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No.35430の一覧
[0] SWORD WORLD RPG CAMPAIGN 異郷への帰還[すいか](2012/10/08 23:38)
[1] PRE-PLAY[すいか](2012/10/08 22:31)
[2] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:32)
[3] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:33)
[4] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:34)
[5] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:35)
[6] インターミッション1 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 22:40)
[7] インターミッション1 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 22:41)
[8] インターミッション1 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 22:42)
[9] キャラクターシート(シナリオ1終了後)[すいか](2012/10/08 22:43)
[10] シナリオ2 『魂の檻』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:44)
[11] シナリオ2 『魂の檻』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:45)
[12] シナリオ2 『魂の檻』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:46)
[13] シナリオ2 『魂の檻』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:46)
[14] シナリオ2 『魂の檻』 シーン5[すいか](2012/10/08 22:47)
[15] シナリオ2 『魂の檻』 シーン6[すいか](2012/10/08 22:48)
[16] シナリオ2 『魂の檻』 シーン7[すいか](2012/10/08 22:49)
[17] シナリオ2 『魂の檻』 シーン8[すいか](2012/10/08 22:50)
[18] インターミッション2 ルーィエの場合[すいか](2012/10/08 22:51)
[19] インターミッション2 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 22:51)
[20] インターミッション2 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 22:52)
[21] インターミッション2 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 22:53)
[22] キャラクターシート(シナリオ2終了後)[すいか](2012/10/08 22:54)
[23] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:55)
[24] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:56)
[25] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:57)
[26] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:57)
[27] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン5[すいか](2012/10/08 22:58)
[28] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン6[すいか](2012/10/08 22:59)
[29] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン7[すいか](2012/10/08 23:00)
[30] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン8[すいか](2012/10/08 23:01)
[31] インターミッション3 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 23:02)
[32] インターミッション3 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 23:02)
[33] インターミッション3 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 23:03)
[34] キャラクターシート(シナリオ3終了後)[すいか](2012/10/08 23:04)
