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No.34283の一覧
[0] [Z-E-R-O] (原作:ロックマンゼロ、ロックマンX)[村岡凡斎](2013/09/18 15:00)
[1] はじめに[村岡凡斎](2012/07/18 16:08)
[2] Prologue[村岡凡斎](2012/07/18 16:24)
[3] Waffle for Chapter[村岡凡斎](2012/11/07 01:25)
[4] OPENING STAGE 「涙の少女と寝起きのマルス」[村岡凡斎](2012/10/29 15:54)
[5] 1st STAGE 「剣」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[6] 2nd STAGE 「星に願いを 夜空に問いを」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[7] 3rd STAGE 「包囲戦線」[村岡凡斎](2013/11/25 19:59)
[8] 4th STAGE 「亡霊の影」[村岡凡斎](2012/10/29 15:59)
[9] 5th STAGE 「死屍軍団」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[10] 6th STAGE 「キズダラケ」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[11] 7th STAGE 「渇望/葛藤」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[12] 8th STAGE 「未来」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[13] 9th STAGE 「理想郷の詩」[村岡凡斎](2012/10/29 16:02)
[14] COMMENTARY 1[村岡凡斎](2012/09/18 18:22)
[15] 10th STAGE 「紅いイレギュラー」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[16] 11th STAGE 「救い」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[17] 12th STAGE 「ウラギリ」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[18] 13th STAGE 「闘将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:27)
[19] 14th STAGE 「証明」[村岡凡斎](2012/10/30 23:28)
[20] 15th STAGE 「レスキューコール」[村岡凡斎](2012/10/30 23:29)
[21] 16th STAGE 「世界を覆う白雪の上で」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[22] 17th STAGE 「理想の表裏」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[23] 18th STAGE 「color of mine/d」[村岡凡斎](2012/10/30 23:31)
[24] 19th STAGE 「妖将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:32)
[25] 20th STAGE 「届かぬ想い、その結末。」[村岡凡斎](2012/10/30 23:33)
[26] 21st STAGE 「デンジャラス・デイ」[村岡凡斎](2013/05/07 21:37)
[27] COMMENTARY 2[村岡凡斎](2012/10/30 23:37)
[52] 22nd STAGE 「レプリロイドは ぜんまいねずみの夢を見るか?」[村岡凡斎](2012/11/07 01:09)
[53] 23rd STAGE 「殺戮舞台」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[54] 24th STAGE 「罪 と 罰」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[55] 25th STAGE 「Raging River」[村岡凡斎](2013/11/19 00:54)
[56] 26th STAGE 「ABSOLUTE - JUSTICE」[村岡凡斎](2012/12/17 00:06)
[57] 27th STAGE 「隠将」[村岡凡斎](2013/01/28 22:27)
[58] 28th STAGE 「再会」[村岡凡斎](2013/05/07 21:39)
[59] 29th STAGE 「暗躍の調」[村岡凡斎](2013/05/25 23:30)
[60] 30th STAGE 「死者の国」[村岡凡斎](2013/06/23 01:04)
[61] 31st STAGE 「乱戦四重奏」[村岡凡斎](2013/08/03 00:49)
[62] 32nd STAGE 「Red, White and Bullet Blues」[村岡凡斎](2013/09/18 14:58)
[63] 33rd STAGE 「    」[村岡凡斎](2013/09/28 16:02)
[64] 34th STAGE 「月と影、そして太陽」[村岡凡斎](2013/10/06 09:36)
[65] 35th STAGE 「残光の行方」[村岡凡斎](2013/11/02 15:37)
[66] 36th STAGE 「救世主」(前)[村岡凡斎](2013/12/24 14:36)
[67]          「救世主」(後)[村岡凡斎](2013/12/25 11:54)
[68] FINAL STAGE 「Message from...」[村岡凡斎](2014/01/25 17:09)
[69] LAST COMMENTARY[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
[70] おわりに[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
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[34283] 36th STAGE 「救世主」(前)
Name: 村岡凡斎◆45ff140f ID:e5a820fd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/12/24 14:36


  ―――― * * * ――――


ネオ・アルカディア首都メガロポリス。その中央に天高く聳える塔――――ユグドラシルの聖殿。
二人は窓から、外を見渡す。
地上には都市が広がっている。この地球上でただひとつ残された国が、懸命に生きる人類の営みが、そこに集約されている。
そしてそれを見守るように、太陽が輝き続けている。広大な青空に抱かれながら。まるで、この世に生きるすべての命を照らすかのような輝きは、単純に羨ましかった。

『母さん……僕は……――――』

そう言って、隣にいる少女を見つめる。少女もまた、彼を見つめていた。
幼い少女の瞳は、何一つ疑うこと無く、微塵の曇りもなく彼を映している。
それを確かめるたびに、心を覆う不安も苦悩も、自分を襲う負の感情の全てがどこかへ吹き飛んでいくのが分かった。

例え“本物の救世主”ではなくても、彼女にとって自分は“本物”なのだと、そう思えた。
だから、きっとできると思えた。彼女の願いに、期待に、答えられると思えた。
だから、言えるのだ。



『母さん、僕は……この世界を救う。――――本当の理想郷を、作ってみせるよ』



彼の言葉に少女は、まるで満開の花のように笑ってみせた。
そして、強く頷き返し、彼の手を握る。

『できるわ、あなたなら。絶対に。だって、あなたは――――』



『……母さん』

はにかみながら、彼女の手を握り返す。
小さな手から伝わるのは、何物にも代え難い温もりだった。
きっと一生忘れないだろう。どれだけの苦難を迎えようと、この日受け取った温もりが、いつまでも支えになってくれるから。

十歳程度の少女が抱く拙い理想を、戯言だと退けることは誰にでもできる。
だが、例えどれだけ夢の様な理想であろうと、叶えられる気がした。
彼女が信じてくれる自分ならば。



誰かが口にした、“懐かしい未来”――――……



過酷な現実と向き合う内に、誰もが忘れてしまった未来。
己の限界を決めつけて、目を向けることを諦めてしまった未来。
夢物語だと断じて、「あり得ない」と切り捨ててきた理想の未来。

それを、幼い彼女はまっすぐに見つめている。何の躊躇いもなく、信じている。
無邪気故の理想。それは、きっと現実にはとてもそぐわないものかもしれない
しかし、だから思うのだ。もしも、その未来が実現できたなら、きっと全ての人々を、レプリロイドを、世界を救済できるのではないかと。
だから進むのだ。その想いを信じて、どれだけの困難にぶつかろうと、乗り越え、絶対にその未来を実現してみせようと。


――――そうしたら、きっと僕は…………



























    そして現実を知り、打ちのめされ、挫けた。

    それでも自身に出来る道を精一杯に貫いた。

    何故なら、それ以外の生き方を知らなかったから。

    何故なら、それだけは譲れなかったから。






    一つだけ捨てられないものがあった。


    たった一つだけ――――





    生まれ出てからずっと抱き続けていた、自分自身の願いだけは。

































































 36th STAGE











          救 世 主


























  ――――  1  ――――





「 水 烈 閃 ! 」



「 フ ロ ス ト シ ー ル ド ! 」



ゼロが突き出した水の刃諸共、バスターの銃口付近が凍りつく。
すかさず刃に炎を纏わせ、斬り上げる。氷を破壊し、そのまま懐に入り込み、斬りかかる。だが、一瞬の内に彼はゼロの頭上へと飛び上がる。

「カメレオンスティング!」

叫びとともに、三叉に分かれるエネルギー弾が直下に連射される。着弾とともに砂埃が舞い上がる中、ゼロは必死に掻い潜って銃撃の雨から抜け出すと、そのまま左手を大地に当て落鳳破を放つ。
それを危なげなくヒラリと躱して着地すると、ゼロを再び捉え、光弾を機関銃のように撃ちだす。

――――近づけさせないつもりかッ!?

