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No.34283の一覧
[0] [Z-E-R-O] (原作:ロックマンゼロ、ロックマンX)[村岡凡斎](2013/09/18 15:00)
[1] はじめに[村岡凡斎](2012/07/18 16:08)
[2] Prologue[村岡凡斎](2012/07/18 16:24)
[3] Waffle for Chapter[村岡凡斎](2012/11/07 01:25)
[4] OPENING STAGE 「涙の少女と寝起きのマルス」[村岡凡斎](2012/10/29 15:54)
[5] 1st STAGE 「剣」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[6] 2nd STAGE 「星に願いを 夜空に問いを」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[7] 3rd STAGE 「包囲戦線」[村岡凡斎](2013/11/25 19:59)
[8] 4th STAGE 「亡霊の影」[村岡凡斎](2012/10/29 15:59)
[9] 5th STAGE 「死屍軍団」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[10] 6th STAGE 「キズダラケ」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[11] 7th STAGE 「渇望/葛藤」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[12] 8th STAGE 「未来」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[13] 9th STAGE 「理想郷の詩」[村岡凡斎](2012/10/29 16:02)
[14] COMMENTARY 1[村岡凡斎](2012/09/18 18:22)
[15] 10th STAGE 「紅いイレギュラー」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[16] 11th STAGE 「救い」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[17] 12th STAGE 「ウラギリ」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[18] 13th STAGE 「闘将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:27)
[19] 14th STAGE 「証明」[村岡凡斎](2012/10/30 23:28)
[20] 15th STAGE 「レスキューコール」[村岡凡斎](2012/10/30 23:29)
[21] 16th STAGE 「世界を覆う白雪の上で」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[22] 17th STAGE 「理想の表裏」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[23] 18th STAGE 「color of mine/d」[村岡凡斎](2012/10/30 23:31)
[24] 19th STAGE 「妖将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:32)
[25] 20th STAGE 「届かぬ想い、その結末。」[村岡凡斎](2012/10/30 23:33)
[26] 21st STAGE 「デンジャラス・デイ」[村岡凡斎](2013/05/07 21:37)
[27] COMMENTARY 2[村岡凡斎](2012/10/30 23:37)
[52] 22nd STAGE 「レプリロイドは ぜんまいねずみの夢を見るか?」[村岡凡斎](2012/11/07 01:09)
[53] 23rd STAGE 「殺戮舞台」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[54] 24th STAGE 「罪 と 罰」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[55] 25th STAGE 「Raging River」[村岡凡斎](2013/11/19 00:54)
[56] 26th STAGE 「ABSOLUTE - JUSTICE」[村岡凡斎](2012/12/17 00:06)
[57] 27th STAGE 「隠将」[村岡凡斎](2013/01/28 22:27)
[58] 28th STAGE 「再会」[村岡凡斎](2013/05/07 21:39)
[59] 29th STAGE 「暗躍の調」[村岡凡斎](2013/05/25 23:30)
[60] 30th STAGE 「死者の国」[村岡凡斎](2013/06/23 01:04)
[61] 31st STAGE 「乱戦四重奏」[村岡凡斎](2013/08/03 00:49)
[62] 32nd STAGE 「Red, White and Bullet Blues」[村岡凡斎](2013/09/18 14:58)
[63] 33rd STAGE 「    」[村岡凡斎](2013/09/28 16:02)
[64] 34th STAGE 「月と影、そして太陽」[村岡凡斎](2013/10/06 09:36)
[65] 35th STAGE 「残光の行方」[村岡凡斎](2013/11/02 15:37)
[66] 36th STAGE 「救世主」(前)[村岡凡斎](2013/12/24 14:36)
[67]          「救世主」(後)[村岡凡斎](2013/12/25 11:54)
[68] FINAL STAGE 「Message from...」[村岡凡斎](2014/01/25 17:09)
[69] LAST COMMENTARY[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
[70] おわりに[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
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[34283] FINAL STAGE 「Message from...」
Name: 村岡凡斎◆45ff140f ID:e5a820fd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/01/25 17:09













    その日、一つの世界が終わりを告げた。















    そして、一つの世界が始まりを告げた。






    けれど、それもまたいずれ終りを迎えるだろう。


    明日か。明後日か。来週か。来月か。一年後か。十年後か――――


    いずれにしても、そう遠くない未来で。

























    終わりのない物語など、何処にも在りはしない。




































 FINAL STAGE











        Message from ...


























  ――――  1  ――――





「ここに、ネオ・アルカディア共和国の設立を宣言する!!」


ヴィルヘルムによる高らかな演説の直後、メガロポリス中心区域ユグドラシルでは大喝采が巻き起こった。
偽りの救世主を打倒した今、ネオ・アルカディアに住む人々――――地球上に残った人類の歴史に、新たな1ページが刻まれたのだ。
「人間の、人間による、人間のための国家」という名目のもと。人間が頂点を再び“勝ち取った”瞬間であった。

大きく掲げられながら、偽りの救世主の顔写真が松明の火で燃やされる。メガロポリス市街を、急遽組まれた新政府設立記念パレードが闊歩し、紙吹雪が舞い、喝采が鳴り響き続けた。
しばらくして、形ばかりの選挙が行われ、再び元老院議員が選出された。ヴィルヘルムは大統領という地位で政府のトップに立った。
一週間と経たぬ内に、新政権の方針が打ち出され、その後には新憲法が発布され、勢いを増してイレギュラー狩りが行われ、軍備増強が行われ、レジスタンス組織殲滅隊が組まれた。
将の半分を失った四軍団は、直ちに解散となり、新政権の下に賢将、妖将が降る形となって、新たな防衛軍が誕生した。

光陰矢の如し――――とは言うが、そんな月日の経過よりも速く、世界の何もかもがあっという間に様変わりしてしまった。
正義のベクトルも、悪の指標も、信念の意義も、未来のヴィジョンも……何もかもがひっくり返ったような心地がしてならなかった。






「――――それでも、私にはこの世界が良い方向へ向かっているとはとても思えないの」

キャップ帽を目深にかぶって喫茶店のテラス席に一人座り、行き交う人の表情を観察するように眺めながら、ネージュは呟いた。
背中越しに別のテーブルに掛けているフランツが、憂かない声で「ええ」と答える。

「全く、同意しますよ。……聞いているでしょ、元老院内部での軋轢の噂」

鮮やかな革命劇の裏を返せば、そこあるのは、権力者達による不穏な腹の探り合いだった。

「当初、議会内でヴィルヘルム派を表明していた議員の半数以上が、今では不穏な態度を見せていますから」

“英雄”不在での救世主追放、聖騎士団長ペガソルタ・エクレールの喪失、強引な改革――――その他諸々の事情を踏まえて、ヴィルヘルムのやり方に民衆の心が付いていかないことを悟った者達は、彼に見切りをつけ始めたのだ。

「そこに来て、バイル名誉議長に対する国家反逆の嫌疑、末の投獄……しかし、冤罪の可能性大――――とくれば……元老院内部はガタガタっすよ……」

偽りの救世主との繋がりを疑われたバイルは、彼の死後、直ぐにヴィルヘルムの私兵によって拘束され、ヘルヘイムに連行された。
疑いが晴れるまで……とのことだが、それが反対勢力に対する牽制であることは明らかだった。しかしまた、その決断がヴィルヘルム自身の首を絞めたのも間違いなかった。

自身の椅子が追われることを恐れての事だったのだろうが、全てが裏目に出た。
バイル卿投獄から十日が経過した今も、国家反逆の証拠が何一つ出ず、ヴィルヘルム派の立場は悪くなる一方。
そうした内部の関係事情から、ヴィルヘルムが敷こうとしていた独裁政治には当初から亀裂が入り、政権の早期崩壊もあり得ると言われる始末だった。

「すぐにまた国のトップが入れ替わりますよ。……ったく、落ち着かないもんすよ」

「それだけで済むならまだ良いわ」

フランツにすかさず言い返す。ネージュの言葉に、フランツも思わず黙りこむ。
そうだ、トップが変わるだけならばいい。ヴィルヘルム以外の、別の議長に変わる程度であるならば。

政権が不安定なことなど、国中が戦火に包まれるよりは、遥かにマシな話だ。



「……結局、黒狼軍討伐も、紅いイレギュラー討伐も完遂しないまま、十七部隊は解散らしいすね」

この際だからと、フランツは個人的に気にしていた情報を口にする。勿論、ネージュも掴んでいたらしく、特別驚くような声は上げなかった。代わりに、しばらくの沈黙が流れる。
静かにゆらめくコーヒーの湯気を見つめてから、カップを口元に運び、僅かに口に含む。ネージュの口内には、しっとりとした苦味が酸味とともに広がった。

「仕方のない事だわ。彼らは、結果を出せなかったのだから……」

結成から半年近くの月日が流れたが、当初の目的の内、マゴテス討伐しか達成できなかった。
数度のニアミスを重ねたというのに、紅いイレギュラーをみすみす取り逃がし、黒狼軍に至ってはその本拠地を見つけることすら出来なかった。
遂には、偽りの救世主討伐作戦において、指示を半ば無視するような形で待機を続けた。十七部隊という看板のおかげか、責任追及はなんとか免れたが、隊は解散、通常編成へと戻されることとなったのだ。

