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No.35430の一覧
[0] SWORD WORLD RPG CAMPAIGN 異郷への帰還[すいか](2012/10/08 23:38)
[1] PRE-PLAY[すいか](2012/10/08 22:31)
[2] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:32)
[3] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:33)
[4] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:34)
[5] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:35)
[6] インターミッション1 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 22:40)
[7] インターミッション1 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 22:41)
[8] インターミッション1 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 22:42)
[9] キャラクターシート(シナリオ1終了後)[すいか](2012/10/08 22:43)
[10] シナリオ2 『魂の檻』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:44)
[11] シナリオ2 『魂の檻』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:45)
[12] シナリオ2 『魂の檻』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:46)
[13] シナリオ2 『魂の檻』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:46)
[14] シナリオ2 『魂の檻』 シーン5[すいか](2012/10/08 22:47)
[15] シナリオ2 『魂の檻』 シーン6[すいか](2012/10/08 22:48)
[16] シナリオ2 『魂の檻』 シーン7[すいか](2012/10/08 22:49)
[17] シナリオ2 『魂の檻』 シーン8[すいか](2012/10/08 22:50)
[18] インターミッション2 ルーィエの場合[すいか](2012/10/08 22:51)
[19] インターミッション2 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 22:51)
[20] インターミッション2 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 22:52)
[21] インターミッション2 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 22:53)
[22] キャラクターシート(シナリオ2終了後)[すいか](2012/10/08 22:54)
[23] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:55)
[24] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:56)
[25] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:57)
[26] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:57)
[27] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン5[すいか](2012/10/08 22:58)
[28] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン6[すいか](2012/10/08 22:59)
[29] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン7[すいか](2012/10/08 23:00)
[30] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン8[すいか](2012/10/08 23:01)
[31] インターミッション3 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 23:02)
[32] インターミッション3 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 23:02)
[33] インターミッション3 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 23:03)
[34] キャラクターシート(シナリオ3終了後)[すいか](2012/10/08 23:04)
