](2015/04/11 23:27)
[77] §75 2001,11,13(Tue) 10:30 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2015/12/26 14:19)
[78] §76 2001,11,13(Tue) 19:50 B19フロア 夕呼執務室 考察G元素(2)[maeve](2016/05/06 12:19)
[79] §77 2001,11,14(Wed) 09:00 講堂[maeve](2016/05/06 12:25)
[80] §78 2001,11,15(Thu) 22:22 B15 通路[maeve](2016/05/06 12:31)
[81] §79 2001,11,15(Thu) 15:00(ユーコン標準時GMT-8) ユーコン基地滑走路[maeve](2015/10/07 16:54)
[82] §80 2001,11,16(Fri) 10:15(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/09/05 17:41)
[83] §81 2001,11,16(Fri) 10:55(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト18[maeve](2015/10/07 16:57)
[84] §82 2001,11,16(Fri) 16:30(GMT-8) ユーコン基地 モニタールーム[maeve](2015/05/31 10:24)
[85] §83 2001,11,16(Fri) 21:00(GMT-8) リルフォート歓楽街 “Da Bone”[maeve](2015/10/07 17:03)
[86] §84 2001,11,17(Sat) 17:00(GMT-8) イーダル小隊専用野外格納庫 衛士控室[maeve](2015/06/20 23:51)
[87] §85 2001,11,18(Sun) 17:20(GMT-8) ユーコン基地 演習区画 テストサイト37 幕間?[maeve](2015/05/31 20:15)
[88] §86 2001,11,18(Sun) 22:00(GMT-8) アルゴス試験小隊専用野外格納庫[maeve](2016/05/06 11:46)
[89] §87 2001,11,19(Mon) 13:00(GMT-8) ユーコン基地 居住区フードコート[maeve](2015/06/19 20:13)
[90] §88 2001,11,19(Mon) 18:12(GMT-8) ユーコン基地 演習区外米国緩衝エリア[maeve](2015/12/26 14:23)
[91] §89 2001,11,19(Mon) 18:50(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/12/26 14:25)
[92] §90 2001,11,19(Mon) 20:45(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画 ПЗ計画研究施設[maeve](2015/10/07 17:13)
[93] §91 2001,11,19(Mon) 21:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画[maeve](2015/10/07 17:15)
[94] §92 2001,11,20(Tue) 03:30(GMT-8) ソビエト連邦租借地 ヴュンディック湖付近[maeve](2015/08/28 20:32)
[95] §93 2001,11,21(Wed) 14:30(GMT-8) ユーコン基地 ソビエト占有区画内 総合司令室[maeve](2015/10/07 17:20)
[96] §94 2001.11.22(Thu) 03:00(GMT-8) アラスカ州ランパート付近[maeve](2015/12/26 14:28)
[97] §95 2001.11.23(Fri) 18:00(GMT+9) 横浜基地 B20高度機密区画[maeve](2015/08/28 20:08)
[98] §96 2001.11.24(Sat) 15:00 横浜基地 B17 A-00部隊執務室[maeve](2016/06/03 19:39)
[99] §97 2001.11.25(Sun) 02:00(GMT-?) 某国某所[maeve](2015/12/26 14:33)
[100] §98 2001.11.25(Sun) 13:30 横浜基地 北格納庫管制制御室[maeve](2016/06/04 14:06)
[101] §99 2001.11.25(Sun) 18:00 横浜基地本館 メインバンケット モニタールーム[maeve](2015/10/31 14:40)
[102] §100 2001.11.26(Mon) 06:30 横浜基地本館 ゲスト棟[maeve](2016/05/06 11:44)
[103] §101 2001.11.26(Mon) 17:15 横浜基地 モニタールーム[maeve](2016/05/15 12:14)
[104] §102 2001.11.27(Tue) 06:00 国連横浜基地 第2グランド[maeve](2016/06/03 19:42)
[105] §103 2001.11.28(Wed) 09:00 国連横浜基地 XM3トライアル V-JIVES[maeve](2016/05/14 13:10)
[106] §104 2001.11.28(Wed) 17:00 国連横浜基地 米軍割当外部ハンガー ミーティングルーム[maeve](2016/06/04 06:10)
[107] §105 2001.11.28(Wed) 17:40 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2016/06/10 23:26)
[108] §106 2001.11.28(Wed) 18:00 国連横浜基地 Bゲート付近 〈Valkyrie-04〉コックピット[maeve](2019/03/26 22:16)
[109] §107 2001.11.28(Wed) 21:00 B19フロア 夕呼執務室[maeve](2019/03/30 00:03)
[110] §108 2001.11.28(Wed) 21:00(GMT-5) ニューヨーク レストラン “Par Se”[maeve](2019/06/30 17:55)
[112] §109 2001.11.29(Thu) 09:00(GMT-5) ニューヨーク国連本部 安保緊急理事会[maeve](2019/05/05 21:16)
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[35536] §49 2001,11,03(Sat) 09:00 日本南洋 某無人島
Name: maeve◆e33a0264 ID:53eb0cc3 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/01/04 19:23
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Side 冥夜