「意外なことといえば、ヴィルヘルム……大統領が選んだ国防軍の総司令官が――――」

「……賢将、ハルピュイアだそうね」

ヴィルヘルムと最も反目し合っていたと言ってもいい相手、四天王リーダー、賢将ハルピュイアが共和国防衛軍の総司令官に就いたことには、誰もが驚きを隠せなかった。それも、ヴィルヘルム自らの推薦であったのだから尚更だ。
ペガソルタ亡き後、聖騎士団もまた国防軍に近衛兵団として組み込まれたが、それもまた、総司令官の指揮下に置かれるというのだから、元聖騎士団員たちも不満を漏らさざるを得なかった。

ちなみに、偽りの救世主が暴かれた時、査問委員会にまで掛けられたというのに、賢将ハルピュイアはこれを二つ返事で快諾したという。

「……レプリロイド嫌いの大統領が、あの賢将様に頼るとは……」

言葉を区切ると、声のトーンを落とし、背中越しのネージュにだけ聞こえるように「何を企んでいるんでしょうね」と個人的な問いを口にした。
これまでの失態のバランスを調整するためだろうという見解は、至るところで述べられていた。
しかし、ここまで策謀を張り巡らし続けてきたヴィルヘルム卿のことだ。きっとその裏にはまた彼なりの、何らかのシナリオが組まれているのだろうと、内情を理解している一部の者達は皆、訝しんでいた。
だが――――ネージュは右手に掴んだカップの取っ手を、親指で二度三度撫でた後、彼女なりの見解を口にする。

「きっと……彼自身には狙いなんてないわよ」

「え?」

「頼らざるを得なかったのよ、ヴィルヘルムは。……きっとね」

周りを敵ばかりに囲まれ。陰謀も完璧に遂げることが出来ず。ようやく掴んだ栄光の崩壊が、すぐ目の前に迫っている今。
彼が頼るに選んだ相手が、ハルピュイアだった。ただそれだけのことだったのだろう。と、ネージュは直感的に思い当たった。
なにせ彼は最後まで、レプリロイドの“英雄”を仕立てあげようとしていたのだから。


「私が思うに、彼の最大の過ちは――――『自分自身もまたレプリロイドに頼っている』という事実から、目を背けていたことよ」


一呼吸を置いてから、取っ手を掴み、カップを再び口元へ運ぶと、残りを一気に飲み干した。
それから席を立ち、寂しげに渋々フランツが差し出すメモ書きを受け取った。

「ここは、俺が払っておきますよ」

「ありがとう。甘えさせてもらうわ」

「……ネージュさん……やっぱり行くんすか?」

「行くわよ。だって、ジャーナリストだもの」

メモ書きに書かれている住所は、政府の内実を知る人物との待ち合わせ場所だった。
これからネージュは取材に行く。ともすれば国家を転覆させるかもしれない連中の腹の中を探るために。
それは危険極まりない道に違いなかった。
しかし、それを彼女は「ジャーナリストだもの」という一言で、簡単に説明してのけた。

「……あなたの方こそ、ありがとね。それなりに難しい役回りさせて。別会社の社員なのに」

「いいですよ。それくらい。……どうせ、オリンポスプレスじゃ何掴んでも、まともな記事にできませんから」

国家の裏を暴くような記事を出せるような大手新聞社は存在しなかった。
ネージュが、結局流れついたモンサンポスト紙のような三流新聞だからこそ、できることがあった。勿論、それでもある程度の制限は出てくるのだが。

「仕方ないわよ。……あの“ハゲじじい”も、どうせちゃんとしてないんでしょうから」

かつての上司を思い浮かべて悪態つく。
それからクルリと振り返り、「じゃあね」と手を振り歩き始めた。――――と、「待ってください」とフランツが慌てて立ち上がる。
ネージュは困ったように口をへの字に曲げて「ちょっと」と叱咤する。ここでの邂逅は名目上内密事項だというのに。
フランツはバツが悪そうに口を一度手で覆い、それから視線を逸らす。

「……デスクは……コリニー部長は…………ネージュさんのこと、いつも気にしてますよ」

不意に、建物の隙間から流れてくる乾燥した冷たい風が、髪を優しく撫でた。
ネージュはキャップ帽のつばから上目遣いにフランツを見つめる。

「……分かってる。ありがとう」

――――あなたの人脈だけじゃ、このメモの相手にアポイントも取れなかっただろうことも、全て、分かっている。

再び街中を見渡す。ふと視界に入るのは、娘の手を引く父親の姿。大きい手が小さな手を優しく包み込んでいた。
その温もりを、自分は実際には感じたことがなかった。けれど何故か、容易に想像することが出きた。まるで、この心がそれを覚えているかのように。
そして、並んで歩く母親と思しき女性も含め、三人は笑顔だった。幸せが包んでいた。きっと、壊したくない彼らなりの平和が、そこに在るのだろう。

「私には……守るものはないから。……ううん。この信念以外、無いから。譲れないの。だから、進めるの。――――気にしないで、フランツ」

「ネージュさん……体に…気をつけてください」

そう言って、歩き出す背中に向けて静かに別れを告げた。
フランツは寒さに悴む指を温めるように、コートのポケットに手をつっこみ、僅かに俯く。
それから、鼻を小さく啜った。







































  ――――  2  ――――


ヴィルヘルムの勝利宣言が行われている頃、白の団内部は慌ただしい雰囲気に包まれていた。
エルピスの指示の下、基地内の備品整理を始め、“引っ越し”用の荷造りを始めたのだ。




「ヴィルヘルムの指示を受けて、ネオ・アルカディアの軍勢がレジスタンスの一掃に動き出しました」

三次元ヴィジョンに映しだされたマップデータ。そこには、展開するネオ・アルカディア軍の配置が示されていた。
政権交代のゴタゴタから、情報を掴むのは逆に容易になったが、そうして全てのレジスタンスが気付かされたのは、ネオ・アルカディアが持つ本当の兵力だった。
ゼロが得た情報通り、救世主はイレギュラー戦争の延長となる戦いを続けるつもりだった。その為、ヴィルヘルムが公開した通り、その兵力は実際に動員できる数の半数程度に留まっていたのだ。
裏で何者が情報操作を続けていたのかは知らないが、こうして全てが明かされた今、レジスタンスの勝ち目はほぼ無に等しくなったのだ。
――――だが、白の団は諦めない。

「この拠点から移ります」

ルージュが次に映したのは、新拠点の位置情報と内部映像。
斬影軍団と烈空軍団による侵攻作戦の直後から、拠点移動の案は挙げられており、それについてオペレーター陣が総出で次に使える廃施設を探り続けた。
ネオ・アルカディアが次に、それも今まで以上の戦力で攻めこんでくれば、もう耐えられるわけがない。場所が暴かれたこの拠点を放棄する以外にそもそも道はなかった。

「規模はこちらより小さめですが、イレギュラー戦争後期に整備されたため、施設は整っています」

ギガ粒子砲、エニグマのような奥の手も今度は備えていないが、拠点として使うには十二分と言っていい。

「これより二日後、移動作戦を開始します。その間に、備品整理を済ませてください」












拠点の移動が決定すると直ぐに、団員たちはそれぞれの荷をまとめ始めたのだが、整備班員やオペレーターたちにはそれ以外にも重要な任務が与えられていた。

「使えないマシンは全て手筈通り、入口付近に設置しとけ!」

この拠点にも敵は間違いなく突入をかけてくる。それに対し、エルピスは一矢報いようと作戦を整備班に伝えていた。
ジョナスが指示する傍ら、ドワがため息を漏らす。

「よもやこのような使い方をしちまうとはなあ……寂しいもんだよ」

「仕方ありませんよ、班長。ヴィルヘルムにとって俺達は目の敵でしょうから。むしろこれくらいしてやらないと」

移動しながら、敵の突入に合わせ、各出入口付近を遠隔操作で爆破しようというのだ。
その火力増強のため、整備が間に合わないマシンを利用する指示が降りていた。

「生き残るために必要な策を取るんです。その為に使われるなら、こいつらも浮かばれるでしょう」

そう言って、故障したままのライドチェイサーを優しく撫でる。
「うむ、そうだな」とドワも吹っ切り、自分の仕事に取り掛かり始めた。






「そっちのバックアップ作業はどう?」

ひっきりなしに鳴り続けるキーボードのタイプ音。それが響く管制室内。
ジョーヌが部下のオペレーターに話しかける。

「80パー…ってとこでしょうか」

「期日には間に合いそうね」

微笑む彼女の横で、ルージュが他のオペレーターに指示を飛ばす。

「旧四軍団の編成データ等、不要なものは削除して行きます。あ…そこ、ミュートスレプリロイドの戦闘データは貴重品ですから、気をつけて」

無論、二人は互いに課せられていた、他の倍近い仕事を早期に仕上げてからの監査である。
「こういう時はテキパキこなすのね」というルージュの皮肉に、真っ先に終えたジョーヌは「まあね」と笑顔で答えていた。

「それにしても、慣れ親しんだ場所とのお別れって……必要とはいえ、寂しいよね」

そう言いながら、自身がよく使っていたコンソールを切なげに眺める。
二年前、白の団結成とともにこの本拠地へと入ってからというもの。敵データ分析、戦闘シミュレーション、作戦立案等……彼女たちも、この場所で闘い続けていた。
前線ではなかったが、この場所もまた、一つの戦場となっていたのは言うまでもない。

「そんなことを言ってられないくらい、またどうせ忙しくなるわよ」

そうだ、戦いは続く。諦めない限り。前に進む限り。
きっと移ってから直ぐに、彼女たちの戦いも再び始まる。そうなれば、この場所を惜しむ暇などありはしないだろう。
そんなことを微笑みながら言うルージュに、ジョーヌはしかめっ面を浮かべる。
「うへぇ……それは、ちょっと嫌だなあ」などと言いつつも、ルージュにはその表情がどこか嬉しそうに見えた。










