そもそもアイドルとはいったいどのような定義の下で成立するものなのだろうか。
ふとそんなことを考えている自分がいた。
ネットでみんなのアイドルといっても過言ではないwikiさんに聞いてみたところ、『人気のある芸能人や多方面で活動する歌手・俳優・タレント・声優』とのことらしい。
つまり歌を歌うアイドルもいれば、脱ぐアイドルもいる。スポーツで人気の選手や、タレント動物もアイドルと言えるようだ。
彼らに共通して言えることは、やはり人とは違う魅力があるところであろう。
元々、『アイドル』という言葉は信仰の対象の意味をもっているのだと、立川に住んでいる芸人さんがこの前教えてくれた。
なるほど。確かに『アイドル』と呼ばれる彼らが自分たちに魅せてくれる奇跡は、現代の信仰の対象と十分捉えることができる。
ライブを起こった際のファン達の熱気は、まさに現代に蘇った『レコンキスタ』と言ってもよい。
そう関心しつつwikiを読み進めていくうちに体が固まった。
『年齢が若くアイドル性を持つ者には一部この呼称が用いられることがある』
年齢。
……年齢か。
一般の人たちが『アイドル』という言葉で連想する人間の姿は、果たしてスポーツ選手やタレント動物だろうか。恐らくは違うだろう。
まず第一に思い浮かぶものは、男性であればまだ若い少女の面影を残した女性。
女性であればまだ青さが残るような若い男性ではないだろうか。
どちらかといえば『アイドル』は若い年齢の世代に求められるものである。
お○ゃんこクラブのあの人たちだって、今出てきて『アイドルです』なんて言われても、納得はできるが心に妙なしこりが残るに違いない。
引退した伝説のアイドルであるあの日高舞が今テレビに出たとしても、その歌と容姿を確認してこそアイドルという称号に納得ができるのだ。
知らない人間が名前と年齢だけ見てアイドル宣言されたならば、「え、その年でアイドル宣言って」とちょっと引いてしまうかもしれない。
そう、『アイドル』と『年齢』には密接な関係がある。
特に女性アイドルにおいては年齢は避けては通ることができないキーワードだ。
パソコンの画面から目線を離すと、目頭を中指で拭う。どうやら目を使いすぎてしまったらしい。
そしてそのまま横目で今ソファーに座って、優雅にコーヒーを飲む女性に目を向けた。
「あら、プロデューサーさんどうしたのかしら?私の顔に何かついているの?」
「いえ、やっぱり高橋さんには他の子には無い魅力があるなと」
「ふふ……。歳を重ねて女はより円熟していくものなのよ。私は常に美しくあるわ。プロデューサーさん見逃しちゃだめよ?」
「肝に銘じておきます」
高橋礼子。大人の魅力あふれる31歳のアイドルである。
うちの事務所は今日も平和です。
第三話「オンナは30からなのよ、ふふっ」
この自分が敬語で話す相手こそ、うちの事務所である意味一線を超すアイドル。
高橋礼子31歳である。
出身は神奈川県。身長167cm。
バスト91・ウエスト62・ヒップ90とこれまたうちの事務所で一線を越えているダイナマイトボディの持ち主だ。
流れるような艶のある髪に、ふっくらとしたルージュ色の唇。決して短い年月では身につかないような、真の大人の女性ともいえる妖艶な魅力を全身からあふれんばかりに放っている。
この魅力はまだ若いアイドルたちには表現しようがない何よりの強みだ。
まぁ、いろいろ言いたいことはあるだろうが、彼女は『アイドル』である。
舞台やドラマ、映画に引っ張りだこの高橋さんだが、彼女は女優ではない。『アイドル』である。
淡い歌声で老若男女を魅了する高橋さんだが、彼女は歌手ではない。『アイドル』である。
あえて言わせてもらおう。
さんじゅういっさいでもアイドルであると。
まぁ実際、初めて年齢を知った時にはやってしまった感が正直あった。
だが彼女がいてくれたからこそ、俺は今ここで無事にプロデューサーをやれているのかもしれない。
まだ若輩者の自分は、女性の気持ちがよくわからない。
学生の気分のままにアイドルたちと接することも、一つの重要なコミュニケーションではある。
