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No.34283の一覧
[0] [Z-E-R-O] (原作:ロックマンゼロ、ロックマンX)[村岡凡斎](2013/09/18 15:00)
[1] はじめに[村岡凡斎](2012/07/18 16:08)
[2] Prologue[村岡凡斎](2012/07/18 16:24)
[3] Waffle for Chapter[村岡凡斎](2012/11/07 01:25)
[4] OPENING STAGE 「涙の少女と寝起きのマルス」[村岡凡斎](2012/10/29 15:54)
[5] 1st STAGE 「剣」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[6] 2nd STAGE 「星に願いを 夜空に問いを」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[7] 3rd STAGE 「包囲戦線」[村岡凡斎](2013/11/25 19:59)
[8] 4th STAGE 「亡霊の影」[村岡凡斎](2012/10/29 15:59)
[9] 5th STAGE 「死屍軍団」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[10] 6th STAGE 「キズダラケ」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[11] 7th STAGE 「渇望/葛藤」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[12] 8th STAGE 「未来」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[13] 9th STAGE 「理想郷の詩」[村岡凡斎](2012/10/29 16:02)
[14] COMMENTARY 1[村岡凡斎](2012/09/18 18:22)
[15] 10th STAGE 「紅いイレギュラー」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[16] 11th STAGE 「救い」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[17] 12th STAGE 「ウラギリ」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[18] 13th STAGE 「闘将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:27)
[19] 14th STAGE 「証明」[村岡凡斎](2012/10/30 23:28)
[20] 15th STAGE 「レスキューコール」[村岡凡斎](2012/10/30 23:29)
[21] 16th STAGE 「世界を覆う白雪の上で」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[22] 17th STAGE 「理想の表裏」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[23] 18th STAGE 「color of mine/d」[村岡凡斎](2012/10/30 23:31)
[24] 19th STAGE 「妖将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:32)
[25] 20th STAGE 「届かぬ想い、その結末。」[村岡凡斎](2012/10/30 23:33)
[26] 21st STAGE 「デンジャラス・デイ」[村岡凡斎](2013/05/07 21:37)
[27] COMMENTARY 2[村岡凡斎](2012/10/30 23:37)
[52] 22nd STAGE 「レプリロイドは ぜんまいねずみの夢を見るか?」[村岡凡斎](2012/11/07 01:09)
[53] 23rd STAGE 「殺戮舞台」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[54] 24th STAGE 「罪 と 罰」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[55] 25th STAGE 「Raging River」[村岡凡斎](2013/11/19 00:54)
[56] 26th STAGE 「ABSOLUTE - JUSTICE」[村岡凡斎](2012/12/17 00:06)
[57] 27th STAGE 「隠将」[村岡凡斎](2013/01/28 22:27)
[58] 28th STAGE 「再会」[村岡凡斎](2013/05/07 21:39)
[59] 29th STAGE 「暗躍の調」[村岡凡斎](2013/05/25 23:30)
[60] 30th STAGE 「死者の国」[村岡凡斎](2013/06/23 01:04)
[61] 31st STAGE 「乱戦四重奏」[村岡凡斎](2013/08/03 00:49)
[62] 32nd STAGE 「Red, White and Bullet Blues」[村岡凡斎](2013/09/18 14:58)
[63] 33rd STAGE 「    」[村岡凡斎](2013/09/28 16:02)
[64] 34th STAGE 「月と影、そして太陽」[村岡凡斎](2013/10/06 09:36)
[65] 35th STAGE 「残光の行方」[村岡凡斎](2013/11/02 15:37)
[66] 36th STAGE 「救世主」(前)[村岡凡斎](2013/12/24 14:36)
[67]          「救世主」(後)[村岡凡斎](2013/12/25 11:54)
[68] FINAL STAGE 「Message from...」[村岡凡斎](2014/01/25 17:09)
[69] LAST COMMENTARY[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
[70] おわりに[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
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[34283] 4th STAGE 「亡霊の影」
Name: 村岡凡斎◆45ff140f ID:697d6d9c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/29 15:59


  ―――― * * * ――――








  ひどく、ノイズが走る






――――なんだ……?




  聴覚に、視覚に


  ひたすら走り続ける




――――なにが……どうなっている!?




  気づけば、視界は染まっていた


  朱く、赤く、紅く――――――――……‥‥



  “全て”を塗りつぶすように


  まるで血の海を泳でいるかのように


  辺りは染まり切っていた




  そして突然、“全て”は暗黒に飲み込まれる

  なんの感触もない、漆黒の闇――――虚無の世界



  突然一点だけ、明かりが灯る




――――…………っ!




  そこには一人の女性が立っていた


――――お前…は……




  見覚えのある姿



  華奢な肩、揺れる栗色の髪、白い肌


  優しさと、愛おしさを感じさせる


  どこまでも見覚えのある存在


  けれど


――――…顔が……


  無い


  顔が無い


  思い出せ無い


――――思い出せ…無い…


  何故だ?

  どうしてだ?


  思い出したいのに


――――忘れては…いけないのに…



  大切な、記憶なのに……







  “ ひ ど く 、 ノ イ ズ が 走 る ”




――――…………っ!?



  不意に頭の中で声が響き始める



《俺ニ身ヲ委ネロヨ》



――――やめ…ろ



  どんなに拒絶しようとも、“声”はそれを受け付けない

《俺ニ全テ任セロヨ》

――――やめてくれ

  そして、要求する

《モット殺セ》

――――…っ!!

  気づけば体中が血塗れだった

  紅いコートはさらに紅黒く変色し

  掌はぬるぬるとしたおぞましい感触に侵食され

  決して振り払うことができない

《モット壊セ》

――――…黙れ

《モット破壊シロ!》

――――黙れっ!

《破壊シロ!》

――――消えてくれっ!!!

《破壊シロ! 破壊シロ!》

――――嫌だっ!

《破壊シロ! 破壊シロ! 破壊シロ!》

――――嫌だ…! ……嫌だっ!!

    俺は


    俺は……‥‥







  悶え苦しむ彼に向け、彼女が言葉を紡ぐ

――――ねえ……

  少しずつ近付き、彼女は手を伸ばす

――――……私…待ってるから……

  頬に触れる白い手

  優しい手

「…あぁ…」

――――…ずっと…ずっと…待ってるから…

  けれど、彼女の手もまた血に染まる

「あぁ…ぁあぁ……」

  分かっている

  その手を

  その肌を

  その心を

  紅く染め上げてしまったのは

  他の誰でもない



  “俺”だ



「あ あ ぁ ぁ…… あ ぁ あ あ ぁ あ あ……」








破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ――――……‥‥



「あぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁあぁああぁぁあぁぁぁあああぁああぁ―――――……‥‥



破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ破壊シロ――――……‥‥
























 4th STAGE






       亡霊の影



















  ―――― 1 ――――



‥…――――あぁあぁぁっ!!」

絶叫と共に、ゼロは勢いよく起き上がる。

「……ハッ……ハッ……」

時刻は深夜3時過ぎ。代わり番で警戒している者ぐらいしか起きてはいない時間だ。

「…ハァッ……ハァッ……」

呼吸がうまくできない。落ち着かせるため深呼吸をすると、途中で思わず咽せた。

「ゲホッ…ガハッ…」

吐血でもしたかと、押さえた手を見てみる。が、何ともなかった。
そして、ようやく心を落ち着かせると、「ふぅ」と一息つく。

「またか」と眉をひそめる。昨晩も全く同じ夢を見た。マークチームを救出し、帰還した日の夜、“全く同じ”夢を見ては、“全く同じように”飛び起きてしまった。

「……馬鹿らしい」

「ははっ」と自嘲する。このような悪夢にうなされてしまうとは。――――いや、そもそもレプリロイドである自分が「夢」を見ること自体、どうかしている。
原因は不明。しかし、キッカケには心当たりがある。

「昨日の……あれか…」

百機以上のパンテオンとメカニロイドを破壊した昨日の戦闘。だが、ゼロの記憶はどこからか途切れていた。気づいたときには、目的の旧塵炎軍団基地内で横たわり、自分の顔を覗き込んでいたマークたちの顔が目の前にあったのだ。

――――記憶回路自体に障害が……?

