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No.35430の一覧
[0] SWORD WORLD RPG CAMPAIGN 異郷への帰還[すいか](2012/10/08 23:38)
[1] PRE-PLAY[すいか](2012/10/08 22:31)
[2] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:32)
[3] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:33)
[4] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:34)
[5] シナリオ1 『異郷への旅立ち』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:35)
[6] インターミッション1 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 22:40)
[7] インターミッション1 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 22:41)
[8] インターミッション1 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 22:42)
[9] キャラクターシート(シナリオ1終了後)[すいか](2012/10/08 22:43)
[10] シナリオ2 『魂の檻』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:44)
[11] シナリオ2 『魂の檻』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:45)
[12] シナリオ2 『魂の檻』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:46)
[13] シナリオ2 『魂の檻』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:46)
[14] シナリオ2 『魂の檻』 シーン5[すいか](2012/10/08 22:47)
[15] シナリオ2 『魂の檻』 シーン6[すいか](2012/10/08 22:48)
[16] シナリオ2 『魂の檻』 シーン7[すいか](2012/10/08 22:49)
[17] シナリオ2 『魂の檻』 シーン8[すいか](2012/10/08 22:50)
[18] インターミッション2 ルーィエの場合[すいか](2012/10/08 22:51)
[19] インターミッション2 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 22:51)
[20] インターミッション2 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 22:52)
[21] インターミッション2 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 22:53)
[22] キャラクターシート(シナリオ2終了後)[すいか](2012/10/08 22:54)
[23] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン1[すいか](2012/10/08 22:55)
[24] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン2[すいか](2012/10/08 22:56)
[25] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン3[すいか](2012/10/08 22:57)
[26] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン4[すいか](2012/10/08 22:57)
[27] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン5[すいか](2012/10/08 22:58)