だがそれでは彼女たちの本当の心の声を聴くことはできない。
女性と接する経験の少なさ、なによりも男性という性別の絶対的な壁が、プロデュースするアイドルたちとの間に常に存在していたのだ。
アイドルをプロデュースする上で、一番重要なことは円滑なコミュニケーションを築き上げることだ。
いくら貴重な宝石の原石ともいえるアイドルであっても、環境によって全くその特性を生かせないままこの世界を去っていくことは少なくない。
「機体の性能を生かせぬまま死んで行け」と言い放った某パイロットのセリフを思い出す。事実彼の通りに撃墜されていったアイドルは数知れず。
彼女たちが持つ華やかなアイドルの理想とのギャップ、社会の現実、これまでの普通の生活との別離、立ちふさがるライバルというさまざまな壁に心を折られ。
ついにはアイドルとしての魅力を生かせぬままに撃墜……もといアイドル界から散ってしまう。
そうならないよう俺たちプロデューサーは、彼女たちの心と体に対するストレスを少しでも軽減する必要がある。
彼女たちも自分と同じ一人の人間。一人一人の考え方も趣味嗜好も違う。
それにできる限り合わせ、彼女たちの夢をけっして絶望に変えさせることがないように仕事をこなしていくことが求められるのだ。
さて、この作業を簡単に例えてみよう。
モンスターハンターであれば、卵の採集任務をランポスが1000匹存在する荒野で行うような繊細な作業だ。
スぺランカーをクリアするような繊細な心配りが必要だ。
アイドルのソウルジェムは常にいっぱいいっぱいだ。すぐに魔女になる。さやかなんて目じゃない。
むしろあれぐらいの絶望は、捌ききれなければプロデューサーとは言えない。
素人にこんな作業任せた社長の正気を疑う。
これに事務処理やマネージャー的な仕事や売り込みがさらに追加されるのだ。それも思春期のガールズを一人じゃなくて何人も担当するのだ。
起動当初のアーケード版アイドルマスターで千早を初心者が選択するようなものだ。
最後に自分でもよくわからない解釈が入ってしまったが、軽く見積もっても過労死コースである。
おかげで新入社員が「仕事だけしていたらダメですかね?人と接するの苦手なんすよ」とか言ってる姿がテレビで出てくると、そのテレビを細切れにしたくなる激しい破壊衝動に襲われる。
少なくとも暗黒期中に三台は犠牲になった。
俺が経理をしていたのでこっそり社長の給料から引いておいた。
だが、そんな切羽詰っていた自分を助けてくれた人こそ、高橋礼子さんだった。
最初はちひろさんに相談しようと思ったのだが、彼女もまたあの時は自分のように忙しかったので相談できなかった。
というより壊れたレコードのように「スタドリスタドリスタドリ」とハイライトが落ちた瞳でぶつぶつとつぶやいていたので、あまり話したくなかった。
そんな時、気を使うように言葉を一つ一つ選んで話しかけてきてくれた高橋さん。
人生経験豊富であり、何よりも女性としての立場からアイドルについての相談を受け入れてくれたことは、アイドルたちのプロデュースに大きな影響を与えたことは間違いない。
何より彼女と話しているだけで、言いようのない安心感につつまれる。
これが大人の女性が持つ魅力というものなのだろうか。この人をスカウトできたことは、我ながら実に快挙であると褒め称えたい。
若い男性だけではなく、若い女性まで。10代からお年寄りまでと、幅広い世代に求められる大人の魅力を持つアイドル。
それが高橋礼子というアイドルだ。
「私がアイドルになるなんて、自分でも驚いているけど……ふふっ、今は毎日充実しているわ。本当にありがとう、プロデューサー」
「それはこちらのセリフです。高橋さんにはいろいろと相談させてもらってますからね。ほんっとうにうちの子たちは個性が強い連中が多いですから」
「私から見たらあなたも彼女たちもあまり変わりないように思えるけれど?」
「俺って普通じゃないですか」
「ギャグにしてもそれはちょっと笑えないわ」
……あれ?俺ってあいつらともしかして同じ扱い受けてるの?
