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No.35430の一覧
[0] SWORD WORLD RPG CAMPAIGN 異郷への帰還[すいか](2012/10/08 23:38)
[1] PRE-PLAY[すいか](2012/10/08 22:31)
[2] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:32)
[3] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:33)
[4] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:34)
[5] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:35)
[6] インターミッション1 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 22:40)
[7] インターミッション1 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 22:41)
[8] インターミッション1 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 22:42)
[9] キャラクターシート(シナリオ1終了後)[すいか](2012/10/08 22:43)
[10] シナリオ2 『魂の檻』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:44)
[11] シナリオ2 『魂の檻』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:45)
[12] シナリオ2 『魂の檻』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:46)
[13] シナリオ2 『魂の檻』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:46)
[14] シナリオ2 『魂の檻』 シーン5[すいか](2012/10/08 22:47)
[15] シナリオ2 『魂の檻』 シーン6[すいか](2012/10/08 22:48)
[16] シナリオ2 『魂の檻』 シーン7[すいか](2012/10/08 22:49)
[17] シナリオ2 『魂の檻』 シーン8[すいか](2012/10/08 22:50)
[18] インターミッション2 ルーィエの場合[すいか](2012/10/08 22:51)
[19] インターミッション2 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 22:51)
[20] インターミッション2 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 22:52)
[21] インターミッション2 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 22:53)
[22] キャラクターシート(シナリオ2終了後)[すいか](2012/10/08 22:54)
[23] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:55)
[24] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:56)
[25] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:57)
[26] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:57)
[27] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン5[すいか](2012/10/08 22:58)
[28] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン6[すいか](2012/10/08 22:59)
[29] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン7[すいか](2012/10/08 23:00)
[30] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン8[すいか](2012/10/08 23:01)
[31] インターミッション3 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 23:02)
[32] インターミッション3 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 23:02)