[28] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン6[すいか](2012/10/08 22:59)
[29] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン7[すいか](2012/10/08 23:00)
[30] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン8[すいか](2012/10/08 23:01)
[31] インターミッション3 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 23:02)
[32] インターミッション3 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 23:02)
[33] インターミッション3 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 23:03)
[34] キャラクターシート(シナリオ3終了後)[すいか](2012/10/08 23:04)
[35] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン1[すいか](2012/10/08 23:05)
[36] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン2[すいか](2012/10/08 23:06)
[37] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン3[すいか](2012/10/08 23:07)
[38] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン4[すいか](2012/10/08 23:07)
[39] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン5[すいか](2012/10/08 23:08)
[40] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン6[すいか](2012/10/08 23:09)
[41] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン7[すいか](2012/10/08 23:10)
[42] シナリオ4 『守るべきもの』 シーン8[すいか](2012/10/08 23:11)
[43] インターミッション4 ライオットの場合[すいか](2012/10/08 23:12)
[44] インターミッション4 シン・イスマイールの場合[すいか](2012/10/08 23:14)
[45] インターミッション4 ルージュ・エッペンドルフの場合[すいか](2012/10/08 23:14)
[46] キャラクターシート(シナリオ4終了後)[すいか](2012/10/08 23:15)
[47] シナリオ5 『決断』 シーン1[すいか](2013/12/21 17:59)
[48] シナリオ5 『決断』 シーン2[すいか](2013/12/21 20:32)
[49] シナリオ5 『決断』 シーン3[すいか](2013/12/22 22:01)
[50] シナリオ5 『決断』 シーン4[すいか](2013/12/22 22:02)
[51] シナリオ5 『決断』 シーン5[すいか](2013/12/22 22:03)
[52] シナリオ5 『決断』 シーン6[すいか](2013/12/22 22:03)
[53] シナリオ5 『決断』 シーン7[すいか](2013/12/22 22:04)
[54] シナリオ5 『決断』 シーン8[すいか](2013/12/22 22:04)
[55] シナリオ5 『決断』 シーン9[すいか](2014/01/02 23:12)
[56] シナリオ5 『決断』 シーン10[すいか](2014/01/19 18:01)
[57] インターミッション5 ライオットの場合[すいか](2014/02/19 22:19)
[58] インターミッション5 シン・イスマイールの場合[すいか](2014/02/19 22:13)