[35] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン1[すいか](2012/10/08 23:05)
[36] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン2[すいか](2012/10/08 23:06)
[37] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン3[すいか](2012/10/08 23:07)
[38] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン4[すいか](2012/10/08 23:07)
[39] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン5[すいか](2012/10/08 23:08)
[40] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン6[すいか](2012/10/08 23:09)
[41] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン7[すいか](2012/10/08 23:10)
[42] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン8[すいか](2012/10/08 23:11)
[43] インターミッション4 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 23:12)
[44] インターミッション4 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 23:14)
[45] インターミッション4 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 23:14)
[46] キャラクターシート(シナリオ4終了後)[すいか](2012/10/08 23:15)
[47] シナリオ5 『決断』 シーン1[すいか](2013/12/21 17:59)
[48] シナリオ5 『決断』 シーン2[すいか](2013/12/21 20:32)
[49] シナリオ5 『決断』 シーン3[すいか](2013/12/22 22:01)
[50] シナリオ5 『決断』 シーン4[すいか](2013/12/22 22:02)
[51] シナリオ5 『決断』 シーン5[すいか](2013/12/22 22:03)
[52] シナリオ5 『決断』 シーン6[すいか](2013/12/22 22:03)
[53] シナリオ5 『決断』 シーン7[すいか](2013/12/22 22:04)
[54] シナリオ5 『決断』 シーン8[すいか](2013/12/22 22:04)
[55] シナリオ5 『決断』 シーン9[すいか](2014/01/02 23:12)
[56] シナリオ5 『決断』 シーン10[すいか](2014/01/19 18:01)
[57] インターミッション5 ライオットの場合[すいか](2014/02/19 22:19)
[58] インターミッション5 シン・イスマイールの場合[すいか](2014/02/19 22:13)
[59] インターミッション5 ルージュの場合[すいか](2014/04/26 00:49)
[60] キャラクターシート(シナリオ5終了後)[すいか](2015/02/02 23:46)
[61] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン1[すいか](2019/07/08 00:02)
[62] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン2[すいか](2019/07/11 22:05)
[63] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン3[すいか](2019/07/16 00:38)
[64] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン4[すいか](2019/07/19 15:29)
[65] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン5[すいか](2019/07/24 21:07)
[66] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン6[すいか](2019/08/12 00:00)
[67] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン7[すいか](2019/08/24 23:54)
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[35430] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン3
Name: すいか◆1bcafb2e ID:e6cbffdd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2019/07/16 00:38