弾幕を張って、隙を見せたところに必殺の一撃を叩き込むつもりだろう。
近接戦主体のゼロを相手にするならば正しい選択だ。

「だがッ!」

ゼロは緊急加速装置を利用して光弾の中を一気に駆け抜けた。瞬時に加速したゼロの動きに対応しきれず、“レイスプラッシャー”は空を切る。
その間にゼロは力一杯地を蹴って飛び上がる。刃に稲妻を纏わせた上昇攻撃――――雷神昇。
「やるね!」と笑いながら、フライナーユニットを巧みに操り躱す。が、ゼロは空中に上がったと同時に技を解除。そのまま勢いに任せて回転斬りをお見舞いする。
咄嗟に放たれたバスターショットがゼットセイバーの刀身を真正面から捉え、弾ける。その衝撃が二人の体を別々の方向へ弾き飛ばした。
軽やかに着地すると共に、ゼロの飛んだ方向へとバスターを向け連射する。だが、それさえもゼロには予測の範疇。

「こっちだ!」

そう背後から声を掛けるとともに、側面へ回り込む。
声に釣られて背後に振り向いた、彼の横っ面目掛けてゼットセイバーを振り切る。
「ローリングシールド!」――――掛け声に合わせて展開された球状のエネルギーバリアによって、セイバーが弾かれた。「チッ」と舌打つ間に、銃口がコチラを向いているのを視認する。
「ストームトルネード!」――――バスターから放たれた竜巻が、ゼロの身体を吹き飛ばす。あくまでも距離をおいて戦いたいらしい。
ゼロの身体が地面に叩きつけられた、そのタイミングを狙って繰り出される、地を這う衝撃波――――ジェルシェイバーの連弾。
無理やり左腕で地面を叩き、転がるようにして回避する。

「無様だね!」

叫びとともに収束されたエネルギー弾が上空に二度、放たれる。間をおかずに真空の刃と、複数の雷が空中から降り注ぎ、起き上がり際のゼロを襲う。
なんとか反撃の糸口を見つけようと、激しい攻勢に巻き上がる砂埃の中、駆け回り、距離を詰めていくゼロ。刹那、自分の胸にレーザーサイトが照準をつけていることに気づく。

「やられたッ!?」


「 ス ナ イ プ ミ サ イ ル ! 」


絶対必中の技の射程圏に入った瞬間、無情に放たれる必殺のミサイル連射。たちまちゼロの姿は爆煙に包まれてしまった。
ダメ押しとばかりに、バスターショットを連続で叩き込む。一頻り撃ち尽くすと、彼はまるで子供のように笑った。

「どうだい、ゼロ。僕が“本物”たる所以が分かっただろう?」

Dr. シエルの手によって生まれた、それまでの“完璧な模造品”とは違う、Dr. バイルですら認めた“本物”。
彼女以前の技術者達は皆、“オリジナルエックス”を生み出すことに躍起になっていた。彼の全てを完璧にコピーすることを求めていた。
しかし、Dr. シエルは違っていた。オリジナルエックスの構造、能力、性能を、現代技術を応用した上で、独自のアレンジを幾重にも加えて上位互換的に再現したのだ。
オリジナルエックスがマザーのデータベース上に残した特殊能力。それらを全て、元以上の性能で使用できる。パワーもスピードも、あらゆる面で、オリジナルを上回っている。
固定観念を平気で捨て去った、無邪気な少女の発想。その化身は、身にまとう鎧の名の通り“究極”だった。

「“コピー”が“オリジナル”より弱いなんて妄言さ。新技術を詰め込んだ“コピー”の方が、圧倒的に強いに決まってる」

「だからこそ、僕が“本物”だ」――――そうほくそ笑む彼に、爆煙の向こう側から声が投げられる。

「……本当に“ガキ”だな、お前は」

その言葉に、ピクリと不機嫌そうに眉を動かす。そのままバスターを向け、周囲の岩石を銃口に集めて巨大な塊を作り出し、放つ。
だが、そうして放った“スクラップシュート”は真っ二つに両断される。


「そうやって能力を見せびらかして自己顕示か。――――“本物”かどうかなんざ、その程度で示せるものかよ」


瞬間、壮絶なエネルギーの解放を感じる。
ゼロの本気が、胸を刺すような威圧感を周囲に撒き散らす。
相手が全ての種を見せ切っていないことは分かっている。だが、ここで温存出来るほど、容易な戦いではないのも事実。
ならば、相手が余裕を見せている間に、全力全開をぶつけるのみ。



「出し惜しみは無しだ! ――――“本物”を見せてやるッ!!」










    [―――― S Y S T E M :“ A B S O L U T E ” S T A N D B Y ――――]




































  ――――  2  ――――


白の団の広域レーダーが、忘却の研究所が位置するポイントから壮絶なエネルギー反応を感知する。
間違いない、二人はそこで戦っているのだ。

「私、行ってくる!」

そう言って駆け出すシエルの手を掴み「待ってください!」とエルピスは引き止める。

「貴女が行ったところで、邪魔になるだけです!」

辛辣ではあるが、その通りだ。
あの二人が全力をぶつけあっている戦場など、並のレプリロイドでも立ち会うのが困難に違いない。そんな場所へ、たった十四歳の少女が出向いたところで無事に済むとは思えない。
しかし、それでも――――と、シエルはぐっと腕を引く。

「それでも私には、立ち会う義務があるの!」

救世主を作り出し、ゼロを目覚めさせた――――二人が戦うことを全く予定していなかったわけではない。
本来ならば、こちらを駆逐し、殲滅せんと動いた救世主への対抗手段として、ゼロを用意していたのだ。しかし状況は少女の思い通りにはいかなかった。
救世主は自身の守ってきた国を追われ、孤独を強いられている。それを救うべく英雄は出撃した。しかし、どのような事情かは分からないが、救世主がこちらの申し出を断ったのは間違いない。
そして、衝突している。――――シエルの願いを懸けて、ゼロ達は戦っている。


「貴女が無事に帰ってこられる保証はありません!」


「そんなの! 私だけ逃げていい理由になんてならないわ!」


引き金を引いたのは自分だ――――ずっと分かっていた。ずっと思っていた。ずっと抱えていた。
けれど、逃げ続けていたのは間違いない。「向き合う」という、一番単純で簡単な事を避けてここまで来てしまったのだ。
その責任を取らなければならない。どれだけの危険がこの身に降りかかろうとも。でなければ散っていった仲間たちにどのような顔を向ければいいのか。どうして理想を語り続けることができようか。
だが、エルピスも頑として譲らない。


「貴女を守り通すことは、私の使命であり意地でもあります! 行かせることはできません!」


白の団のため、戦いに赴いたゼロのため、そして、ここまで命を散らしてきた今は亡き仲間たちのためにも、もう二度とシエルを手放すようなことがあってはならない。
二人の戦いだけが問題なのではない。決着した後の、ヴィルヘルムの動向が予想できない今、危険な行動は慎むべきだ。
しかし彼が譲らない以上に、少女は頑なだった。その意志の強さを、エルピスは瞳の奥に感じて思わず臆してしまう。