「あの子たちも年相応のかわいらしいところがあるのは、あなたもよく知っているでしょう?」
「それ以上に変なところが多いですけどね」
「そこをどんどん社会の人たちに伝えていけばいいと思うの」
「うちの事務所が一般人にも魔窟扱いされるようになりますね」
「魔窟って、一度興味を持って入っちゃうと出られないところなのよ?」
「アイドル事務所ってそんな物騒なところでしたっけ?」
「その一番の原因はプロデューサーさんじゃないかしら」
「確かに集めたのは私ですが、責任は社長がとってくれます」
「もしかして、あなたをスカウトした社長が一番の原因なのかもしれないわね」
楽しそうに笑う高橋さんに、思わず自分も自然に笑ってしまう。
この空間が何とも居心地がよい。
成熟した知性と大人の魅力、話しているだけで引き込まれる話術。まるで包み込まれるような母性と、官能的な微笑み。
31という年齢はデメリットなどではなく、むしろ一つのステータスなのだと思えてしまうところが彼女の素晴らしいところだ。
なにより胸がでかい。
「プロデューサー、そんなに胸ばかり見ないの」
そういって胸を隠すように自らを抱きしめるのだが、かえってそれが胸を強調する結果となってまして。
なんていうかたまりません。
「本当に、高橋さんをスカウトできてよかったと思います」
「う~ん。その言葉は嬉しいのだけれども、できれば胸だけじゃなくて私をしっかりと見ながら言ってもらいたいわ」
それに、と彼女は自らの唇に人差し指を当てて女豹を思わせる笑みを浮かべた。
「どうせ酔うのなら胸じゃなくて、私に酔ってみるのはどうかしら?」
「そうですね、今晩あたりは久しぶりに一杯行きますか?」
「ふふ、もちろん二人だけよね?」
「ええ、高橋さんのおかげでそこらへんのマナーは理解したつもりですよ」
「じゃぁ、そこからさらにもう一歩踏み出してみない?」
お手上げ、とばかりに早々に両手を挙げて降参のポーズをとる。
無理、こういう会話はもう勝てそうにない。
これ以上話したら根こそぎ自分を引きずり出されそうな気がしてならない。
「まだまだ青いわね、うちのプロデューサー君は」
「流石にまだまだ高橋さんには及びませんよ」
「別に青いことは悪いことではないわ。それも私が引き込まれたプロデューサーさんの立派な魅力だもの」
「惚れました?」
「どうかしら?プロデューサー君はどう思う?」
そう微笑む高橋さんの端正な顔には、先ほどまであった自分の誘惑するような女豹の笑みは無い。
代わりに子供をからかうような悪戯めいた笑みを浮かべていた。
「まぁ、まだまだ伸びしろがあるということでここは一つ」
「そうね、プロデューサーとアイドル。私たちはまだまだ上を目指せるもの。最初出会った時は心配だったけど……」
珍しく彼女の額には汗が浮かんでいた。あの頃の自分は他人からみたらどう見えていたのだろうか。
この様子を見る分にはやっぱりろくでもなかったらしい。
「……今はあなたがいないと不安になるの。頼りにしているわよ?プロデューサー君」
「誠心誠意、高橋さんの魅力を伝えさせていただきます」
「高橋さんじゃなくて、名前で呼んでちょうだい。そんな他人行儀な関係は嫌よ?」
「それじゃぁ礼子さ」
「ふふ、背中を預けあえる仲には、年下も年上も存在しないわ。さ、もう一度呼んでみて」
……おうふ。
なんかもう自分はこの人には一生勝てない気がしてきた。
「わかったよ礼子。これからもよろしく頼む」
「そうそう、それでいいのよ。こちらこそよろしくね」
そう言ってお互いくすくすと忍び笑いをこぼした。
「……うん、今はまだお預け。来る時が来たら、もうその時は逃げられないからね、プロデューサーさん」
体が突然震えた。
寒気がおぼえたとか、風邪を引いたのかとかそんなものではなく。
なんて言うか、生物としての本能というか……。
まるで豹に狙われたような。そんな悪寒。
でも悪い気はそんなにしなかったのが不思議だ。
……うちの事務所は今日も平和です。
……平和、だよな。
■ ■ ■
うちのフロントの高橋礼子さん。
無課金のクールPフロントといった時点で、この人の登場を予想した人は少なくないはず。
自分が持っているのは【妖しき女豹】の方ですが、流石にあれをしょっぱなから出すことはためらいが。 とりあえずノーマル高橋さんをイメージしました。
高橋さんは書いていて難しいです。プロデューサーだけでなく自分まで彼女の手の中にいるような気が、書いている間はずっと感じておりました。
まぁ30代の女性の魅力を若造が簡単にかけるわけないよねと開き直ってみたり。
まぁ今後の課題です。
クールは9歳から30代まで、幅広く扱っております。みんなアイドルです、アイドルなのです(集中線)