夜の明けた3日目。
残っていたレーションと今まで収穫した山菜で軽い朝食を取ると、早朝より行軍を開始した。
敵陣殲滅ではない密林行軍となるので明るい間が基本の行動期間となる。暮れの早い時節柄朝の時間は貴重だ。
距離的には、今日中早いうちにも指定された回収ポイントに到着する。
時間的にもかなりのマージンを稼いでいるのは確実であろう。

ジャングルを抜けると、切り立った渓谷と流れの速い川が在ったが、身体能力抜群でフリークライミングなども得意とする彩峰と、殆どそれに匹敵する能力を持つ純夏が居たお陰で、難なく進めている。
彩峰がラペリング降下し、岩場を渡って対岸にロープを渡す。ロープ渡過でチームを渡渉させた後、殿の純夏にロープを一度戻し、純夏は樹の幹に回しただけのロープで単独降下。下でロープ回収すると岩場を渡り、彩峰の開拓したクライミングルートを辿って岸壁を登りきってしまう。
彩峰が態々ロープ回収に往復する手間も無いため、非常に効率が良い。

そう、今の純夏は私の知っている幼少時の純夏とは、身体能力に於いても一皮も二皮も剥けていた。
そして、前の純夏と同じく控えめでありながら、しかしその何処か達観しているような、孤高の精神。
それは勿論以前の純夏には無かったもの。


その理由も、純夏と再会したあの日の夜、私は知ったのだ。



純夏の辿った壮絶な過去。
BETAによる捕縛、毀された心身と奇跡的な蘇生。

その全てを受け入れた上で、今の純夏が在る。

達観しているように感じたのも当然の仕儀。
姉上とはまた異なる崇敬を感じたのも確かだった。













声を掛けられたのは、純夏が合流した日、夕食後のシミュレータ自主訓練も終わり、シャワーを浴びた後だった。
他のメンバーは居残り等様々な理由で傍には居ない。もともと長い別離の後の再会、積もる話でもと言う事でこの後純夏とは話をすることになっていた。

そう、純夏が復帰した以上、タケル争奪戦が激化するのは必至。それでなくとも最近は他の207Bメンバーさえ油断がならないのだ。

だが、純夏の一言は、私を愕然とさせた。

「ドクターストップが解除されたから今夜、タケルちゃんとする[●●]よ。」

「・・・・・す、少し待て、純夏・・・。それは“契を交す”と言うコトか? それはタケルがソナタを選んだ・・・と?」

喪失感? 敗北感? 謂れの無い脱力が襲う。

「前の質問に関してはその通りだよ。でも、後者はちょっと違う。だから冥夜さえよければ、一緒にどうかな? って。」

「え?・・・・・はぁぁぁっっ??!!」

一緒? なにを? 男女の営みを、複数で? あ、いや其の様な場合が在ることも知識としては有しているが、まさか自分が、しかも初めてで?


「わたしはもう、気持ち固めたから引かない。でも昔からの冥夜の気持ちも知っているから、抜け駆けはしたく無い。
月詠さんに聞いていない? 悠陽殿下には拡大婚姻法の要請がされていて、今月半ばには法案提出されるって。議会を通れば、年明けにも即時施行するみたい。」

「・・・あ・・・。」


あ、“あの御方”がそんな法案をっ!? ・・・イヤ、そういえば真那がそのような事を言っていたような気もする。

「わたし、タケルちゃんの部屋の鍵、借りてくるから。
気持ちが決まったら、タケルちゃんの部屋に来て。」

純夏はそう笑顔で言い残して、去っていった。




暫く呆然としてしまった。
イキナリ落とされた爆弾。状況を把握するに、漸く落ち着いてくる。



純夏が本気なのも、恐らくは既にタケルがそれを断らない状況なのも理解した。
BETAに囚われていたといい、長く意識不明の状態にあったと聞く純夏。
その蘇生の可能性を嬉しそうに語ったタケル。長い別離が、タケルの気持ちを引き寄せたのか。

しかしそれは自分も同じなのだ。
喪った時に知った、自分に取ってのその存在の重さ、尊さ。それは私の生き方までも変えてしまった別離だったのだ。
だからこそ、その生存を知ったとき、完全に周囲の状況すら忘れ、恥も外聞もなくその胸に飛び込んだのではないか。
二度と喪わぬと、心に誓ったのではないか。