「それでも! それでも……行かなくちゃいけないのよ! 私はあの子の 母 親 だ か ら ! 」




エルピスは気づいた。彼女は、正真正銘、嘘偽りなく、一転の曇りもなく、ただ“誰か”の為に動いているのだ。自己を微塵も勘定に入れず、心の底から他者のために尽くそうという強い信念があるのだ。
それに比べてしまえば――――自分の使命も、意地も、どこか弱く、儚いものに思えて仕方がなかった。
シエルはエルピスの緩んだ手をそっと引き剥がし、それから両手でグッと握りしめる。

「ありがとう、エルピス。……あなたの気持ちは…分かってるつもりだから」

自分を心の底から心配してくれているのだと、分かっている。
それでも、それを受け入れる以上に果たさなければならない義務があるのだと、彼女の瞳は物語っていた。
「しかし」と煮え切らない想いを抱え、奥歯を噛みしめるエルピス。実際に危険であることは間違いない。
たとえ彼女に譲ったとしても、ほんの少しでも無事に済む道があるならば、それを探さなければ。それがきっと、本当に彼女のためになるのだから。


「……俺が行こう」


声の方へ視線を向けると、扉の横にはア・ヴォルク・エイヴァイラーが立っていた。

「俺が護衛について行く。それならば、問題あるまい」

「貴方は……」

ゼロとともに、ヘルヘイムから脱獄してきたレプリロイド。
ハッキリ言って、正体不明の彼を信用することは難しい。だが、ゼロの援護があったとはいえ、あの救世主と対峙して生き残ったというだけでなく、アンカトゥス兄弟撃破に大きく貢献した実力は本物と言わざるを得ない。
少し考えた後、他の道は見当たらないと観念したのか、エルピスはため息を一度だけ吐く。

「すいません。協力、感謝します」

「……任せろ」

冷たい表情のままヴォルクはそう答え、身を翻し、管制室を出て行った。
エルピスはトラックの準備を指示し、ヴォルク以外に数名の護衛をつけるよう素早く手配した。
























「間違いありません! コピーエックスと紅いイレギュラーが戦闘を開始しました!」

監視メカニロイドから得た伝令の報告に、ヴィルヘルムは口端を歪めて笑みを浮かべる。

「遂に来たか! 時が!」

他の伝令に向けて、吠える。

「ペガソルタを向かわせろ! パンテオン、ゴーレム、それに支援メカニロイドを各百機以上つけてな!」

「ハッ!」と答え、走りだす伝令係。しかし、突然に「いや、待て」と静止をかける。
それから、顎髭に手をあて、考え込んだ後、指示を修正する。

「戦いの様子を観察して、決着する直前に伝えるのだ」

少々難度の高い要求に、伝令は戸惑いつつも「承知致しました」と答え、今度は歩いて部屋を出て行った。
「何故です?」と問いかけるヘルゲに、ヴィルヘルムは皮肉っぽく笑いながら答える。

「奴の性格上、コピーエックスの存在を知れれば直ぐにでも向かうだろう。だが、それではいかんのだ」

ペガソルタ・エクレールの性能を考慮すれば、ロックマンエックスと同等以上の力を持つ彼に敵うとは到底思えない。
その上、戦場には依然として姿勢を明らかにしない白の団の紅いイレギュラーがいる。
万が一にも紅いイレギュラーが向こう側につき、二人でネオ・アルカディアの相手をされたならば、敗退は間違いない。
となれば、ペガソルタを向かわせるタイミングは、決着後――――どちらかが倒れた後。その漁夫の利を得れば良い。

コピーエックスが生き残ったのであれば、排撃し、新たな英雄となるために。
紅いイレギュラーが生き残ったのであれば、脅迫し、従わせるために。
いや、彼もまた破壊してしまって良いかもしれない。英雄は二人も必要ないのだから。


「どちらにせよ、最後に勝つのは私だ! 人間の王たる、このヴィルヘルムだ!」


高らかに宣言するヴィルヘルム。それ以上のシナリオは、今の彼には描けなかった。
だが、ここまでの流れを考えれば、ヘルゲにはどうにも、そううまく行く話には思えなかった。
確かなことは言えない。しかし、言い知れぬ不安だけが、胸の奥に渦巻いていた。






























  ――――  3  ――――


黒化したゼロが、巻き上げられていた砂埃を割って飛び出してきた。咄嗟にバスターを向け、誘導弾を連射する。
ゼロは円を描くように素早く駆け抜け、“ホーミングトーピード”の追撃を振り切る。標的を追っていた雷撃弾は互いにぶつかり合い、誘爆を生み、全て吹き飛ぶ。
再び銃口が自身を追って向く。――――それを確認するより早く、ゼットセイバーを縦横無尽に振り回す。容赦なく放たれる、高い殺傷能力を持った衝撃波――――光幻刃の乱れ打ち。
フライナーユニットを瞬時に蒸かし、飛び退くように避ける――――と、その先には既に黒い影が。

「トライアードサンダー!」――――銃口から放ったナノビットを通じて、自分の周囲を守るように電撃が放たれる。間一髪でセイバーの一撃を防ぐ。が、その瞬間には、既にゼロは、彼が展開したトライアードサンダーの死角に対してセイバーを突き入れていた。
反射的に首だけで躱す。頬が切れ、鮮血がわずかに飛び散る。同時に放つ、クモの巣状エネルギー弾――――ライトニングウェブ。ゼロの身体が絡め取られる。
直ぐ様「燃え尽きろ!」と叫び、放つ炎。だが、蜘蛛の巣を引き千切って行ったのか、ゼロの姿は射線上にない。それでも、そのまま“ファイヤーウェーブ”を放ちながら、側面からの攻撃を予期してバスターを外に向けて横回転する――――が、手応えはなかった。

「それなら――――ッ!」

「――――上だッ!」

高エネルギーを凝縮して巨大な刀身を作り出し、その切っ先を下に向けて上空から落下する――――落鋼刃。
咄嗟に炎を上空に向けて放つが、ゼロが手にした鋼鉄の刃はその炎を割って降りてくる。

「ウイングスパイラル!」

全身から竜巻を上空に放つ。
ゼロの身体は向かい風によって、僅かに落下速度を抑えられ、紙一重と言ったところで剣技を躱される。だが、着地とともにすかさず刃に炎を纏わせ、斬り上げる。対してバスターからは苦し紛れの盾として氷塊が放り出される。
割れた氷を縫ってバスターを再び突き出し、ショットを放つ。が、そこにいたのはゼロの分身体、双幻夢。「本体は……ッ!」と背後の殺気を知覚した瞬間、躊躇なく自身の足元にナノビットを放ち、自身を守るようにして電気を纏った竜巻を発生させた。
再び間一髪でゼットセイバーを防ぐことに成功するが、息をつくヒマはない。返す刀でゼロは電撃をセイバーに纏わせ、雷神撃を繰り出す。“ボルトルネード”の内にいる彼の体を捉えた――――かに見えた。