[35] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン1[すいか](2012/10/08 23:05)
[36] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン2[すいか](2012/10/08 23:06)
[37] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン3[すいか](2012/10/08 23:07)
[38] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン4[すいか](2012/10/08 23:07)
[39] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン5[すいか](2012/10/08 23:08)
[40] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン6[すいか](2012/10/08 23:09)
[41] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン7[すいか](2012/10/08 23:10)
[42] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン8[すいか](2012/10/08 23:11)
[43] インターミッション4 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 23:12)
[44] インターミッション4 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 23:14)
[45] インターミッション4 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 23:14)
[46] キャラクターシート(シナリオ4終了後)[すいか](2012/10/08 23:15)
[47] シナリオ5 『決断』 シーン1[すいか](2013/12/21 17:59)
[48] シナリオ5 『決断』 シーン2[すいか](2013/12/21 20:32)
[49] シナリオ5 『決断』 シーン3[すいか](2013/12/22 22:01)
[50] シナリオ5 『決断』 シーン4[すいか](2013/12/22 22:02)
[51] シナリオ5 『決断』 シーン5[すいか](2013/12/22 22:03)
[52] シナリオ5 『決断』 シーン6[すいか](2013/12/22 22:03)
[53] シナリオ5 『決断』 シーン7[すいか](2013/12/22 22:04)
[54] シナリオ5 『決断』 シーン8[すいか](2013/12/22 22:04)
[55] シナリオ5 『決断』 シーン9[すいか](2014/01/02 23:12)
[56] シナリオ5 『決断』 シーン10[すいか](2014/01/19 18:01)
[57] インターミッション5 ライオットの場合[すいか](2014/02/19 22:19)
[58] インターミッション5 シン・イスマイールの場合[すいか](2014/02/19 22:13)
[59] インターミッション5 ルージュの場合[すいか](2014/04/26 00:49)
[60] キャラクターシート(シナリオ5終了後)[すいか](2015/02/02 23:46)
[61] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン1[すいか](2019/07/08 00:02)
[62] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン2[すいか](2019/07/11 22:05)
[63] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン3[すいか](2019/07/16 00:38)
[64] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン4[すいか](2019/07/19 15:29)
[65] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン5[すいか](2019/07/24 21:07)
[66] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン6[すいか](2019/08/12 00:00)
[67] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン7[すいか](2019/08/24 23:54)
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[35430] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン3
Name: すいか◆1bcafb2e ID:e6cbffdd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/08 22:34