そして拡大婚姻法が施行されれば、相手は一人に限定されないのだから、確かに無理に争う理由はない。適齢期の男子が極端に少ない現状、将来の人口維持の意味も含め、その意義は大きい。婚姻できた男女にだけ人口が減らないように8人以上の子供を成すことを強制することは、母体の身体的にも世帯の経済的にも出来ない。男子の減少により仕事を持つ職業婦人も多い現在、負荷を分散する意味でも正論である。


・・・後は気持ちの問題だけなのだな。


それも最近時、人類の危機が叫ばれ、そして現実にBETAの大過に晒された帝国などでは、性のモラルは随分と自由になっている。
生存の危機に瀕すると生殖行動が高まると言う生物学者もいるが、子供を為すことにかつてのような抵抗が少ないのも事実だ。
法律に先行して多数の女性を囲っているケースもあるらしい。


ならば、少なくとも、タケルを想う気持ちに於いて、純夏に引けは取らぬとの自負もある。
今変に気負ってこの場を譲ってしまえば、今後常に純夏の後塵を拝することになるのは必定。


「・・・ならば、此処で引くことは出来ぬ、か・・・。」








タケルの私室をノックすれば、返ってきたのは純夏の声。

開けてくれたドアに滑りこむと、そのままスルリと純夏が抱きついてきた。
思わず抱き止めるが、その女の子女の子した柔らかい感触に、ドキリとする。さっきのハグでも思ったが、その後に見せたあのハードパンチャーにして、この抱き心地は反則であろう。

「・・・・ゴメンね、冥夜。そしてありがとう。」

私の胸に顔を埋めたまま純夏が言う。

「・・・・・なぜ謝罪と感謝を?」

「・・・わたしの我儘で冥夜を急かすことになっちゃったから。
そしてタケルちゃんを愛してる同志として、冥夜に認められたことが嬉しいから。」

「・・・ソナタの我儘とは?」

抱きとめた肩がピクリと震えた。

「・・・わたしが、BETAに囚われて、何されていたと想う?」

「・・・・・。」

「わたしはBETAに陵辱されて、身体も精神も一度毀されたの。」

「な・・!?」

「BETAは、人間の心にある未知のエネルギーを探索しているらしい、と副司令に聞いたの。
その手段の一つとして、快楽に因る人間の支配があるって。」

「・・・・そんな・・・。」

驚く私に、淡々と続ける純夏。

「BETAに捕まったわたしは、薬漬けにされ、何の抵抗も出来ないまま、それこそ体中の穴という穴を触手で犯された。
あそこは勿論、子宮や卵巣まで蹂躙され弄られる。顔にある感覚器は全て、おしりや尿道、臍、それに乳首の中にも挿入され嬲られた。
・・・しかもそれが全部、頭の中が真っ白になるくらい、気持がいいの。」

「 !!! 」

「始めはイヤでイヤで仕方ないのに、直ぐに自分から求めるようになる位。憎くて憎くて仕方のないBETAに犯されて、喜んでいる身体にされていたの。」

壮絶・・・いや凄惨な体験。
腕の中で純夏が震えているのがわかる。

「でも、そのうちそんな感情さえ塗りつぶされてしまった。頭の中はそれしか無くなって・・・。
人間の心臓って、快楽だけでも止まるの。
何度も心臓が止まって、その度に蘇生させられ、また止まるまで攻め続けられる。

身体も何時のまにか改造されてて、乳首なんてが腕ぐらいに肥大させられてるし、その中をイボイボの触手が擦り上げる度に、刺激されて狂った母乳まで吹き出していた。
精神なんかもう快楽一色で、気持いいことして欲しくて最後はBETAにおねだりしてた。」

「・・・純夏・・・。」

「そのうち、BETAは気持いいことに関係ないわたしの身体を壊し始めたの。
始めは筋肉や、内臓。やがて感覚器もいらなくなって、電気信号さえ通せば快楽を得られることが知れ、わたしの身体は、神経と快楽を感じる脳髄だけが残された。」

「な・・・!?」

脳髄・・だけ?