「いや、違う!」

ゼロの双幻夢とよく似た撹乱技、ソウルボディ――――高エネルギーから作り出した己の分身体を囮に、本人は上昇し、次の攻撃に移っていた。が、ゼロはそれを見抜き、その場から咄嗟に離れる。
勢い余って、そのままバスターから放たれたのは炎弾。着弾した瞬間、円陣状に爆発が起こる。だが、標的は既に跳び上がり、自身の直ぐそこに刃を振り上げて迫っていた。そのまま繰り出される、衝撃波を伴う回転斬り――――円月輪。
仕方なしに歯を食いしばり、フライナーユニットを利用した急加速でその場を離れる。だが、衝撃波は翼を僅かに叩き、彼はバランスを崩され、落下する。素早く手をついて上体を起こし、追撃を読んで片膝をついたままバスターを背後に振る。

「「……ッ!!」」

銃口から刃のように展開されたレーザーと、ゼットセイバーが衝突する。無論、SYSTEM:ABSOLUTEの効果――――天空覇を纏ったゼットセイバーの方が威力は上。仄かな稲光を放った後に、バスターから出ていた“エイミングレーザー”を霧散させ、ゼロはそのまま懐に踏み込み、縦に振り抜く。
赤紫色の閃光を転がるようにして躱し、起き上がり際にゼロへとバスターを向け、広範囲にウェーブ状のエネルギー弾を連続して放つ。
ゼロはその弾をいくつか跳ね除けた後、地を蹴り跳び上がる。空中で緊急加速装置を利用し、滑空攻撃をかける。
咄嗟に展開した二つのビームの輪――――“クレッセントショット”がバリアの働きをして、ゼロの“旋墜斬”を弾く。そして反動でよろけながら着地するゼロの足元を狙って、エイ型の小型ビットを放つ。
ゼロは直ぐ様体勢を整え、セイバーから斬光輪を複数放つ。地を這う光の車輪が“グランドハンター”を次々と破壊し、その先の標的へと襲いかかる。
咄嗟にバスターから板状の氷塊を放ち、地上を滑らせる。“ショットガンアイス”の塊は、自身へと向けて走ってきていた光輪を尽く弾いた後、砕けた。その間に立ち上がり、ゼロの追撃を警戒する。――――既に前方から姿を消していたのだ。

「速すぎるッ!」

四方八方から襲いかかる光幻刃。全身を守る氷の盾、“フロストタワー”を展開して凌ぐが、見る見るうちに氷は削り取られていく。
ここまでの遣り取りで分かったのは、黒化したゼロの速度と反応は、ファントムすら凌駕するものだということ。多彩な特殊武器の組み合わせでなんとか凌いできたが、こちらから致命的な一撃を与えるまでに及ばず、遂にはこうして追い詰められている。
しかし、一撃の重さではこちらのほうが上だ。それはきっとゼロも分かっている筈。メガロポリスで見せた“プラズマチャージショット”を未だ温存しているのだから。
だが、それを放ったとして、当たらなければどうということはない。そして今のゼロに対して当てられる自信はない。かといって、黒化が終わる頃を狙ったところで、そこまでにこちらが致命傷を負わされないとも限らない。

――――状況を打開するには……

最も厄介な敵の“足”を止める。それが今の自分にできる再優先の策。


「 バ グ ホ ー ル ! ! 」


フロストタワーが崩れ落ちたと同時に、上空に放った暗黒の球。それが一瞬にして空を覆う。
途端に、駆け回っていたゼロの体は、空中へと持ち上げられるような力を足元から感じる。

「重力操作か…!」

地球の引力とは逆に働くその力が、まるで体を引き伸ばすようにして負荷をかける。
気を張り、力尽くで堪える。ともすれば引き裂かれそうな感覚を押し退け、無理やり地を蹴り、飛びかかる。
そのゼロを見て思わず「流石」と口走ってしまう。並のレプリロイドならば容易に動けはしないだろう状態のはずだ。だが、その程度も予測の範疇。

「スピニング……ブレード!」

力いっぱい振ったバスターの銃口からはビームで編まれたロープ。そして先端には高速で回転する円盤状のカッター。
「くぅッ!」と苦悶の表情を浮かべながら、それをセイバーで防ぐ。跳び上がって躱すことができればよかったのだが、上空ほど効果が大きいバグホールが展開している以上、それはできない。
そこから咄嗟に、円水斬の要領で回転し、カッターの上を転がるようにして受け流す。
機転を利かせたゼロの対応に「やるね!」と賞賛を送るが、バスターからは既に次の武器が放たれていた。
ゼロの体を、ガッチリと巨大なアームが掴む。


「しまった!!」


「ストライクチェーン! ――――捕まえたよ、ゼロ!」



ビームのワイヤーがゼロの体ごと引き戻されて行く。硬いアームの中でゼロは考える。

――――このアームでは俺の体を……砕けない

ガッチリと掴んではいるが、握り潰すほどの力はかかっていない。となれば、狙いはこの攻撃の先にある。
アルティメットアーマーを纏った彼に対して、SYSTEM:ABSOLUTEを発動したゼロが得たアドバンテージは――――速度と反応。
攻撃力ならば、俄然、相手の方が上。勿論、こちらも切り札の一撃は残しているが。それでも、あのプラズマチャージショットには押し切られかねないだろう。
だが、どれだけの攻撃力があろうと、当たらなければ意味は無い。黒化が解けたところで、ゼロにはそれを躱す程度の自信はある。

では、相手がその状況を打開するためには、どうすればいい?

答えは一つ。このストライクチェーンという技の選択が彼の思考を物語っている。
このチェーンが出ている限り、他の攻撃はバスターから放てない筈だ。ならば勝負は、ストライクチェーンが引き戻り、消失した瞬間。


――――つまり、圧倒的パワーによる零距離射撃!


コンマ数秒の思考をしている内に、半分の距離まで引き戻っている。その瞬間は近づいている。
ゼロは覚悟を決め、ニヤリと不敵に笑う。


――――お前がその気なら


乗ってやる、その勝負。
グッとセイバーの柄を握り締め、振り上げる。丁度自分も、彼の“足”を止めたいと思っていたところだ。こちらの一撃必殺を浴びせるために。
それくらいしなければ、彼を止めることなどできない。




推定、残りコンマ三秒。




互いの視線が絡み合う。互いに歯を食いしばる。互いに覚悟を決める。
そして、ゼロの体が銃口の直ぐ先に辿り着く――――

永遠にも感じられる一瞬……‥‥









「 ク リ ス タ ル ハ ン タ ー ! 」





「 烈 鏡 断 ! ! 」









バスターから放たれた水晶弾がゼロのセイバーに弾き返され、背後に飛び退いた彼の足に着弾する。
「しまった!」と思わず口走る。彼の足が見事に凍りつき、跳び上がっていた体は地面に固定され、無様にも尻餅をついて倒れる。
その隙にゼロも後方へと飛び退き、セイバーを頭上に振り上げる。

零距離でのプラズマチャージショットはまず、あり得ない――――コンマ二秒程度の辺りで考えついた結論はそこだった。
彼が瞬時にチャージする術を持っていたとしても、その刹那の隙が仇と成りかねないのだから、選択はしない筈だ。そもそも、零距離であの威力を放てば、直ぐそばにいる自分もどうなるか分かったものではない。

――――ならば、放つのはおそらく動きを止めるための一撃

実際に選択したクリスタルハンターのような固定技か、最低でもゼロの足を止める程度の威力を持った攻撃に違いない。
そして、放つ瞬間は、ゼロの一撃を避けるために飛び退くことは間違いない。
それなら、こちらが選択する技は――――……