「“引っ越し”…つったって、私物なんて殆ど無いからなぁ」

コルボーは自室を眺めながらぼやく。
レジスタンスとして活動するレプリロイドが、着衣も含め、まともな私物を持っているわけもなく、備品の整理は早めに済んだ。
持っていくものがあるとすれば、亡き友の形見くらいか。

「トムスのか、それ」

ヘルマンが指差すのはコルボーの荷物に入れられていた帽子だった。
「そ」と答え、誇らしげに笑う。

「遺体を回収できない奴らもいるけど、もしできるなら、一緒に新しい場所に連れてってやりたいからさ」

「そうだな」

微笑みながら言うヘルマン。かくいう彼も、マークの遺品を自分の荷物に詰めていた。
たくさんの仲間が亡くなった、忌まわしい場所と思うことも出来る。けれど、仲間たちとともに過ごした大切な場所であるのも間違いなかった。それだけに、惜しむ気持ちもある。

「けどさ、生きてくためには捨てていかなきゃいけないんだよな」

過去と別れて、現実と向き合うために。名残惜しさも胸に締まって、かつてのやすらぎの場所に別れを告げる。
けれど、新しい寝床に友の魂を連れて行くくらいは、許される筈だ。

「あらかた片付いたら、整備班の連中手伝えってよ。行こうぜ、コルボー」

「ああ」

自分達の荷物を、直ぐに動かしやすいよう所定の場所にまとめて運び、それから二人で廊下を歩き出す。
生き残ったほとんど全ての団員たちが、一様に荷物をまとめ、指示通り動いている。二人のように、思い出話を語らいながら。
相変わらずピックのように「これ以上意味があるのかねえ」などと皮肉を垂れる連中も居ることにはいるが、彼らもまた指示に従い、荷物をまとめている様は少し滑稽にすら思えた。

「きっとやばい状況なんだろうな」

「え?」

「今はよ。なんか何とかなりそうにも思っちまうんだけど。なんねえかも知れねえんだよな」

白の団の状況。決して良くはない。それどころか、一筋の光も、か細く絞りこまれ、見えないと言っても良かった。
それでも、何故だろうか。実感が無いのか。コルボーも、ヘルマンも皆、侵攻された時やシエルを失いかけた時ほどの悲壮感を漂わせてはいなかった。
むしろ前向きにすら思える。それは良いことなのか、少しだけ不安になる。
こうした窮地において、どこか呑気にしている自分たちの様が、かつて、戦力差を現実として理解していなかった自分たちに重なって仕方ないのだ。
そんなヘルマンに、「似合わないなあ」とコルボーが笑い返す。

「お前がそんな湿気たこと言うの、びっくりだよ」

「う…うるっせえ!」

慌てて言い返しながらも、どこか照れくさそうに顔を赤らめる。
それを見て笑った後、「そうだなぁ」とコルボーも少し考える。
ヘルマンが危惧することも最もだ。自分も同じように感じていないわけではない。
だが――――と、これまでの経緯を反芻し、またも誇らしげに笑いながら、断言する。

「大丈夫だと思うよ、俺は。昔とは、絶対に違うよ」

何も知らなかった時とは。理想にただ追い縋っていた時とは。幻想に浸っていた時とは。まるで違う。
皆、全てを経験し、理解した上でこうしているのだ。それは間違いないと胸を張って言えた。
その言葉にヘルマンもようやく納得できたのか、「それもそうだな」とはにかみながら答えた。



「コルボーさん!」

女性の声に名を呼ばれ、コルボーが振り返ると、そこには慌てて駆けて来たティナの姿があった。

「ティナさん……どうしたんですか、そんなに慌てて……」


「ゼロさんが一緒に来ないって、本当ですか!?」


ティナの大声に、周囲にいた団員たちもまた「ハッ」とこちらへ視線を向けてきた。
ざわめく団員たちの様子に、コルボーとヘルマンは「あちゃー」と頭を抱えた。

「会議に出ていたんですよね! ということは、本当のことを……」

「落ち着けよ、ティナ。それは……またあとで団長から話す予定だったんだよ」

宥めようとするヘルマンに、「でも」とティナは問い詰める。他の団員たちも、「どういうことだ」と詰め寄ってきた。
白の団の英雄たるゼロが、共に来てくれないという話に、驚かない者などいるはずがなかった。今後も戦い続けるにあたって、彼の存在こそが希望と言っても過言ではないのだから。
それについて、しばし迷った後、コルボーは事の真相を静かに語り始めた。
















『エルピス、俺は白の団を離れようと思う』

エルピスが移動を決定した会議中、ゼロは突然その決意を口にした。
勿論、誰もがその言葉に耳を疑い、その真意について問い返そうとした。真っ先に口を開いたのは、セルヴォだった。

『何を言い出すんだ、急に!』

皆、黙りこむ。言いたいことは同じだったし、それをわざわざ口にする必要もないように感じられたからだ。
だが、エルピスとルージュは何かを悟ったような目でゼロを見つめていた。その様子から、二人がそれを予期していたのではないかと後でコルボーは思った。
しかしその時、その場にいた者達には、ゼロが己の身を犠牲にしようとしているように思えてならなかった。
なにせ、救いたいと願いシエルと約束した筈の、救世主の命までも取りこぼした後だ。それが原因か、ゼロの目はどこか虚ろで、精気を失ったようにすら見えていたからだ。
だが、『別に自暴自棄になったわけじゃないさ』とゼロは静かなトーンで返す。

『ヴィルヘルムが目の敵にしているのは、白の団じゃない。俺だ』

それこそ、他の誰にも言い返せない理由だった。
英雄に仕立てようと企てるも、その誘いに乗らず、ペガソルタの命を失ったにもかかわらず仕留め切れず、他にも数々の陰謀がゼロの存在によって挫かれてきた。
そうした事実を考えれば、ヴィルヘルムの気持ちも容易に想像できた。

『奴は俺が生きている限り、俺がこの組織に属している限り、部隊を差し向け、追撃をかけてくるだろう』

いや、ヴィルヘルムだけではない。救世主の目論見通り、彼の政権が早期に崩壊し、交代したとしても、その後の政権にとっても目の上の瘤になるであろうゼロの存在は、その死か、ネオ・アルカディアの崩壊の時まで追い回されるに違いない。
白の団がどれだけ寝床を換えようと。どれだけ遠くへ逃れようと。その手は伸ばされ続けるに違いない。

『ヴォルクもいる。それだけじゃない。激戦をくぐり抜けてきた今、俺がいなくとも、皆やっていける筈だ』

ゼロと同等近い戦闘成績を見せたレプリロイドの存在。そして、度重なる実戦によって培われてきた戦闘経験。
白の団の武器は、最早ゼロだけではない。昔の、まだ英雄に縋ることしか出来なかった頃とは違うのだ。
『しかし』とセルヴォが否定するより先に、エルピスが前に進み出て答える。


『いいでしょう、ゼロさん』


あっさりとした返答に、皆『エルピス!?』『指令!?』と驚きの声を上げる。
だが、エルピスは『仕方のない事です』とすかさず切り返す。

『彼の言う事は正しい。そして、それを譲るつもりも、きっと今の彼にはありません』

エルピスの言葉通り、どこか空虚に見える瞳でも、ゼロの決意が堅いことは皆に伝わっていた。
『ただし』とエルピスは条件を付け加える。

『ヴィルヘルム政権に亀裂が入った頃……いや、敵に隙ができ次第、合流すること。それが条件です、ゼロさん』

いつまでも離れているつもりはない。
それは、彼に頼るためではなく。彼に縋るためではなく。

『……決して、あなたは一人ではありません。それを忘れないで下さい』

互いに支えあう事を忘れないでほしい。絶望の淵に立たされた今だからこそ、尚更に。
そんなエルピスの言葉に、誰もが頷き、ゼロを無言で見つめた。

『エルピス……みんな……。すまない、ありがとう』

感謝の言葉を述べ、力なく微笑む。
その表情に、誰もが切なさを感じてならなかったが、ぐっと堪え、それぞれの持場へと向かった。
ただ一人、シエルだけが誰にも何も言わず、一人俯いていたことにコルボーは気づいた。














「……ゼロさんが、本当はどう考えているのかは知らない」

顛末を語り終えた頃、気付けばその場に集まっていた大勢の団員たちは暗い面持ちで話を聞いていた。
「けど」とコルボーは言葉を続ける。

「これまで通り、俺達は、俺達の役目をこなすんだ。あの人の心配をするなら、あの人が戻って来られる場所を守り続けるよう、一生懸命になるだけだ。――――そうだろ?」

ゼロは、絶対に死にはしない。いつか必ず、皆のもとに戻ってくる。
彼の戦いを見てきた今、彼を心の底から信頼している現在、それを強く確信していた。
どれだけ絶望の淵に立って、哀しみを胸に抱いていようと、きっとまた前を向いて戦い続けるだろうと。コルボー達は、ゼロをそう信じることにした。
そして、彼が本当の孤独に陥らないように、自分たちもまた、力の限り戦い続けよう。生き続けよう。そうすることで、彼の力になろう――――そう、決意した。


コルボーの想いに、ヘルマンやティナだけでなく、話を聞いた団員たちは皆、「ああ、そうだ」と頷き、納得する。
ここまで命を守ってきてくれた英雄のためにも、自分たちの力でできることを最大限に。