「・・・・・・でもね・・・そんな快楽に塗りつぶされて、身体も破壊されつくしたわたしだけど、そんなになってもたった一つだけ塗り重ねられた快楽にも消えなかった想いがあったの。」

「・・・・。」

「それが、“タケルちゃんにあいたい”・・・・」

「 ! 」

「明星作戦で、横浜ハイヴが攻略されて、わたしは解放された。
と言っても、もうその想いしか無く、自我も破壊されていた脳髄だけだし、BETA由来のシリンダーを出れば立処に死んでしまう存在。
と言うか、その想いだけでわたしは生きながらえていた。」

「・・・・・。」

「つい最近になってその状態から、毀された精神の奥底に自閉し、硬い殻に閉じこもっていたわたしの自我を開放してくれたのがタケルちゃん、そしてそのサポートとBETAに犯され切り刻まれてうち捨てられた淫らな肉の代わりに、新しい細胞を再生してくれたのが彼方君なの。」

「!!・・・・。」

まだ純夏は腕の中だ。
一度身体も精神も全て奪われて、そこからたった一つの想いで再び還ってきたというのか。
面と向い合っていなくて助かった。
掛ける言葉すら見つからなかった。



「なので、このとおり身体は新しく元の通りになった。彼方君はちゃんと昔と同じ鍛えた身体にしてくれたし、成長分も見込んでいるから、あんなに動けるし・・・。
でも記憶は、・・・・誰よりも憎んでいたBETAに堕ち、隷従していた記憶は消えていない。
タケルちゃんは、そんなわたしでもいいと言ってくれた。何よりもわたしの為に、還ってきてくれた。
・・・だから、わたしは一刻も早くタケルちゃんに抱かれて、タケルちゃんに染めてほしいの。」

「!!なるほど・・・・それがソナタの我儘か・・・。

・・・・・・すまぬ。
なんと言葉を掛けていいのか、判らない。

・・・余りにも凄まじい話で、恐らく私には想像することすら叶わぬ凄絶な地獄を体験してきたのだろう。
だが、そうであるなら純夏がタケルを求めるのは当然のことであろう?
何故私にそれを明かし、ここに私を誘うのだ?
・・・・黙って抱かれてしまえば良かろう。」

「今のはわたしの事情であって、内容そのものは冥夜には関係ないじゃない。
それとも、内容が悲惨だから冥夜はタケルちゃんを譲ってくれるの?」

回した腕から、いたずらっぽい笑いが伝い漏れている。

「・・・・それはあり得ん。」

つい憮然と応える。

「でしょ。わたしの我儘の発端だから話しただけ。冥夜が気にやむことじゃない。
そしてタケルちゃんは、わたしを大事に思ってくるのと同じくらい、冥夜のコトも大切に思ってる。」

「 !! 」

「わたしは嫌な過去を乗り越えたいから、一刻も早くタケルちゃんとひとつになりたい。
でもタケルちゃんには、同じくらい想ってる娘もいて、抜け駆けになるのはわたし的にもタケルちゃん的にも避けたい。だからこうして狡い手で冥夜を巻き込んだ。
私の我儘に巻き込んだ謝罪とそれ許してこうして来てくれた冥夜への感謝、だよ。」

「・・・・・純夏・・・・。」

漸く私の胸から顔を離す純夏。
真っ直ぐな瞳が私を射る。

「・・・わたしは冥夜とも、タケルちゃんと一緒に幸せに成りたい。」


そう言い切った純夏に、不覚にも気圧され、見惚れてしまった。









但し、その後のコトは余り思い出したくはない。
・・・とてもではないが、恥ずかしすぎて、思い出すだけで顔が紅潮してしまう。

悲惨な初体験、と言うわけではない。
寧ろ幸せな初体験であるのだろう。

女として生まれたこの上ない至福を感じることが出来た、と言うのが今の私には精一杯だ。



そうなのだ。

タケルさえ良ければいつでも、と言ったのは私。
覚悟はあったのだ。


そして純夏は自身の時にも常に私を気遣ってくれたし、それはタケルも同じ。
3人で居るのがとても自然でさえあった。
勿論、他人の営みなど見る機会も無かった私だが、寧ろ神聖な光り輝く儀式を見ているような気にさえさせられたのだ。



なのに。

私の番になった途端、純夏は参加してきたのだ。それも私に対して。

嫌ではない、それどころか、気持ちいい。

純夏にされるのなら女同士でもさほどの抵抗を感じなかった。


タケルの愛撫はストレートで情熱的。
しかし純夏のそれは違う。

女同士だからというコトだけではなく、そんなトコロにっ!? と思うようなツボを的確に探り当て、剥き出しにされてしまうのだ。
息絶え絶えに聞けば、BETA仕込みだからね、と黒い微笑み。


しかもタケルとの見事な連携で攻めてくるなんて卑怯だ。

なんの経験もない私に余りにも無体ではないか!




翻弄され続けたお陰で、緊張していた身体もすっかり力が抜け、殆ど破瓜の痛みも感じなかったのも確かなのだが。

・・・・これは・・・クセになってしまわぬ様に、然と心得なければ!