だが、治療を受けた時も内部の重要な回路に問題は見受けられなかった。セルヴォが“ヤブ”でない限りは事実なのだろうが、それならば原因はどこにあるのか。健康体であるこの体のどこに異常があるのだろうか。
どれだけ考え込んでも答えを出せず、再び専用の睡眠カプセルの上で仰向けに寝そべる。暗い天井がやけに近く見える。

「あの女……」

ふと心をよぎるのは、夢に出てくるあの女性。彼女はいったい誰なのだろう。
どこか懐かしく、更には愛おしい感じがした。けれど、その正体を思い出すことがどうしてもできない。

「……欠けた記憶の一部…か…」

おそらく、引き出せずにいる過去の記憶が影響しているのだろう。もしこの推測が正しければ、あの女性はきっと、過去に何かしら関係があった相手に違いない。それもきっと、決して並々ならぬ関係が。
不意に、自分の頬に手を当ててみる。夢の中で彼女が触れた部分に。


「……お前は…誰だ…?」



あの柔らかい手の温もりが、少しだけ残っているような気がした。















  ――――  2  ――――



「ここが管制室。常時、二人以上のオペレーターが待機して、作戦行動中の部隊との連絡や周囲の監視等を行っているわ」

シエルがそう紹介すると、配置についていたオペレーター達がゼロの方を向き、軽く会釈をする。ゼロもそれに応えた。
怪我が回復したこの日、ゼロは朝からシエルとアルエットに、先日の約束通り基地内の案内をしてもらっていた。司令室や談話室、格納庫、演説に使った大ホールや、世話になっているメンテナンスルーム等、基地内の施設を隈なく紹介された。

「大きな作戦を行う時は、エルピスもここで指揮をとるのよ」

中央にある司令席を手で示し、紹介する。エルピスが足を組みながら、如何にも偉そうにふんぞり返る姿が、ゼロには容易に想像できた。
しばらく管制室全体をじっくり眺めていると、金髪の女性オペレーターが、おもむろに話しかけてきた。

「ゼロさん…ですよね?」

「ああ、そうだが……そういうお嬢さんはどちら様かな?」

尋ね返されると、“お嬢さん”は改まって敬礼をする。

「私、エルピス司令からオペレーターチームのリーダーを任されています、ジョーヌです。あの……握手していただいてよろしいでしょうか?」

「構わないぜ」とゼロが言うやいなや、ジョーヌは嬉しそうに声を上げ、ゼロの手を両手で握ってきた。

「百年前の英雄様と共に戦えるなんて! 本当に光栄です! これからもどうかよろしくお願いします!!」

「こちらこそ。こんな美人さんと一緒に戦えるんなら百人力さ」

ゼロの言葉にジョーヌはまたも嬉しそうに頬を赤らめる。すると、シエルがゼロのコートを引っ張る。

「ゼロ、次の場所に案内するわ」

「ん? …ああ。じゃあまたな、ジョーヌ。オペレーター陣は頼りにさせてもらうぜ」

そう言って軽く手を振ると、ジョーヌは尚も頬を赤くしながら笑顔で「はい」と元気に答えた。
廊下に出ると、シエルは先程よりも早足で歩き出した。歩調が上手くあわず、手を繋いでいるアルエットの足取りが覚束ない。

「おいおい、待て待て! アルエットが転んじまうぞ!」

「え?」とシエルが立ち止まると、その肩にぶつかってアルエットが尻餅をつく。それに引っ張られ、シエルも倒れる――――が、寸前でゼロが支えたおかげで、アルエットの上に倒れ込まずに済んだ。
体勢を立て直し、「ごめん」と謝りながらアルエットの手を引く。

「ったく……しっかりしろよ、小娘。大丈夫か、アルエット?」

呆れながらゼロが尋ねるとアルエットは首を横に振る。

「…べつにだいじょうぶだよ。……おねえちゃんこそ、だいじょうぶ?」

逆に心配され、シエルは「うん」と答えて苦笑いを浮かべる。

「何か考え事か?」

「あ……うん、そんなところ。本当にごめんね、アルエット」

そう言って、シエルはアルエットの頭を撫でた。

「…それにしても……ゼロ、“人気者”だね」

アルエットがそう言うと、ゼロ本人は複雑そうな顔をする。
実際のところ、握手を求めてきたのは先程のジョーヌだけでは無かった。廊下を歩く者や、談話室で寛いでいた者たちからも、決して多いわけではないがちらほらと握手を求められていたのだ。

「どういう風の吹き回しか…分かったもんじゃないけどな。まあ、悪い気分じゃあない」

例の演説で白の団全体を敵に回したつもりだったが、ゼロの予想に反して、彼に対し好意をもつ者たちも現れ始めていた。
それと言うのも、先日のマークチーム救出作戦の影響が大きい。本来ならば切り捨てられていたはずのチームを、たった一人で救出し、見事生還するという前代未聞の快挙を成し遂げたのだ。
白の団内では、現在ゼロに対して「活躍を認め、信じてみようと思う者たち」「未だ言動を快く思っていない者たち」そして、「信じるべきか否かを決め兼ねている者たち」という三つのグループに大別されるようになっていた。

「『悪い気分じゃあない』って……。素直に喜べばいいのに…」

少し呆れ気味に言うシエル。しかしゼロは「それこそ甘いぜ」と言葉を返す。

「ころころ態度を変える連中のちょっとした好意をいちいち鵜呑みにしてちゃ、それこそ“間抜け”ってもんだ。斜に構えてるくらいが丁度いいんだよ」

格納庫を案内された時、整備班員は、シエルの手前、先日のような荒っぽい手段に出ようとはしてこなかったが、終始ゼロを睨み続けていた。
ゼロにとってもそちらの反応の方がよく理解できたし、だからこそ、今は好意的にしている者たちも、何時そうした態度を取るようになってもおかしくはないと考えられたのだ。
次にシエルが案内したのは一般団員用の居住区画だった。ゼロは“英雄”という肩書き上、エルピスやセルヴォなどのリーダー格と同様の個室を与えられていたため、この場所に顔を出すのは初めてだった。

「白の団のメンバーも相当な数だけど、ここにはそれ以上の人数にも対応できるだけのスペースがあったの。エルピスが調査してくれたおかげよ」

これだけ大きな施設を秘密裏に探し当てたというのだから、エルピスは確かに優秀な男なのだろう。
しかし、ゼロはどうにも彼のことを好きにはなれなかった。その理由もまた、先日の救出作戦が関係している。あれだけ無茶な作戦を提案した彼の思惑がもしも、今ゼロが予想している通りの物だとしたら、エルピスという男は確かに一軍のリーダーとしては優秀と言えよう。だが同時に、信頼のおける相手とは到底思えない、ある意味危険な存在であるとも言えるのだ。

「……なあ、小娘。あまり、あいつのことは信用するな」

急な言葉にシエルは戸惑う。

「どうしたの、急に? ……ゼロがあんまりエルピスのことを好きじゃないのはなんとなく分かってるけど…」

「いや……そういうワケじゃないんだ。……というより――――…」

不意に口走った言葉が少々無責任だったかと思い、慌てて取り繕おうとしたが、うまい言葉が見つからず、ゼロは口を噤む。
少し考えた後、先程よりも重い調子で言葉を続けた。

「エルピスだけじゃない、俺のこともあまり信用し過ぎるなよ」

あまりにも不可解な忠告に「どういう意味?」とシエルは小さな首を傾げて問い返す。――――と、丁度同じ瞬間に、ゼロの名を呼ぶ別の声が聞こえてきた。

「ゼロさん! もう体は大丈夫なんですか!?」

声の主はマークだった。後ろにはコルボーとトムスを連れている。

「おお、久しぶり……って程でもないか。まあ、御覧の通りぴんぴんしてるよ。お前らの方こそ……特にトムスは、足の方は…大丈夫か?」

ゼロが救出に向かった時には、既にトムスの足は片方無くなっていた。

「おかげさまで、この通り。……こういう時だけは、自分がレプリロイドであることに感謝したくなりますよ」

トムスはそう言って、新しく備え付けられた足を誇らしげに見せる。
細胞レベルで不安要因が残る人間とは違い、レプリロイドの場合、神経系と疑似体液循環用チューブさえ繋げてしまえば他人のパーツであろうと、多少の違和感はあるかも知れないが、ほとんど問題なく移植することが可能なのである。