シーン3 ターバの村

 シンたちがターバの村へたどり着いた時、太陽はすでに白竜山脈の稜線に沈み、空の色は橙から紫へと色を濃くしていた。
 村のあちこちから炊煙がたなびき、肉の焼ける匂いや賑やかな笑い声がうっすらと漂ってくる。
 酒場の軒先にはランプや篝火が焚かれ、食事と酒を求める冒険者や、神殿への旅をしてきた巡礼者たちを誘っていた。
 ロードスの北辺に位置するターバの夏は短い。
 1年で最も過ごしやすい今は、ターバの村が最も活気にあふれる季節だった。
 昼間は肉や野菜、土産物などを売っている市場も、夜になると屋台が中心だ。
 店主が威勢よく客を呼ぶ声、鉄板の上で肉汁のはじける音、あたりに漂う香ばしい匂い。
 夕暮れの空の下、大樽に板を渡しただけの簡素なテーブルには、山盛りの串焼きや腸詰め、蒸かしたジャガイモなどが所狭しと並び。
 立ち飲みを楽しむ男たちが陽気に乾杯すると、木製のジョッキからエールの泡が舞って料理に降り注いだ。
「焼き鳥でエールか。最強の組み合わせだな」
 空腹の身にこれは、ほとんど暴力だ。
 シンは心の底から羨ましそうに屋台を見る。
 立ち飲み屋の店主と、そこにいる客のほとんどは顔なじみだ。ひとりだったら迷わず突撃して仲間に入れてもらったのだが、あいにくとレイリアは葡萄酒派で、ライオットとルージュは下戸。今夜は参加できそうにない。
 店主はシンを見ると笑顔で手を上げたが、レイリアが一緒にいるのを見て、誘ってはこなかった。おそらく気を遣ったつもりなのだろう。
 代わりに「頑張れよ」と言わんばかりに親指を立ててくる。
 それを目にしたレイリアが控えめに愛想笑いを返すと、今度は酔った客たちが歓声を上げ、美人を釣り上げたシンの戦果を讃えての乾杯が始まった。
 ランタンの明かりがノスタルジックに照らす中、露天の宴は絶好調だった。
「知り合いなら挨拶に行きますか?」
 そっとシンの左袖を引いてレイリアが声をかけると、シンはすぐに首を振った。
「いいから放っておこう。あいつらは酒を飲んで騒げれば何でもいいんだよ」
 お世辞にも品がいいとは言えない連中が、もう完全にできあがっているのだ。あそこにレイリアを放り込んだら最後、絶対に収拾がつかなくなる。
「リーダーはほんと、村に知り合いが多いよね」
「こういうのを人徳って言うんだろうな。俺には無理だ」
 最初は、ライオットもルージュも酒には付き合えないから、ひとりで飲んでもつまらない、という事情があったのだろう。
 依頼を受けずに村にいる間、シンの趣味はもっぱら屋台巡りだった。
 仕事と仕事の合間だから、村にいる時間はさほど長くなかったはず。
 それなのにふと気がつけば、鍛冶屋に行っても、パン屋に行っても、店主はシンの名前を覚えていて、気軽に声をかけてくるのだ。
 どこで知り合ったのかと尋ねると、決まって答えは「飲み友達」だった。
「やっぱり性格だろうね。ライくんとちがってリーダーは素直だからね」
「そういう反論できない皮肉はやめてくれ」
 苦笑しながら歩みを進める。
 誰にでも胸襟を開けるシンとは違い、ライオットは『親しい仲間』と『それ以外』を明確に区別してしまう。
 初対面の相手でも社交辞令の範囲では友好的に交流するが、本音の部分まで立ち入らせようとはしないから、どうしても親しい友人はできずらい。
 それがいいか悪いかと問われれば、別に悪くはないが損なのは認める、というのがライオットの自己分析だった。
 歩きなれた道を進み、市場を通り抜けると、そこは酒場や宿屋が連なる一角だ。
 〈栄光の始まり〉亭は、冒険者を相手にする酒場の中ではいくらか上品な部類に入るだろうか。
 店主は威勢のいい女将だが、女性は女性だ。
 冒険者ではない、一般の巡礼者たちが宿を求めても嫌な顔をしないし、質より量という冒険者向けの料理だけでなく、新婚夫婦向けのメニューもあるにはある。
 いつものようにシンを先頭に店に入ると、扉につけられた大きな鈴がガランと鳴った。
 先客である冒険者たちの値踏みするような視線を浴びたが、これはもう冒険者の習性という他ない。彼らには、ぶしつけな視線が失礼などという繊細な感性は存在しないのだ。
 その代わり、自分よりも上位と認めた相手には逆らおうとしないから、実力さえ認めさせれば付き合いやすい相手ではあった。
「前よりも冒険者が増えてるな」
 ざっと店内を見渡して、シンがライオットに言う。
 以前は冒険者2、巡礼者8くらいの割合だったが、今夜は概ね半々といったところだろうか。
 シンとライオットに続いてルージュとレイリアが店に入ると、たぐいまれな“上玉”の登場に店内の冒険者どもがざわりと色めき立った。
 中には口笛を吹いて堂々と冷やかすパーティーもいたが、おそらくシンたちの話を知らない新参者だろう。
 こういう反応も慣れたとはいえ、決して愉快ではない。
「レイリアさん、もしお尻を撫でられたら、遠慮しないで蹴っ飛ばしていいからね。あとはリーダーが何とかしてくれるし」
「大丈夫です。ここの皆さんに後れを取る心配はなさそうですから」
 レイリアは少しだけ不敵に微笑んだ。
 シンに勧められてライオットに師事し、強くなるためではなく“勝つための”剣術を習い始めたレイリアには、冒険者たちの長所と短所が何となく分かるのだ。
 確かに、戦士たちの腕は丸太のように太く、その剛力にはとてもかないそうにない。
 筋肉が見事に鍛えられているのも、その破壊力が大きいのも分かる。