Sideout




Side 純夏


総合戦技演習3日目。

わたしが知っている前のループのタケルちゃんの記憶。
2日目の集合は、わたしと鎧衣さんが到着するのに前後して、皆が到着した。その時点だけでも半日早い。
タケルちゃんが訓練部隊に所属し教導に関わって実質1週間程度なのだが、不干渉を改めた神宮司教官と、モチベーションを上げさせたタケルちゃんの的確且つ効率的な教導が齎した効果、と言うのかな。
記憶にある今の時点の練度よりも、皆上がっている。
何よりも目的意識とモチベーションの高さが違う。

その分、確実に皆の中でタケルちゃんへの好意が上昇しているのも判っていた。


今朝、出発して直ぐに在った川も問題なく渡渉できた。タケルちゃんの時とは日付も違うため、雨が降って無駄な足止めを喰うこともなかった。
彼方君が再構築してくれたこの肉体は、確かに遺伝子そのものは操作はしていないが、元の遺伝子をそのままに、身体的には極限まで鍛え抜いた状態らしい。その上で教えてくれた色々な動作モデル。
真の基本が出来れば大抵の事には応用できると言っていたが、ホントに十分すぎるみたい。
彩峰さんが開拓したルートをロープ回収しつつクライミングで辿ることなど、今のわたしにとってはなんでもないことだった。
雨が上がり水が引くのを4時間待ったタケルちゃんに比べ、ここで更に約半日、先行できる。

朝方には、副司令の方に襲撃が在ったみたいだが、神宮司教官、そしてタケルちゃんが付いている。
彼方君が周辺エリアにはステルス対策のレーダー網も設置したらしい。
その上護衛として持ち込んだ機体は“弐型改”。殆ど無限の心臓を有するチート仕様。生半可な規模では瞬殺されるだろう。
心配するまでもない。

それ以外は、何も問題なかった。



そして辿り着いた回収ポイント。
昼過ぎにはもう仮初の回収地点に到着する。タケルちゃんの記憶より丸一日早い。

わたし自身は初めての演習だけど、タケルちゃんの記憶があるから、このあと何が起きるか、わたしは知っている。
尤も過去のループに於いても砲撃が実弾だったのは副司令の意図ではなく、冥夜の合格を阻止しようとした城内省排除派の画策だったらしい。但し副司令の案ではゴムの散弾であったらしいから、生命の危険こそ無いかもしれないが、演習的にはどっちが被害が大きかったか、定かではない。


何れにしろ、此処は事情を知らない皆には任せられない。

目前のゴールに浮かれる皆には酷だが、まだ演習は終わらない。
敵に先に気取られた場合に備え、隊を後方に隠匿すること、信号は一人が目立たぬよう行うこと。
そう示して、わたしが発煙筒を焚きに出た。


当然の砲撃で、着陸地点が穴だらけに成る。
わたしは、初弾の光を認めた時点で、逃げ出し身を隠す。
演技だけの迎えのヘリも早々に離脱して行った。


通信による副司令からの情報、そして生きていいる自動砲塔、それを迂回した回収地点の変更。

全て予定調和。
本当に記憶どおりに進むんだ、と感心してしまう程に。
多少のメンバーの変更や、時差など関係ないらしかった。




日が落ちるまでまだ5時間ある。最短距離で行ければ、今日中にゴールも可能。
クリアに必要なアイテム、アンチマテリアルライフルもロープも確り確保している。

目前のゴールが変更されたことに少し落胆していた皆だが、まだ3日目なのだ。
気をとりなおして、変更されたルートに向かい始めた。









本来、わたしが持つこの分岐世界での記憶は、BETAに捕まり、私を守ろうとしたタケルちゃんが殺された挙句、身体も精神も毀されて快楽に溺れながら意識を自閉する所までだった。

けど、あの自分の精神領域で再び目覚めたときは、タケルちゃんの前のループに於ける“わたし”の記憶がそこに繋がり、あたかも一度目覚めて共に桜花作戦まで駆け抜け、皆を救えなかった懺悔のままに、意識を喪った、その後の様に感じた。
せめて再構成されるだろう元の世界群で、向こうの“わたし”や皆と幸せになってほしい・・・。
それだけが桜花作戦後消え行く前のループに於けるわたしの願いだった。

だが、優しい唇の感触にふと目覚めてみれば、因果導体を開放された事で元の世界に還るはずのタケルちゃんに頭を支えられ、キスされている状態。
もう二度と会えないと覚悟していたから、只管名前を連呼し泣きじゃくってしまった。