「――――とは言うものの……この足も死んだ仲間のものだったりするので、素直に喜べないんですけど…ね…」

「それでも、五体満足でいられるならそれが一番……だろ?」

「はい」と、少し苦笑いを浮かべながらトムスは答えた。

「……ゼロさん…あの……」

コルボーが何か言いたげに口ごもる。

「どうした?」

「ほ……本当にありがとうございました!」

そう言って深々と頭を下げる。しかしあまりに突然過ぎたために、ゼロも、シエルも少しだけ後ずさる。
そんな二人の様子も気にすることなく、コルボーは自分の想いを口にし始める。

「俺たち…生きて帰ってこれるなんて……本当に思ってなくて……」

確かに、マークチームのメンバーは皆、何度も死を覚悟した。コルボー本人に関しても、実際にパンテオンと向き合った瞬間、全てが終わるのだと確信した。

「でも……ゼロさんが命がけで俺たちを……」

今思えばなんと愚かなことだっただろうか。たった一人を残し、あの場から二十数名が一気に逃げ出すなど、とても褒められたものではない。結果としてゼロも無事に帰ってこれたものの、もしそうならなかった時は、自分たちはシエルになんと弁解するつもりだったのだろう。
しかし、ゼロは生きていてくれた。自分たちを護り、傷つきながらもこの基地まで共に帰って来てくれた。

「本当に……本当にありがとうございました!!」

更に深く、コルボーは頭を下げる。感謝しても仕切れない、その気持ちが溢れていた。
しかし、ゼロは「やれやれ」と半ば呆れながら顔を上げるように促した。

「それ以上頭下げてちゃ、ひっくり返っちまうぞ?」

人差し指で宙に円を描きながらゼロが冗談めかして言う。アルエットが可笑しそうに「クスクス」と笑うと、コルボーは恥ずかしそうに顔を赤くしながら「すいません」とようやく顔を上げた。

「まさか、“俺が前に言ったこと”を忘れたわけじゃあないだろう?」

そう問われ、コルボーは「あ」と声を漏らし、渋い顔をする。“俺が前に言ったこと”――――即ち、演説での台詞である。

「俺は今でも、お前たちに頼るつもりはないし、できるだけ一人でネオ・アルカディアを叩き潰す。その意志は変わらない」

たとえ、どんなに孤独な戦いになろうとも、その決心が揺らぐことはない。しかし、それからゼロは「けどな」とコルボーの肩を優しく叩く。

「『役立たず』ってのは撤回するよ。あれは確かに言いすぎだった」

そう言って、ゼロは微笑んだ。

「俺の方こそ感謝してるぜ、コルボー。――――お前が助けてくれなかったら、俺はあのまま砂に埋れてたかも知れないんだからな」

コルボーたちがゼロに命を救われたように、あの時、勇気を振り絞って一人引き返してきてくれたコルボーに、ゼロもまた命を救われたのだ。それに対する感謝の気持ちも、決して揺らぐものではなかった。

「だからよ……それ以上頭下げないでくれよ。――――お前がそんなんじゃ、俺だって頭上げてらんないだろ?」

ゼロの言葉に、コルボーは元気に頷き、笑顔を見せた。マークも、そしてシエルも、その光景を微笑ましく見守っていた。




 
 


「ねえ、ゼロ。さっき言ってたことだけど……さ」

マークたちと別れてからしばらくして、シエルが不意に立ち止まり口を開いた。

「『さっき言ったこと』…っつうと……」

「『あまり信じすぎるな』…って言ったでしょ?」

確かに先程ゼロは、そんな警告めいたことを口にしていた。本人も思い出し「ああ、あれな」ときまり悪そうに呟く。
どう説明すべきか迷い、頭を掻く。けれど、シエルはそれについて深く尋ねたいわけではなかった。

「どういうつもりで言ったのかはよく分からないけど――――…」

くるりと後ろを振り向き、胸をはる。ポニーテールが可愛らしく揺れる。

「私はやっぱり信じるよ。エルピスのことも、そしてもちろん、ゼロのことも」


そう言うシエルの笑顔があまりに眩しくて、ゼロは返す言葉を見失ってしまった。










  ―――― * * * ――――


「ね~~ぇ! ルージュ! 聞いてよ~! さっきゼロさんが来てくれてさ! 握手してくれただけじゃなくて、私のこと『美人さん』とか言ってくれちゃってさ~!」

「背中で聞いてたわよ、ジョーヌ。頼むから少し黙っていてくれない?」

提案された作戦のシミュレート結果をまとめている紅いカチューシャをしたオペレーター――――ルージュは、いつまでも惚気けているジョーヌを軽くあしらった。

「まったくもう…。ルージュも本当は羨ましいんじゃないのぉ? 握手くらいしてもらえばよかったんじゃない?」

「馬鹿なことを言ってる暇があるなら、あなたも自分の仕事を片付けなさい。リーダーを任されている自覚があるのかしら?」

「ちぇ~」と子どものように口を尖らせ、自分のデスクに戻る。――――が、まだぶつぶつと何か文句を垂れている。

「……そうだよね、ルージュは司令一筋だもんね…」

「ジョーヌ。――――それ以上何か無駄口を叩いたら、その司令に報告して、あなたを最前線に飛ばしてもらいますから、覚悟しなさい」

「はーい」と元気をなくした声で返事をし、ジョーヌはようやく仕事にとりかかる。
土壇場での判断力や決断力、また、作戦時と通常時との気持ちの切り替えの上手さを買われ、オペレーターチームのリーダーに据えられたジョーヌであるが、普段はこのように不真面目な点も目立ち、副リーダーであるルージュがそれを制御している面が強い。
しかし、互いに相手の能力については一目おいており、良きパートナーとして共に白の団オペレーター陣を支えていた。

「けどさ、ルージュ。あなた、本当にゼロさんに興味ないのね」

キーボードを叩きながら、ジョーヌが口を開く。とりあえず先程までの惚気は消え、まともな会話が出来る状態になったようだ。

「別に興味が全く無い…というわけではないわ。ただ、少し引っかかることが多いだけよ」

「引っかかること?」

尚も一定のリズムでキーボードを叩き続けながら、ルージュは答える。

「さっきの会話……彼がさり気なくだけど、『オペレーター陣は頼りにさせてもらう』って言ってたわよね」

「ええ、言ってたわ。けど…」

なるほど、ルージュは、ゼロがオペレーター陣限定のような言い方をしたことが気になっていたようだ。

「まあ、一人で戦うとは言っても、私たちのサポートくらいは無いときついって思ってくれたんじゃない?――――私たちとしてはいいことじゃない。頼りにしてくれるんだから」

「まあ、そう思えるならいいんでしょうけどね」

曖昧なルージュの言葉に、ジョーヌは首を傾げたが、それ以上深く聞くことはなかった。
確かに、言葉だけを素直に受け止めればオペレーターとしての役割を担う自分たちが頼りにされることについて、喜ぶべきなのかも知れない。
しかし、ルージュにはどうしてもそう思えなかった。

――――彼が必要としているのは……私たちではない

そう。百年の眠りから覚めたゼロが、現代の唯一国家であるネオ・アルカディアと戦う上で現実的に必要としているもの。それは他でもない、戦闘における情報である。
敵の能力、戦術、作戦の進行状況、トラブルへの対処等といった情報。それこそがゼロにとって重要なのであり、そしてそれを供給する媒体としてのオペレーターを、「頼る」「頼らない」の選択肢に関係なく、頼らざるをえないのである。

――――つまり彼には、ここに座って情報をまとめている者が、私たちではなく、なんの意志も持たないただのメカニロイドだとしても、一向に構わないのよ……


彼自身がどこまでそれを意識しているかは分からない。とは言え、そんな何気ない発言こそ、人の本心というものは映されるものだ。
ルージュには、例え潜在的にでも、そんな風に考えている彼を素直に認めることがどうしてもできなかったのである。











  ―――― 3 ――――


「これがゼロの身体データとメディカルチェックの結果、それに治療時の資料だ」

セルヴォはそう言って、記録ディスクを一枚エルピスに手渡す。早速エルピスがそれを再生機に挿入すると、三つの資料がデスクの中央画面に映し出された。
そしてそれらを眼にした瞬間、エルピスはあることに気付き、息を飲んだ。

「これは……」

「……そう、見て分かる通り……彼の内部構造の六割が現時点で技術的に解析不能。さらにその内の半分が……完全なブラックボックスとなっていた…」

「馬鹿な…」

百年前の技術で開発された筈のゼロの体が、現代の技術で解析できないなどという事実が信じられるワケがない。だが、セルヴォ程の技術者がミスを犯すとも思えないし、例えミスがあったとしても、このような結果が出た時点で何度も検証をし直している筈だ。