[59] インターミッション5 ルージュの場合[すいか](2014/04/26 00:49)
[60] キャラクターシート(シナリオ5終了後)[すいか](2015/02/02 23:46)
[61] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン1[すいか](2019/07/08 00:02)
[62] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン2[すいか](2019/07/11 22:05)
[63] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン3[すいか](2019/07/16 00:38)
[64] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン4[すいか](2019/07/19 15:29)
[65] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン5[すいか](2019/07/24 21:07)
[66] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン6[すいか](2019/08/12 00:00)
[67] シナリオ6 『魔女の天秤』 シーン7[すいか](2019/08/24 23:54)
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[35430] シナリオ3 『鳥籠で見る夢』 シーン2
Name: すいか◆1bcafb2e ID:e6cbffdd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/08 22:56
 シーン2 王都アラン

 夕暮れ時。
 一日の勤めを終えた男たちが一杯の憩いを求めて街に繰り出してくると、辻は活気にあふれ、客を招く店主の声があちこちで響いた。
 王宮の尖塔は斜陽で黄金に輝き、石畳の街並みに長い影を落としている。
 あちこちで篝火が焚かれ始めると、その炎に照らされて、街路にオレンジ色の影が踊り出した。
 陽気にさわぐ人々の声。
 一気に涼しくなった風に乗って、屋台からは肉の焼ける香ばしい匂いが、辻からは吟遊詩人の奏でる陽気な音楽が広がっていく。
 見ているだけで心が踊り出しそうな、異国情緒あふれる雰囲気だ。
 そんな王都の一角、小さな露天が立ち並ぶ市場のあたりを、5人の冒険者たちはのんびりと歩いていた。
「あ~疲れた。肩こった。ライくん、宿に帰ったら肩揉んでよね」
 学院でかぶっていたよそ行き用の毛皮を脱ぎ捨てて、ルージュがぐりぐりと肩を回す。
 疲労を隠そうともせず、だらけきった様子で歩く彼女は、遊び疲れて寝場所を探す猫のようだ。先ほどの超然とした雰囲気が嘘のように消え去っている。
 至近距離であの迫力を味わったレイリアは、あまりの落差にくすりと笑った。
「さっきのルージュさんと今のルージュさんは、まるで別人ですね」
 本来ルージュは、レイリアでさえちょっと近寄り難く感じるほどの美貌の持ち主。
 普段は自由気ままな態度のせいでほとんど意識させないが、本人さえその気になれば、彼女は絶対零度の威圧感を振りまいて周囲を圧倒できるのだ。
「え、そう?」
「そうです。さっきのルージュさんは、まるで氷の女王でしたよ。隣にいた私も怖かったくらい」
「女は誰でも、ふたりの自分を持ってるんだよ。レイリアさんもすぐに使えるようになるって」
 そう言って笑い合う女性陣の後ろで、シンとライオットはげんなりとした視線を交わした。
「聞いたかシン。レイリアもすぐああなるらしいぞ」
「それはちょっと勘弁してほしい」
 苦々しい表情を浮かべたシンは、持たされている大量の荷物をかかえ直した。
 ラルカス最高導師との会談の後、一行は掌を返したように丁重な扱いを受け、辞去するにあたっては大量の土産物を押しつけられていた。
 ルージュには強力な防護の魔法のかかったローブ、シンにはミスリル銀の鎖帷子、ライオットには魔法の長剣。これだけでもかなりの財産になるはずだ。
 他にもいくつかの魔法の指輪と魔晶石、マーファ教団への寄進として財宝や金貨銀貨を山ほどもらい、彼らは遺跡で一山当てた冒険者のような姿だった。
「まるで押し込み強盗ですね。賢者の学院を相手にたいしたものです」
 アウスレーゼが、感心した様子でライオットを眺める。