 だが彼らでは、いくら愚直に剣や拳を振り回しても、たぶん命中する相手は妖魔か野盗だけだろう。
「おやまぁ! シンたちじゃないか! よく帰ってきたね!」
 その時、よく通る女将の声が、酒場の微妙なざわめきを圧倒して響き渡った。
 エプロンで手を拭きながらホールに出てくると、テーブルの海をかき分けてシンたちに歩み寄ってくる。
「聞いてるよ、ドワーフの王国でもまた上位魔神を討伐したそうじゃないか! しかも今度は竜まで! まさかこの店から“竜殺し”の英雄が出るなんてねぇ! あたしも鼻が高いよ!」
 女将が威勢よく捲し立てた。
 “魔神殺し”“竜殺し”の武勲譚は、ここ数日ターバの村で最大の話題だ。その英雄が店に凱旋したと知って、今度こそ、遠慮のない視線の集中砲火がシンたちに突き刺さる。
 ロードス島全土を魔神が暴れ回った恐怖の時代から、まだ30年しかたっていない。壮年以上の大人たちなら誰でも、魔神がどれほど怖ろしい存在か、現実のものとして経験してきたのだ。
 それを、しかも上位魔神を、彼らは倒してきたというのか。
「それであんた、《リザレクション》でターバ神殿の戦士長を甦らせたってのも本当なのかい? さすがにそれはニース様のお仕事だと思うんだけどねえ」
 首をかしげる女将に、ライオットが苦笑を返した。
 無理もない。上位魔神なら腕の立つ冒険者が頑張れば何とかなるかもしれないが、死者を蘇生できるのは、本当に神に愛された一握りの英雄のみ。
 そんな人間が、どうしてこんな辺境で冒険者などしているのか。
「本当ですよ。ライオットさんは、私の目の前でカザルフェロ戦士長を甦らせました。儀式に参加した私が言うのだから、絶対間違いありません」
 何も言わない本人に業を煮やして、レイリアが強い口調で主張した。
 彼女が最高司祭ニースの令嬢で、ターバ神殿の司祭だと言うことは、女将も常連客たちも知っている。
 レイリアが言うなら間違いないのだろうが、しかし。
「それなら、あたしがこんな口をきける相手じゃないってことなのかねえ。ニース様と同じくらい偉いってことだろ?」
「気にしなくていいよ。今の俺は冒険者で、あんたは冒険者の店の女将だ。それ以上でも以下でもない。人は自分の目で見たことだけを信じればいいのさ」
 ライオットがひらひらと手を振る。
 村に広がった噂を聞いただけの女将が、こんな荒唐無稽な奇跡を信じられたら、そっちの方がおかしいのだ。
「そんなことより風呂にしよう。その後で食事だ。女将、俺の露天風呂はまだ使えるんだろう?」
「もちろんさ。ちゃんと掃除もしてあるよ。水は張ってないけどね」
 充分以上の返事に満足したシンたちは、テーブルの海をかき分けて階段へ向かう。
 宿代は半年分ほど前払いしてあるから、部屋はまだ残っているはずだ。
「突き当たりの方の部屋は掃除してないよ! あんたたち、魔法で鍵をかけちまったから!」
 背中に投げられた声に、無言で手を上げて応える。
 ルージュやレイリアの尻に手を出す勇者は、ひとりも現れなかった。

 2階の突き当たりがルージュの部屋で、その隣がシンとライオットの部屋だ。
 王都アランから戻った後、賢者の学院や王宮からもらった謝礼の山は、ろくな整理もしないままでルージュの部屋に放り込んである。
 ドアはごくふつうの木製だが、ルージュの魔力で《ロック》の魔法をかけたのだ。これを無理矢理こじ開けるくらいなら、横の壁をぶち破る方がずっと簡単だろう。
 ルージュはドアに魔法樹の杖で触れると、玲瓏な声音でコマンドワードを唱えた。
「開け、ゴマ」
 誤解しようもない呪文でドアが開くと、そこはドラゴンの巣穴もかくや、というような宝物庫だ。
 黄金の彫像、銀貨がいっぱいに詰まった木箱、それぞれ魔法の効果が秘められた宝石の山などが、無造作に放置されている。
「なんとベタな」
「ロシアンティーを一杯、とかやるよりはマシだろ」
 あきれるシンに構わず、ライオットは魔法の道具が集められた一角に行くと、無造作な手つきで発掘を始めた。
 何に使うかよく分からない鏡、魔法はかかっているものの中身がないブロードソードの鞘などを脇にどけていき、ようやく目的の物を発見する。
 瀟洒な銀のチェーンで飾られた、大きな青い宝石のペンダント。
 宝石の中は青色の濃淡がゆらゆらと揺らめき、まるで湖の底を覗き込んでいるようだ。
「あった。これこれ」
 ライオットは満足そうに笑い、チェーンを指に引っかけると、宝石を振り回しながら立ち上がる。
「ライオットさん、それは?」
「“水妖精の祝福”って呼ばれてる。精神力を込めて祈ると、清浄な水が滾々と湧き出してくる魔法の宝石だよ。これからの俺たちに不可欠な宝物だ」
 もちろん水量は無尽蔵ではない。
 何らかの人工の容器がいっぱいになるまで、という制限がついているから、例えば地面に置いて河を創るような真似はできないのだが。
「確かに、砂漠に行くことを考えれば、それがあれば大助かりですね」
 これがひとつあれば、風と炎の砂漠を渡るのに水樽を用意する必要も、水樽を運ぶためのラクダを用意する必要もなくなる。
 砂漠では水は命だ。隊商が知れば、銀貨を何万枚払ってでも買い求めるだろう。
 それどころか、汗を流すためだけに好きなだけ水を使えるのだ。これさえあれば、シンの隣で清潔な身体を保てる。
 目を輝かせるレイリアに、ライオットは素直に感心した。
「なるほど、砂漠でも使えるよな」
「砂漠でも?」
 これからの冒険に役立つアイテムを整理しよう、そう言って〈栄光の始まり〉亭へ戻ってきたのではないか?