そして落ち着いてみれば、副司令に霞ちゃん、そして何故か元の世界の彼方君まで居た。



説明を受けてまた驚く。
そこはタケルちゃんに取って3周目のループ。幾多の同じループを辿った1週目や2周目ではなく、桜花作戦を完遂した後の、3周目。
それも、桜花作戦後も残った分岐世界のタケルちゃんを核とした、この世界群におけるループ世界全ての“タケルちゃん”の統合体。その“因果特異体”が引き起こしたループだと言う。
元の世界にも還るべくして還った存在も別にあり、いま此処にいるのは“この”分岐世界におけるタケルちゃんの記憶すら持つ、“わたしだけ”のタケルちゃんになるという。
つまりは、このタケルちゃんは、もう何処に戻る必要もない、この世界の存在。
そして“今”はまだ、前のループで喪った全てが存在する“始点”から数日が経っただけ。
更に今の状況はわたしの内的領域で自我が目覚めただけだが、BETAの蹂躙で毀された記憶野や、思考野を再構築出来れば、喪った肉体再生さえ可能だという。

余りの僥倖に、しばし呆然とした後、また長々と泣きじゃくってしまった・・・。
彼方君を送ってくれた戻った“タケルちゃん”には感謝してもし切れない。

そう、脳細胞の修復と再生を教えてもらいながら、わたしはあの後彼方君に、タケルちゃんにもナイショで、わたしとタケルちゃんの“真実”を聞かされていた。





それはとても突飛な話だったけど、一度は00ユニットとして“無意識領域”まで繋げた経験のあるわたしには、理解できる話だった。


超因果体、そして因果特異体と言う存在。


極言すれば、わたしとタケルちゃんを中心に回っているこの世界群。

そして今あるタケルちゃんが因果特異体に成ったゆえの危険性も指摘された。

もし、今回タケルちゃんの望むカタチで世界が変えられなければ、この世界群は無限ループに陥り、崩壊する可能性がある、と言う。

わたしの所為でタケルちゃんがそんな存在になり、今なお世界が危機に瀕している事にショックをうけたわたし。



けど。

「鑑が責任感じる必要はない、って言うよりも、これは一つのチャンスなんだぜ。」

「・・・え?」

「今まで何をしようが、この世界群はBETAによる人類の滅亡状況は確定していた。あらゆる武の分岐世界の記憶にも、BETAに勝利した歴史は無いんだろう?」

「・・・・・。」

「鑑が元の世界群から武を呼びこみ、その武が足掻いて、そしてこうして残ったことにより、漸くその確定されている状況を一気にひっくり返せる可能性が見えてきた。
この世界群の中で、この世界群の因果を変え、人類を救える可能性を有する唯一の存在が、因果特異体である“白銀武”ってことなんだぜ。
ほっといても勝手に滅ぶ世界と、乾坤一擲でも存続する可能性がある世界と、どっちがいい?」

「・・・・。」

・・・ホントに彼方君は、落ち込みそうになるのをフォローするのが上手い。

「でも、そしたら、どうしたらタケルちゃんの因果特異体は開放できるの?」

「・・・難しいことは考えなくてイイ。

鑑が思うままに、武と幸せに成ること。

それが、それだけ[●●●●]がこの世界を変える。」


そう、彼方君は言った。




記憶の継承された前のループで思った強い願い。

皆と幸せに成りたい。

今は00ユニットではないから直ぐ繋げられるわけではないが、記憶として幾多のループ世界でのタケルちゃんの気持ちも行動も理解している。

わたしの願いは、タケルちゃんの願いでもある。





とは言え、もう一度やり直せるとなると蟠りや割り切れない気持ちが、一切無かったわけではない。

今回は“生身”で復活するのだ。
00ユニットの様な偽りの身体ではなく、言ってみればBETAに汚された脳髄や心はそのままなのだ。


どの世界だろうと、全ての純夏はオレのもの。

そう言ってくれた前のループのタケルちゃん。
リーディングなんかしなくても、いま、この世界にいるタケルちゃんもそう思っていてくれることは伝わってくる。

けれど、不安が無いわけではない。
淫らに改造された肉体や、クスリで異常なまでに過敏にされた神経は既に無いが、その時の強烈な、それこそ心臓すら止めてしまう“悦楽”の記憶は多少薄れたとは言え今も残っている。
前回00ユニットで、仮初の身体とコピーされた心だと言う割り切りがあったからこそタケルちゃんと一つになれたのかも知れない、とも思う。


「・・・生身の身体に戻ったら、ちゃんとH出来るのかな・・・。」

「・・・・・なんだ鑑、もう惚気か?
・・そこはあんまり心配するな、武と1回でもすれば、そんなことすら思わなくなるから。」

「・・・え?」

「・・・・お前らは恐らく完全合一対:“perfect union”だろ。」

「パーフェクトユニオン?」

「比翼連理、運命の相手、ベターハーフ・・・。古来色々な言い方があるけどな。
でなければ、たった一度のセックスで武が因果導体から開放されるなんて、在り得ないだろ、普通。」