[33] インターミッション3 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 23:03)
[34] キャラクターシート(シナリオ3終了後)[すいか](2012/10/08 23:04)
[35] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン1[すいか](2012/10/08 23:05)
[36] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン2[すいか](2012/10/08 23:06)
[37] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン3[すいか](2012/10/08 23:07)
[38] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン4[すいか](2012/10/08 23:07)
[39] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン5[すいか](2012/10/08 23:08)
[40] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン6[すいか](2012/10/08 23:09)
[41] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン7[すいか](2012/10/08 23:10)
[42] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン8[すいか](2012/10/08 23:11)
[43] インターミッション4 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 23:12)
[44] インターミッション4 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 23:14)
[45] インターミッション4 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 23:14)
[46] キャラクターシート(シナリオ4終了後)[すいか](2012/10/08 23:15)
[47] シナリオ5 『決断』 シーン1[すいか](2013/12/21 17:59)
[48] シナリオ5 『決断』 シーン2[すいか](2013/12/21 20:32)
[49] シナリオ5 『決断』 シーン3[すいか](2013/12/22 22:01)
[50] シナリオ5 『決断』 シーン4[すいか](2013/12/22 22:02)
[51] シナリオ5 『決断』 シーン5[すいか](2013/12/22 22:03)
[52] シナリオ5 『決断』 シーン6[すいか](2013/12/22 22:03)
[53] シナリオ5 『決断』 シーン7[すいか](2013/12/22 22:04)
[54] シナリオ5 『決断』 シーン8[すいか](2013/12/22 22:04)
[55] シナリオ5 『決断』 シーン9[すいか](2014/01/02 23:12)
[56] シナリオ5 『決断』 シーン10[すいか](2014/01/19 18:01)
[57] インターミッション5 ライオットの場合[すいか](2014/02/19 22:19)
[58] インターミッション5 シン・イスマイールの場合[すいか](2014/02/19 22:13)
[59] インターミッション5 ルージュの場合[すいか](2014/04/26 00:49)
[60] キャラクターシート(シナリオ5終了後)[すいか](2015/02/02 23:46)
[61] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン1[すいか](2019/07/08 00:02)
[62] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン2[すいか](2019/07/11 22:05)
[63] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン3[すいか](2019/07/16 00:38)
[64] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン4[すいか](2019/07/19 15:29)
[65] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン5[すいか](2019/07/24 21:07)
[66] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン6[すいか](2019/08/12 00:00)