 もの言いたげなレイリアに、笑って応える。
「いやね、そんな先の話はさておき、とりあえず風呂に水を汲もうかと思って。井戸から何往復もするのは結構大変なんだよ。ラルカス学長がこれをくれた時は、ほんと天恵かと思った」
「そいつは神の道具だな、確かに」
 女性陣の微妙な表情を無視して、シンが心の底から同意した。
 ザクソンの村から帰ってきた夜、この宝石の存在を思い出していれば、大雨の中で水汲みをする必要もなかったのに。
 あの時のライオットはいろいろあった直後で、精神的に余裕がなかったのだろう。
「じゃあシン、俺は風呂の用意をしてくるから、こっちは適当に見繕っておいてくれ」
 言い残してライオットが裏庭に向かう。
 レイリアが何も言えずにルージュを見ると、彼女はどうやら諦めているらしい。
 さっそく魔法の品物の整理に取りかかっていた。
「リーダー、“飛空のマント”だって。使う?」
「それは空を飛ぶやつだろ? 剣ってのは腕だけで振るもんじゃない。体重を乗せて足を踏み込まないと威力も正確性もガタ落ちなんだ。俺もライオットも要らないよ。使うならルージュだけじゃないか? 高空から爆撃するのに便利だろ?」
「私は高いところ苦手だから要らない。レイリアさん使ってみる? 中途半端な高さだと、下からパンツ見えちゃうから気をつけてね」
「いえ、それはちょっと……」
 レイリアが頬を引きつらせると、ルージュはそう、と事もなげに頷いて、高価なマントを無造作に放り投げた。
 黄金の彫像や銀貨の木箱が積まれた、実戦には使えない物の山がまた少し高くなった。
「この、さっきライオットさんが捨ててた鞘は何ですか?」
「ああそれはね、“鍛えの鞘”っていって、中に納めたふつうの剣に《エンチャント・ウェポン》をかけてくれる魔法の鞘だよ。だけど1時間以上納刀してないと効果がないし、魔法の剣が欲しいならあっちに何本かあるから、リーダーに選んでもらって」
「はぁ」
 ルージュが示した壁際を見ると、使われていないベッドと壁の間に長短さまざまな魔法の武器が転がっていた。
 短剣、戦鎚、片手剣、両手剣に槍までひととおりある。王都の武器屋でさえ魔法の武器ばかりこんなに持っていないだろうに。
 本当にこの人たちは、ふつうじゃない。
「レイリアにはこれなんかいいんじゃないかな。今の武器がショートソードだから、あんまり長さが変わると使いにくいだろう」
 武器の山の中からシンが選んだのは、レイリアが使っている物よりすらりとした印象の小剣だった。
 革を金属で補強した鞘から引き抜くと、純白の刀身は淡い燐光を発し、側面には細かく上位古代語が刻印されている。
 刃体の長さは1メートル弱くらいか。レイリアが愛用しているショートソードとちょうど同じくらいだ。
「刀身はミスリルだから、ずいぶん薄く鍛えてあるだろ? それでも強度と切れ味は鋼鉄よりずっと上だ。両手剣と正面から打ち合っても折れないし、相手が粗鉄なら逆に切断できるくらいだよ」
「本当にこれ、今の剣よりずっと軽いです」
 軽く一振りしてみれば分かる。
 今までと同じ素振りでも、軽いというだけでコントロールの正確性が段違いだ。この剣を使うだけで、発揮する戦闘力が一段も二段も上がるに違いない。
「冒険者の皆さんが、魔法の剣を欲しがる理由がよく分かります」
 戦士にとって武器は、自己顕示欲を満たすための道具ではない。自分の生命を預ける相棒であり、全財産を費やしてでも手に入れる価値がある分身だ。