シーン3 〈栄光のはじまり〉亭

「女将さん! 大変なんです!」
 血相を変えて店に飛び込んできたのは、長い黒髪の美少女だった。
 勢いよく開かれたドアで盛大にベルが鳴り、店中の客の視線が集中するが、少女は気にするそぶりも見せずにカウンターに駆け寄る。
 着ているのは、マーファ神殿の制服とでも言うべき白い神官衣。
 マーファの司祭にはお淑やかなイメージがあるが、この少女も例に漏れずお嬢様タイプだった。
 年齢は16~17くらい。艶やかな黒髪はよく手入れされ、少女の動きにあわせて優雅に波打っている。
 大きな声を出しても楚々とした印象を失わないのは、持って生まれたキャラクターと言うべきだろう。色白の肌、卵形の顔、切れ長の目元など、どこを見ても育ちの良さがにじみ出ている。
「いかにもシナリオの導入に出てきそうなヒロインだな。これで村長の娘じゃなきゃ嘘だね」
「村長には美人の孫娘が必須だからな」
 シンの言葉に、ライオットが同意する。
 古来、キャンペーンの1話目は村長の孫娘に妖魔退治を依頼されるものというのが、TRPGの様式美であり伝統だ。
 満足そうにうなずき合っていると、閉まりかかったドアが再び開き、今度はずんぐりした人影が店に入ってきた。
 身長140センチくらい。酒樽のような体格。豊かな口髭。年季の入ったプレートメイルを着て、背中には巨大な戦斧を背負っている。
 やれやれと言いたそうな表情だが、目つきは鋭い。誰の目にも、彼は歴戦の戦士に映るだろう。
「ドワーフだ。実物を見ると、結構強そうだな」
 果汁の入ったジョッキで表情を隠しながら、ライオットが視線を向ける。
 その視線に反応したのか。3人のいるテーブルを一瞥したドワーフと、視線が絡み合った。
 3人を値踏みするような深い眼差し。その迫力に気圧されて、目を外すこともできない。
 だが、緊張はほんの一瞬だった。
 ドワーフの戦士はすぐに視線をはずし、黒髪の娘に歩み寄る。
 シンはほっと吐息をもらした。
「勝てないな、あのオッサンには」
 純粋な戦闘で、ということではない。
 人としての年季が違いすぎるということだ。それは全員に共通した認識だった。
「おやまあ、大神殿のお嬢さんじゃないですか。どうしたんです、こんな時間に」
 カウンターから顔をのぞかせた女将が、エプロンで手を拭きながら出てくる。
 後ろにいるドワーフに気付き、にこりと会釈。どうやら、この2人は店の顔なじみらしい。
「大変なんです! 村はずれの炭焼き小屋で、オーガーを見たって!」
 黒髪の娘はよく通る声で叫んだ。
 本人に悪気はないのだろう。大声を出したつもりもないに違いない。ただ余裕がなくて、周りが見えないだけ。
 しかし、その一言で酒場は静まり返った。
 オーガーは食人鬼とも呼ばれる妖魔で、その名のとおり人肉を好んで食べる、凶暴な巨人だ。
 身長は2メートルを軽く超え、肉体は強靭そのもの。野生の灰色熊が相手でも、1分あれば素手で殴り殺してしまうような膂力を誇る。
 一般人はもちろん、冒険者たちでさえうかつに彼らの相手はできない。オーガーが1匹出ただけで、対応できずに村が丸ごと1つ滅ぼされた例もあるほどだ。
「早く何とかしないと犠牲者が出るわ! けど、神官戦士団は出払ってて帰ってくるのは3日後だし、私たちだけじゃ相手にできないし、それで冒険者を探しに来たんです!」
 少女のまくしたてる言葉に、巡礼の新婚夫婦たちが青ざめていく。
 新婚旅行で飛行機に乗ったら、「当機はハイジャックされました」とアナウンスされたようなものだ。
「これ、少し落ち着かんか。巡礼のみなさんが不安がっておる」
 ため息をつきながら、ドワーフが少女をたしなめる。
 少女はようやく周りを見渡して、自分たちに向けられる視線に気づいたようだ。
 一瞬で耳まで赤くなって咳払いし、とってつけたように言う。
「ええと、皆さんご安心ください。皆さんの安全はマーファ神殿が責任を持って保障しますから」
「いやいや、保障できないから冒険者を探してるんだろ」
 ぼそりとライオットがツッコミを入れる。
 だが、女将はにこやかに応じた。
「お嬢さん、あなたは運がいい。ちょうど凄腕の冒険者が逗留してましてね」
 当然のようにシンたちのテーブルを指さす。
 それにつられて、黒髪の美少女とドワーフ、それに客たち全員の視線が吸い寄せられた。
 その視線の先には、凄腕の冒険者たちがいる。
 ひとりは戦士。黒髪に浅黒い肌。180センチの長身はしなやかに鍛えられ、精悍な顔つきは実直で頼りになりそうな印象を受ける。
 ひとりは神官戦士。磨きあげられた白銀の鎧には、戦神マイリーの紋章が刻まれている。金髪碧眼の貴公子で、どこかの王国に仕える騎士だと言われても納得できそうだ。
 ひとりは女性の魔術師。肩まで伸びた銀髪に象牙色の肌。紫色の瞳は深い知性を感じさせるが、薄桃色の唇には不思議な笑みを浮かべており、動物に例えるなら猫のようなイメージの持ち主。
 3人ともまだ20代の若さだろう。
 しかし、彼らが漂わせる雰囲気は、ただならぬ迫力にあふれていた。
「オーガーだとさ。どうする?」
 黒髪の戦士が言う。
「モンスターレベル5だし、最初としては手頃なんじゃない?」
 銀髪の女性魔術師が応じる。
「義を見て為さざるは、勇無きなりって言うしな」
 金髪の神官戦士がうなずく。
 3人の冒険者は顔を見合わせると、代表して黒髪の戦士が言った。
「俺たちが何とかしよう。詳しい話を聞かせてもらおうか」
 それを聞いて、全員がどよめく。