「素直に……信じるしかないのでしょうね…」

渋い顔をしながらも、エルピスは事実を受け入れた。セルヴォは説明を続ける。

「単純に解析ができない三割の部分については、“あまりに古過ぎる技術”のため解析できないという理由も思いつく。…しかし、ここに蓄積されているデータは“マザー”から引っ張って来たモノだから、残念ながらその可能性は薄いだろう」

過去、世界のネットワークを管理、統括していたスーパーコンピューター「マザー」。現在もネオ・アルカディアの中心区域「ユグドラシル」に据えられ、過去から現在までのあらゆる情報を蓄積、保存している。そこからデータを持ってきているということは、百年前のレプリロイドであろうと一般的な内部構造は解明できるはずなのだ。しかし、それができないということは――――……‥‥

「となると、最も高い可能性として考えられるのは、“現代に至るまで、他のレプリロイドに応用されてこなかった技術”――――つまりは、“より奇抜、あるいは高度過ぎる技術”を取り入れているために解析できないという可能性だ」

ゼロを設計、開発した者は当時では並外れた神経を持ち合わせ、現代においても考えられないような特殊な技術、あるいは、現代の科学者たちさえ凌駕する圧倒的に高度な技術を持っていたと考えられるのだ。だが、いかなる技術を持って作られたものとは言え目に見えぬ空間を操作しているわけではない。

「しかし、これだけならば時間と根気をかけて解析してゆけば、いずれ明らかにすることができるだろう。問題は、残りの三割――――完全なブラックボックスと化してる箇所だ」

画面上で、その問題箇所を示す。

「ビームサーベル収納部を含む両腕の八割、そして精神、記憶回路を含む頭部ユニット全般……これらについては如何なるアクセスも受け付けない、正に完全なブラックボックスとなっているんだよ」

ビームサーベルのエネルギー供給ラインも分からなければ、両腕にいったいどんな隠された武器やトラブルがあるのかも分からない。そしてもちろん、ゼロの記憶についてもほんの僅かなアクセスすらできない。

「このことを…ゼロさんには…?」

少し眼を伏せ、セルヴォは答えた。

「……まだ話していない。話すべきかどうか迷って…そのままだ」

話しても話さなくとも、何かしら不安を与えてしまうかもしれないと思い、悩んだ挙げ句、結局自分の中であやふやにしてしまったというのが実際のところだ。
だが、「そんなに悩まないでください」とエルピスはやけに涼やかな声で言った。

「賢明な判断でしたよ。……話していれば、絶対に余計な不安を煽っていたでしょうからね。ところでもう一つ」

人差し指を突き立て、エルピスが問う。

「これらの不安要因が、今後の戦闘に及ぼす影響は、どれほどのモノと思われますか?」

今後ゼロに作戦を指示する上で、それは確かに重要な問題だった。しかしセルヴォはため息と共に「残念ながら、不明点が多すぎて予測は不可能だ」ときっぱりと返した。
その答えにエルピスもすぐに納得した。彼も駄目もとで聞いてみただけだったのだろう。だが「しかし」とセルヴォは言葉を続けた。

「先日の戦闘から生きて帰って来れたことを考えると、あれほど危険な任務でない限りは十二分にこなせると考えていい筈だ」

率直な意見に、エルピスは「結構」と満足そうに答え、解説の続きをするよう促す。

「次に治療における問題点について説明する。――――これはゼロの……所謂“限界”に関する事項だから、よく頭に整理しておいてほしい」

そう、はじめに忠告され、エルピスは深く頷く。それを確認したセルヴォは解説を始めた。

「知っての通り、現代のレプリロイドの治療は三パターンに分けられる。まず第一に本人の“自己修復機能”を利用した治療」

あくまでも本体に備えられた自己修復回路を中心として、治療カプセルは本隊に内蔵された修復用ナノマシンへのエネルギー供給に徹するという方法。
外部からでは無く、内部からのアプローチによる治療のため、比較的早期に回復し、本人にかかる負担は少なく済む。

「第二に、自己修復回路がシステムダウンしている時に行われる、治療カプセルを主とした治療」

万が一、自己修復回路の一部、あるいは全てに問題が生じた場合、それをサポートするのではなく、本体の身体データを基に、治療カプセルがナノマシンをフル稼働させて自己修復回路自体と破損部位を同時に治療するというもの。自己修復機能が復旧すれば、前者のパターンに移行する。

「そして、全損した部位を他者の同じ部位で代用する方法」

トムスの足のように必要な回路さえ繋げば、他者のパーツであろうと元のモノと変わりない扱いができるようになる。

「これら三つの治療法が、標準的に用いられているわけだが……」

ここからが本題である。

「この中でゼロに適用できない、あるいは適用すべきでない治療法はどれか……分かるな…」

ここでエルピスは、何故セルヴォが、これら一般常識的な治療法について、元技術者である自分にわざわざ懇切丁寧に説明したのかを理解した。

「……最初の一つ以外は……不適?」

眉をひそめ、答えるエルピスに、セルヴォは「その通りだ」と解説を始める。何処か悔しげに。

「不明点の多いゼロの体は、本人の自己修復回路無しでは完治させることができないし、他者のパーツと付け替えたところで部位によっては、何のトラブルも起こらないという保証はできない…」

例えば腕部を全損し、失ったとして、誰かの腕部パーツを移植するとしよう。もしも彼の、元々の腕部の構造をはじめから熟知していたなら、どの回路をどう繋げれば、正常に機能するのか、すぐに分かるだろう。しかし、彼の元々の腕部はブラックボックスの塊である。故に、繋げてしまえばどのような不具合が起こるか不明な回路がいくつも存在しているのだ。
だが、これは必要最低限の回路――――つまり、腕部で言うならば手首や掌、指などを動かす回路だけに絞り込むことができれば、最悪、腕としての働きはつつがなく行えるだろう。そして、その回路を絞り込むのは、それほど難しいことではない筈だ。
問題はもう一方。自己修復機能が破損した場合の治療である。

「どのレプリロイドの自己修復回路も大抵、五割程度の破損までならば、自身の修復活動は可能だ。つまり、五割の破損までならば自己修復機能は復旧することができる。しかし、破損部位がその五割を超えた場合、自己修復回路は自ら復旧作業を行うことができない」

その場合、治療カプセルのナノマシンは自己修復回路を優先的に、復旧可能水準まで回復させるようにできている。――――しかしそれも、そのレプリロイドの自己修復回路のデータが明確にあればの話である。

「不幸なことに、ゼロの自己修復回路もまた、解析不能箇所の一つだったんだよ」

「つまり……彼が万が一、戦闘において大破し且つ、自己修復機能もダウンしてしまった場合……」

治療カプセルは自己修復回路を復旧させることができない。そしてさらに、ゼロ本体の身体データのほとんどが不明確であるため、代わりに傷を癒すこともできない。つまり――――…


「……ゼロはその時点で、“戦線復帰不可能”となる」


セルヴォが重い口調で、話を締めた。
しばらくの沈黙の後、エルピスが「ふむ」と声を漏らし、机を指でトントンと叩く。

「……出過ぎた発言かもしれないが、エルピス…」

セルヴォが再び重い口を開く。

「今後、作戦を立案するとき、これらのことをよく頭にいれてやって欲しい。白の団がネオ・アルカディアと戦う上で、ゼロは重要な戦力だ。たった一人で百のパンテオンに勝る力を持っている。それをみすみす、無茶をさせすぎて潰してしまうようなことは――――…」

「分かりましたよ、セルヴォさん。そこまで言わなくとも大丈夫です」

そう爽やかに笑いながら答える。何故かは知れないが、セルヴォにはその笑顔がどうにも信用できなかった。

「…しかし…厄介ですね。それだけ不安要素が残るようでは…」

「どうにかなりませんか」と目で問われるが、セルヴォには答えようがない。すぐにどうにかできるならば、このような相談を持ちかけたりはしない。――――いや一応、なんとかできる可能性もあるにはある。だが、どうだろうか。

「……シエルに……見せてみてはどうだ?」

迷った挙句、提案する。机を叩いていたエルピスの指が止まる。

「確かに、シエルさんならば解決できてしまうかもしれません。彼女はあの歳で、ネオ・アルカディア一と謳われた“おじいさま”の技術をほとんど理解し、習得しているのですから。ですが、彼女にはそんなことに時間を費やしている暇は無いでしょう」