「次の一撃を当てるため、お前の技を利用させてもらった」


烈鏡断――――セイバーの表面を硬質化させ、敵の弾を弾き飛ばす剣技。それによって狙い通り、逆に敵の“足”を止めた。
アースクラッシュのエネルギーを注ぎ込まれたセイバーの刀身が、壮絶な輝きとともに巨大化する。
その威力を想像し、思わず笑いが溢れる。

「やってくれるよ……ゼロ……流石だね……。でも――――」

立ち上がり、バスターを構える。
幸か不幸か、最強の技を放つため、彼の狙い通り、ゼロの足も止まっているのだ。
ここで交わされるのは単純なパワー勝負。それなら、こちらにも分はある。


「 勝 つ の は ―――― “ 本 物 ” は 僕 だ ! 」


「 そ の 幻 想 ご と “ 零 ” に 返 し て や る ! 」



互いの全力を、互いの一撃に込め、咆哮とともに解き放つ。









「 プ ラ ズ マ チ ャ ー ジ シ ョ ッ ト ォ ! ! 」







「  幻  夢  零  ッ  !  !  」











極大のビームと、極大の光刃――――中央で衝突する二つのエネルギー光。
巻き起こる稲光が、視界を彩る。聴覚に支障をきたすほどの衝撃音が響き続ける。
まるで世界を揺るがすような力が、大地を駆け巡っているのが分かる。
吠える。まるで獣のように――――……‥‥




「……“本物”は…… 僕 だ ぁ あ ぁ ぁ あ ぁ ぁ あ ぁ ぁ ぁ ぁ ! ! 」




瞬間、言葉に出来ないほどの爆音が鳴り響くとともに、二つのエネルギーはとてつもない閃光を放ち、霧散する。
突風が吹き荒れ、砂塵が飛び交い、クリスタルハンターで氷漬けにされていなければ、そこから吹き飛ばされていただろう。
思わず、右手で視界を覆う。そしてそのまま――――左腕のバスターから、再びチャージショットを放った。

幻夢零は一撃限りの大技。なにせ、SYSTEM:ABSOLUTEを発動してから、丁度五分が経過した。
黒化状態でなければアレが放てないゼロと違い、こちらは、いつでもプラズマチャージショットが放てる。
そして、この衝撃の中、まともな状態でそこに立っているわけがない。
視覚も、聴覚も……自分同様に、頭を揺さぶられるような感覚のまま立っているに違いない。

ならば、幻夢零を打ち砕いた時点で、こちらの勝利は必然――――ッ!




突如、紅い閃光が――――視界の隅を横切る。



――――まさか!?



思考を巡らせ、ゼロの戦術に舌を巻く。
間違いない。自身が持つ究極の剣技――――幻夢零を、囮に使ったのだ。
プラズマチャージショットとの衝突と、その後に起きる衝撃の中へ紛れることを計算に入れて。


「 ゼ ロ ぉ ぉ お ぉ ぉ ぉ ッ ! 」


叫ぶ彼の戦力を削ぐべく、左腕のバスターに向けて鮮緑の刃が無情に振り降ろされた。



























































「……ッ!?」

ゼロは思わず絶句する。
突如として放出された激しいエネルギー光が、ゼットセイバーを弾く。




「――――なんて、ね」




薄ら笑いを浮かべながら、その光の中心から声をかける。


「僕の切り札は――――あんな“ちゃち”なバスターショットなんかじゃあ無いよ」



「……く ッ そ ぉ お ! 」



押し切ることができず、悪態つきながらゼロは飛び退く。
完全に嵌められた。いや――――読み負けた。幻夢零でプラズマチャージショットを打ち破るまでは間違いなく、こちらの勝ちだった。
しかし、その先の策が、相手にはあった。正真正銘の、奥の手が。



「これこそ、正真正銘……僕が“本物”たる所以さ!」



地を蹴り、飛び上がると共に、フライナーユニットの両翼を展開する。
そして、全身を包む激しいエネルギー光をより一層輝かせ、ゼロに向けて高速で突撃をかける。

















   ノ ヴ ァ ス ト ラ イ ク ! !























構えていたセイバーも役に立たず、必殺の一撃――――“ノヴァストライク”の直撃を受ける。
激しい閃光と衝撃が全身を駆け巡り、そのまま弾き飛ばされたゼロの体は、荒野を百数十メートル先まで転がっていく。
やがて、大きめの岩石に衝突し、大きくヒビを入れて、止まる。

巻き上がる砂埃が落ち着くとともに、無様に倒れこむ紅いコートの英雄が見える。
立ち上がる気配もないその様子を見て、彼は満足気に微笑んだ。


























































  ―――― * * * ――――


荒れ地に揺れる兵員輸送トラックの荷台の中で、シエルはぐっと両手を合わせ、握りしめる。
儚い祈りだけが続く。どうか無事であるように。どうか望みどおりに事が運ばれるように。どうか、どうか――――……‥‥

「もしも…だ」

不意に低くドスの利いた声が想いの間隙を縫って聞こえてくる。
シエルは顔を上げ、その声の主、無表情に問いかけるヴォルクの冷たい瞳を見つめた。
彼は、少しの間の後、言葉を続ける。

「もしも、ゼロがあの偽物を救えなければ、どうする?」

ゼロが、救えなかった場合――――即ち、ゼロが倒れた時、もしくは、ゼロが殺めてしまった時。
いや、ゼロが倒れたときは、語る必要も無い。白の団は為す術がなくなり、直にネオ・アルカディアによって潰されてしまうだけだ。今の状況では間違いない。
だから、ヴォルクが問うているのは、後者のほうだ。ゼロが殺めてしまった場合。彼の意図によるものか、それとも反してかはともかくとして、万が一にもそういう事態は起きえると考えて良いだろう。
その時、二人の無事を願う少女は、一体どのような態度をとるのか。どのように思うのか。
ヴォルクの問いに、シエルは、目を少しも逸らさず答える。


「そんなの……決まってるわ……――――」


覚悟はできてる。ゼロが出撃した瞬間から。
何一つとして不満を漏らすことなく、不安にさせるようなことを口にすること無く、颯爽と飛び出していった誇り高い背中。
いつだって支え続けてくれた、唯一人の英雄。その姿を見続けた少女の決意は、自らにとってどんなにつらい未来を想像しようとも、少しも揺らぐ事はなかった。





















  ――――  4  ――――


「……ちょっとだけ、手を抜いちゃったかな?」

暫くの沈黙の後、辛うじて立ち上がる姿を見て、彼は嘲笑とともに嫌味っぽく言ってやった。
いや、決して嫌味なだけではない。実際、“必殺の一撃”でありながら、殺しきれなかった理由には、思い当たるものがある。

「記憶ってやつは厄介だね……」

それが自分の思考の内に干渉してきたのは確かだ。
“ゼロ”という存在に対する、オリジナルエックスが持っていた尊敬、友情、憧憬――――……ゼロと初めて対峙したときのハルピュイア同様、彼の心にもまた、オリジナルから継承したデータの影響が及んでいた。
だが、次はない。再度放たれる一撃は、間違いなく、正真正銘の一撃必殺となる。そして、SYSTEM:ABSOLUTEが解けてしまったゼロに、それを防ぐ手立てはない。

「ゲームオーバーさ、ゼロ。君の勝算はもうどこにも無いだろう?」

対して、震える足で立ち上がり、睨みつけるゼロ。しかし、意識を無理やり保とうとしている今の状況を考える限り、相手の言葉は受け入れがたくとも、真実と認めざるを得なかった。