 黒髪の娘はほっとしたように微笑んで、テーブルに駆け寄ってきた。
「本当ですか?! 助かりました、ニース最高司祭に代わってお礼を言います!」
 掛け値なしの感謝が、その笑顔をさらに際立たせる。
 清楚な美少女が胸の前で手を合わせ、きらきら輝く瞳で見つめると、男どもはあっさりと骨抜きになった。
 すっかりゆるんだ表情のライオットを見て、ルージュが不機嫌そうに頬を膨らませる。
 しかし。
「私はレイリア。こっちはドワーフのギム。依頼料は神殿に掛け合って、なるべく多く出してもらいます!」
 その自己紹介を聞いて、格好つけて立ち上がった3人は盛大に頬をひきつらせた。


「さっきは悪かったね。ああでも言わないと、巡礼さんたちがパニックになりそうだったからさ」
 女将が済まなそうに言って、罪滅ぼしとばかりに新しいジョッキを差し出した。
 3人の意思を確認しないで、レイリアに紹介したことを言っているのだろう。
 遠慮なくジョッキを受け取りながら、ルージュが首を振った。
「お気になさらず。でも、次は相談してからにして下さいね」
「済まなかったね。詫びと言ってはなんだが、今回の仲介料は無しにさせとくれ。お嬢さん、依頼料は全額彼らに頼みますよ」
 人数分の飲み物と、新しい大皿の料理をテーブルに並べ終えると、女将はまたカウンターの奥へ戻っていく。
 それを見送ると、黒髪の美少女レイリアは3人に向き直った。
「よろしくお願いします。ええと……」
「シン・イスマイール。シンと呼び捨てで構わないよ」
「ライオットだ」
「ルージュ・エッペンドルフ。魔術師です」
 苦笑混じりに名乗る3人。
 原作キャラ、しかもカーラフラグが確定しているレイリアの登場に、もはや為す術なしいう雰囲気だ。
「まさか、いきなり君が出てくるとは思わなかった」
 収まりの悪い黒髪をかき回しながら、シンが言った。
 あまり歓迎されていないようだと感じて、レイリアは不安に顔を曇らせる。
「あの、私のことをご存じなんですか?」
「有名人だからね。ニース最高司祭の令嬢にして、ご自身も7レベルのプリーストでいらっしゃる。おまけに……」
「シン。それくらいにしておけ」
 ライオットが首を振った。
 レイリアには設定が多すぎる。しかも、この時代に口に出してはいけない類のものばかり。それを知っているのだということは、可能な限り秘密にするべきだ。
 それに。
「きっと、もともとこういうシナリオだったんだから、仕方ないよ」
 私はもう諦めた、と言わんばかりに、ルージュが肩をすくめた。
 そもそも、ここにいるのはレイリアとカーラにまつわる物語を体験するためなのだ。その彼女たちと関わらないという選択自体、矛盾したものだったのかもしれない。
「……そうだよな。シナリオの導入は強引な方がやりやすいってGMに注文したのは、俺たちだもんな」
 シンの中の人は33歳。レイリアは17歳。
 自分の半分しか生きていない少女に皮肉を言うのは、あまり美しい行為ではない。
 シンは深呼吸をして気分を切り替えると、レイリアに向き直って頭を下げた。
「悪かった。ちょっとこっちの予定が狂っただけなんだ。君に他意はないから勘弁してくれ」
「いいえ、こちらこそ一方的ですみません。でも、どうしても力を貸していただきたいんです」
 本気で申し訳なさそうにレイリアも頭を下げる。
 お互いに頭を下げたまま、これでは話が始まらない、と気づいたのはどっちが先だっただろうか。
 顔を見合わせて頭を上げると、シンが言った。
「じゃあ、お互い様ということで、この件は終わりにしよう」
「はい」
 不安が解けるようにほころび、レイリアの美貌に安堵の微笑が浮かぶ。
 まるで春の残雪を溶かす陽光のよう。その破壊力たるや天使級だ。
 一撃で心臓を撃ち抜かれ、萌え殺されそうになったシンは、あわててジョッキをあおり表情を隠す。
 思わず見とれたライオットは、机の下でルージュに臑を蹴られて咳払いした。
「さて、仕事の話をしようか。相手はオーガーだって言ってたけど」
「はい。炭焼きのベック爺が、森の奥でオーガーを見つけて、神殿に通報してきたんです。見つけたのは今日の昼過ぎだそうです」
 レイリアはテーブルに地図を広げて発見場所を指さす。
 マーファ大神殿とターバの村をつなぐ祝福の街道から、西に外れて1時間ほど歩いたあたり。白竜山脈の尾根にはさまれた沢にいたらしい。
「ベック爺が言うには、大ぶりな鹿を仕留めていたそうなので。今夜のところはお腹いっぱいになって寝てると思うのですが……」
 明日になったら獲物を求めて街道にさまよい出てくるかも、とレイリアは続けた。
「それなら、これからすぐに急襲するか?」
 シンの言葉に、ライオットが首を振る。
「レンジャー技能があるのはシンだけだから、俺たちがついていったら奇襲にならないって。それとも1人で行くか?」
「いや、さすがにそれはちょっと」
 シンが決まり悪そうに視線をそらす。
 キャラクターは歴戦の猛者だし、スペック的にはシン1人で十分なのだが、中の人は初陣である。
 何があるか分からないし、ぶっちゃけ単独行動する勇気など無かった。
「オーガーの身長が2メートル50センチとして、この天井くらいでしょ? その巨人が丸太か何かを振りまわして、唸りながら襲ってくるんだよね?」
 ルージュにつられて、全員が食堂の天井を眺めた。
 目を細めて、そこに架空の巨人を想像する。
 赤茶色に焼けた、筋骨隆々とした肌。原始人のように獰猛な顔。血に濡れた犬歯がむき出しになり、自分を殴り殺そうとして襲いかかってくる……!