白の団、最大の切り札となるはずの「システマ・シエル」の設計、シミュレーション。彼女は実際、その仕事で手一杯だ。かといって、自由な時間を潰させるわけにもいかない。

「それに、シエルさんはレプリロイドの修理やメンテナンスについては、何処か一歩引いている気がします」

それはセルヴォも同様に感じていることだった。彼女ほどの技術があれば、十分そういった面でも活躍できるはずだ。しかし、シエルはどうしてもそこに手を出そうとはしてこない。

「ゼロさん自身も体を弄られるのはあまり好きではないでしょうし……」

「それもそうだな」と苦い顔で頷く。あれだけメンテナンスを嫌がっていたのだ。そう何度も体の中身を見せてはくれないだろう。

「セルヴォさん。彼の体のことについては、とりあえずあなたにお任せします。じっくり打開策を考えてください。それと、このことは我々の胸に留めておきましょう」

「ゼロにも……シエルにもこのことは話すな…と?」

エルピスは「そうです」と深く頷く。

「やはり無用な心配は掛けたくないですからね」

それはセルヴォも同じ気持だった。だが同時に、自分の体について知らされないゼロのことを思えば、少し罪悪感のようなものを感じずにはいられなかった。
それから、あらかたの報告と相談を終え、セルヴォは退出しようと、扉を開こうとした。が、寸前であることが気にかかり、振り返って「エルピス」と声をかけた。

「どうしました、セルヴォさん?」

「ああ……」

しかし不意に思いとどまり、「いや、何でもない」と誤魔化してその場を後にした。










「浮かない顔してるな、どうしたおっさん?」

司令室から出て廊下を歩いていると、ゼロとシエル、アルエットの三人と顔を合わせた。

「ああ…ちょっとね。仕事疲れかな。誰かさんがボロボロになって帰ってきてくれたおかげでね」

冗談めかして皮肉を返すとゼロが渋い顔をして返す。「君たちこそどうした?」と問うと、アルエットが嬉しそうに答える。

「おさんぽだよ。ゼロがきちの中を見て回りたいっていうから…“あんない”してたの」

セルヴォは「そうか」と優しく微笑む。――――そう言えば、アルエットがこんなに嬉しそうに話すことも、それに、こんな風によく喋る事も今までにあっただろうか。左手に抱えられたぬいぐるみも、心なしか嬉しそうに見える。

「まあ、それは口実としてな。休める時くらいお子様たちの子守をしてやろうと思ってさ」

「うそいっちゃだめだよ、ゼロ! ゼロが“あんないしてほしい”ってたのんだんでしょ!」

「むー」と口を尖らせて、ゼロに抗議する。「はいはい、すいませんでした」と苦笑と共に、ゼロが謝る。それを微笑みながら、シエルが見守る。

――――ああ、そうか

納得した。この男が――――ゼロがそうさせてくれているのだ。この幼い子たちの小さな笑顔は、ゼロという存在がこの基地にいてくれることで、久しぶりに生まれるようになったのだ。
少しだけ胸の奥で何かが疼く。

「なあ、ゼロ。……最近、何処かおかしな点はないか?」

「は?」とゼロが聞き返す。セルヴォ自身も、何故そんなことを聞いてしまったのか分からない。慌てて取り繕う。

「…いや…一応、傷は完治したが…その後の経過はどうかな…ってね」

そんな苦し紛れの言葉に、少し考えてから、ゼロは笑顔で答える。

「心配要らないよ。この通り、元気にやってるさ。あんたの技術はたいしたもんだよ、セルヴォ」

「そうか。ならいいんだ。いや、そう言ってもらえると嬉しいよ」

素直に喜んだように笑う。だが、心中はいたたまれない気持ちで埋め尽くされていて、それを悟られまいとすることで精一杯だった。
それからしばらく談笑した後、別の仕事をこなさなければならないので、三人とはその場で別れた。アルエットが「またね」と大きく手を振るので、セルヴォも苦笑しながら小さく手を振り返した。
少し離れてから、セルヴォは振り返り、ゼロの後ろ姿を見つめる。そして、先ほどのエルピスとのやり取りを思い出していた。

『ゼロが死んでいたらどうするつもりだったんだ』と、セルヴォはエルピスに問いかけようとした。けれど、それが無意味であることに気づき、口を噤んだのだった。
実際のところ、たとえ前回の作戦でゼロが生きて帰ってこようが、死んでしまおうが、エルピスにとっては結局どっちでも良かったのだ。
ゼロが今回のように生きて帰ってきたならば、「自分の判断は正しかったのだ」と胸を張る。そしてもし死んでしまっていたとしても「英雄を過信しすぎた」と言い、ゼロの側に非があるかのようにすれば、己の指揮官としての資質が問われることはない。
詰まるところ、エルピスにとってゼロは英雄などではなく、白の団がネオ・アルカディアに対抗するための手段の一つであり、自分の手駒の一つに過ぎないのだ。
人格的には認めたくない。だが、その狡猾さは一軍の指揮を執る上で必要なものだろうと思う。

――――だが、やはり……

ゼロと共に笑いあうシエルの姿が目に入る。
仲間を心の底から慈しみ、信じ抜く彼女のことを思えば、その在り方は、そしてそれに従うだけの自分は、どうにも赦されないような気がしてならなかった。













  ―――― 4 ――――



最後のパンテオンを斬り伏せ、周りを見渡す。もう他に倒すべき敵はいない。

「オーケー、ミッション終了だ。これより帰還する」

そうオペレーターに告げると、ゼロはライドチェイサーを走らせ、その場を後にした。
怪我から復帰した後、ゼロは立て続けに三つ程作戦をこなした。作戦と言っても、基地周辺を哨戒しているパンテオンの部隊を殲滅するという単純なものだった。

――――まあ、腕慣らしにはちょうど良かった…かな

エルピスも「リハビリのつもりで」と言っていたくらいで、それ程歯ごたえのある戦いでは無かった。しかし、他の白の団団員からすればパンテオンの部隊を三つも、それもなんの奇策も無しに壊滅させてしまうゼロの力は、非常に偉大なものに感じられた。



基地に戻り、司令室へ戦果の報告に向かうと、エルピスが爽やかに出迎える。

「相変わらずお見事です、ゼロさん。流石は英雄と言ったところでしょうか」

「おーおー、お褒めの言葉傷み入りますよ、司令様。……実際、この程度の戦闘で音を上げてちゃどうしようもないだろ」

「その調子でこれからもよろしくお願いします。――――近々、“レプリロイド解放議会軍”を交えた大きな作戦も待っていますからね。ゼロさんにはそこで大いに働いて頂く予定ですので」

「レプリロイド解放議会軍」――――ネオ・アルカディアに対抗するレジスタンス組織の中でもトップ3に入る一大勢力である。元々はネオ・アルカディアにおけるレプリロイドの警察組織「イレギュラーハンター」の第弐部隊であったが、五年前、リーダーである「マゴテス」が部隊全てを率いて「レプリロイドによる議会の開催と、元老院へのレプリロイドの参加」を要求、反乱を起こし、そのままネオ・アルカディアを抜け、レジスタンス組織として活動している。
人数的には、白の団より遥かに少ないが、元々イレギュラーハンターであったため、戦闘用レプリロイドで構成されており、戦力的には十二分の実力を誇っている。また、パンテオンの脳をハッキングし、自軍の手駒として使うという荒業もやってのけている。

「“レプリロイド解放議会軍”ね……。本当に信用できるのか…?」

「五年もの間、ネオ・アルカディアと渡り合う強豪です。疑うべくもありませんよ」

疑ってかかるゼロを一蹴する。
そもそも、今話したいのはそんなことでは無い。「こちらの画面を見て頂けますか」と、エルピスが机のモニターを示す。
覗いてみると、モニターがいくつかに分割され、様々な情報を示している。しかしよく読むと、それらは全て、あるレジスタンス組織についての情報だった。