そこにはもう、むやみに偶像を崇拝する盲目な信者たちの姿はなかった。











































  ――――  3  ――――

整列した己の部下たち――――ネオ・アルカディアきっての精鋭部隊の面々を眺め回す。
屈辱にまみれた解散式とは言え、国家の重鎮が見守る中執り行われるその儀式は、あくまでも厳粛且つ堂々とした雰囲気を漂わせていた。
しかし壇上に立つ彼には、視界に映るほぼ全ての顔が、冷静を装いながらも、煮え切らぬ使命感の燻りをひた隠しにしていることが容易に見て取れた。
ゲンブレム、シメオン、マイア、マティアス、そしてシューター達特殊班の連中も含め、皆が一様に暗い面持ちでいるなか、宣言する。


「我々、第十七精鋭部隊は、本日を以って解散する」


足元に並ぶ部下たちの顔は、一層固くなる。中には唇を震わせ、拳を握り、言葉を堪える者の姿すら見える。
そこで壇上に立つ隊長――――クラフトは「だが」と言葉を強調する。

――――そう、「だが」……

自分の中に、同じものは無い。なぜなら、この心は既に一つの信念と、その答えに辿り着いたから。
そしてそれを今、伝えられる範囲で彼らに伝えたいと言葉を絞り出す。

「これは終わりではない。始まりなのだ!」

うつむき加減になっていた隊員たちの視線が、クラフトの方へ真っ直ぐに注がれる。
ここぞとばかりに力強い手振りをして、語気を強めて宣言する。

「これより遠くない未来、再び乱世は訪れる! 新たな“カタストロフ”がこの国を包み、全ての秩序が崩壊する!」

来賓として参列していた元老院議員たちも皆、クラフトのトチ狂ったとしか思えない“国家転覆”宣言に唖然とする。
それでもクラフトの口上は止まらない。更に熱弁を振るう。

「その時! 正義の中心に立つのは我々だ! この第十七精鋭部隊こそが、この世界の“正義”となる! 諸君はその時に備え、技を磨き、力を十二分に蓄えておけ!」

呆然とする一同の前で、そう言い切った後、「以上、解散」と声高らかに宣言する。そして一度だけ敬礼を構えた後、降壇していった。
隊員たちは敬礼のタイミングを忘れ、元老院たちも言葉を失い。まるでクラフト一人に置いてけぼりを食らったかのように、誰もがただその場に立ち尽くしていた。







コロシアム内の通路を通って、外へと出ていこうとするクラフトの視界に、壁際に立つ人影が見えた。
外へと続くこの石造りの通路を照らす明かりは、背中側と、遥か先の出入口から仄かに入り込む太陽光くらいしか無い。その為、レプリロイドであるクラフトでなければ、その顔を認識することは難しかっただろう。
ウェーブ掛かった金髪が、どこか獅子を連想させるその男は、徐ろに両手を出して拍手を始める。トンネル状に作られたその通路では、まるで大喝采のように音が大きく響く。

「お見事、クラフト隊長。歴史に刻まれるであろう立派な演説であったよ」

「……有難きお言葉」

少し不機嫌そうに社交辞令的な挨拶を返すと、男は「よしてくれ」と薄笑いを浮かべて肩を叩く。

「ネオ・アルカディアを今後支えていく新たな救世主たる君が、この私如きに対してそのように畏まる必要はないよ」

――――なんと、空虚な笑いか……

男の笑顔を見る度に、クラフトは思わずにいられなかった。
きっと好意的に見えるのだろう、端から彼の笑顔を見る者は。でなければ、彼が民衆の指示を得る理由が理解できない。
しかし、実際に彼の笑顔を直接向けられたクラフトには、その空虚な作り笑いが、奥底の知れない彼の闇を物語っているような気がしてならなかった。
その畏怖は決して、この場所を包む暗闇が理由ではないはずだと確信できた。
そしてきっと男は、そう考えているクラフトの内心を見抜いているに違いない。どこか嬉々とした瞳の輝きが示している。

「……御自ら直々にお越しくださるとは思いませんでした」

尚も丁寧に言うクラフトに、男は仕方ないと肩を竦めながら答える。

「なに、これから共に戦う“同志”の晴れ舞台だ。それも、新たな救世主たる君であるならば、挨拶の一つも直に言わねば無礼というものだ」

それから男は笑みを浮かべる。
恐らくは、本当の笑みを。誰もその真実を知り得ることがないだろう、彼の闇を湛えた笑みを。

「もう一度だけ言っておくが、この世界を救うのは君だ。真の救世の志を胸に抱いた君こそが、正義そのものだ。――――革命の時は近い、よろしく頼むよ。クラフト」

「……“あちら”の首領殿に、よろしくお伝え下さい」

それだけ言うと微笑みの欠片も見せないまま、クラフトは男を静かに振り切り、一人出口へ向けて歩いて行った。
背けた視界の端に、銀髪が特徴的なレプリロイドの顔が映る。その一瞬で、彼(“彼女”のようにも見える)がどこか哀しげな目でこちらを見つめているのに気づく。
「いいのですね」――――そう問い質しているように思えた。

それから顔を上げ、前をまっすぐに見据える。
その先には光り溢れるトンネルの出口。今自分が踏みしめているのは、暗黒の道。


――――そうだ、これでいい


誰に問われようと、決心は揺るがなかった。
救世主の真実を知り、世界の真実を知り、そして“真実の正義”を胸にした今、何を疑う必要があろうか。
この“正義”を遂げるためならば、例え悪魔であろうと契約を交わそう。その先には、きっと――――……‥‥・・



















  ―――― * * * ――――



「例の件、承諾したそうね」

「断る理由がなかったからな」

そう言ってからハルピュイアは、自分が口つけたグラスを眺め、「ふむ、なかなか」と味について感心したように声を漏らす。
まるで「当然のこと」とあっさりしたハルピュイアの態度に、レヴィアタンは拍子抜けする。

「『断る理由がない』…って、あのヴィルヘルムの誘いでしょうに」

ネオ・アルカディア共和国国防軍総司令官――――その要請に、ハルピュイアは二つ返事で承諾した。
それも四天王にとっては立場上の競争相手であった、あのヴィルヘルム現大統領からの直々の要請に対してなのだから、四天王とヴィルヘルムとの関係を知っている者は皆驚きの声を上げていた。
無論、反レプリロイド的な姿勢を見せるヴィルヘルムが、ハルピュイアに頼るという構図自体が、滑稽にすら見えたのだ。
だが、ハルピュイアは鼻を鳴らして断言する。

「僕は、奴らの政治的思惑に気づかない程、無能ではない」

ある意味での痛み分け。紅いイレギュラーのSランク認定の流れと同様に、傷を負った旧四天王と手を組むことでバッシングの類を緩和させようという狙いは見え見えだ。
だが、ハルピュイアは己の信念のもとに、その思惑にあえて乗ることにした。


「“人間を守る”――――その信念に沿ったものならば、例え誰の誘いだろうと、僕は受け容れる」


国防軍=人間を守る盾。その総指揮官というのは、ハルピュイアの信念を考えれば、これ以上お似合いの職もないだろう。
きっと、あの憎たらしいヴィルヘルムの命ですら、万が一のことがあればその身を盾にして守ろうとするに違いない。
その光景が目に浮かび、それでも不思議と嫌な感じがせず「まあ、そうね」と納得した声を返す。

「それでこそ、“賢将ハルピュイア”だわ」

そんな彼だからこそ、支え甲斐もあるというものだ。
かく言うレヴィアタンも、国防軍情報部においてリーダー的立場を任されることとなった。冥海軍団の頃から戦略的、技術的情報等を扱うノウハウを最も理解しているためである。
「お互いまた忙しくなるな」と言うハルピュイアの言葉通り、きっと四軍団全盛期の頃ほどの忙しさが待っているのだろう。

「ま、仕事してるのは嫌いじゃないから。いいのだけどね」

やるべきことがあるということは、無駄なことを考えている隙がなくなるということだ。
いろいろな出来事が一気に襲い掛かって来たここ最近を思えば、救われたとすら思えた。

「それにしても、こんないい場所があるなら、どうしてもっと早く教えてくれなかったんだ?」

二人が酒を酌み交わしているこのバーは、無論、ファントムとレヴィアタンが出入りしていたバーである。
年季の入った木造の店内は、仄かな高級感を漂わせ、その主張しすぎない雰囲気が、ハルピュイアの琴線にも触れたようだ。
「まあ、気に入るのは当然よね」とレヴィアタンが笑うと、「笑っている場合ではない」とハルピュイアは文句を垂れる。

「せっかく知れたというのに、これから忙しくなってはあまり立ち寄れないじゃないか」

「仕方ないでしょ。教えられるわけないじゃない」

レヴィアタンとファントムが秘密裏に会合するのに利用していたという話を聞いた以上「まあ、そうだな」と渋々納得せざるを得なかった。
だが、その様子を見て「違う、違う」とレヴィアタンは片手をぶらぶらと振る。それから、指差しながら言う。

「あなたじゃ、入れないと思うじゃないの」

「むっ」と疑問符を浮かべ、視線を宙に向け、言葉の意味を考える。
それから、己の容姿を思い出してから、「ああ」とどこか不満気ながらも納得した声を漏らす。
その様子を見て、レヴィアタンは「冗談よ」と笑い返した。

それからしばらく他愛のない話を交わす。
時折何度かレヴィアタンはからかうような言葉をかけるが、その度に彼が真っ直ぐ受け止めるのが可笑しくて、終始笑いが絶えなかった。