 軽く想像しただけでも、非常に怖かった。
 実物と現場で向き合った時、スペック通りの性能を発揮する自信などあろうはずもない。
 むしろ、恐怖で硬直して身体が動かなそうだ。
「まあ、普通に考えて魔法だよな」
 背筋の寒気を払うように、シンが咳払いして言った。
 接敵する前に、圧倒的な火力で殲滅するしかない。白兵戦はヤバい。
 冒険者としてのリアル経験値は貯まらないが、そういうのは次の機会に、所定方針どおりゴブリンか何かでやればいいことだ。
「となると、夜襲は却下だな。夜明けを待って沢に入ろう。レイリアとギムは……」
「もちろん、わしらも一緒に行かせてもらう。準備は万端じゃ」
 ライオットが視線を向けると、プレートメイルをじゃらりと鳴らして、今まで黙っていたドワーフの戦士がうなずく。
「だがその前に、一手、手合わせを願えんかな? お互いどの程度できるのかを知っておいて損はないと思うが」
 ギムのファイターレベルは5。オーガー相手ならちょうど噛み合うレベルだ。
 華奢な体格のレイリアも、設定上はファイターレベル5である。破壊力は期待できないが、自衛程度なら十分にこなせるだろう。
 ここにいる自称“凄腕冒険者”たちが、彼らと同程度に使えるなら、オーガーと戦っても勝算はある。逆に初心者レベルであれば、全滅の危険がある。
 技量に関心があるのは当然だった。
「分かった。ギムの相手は俺がしよう。ライオットはレイリアの相手を頼む」
 さっそく剣に手を伸ばして、シンが言う。
 自分たちがどこまで戦えるのか。
 興味があるのは、彼も同じだった。


「正直、おぬしらを見くびっておったよ。済まなかった」
〈栄光のはじまり〉亭の裏庭。
 激戦の末、シンに一方的に打ちのめされたギムは、全身を汗まみれにして、荒い息をつきながらシンに頭を下げた。
 戦士として最大級の賛辞に、シンはあわてて手を振る。
「いや、これは模擬戦だから。実戦なら違う結果が出たかもしれない」
「何を言うか。あの体さばき、剣技、どれをとってもわしとは比較にならん。よほどの修練を積んだのじゃろう? その修錬は、おぬしを裏切りはせぬ」
 実直なドワーフの言葉に、シンは小さく笑った。
「そううまくいけばいいけどな」
 キャラクター時間で3年間、リアル時間では15年以上にわたる冒険を繰り返し、強敵と戦い続けて身につけた実力ではある。それは事実だ。
 だが経験を積んだのはシン・イスマイールであって、中の人ではない。
 中の人は実戦経験のない、ただのシステムエンジニアにすぎないのだ。
 どれほどハードウェアのスペックが優れていても、ソフトウェアが伴わなければ宝の持ち腐れ。ソフトが持っている以上の性能は発揮できない。
 言ってみれば今のシンは、世界最高のスーパーコンピュータがウィンドウズ95で動いているようなものだ。
 SEとしての認識が、今の自分をそう評価していた。
 目の前では、ライオットとレイリアの模擬戦が繰り広げられている。
 レイリアは片手持ちの小剣で、思いのほか大胆に打ち込んでいた。上段、中段、下段と基本通りの型を披露したかと思えば、フェイントから鋭い突きを繰り出すなど、あらん限りの技を尽くしてライオットに攻めかかっていく。
 ライオットは盾を持たず、手にするのは長剣1本のみ。それを両手持ちにしてレイリアの果敢な攻めを受けているが、今のところは防戦一方だ。
 レベル差の割には、レイリアが健闘しているように見えた。
「随分と謙虚じゃの。おぬしほどの使い手なら、もっと自信を持ってもよいのではないか?」
 その様子を眺めながら、ギムがもの問いたげな視線を向けてくる。
 シンは肩をすくめた。
「いや、オーガーなんて相手にしたことないから。自分がどれほど戦えるのか正直不安だ」
「そうか」
 ギムは納得した様子でうなずいた。
「それを言われれば、わしらも同じじゃな。わしもオーガーと戦うのは初めてじゃし、レイリアに至っては妖魔退治自体が未経験じゃ。どれほど役に立つかなど、やってみなければ分からんぞ」
 やってみなければ分からない。
 シンは、その言葉がすとんと腑に落ちたのを感じた。
 要するにプログラムのバグ取りのようなものか。
 仕様書どおり完璧に仕上げたプログラムでも、バグは必ず発生するし、どこに出るかは走らせてみないと分からない。
 まさしく、今のシンは未検査の新作そのものなのだ。
 これからのミッションがバグ取りの作業であり、それを繰り返して“使える”プログラムに成長していけばいいこと。
「確かに、やってみなけりゃ分からないよな」
 そうつぶやいたシンの顔は、少しだけ晴れやかになっていた。    