「“黄金の鷲”というレジスタンス組織がありました。我々と共同戦線を張り、友好関係にあった組織のひとつです」

引っかかる言い方をされ、すかさず追及する。

「『ありました』…ってことは………」

「ええ、壊滅しました。つい先日のことです」

その報せが届いたのは、つい昨日のことだった。「黄金の鷲はネオ・アルカディアの攻勢を受け、壊滅した」と、他のレジスタンス組織が情報を回してくれたのだ。

「……しかし、我々が敵のメカニロイドをハッキングして、基地周辺の映像を捉えた結果、奇妙なものが映ったのです」

あるモニターをタッチし、拡大する。霧がかっているらしく、ハッキリとは見えないが、数体のレプリロイドらしき影が群れで映っていた。

「パンテオン……じゃあ無いな」

「ええ、電波障害のため画像が鮮明ではありませんが、おそらくパンテオンでは無いでしょう」

パンテオン特有の機械的且つ無機質なボディには見えない。しかし、壊滅したレジスタンス組織の基地周辺を、パンテオンの上官クラスとして据えられるはずの通常のレプリロイドがうろつくだろうか。

「考えられることは二つ。黄金の鷲本拠地に何かネオ・アルカディアが気になるものがあるか。もしくは――――…」

「生存者がいたか…だな」

ゼロの言葉に「その通り」とエルピスが指を鳴らす。

「それらについて、ゼロさんには現地に向かい調べて来て頂きたいのです」

ただの調査だけならば、一般団員に向かわせても構わない。だが、そこにいったい何があるか不明確な以上、ネオ・アルカディアの戦闘員と鉢合わせする恐れもあるため、ゼロに頼らざるを得ないのだ。

「お願いしてよろしいでしょうか、ゼロさん?」

そう尋ねられ、ゼロは鼻で笑って返す。

「俺が断るのは、どうせ前提に無いんだろ? ――――行ってやるさ。それが仕事だからな」








司令室を出て廊下を歩く。調査は明日、向かうことになったので、今日はこのまま自室でひと休みさせてもらうことにした。
とは言うものの、本当に休めるかどうか、分かったものではない。ゼロは側頭部を右手で抑える。
あれから数日経つというのに、相変わらず悪夢を見続けている。それも毎晩、全く同じ悪夢を。そして必ずうなされて起き上がる。静かに眠れたためしなど無い。そしてまた、夢に出てくる「彼女」のことも思い出せないままである。

――――本当に馬鹿馬鹿しい……

夢を見るという事態も、それに振り回されている自分も、どう仕様も無いほどに馬鹿馬鹿しい。

そして次の瞬間、足が止まった。
ゼロは息を飲んだ。――――目の前に、あの女性の背中が見えるではないか。どこかぼんやりと霞んでいるが、確かに“彼女”の背中だ。栗色の長い髪が揺れている。

「……馬鹿な……」

思わず呟く。いったい何がどうなっているのか分からない。どうにも信じられない。
しかし確かに、“彼女”がそこにいた。ゼロの目の前に、“彼女”は姿を現したのだ。驚きのあまり、阿呆のように口を開いたまま硬直する。

「……なんなんだよ…………」

それから震える足で、恐る恐る“彼女”に近づく。――――確かめたいと思った。本当にそこにいるのか。その触感を確かめたかった。“彼女”が何者なのか。そして、その素顔を。ゼロはただ確かめたいと思ったのだ。
そうして手を“彼女”の肩にゆっくり伸ばす。

「こっちを…向け!」

“彼女”の肩を強引に掴み、振り返らせた。――――ハズだった。
しかし、気づけばそこには誰もいなかった。“彼女”の姿は何処にもいない。何処にも見えない。
まるではじめからそこに誰もいなかったかのように、その空間は空虚だった。

――――……確かにそこにいた…。気配があった……

その筈だ。触れられるような感じがするほど、“彼女”の存在には現実味があった。いや、実際に触れたと思った。けれど“彼女”は消えた。

「…ゼロ」

突然、後ろから女性の声に名を呼ばれ、ゼロは勢い良く振り返った。すると、そこにいたのは――――……‥‥







「小娘………か…。………どうした?」

それまでの動揺を、笑顔で隠し、取り繕いながらゼロは尋ねた。シエルは何処か怯えたような様子で立っている。

「ううん、何でもないの。………ただ、ゼロの様子がおかしかったから……‥‥」

「しまった」とゼロは焦った。どこから見られていたのだろう。だが、それについて問いただすのも、余計に不安を煽ってしまう気がした。

「いや……ちょっとな…体の調子が少しアレだったから………少し戦いすぎ…たんだろ、たぶん…」

しどろもどろに説明する。ちゃんと口は回っているだろうか。無理やり笑顔を作っては見たが、おかしくはないだろうか。正直、自分でも何を言っているのか分からなかったし、顔がひきつっているのも、笑い声が乾ききっていたのも分かった。
これ以上はいたたまれなくなり、ゼロは「じゃあな」とその場を離れようとする。

「なにかあったのなら、セルヴォに相談しなきゃだめだよ」

ゼロのコートを咄嗟に掴み、まるで懇願するような目でシエルが忠告する。不安で、心配で堪らないという瞳だった。
それを見て少し考えた後、「ふぅ」と深く息を吐き、ゼロは自分を落ち着かせる。

――――不安にさせてどうする……

そして弱めに拳を握り、シエルの頭を軽く小突く。「痛っ」と声を上げ、シエルが頭を押さえる。コートから手が離れた。

「子どもがいちいち心配するなよな。俺の立場がなくなるだろ?」

人差し指を立て、冗談めかして言う。大丈夫、今度はいつも通りに口が回っている。

「冗談で言ってるわけじゃないのよ……。本当に………心配してるんだから」

シエルは不満そうに口を尖らせる。こういう時、シエルは十四歳という年齢以上にとても幼く見えた。しかし、だからこそ――――……‥‥

「分かってるよ、それくらい」

今度は優しく頭を撫でる。そして静かな声で、諭すように言う。

「俺にはそれが耐えられないんだよ」

それ以上、シエルは何も言えなかった。ゼロの目が何処か悲しそうに見えてならなかったのだ。
それから無言のまま、ゼロは自分の部屋に向かい、シエルもそれについて行った。特に何か用事があったわけではない。けれど、側を離れたくないと思ったのだ。そんなシエルの気持ちを知ってか知らずか、ゼロは彼女に付いて来る理由を問おうとはしなかった。

「エルピスに頼まれてな。明日は、また出なきゃいけないんだ」

ようやくゼロが口を開いたのは、彼の部屋の前まで来た時だった。

「聞いてるわ。黄金の鷲の基地まで調査に行くんでしょ…?」

「ああ。まあ、だから何だってことはないんだが……」

それを伝えてどうしたかったのか、自分でも分からない。ただ、無言のまま別れてしまうのはなんだか良くない気がして、咄嗟に言葉を探しただけだった。けれど、シエルは何か納得したように頷く。

「大丈夫。――――何も心配しないで、待ってるわ」

笑顔を作り、そう言った。するとゼロもまた微笑んだ。

「…ああ、そうしてくれよ。小娘」


お互いに、それが“カラ元気”であることに気づいていたかも知れない。










  ―――― * * * ――――


「時間です。作戦、スタート」

いつも通り、ルージュの冷静な声でゼロは作戦の開始を告げられる。そしてアクセルを絞り、ライドチェイサーを走らせた。そしていつも通り、シエル達がそれを見送る。――――だが、シエルの胸中は決して“いつも通り”ではなかった。

「ねえ、セルヴォ」

「どうかしたかい、シエル?」

内心、不安でたまらないシエルは、どうしても誰かから答えを得ずにはいられなかった。

「ゼロは……なんともないよね…?」

「え?」

「何処か悪いとこ…ないよね?」

問いの意味がすぐに理解できなかったのか、そのまま少し黙ってから、セルヴォは答えた。

「大丈夫。私が見る限り、何も悪いところはないよ。――――急にどうしたんだい? 何か、気になることでも?」

だが、シエルは慌てて首を横に振る。

「ううん、そういうワケじゃないの。ごめん、変なこと聞いて……‥‥」

そうだ、何も悪いところはない。そう信じるのだ。――――シエルはそう決めた。
昨日見た、あの光景は自分の胸に締まっておこうと、きっと自分が心配性なだけなのだと、そう言い聞かせた。

昨日、廊下で見たとき、ゼロはただそこに立っていた。――――そう、ただ“立っていた”のだ。何もせず、何も言わず、名前を読んでも返事もせず、反応すらせず、ゼロはそこに“立っていた”。呆然と、まるで魂が抜けた抜け殻のように、立ち尽くしていた。
おかしく思ったシエルは何度も呼びかけた。そして、何度目かの呼びかけに、ゼロはようやく振り向いた。けれど、その時のゼロの顔は非常に険しく、それでいて何処か苦しそうで、いつものゼロではなかった。