黒化して“ようやく”――――だった。アルティメットアーマーを装備した彼に対抗するだけの力は。
黒化して戦闘速度、反応速度が上回ったことで、ようやく得ていたアドバンテージ。それによって五分以上のやりとりができたのは、間違いなかった。
しかしSYSTEM:ABSOLUTEがダウンし、黒化が解けてしまったゼロの力では、アルティメットアーマーの戦闘力に対して“イーブン”に持ち込むことすら至難の業だ。
それに加え、ノヴァストライクの一撃を受けてしまったのだ。救世主が誇る“必殺技”の威力は、オリジナルエックスの記憶の干渉分を差し引いても、相当なものであった。
文字通りの致命傷。ともすれば、直ぐにでも機能停止しかねないギリギリのライン。通常時でも敵わない相手に、そのような状態で対峙せねばならないのだから。ゼロが勝つ可能性は、まさに“無”に等しいだろう。

「どうする? 君の親友に倣って、“知恵”や“勇気”に頼ってみるかい?」

口端を更に歪めて笑みを深める。


「“諦めない気持ち”とやらで“奇跡”を起こせると信じてみるかい?」


“あいつ”とほぼ同じ顔で、“あいつ”の言葉を嘲笑う。ゼロにとって、この光景は皮肉という他ないだろう。

――――ああ、そうさ

だからこそ、この手で引導を渡してやるのだ。せめてもの情けに。“友”の手によって討たれるのならば、英雄も本望だろうから。
言い返せるわけもない。もうその気力もない。闘志は砕かれ、戦意は喪失し、その瞳はただ絶望を見つめる以外にない。
ゼロの戦いは、ここで終わりなのだ――――……そう、信じることができた。未だ瞳の奥に、煌々と燃え滾る炎に、気づくまでは。

「……へえ……………」

大したものだと思わず感心する。これだけの状況に陥りながら、ゼロの目はまだ戦いを諦めてはいなかった。
冷静に分析する限り、万に一つも勝利はないというのに。その闘志は決して消えてはいなかった。
その上ゼロは、勝利を確信している彼に対し、特有の不敵な笑みを見せた。それは、自己修復機能による応急処置によって、「辛うじて意識を保つ余裕ができたから」というだけではないようだった。
ぐらつく体を、震える足で支えながら、掠れそうな声で――――それでも自信に満ちた声で、言ってのける。

「……この程度…………予測の範疇…さ」

「………『“よそくのはんちゅう”』?」

ゼロが口にした言葉を理解した瞬間――――堪え切れず吹き出し、体をくの字に曲げて、腹を抱えて笑い声を上げる。
何度も堪えようとするが、それでも耐え切れず、また笑う。

「どんな負け惜しみを言うのかと思えば、『“予測の範疇”』!? 冗談も程々にしてよ!」

瀕死の重傷を負い、命の危険に晒され、絶望の淵に立たされ、今まさに殺されようという状況が――――“予測の範疇”。
まるでそこから覆す手立てがあるかのような言い方だが、いったいどこにそれがあるというのだ。そうして何一つ確実な勝算もなしに、逆転の道も見えない現状を“予測の範疇”だと言うのなら、強がりにしても滑稽な事この上ない。
だが、彼は笑いを止めざるを得なかった。――――自身を見つめるゼロの瞳に、再び気づいた瞬間に。

「……俺は……実力差が分からないほど……間抜けじゃあ……ない……」

言葉の通りだ。――――予測はできていた、こうなることは。つい先程ではない。メガロポリスの街角で対峙したあの瞬間から、既に予見していた。
黒化した五分間で埋められるような実力差では決してなかったことなど、承知の上だった。
力の入らない左腕をなんとか持ち上げて、指差して言う。

「認める…よ。お前は……強い。……“あいつ”よりも…ずっと……強い」

口上通り、彼はオリジナルよりも遥かに強い実力を備えていた。正直なところ、ゼロの予測を上回るほどの力であったのも確かだ。
どう足掻いても、どう藻掻いても、それを否定できる材料は見つけられなかった。真っ向からただ挑むだけでは、敗北は免れないだろうと、覚悟せざるをえないほど。
それを聞いて、「それなら」と嘲笑混じりに言葉を返す。

「それこそ、僕が“本物”足るに相応しいという確固たる証明だよね?」

オリジナルより強いというなら――――“あいつ”を超えたのならば、自分はもうただの“コピー”ではない筈だ。
それだけの実力を備えた自分は、正真正銘、“本物”のロックマンエックスである筈だ。この力こそが、その証明となり得るはずだ。
そう得意気に誇る彼に対し、ゼロは「いや」とすかさず切り返す。


「だからこそ……お前は……“あいつ”には到底及ばないのさ」


言葉を理解した瞬間、不快感を示すように「何を言ってるのさ」とゼロを睨む。
次いで、思う。今、自分は確かにゼロを睨んでいる。――――そう。先程まで容易に笑い飛ばせた筈の世迷い言に対して、自然と強い不快感を感じるようになっていた。
嘲笑と共に切って捨てればよいだけの妄言を、跳ね除けられなくなっていたのである。

その原因に、即座に行き着く。自分を見据えるゼロの瞳。瀕死の状況にある筈の彼の瞳が、どこまでも揺るぎなく、強い輝きを放っていた。絶対的な確信の輝きを。
それに気づいた瞬間、背筋に寒気が走る。――――気圧されているというのか。死に際の男に。ありえるわけがない。その男を遥かに凌駕した自分が、何故……。
そんな彼の複雑な心境を他所に、ゼロは言葉を続ける。どこか懐かしそうに、誇らしそうに。

「“あいつ”……は………意気地なしで……甘ちゃんで……本当に仕方のない……弱虫だったさ」

敵であろうと撃つことに躊躇い、抱えきれないものまで守ろうと必死になり、その度に苦汁をなめては涙を流し……そんな男だった。
強くなど無かった。割り切れない心は隙を生み、弱さとなった。
そして、そんな弱い彼が立ち向かったのは、いつだって自分より強い相手ばかりだった。

「どんなに弱くとも……“あいつ”は何度だって……自分よりも遥かに強大な敵に……立ち向かえた」

転んでは起き上がり、再び倒れては、這いつくばってでも前へ進む。どれだけ強大な敵を相手取っても、決して諦めずに戦い続けた。
実力以上の理想を描いて。及ばぬ非力を嘆いて。そんなことを繰り返して。
どんなに苦しい現実の中でも、“甘ったれた理想”を捨てること無く、走り続けた。“懐かしい未来”という名の約束を信じ続けた。
その姿はどんなに愚かで、どんなに無様で、どんなに無謀に見えたことだろう。
しかしそれ以上に、どれだけ気高く、眩しく、輝いていたことだろうか。

「“技”じゃない……“力”じゃない………分かるか、“救世主”?」

震える右腕を持ち上げ、ゼットセイバーの切っ先を向けて……――――皮肉っぽく笑いながら、言い放つ。



「“魂”さ。――――誰よりも強い“魂”を持っていた。だから“あいつ”は“本物の救世主”になれたのさ」



如何なる敵を前にしようと、折れない不屈の魂――――それこそ、ロックマンエックス最大の武器だった。



「そして、俺は……そんな諦めない“魂”が起こす“奇跡”を、今でも信じている」



言い切り、再び構えるゼロ。その姿に、思わず絶句した。

“奇跡”と言ったのだ。伝説の英雄が。この期に及んで、まだそのような言葉を吐けるのだ。
戦う余力もまるで無く、震える足で辛うじて大地に立っていられるだけの体で。手にした剣の切っ先を、相手に向けるだけで精一杯の状態で。
“奇跡”などという至極不明確な言葉に、頼ろうというのだ。
しかし、その本気の瞳に、笑うことも、呆れることも出来ず、声を荒らげてしまう。