[67] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン7[すいか](2019/08/24 23:54)
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[35430] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン4
Name: すいか◆1bcafb2e ID:e6cbffdd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/08 22:57
シーン4 王宮ストーン・ウェブ

「よろしいですか。扉が開くと典礼官の呼び出しがありますので、中央の赤い絨毯に沿ってお進み下さい。正使のレイリア様は玉座の15歩手前まで。従者の皆様はレイリア様の2歩後方までです」
 謁見の間へと続く控え室で、担当の文官が慣れた口調で説明していく。
 レイリアは緊張した顔で、いちいち頷きながらその話に聞き入っていた。
 今日の主役、マーファ教団の正使であるレイリアは、いつもより装飾の多い礼装を着ている。昨日のうちに都のマーファ神殿から借りてきたものだ。
 うっすらと化粧を施し、銀の宝飾品を身につけた姿は、いつもよりずっと大人びた印象だった。繊細で清らかな、まるで白竜山脈の雪解け水のような清浄感。
 着飾ったレイリアを一目見た瞬間、シンはその姿に見入って呼吸すら忘れたほどだ。
 宮廷に咲く美姫たちを見慣れているはずの文官も、この清楚な乙女には賞賛の視線を向けてくる。
「目印に三角形の印がついておりますので、そこまで行ったら、片膝をついて頭をお下げ下さい。陛下からお言葉があるまでは、そのままの姿勢でお待ちいただきます」
「はい」
「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
 すっかり硬くなっているレイリアの肩を、ルージュの手がぽんと叩いた。
 賢者の学院でせしめた新しいローブは、黒の生地にミスリルメッシュを縫い込んだ魔法の品だ。遠目で見ても黒一色だが、光が当たると真銀の糸が虹色に煌めき、古代語のルーンが浮かび上がるという逸品である。
「ルージュさんは、もうちょっと緊張してもいいと思います」
 漆黒の瞳が、ちょっと恨めしげにルージュを見た。
 絹糸のような銀髪は丁寧に櫛を入れられ、毛先までさらりと流れている。首もとには魔法の品らしい紫水晶のネックレス。手に持っている魔法樹の杖も、昨夜のうちに磨いてきたようだ。
 単純に造形の美しさだけを比べたら、ルージュほどの容姿の持ち主は、世界中探しても五指に足りないだろう。彼女の美貌は傾国と評してよい。
 だが今のルージュには、緊張感や真剣さといった成分が決定的に欠けていた。
 柱に施された彫刻に目を輝かせ、足首まで埋まりそうな絨毯に喜んでいる様子は、どう見てもおのぼりさんの観光客。明らかに宮廷の雰囲気から浮いている。
 貴族出身のはずなのに、どうしてこうも軽く見えるんだろう、とレイリアは首をひねった。ルージュの自分を美人に『見せない』技術は、ほとんど魔法の域に達している。
「なんかこう、結婚式を思い出すな」
 重厚な両開きの扉を見上げながら、ライオットが妻に話しかけた。
 着ているのはいつものミスリルプレートだが、そこに青銀色のマントを羽織り、新しい魔剣を佩いた姿は、まるでどこかの国の上級騎士のような威厳を感じさせる。
 ルージュとは対照的に、堂々とした態度は宮廷にしっくりと馴染んでいた。
「そうだね。あの時も、式場の係員の人に、こんな感じで説明されたんだよね」
「リハーサルだと思って立ってただろ? 扉が開いたら招待客がずらっと並んでて、いきなり本番だったから驚いたのなんのって」
「いや、これ間違いなく本番だから。もうちょっと緊張しようぜ」
 顔を見合わせて笑う夫婦に、シンがため息混じりにつっこんだ。
 この4人の中で、一番化けたのはシンだろう。
 使い古した革鎧の代わりに、学院でもらったミスリル銀のチェインメイルを身につけ、その上には黒一色でコーディネートした膝下丈の長衣とズボン、それに革のブーツを履いている。
 ボタンのない長衣を銀の飾り帯で締め、切りっぱなしの短髪も丁寧に整えると、シンは“砂漠の黒獅子”の名に相応しい姿になっていた。
 アニメのキャラクターのように派手な衣装も、精悍に鍛えられた身体が見事に着こなし、何の違和感も感じさせない。この若者はきっと名のある戦士なのだと、一目見れば誰もが納得するだろう。
 レイリアは感嘆の視線を向けて「素敵です」と評したのが、今のシンを端的に表す一言だった。苦労して衣装を調達してきたアウスレーゼも、満足そうに頷いていた。
「なんだ、シンも緊張してるのか? 大丈夫だ、今回は俺たち台詞のないチョイ役だから。それに……」
 ライオットが周囲を気にして口には出さなかった言葉を、シンとルージュは正確に受け取った。
 シン・イスマイールはアラニア王国にとって敵性勢力の英雄だ。変に気の利いたことを言って目立っても、百害あって一利なしというもの。