 確かに、学院長に濡れ衣を着せて脅し、完全に屈服させたあげくに金銀財宝まで差し出させたのだから、強盗呼ばわりされても仕方がない。
「他人事みたいに言うなよ。君も恫喝に一役買ったばかりだろ」
 大盾を背負い、シンと同様両手に荷物を抱えたライオットが、憮然として言い返す。
 今後の対応について全面協力させるのは既定事項だったが、これほどの財宝は想定外だった。開き直ったラルカス学長が、徹底的に姿勢を示そうとしたらしい。
 もちろん、バグナードの件の口封じや、ニース母娘に対する謝罪の意味もあるのだろう。
 くれるというなら貰っておこう、と遠慮せずに受け取ったのだが、帰る際に実物を山と積み上げられると、さすがに良心が痛んでしまった。
「私はあなたを誉めているのですよ?」
「なら、明らかに誉め方を間違えてる。ちっとも嬉しくないからな」
「私の誠意が伝わらないとは、残念なことです」
 ため息をつくライオットに、アウスレーゼは冗談めかして首を振った。
「あなたが望むなら、今からポニーテールにしても良いと思うくらい、私はあなたを買っているのに」
 そして、わざとらしく後ろ髪をまとめ、白いうなじをちらりと見せる。
 ライオットは一瞬で態度を翻した。
「訂正する。君の誠意を感じた。是非ポニテで頼む」
「軽いな、おい」
 シンが呆れて親友を眺めると。 
 前方から冷気が漂ってきた。
「ライくん、楽しそうだね」
 疲れた猫が、氷の女王に戻ろうとしている。
 少々怯えながら、レイリアが咎めるように振り向いた。
「アウスレーゼさん?」
「すみません、冗談です」
 金髪の密偵は首をすくめた。
 あの場に同席したアウスレーゼも、ルージュの恐ろしさは身にしみている。怒りの矛先を向けられるのは御免こうむりたかった。
「では皆さん、私は王宮に戻って明日の話をつけてきます。今夜はゆっくり休んで下さい」
 残念そうなライオットの前で髪を下ろすと、アウスレーゼは小さな会釈を残して、雑踏の向こうに姿を消した。
 彼女にはまだ重要な役目が残っている。このまま宿に帰って一休みというわけにはいかないのだ。
 事の発端は、遡ること20日前。墓所に赴いたニースとレイリアが、邪神カーディスの司祭に襲われたことによる。
 邪教の司祭ラスカーズは“亡者の女王”ナニールを覚醒させるため、ニースを亡き者にし、レイリアを誘拐しようと企んだのだ。
 シンたちの機転と奮闘により、その場では撃退したものの、墓所の中にまで邪教の手が伸びたことは放置できない。
 ニースは国王に報告する必要があると判断し、レイリアに全権を委ねて王都へ派遣したのだった。
「私が行くと、貴族たちは警戒してしまうでしょう。レイリアが相手なら甘く見て、ある程度の本音を出すはず。あなたたちには、それを見極めてほしいの」
 そんな言葉とともに護衛を任され、ターバを出発したのが2週間前。長い旅だったが道中は襲撃を受けることもなく、王都に入ったのが今日の午前中だ。
 宿を取り、食事をすませて賢者の学院に向かったのが昼過ぎだから、かれこれ4時間は学院との交渉に当たったことになる。
 その苦労は報われて、とりあえず満足すべき結果を得ることができた。緊張の糸はゆるみ、初めて目にするファンタジックな都の姿に心が躍る。
 物珍しそうに辺りを見回しながら、シンたちはのんびりと宿への道を辿っていた。
「しかし、朱に交われば赤くなるって、こういう事なんですね」
 見えなくなるまでアウスレーゼの背中を見送ると、レイリアがしみじみと言った。
「シンたちに会う前は、笑ったり冗談を言ったりするような女性じゃなかったのに」
 まるで抜き身の刃のように、冷たく尖った印象しか受けなかったアウスレーゼの変化。それをもたらしたのは、間違いなくシンたちだろう。
 穏やかな微笑を浮かべるレイリアに、シンがやれやれと首を振った。
「朱に交われば、ってのは褒め言葉じゃないよ?」 
「知ってます。それが何か?」
 首を傾げて、横に並んだ戦士を見る。
 至極あっさりとした返答に、シンは言葉を失った。
 純粋培養のお嬢様だったはずのレイリアまで、変な方向に汚れていく。接し方を間違えただろうか。このままではまずい。
 どう答えればいいんだ、とシンが悩んでいると、その表情を楽しんでいたレイリアは堪えきれずに吹き出した。
「ごめんなさい、冗談です」
 そして申し訳なさそうに、気を悪くしないでくださいね、と上目遣いに見上げる。
 ふれ合えそうな距離から顔をのぞき込まれて、今度は真っ赤になってうろたえるシン。