「!・・・」

「前のループで鑑は、00ユニットで在りながら武と結ばれ、それによって武は因果導体から解放された。
それは、前説明したように00ユニットに繋げられた鑑の魂魄そのものが、その接合で、“永遠”に等しい充足を得たから、じゃないのか?」


言われてみれば、そうだ。
義体、そして量子電導脳に形作られた偽物の心。けれどそこに繋がる魂は、紛れもなく私のものだった。
そしてタケルちゃんと結ばれた事で、わたしは“永遠”を手に入れた。
この記憶さえあれば、タケルちゃんが元の世界に戻ってしまっても、何時でも身近に感じられるし、生きていけると思ったし、反応炉が毀されてODLが補給されない事になっても、タケルちゃんや迷惑を掛けた皆を護ることさえ出来たらこのまま消えて行くのさえ何も怖くない・・・・、そう感じていた。



「・・・セックスってさ、生物学的には子孫を残すための生殖行為だし、生理学的には、快感を得ることで性的欲求を満たす情動行為だったりするけど、それだけじゃない。
究極的には、“魂”の接合にまで至る事もあるんだぜ。」

「“魂”の接合?」

「ああ。今の鑑が肉体である脳ではなく、アストラル体で思考していることは話したよな?」

「うん。」

「で、その根源が鑑を鑑たらしめている“魂”、魂魄だ。
それが無意識領域・・・別の言い方をすれば“母生命”とか“根源”から分化した“個”であり、それは多数の分岐世界の鑑とも繋がっていることは、00ユニットだった鑑には理解できるだろう?」

「うん・・・解る。」

「で、この“個”に分かれた魂魄のカタチなんだが、恐らくは“完全”じゃないんだ。実際完璧な魂魄を有する人間なんて居ない。
歪にゆがんでいたり、そこここが欠けていたり、その形状も欠陥もそれこそ千差万別、同じものは2つと無い。
だからこそ“生”は不安定であり、その安定を求めるように“完全”を目指す。
・・・・・・宗教的な言い方をすれば、それが、それこそ単細胞生物から人に到るまで、魂を有するものが“生きる”理由なんだろうけどな。」

「・・・・。」

「で、その魂の成形を促す手法の一つが、“合一”という。
簡単に言えば、魂の欠けたり、足りなかったりする部分を、他から持って来て補完する、ってことだ。
神秘学や密教に存在する概念は、神や仏を取り込むことによって、同一の存在となり、人を超えたり、悟りを開くことを意味するが、まあ大局的には同じようなものだろ。
魂魄がより完全に近くなれば、悟りも開けるだろうからな。

で、その“合一”を男女の陰陽に当てはめるものがある。

一部真言密教系の宗派や立川流なんかに見られるし、ヒンドゥー教のシヴァ信仰やシャクティ信仰なんかもその概念がある。
完全合一できる相手に巡りあえば、超人化出来るなんていう話もあるが、神秘学の神人合一と同じで、そこまで行くと眉唾ものだけどな・・・・。

けれど、現にセックスは、実際トランス状態に導きやすかったりする。肉体の感覚を刺激して、脳内麻薬を満たし、一部アストラル体である精神に影響できる一番簡単な手法、と言うことだ。


で、鑑と武の話に戻すと、先刻も言ったように、魂魄は誰しも何処か歪んだり欠けたりしている。
けれど、その欠損や歪曲をお互いに補完できるカタチが存在するとしたら、どうなると思う?」

「 !! Hによる“魂”の接合で、“合一”できるって事!?」

「・・・そういう事。
鑑と武の場合、その相互補完率が極めて高いんだ。おそらくテン・ナインとかイレブン・ナイン、殆ど完全合一対:“perfect union”と呼べるくらいに。

多分、そういう存在が同じ時代に居るだけでも稀有だろうし、ましてや出会えるなんて相当に低い確率になるだろうが、ま、因果にまで干渉する鑑と武ならそれもおかしくはないだろう。
だから武は誰よりも鑑を選ぶし、鑑も武がいいんだろ?