 ただおとなしく、波風を立てないように、レイリアの引き立て役を務めるに如くはない。
 幸いなことに今日のレイリアは、美しさといい品格といい、高司祭という肩書きに恥じない聖女ぶりだ。彼女を通り越して後方の従者に注意を払うような男はいないだろう。
「それに、中にはアウスレーゼもいるそうだし。うまく話題を誘導してくれるだろ」
 壁際のソファに座って順番を待っている他の拝謁者たちは、額にびっしりを汗を浮かべて手を握りしめている。国王に謁見するというのは、彼らにとっては一生の大事なのだ。
「よろしいですか。間もなくとなります。今一度、身だしなみを整えて下さい」
 どうも緊迫感が足りない、と言いたげな声で、係員が告げる。
 素直にうなずいたレイリアは、自分の服装をチェックすると、隣のシンを見上げた。
「どうですか? どこか変なところはありますか?」
 両手を広げてレイリアがくるりと回る。肩から胸の礼章につながった細い鎖が、小さく揺れて煌めいた。
 額には三日月型のサークレット。これはマーファの聖印であり、豊饒の象徴でもある鎌を象ったものだ。
「大丈夫。いつもどおり綺麗だよ」
 答えるシンは大まじめ。だがこんな台詞を照れもせずにさらりと言ってしまうあたり、どうやら本格的にテンパっているらしい。
 始まる前からこれじゃあ先が思いやられる、とライオットはため息をついたが、レイリアは異なる感想を抱いたようだ。
 頬を染めてはにかみ、上目遣いにシンを見る。
「その、ありがとうございます。シンもいつもどおり格好いいですよ」
「ありがとう。君にそう言ってもらえると嬉しい」
「私もです、シン」
 そして見つめ合い、瞳に相手の姿だけを映す。
 緊張のあまり舞い上がって、完全に別の世界に行ってしまっていた。
 これが宿屋なら面白がって放置するところだが、今はそうもいかない。ライオットとルージュは、肩をすくめると2人の世界に割って入った。
「シン。おいシン。キャラ変わってるぞ。そろそろ戻ってこい」
「レイリアさん、もう出番だよ。最初のご挨拶は大丈夫?」
 呆れ顔で眺めていた係員は、もう知らんと思ったのだろう。小さく扉をノックして典礼官に合図を送ると、投げやりな態度で一礼した。
「それではどうぞ。ご入場下さい」
 その言葉に合わせて、縦5メートルはありそうな巨大な扉が開いていく。
 中は巨大な円柱が等間隔に並ぶ謁見の間だ。奥行きは50メートルほどか。数段高くなった玉座に向かって、レッドカーペットが1本の道をつくっている。
「ターバ神殿の御使者、高司祭レイリア様!」
 典礼官がよく通る声を張り上げると、鼓笛隊が短くファンファーレを奏でた。
 真紅の絨毯の両側に整列していた百名ほどの儀杖兵が、レイリアに向かって一斉に敬礼する。
 そういうものだと説明されていても、実際の迫力は想像以上だった。
 天井まで高さ20メートルはあるだろうか。白大理石をふんだんに使ったドワーフ建築は、華美にして壮麗。エンタシスの円柱はアーチ形状のドームを支え、見上げる天井には神代の物語が描かれている。
 壁には歴代国王の肖像画とともに、様々な意匠の旗が数百枚、誇らしげに掲げられていた。その1枚1枚が、広大な領地を持つ貴族や、武勲をあげた上級騎士の紋章旗だ。
 この謁見の間に家紋を掲げることは、王国の廷臣たちにとって最高の栄誉なのだという。それは同時に、その最上位に君臨する国王カドモス7世の威光を象徴するものでもあった。
 音楽、配置、雰囲気まで計算されつくした演出に圧倒されて、シンが思わず喉を鳴らす。
 アラニア王国は歴史と伝統しか残っていない、落ち目の大国だと認識していた。
 特筆すべき英雄はおらず、国王も凡庸。こんな国がどうして大国の位置にいられるのか不思議で仕方がなかった。
 だがその歴史と伝統の、なんと巨大なことだろうか。
 この謁見の間に来てやっと分かった。この国には英雄など必要ないのだ。
 積み重ねられた歴史は、どんな指導者よりも強固に王国をまとめ上げる。壁際に並んだ紋章旗がそれを証明している。
 連綿と伝えられる伝統は、人の心すら支配する力を持っていた。王権など歯牙にもかけていなかったシンでさえ、この場に立てば緊張で身が震えるほどに。
「……では、参りましょうか」
 相手があまりにも巨大すぎて、逆に腹が据わってしまったのだろう。レイリアは肩越しに3人を振り向くと、真紅の絨毯に足を踏み出した。
「ずっと考えてたんだよ。国王の御前に出るのに、どうして剣を持ったままでいいのか」
 レイリアに続いて絨毯の上を進みながら、ライオットが小さく笑った。
「まあ、この状況で逆らっても瞬殺されて終わりだよな」
 シンが肯く。
 右も左も、儀杖兵の掲げる白刃の林だ。剣を抜く素振りを見せただけで、四方から容赦なく槍を突き込まれること請け合いである。
「せめて盾があればな。少しは戦えたんだけど」
 帯剣を許すという通達は受けていたが、国王に謁見するのに完全武装は如何なものかと思い、愛用の大盾は宿に置いてきた。それがどうしても心細い。
 だがシンはそれを笑い飛ばした。
「無理無理。どうせ押し包まれたら動けないだろ。戦いは数だよ兄貴、と某中将閣下も言っている」