 その様子を生温かく眺めながら、ライオットとルージュは視線を交わした。
「いいように弄ばれてるね」
「朱に交わったのは、アウスレーゼだけじゃないみたいだな」
 いかな名声を誇る砂漠の英雄とはいえ、彼女いない歴33年では、荷が重すぎる相手だろう。
 レイリアは完全に天然だ。ちょっとからかってみようと思ったのも本気なら、シンが怒るのではないかと心配したのも本気。
 その表情に、耐性のないシンが抵抗できるはずがない。
「怒ってませんか、シン?」
「怒ってない。怒ってないから少し離れて。近い。ちょっと近すぎるって!」
 至近距離にあるレイリアの瞳に、シンは浅黒い肌を真っ赤に染めて狼狽する。
 だが、そんな女慣れしていない様子が、レイリアには好ましく映るのだろう。シンの言葉を無視して身を寄せ、にっこり笑ったとき。
 その悲鳴は聞こえてきた。
「聞いたか?」
「ああ」
 一瞬で動揺を消したシンが、ライオットと緊迫した声を交わす。
 どこだろう、と探す必要はなかった。
 雑踏の向こうで騒ぎが起こり、通行人が必死の形相で逃げてきたからだ。
 シンとライオットは激流に聳える岩のごとく、ぶつかってくる人々からルージュとレイリアを庇い続ける。
 やがて人混みは消え去り、事件の当事者だけがその場に残った。
 事態はシンプルだった。
 黒ずくめの若い男が、女性2人組を刃物で襲っているのだ。
 ひとりは令嬢風の少女。まだ中学生くらいの年齢だろう。
 目立たない無地のマントを羽織っているが、裾からは煌びやかなドレスが見え隠れしている。豪奢な金髪はゆったりと波打ち、透きとおるような白い肌は最高級の紗々のようだ。
 貴族か豪商の令嬢が、身分を隠して出歩いているといった風情。
 少女を守って男と揉み合っているのは、メイド服姿の女性だった。年齢は30歳くらい。黒髪をショートボブに切りそろえ、いかにも活動的な印象を受ける。
「今のうちにお逃げください!」
 メイドは短剣を握る男の腕をおさえて叫ぶが、どんなに頑張っても女の細腕だ。強引に振り回される男の短剣が、メイド服を裂いて腕に浅く傷をつけた。
 今はまだかすり傷。だが男の凶刃がメイドを貫くのは、時間の問題だと思えた。
「お逃げください! 早く!」
 必死に声をあげる女性。
 しかし少女は首を振った。
「あなたを置いては行けません!」
 ドレスの裾をひるがえし、短剣を持った男の右手を掴もうとする。2人がかりで掴めば、何とかなると思ったのだろう。
 だが男も、そうはさせじと腕を引き、少女を右足で蹴りとばした。
 まともに腹を蹴られた少女が石畳に転がり、苦痛のうめき声をもらす。
「……野郎!」
 その光景に、先日の事件を思い出したのか。
 持っていた荷物を全部捨てて、シンが駆けだした。男まで約20メートル。シンなら1ラウンドで詰められる距離だ。
「驚いたな」
 置いていかれた格好のライオットが、意外そうにつぶやく。
 つい先日までただのSEだったシンが、凶器を持った相手に臆さず突っ込んでいくとは。
 おそらく脊椎反射で行動しただけ。自分が負うリスクについては何も考えていないのだろうが、それでも元一般人としては驚愕に値する行動だ。
 すると、誇らしげな顔をしたレイリアが、ライオットに言った。
「驚くことなんてありません。あれが本当のシンです。知らなかったんですか?」
 自分では勇気がないとか戦うのが怖いとか言うくせに、こと誰かを守るという場面に限定すれば、シンは無類の強さを発揮する。
 その光景を何度も見てきたレイリアにとって、シンの行動は自明の理だった。
 ほとんど信仰に近い信頼感を込めて、黒い瞳がシンを見つめる。
 はいはいごちそうさま、と言いたげな表情でルージュが微笑むと、ライオットは小さな吐息をもらした。
 もう20年以上も付き合ってきて、シンの弱い部分を知悉するが故に、この1ヶ月で強くなった部分が見えていないのかもしれない。
「俺は、あいつを見くびってるのかな」
 両手に抱えていた荷物を地面に下ろす。
 シンが突撃した以上、援護するのはライオットの役目だ。それは呼吸するように当然のこと。
 暴れている男を見ながら、ライオットは小さな布袋を握りしめた。
 ソフトボールほどの大きさだが、中には金貨がぎっしりと詰まっている。堅さといい重量感といい、もはや凶器と呼んで差し支えない代物だ。
 それを全力で投げつける。
 オーバースローで筋力21の剛腕がうなり、総額1万ガメルの剛速球が暴漢に襲いかかった。
 シンの横をかすめた布袋は、一直線に飛んで横顔に炸裂。破れた袋から金貨が飛び散り、篝火に煌めいて石畳に散乱する。