 2人の会話が落ち着くのを待っていたかのように、レイリアとライオットの試合も終わりを告げた。
 攻勢に転じたライオットが、息もつかせぬ連続攻撃でレイリアを追いつめていく。
 レイリアが一瞬の隙をつき、反撃しようとした刹那。
 雷光のような一撃が手元を襲い、レイリアの手から小剣を弾きとばしていた。
 小剣は回転しながら高く舞い上がり、きらりと残光をひとつ残してから、湿った音をたてて地面に突き立つ。
 すでにレイリアの喉もとには長剣が突きつけられ、身動きひとつできなくなっていた。
「……参りました」
 レイリアが悔しそうに両手を上げる。
 戦士として鍛錬した自分に、かなりの自信があったのだろう。
 ライオットは長剣を鞘に納めると、地面に突き立っていた小剣を取り、レイリアに差し出した。
「強かったな。正直、ここまでやるとは思わなかった」
「とんでもない。遊ばれていただけです」
 剣を受け取りながら、レイリアが唇を噛む。
 曲がりなりにもファイター5レベル。圧倒的な実力差は嫌というほど認識できてしまう。
「これでも、ギムから2本に1本は取れるんですよ。もっと戦えるかと思ってました」
「なるほど」
 ライオットはうなずくと、まっすぐにレイリアを見つめた。
 漆黒の瞳が、悔しそうに揺らめいている。
 負けん気の強いお嬢さまだな、と内心で苦笑しながら、ライオットは言った。 
「相手に勝ちたいなら、自分から打ち込むのは下策だ。それでは手の内を晒すだけ。自分の間合いで相手の攻撃を誘い出して、その出端をくじくんだ。相手に『打たされる』と感じたら、間合いを切って離れるべき」
 ライオットの中の人は、日頃から剣道で六段七段の師範にしごかれている。
 リアルでは『理屈は分かるが身体がついていかない』という状況だったのが、ファイター9レベルというハイスペックな身体能力を手に入れて、知識と経験を存分に活かせるようになっていた。
「繰り返すが君は十分に強い。だが強いということと、勝負に勝てるということは、似ているようでも少し違うんだ。勝つためには、もっと違う種類の訓練もしないとな」
「…………」
 今まで考えもしなかったことを指摘されて、レイリアは黙り込んだ。
 同じように剣を持って向き合っていたのに、見ていたものが全然違うことに気づいたのだ。
 今になって思い返してみれば、一方的にレイリアが打ち込んでいた状況さえ、ライオットが望んだから作られていたのだと理解できた。
 ライオットは最初から、レイリアの剣を弾こうとしてタイミングを測っていたのだ。
 測るために必要だったから、あらゆる技の速度が見たかった。
 速度を覚えたから、自分の望むタイミングで攻撃させ、待ちかまえていて剣を弾いた。
 それだけのこと。最初から最後まで計算通りに戦いを運んだだけ。
 レイリアは肩から力が抜けるのを感じて、小さく笑った。
「凄腕の冒険者っていうのは、掛け値なしに本当でしたね、ギム」
「そのようじゃの」
 ギムがうなずく。
「明日は夜明けとともに出発じゃ。今夜は早めに休むとしよう。余計な手間をとらせてすまなかった」
 疲労を隠しようもない様子で立ち上がると、ギムはレイリアと連れだって宿の中に戻っていく。今夜はここに泊まるつもりらしい。
 彼らを見送ると、それまで黙って見ていたルージュが初めて口を開いた。
「で、どうだった?」
「模擬戦なら負けないよ。怖くないからな」
 シンが淡々とした口調で応じる。
 その言葉の意味を正確に察して、ルージュはため息をついた。
「オーガーか。実物を見たら、さぞかし怖いんだろうね」
「全力の咆哮でも聞いたら、俺、ちびるかも」
 まじめな表情で弱音をはくシンに、ライオットは思わず苦笑した。
「変な怪我をしてもつまらないし。今回は魔法攻撃メインで遠距離から倒すのがいいだろうな。ギムは戦士が主役だと思ってるみたいだが、今回は出番なし。ルージュ、頼むぞ」
「そんな。私も不安なんですけど」
「大丈夫だ。もし近づいてきたら俺が支えるから、後ろから《ライトニング・バインド》を1回かければいい。あの呪文なら移動を封じる上に効果が持続するから、3ラウンドも放っておけば勝手に死ぬだろ」
「まぁ、それくらいなら頑張るけど」
 ルージュが渋々とうなずく。
 どんなに凶悪なモンスターでも、しょせんは5レベル。魔法さえ使えれば何ほどのこともない。
 接敵するまでもなく片がつく。
 この時は全員がそう思っていた。
 その甘さを思い知らされるのは、もう少し先のことだった。




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