「ちょっとそこ。物騒な会話しないでよね」
 指が白くなるほど魔法樹の杖を握りしめて、ルージュが小声で窘める。
 敵対する意志など毛頭ないのだ。武器を持った兵士たちを挑発するのは勘弁してほしかった。
「すまんな。みんなの命をくれ」
「ライくん、やめてって言ってるでしょ。しかもそれ頑張りすぎの失敗フラグだよ」
「じゃあ、蒼き清浄なる世界のために」
「それは死亡フラグでしょ。もっと悪い」
「ルージュ、私を導いてくれ」
「それは負けフラグ。しかも私死んでるじゃない。縁起でもない」
 軽口の止まらないライオットにため息をつく。
 夫は夫なりに緊張しているのだろう。緊迫した場面でこそ、あえて普段通りに振る舞うのが彼の流儀だ。
 それは分かっているのだが、儀杖兵たちは、こんな不真面目な連中は初めてだと呆れているに違いない。
 自分たちが見下される分には構わないけど、レイリアさんの株が下がると困るな、とルージュが考えていると。
 ぴたりとレイリアの足が止まり、流れるような動作で右膝をついた。
 マーファ教団は王家の臣下ではない。本来ならば膝をつく義理はないのだが、「陛下への恭順を示すには一番分かりやすいし、しかもタダでしょう?」というニースの一言があったため、このような運びとなっていた。
 レイリアは視線を上げないように注意しながら、前方に並んでいる文武の高官たちをうかがった。
 向かって左側の男たちは、皆が鎧を着ている。きっと騎士団長とか将軍とか、そういう肩書きの持ち主なのだろう。
 向かって右側には、豪奢な衣装を着た文官たちが並んでいた。大臣とか行政官とか、そっち関係に違いない。そこに紛れ込んだアウスレーゼが心配そうに見ているのに気づいて、レイリアは少しだけ安心した。
 直接の会話はできなくても、知り合いがいると思うだけで心強い。
 背中でシンたちも膝を折るのを感じると、レイリアは教えられたとおり、深々と頭を下げた。
 それを合図として儀杖兵たちが一斉に直り、気をつけの姿勢に戻る。軍勢の動く音が高い天井に染み込むのを最後に、謁見の間は水を打ったように静まり返った。
 国王の言葉を待つための静寂だ。
 静けさと緊張で胃の底が痛くなってくる。
 そういえば、ターバ神殿で初めて説法した時もこんな感じだった。あの時は一番肝心なところで噛んでしまい、祈りの言葉をトチったのだ。
 マーファよ、どうか今回は失敗しませんように、とレイリアが救いを求めていると、10メートル前方の玉座からようやく声がかけられた。
「遠路はるばる、ようこそ参られた。歓迎しよう」
 聞こえてきた国王の玉声は、想像以上に若々しいものだった。カドモス7世は今年33歳。鷹狩りを趣味とする闊達な人柄で、民の間にも人気がある。
 今度はレイリアの番だ。大きく息を吸い込むと、努めて大きな声を出す。第一印象でナメられないように。それだけはニースに散々言われてきた。
「国王陛下には益々御健勝の由、まずはお慶び申し上げます。本来ならばニースが参上すべきところ、老年にて長旅には耐えぬとのこと、名代としてまかり越しました。ご無礼の段はお許し下さいませ」
 手は緊張で小さく震えているが、声は想像以上にきちんと出すことができた。
 挨拶の台詞も噛まないで言えたし、内心で安堵の吐息をもらす。
「レイリア司祭、マーファ教団は王国の臣下ではない。よって頭を下げる必要も、膝を付く必要もないぞ。せっかくの神官衣が汚れてしまう。顔を上げてお立ちなさい」
 この言葉は想定外だ。ここで膝をあげることを許されるのは退出の時、とそう教えられていたのだが。
 レイリアが困惑していると、玉座の向かって右側、国王の横に立っていた若い男が、穏やかな声をかけてきた。
「レイリア様。国王陛下のお言葉です。どうかお立ちください。官吏たちの説明などお気になさらず」
 視線を上げると、声の主は黒髪の若い男性だった。黒い魔術師のローブを着て、額には紅玉のサークレットをしている。
 ずいぶんと整った顔立ちをしているが、過日のラスカーズという騎士とは違い、健康的で清潔感のある印象だ。
 玉座の横に許された立ち位置といい、服装といい、おそらく彼が宮廷魔術師リュイナールだろう。
「それでは失礼して、お言葉に甘えさせていただきます」
 これはレイリア個人に向けられた好意ではなく、王国政府からマーファ教団全体への意思表示だ。ならば、これ以上の遠慮は逆に非礼に当たる。
 すっ、とレイリアは立ち上がり、顔を上げた。
 正面から国王と目が合った。値踏みするような視線に対抗するため、腹の底に力を入れたとき。
「待てシン、俺たちはダメだ」
「私たち従者なんだから、頭下げてないと」
 シンが釣られて立とうとしたのだろう、後ろから慌てて止める声が聞こえてくる。
 こんな場だというのに、本当にいつもどおり。レイリアはつい、くすりと笑ってしまった。
 第一印象の対決が台無しだ。国王も玉座で苦笑いしている。
「失礼いたしました。なにぶんターバの田舎者にて、宮廷の儀礼には疎いものですから」
 一度笑ってしまうと、嘘のように肩から力が抜けていった。どうやら変にネジを巻いて緊張していたらしい。