「そんな世迷い言、信じたところで何が変わる? そんな精神論で、僕に敵うわけがない!」

正直、その心の内には、失望の色も含まれていた。
勝算はどこにも見当たらないというのに。万に一つも勝ち目はないというのに。――――“魂”などという、慰めにもならない言葉に頼り、“奇跡”を起こそうというのだ。

「“奇跡”なんてあるわけがない! バカを言うのもいい加減に――――……」

「 あるさ、“奇跡”は 」

強い物言いに、すかさず言葉を遮られる。
確信に満ちたゼロの表情に圧倒されたのか、彼には返す言葉が浮かばない。
ぐっと言葉を飲み込む彼に、ゼロは「……そもそも」と問いかける。根源の問いを。

「……何処の世界に確実な勝利がある? “絶対”がある? 」

そうだ――――ゼロのこれまでの道には、決して確実な勝利など無かった。
いつだって絶望の淵まで追い詰められ、死線をギリギリで掻い潜り、ほんの一握りも無い勝利の可能性を掴んで、ようやくここまで来たのだ。
ともすれば死ぬかもしれない状況で命懸けの賭けを繰り返してきた。“絶対”の勝利など、何処にあったのか。

「戦いの中だけじゃない……今日まで生きてこれたこと……仲間たちと出会えたこと…………“当然”の道筋がどこにあった?」

温かい仲間達に出会えたこと。命を懸けて支えてくれた相棒を手に入れたこと。少女の手によって目覚めたこと。――――何より、この世界に今もこうしていられること。
その全てを“確実”だと、“絶対”だと、“当然”だと――――誰が言えたというのだ。

「分かるか? ――――この世界には、“奇跡”が溢れているんだってことが」

一つ一つが、まるで当たり前のように見えて、自然のように見えて、見失いがちになるけれど。
小さな出会いが、小さな勝利が、その一つ一つが――――いつだって、どれだって、“奇跡”の積み重ねだったのだ。

死に際のはずだ。辛うじて立っているだけのはずだ。その生命は、まさに風前の灯と言ってよかった筈だ。
それでも、荒れ果てた大地の上で、剣を構える英雄の姿は、天高く昇った太陽よりも輝いて見えた。
「そして」と、続けて放つ言葉は、何よりも強く響き渡る。



「……“諦めない魂”こそ……前へと進む“奇跡”を掴む為の、唯一の鍵なのさ」




かつて“あいつ”が持っていた、気高き意志。何者にも負けない、不屈の魂。
それらが起こす“奇跡”を信じている。過去も。今も。そしてこれから先の未来に向けても、きっとそんな“奇跡”が、信じて立ち上がり続ける限りその者の前に起こり得るのだと。
ゼットセイバーを頭上に、蒼く広がる空へと掲げるように、振り上げる。


「――――俺にはまだ、最期の賭けが残っている」


「馬鹿な」と否定しようとして、口を噤む。
ゼロの言葉はきっと真実だ。声色が、瞳が、取り巻く大気が、空間を包む全てが、ゼロを中心としたありとあらゆるものがそれを物語っているように見えてしまった。
グッと奥歯を噛み締め、拳を握る。言い知れぬ敗北感がこみ上げる。気づけば、僅かに後ずさってすらいた。

――――間違いない、勝っているのは自分だ

目の前の男は、先程から確認しているように、立っているのもやっとの状況だ。
どんな賭けが残っていようが、それが“奇跡”などという世迷い言に頼る類のものであるならば、恐れる必要など何処に在るというのか。

――――その筈だ、絶対に……!

自身に、そう言い聞かせることでしか堪えられなかった。
そんな、動揺を隠せずにいる彼に対して、追い打ちをかけるようにゼロは宣言する。

「お前を倒して、連れて帰る」

「まだ、そんなことを」と言い返そうとするが、それもまたできない。
対して、ゼロは更に言葉を重ねる。強く、靭やかな声色で。自らの誓いを、言い切る。


「これは、俺の“決定”だ」


“奇跡”に縋ってでも絶対に誓いを果たしてみせる。いや、そんな“奇跡”を絶対に起こしてみせる。
最初の宣言通り、この命が戦いの最後に尽き果てようとも。シエルとの約束を、貫き通す。
それこそが、今ここにゼロが立っている、たった一つの理由。守るべき唯一つの信念。

しばしの睨み合い。流れる沈黙。――――風の音だけが二人を包み、そこに一切の言葉は消えてしまう。
暫くして、ようやく声が漏れ出す。それは、笑い声だった。ゼロに向けた、嘲笑。
一頻り笑い終えた後、ようやく彼は言葉を吐き出す。

「………君は……本当に愉快な人だね」

精一杯の皮肉を込めたつもりだった。――――正直なところ、それ以上は何も冷静に言えなかった。
状況の上で見れば間違いなく追い込んでいる。現実的に見て、こちらの勝利は確実。
だが、精神の面で見れば、明らかに立場が逆転していると言わざるをえない。

「だけど」――――と、声に出して強く言い聞かせる。相手に。そして自分に。
戸惑いを振り切るように右手で虚空を切り、全てを終わらせる決意をする。
この動揺も、屈辱も、敗北感も――――すべて消し去る方法は唯一つ。
目の前にいる英雄を、一撃のもとに葬り去るのみ。


そして、突き上げる衝動のまま、まるで世界の果てまで宣言するように。吠える。







「 そ れ で も 勝 つ の は 僕 だ !  ゼ ロ ッ ! ! 」









力強く踏み込み、飛び上がる。
コンマ数秒の内に展開するフライナーユニットの両翼。
全身を包むエネルギー光。巻き起こる突風。同時に響き渡らせる雷鳴。

再び放つは唯一つ――――確実な勝利へと繋げる、自身最強の技。















     ノ ヴ ァ ス ト ラ イ ク ッ ! ! 








































   来 た ッ ! 





彼が跳び上がった瞬間、ゼロは心の底でそう叫ぶ。
そうだ。相手の“ノヴァストライク発動”――――最強最悪に相違ない一撃必殺技の発動こそ、ゼロの狙いの一つだった。

ゼロは既に、この場から動くことさえ困難な状態だった。

関節は軋み、センサーというセンサーが深刻なエラー情報を脳に向けて吐き出し続けている。
痛覚を遮断しても尚、他の感覚神経を通じて、全身の過負荷が伝達されている。満身創痍どころの騒ぎではない。

そんな状況の中。勝利への道を何一つ諦めてはいない彼が、その勝利を掴むために残された武器は唯一つ。――――自身の映し身たるこのゼットセイバーの一撃のみ。
そしてその光刃を当てるためには、自身が動けない以上、如何なる方法であろうと相手をこちらに引き寄せる事が第一条件だった。

“本物”であることに全てのプライドを傾ける彼が、尚も立ち上がる伝説の英雄に対し、どのような理由であろうと「破られた」に等しい“最強の一撃”をそのままにしておくわけがない。
そう。彼にとっての“最強の一撃”。高エネルギーを全身に纏って繰り出す体当たり攻撃。敵に“接触”して初めて効果を発揮する技――――ノヴァストライク。
瀕死に近い状況にも関わらず、まるで平静のように振る舞い、挑発を投げかけ続けた理由の一つは、その技を確実に引き出すために他ならなかった。