そんな和気藹々とした遣り取りの後に訪れた静寂。

どこか心地よさすら感じられるのはやはり、側にいるのが信頼できる真の仲間だからだろうか。
その中で、グラスをじっと眺めていると、不意にハルピュイアが「なあ、レヴィ」と呼びかける。

「……お前は、エックス様のこと、どう思っている?」

「『どう』って?」と問い返そうとしたが、おそらくそれは言葉通りの漠然とした問いなのだろうと理解した。
エックス様――――その名が指す相手が、つい先日までこの世界を支え続けてきた偽りの救世主を指すのだと、直ぐに分かった。
カウンターに寄りかかるようにして、「そうね」と呟き、考えこむ。だが、その問いを、ずっと自分の中でしてこなかったわけではない。そう、答えは出ていた。
それをレヴィアタンが答えるより先に、ハルピュイアが口にする。

「オリジナルを知らない僕にとっては、あの人こそがロックマンエックスだった」

「ハル。……それは、私も同じよ」

「きっとそうだろう」と思っていた通り、二人は全く同じことを考えていた。
たとえ偽物だったのだとしても、オリジナル――――“本物”を知らない彼らにとって、彼こそがロックマンエックスだった。それはどれだけ真実を叩きつけられようと変わらない気持ちだった。
だからこそ思う。その姿に抱いた畏怖が、その瞳が見つめていた世界の色が、彼が抱いていた志が――――彼自身が、例え“本物”に対する精巧なコピーだったとしても、その全てはきっと一点の曇りもない“本物”であったのだと。

「あの方は、世界を守るために命を懸けた。オリジナルから引き継いだ想いから、同様にして生まれてきた僕達と何ら変わらずに。――――そう信じられるんだ」

ファントムも含め、その腹の中を全く明かすことはなかったが。あのファントムが命を懸けたという真実こそが証明であるように、そう信じることが出来た。
だからこそ、ファーブニルのやりきれない気持ちも、少し理解できた。だが、二人はその気持と折り合いを付けて生きていくことを決めた。


「だからこそ、絶対に守ろう。ファントムとエックス様が守ろうとした、この世界を」


そう言ってグラスを手にして差し出す。「ええ、そうね」とレヴィアタンは微笑みながら答える。
そして、乾杯を交わす。――――「私達の、もう一人の兄弟に」と。
冷たくも優しく響くグラスの音が、その耳に静かに溶け込んだ。












































  ――――  4  ――――


変わらず広がる蒼天を見上げ、変わらず照らし続ける陽光を体中に浴びて、空を仰ぎながら不意に瞼を閉じた。
世界の何もかもが変わりつつあるというのに。この世界から“太陽”が消えてしまったというのに。こうして変わらずに在り続けているものがあるというのは、どこか憎らしくも思えた。
頬を撫でる優しい風も、まるで平穏が世界を包み込んでいるかのように錯覚させる。
これからこの場所は戦場になるというのに。いや、この場所だけでなく、世界全てが、いつかまた直ぐにでも混迷に陥るというのに。


「……よかったのかよ、本当に」


誰にともなく空に向けて、ゼロは呟いた。
真実を耳にして、それから何度も考えた。
自分がここにいる意味。エックスが懸けたもの。これから再び訪れる乱世の時。その先に在るであろう理想の未来。
だが、これが本当に正解だったのか。正しい選択だったのか。彼の言葉を、最期を思い出す度にその問が頭をもたげるのだ。

会議で言った通り、別に自暴自棄になったつもりはない。
そもそも、彼の命によって救われたこの身をもしも無碍に扱うような事をすれば。万が一にも散らしてしまったならば。
どうして顔向けが出来るというのか。彼に、そしてシエルに。

「けれど」――――そう思いながら、雑草の類もまるで見当たらない、乾いた大地に視線を落とす。

けれど、今はこの胸の内を虚無感だけが支配していた。どれだけ振り払おうと、喪失感が渦巻いていた。
何度前へ進みだそうと思っても、脳裏に浮かぶのは救えなかった者達の顔、顔、顔――――……‥‥
ボレアスの雪山で、名も無き廃墟で、仲間たちの輪の中で、熾烈な戦場で……取り零してきた命の破片が、果たせなかった願いの欠片が、その心にまとわり続けている気がした。

それでも、白の団は未来に向けて進んでいく。
か細い希望も諦めること無く、前へと歩んでいく。
例えその先にどれだけ不毛な荒野が続いていようと。
どれだけの死を乗り越えることになろうと。

それらを考えた時。「一緒にはいられない」――――そう思った。

今の自分では、とても彼らの英雄足り得ないから。もう、前を見つめ続ける気力の灯火が掻き消されてしまったから。
あの提案は、ネオ・アルカディア側の動きだけが理由ではない。そうした自分の想いが、絡んでいたことは否めなかった。
そして、それにエルピス達は気づいていただろうと思う。

「約束通り。いつかまた、きっと帰ろう」――――この心に整理がついたら。みんなの元へ。その気持ちは、決して嘘ではなかった。
けれど、そんな時がいつ来るのか。まるで見当がつかなかった。それだけは、ゼロは誰にも言うことはなかった。




分からない。どこに進めばいいのか。



荒れ果てた大地の上で。陽光届かぬ道の先は暗闇に閉ざされ。
まるで己の境遇も理解できぬ迷子のように、途方に暮れていた。




「…………そろそろだな」


体内時計を確認しながら作戦予定時刻を思い出す。
ちょうど今頃、白の団はエルピスの指示に従い、ここから新たな拠点へと一斉に移動を開始したところだろう。
そしてまた、そろそろこの場所にもネオ・アルカディアが出撃させた掃討部隊が押し寄せてくる筈だ。
こちらの予想通り、ヴィルヘルムが差し向けた兵団がこれまで以上の大軍で白の団を潰しに動き出すのを、オペレーター陣が確認していた。

準備は万全。手筈通りに行くなら、ゼロはここで派手に大立ち回りをして、近場の空間転移装置を利用して少しずつ距離を取って逃げていくことになる。
提案通り、ゼロ自身を囮にして、白の団を逃がすために。

その先は――――正直なところ分からないままだ。
それでも、何も救えなかったこの手が、この世界に対してできる精一杯の反抗だろう。

「……行くか」

進まなければならない。この果てない荒野の上を。どんなに行く宛がなかろうとも。
小さく呟き、一歩前に出る。左腕に右手を添えながら。

吹き荒ぶ風が、背中を押す。













「 ゼ ロ ! 」





聞こえる筈のない声に名を呼ばれ、咄嗟に振り向く。

「……お前……」

そこには、ポニーテールを揺らしながら慌てたように駆け寄ってきたシエルの姿があった。
直ぐ側まで来ると、余程急いできたのか、息を切らして膝に手をつき、体を支える。
彼女がこの場に現れたことに驚き、言葉を失う。それから頭の中でしばし状況を整理した後、冷静に考え、それから再び驚きの声を上げる。

「こんなとこで何してる!?」

先程、作戦予定時刻になったのは確認済みだ。ということは白の団はこの拠点を捨てて新拠点へと移り始めたところ。
そんなタイミングで、どうして彼女がここに来たのか。
訳が分からず唖然とするゼロを他所に、シエルは少しずつ息を整え、ようやく落ち着くと真っ直ぐ背筋を伸ばし、ゼロを見つめる。

あれから一度も真正面から捉えられなかった互いの顔に、少しだけ戸惑いを覚える。

シエルには、ゼロの内にある後悔と、己自身に対する失望の色がありありと見て取れた。
何より、シエルに対する負い目――――大切な存在を救えなかったこと、約束を守りきれなかったことへの複雑な感情はより一層強く見えた。
しかし、だからこそ、あくまでも堂々と言い放つ。

「あなたに伝えたいことがあるの」

唐突且つ率直な物言いに、ゼロは「おいおい」と零す。

「『伝えたいこと』……って……」

「エルピスからは許可をもらったから」

「そういう問題じゃない。今の状況ですることかよ」

エルピスも何故、ここでそんなワガママを許したのかと呆れながら言い返す。
しかし「今だから!」とすかさずシエルは言葉を返した。
その勢いに、少しだけゼロは気圧される。その様子を目にして、シエルは慌てて自分を押しとどめる。
それから、少しだけ潮らしげに、呟くように言う。

「……今だから……伝えたいの」

それから、一度だけグッと唇を結び、首を振る。
そうだ、こんな状況だからこそ伝えたいと思った。今だからこそ、彼に言わなければと思った。


「……もう……何も伝えられないまま後悔するのは……嫌だから」


互いの真心を何一つ語り合えぬまま、大切な者と別れた。その経験は、彼女の心に大きな穴を空けた。
そして代わりに、辛い現実と向き合い、立ち向かう勇気を残してくれた。後悔しない道を選択する大切さを教えてくれた。

「……シエル」

ゼロは、彼女の心を理解し、何も反論することが出来なかった。
それほど彼女にとって大事なことならば「仕方ない」とゼロは観念して、それ以上何も言わずに聞く体制に入る。
その様子を見て、シエルもまた、もう一度己を落ち着かせる。それから、「ねえ、ゼロ」と名を呼び、言葉を紡ぎ始めた。

「……ネオ・アルカディアから私を助けてくれた時……言ってくれたこと、覚えてる?」

黒狼軍の手を借りてミズガルズよりも外へと抜け出し。アンカトゥス兄弟が襲い掛かってくる、その少し前。
言い争うようにして交わした言葉の中で、まるで懇願するように、ゼロが口にした言葉。