 相当な衝撃だったのだろう。男はたまらずによろめき、メイドから手を離した。
 それでシンには十分だった。
 疾風となって男とメイドの間に割り込んだシンは、左手で男の右手首を握ると、力を込めて捻りあげた。
「大の男が! 女を相手に!」
 怒りに燃えた双眸が、男を睨みつける。
 その迫力たるや尋常ではない。驚愕と恐怖にすくみ上がる男に、シンは拳を叩きつけた。
「暴力を振るうな!」
 ただの拳だが、そこには10レベルファイターの追加ダメージが載っている。素人に毛が生えた程度の相手を昏倒させるなど、何の造作もない。
 一撃で意識を刈り取られた男は、ぐったりと石畳に転がった。力を失った右手から短剣が滑り落ち、乾いた音を立てる。
「大丈夫ですか?」
 少女に駆け寄ったレイリアが、身体の様子を見ながらそっと抱き起こした。
 少女は苦しそうに顔をゆがめながら肯く。
「ありがとう、私は大丈夫です。それよりランシュは?」
 レイリアの腕の中からメイドを見上げる。
 ランシュと呼ばれたメイドは、シンに叩き伏された男と、少女の無事な様子を確かめると、安堵の表情を浮かべて膝から崩れた。
 あわててルージュが抱き止めようとするが、自分より大柄な女性を支えきない。頭を打たないように気をつけて、石畳に寝かせるだけで精一杯。
 黒髪に手を添えてそっと頭を下ろしたとき、ルージュの表情は硬くこわばっていた。
 ランシュは尋常でない量の汗をかき、呼吸も浅く早い。 そして紫色に腫れ上がった傷口。どう考えてもふつうの切り傷ではなかった。
 はっとして石畳に転がった短剣を一瞥すると、ルージュは夫に助けを求めた。
「ライくん! こっち、早く!」
 毒だ。治療は一刻を争う。
 両手に山と荷物を抱えてきたライオットも、妻の表情に異変を察し、無言でひざまづいて女性の容態を確認する。
「“ダークブレイド”か?」
「たぶんね」
 短く確認すると、ライオットは傷口に手をかざした。
 ダークブレイドは、暗殺者が好んで使う即効性の致死毒だ。その名のとおり刃に塗って使う黒い液体で、わずかな傷でもつけば体内に侵入し、ほんの数分で相手を死に至らしめるという。
 使い勝手の良さと分かり易さから、TRPGでは定番と言える毒薬だった。
 しかし、毒だと判っているなら、解毒すればよいだけのこと。
 ライオットの神聖語の祈りに応じて、かざした手が淡く輝き始めた。女性はこれで大丈夫だろう。
 ルージュは視線をシンに向けた。
「リーダー、怪我とかしてない?」
「ああ、大丈夫だ」
 麻縄で意識のない男を縛り上げながら、シンが肯く。
 ルージュは石畳に転がった短剣に手を伸ばすと、指先で柄をつまんで持ち上げた。
 粘性のある黒い液体でべったりと濡れた刃。
 柄には錆が浮いており、お世辞にも状態がいいとは言えない。だが、何やら紋章のようなものが彫られていて、由緒だけはありそうな雰囲気だ。
「なんか、すごく変だよね」
 口の中でつぶやく。
 ダークブレイドはそこいらの店で売っているような代物ではない。一般人なら手に入れるだけでも相当な苦労があるはずだ。
 それに、この由緒ありそうな短剣。ただ人を刺すだけなら、普通の品の方が切れ味は良さそうなのに、あえてこんな物を使った。
 そして極めつけに、実行犯が素人ときた。持っている装備はまるで暗殺者だが、襲撃場所にこんな人通りの多い所を選ぶなど愚の骨頂。おまけに、ただのメイドを相手に苦戦するようでは話にならない。
 下手をしたら、シーフ技能すら持っていないのではないか。
 ルージュはいくつもの疑問を想起しながら、心配そうに治療を見守っている少女を見た。
 まだ中学生くらい。17歳のレイリアよりさらに年少だろう。
 だがその身に漂わせる色香は、とても10代半ばとは思えなかった。
 緩やかなに波打つ金髪、胸から腰にかけての曲線、たおやかな手首の角度など、あらゆるパーツと挙措が男を惹きつけることに特化していた。
 同じ女性だからこそ、判る。
 この少女の性的な魅力は、計算と訓練の賜物だ。
 目的を持って創られた美しさは、ただ造形がいいだけの美少女とは根本的に異なる。レイリアが太陽の下で揺れる向日葵だとすれば、この少女は職人が精魂込めて磨き上げた、ガラス細工の百合だった。
 青い果実のような未成熟さと、妖しいまでの艶やかさを併せ持つ、アンバランスな透明感。まさしく魔性と呼べそうな少女だ。
 そんな視線に気づいたのだろうか、少女が小首を傾げてルージュを見返した。