 17歳の小娘が、国王を相手に威圧感で勝負を挑んでも勝てるはずがない。そんなことは考えるまでもないのに、一瞬で相手の土俵に乗せられたのは、まだまだ自分が未熟ということなのだろう。
「シン殿はターバの出身ではあるまい? アラニアの儀礼に馴染みがないのは事実かもしれぬが」
 カドモス王の口調は穏やかなものだったが、いきなりの強烈なジャブ。
 シンの名前と素性を知っているぞという宣言だ。
 ということは、オアシスの街ヘヴンを巡るノービス伯との確執を知っているということ。あまりいい印象は与えないだろう。
 レイリアが困惑して答えられないでいると、カドモス王はしてやったりという表情で呵々と笑った。
「いや、驚かせたなら済まぬ。実はな、ロートシルト男爵夫人から聞かされたのだ。昨日、街で暴漢に襲われた折りに、通りかかったレイリア司祭と護衛の冒険者たちに助けてもらったとな。どうやら余は礼を言わねばならぬらしい」
 その事件は廷臣たちも初耳だったらしく、驚愕が波のように広がってどよめきを起こす。
「陛下、それは誠でございますか?」
 文官の列の最上位に立っていた若い貴族が、すわ一大事と声を上げた。
「ラスター公爵は、余の言葉をお疑いかな?」
「めっそうもない。しかしながら、かような大事が我らの耳に入らないことが信じられませぬ」
 なるほど、あの方がラスター公爵ですか、とレイリアは顔を脳裏に刻みつけた。
 年齢はカドモス王と同じくらい。だが体重は王の倍はあるだろう。明らかに節制の足りない食生活が、締まりのない顔と腹周りに如実に現れている。
 妾腹の王弟であり、次の玉座に一番近い人物。
 そして、ラフィットを襲わせた容疑者の1人でもある。
「ラスター公は冗談がお上手だ。公が知らないはずはありますまい」
 すると、文官の列の中程にいた年若い貴族が、これまた嫌みったらしい声を投げかけた。
 一見すると上品な美男子だが、よく言えば理知的な、悪く言えば狡猾そうな目が印象的だ。
「ノービス伯か。それはどういう意味かな?」
 鼻白んだ肥満体の王族が、胡乱げな視線を向ける。
「私の聞いた話では、それなる冒険者たちの活躍で、男爵夫人を襲った実行犯は生け捕りにされたそうですぞ。衛視隊が厳しい尋問をしておりますから、すぐに黒幕の名が判明するでしょう。困ったことにならねばよいのですが」
 ノービス伯爵は勝ち誇った表情で言いつのった。
 ノービス伯アモスン卿は、カドモス王の従弟にあたる人物のはずだ。母親は隣国カノンの王族出身で、血筋の貴さという点では宮廷でも随一の若者だという。
 古来アラニア第二の街ノービスは、もっとも王位継承権の高い王族が領有してきた。本来ならばラスター公爵が領主となってしかるべき街である。
 しかし妾腹という不名誉な出生と、王族の嫡出子であるアモスン卿の存在が、ラスター公からノービスの街を奪い去ってしまった。
 つまり、険悪になるべくしてなった2人である。常日頃からこんな感じなのだろう。文武の高官たちは、やれやれまたかという様子で事態を静観していた。
 要するに、狸と狐の化かし合いというわけですね、とレイリアが内心で評する。太ったラスター公が狸。つり目のノービス伯が狐。まさに言い得て妙だ。
「ラスター公。ノービス伯。国王陛下の御前ですぞ。お控え下さい」
 玉座の横から、宮廷魔術師リュイナールが苦々しげに口を挟む。
 ひとしきり嫌みを言って満足したのだろう、ノービス伯が謝辞とともに一礼して引き下がると、ラスター公も不承不承口を閉ざした。
 それを見て、黒髪の宮廷魔術師は国王に向き直る。
「陛下。ロートシルト男爵夫人が襲われたとなれば、事は簡単ではありません。どうか詮議は私にお任せ下さい」
 この場に居合わせた高官の中に、容疑者が誰だか分からない者などいない。まともに捜査して犯人を処罰したら、宮廷は大混乱に陥ってしまう。
 それでも異を唱える者がいないのは、この宮廷魔術師ならうまい落とし所を見つけるだろう、誰もがそう確信しているからだ。
 それは国王も例外ではなかった。
「よかろう。そなたに一任する」
「ありがとうございます。必ずや黒幕を調べ上げ、厳しく処断いたします」
 リュイナールは深々と頭を下げると、一歩退いて定位置に戻った。
「さて、レイリア司祭。事情は今話したとおりだ。ロートシルト男爵夫人は余にとって大切な女性なのだ。礼を言う」
「もったいないお言葉でございます」
 立ったまま、レイリアは深々と頭を下げる。
 政治向きの話には口を挟まないと言ったラフィット。だが彼女の一言は、これほど大きく国王を動かしてしまった。
 胸の中で少女へ感謝を告げていると、カドモス王はさらに言った。
「併せて、あなたの従者たちにも直接声をかけることを許してもらえるだろうか?」
「どうか御心のままに」
 レイリアが頷くと、国王は改まった口調で命じた。
「シン殿。ライオット殿。ルージュ殿。面を上げよ。そしてレイリア司祭に倣うがよい。そなたらの功績は大である。余はこれに篤く報いるであろう」
 朗々と響く、威厳のある声。
 眉を寄せたシンが、小声で親友に尋ねた。
「……つまり、今度こそ立っていいって事だよな?」
「正解」
 ライオットが肯くと、シンは迷うそぶりもなく立ち上がる。