『お前に俺の気持ちが分かるのかよ。“戦うことしかできない”俺の気持ちが』




『誰も救えないまま、ただ壊すだけしかできなかった俺の気持ちが』




『俺には、誰も救えなかったから……俺にはできなかったから……だから……』











    頼む、シエル


    俺は……お前を失いたくないんだ












「――――……素直に嬉しかった。あなたが私を頼ってくれていたこと。私を必要としてくれていたこと」


無力にも等しいと思い込んでいた己が、誰かに――――それも、自らが縋っていた英雄に、心の支えとして想われていたというのだから、これほど嬉しい事はない。

あの日、真実を語らなければと思ったのは、そんなゼロの気持ちを知ったからに他ならなかった。
シエルという少女の力を信じて、剣となり続けてくれた彼を思えば、真実を隠し続けることは出来なかった。
けれど、それでも結果として、ゼロはシエルを信じ続けてくれた。己の罪を責めるシエルを赦し、約束を守ると誓ってくれた。
たとえそれが果たせなかったとしても。その恩を忘れることは出来なかった。

「だから、今度は私が伝えたいの。あなたに」

自分が教えてもらったことを、返したい。そう思った。
その為に、一つだけ明確にしておかなければならないことがある。

「ねえ、ゼロ。あなたには、白の団がどう見える?」

唐突な問いに、ゼロは虚を突かれ、黙りこむ。
白の団がどう見えるか? ――――今の状況は、ゼロの目にどう映っているのか。
……どうもこうもない。沈黙こそが答えだった。

シエルは、彼が返した無言の応答を、自分の言葉で表した。



「そうね……。きっと、“哀れ”に見えているのでしょう?」



「哀れ」――――その冷たい響きに、ゼロは「そうではない」と反論しようとするが、言葉を返せなかった。
きっとそうなのだろうと、納得せざるを得なかった。

非力でも未来に向け進もうとする姿が、か細い理想に向けてあがき続ける姿が、“哀れ”に見えていた。
「救えなかった」――――期待を掛けられていながら、縋られておきながら、英雄などと呼ばれながら、彼らの道を開くことが出来なかった。
そんな後悔も相まって、それでも自分たちの道を諦めることのない彼らの姿が“哀れ”に見えていた。痛々しくて、側で見ていられないほどに。
その状況を招いたのが己だと分かりながらも、これ以上どうすればいいのかも分からず、目を背けた結果が、“今”なのだろう。

「……間違いではないと思うわ。“今”の私達の道は、暗く閉ざされて。道標となる光も、どこにも見えなくて。……とても理想を掲げられるような状況じゃないから」

たくさんの仲間達が死んだ。圧倒的な戦力差は、救世主の死により、更に広がりを見せた。
拠点を移動したとして、僅かな平穏が期待されるのみ。その先は? ――――誰が明るい未来を想像できるだろうか。

“懐かしい未来”は遠退いた。理想の実現は不可能だ。
そう、断じても仕方ない状況だ。どれだけ抗おうと、足掻こうと。

「それでも苦しい戦いは続いて、それでも信じる未来は遠くて……まるで暗いトンネルのよう。……いいえ、きっとこの荒野から太陽が消えたような、荒れ果てた暗闇の道の上にいるんだわ」

まるでゼロが夢に見た世界のような、絶望だけが支配する世界。
――――ああ、シエルの言葉通りだ。ゼロにはもう、そうとしか見えていなかった。
生きる希望も、夢も理想も、何一つ芽をつけることが叶わない荒野。どこまで続いているかも知れない、暗闇の道の上。

そこに“今”、立っている。この手が、彼らを救えなかった為に。



「でも、それは真実なの?」



不意に放たれた言葉は、水面に投じられた礫のように、小さな波紋をゼロの心に起こす。
無言のまま考える。いや、それ以外にどう見えるのか。先が閉ざされた現在を、儚く藻掻く姿を“哀れ”に思わずにいられるのか。
そう表情に浮かべるゼロに、シエルは淡々と自分の言葉を続ける。

「みんなの顔を、見たでしょ?」

エルピスの顔を。セルヴォの顔を。コルボー達の顔を――――……白の団にいるみんなの顔を。
思い出す。その表情を。その瞳の色を。

「誰が絶望に明け暮れてた? 誰が打ちひしがれていた?」

……思い返せど、そのような者はいなかった。誰一人として。
文句を垂れる者もいた。皮肉を零す者もいた。けれど、絶望に打ち拉がれる者はついぞいなかった。



「みんな未来を思っていたはずよ。こんな状況だって。……来年のこと。来週のこと。明日のこと。――――ううん、ほんの少し先のことだけど、考えているはずよ。そこに希望を信じているはずよ」



――――それは分かっている


誰も、何も諦めていないことは。


――――だが、だからこそだ



だからこそ、ゼロには苦しくて仕方なかった。
遠退いた希望を信じ続ける様が。見ていられなかった。

そう思うゼロの表情を読み取り、何故かシエルは少しだけ微笑む。



それから表情を一変。


地を踏みしめ、両手を固く握りしめ、瞼を閉じて、口を大きく開けて――――……










「 そ れ が 全 部 “ 無 意 味 ” だ っ て 、 あ な た は そ う 言 う の ! ? 」




――――全身から、怒りを吐き出した。
呆然とするゼロを少女は睨み、「ええ、そうよ!」と言葉を続ける。

「あなたの思ってる通りよ! 私達の道には、もう光なんて無い! どこにも行く宛もない! 希望は消え失せて! 闇に飲み込まれて! いつかきっと押し潰されてしまう! それが“今”よ! 抗いきれない現実よ! その中で足掻き続ける私達は! “英雄様”から見ればきっととんでもなく“哀れ”なんでしょうね!? 無意味に見えるのでしょうね!?」

「 け ど ! 」と強調して叫ぶ。
止め処なく溢れる想いを、塞き止めること無く。体を震わせながら叫び続ける。

「それでもみんな、“明日”を信じているのよ! どんなに暗闇だって、いつか明けるって信じて歩き続けられるのよ!」


どんなに遠くの未来でも、いつか届くと信じて、歩き続けられる。

どんなに荒れ果てた道の上でも、進み続けられる。

どんなに苦しい戦いの中でも、抗い続けられる。


きっとすべてが、本当に暗闇に飲み込まれてしまったとしても、絶対に歩みを止めないと、信じることが出来る。



「それは、どうしてだと思う!? 簡単よ!」


そう言って、自分の胸を叩いてみせる。




「“ここ”に 光 があるからよ! 道の上になんかなくたって! どこにも見えなくたって! みんな光を持って生きてるからよ!」





――――視線の先には、何もないかもしれない。



世界はもう直に、絶望という暗闇に閉ざされるのかもしれない。



それでも、歩き続けられるのは。

進み続けられるのは。

道を信じられるのは。




己の内に、煌々と輝く命の灯火が残っているからだ。



ただ生きているだけではない。決して目に入る光だけを頼っているのではない。
強い希望と理想を――――“未来”を強く信じるからこそ灯った光が、己の内にあるからだ。


「その“生き方”を“哀れ”だって、あなたはそう言うの!? 無意味だと断じるの!?  い っ た い 何 様 の つ も り よ ! ! 」


殊更強い怒号が、ゼロの身体を震わせた。
次々と突き刺さる言葉の刃が、心を刻み、整えていくような心地があった。

そうだ――――彼らが抱いた“希望”を、“理想”を、一体誰が無意味だといえるのか。“哀れ”だと言えるのか。

“今”はもう、見えないかもしれない。光はどこにも無いのかもしれない。


けれど、“未来”は?

不確かで、奇跡に溢れる“未来”は?


それを信じる彼らの心を、いったい誰が“哀れ”だと断じられるのか。
先を知る者など、この世界のどこにもいないというのに。



少女の怒りの叫びが、遠くの空まで木霊する。まるで耳鳴りのように。
その直後に訪れる沈黙。互いにじっと見つめ合い、黙り込んだまま立ち尽くす。
それから、シエルは不意に歩き出す。ゼロの更に側へと近づいていく。
そして、目と鼻の先で立ち止まると、再び口を開く。





「……でも、その光は誰が灯したの?」




――――最初からあったわけではない。


最初は光を探していた。
誰もが“外”にある光を。道を照らしてくれる者を。

しかし、いつしか灯ったのだ。胸の内に輝く光が。

己の歩く道を照らす光を、誰もがその胸に宿し始めた。
しかし、何もなくそれが出来たわけではない。

そうだ、どんな蝋燭にも、灯した“誰か”がいるのだ。


「エルピス? 私? ――――違うわ。私達が言葉で語る理想だけじゃ、誰の心にも灯せなかった」


それどころか、きっと自分たちも探していた。自分の“外”に。
そして、分け与えられ、灯された。“誰か”によって。


「じゃあ、誰が灯したか――――……分かるでしょう?」


そう言って、潤む瞳を隠すように俯く。そして紅のコートの端を、彼女の右手が強く握りしめる。







    “剣”があった。





    白の団という場所に集まった皆を守る“剣”が


    取り零した者の数を数えるよりも


    どうか未来を切り開こうと足掻く“剣”が




    どれだけ血に塗れようと


    死の淵に追いやられようと


    立ち上がり


    真っ直ぐに未来を睨む“剣”が――――













シエルは潤んだ瞳も、溢れる涙も全てそのまま、顔を上げてゼロを見つめる。







取り零した者もいたかもしれない。



救えなかった命もあったかもしれない。



それでも、今ここにいる者達が、強い想いを抱いて生きていけるのは――――










「――――全部……あなたがいてくれたから…でしょう……?」










    殊更強い想いを込めて、叫ぶ。
















    「 あ な た が 私 達 を 救 っ て く れ た の よ !  ゼ ロ ! 」


















例え、どんなに彼自身が否定しようとも。


例え、他の誰が否定しようとも。



揺るぎない事実が、光となって皆の心に灯っていた。









ゼロという“英雄”が灯した光が、足元を照らし続けていた。





それこそ、“救い”と呼べるものに違いなかった。




それからシエルは再び俯く。突き上げる想いが、感情が、溢れ出し続ける。これ以上は耐えられないかも知れない。
それでもグッと堪えながら、「それなのに」と静かに言葉を続ける。左手も上げ、両手でコートの端を握り締めながら。