 誰にどんな陰口を叩かれようと、充分に優れた武器は、絶望的な強敵からだって身を守ってくれるのだから。
「その剣の銘は“シーリングエア”。魔力付与者は“漂泊の者”ユランディア。それはただ軽いだけじゃなくて、もうひとつ隠された魔力があるから、後で教えるね」
 ルージュが教えてくれた銘を聞いて、レイリアの笑顔が凍り付いた。
 聞き覚えがある。王都からの帰り道、ルージュの鑑定を聞きながら目録を書いたのはレイリア自身だから。
 魔剣シーリングエア。評価額は銀貨9万5000枚だ。
 レイリアが今の生活でそれだけの銀貨を貯めるには、たぶん10年くらいかかるだろう。
「ええと、これちょっと高価すぎるのではないかと」
「この程度でなに腰を引いてるの。まだまだこれからだよ? 次は魔法の防具。その後は装身具ね。リーダー、私は魔晶石を探し出して補充しなきゃいけないから、レイリアさんのことはよろしく」
「任された。さあレイリア、こっちへ」
 ニースとカザルフェロ戦士長から、シンはレイリアを預かったのだ。これからは、シンたちのやり方でレイリアを守っていく番。
 冒険者には冒険者の流儀というものがある。
 銀貨の山で敵の思惑を粉砕していくのは、バブリーズ以来の伝統だ。
 シンには、これっぽっちも自重する気がなかった。


「お金っていうのは、凄いんですね……」
 ライオット監修の露天風呂。
 ワイン醸造用の大樽を流用した湯船に身を沈めて、レイリアは複雑きわまる吐息をもらした。
 知ってはいたのだ。賢者の学院でせしめた贈り物や、ロートシルト男爵夫人関係で国王から下賜された金品、それに宮廷魔術師リュイナールからむしりとった依頼料や謝礼を合わせれば、ちょっと常識外れな金額になるということは。
 だがレイリアは、その金銭がどれくらいの威力を持つかということを、知識でしか知らなかった。
 魔法の剣、魔法の鎧、魔法のアミュレットなど、レイリアを強化するために選び抜かれた装備品は、合計金額で銀貨32万4000枚ほど。
 その結果、今のレイリアなら、相手があのラスカーズであっても互角に渡り合えるようになっていた。
「お金は人の可能性だからね」
 麻の布で石けんを泡立て、全身を泡だらけにしながら、ルージュが肯く。
「だけど、あれはレイリアさんが優れた剣士だから使いこなせる装備なんだよ。お金があれば誰でも強くできるわけじゃない。申し訳ないけどターバ神殿の神官戦士の人じゃ、魔法の剣なんか渡したところで、たかが知れてる」
 倒せる敵が、ゴブリンからホブゴブリンに変わるだけだ。どのみちゴブリンロードには太刀打ちできない。
 その程度の戦士がラスカーズの前に立ったところで、何の障害にもならないだろう。
「そう言われれば、そうなのかも知れませんが」
 レイリアは湯船の縁に頭を乗せて、半分だけの屋根の向こうの夜空を見上げた。
 湯船から立ち昇る湯気が、ランプに照らされてオレンジ色の霧のように踊っている。
 すっかり暗くなった空には雲ひとつなく、湯気の向こうでは色とりどりの星々が瞬いていた。
 自分は“亡者の女王”の転生体で、邪教に狙われる身だというのに、こうして首までお湯につかって、身体の疲れをのんびりと癒やしている。
 ルージュ謹製の椿の石鹸はレイリアの黒髪を艶やかに洗い清め、馥郁とした花の香りまで漂わせている。 
 新しい装備も、この至福の時間も、すべて他人の金銭で与えられたもの。