 緊張はしているが、萎縮している訳ではないということか。その思い切りの良さに感心しながら、ライオットとルージュも立って前を向く。
 居並ぶ高官たち。
 高くなった玉座と、そこに座る年若い王。
 そして。
 玉座の隣に立つ男を見た瞬間、3人の動きが止まった。
 それまで主役だったはずの国王が視界の外に追いやられ、端然と立つ宮廷魔術師に、正確にはその額を飾るサークレットに視線が集中する。
「……ついに出たな、ラスボスが」
 ロードス島戦記を知る者にとって、あまりにも有名な紅玉のサークレットを見て、ライオットは身が総毛立つのを感じた。
 古代王国の魔女カーラが、自らの魂を封じ込めたサークレット。それは持ち主の意識を乗っ取り、肉体を自らのものとして無限に生き続けるという魔力を持っている。
 つまり、リュイナールという男はもういない。あの肉体の中身は灰色の魔女カーラというわけだ。
「いつかは出てくると思ってたけど、いざ出てくるとやっぱり怖いね」
 ロードス史上もっとも手強い相手の登場に、ルージュも怯みを隠しきれない。
 ラフィットは宮廷魔術師を、若いのに操る魔術はラルカス最高導師に匹敵する、と評した。
 あの時は聞き流したが、今なら分かる。それでは過小評価だ。
 魔術師としてカーラに匹敵する人間など、この世界には存在しない。メタな話をすれば、カーラのソーサラーレベルは10以上。その能力に上限が設定されていないほどである。
 本来ならば、絶対に敵に回してはいけない相手なのだ。
「それでも、レイリアは渡さない」
 シンは小さく、だがきっぱりと宣言した。
 たとえ相手が誰だろうと、レイリアを傷つけようとする者とは全力で戦う。彼女につけられた不幸な設定は、全部ぶち壊す。
 原作でレイリアがカーラに奪われた7年間は、17歳から24歳まで。人がもっとも輝く青春時代だ。
 その貴重な時間を灰色の策謀のために利用され、体も魂も汚し尽くされるなど、冗談ではなかった。何があろうと阻止してやる。
 それぞれの思いを込めて玉座を注視する中、カドモス王は3人を順に眺めた。
「よい面構えをしておるな。どうだシン殿、余に仕える気はないか? 相応の待遇で迎えるが」
 突然のスカウトに、レイリアの背中がぴくりと震える。
 だが、シンの答えには寸毫の迷いもなかった。
「せっかくのお誘いですが、俺にはやりたいことがありますので」
 国王の言葉をあっさりと一蹴するその態度に、文武の高官たちが色めきたつ。何人かは無礼を咎めようとしたが、カドモス王は軽く手を挙げて黙らせると、口許に小さく苦笑いを浮かべた。
「それは、故郷のために戦うという事かな?」
 顔は笑っているが、目は笑っていない。ノービス伯との確執は見逃してもよいが、これ以上の敵対行動は容認できないということだろう。
 しかし、シンの返答は王の予想を超えていた。
「違います。レイリア司祭のために戦うということです」
 シンは毅然と胸を張って答える。
 カドモス王が無言で先を促すと、シンはニースにしたのと同じように、明快な言葉で宣言した。
「俺はレイリア司祭を守ります。亡者の女王だろうと、邪神の教団だろうと、彼女は絶対に渡しません」
 それを聞いてレイリアがどんな顔をしたのか。カドモス王の表情を見れば一目瞭然だった。
 砂漠の英雄がなぜマーファの司祭と行動を共にしているのか。きわめて分かりやすい理由を、ふたりの目から読みとったのは明らかだ。
 しかも、単なる色恋で終わる話ではない。シンが亡者の女王の名を出した以上、レイリアの正体を承知していることになる。
 それでも『レイリアを』守ると宣言したことは、宮廷に対する警告と受け取っただろう。
 しばらく無言でシンの顔を見下ろしていた国王は、やがて表情を緩めた。
「ロートシルト男爵夫人が余に申したのだ。レイリア司祭が友人になってくれました、とな。あれは立場上ずっと独りであった。レイリア司祭、どうかこれからも仲良くしてやって欲しい」
 カドモス王の言葉はレイリアに向けられていたが、それはシンに対する意思表示だ。
 ラフィットの友人である以上、レイリアを墓所に封印するつもりはない、ということ。
「シン殿。今まではニース殿がレイリア司祭を保護してこられた。これからはシン殿の役目となろう。覚悟はあるのか?」
 墓所への封印は、お前に免じて凍結しよう。
 だがもし、レイリアが亡者の女王に覚醒したら、お前の手で封印することができるのか?
 そう問いかけるカドモス王のメッセージを、シンは正確に受け取り、胸を張って答えた。
「お約束します。俺の目の黒いうちは、アラニア王国が亡者の女王に悩まされることはないでしょう」
 事情を知らなければ、いささかピントのずれた会話に聞こえるだろう。たかが冒険者をニース最高司祭と同列に扱うなど、常識的に考えてありえない話だ。
 ライオットは高官たちの表情を見逃さないよう、慎重に見つめていた。
 ほとんどの者はシンを小馬鹿にしている様子だ。シンの正体もレイリアの正体も知らされていない、ただの貴族ならば当然の反応である。
 亡者の女王ナニールに関して、国王の裁定が取り消されたことを知った者たちは、一様に苦々しい顔でシンを眺めていた。