――――状況は整った


敵は一直線にこちらへと向かってくる。あとは、それをたたっ斬ればいい。――――とは言え、それほど易い話ではない。
ノヴァストライクを発動している彼を斬るためには、それに匹敵するだけの刃で迎え撃たねばならないということ。
思考も定まらない頭で。満身創痍の体で。瀕死の重傷を負った状態で。それだけのエネルギーを放出せねばならないということ。

それを成す為には、“最期の賭け”に勝つ以外にない。


――――勝算は…………ある


ぐっと瞼を閉じ、思い起こす。

挑発で述べたこととは言え、真実であるのも確かだった。
ゼロは信じている。“諦めない魂”が起こす“奇跡”を。そしてそれは、決して“運”などに頼ったものではない。


――――俺は……知ることができた


自分の弱さを。及ばなさを。
きっと、かつての自分では知り得なかったことだろうと思う。ロックマンエックスという太陽と過ごす内に、気づかぬようになっていたのだ。
だからこそ、最初は何もかも一人でやろうとしていたのだ。孤独であろうとも、成し遂げられると信じていた。

そしてその幻想は容易く砕かれた。
そして真実の自分と向き合うようになった。

一人で戦い抜けるほど、誰かを救えるほど、自分は強くはないのだと、知った。
そしてまた、その一方で、気付けたことがある。――――自分の周りを取り巻くもの。

助けてくれた仲間がいた。

信じてくれた戦友がいた。

支え続けてくれた人達がいた。


――――もうこの体は、俺一人のものじゃあない


自分に懸けてくれた者達――――その全ての想いが、この体には宿っている。
震える足だけではない。そんな強い想いの結晶が、この体を支えてくれているのだ。

ならば、それに頼ればいい。それに賭ければいい。
きっと、“奇跡”を起こすには、十分な対価だ。

瞼を開き、柄を精一杯の力で握りしめる。

そうして、自分の内側へと言い聞かせるように、声を張り上げ、叫ぶ。
こんな自分に懸けてくれた想い全てに向けて。その中でも――――今、最も頼るべきは一人。





「頼むぜ、“相棒”……――――――――」





ゼロを中心に吹き荒れる突風。巻き上がる砂塵。
どれだけ危険な賭けにでも、どれだけの危機に瀕しても、共に歩んでくれた、自分の内に眠る“彼女”に向けて――――叫ぶ。


















「 も う 一 度 だ け 、 俺 に 力 を 貸 し て く れ ッ ! ! 」

















轟く雷鳴。迸る閃光に包まれて、紅が――――……――――再び漆黒へと色を変える!
















        [ ―――― S Y S T E M : “ A B S O L U T E ” S T A N D B Y ―――― ]

















―――― 馬 鹿 な ッ ! ?


ノヴァストライクを発動し、その距離僅か数メートルという時点に至った時、心の内で驚愕する。
オリジナルエックスの記憶データの中にも、SYSTEM:ABSOLUTEの二十四時間以内連続発動は記録されていない。例え今ほどの傷を負っていなくとも。

――――それを、このタイミングで!?

それはきっと“奇跡”だったのだろう。
だが、しかし。だからといって一度目の発動と同等の力を発揮できるかといえば“NO”である。

本来ならば瀕死の重傷さえも治癒してしまう自己修復機能。それに異常が認められたのは発動した刹那の後だった。
傷は少しも治る様子を見せないどころか、体の節々に亀裂が入り、擬似体液が吹き出し始めた。
損傷はあからさまに増え、その負担は全身へと拡大していく。

一日一度の発動、五分間のリミット――――それらは、決して無視して良いものではなかった。一時的に自身の能力を飛躍的に高められるシステムが、そもそもノーリスクであるわけがない。
五分間は、急速冷却装置及び、動力炉の限界稼働、それに伴う超自己修復機能の、負荷を抑えられる限界の時間。二十四時間は、それらに関係する各回路の休息に必要なインターバル。
それを無視した結果、抑えられるはずの負荷が一気に全身に襲いかかっているのだ。

これだけの無茶をした以上、ノヴァストライクの命中云々に関わらず、ゼロの機能が完全停止したとしておかしくはない。
「だが」――――その考えが頭をよぎり、ノヴァストライクの中断は成されなかった。
そうだ。宣言通り、彼は奇跡を起こした。


――――その彼が、相手に一太刀浴びせる前に意識を失うはずがない!



ならば確実に決める必要がある。このノヴァストライクで。
問題はない。なにせ、ゼロの持つ究極剣技「幻夢零」で、ようやくあの「プラズマチャージショット」と同等だったのだ。
ならば、例えもう一度「幻夢零」を放たれたとしても、「プラズマチャージショット」を上回る「ノヴァストライク」が砕かれるはずはない。


――――このまま、押し切ってみせるッ!


覚悟を決め、加速をかける。
その光体を、視界の中心に狙い定め、ゼロは意識を集中させる。――――“奇跡”は何も、これで終わりじゃない。それどころかこれは、土台にすぎない。


――――勝負は……“今”!



次の瞬間、漆黒に満ちたはずのゼロの体色が再び紅へと戻ってゆく。かと思いきや、みるみるうちに灰をかぶったような白へと変貌していくではないか。
連続発動に耐えられなかった代償か。それとも、SYSTEM:ABSOLUTEの異常か。どちらにしろ、自分の勝利はこれで確実となったと、ほくそ笑む――――が、また次の瞬間、あることに気付き絶句する。

今度は、ゼットセイバーの色が変わっていく。
鮮緑の刃は次第に色を変え、紅へと変わっていくではないか。

朱く。赤く。――――更に紅く。
強烈な光を、火花を周囲に撒き散らしながら。

その輝きは、まるでゼロの“魂”を映し出しているかのように思わせる。

――――まさか、ほぼ全てのエネルギーを!?

集約させているというのか。SYSTEM:ABSOLUTEの再起動によって、瞬間的に生まれたエネルギーを。いや、体に残るほぼ全てのエネルギーを。
でなければ考えられないほどのエネルギーが、そこに満ち満ちていた。


――――残るエネルギーは……‥‥・・・


大地を踏みしめ、この身を支える足だけでいい。
剣を振り下ろし、叩き落とす為の腕だけでいい。
残りは全て、この手に掴んだ唯一の刃へと送り込む。






己の映し身たる、このゼットセイバーに――――!















「「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!!!!!」」















ノヴァストライクが直撃する瞬間、極大の、紅の刀身が振り下ろされた。


衝突し合う二人のエネルギーは、爆音にも似た雷鳴を激しく轟かせる。取り巻くように突風が吹き荒れる。
砂塵が舞い踊り、稲光が迸り続ける。

叫ぶ。吠える。咆哮をあげる。――――形容しがたい音声を張り上げながら、互いの全てをただ単純にぶつけ合う。
それはまさに“蒼”と“紅”の、“魂”の衝突とでも言えば良かったのだろうか。








そして、やがて全てが閃光に包まれる。








その光の中で、ゼロの意識は白く、白く――――。
まるで純白に塗りつぶされてゆくかのように、薄れていった。




















































    ――――……………………………………………………‥‥‥‥・・・・








































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