 たったそれだけの動作で、匂いたつような色香を漂わせる。この少女に比べれば、レイリアの接待技能など児戯に等しい。
 こりゃ本物だな、と感心しながら、ルージュは少女に問いかけた。
「命を狙われるような心当たり、ありますか?」
「ありますわ。ありすぎて困るくらい」
 少女は自嘲気味に口許を歪め、あっさりと肯く。
 あまりに厭世的な表情が痛ましくて、ルージュは二の句を継げなかった。どんな環境で育ったら、この年でこんな顔ができるのだろう。
 すると、少女がすっと立ち上がった。
 どうやら内心が表情に出てしまったらしい。少女は一瞬で苦い表情を消すと、雅やかな雰囲気をまとい、正面からルージュに微笑みかける。 
「ご心配には及びません。対処法は心得ておりますから」
 武器を振り回すだけが戦いではない。自分にはもっと違った力とやり方があるのだと、碧玉の瞳が穏やかに主張していた。
「ごめんなさい、余計なお世話でしたね」
 ルージュは素直に謝罪した。
 相手の事情を斟酌せず、一方的に同情と憐憫を向けたのは、明らかに礼を欠いていた。
「とんでもありません。皆様がいなかったら、今頃どうなっていたことか。命の恩人に失礼を申し上げたのはこちらの方です」
 少女もスカートをつまんで膝を折り、軽く頭を下げる。そんな動作さえも優雅なこと極まりない。
 同性のルージュも思わず見とれていると、横からライオットが口を挟んだ。
「こっちのメイドさんはもう大丈夫だ。目が覚めたら元気になってるよ」
 メイド服の胸は規則正しく上下し、呼吸も落ち着いているようだ。顔色も戻り、毒の影響はもう残っていないらしい。
 すると、少女はほっとした様子で表情を緩めた。
「良かった。本当に助かりました。せめて何かお礼をさせてください」
「俺たちが勝手にやったことだから。気にしないで」
 ライオットは答えながら、意識のないメイドをお姫様抱っこで抱き上げた。
 ルージュは心中穏やかではないが、相手が怪我人では文句も言えない。
 頬を膨らませてそっぽを向いていると、遠巻きにしていた野次馬の壁の向こうから、大声を上げながら兵隊らしき一団が駆けつけてきた。
「この都で暴力沙汰は許さんぞ!」
 人数は5人ほど。そろいの制服を身につけ、槍を構えて整然と走ってくる。
 先頭に立っていた壮年の隊長が足を止めると、部下たちは半円の陣形をとって槍を構えた。
「我々はアラン衛視隊だ。武器を持って暴れている者がいると通報があった。改めさせてもらう」
 年齢は40歳くらいだろうか。上品に髭を整え、栗色の髪をオールバックに撫でつけた隊長は、思慮深そうな視線をゆっくりと巡らせた。
 とりあえず視線を向けたのは、最年少ながら主役級の存在感を放っている少女。
 次に古びた短剣をつまんでいるルージュ、メイドを抱いているライオットと続き、最後に黒ずくめの男をぐるぐる巻きにしているシンを眺める。
「たいしたもんだな。騒ぎが起こってから5分と経ってないぞ。警視庁もびっくりのレスポンスタイムだ」
 想像以上に早い治安部隊の到着に、ライオットが感心してつぶやいた。
 問答無用で実力行使に出ず、とりあえず状況把握に努めているのも高評価だ。
 アラニア王国は歴史と伝統しかない腐敗国家というイメージを持っていたのだが、末端の役人たちは十分に有能であるらしい。
 男の簀巻きを完成させたシンも、立ち上がって様子をうかがっている。
 最初に口を開いたのは、この場の主役たる少女だった。
「お勤めご苦労様です。妾はラフィット・ロートシルトと申します。こちらは使用人のランシュ」
 優雅に微笑んで、軽く会釈する。
「ロートシルト男爵夫人?!」
 予想外の名前を聞いて、隊長が裏返った声を上げた。
 ラフィットの名乗りに衛視たちはもとより、シンやライオットまで瞠目して少女を見る。
 ラフィット・ロートシルト男爵夫人の名は、都の住人なら誰もが知っている。一介の葡萄農園の娘が、鷹狩りに出た国王に見初められ、王宮に召されたというシンデレラ・ストーリーの主役である。
 そしてシンたちにとっては、誰よりもコネクションを作りたい相手だった。 
「役儀とはいえ失礼いたしました! 自分はアラン衛視隊のベデルと申します!」
 衛視隊長が直立不動で敬礼する。
 背後の衛視たちもあわてて槍を納め、隊長にならった。
 他人が名を語っているとは、誰も思わなかった。
 若干14歳にして、国王が抱くにふさわしいと納得させるだけの美貌と色気を手にしている。あと5年もすれば傾国と呼ばれる美女になるだろう。