だったら、肉体と、せいぜいが脳内麻薬で精神にしか快楽を与えられないBETAなんか、目じゃないさ。
どんなに肉体の快楽を与えようが、薬で精神さえ支配しようが、根源たる魂魄の接合に勝る喜びがあるわけ無いじゃん。
肉体に性的負荷を与えてイき殺すことは出来ても、魂魄の接合なんか、生命ですら無いBETAには不可能。
鑑に取って、と言うか鑑と武はお互いに誰よりも深い充足と、完全な魂の平穏を与えてくれる相手、と言うわけだ。
それを直感的に感じ取っていた鑑は、故にBETAによってどんなに性感による快楽の深淵に溺れようと、最後の最後まで武を求め、魂の存在しないBETAには決してそこに至れなかった。

前回のループでは、一回の接合で因果導体すら開放できるわけさ。
肉体や精神を超越した魂魄の接合。それはたった一度でも正しく“永遠”を手に入れた様な物だからな・・・・。」

「・・・・それって、一回しか出来ないの?」

「まさか。
他に完全合一対なんて知り合いに居ないから知らないが、肉体や精神を重ねあわせ、魂の接合にまで至るのは、本来相互の信頼や愛情があってこそ。
鑑と武の場合完全合一に近いから、前回は磁石が惹きあうように先に接合しただろうけど、繰り返し重ねることが出来れば、重ねるだけ深化するはずだ。
今のESPが発現した鑑なら、武との“遠話”や“技能共有”くらいは直に出来るようになるかもな。」


彼方君の話は、わたし的には凄く納得出来る話で、前の世界の経験とも一致する。
不安の全てが払拭された訳ではないが、安心させてくれたことは確か。
思うのは・・・・一刻も早くタケルちゃんと一つに成りたい・・・と言う事。


「・・・でも、そうすると冥夜や皆も?」

「・・・ああ、皆武との適合率は高いと思うぜ。鑑が100%に近いなら、彼女たちは90%台じゃないか?
魂魄のカタチと、性格や身体機能とは関連が無いからそれぞれバラバラだけど。鑑を喪ったループ世界なら、武とくっついてもなんら不思議はない。
カタチが似ているから、武とは引き合い、そして似たもの同士お互いには共感できる。
似てるが故に、逆に少しずれると盛大に反発しあうこともあるだろうが、な。

まあ、90%台だと、イキナリ接合には至れないだろう。それこそ回を重ねていけばそのうち、ってとこか。」

「・・・・・・。」


わたしがその話に、わたしが力使えば、他の娘にも“接合”を感じさせることが出来るかな、と黒い事を考えたのは、彼方君にはナイショ。







けれどその後、再び・・・ホントの肉体を取り戻したこの世界群のわたしとしては初めて・・・タケルちゃんと結ばれた時にそれを理解した。


完全合一。


それは肉体や精神を超越したた魂の接合。

ただ、人が人として生まれるとき、分かれた魂が完全な状態ではないのは確か。
その足りないものを埋めるように人は、生命は“生きる”。
足りないものは、人ぞれぞれであるから、求めるものも異なる。
生物の長い歴史の中で性差が生まれたとき、互いの足りない部分を補うように


そして相互の不足を完全に補完し合うペア。
比翼連理。
運命の相手。
ベターハーフ。


確かにわたし達は“パーフェクトユニオン”と呼べる存在なのだろうと・・・。

それを、既に喪った“未来の記憶”としてではなく、再び得ることが出来たのだ。


その境地に至って思うのは、タケルちゃんの愛しいモノ全てが愛おしい・・・。


タケルちゃんを好きになる娘は、要するに“足りない部分”がわたしと似通っているのだ。
だから皆もタケルちゃんを求める。それは、わたしと補完する関係にあるタケルちゃん側からも同じこと。
その適合度が高ければ高いほど、肉体を超越した“魂の充足”が得られるのだから。

そして“肉体・精神の充足”がそれを高めるのも、また確か。






因果特異体であるタケルちゃん。

開放できなければ、恐らくはこの世界群を果てしないループに導き、消滅させる存在。


その開放条件は、タケルちゃんが幸せになること。

それは、皆の生存と、幸せな未来に他ならない。



わたしは、再び得ることが出来た充足に感謝しながら、決意を新たにした。









そして、現実に戻れば、崩れかけた橋が見える。


一応これでもアストラル思考体持ち。1つか2つの並列思考しか出来ないビギナーだけど。
00ユニットを使えば無限の並列思考も可能ではあるが、ここで使う意味は無い。



その橋の向こう、既に太陽は、赤く水平線上に浮いている。




レドームは記憶どおりの位置にあったし、壬姫ちゃんは外すこと無くそれを一撃で破壊した。

後は何の障害も無かった。


壊れそうな橋も、指示するまでもなく、彩峰さんがロープを手に、崩れかけた橋を渡っていく。

直ぐに固定されたロープを頼りに、頼もしい仲間が渡ってゆく。

タケルちゃんが守りたい仲間であり、そして今後共にタケルちゃんを支える同志。




その“仲間”と共に、指定回収地点に着き、神宮司教官と、そしてタケルちゃんの出迎えを受けた。




水平線上に僅かに際を残していた太陽が、あかね色の空を、刹那、緑の閃光に染め、そして姿を消した。


Sideout




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