「……それなのに……『誰も救えなかった』なんて……そんな……勝手なこと……」


最後まで怒りを、憤りを、けれど労いを――――そして何より感謝を伝えるために。

自分だけの分ではない。
ここまで彼の手によって救われてきた、全ての者達の想いを心の内で重ねて、積み上げて、束ねて。

嗚咽を飲み込み、声を絞り出す。震える唇で、言葉を紡ぐ。







「……そんな哀しいこと……二度と…言わないで……」







しばらく無言で彼女を見つめていた。

頭の中に駆け巡る、少女が吐き出した言の葉たち。
瞬間の内に、まるでシャボン玉のように何度も聴覚に蘇っては消えてを繰り返し、彼女の想いが心を包んでいくのを感じる。

心の暗雲が、掻き消されていくのが分かる。まるでいつかの夢のように。視界に色が戻っていく。
絶望ばかりが見えていた世界が、暗闇に閉ざされていた世界が、照らされていくのを感じる。

吹き抜ける風が、二人を包む。

そして気付けば、衝動のまま――――




両腕を真っ直ぐに伸ばし、その震える小さな肩を包み、抱き締めた。



胸いっぱいに、温もりが溢れるのを感じる。
言いようのない感情が波のように押し寄せてきて、なんと伝えればいいのか迷う。


――――いや、簡単だ


言葉を凝らす必要なんて無い。思いのまま、口にすればいい。この感情を。
そして、その中心に向けて、精一杯の言葉を掛ける。

特別な色も無い、ありきたりな言葉を。
けれど、世界で一番優しく響く言葉を。





「ありがとう、シエル。 俺は、お前に出会えて本当に良かった」





“救いたい”と思いながらも、“救えない”と決めつけていた。自分には不可能だと。

百年前にはきっと気付けなかったことが、今、ここで知ることが出来た。
他の誰のおかげでもない。シエルという少女との出会いから。彼女がくれた言葉から。



――――道標は、ここにある



自分の胸の内にもまた、彼女が灯してくれた光が煌々と輝いているのだと、分かった。
この先がどんなに暗闇であろうと。絶望が待っていようと。きっと、もう二度と立ち止まることはない。

そう確信するゼロの腕の中で、涙を堪えながら、シエルは言う。


「……ゼロ……絶対に、生きて帰ってきて。……約束だよ」



「……当たり前だ」





ゼロの返事はたった一言。
しかしその言葉は、何よりも力強く響く。


それは、約束だから。

きっと果たすと誓った、“絆”の約束だから。






――――そうだ



    この戦いを潜り抜けて、きっと迷うこと無く、君のもとに帰ろう。



    この世界で生きていく“意味”を教えてくれた君のもとに。



    この心に光を灯してくれた君のもとに。






    共に信じる“未来”を胸に抱いた君のもとに……‥‥・・・

















































  ―――― * * * ――――



互いに別れを告げ、シエルが去った後。ゼロは、蒼い軍勢がその場に迫ってくるのを視認した。
無論、レプリロイドの視覚性能から言えば、相当な距離があるわけだが。
それでも、荒野を埋め尽くす壮絶な軍勢を目にして、すぐそこに戦いが迫っていることを実感する。

簡単な作戦ではない。
これまでよりも更に多くの戦力を相手にするのだから。
僅かでも油断があれば、微塵でもミスを犯せば、命を落としかねないだろう。

「……けど、大丈夫だ」

まるで、そこにはいない仲間たちに言い聞かせるように独り言つ。「心配する必要はない」と。
この心には、シエルと、そして仲間たちとの誓いの力が溢れている。それがある限り、絶対にこの作戦を成功させてみせよう。
そしてまた、共に戦おう。いつか本当の“懐かしい未来”を手にするために。







――――だが、その前に……


ふと、思い返し、決意する。

一つだけ、はっきりさせておきたいと思うことがあった。
これから未来を信じて再び歩き出すにあたって、確かめておきたいことがあった。

今だからこそ、それを確かめたい。
全ての真実を知り得た、今だからこそ。


















「……いるんだろ?」







そう、虚空に向けて口にする。
端から見れば、奇妙な独り言だった。だが、決して気が狂ったわけではない。
ゼロは、再度呼びかける。


「分かってる。出てこいよ」


僅かな沈黙の後、“それ”は現れた。














〔……気づいていたんだね、ゼロ〕






突然、視界に蒼い光が現れる。それは、文字通り“突然現れた”のだ。
だが、ゼロは決して驚きはしなかった。“彼”が、何者であるか気づいていたからだ。
「一応」と手を伸ばして確認する――――が、それに触れられはしなかった。当たり前だ。

何故なら“彼”は、その場には実在していなかったのだから。

言わば、データのみの存在。ゼロの視覚に働きかけることで、映像として姿を現した存在。
「そうさ」とゼロは答える。

「夢の中で……いや、俺がこの時代に目覚める時から、俺に呼びかけていた存在がいることに気づいた」

正体不明の声が、危機から救ってくれたことを覚えていた。
ゼットセイバーの存在を思い出させ、何より、“あいつ”との約束を思い出させてくれた声。
その声紋データを、所持していた。

「……そして、それが誰のものか、考えている内に答えは出た」

確信に変わったのは、救世主の真実を知った時。
あのエックスが別の存在だと知った時。彼とほぼ同じ声紋を示していたことから、その正体に思い当たった。
そう、その“声”の正体は――――





    「お前が、ロックマンエックスだな」





百年前、共に世界を救った救世主。かけがえの無い親友、相棒、太陽――――。
目覚める前から変わらず「みんなを任せたよ」と呼びかけ続けてきた“声”の正体こそ、“あいつ”に違いないとゼロは確信した。

そんな率直な問いに、“声”はしばし思考を巡らすように黙り込んだ後、答える。





〔それは……半分正解で、半分誤り…と言ったところだ〕





はっきりしない返答に、ゼロは眉をひそめる。
“声”は、言葉を選びながら、真実を語りだした。

〔ロックマンエックスは最期の戦いの中で、あるメッセージを飛ばした。最愛の友に向けて〕

誰にも行き先を告げずにネオ・アルカディアを去った彼は、最期の戦いに赴いていた。
己の命を懸けた、決着の瞬間――――死を覚悟した時、刹那の内に吐き出した感情データをメッセージとしてサイバー空間へ放ったのだ。

〔僕は、偶然にもそのメッセージに付随してしまった、言わば彼の“心の欠片”だ〕

正確に言うならば、ロックマンエックスの感情、思考能力の一部。
故に、『半分正解で、半分間違い』。彼自身であって、彼自身ではない存在。

「じゃあ、あいつは……?」

この“声”が“心の欠片”だというなら、その“元”はどうなったのか。
その問いに“声”は躊躇いがちに答える。

〔分からない。僕には彼の感情と最低限の思考プログラムが備わっているだけで、記憶までは所持していないから。けれど、きっと……〕

言葉を続けずとも、互いにそれは予想出来ていた。
「仕方ないな」と零すゼロに、“声”は説明を続ける。

〔……そして、君の脳内に到着した僕は記憶領域を間借りすることで、その存在を保つことにした。ロックマンエックスが願った通り、いつか君が目覚めるであろうその時まで〕

その影響が、少なからずゼロの性格に影響してしまったことは否めなかった。
切り捨ててきたものが、切り捨てられなくなったこと。戦いの中で“救い”を行おうとしたこと。

〔それが結果として、君を苦しめることになってしまったことは、申し訳なく思っている〕

ただし、記憶の混線については、それとは別の要因が絡んでいると、“声”は付け加えた。無論、その「別の要因」については“声”も答えを所持していないようだったが。

「どうして、姿を隠していた?」

“声”がゼロの内側にいたのならば、救世主の正体も含めた全ての真実を彼は知っていたはずだ。
それについては、〔すまない〕と直ぐに謝辞を述べる。

〔あれ以上の干渉は、ロックマンエックスの願いに反すると判断したが故のことだった。何故なら、本来ならば僕はこの世界にいないはずだったのだから〕

“声”自身が先に述べたように、偶然の産物に他ならなかったのだ。
言わば過去の存在たる自分が口出しをすることは、ロックマンエックスの想いを裏切ることになると判断した。
その返答に対し、「ロックマンエックスの願い?」と繰り返すようにゼロは問いかける。

「……それが、あいつのメッセージってやつか?」

“声”と共に、ゼロの中に送り込まれたデータ。
それについて、“声”は答える。一つの問いを提示して。




〔君には、選択の権利がある。――――それを聞くか、否か〕





単純な二択。
勿論、すかさず「聞く」と答えることも出来るだろう。
しかし、ゼロは黙って真剣に考えこむ。彼が、命に代えても届けようと飛ばした、そのメッセージの意味を。
その意図を、覚悟を理解しないまま開くのは、不義理に思えたのだ。
そしてまた、理由はもうひとつある。