――――まるで何かに取り憑かれているみたいな……‥‥

そんな印象を受けた。けれど、シエルはその考えに蓋をした。
それ以上、思い悩んでどうする。ゼロ本人も、セルヴォも、何も問題ないというのだからそれを信じるしか無い。ただ今は作戦の成功と、無事に帰還することだけを祈るのだ。

――――それに

分かっている。自分には赦されない。――――これ以上不安になることも、心配をすることも。彼の身の安全を祈ることだって、本当は赦されるはずがないのだ。そんなことをするくらいなら、最初から――――……‥‥
そこまで来て、それ以上は考えないことにした。途方も無い、懺悔のしようもない後悔しか生まれないのだと分かっていたから。

ただ、離れてゆくゼロの背中を、シエルは見えなくなるまで見つめていた。













  ―――― 5 ――――


カツン、カツンと無機質な音を立て、ゼロは荒れ果てた旧黄金の鷲基地の中を歩く。
ネオ・アルカディアとの戦闘の傷跡が生々しく、基地の至る箇所に見受けられ、そこは惨々たる状況だった。壁面は剥がれ、内蔵されていたコード類は垂れ落ち、床も決して歩きやすくはない。
ここでどれだけ激しい戦闘が起こり、どれだけの犠牲が出たのか、容易に想像しうる光景だ。
だが…………ゼロはある事について非常に奇妙に感じていた。

「ゼロ。ここが管制室だよ」

右腕に付けられた水晶のような装置が光り、サイバーエルフ――――デルクルが飛び出す。基地内の設備や記録を解析できるようにと、念のためエルピスから連れていくように言われたのだ。
ただ侵入させるだけならば本部にある、彼らの情報を収めたコアユニットからネットを介して行うことももちろん可能だが、その方法だと何処かで足がついてしまう危険性がある。そこで、サイバーエルフを一度実体化させ、回線に侵入させるという方法がとられるのだが、情報生命体であるサイバーエルフが実体化できる範囲には限界がある。コアユニットの周囲、またはそこに有線で直結した回線の周囲でなければサイバーエルフは実体化することはできない。だから小型のコアユニットに彼らの情報を移し、移送するという形が取られており、今ゼロの腕につけられている装置はその小型コアユニットというわけだ。

「ここもひどい有様だね」

デルクルの言うとおり、管制室内も惨たらしい傷がいくつも残っていた。こんな最深部まで敵の侵入を許してしまったのでは、壊滅するのは当然だろう。
しかし、やはりここにも“何も無い”。

「デルクル、早速この基地の回線に侵入して、何か情報がないか探ってくれ。それと、基地内の監視カメラの情報もよくチェックするように――――誰か生存者がいるかも知れないからな」

「探索深度は?」

「任せる。デリートの危険性が無い部分まででいい」

「了解」と言うと、デルクルはまだ息のあるコンピューターに一人で侵入していった。
それを見届けると、ゼロは少しだけ傾いた椅子に腰掛け、息をつく。
実際、自室に戻っても、少しも休めていなかった。悪夢に怯え、眠りに就くことすら拒み、ただずっと座り込んでいただけだった。

「情けないよな」と自嘲する。廊下で幻覚まで見てしまう自分の現状には不安を通り越して、嘲笑しか生まれなかった。
何より、シエルにあの姿を見られてしまったことが、ゼロにとっては一番の失態だった。いや、見られたこと自体は問題ではなく、本当に問題なのは彼女に心配をさせてしまったことだ。
あんな年端も行かぬ少女に、何もかもを背負わせたくない――――そう思っていたのに、自分が重荷を一つ背負わせてしまっては本末転倒だ。

「あいつがそういう人間だって分かってるハズなのに……な」

髪を掻き上げ、そう呟く。
その後で、ふとセルヴォの問いを思い出した。

『君は、シエルの何に惹かれたんだ?』

未だその問いに答えられない。あの少女のために剣を振るうと決めた理由。それは“直感”という言葉で片付けていいものでもない。

――――戦う理由……か…

過去の自分はいったいどんな理由を持って戦っていたのだろうか。それが思い出せれば、自ずと問いの答えも出せるかも知れないと思った。
そうこうしている内に、探索を終えて戻ってきたデルクルがゼロを呼ぶ。

「データをそっちに送るよ」

そう言ってコアユニットの中に戻る。コアユニットを通じて、デルクルが取得してきた基地内の情報がゼロの脳内に浸透してゆく。その全てを瞬時に閲覧し、必要な情報、不必要な情報を振り分けてゆく。

――――これといって、何か問題になるような事項はないな…

他のレジスタンス組織の配置などといったネオ・アルカディアのほしがりそうな情報は含まれておらず、エルピスがはじめに言った可能性の一つはほぼ消えた。もちろん、ネオ・アルカディアが情報を収集した後に、削除した可能性もなきにしもあらずだが。
しかしそもそも、ほとんどのレジスタンス組織は、たとえ協力関係にある組織であろうと通常は拠点の情報などを開示したりすることはない。黄金の鷲のような事になる危険性は十分にあり、その際に情報が漏洩してしまえば、協力関係にある組織全てが芋づる式に暴かれてしまう恐れがあるからだ。
今度はゼロの脳内に映像が流れ始めた。基地内の監視カメラが収めた情報の一部だ。だがほとんどのカメラは壊されてしまっているため、戦闘時以降の記録はほとんど見つけられなかった。予想はしていたが、これほどまで情報がないのは困る。

――――いや、待て

カメラが端で捉えた映像に注目する。格納庫のものだった。戦闘の中、破壊されてゆくライドアーマーや戦車。飛び交うビームを尻目に、物陰に隠れて進み、既に破壊されたそれらのマシンに乗り込む数人の影が見える。パンテオンたちは気づいていない様だ。カメラは次の瞬間、破壊されてしまってそれ以降の映像は確認できなかったが、ある可能性が出てきた。

「生存者がいるかも知れないな」

そう納得すると直ぐ様椅子から立ち上がり、歩き出す。デルクルが収集してきた基地内の地図を頼りに格納庫へと足を向けた。






「ねえ、ゼロ。なんだか不気味なほど静かだね」

格納庫に着いた時、これまでの道のりの雰囲気にデルクルがそう呟く。すると「お前もようやく気づいたか」とゼロが笑う。

「ああ、そうだ。ここには不気味なほど“何も無い”――――メカニロイド、パンテオンの残がいも……そして絶対にあるはずの、黄金の鷲メンバーたちの残がいも、“何もかもが無い”」

激しい戦いの跡が随所に見受けられるのに、肝心の遺骸がどこにもないのだ。まるで誰かが綺麗に掃除し尽くしてしまったかのように、誰の体も残っていない。

「この不気味な状況が例の問題の答えになるかも知れないな」

そう呟いた後、格納庫内を見渡し、そして声を張り上げる。

「俺は白の団から、エルピス団長の命令で調査に来たゼロだ。誰か生き残っているやつがいるなら返事をしてくれ。こちらで保護させてもらう」

声の残響が消えた後、またも格納庫内は静寂に包まれる。
呼びかけに応じてくれる者がいるかどうかは一つの賭けではあったが、ある程度の勝算があっての賭けだった。もし、生存者がいるならば、ここ数日身を隠していた分、精神的にも弱っているだろう。となれば、友好関係を持っている白の団の名を名乗れば、耐え切れず顔を出してくれるハズだと考えたのだ。そして、その予想は見事に的中する。
ガシャッと音が鳴る。キャタピラが崩れ、砲台が折れ曲がった戦車のハッチが開いた。恐る恐るこちらを見ながら頭を出してきたのは、赤毛を三つ編みした女性レプリロイドだった。こちらをじっと、警戒しながら見つめている。

「安心してくれ。さっきも言ったとおり、俺は白の団に所属しているゼロってもんだ。ここの生存者を保護しに来た」

そう言って、両掌を広げ、得物を持っていないこと――――戦う意志がないことを示す。すると彼女は戦車の中を見つめ、何か語りかけてからゆっくりと外に出てきた。そして彼女の後に続いて、二人ほど男性レプリロイドが出てくる――――だが、一人はどう見ても衰弱しきっており、もう一人が支えてようやく歩けている。