 狸のラスター公、狐のノービス伯、あと名前は知らないが騎士団長らしき人物、それに大臣A、Bといったところ。カドモス王と宮廷魔術師のカーラを含めても10名に満たない。
 彼らこそが宮廷の枢密に接する者であり、彼らの意志が王国を動かす。そう考えていいはずだ。
「シン殿の言葉は頼もしい限り。ニース殿もさぞや心強いことであろう。ニース殿からの親書にもそなたの名が書かれていたぞ。実直にして至誠の人であるとな。そして必ずや、アラニア王国に益をもたらすであろうと」
 カドモス王の視線が、心の底まで暴き出そうとするように、シンの目を射抜く。
 マーファ教団と砂漠の蛮族が手を組めば、政治的にも軍事的にも無視できない相手となる。国内にそのような相手を作ることだけは、絶対に容認できないのだ。
「俺の望みは、レイリア司祭が誰にも邪魔されずに、雪深いターバで静かに暮らせるようにすることです。政治のことはよく分かりませんが、それがアラニア王国の利益になりますか?」
 シンには腹芸などできないし、する気もない。
 いつでも直球勝負。口に出すのは常に本気の言葉だ。
 それはカドモス王にも伝わっただろう。本心など誰も口にしない宮廷の中にあって、シンの存在はあまりにも清冽だった。
 この青年はつまり、惚れた少女を守りたいだけなのだ。宮廷の権力やらマーファ教団の政治力やらには、まるで興味を持っていない。
 ということは、とカドモス王は考える。
 砂漠の蛮族で内紛があり、炎の部族の族長ダレスが“砂漠の黒獅子”を追放したという情報は、どうやら正しかったようだ。
 彼を失えば炎の部族の力は落ちる。風の部族との抗争も長引き、アラニアに手を伸ばす余力もなくなるだろう。
 それだけ判れば。
「十分な利益だな。シン殿、レイリア司祭を全力でお守りするがよい。さて、レイリア司祭」
 ハラハラしながらカドモス王とシンの会話を聞いていたレイリアは、王の追求が止まったことに安堵の息をもらした。
「レイリア司祭の用向きは、アウスレーゼから全て報告を受けておる。我が臣下にあのような者がいたことは、実に許しがたい。必ずや捜し出し、一網打尽にしてくれよう。これは余の名において誓約する。だがそれまでの間、その者たちの名は口外無用にしてもらえぬか?」
「承知いたしました」
 邪教殲滅に国王の助力を得ることは、今回の最大目標だった。今の一言を聞けただけで、レイリアの目的は達したも同然だ。
 レイリアが頭を下げると、カドモス王は小さく手を上げて侍従に合図をした。
「これで謝罪になるとは思えぬが、王国からマーファ教団への寄進を用意した。お納め願いたい。そしてこちらは、ロートシルト男爵夫人を救ってくれた事への、余からの個人的な礼だ」
 金貨銀貨や宝石の山に、絹や綿の反物、高価な香木などが次々に並べられていく。4人ではとても持ちきれない量だ。
 どうやってターバまで持って帰ろう、とレイリアが途方に暮れていると、国王がにやりと笑った。
「レイリア司祭は、王都まで徒歩でいらしたと聞いている。帰りは馬車と護衛を用意しよう。アウスレーゼをつけるゆえ、他に必要な物があれば何なりと申しつけられよ」
「お心遣い、感謝いたします」
 ほっとした様子のレイリアに、カドモス王は残念そうに続けた。
「本来であれば王宮の晩餐に招待するのだが、都を発つ前にレイリア司祭ともう一度お話しをしたい、と男爵夫人に泣きつかれておってな。もし迷惑でなければ、今夜もあれと会ってやって欲しい」
「分かりました。離宮に伺候いたします」
 ラフィットとは、もっとゆっくり話をしたかった。今夜はシンたち抜きで、2人きりで会ってみよう。
 レイリアがそんなことを考えていると、国王から書状を預かった宮廷魔術師が、ゆっくりと階段を下りてレイリアの前にやってきた。
「これは、国王陛下からニース様への親書です。どうか余人を介せず、レイリア様の手で直接お渡し下さい。墓所の件とピート卿の屋敷での件について、国王陛下のご意向が記されておりますので」
「はい、必ず」
 書状を受け取りながら、レイリアは宮廷魔術師を見た。
 ラフィットが、宮廷の女官に人気があると言ったのも頷ける。
 男性でありながら柔らかい物腰といい、穏やかな口調といい、初対面の相手でも安心して話せる雰囲気の持ち主だ。額に輝く紅玉のサークレットも、端整な顔立ちによく似合っていた。
「他に、国王陛下に申し上げておきたい事はありますか?」
 謁見はこれで終了と言うことだろう。
 どうにか及第点をもらえる内容だったのではないか。
 表情に安堵の色をにじませて、レイリアは宮廷魔術師に微笑み返した。
「いえ。陛下のご厚情には、感謝の言葉もございません」
「分かりました。遠路はるばる、ご苦労様でした」
 にこりと頷いた宮廷魔術師が合図をすると、大扉の前にいた典礼官が、再び声を張り上げる。
「ターバ神殿の御使者、高司祭レイリア様! 御退出!」
 鼓笛隊が先ほどとは違うファンファーレを奏で、儀杖兵が再び敬礼する。
 純白の神官衣をひるがえしたレイリアの美しさに、誰もが注目する中。
 宮廷魔術師を支配する紅玉のサークレットだけは、砂漠の英雄の黒い背中をじっと見つめていた。





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