「……今日まで、そのメッセージを隠してきたのは何故だ?」

容易に伝えていい代物ならば、もっと以前に伝えることが出来ただろう。
しかし、“声”はそれをしなかった。それには、きっと理由があるだろうと思えたのだ。
そして、ゼロの予想通り、“声”は隠し続けてきた理由を説明する。

〔彼が残したメッセージには、この世界に関することが述べられている。しかし、世界の在り方が、彼が生存していた頃とは大きく変わってしまった以上、容易に伝えては誤解を招きかねないと危惧したが故だ〕

ゼロが自らの足でこの世界を歩き、この世界の中で戦い、真実を知った今だからこそ、明かすことが出来る。
しかし、それはつまり、ロックマンエックスのメッセージが、この世界の在り方に大きく関わっていることを意味している。
もし本当にそうならば、それなりの覚悟を持って聞き入れなければならないと己に言い聞かせた。

それから暫くして、心の準備が整った頃、ゼロははっきりと告げる。



「聞かせてくれ、あいつのメッセージを」



その答えに対し、“声”は〔了解した〕と簡潔に答えを述べた。そして、それを再生する準備をする。
そのメッセージ自体は、簡易的に飛ばされた感情の収束帯だった。
それを、“声”は元々メッセージに付随していた翻訳プログラムを用いて、全うなメッセージとして文章に構築し直し、ロックマンエックスの声紋データそのままで、読み上げ始めた。


ネオ・アルカディアの軍勢が迫ってくる最中。
ゼロの脳内に、懐かしい友の声が、静かに響き始めた。
それは、彼の心にとって長く、温かい一瞬だった。














































  ――――  from. X  ――――























    ・・・‥‥‥………………

































    ゼロ、君が眠りに就いてから


    随分時が経ったように感じるよ














    戦争はほとんどが終息して


    今はもう、人々が新たな生活を始めている




    荒廃した世界は


    容易に元に戻りはしないだろうけれど




    それでも、この世界の上で


    人間も、レプリロイドも


    強かに生きているよ





    ねえ、ゼロ




    君の眠りが


    どうか健やかなものであるようにと


    僕は強く願っているけれど


    実際はどうだっただろうか






    決して心地よい別れではなかったけれど


    「この世界のため」と、


    眠りに就く決意をした君のことを




    今でも僕は、誇りに思っているよ







    さて


    僕がこうしてメッセージを残したのは


    君にどうしても伝えたいことがあったからだ


    なんとしても、覚えていてほしいことがあったからだ






    しかし、その前に



    君はもう知っているかもしれないけれど


    僕からも言わせてほしい






    君が、この声を聞いている頃


    再び、目覚めた時










    おそらく僕はこの世界にいないだろう










    君が僕に託してくれた“懐かしい未来”


    それを実現するために




    僕は、僕の全てを懸けることにした




    そうすることでしか、守りきれないと


    君との夢を果たせないと、思ったからだ






    すまない……と言うべきなのかもしれない


    君が眠る時


    再会を約束していながら


    先に逝くと決めたこと






    どうか赦してほしい






    けれど






    僕達が共に描いた“懐かしい未来”


    それが、ようやく実現したんだ




    人間とレプリロイドが


    共に手を取り合い、暮らす世界


    争いのない、優しい理想郷




    もしかしたら


    君が目覚める頃には


    荒廃した大地も


    全て緑に埋め尽くされているかもしれない






    信じられないだろうけれど


    それが、現実なんだ






    僕達の戦いの果てに


    実現した世界の形なんだ











    だけど






    僕はもう、君に会うことが出来ない




    共にその世界を歩くことは出来ない





    きっと君にも


    寂しい想いをさせてしまうだろう






    それが、僕にはとてもつらい







    だから、ゼロ




















    いつか目覚める君のために




    僕は この世界を遺してゆくよ

























    戦うことで己を見出してきた君だから


    争いの無いこの平和な世界に


    もしかしたら


    最初は戸惑うかもしれない






    でも、きっと大丈夫だと僕には信じることが出来る




    だって、この世界は




    君が僕に教えてくれた


    “懐かしい未来”そのものだから





    君が失ったものを


    君が求めていたものを


    心の隙間を


    埋めてくれるだろうと




    僕は信じている










    楽園の名は「ネオ・アルカディア」










    僕と、君が


    命を懸けて守りぬいた






    “懐かしい未来”






    その結晶だ
















    ゼロ






    本当にお別れの時が近づいてきているらしい


    意識が薄れてきた






    これが僕の最期の声になるだろう








    ……ゼロ




    本当は君とこの世界で


    また笑い合いたかった






    本当は君と戦いの終わりを


    夢の実現を


    その喜びを






    共に分かち合いたかった






    だけど


    それはもう叶わないから








    だからこそ君には



    どうかこの世界で生き抜いてほしい






    僕が愛したこの世界を



    どうか愛し抜いてほしい











    ゼロ














    さようなら










    そして




















    ありがとう


























    君が生きる世界に



    光が満ち溢れていると



    僕は












    信じている

































    ………………‥‥‥・・・




























  ―――― * * * ――――


全て聴き終えた頃、ゼロの視界にはパンテオンの軍勢が直ぐそこまで来ているのが映っていた。
“声”は沈痛な様子で言う。

〔ロックマンエックスは……人間を、世界を心から信じていた〕

最期の戦いに赴くとき、彼は世界のことを人々に託していった。
きっとどんなことがあろうと、築き上げた楽園が続くだろうと信じていた。
人々が、彼の想いを忘れずにいる限り。

〔しかし、その結果が……これだ〕

百年の時が経ち、世界はまた大きく様変わりをした。
人とレプリロイドが手を取り合い暮らしていた理想郷は消え失せ、そこはレプリロイドにとっての地獄とすら言えるものに変わっていた。
失くなったはずの争いは続き、今尚、罪のない命が危機に晒されている。

約束の未来はどこへいったのか。全ては忘却の彼方に追いやられた。
荒野に蘇る緑の大地など、夢のまた夢だった。

〔ロックマンエックスの欠片として、僕は、君に言わなければならない……本当に――――〕


「謝るな」


〔すまない〕と言いかけた“声”を、ゼロは遮った。
驚きの色を浮かべる“声”に対し、あくまでも落ち着いた声で、「謝るんじゃないよ」ともう一度ゼロは言う。

「お前が謝ったら……まるで、あいつの信じたものが……してきた全てが間違いだったみたいじゃないか」

彼が命を懸けたことすら、まるで誤りのように思えてしまうではないか。
そう言うゼロに“声”は〔しかし、実際に……〕と口にする。だがゼロは直ぐ様、首を横に振り、否定した。

「間違いなんかじゃないさ、この世界は」

そう言って、真っ直ぐに前を見据える。
その瞳に、ゼロの思考に、“声”は全て納得した。
そして、「メッセージを届ける」という己の役目を全うしたことを理解し、静かにゼロの視界から消えていった。

ゼロはその光の残滓を見送り、全てを教えてくれた彼に対し、感謝の言葉を小さく呟いた。


それからまた、前を見つめる。
空を見る。大地の果てを眺める。


「そうだ、間違いなんかじゃない」


そう力強く、確かめるように頷きながら口にする。

確かに、かつて一時期築かれた理想郷は消えてしまったかもしれない。
共に望んだ“懐かしい未来”はこの場所には既になかったかもしれない。
彼が、ゼロに届けたいと望んだものは、形を失ったかもしれない。



けれど、この世界の上で戦ってきたゼロの目には、心には、確かに響いていた。



徐ろに瞼を閉じ、反芻する。ここまでの道のりを。



つらい戦いの中で

苦しい死線の上で

厳しい現実の狭間で


戦い続ける者達がいた


抗い続ける魂があった





憎むべき敵もいた


赦し難き悪もいた




それ以上に




懸命に生き抜こうとする、強かな命があった




頬撫でる風を感じながら、立ち尽くす。
そうして、この世界で出会ったすべての者達の顔を思い浮かべる。

死んでいった者も。生きて尚戦い続けている者も。
本当に、全ての者達の顔を。

その声を、何度も思い返す。



そして――――












    「………………シエル」












一人の少女の名を口にする。



――――ああ、そうだ


    この世界が間違いだというのなら


    彼の信じたものが間違いだったというのなら







    その全てが間違いだったと認めることになる








「……絶対に、間違いなんかじゃない」







    彼らの生き方は


    歩む道は


    その命は












ロックマンエックスが守り、遺したもの――――その形も、色も、何もかも変わってしまったかもしれない。


けれど、彼が伝えようとした魂は

その光は

確かにこの世界のそこかしこで

小さくとも、儚くとも、確かに瞬いていた


それを、ゼロの心は見てきたのだ








だからこそ、今は胸を張って言える。





再び瞼を開き、世界を見据える。

蒼い軍勢の先には暗闇が見えた。果てない暗闇が。いつ明けるとも知れぬ、無限の暗黒が。
けれど、それを照らす強い光が見えた。この世界に生きる、気高き魂の光の束が。

――――共に夢見た“懐かしい未来”の結晶が。

















        「なあ、エックス……」












        最初に望んだものとは大きく違ってしまったかもしれない





        約束した“未来”では無いのかもしれない










        けれど











        お前が愛し、守った この世界を




















            俺も






















            愛しているよ
































右腕に握る鮮緑の剣は、細かな火花を迸らせながら煌々と光輝く。
真紅のコートはたなびく金髪とともに、風を切る。



天高く昇った太陽に照らされて。世界を包む蒼天に抱かれて。

果てなく続く荒野を 紅の英雄は――――


















    力強く

















    駆け抜けた。





































          FIN.














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