「白の団……の方なんですね…?」

女性レプリロイドが恐る恐る尋ねてくる。まだ警戒はしているようだ。

「そ。白の団の者だ。そう言う君たちは黄金の鷲のメンバーで間違いないかな、お嬢さん?」

軽い調子で尋ね返す。とにかく相手の警戒心を解きたかった。

「……けど…あたしたちが知っている白の団のユニフォームと違うんですけど………それは何かワケが?」

「ああ、これか」と自分のコートを摘んで見せる。
そう言えば、白の団の戦闘員は皆もっと地味な、深い緑色のユニフォームを纏っていた。しかし、ゼロのコートは派手に紅い。どう説明しようかと考えたが、答えはすぐに浮かんだ。

「俺はね、特別なんだよ」

「特別?」

「ああ。耳にしてないか? 白の団が“伝説の英雄”を仲間にしたって。“百年前の英雄”をさ」

あのエルピスのことだ。ゼロの立場を考えれば、白の団の宣伝に使っていないはずがない。ならば“英雄”の話は黄金の鷲の耳にも入っているだろう。
すると、支えている方の男性レプリロイドが女性レプリロイドに声をかけた。

「確かに聞いたことがあります――――『白の団がネオ・アルカディアの秘密研究所から“百年前の伝説の英雄”を復活させた』と。そう言えば“ゼロ”という名前にも聞き覚えがあります…」

「じゃあ…あなたが噂の………」

「分かってくれたかな、お嬢さん――――そんなところで一つ、君の名前も教えてくれないか?」

そう促すと、女性レプリロイドは自分の胸に手を当て、自己紹介をした。

「あたしの名前は“ティナ”。黄金の鷲のメンバーです。……今はもう、壊滅してしまいましたが。それと、あちら――――支えている方――――が“ダスティン”、もうひとり――――支えられている方――――が“チャーリー”」

ティナが紹介すると、ダスティンは軽く会釈をした。チャーリーの方はぐったりとしたまま、一人で何かぶつぶつと呟いているだけで、ゼロに対してはなんの反応も示さない。

「それじゃ、一通り自己紹介を終えたところで――――率直に聞かせてもらう。なにがあった?」

尋常ではない状態のチャーリーを指差し、ゼロが尋ねる。ダスティンは目を背け黙りこむ。ティナは少し言葉に迷ってから、ようやく問いに答えた。

「それが……分からないんです……」

「分からない?」

「はい……。恥ずかしながら、ご存知のようにあたしたちは戦車の中で戦闘をやり過ごしました」

事態が終息した頃、チャーリーは『基地内の様子を見てくる』と戦車を飛び出し、格納庫から一旦外に出た。そして、それからしばらくして帰ってきたときには既に――――

「この状態だったわけか……」

それだけの話で容易に納得出来るような、尋常な状態ではない。しかし、おそらくここにいるティナとダスティンにも、本当に何が起こったのか分からないのだろう。ゼロは無理矢理にでも納得するしか無いのだと、自分に言い聞かせた。

「仕方ない……。とにかく今大事なのは、事態の把握よりも安全の確保だ。とっととここを出るぞ」

「待ってください。まだ生き残りがいるかも…」

そう言って引きとめようとするダスティンに、ゼロはすかさず異を唱えた。

「生き残ったのはお前たちだけさ。……“基地内の映像データを見た限り”だが」

「それなら……‥‥」

「それに、まだ気がかりなことがある」

肝心な問題がまだ一つ残っている。

「今の今まで、唯一の生存者であるお前たちは戦車の中に隠れていた…――――つまり、白の団のメカニロイドが捉えた人影の正体については、未だ謎のままだ」

「人…影……って!?」

その言葉にティナとダスティンは衝撃をうける。その様子こそ、“それ”が彼ら以外の何者かであるという確かな証拠だった。

「詳しいことは道中、俺が分かる範囲で話してやる。分かったらさっさと来い」

そう促すと、ティナ達三人を引き連れ、足早に格納庫を後にした。生存者の安全を確保するという理由も勿論だが、何よりゼロ自身が、この不気味な場所から早く抜け出したいと感じていたのだ。
基地施設内の廊下を慎重に歩く。チャーリーが今の状態になった理由が分からない以上、警戒を怠ることは決してできない。

「……でも、本来の任務はその人影を突き止めることでしょ…?」

デルクルがおそるおそるゼロに尋ねる。確かに、エルピスがゼロに依頼したのは人影の正体を明かすことであって、人命救助ではない。

「だとしてもさ。この連中を抱えたまま、そんな得体の知れないモノを調べるのは御免だよ……」

後ろについてくるティナたちを親指で指し示し、小声で答える。
“それ”が敵の側にある物だった場合、戦闘は避けられない。そうなればティナ達を守りながら戦うことになる。

「可能な限り、リスクは抑えたい。不安要素が多い今、とにかくここから出ることを第一に考えるべき……――――…ッ!?」

瞬間、言葉を切ってゼロは急に立ち止まり、身構える。片手で制止するのに倣って、ティナ達も足を止めた。

「ゼロさん…なにが……」

尋ねてくるティナに向けて、人差し指を口に当てて黙るように注意する。
剥がれた床のタイル。剥き出しのコード。生々しい傷の残る、電気系統の不具合により暗闇に覆われた廊下。――――そこに一人のレプリロイドが立っていた。

「……誰だ…?」

静かに、しかしはっきりとゼロは尋ねた。腹部から下しか見えないが、どうやらパンテオンではない。それどころか、黄金の鷲のユニフォームを着ているようだった。
だが、様子がおかしい。共に生き延びた仲間と出会えた喜びを分かち合うという風でもなく、チャーリーのようにぶつぶつと何かを呻くわけでもなく――――それどころかゼロの問いに答えようとすらしない。
そしてまた突然の周囲の変化に、ゼロは息を飲んだ。

――――……霧…!?

施設内だというのに、もやもやと霧が立ち込めてくるではないか。

「絶対に離れるなよ……」

ゼロの声に、ティナは咄嗟に後ろにいるダスティンの腕を掴み、前に構えるゼロのコートの端を握りしめた。瞬間――――…


「…――――アァア在ぁ阿ァぁァ嗚呼ぁァァ厚唖々痾ァッ!!!!」


目の前に現れたレプリロイドは、尋常な言語とは取れない奇声を発し飛び掛ってきた。それをゼロは――――ティナが大声で叫ぶよりも早く――――左腕から抜き出したゼットセイバーで一気に両断した。
頭頂から股までを見事に引き裂かれたボディが床に崩れ落ちる。

「……デルクル、様子を見てくれ…」

あくまでも冷静に指示する。デルクルはゼロに従い、遺骸の側に寄った。

「……ゼロ! これ……!」

そのレプリロイドは確かに黄金の鷲メンバーだった。しかし、そのボディは銃痕と刀傷で幾重にも傷めつけられ、何より動力炉が大きく抉られており、とてもまともに動ける状態ではなかった。

「なんだコイツは……………ッ!?」

再び息を飲むゼロ。目を向けると、霧の中にまた複数の人影が見える。ゆらり揺らめきながら、こちらへと近づいてくる。――――だが、ゼロがもっとも驚いたのは“そんなこと”ではなかった。
左足に感じた違和感。そこに注目すると、その信じ難い異様な光景はすぐに視界に映った。
切断されたはずの右半身から伸びる右手――――いや、それだけではない。胴と繋がっていない片腕、頭部のないレプリロイドのボディ、そしてまたレプリロイドの頭部そのもの等、いくつもの残骸がゼロの足元に、まるで生き物のように群がっていたのだ。

「…っあぁぁあ!!」

叫びながら脚を振り、亡者どもを蹴散らす。その風圧で霧が散り、近づいてくる集団の様子がハッキリと見て取れた。
ティナは叫ぶどころか絶句し、ダスティンは震えるティナの腕を握り返す。ゼットセイバーを殊更強く握ったゼロは、思わず呟く。

「…なん……なんだ……コイツらは…!?」

首が無いだけならまだいい。四肢がもがれ、剥き出しのコードをだらしなく垂れ下げて、擬似体液をそこら中に撒き散らしながら、スクラップ同然のレプリロイド達がこちらに向かってその歩を進めてくる。
それも一体、二体という数ではない。数十体以上の群れが、その状態で動いているのだ。


そして次の瞬間、まるで生者の肉を求めるように、屍の軍団はゼロ達に向かって一斉に飛び掛ってきた。











 NEXT STAGE







       死屍軍団















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