「どうしても釈然としないんです。私はルージュさんたちから多くのものを与えられましたけど、何だかそれは、皆とちがうズルをしてるような気がして」
 するとルージュは、身体を洗う手を休め、レイリアを振り返った。
 洗い終わった髪をタオルでアップに巻いてあるから、上気したうなじが色づいているのがよく見える。
 物憂げな瞳で夜空を見上げる横顔からは、レイリアが本心から悩んでいるのが伝わってきた。
 本当に、外見も内心も清らかな乙女だ。
「リーダーはホントに佳い女をつかまえたよね」
「え?」
 きょとんとして聞き返すレイリアに、優しい笑みを返す。
「別にズルでもいいじゃない。大切なのは、その力を何に使うかでしょ? 真面目にコツコツやって他人に迷惑をかけるくらいなら、ズルして百人を幸せにする方がずっといい」
 ルージュたちは他人よりもずっと大きな力を持っている。
 それは大きな視野で言えば名声や人脈であり、個人的には武力や魔力、あるいは財力といったもの。シンが国を作ると決断した時、それを下支えできる程度には大きな力を。
「リーダーはレイリアさんを色々な敵から守るために国を作る。けど、レイリアさん以外の人のことは、あんまり考えてないと思う。だからね、リーダーには必要なの。隣で国民のことを考えてくれる人が」
 国を支える何万という民の生活を。
 彼らの前にどんな未来を描き、どんな希望を示すのか。
 もっと簡単に言えば、どんな国を創りたいのかという理想を、だ。
「レイリアさんには言っておくけど、私はね、いつまでもリーダーと一緒にいる気はない。こっちがある程度落ち着いたら、故郷に帰りたいから。そうなった時、シンを支えるのはレイリアさんの役目だよ」
 ルージュはかけ湯で泡を洗い流しながら、真剣な声音で言葉を続ける。
「だから、これだけは忘れないで。力っていうのは驕っても、溺れても、恐れても駄目。過大評価も過小評価もしないで、必要な分だけためらわずに使うの。リーダーが暴走しそうになったら、何としてでも止めるの。それが王妃様の責任だからね」
 この言葉を胸の奥で受け止めて、レイリアは痛感した。
 自分はこの期に及んでも、与えられたものしか見ていなかった。
 シンの重荷を半分背負うとはどういうことか、分かっていなかったのだ。
「とまあ、それはさておき」
 見るからに落ち込んだレイリアを見て、ルージュが再び雰囲気を豹変させた。
「今夜はライくんをこき使って、私の部屋を整理しないといけないから。悪いんだけど、レイリアさんはリーダーの部屋で休んでくれる?」
 明るい口調で言いながら、湯船の中に滑り込んでくる。
 触れあう肌と肌。
 レイリアが少し小さくなると、ルージュはくすりと笑って顔を寄せてきた。
 そして、耳元で意味ありげにささやく。
「さっき街道で野獣に火をつけたみたいだから、責任取らないとね」
「……ッ!」
 これはルージュなりのフォローなのだ。落ち込んだ自分の気分を、少しでも紛らわせようという心遣い。
 それは分かっている。しかし。
「うん、髪も肌もいい匂い。これなら大丈夫。ちゃんと静められるよ」
「全然大丈夫じゃありませんから!」
 どうせなら、もうちょっと別の話題を選んでほしい。
 茹で上がった頭の片隅で、レイリアは切に思った。


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