「ベデル隊長。こちらの方々は、暗殺者に襲われた妾と使用人を助けて下さったのです。妾を襲った犯人は、あの黒ずくめの男です」
 ラフィットから見れば、衛視隊長など下級官吏に過ぎない。そんな相手にも、彼女は丁寧に事情を説明した。
「了解いたしました。して諸君は冒険者か?」
 ベデルは最年長とおぼしきライオットを交渉相手に決めたようだ。
 日本で同じ仕事をしていたライオットも、相手の聞きたいことはよく分かっている。
 自分たちは冒険者で、アランへは護衛任務で来たばかりであること、逗留している宿の場所と名前などを要領よく伝えると、ベデルは満足そうにうなずいた。
「分かった。諸君の名は?」
「私はライオット。それに仲間のシン、ルージュ。こちらがターバ神殿のレイリア司祭です」
「ライオット殿か。済まないが、これから詰め所で事情を聞かせてもらいたい。誰か1人でよいので同行してほしいのだが」
 ベデルの言葉は男爵夫人の手前、礼儀正しく依頼の形を取っていたが、実際には拒否を認める気などないだろう。警察官をしていたライオットにはよく分かる。
 わざわざ官憲に逆らっても良いことはないし、そんなことをする必要もない。大人しくライオットが頷くと、横から少女が口を挟んだ。
「ベデル隊長、それは困ります。この方々は、これから妾がお礼の晩餐に招待するのですから。そのようなお話は後日に願えませんか?」
「は、しかし……」
 国王の愛妾たる女性が襲われて、事情が分かりませんでは衛視隊の面目まる潰れだ。
 渋い顔で言葉を濁すものの、相手はロートシルト男爵夫人。衛視隊長ごときが正面切って反論できるはずもない。
 職務への精励と権力からの圧力で板挟みになり、ベデルが苦虫を噛み潰していると。
「あなたの忠勤はよく分かります。衛視隊の皆様は存分に働いていらしたと、妾から国王陛下へ直接ご報告申し上げましょう。ですからどうか、この場は妾に免じて譲って下さいませ」
 ラフィットが手を合わせてベデルを見上げた。
 礼儀正しい言葉遣いと可憐な仕草で誤魔化しているが、もはや完全な恫喝だった。
 同業者としては同情を禁じ得ないが、ライオットにとってもこれは千載一遇のチャンス。無駄にはできない。
 しばしの沈黙の後、ベデルはついに折れて、14歳の少女に頭を下げた。
「承知いたしました。後の処理はお任せ下さい」
「ありがとうございます、ベデル隊長」
「いえ。これが我らの勤めでございますから」
 長々と吐息をもらして気分を切り替えると、ベデルは矢継ぎ早に指示を出した。
 石畳に散らばった荷物と金貨を集めさせ、シンに渡して、代わりに簀巻きの男を受け取る。意識が戻ったら徹底的に尋問して、動機と背後関係を吐かせることになるだろう。
 また別の部下には、野次馬の中から目撃者を捜し、連れてくるように命じた。
「あとこれ、凶器です。毒が塗ってあるので刃には触らない方がいいですよ」
 ルージュが古びた短剣を差し出すと、ベデルは慎重に受け取り、興味深そうに眺めた。
「魔術師殿。この短剣には何やら紋章が刻まれていますが、誰のものか分かりますかな?」
「済みません、私も初めて見ましたので」
 申し訳なさそうにルージュが答える。
 横からのぞき込んだラフィットも、しばらく無言で紋章を眺めていたが、やがて首を振った。
「これは、王国に仕える貴族の紋章ではありませんね。王宮では見たことがありません」
「となると、調べるのは骨が折れそうですな」
 ベデルがやれやれと苦笑する。
 そして部下たちの仕事が一段落するのを待って、ラフィットに深々と一礼した。
「それではロートシルト男爵夫人、我らはこれにて失礼いたします。ライオット殿、今夜でも明日でも構わない、用件が済んだら詰め所までご足労願えるか?」
「今夜中には必ず伺いますよ。何時になるかは分かりませんが」
 その答えに満足したのか、ベデルは感謝の視線を残すと、部下たちを引き連れて人混みの向こうへと帰っていった。
 衛視隊と暗殺者がいなくなると、もう大丈夫だと思ったのだろう、通りに再び人の波が押し寄せてくる。
 その流れの中で、ラフィットがライオットを見上げた。
「では改めまして。妾の恩人の皆様を、当家の晩餐に招待いたします。受けて下さいますか?」
 4人が互いに視線を交わす。
 答えはとうに決まっていた。
「謹んでお受けいたします。ロートシルト男爵夫人」
 メイドを抱いたままのライオットが、代表して返答する。
 どうやら、実りの多い1日になりそうだった。




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