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No.34283の一覧
[0] [Z-E-R-O] (原作:ロックマンゼロ、ロックマンX)[村岡凡斎](2013/09/18 15:00)
[1] はじめに[村岡凡斎](2012/07/18 16:08)
[2] Prologue[村岡凡斎](2012/07/18 16:24)
[3] Waffle for Chapter[村岡凡斎](2012/11/07 01:25)
[4] OPENING STAGE 「涙の少女と寝起きのマルス」[村岡凡斎](2012/10/29 15:54)
[5] 1st STAGE 「剣」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[6] 2nd STAGE 「星に願いを 夜空に問いを」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[7] 3rd STAGE 「包囲戦線」[村岡凡斎](2013/11/25 19:59)
[8] 4th STAGE 「亡霊の影」[村岡凡斎](2012/10/29 15:59)
[9] 5th STAGE 「死屍軍団」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[10] 6th STAGE 「キズダラケ」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[11] 7th STAGE 「渇望/葛藤」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[12] 8th STAGE 「未来」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[13] 9th STAGE 「理想郷の詩」[村岡凡斎](2012/10/29 16:02)
[14] COMMENTARY 1[村岡凡斎](2012/09/18 18:22)
[15] 10th STAGE 「紅いイレギュラー」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[16] 11th STAGE 「救い」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[17] 12th STAGE 「ウラギリ」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[18] 13th STAGE 「闘将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:27)
[19] 14th STAGE 「証明」[村岡凡斎](2012/10/30 23:28)
[20] 15th STAGE 「レスキューコール」[村岡凡斎](2012/10/30 23:29)
[21] 16th STAGE 「世界を覆う白雪の上で」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[22] 17th STAGE 「理想の表裏」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[23] 18th STAGE 「color of mine/d」[村岡凡斎](2012/10/30 23:31)
[24] 19th STAGE 「妖将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:32)
[25] 20th STAGE 「届かぬ想い、その結末。」[村岡凡斎](2012/10/30 23:33)
[26] 21st STAGE 「デンジャラス・デイ」[村岡凡斎](2013/05/07 21:37)
[27] COMMENTARY 2[村岡凡斎](2012/10/30 23:37)
[52] 22nd STAGE 「レプリロイドは ぜんまいねずみの夢を見るか?」[村岡凡斎](2012/11/07 01:09)
[53] 23rd STAGE 「殺戮舞台」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[54] 24th STAGE 「罪 と 罰」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[55] 25th STAGE 「Raging River」[村岡凡斎](2013/11/19 00:54)
[56] 26th STAGE 「ABSOLUTE - JUSTICE」[村岡凡斎](2012/12/17 00:06)
[57] 27th STAGE 「隠将」[村岡凡斎](2013/01/28 22:27)
[58] 28th STAGE 「再会」[村岡凡斎](2013/05/07 21:39)
[59] 29th STAGE 「暗躍の調」[村岡凡斎](2013/05/25 23:30)
[60] 30th STAGE 「死者の国」[村岡凡斎](2013/06/23 01:04)
[61] 31st STAGE 「乱戦四重奏」[村岡凡斎](2013/08/03 00:49)
[62] 32nd STAGE 「Red, White and Bullet Blues」[村岡凡斎](2013/09/18 14:58)
[63] 33rd STAGE 「    」[村岡凡斎](2013/09/28 16:02)
[64] 34th STAGE 「月と影、そして太陽」[村岡凡斎](2013/10/06 09:36)
[65] 35th STAGE 「残光の行方」[村岡凡斎](2013/11/02 15:37)
[66] 36th STAGE 「救世主」(前)[村岡凡斎](2013/12/24 14:36)
[67]          「救世主」(後)[村岡凡斎](2013/12/25 11:54)
[68] FINAL STAGE 「Message from...」[村岡凡斎](2014/01/25 17:09)
[69] LAST COMMENTARY[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
[70] おわりに[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
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[34283] 22nd STAGE 「レプリロイドは ぜんまいねずみの夢を見るか?」
Name: 村岡凡斎◆45ff140f ID:697d6d9c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/11/07 01:09















    いつか目覚める君のために




    僕は この世界を遺してゆくよ








































        離別編



































 22nd STAGE













      レプリロイドは ぜんまいねずみの夢を見るか?









































  ――――  1  ――――


「チッ……とんだヘマをやったもんだな……」

ゼロは自身の失態に舌打ちながら、思わずそう零す。
つい数十分前のことだ。エルピスからの指示で、塵炎軍団の一部隊と交戦した時。戦闘中に敵の一撃をエル・クラージュに当てられてしまった。
走れないということは勿論ないが、乗り心地がどうにも落ち着かないものになってしまった。

「直りそう、ダーリン?」

レルピィが心配そうに問いかける。
堪えきれず手頃な岩場に隠れて停車し、調子を見ていたのだが、正直、細かい作業ができるような環境ではない。
「何とも言えないな」と溜息をついて、車体から離れる。
ここから近場の空間転移装置まで、距離は結構ある。このままの状態で走り続ければ、不快感がどうこうという話だけでなく、他の部分にも影響が出ないか心配になってくる。

「……ごめん…あたしのミスだよね……」

戦闘中、エル・クラージュを動かしていたのはレルピィだ。これだけの高性能機でありながら傷を付けられてしまったことに責任を感じているのか、申し訳なさそうに俯く。
「気にすんなよ」とゼロは笑って答える。

「むしろあの状況の中、この程度の傷で済んだのはお前のおかげさ。サンキューな」

そう言って頭を撫でるように人差し指を振る。勿論、触れられるわけではないのだが。

「とにかく、傷ついちまったもんは仕方ない。なんとか調整する方法を考えよう」

「……うん、オッケー。あ、そう言えば」

何かを思いついたように、エル・クラージュの管制システムに戻る。それから、周辺のマップ映像を映し出す。

「確かこの辺りに良い感じの廃墟があったはずよ」

レルピィの音声が発せられると共に、ある一点に赤い印がつく。
旧世紀の廃墟の中ならば、身を隠すにはもってこいな上、上手くいけば整備に使えるものが転がっているかもしれない。

「そうだな、とりあえずそこまで行ってみるか」

こんな岩場で作業をするよりは、精神的にも幾分楽なはずだ。
決心すると、エル・クラージュに跨り、再びアクセルを回した。










かつては人で溢れかえっていたであろう、大都市の成れの果て。辿り着いた廃墟の第一印象はそんなとこだった。
その区域に足を踏み入れてみると、数人の気配が感じられた。おそらくこの場所を集落として住み着いたレプリロイド達だろう。
真紅のコートに、流れる金髪――――噂に聞いたことがある、彼の風貌に、警戒しながらも興味津々という様子だ。
エル・クラージュを押しながら歩き、周りを見る。そして、傾いた廃ビルの一室にいる一人の男に視線を止めると、瓦礫の山を避けながら、彼の下へ近寄っていった。

そこにいた男は、まるでゼロになど興味ないというように、ボロボロの日記帳に何かをひたすら書き綴っていた。

「なあ、あんた。この辺りに廃工場とか無いか?」

問いかけられたことに暫く気づかなかったらしく、男は尚も書き続けていた。
もう一度声をかけると、ようやく顔を上げた。かと思うと、直ぐそばに立つゼロを見て、驚いたように目を丸くした。

「……あんた…“紅いイレギュラー”か?」

「! ……そういうお前は――――………‥‥」

ゼロはあることに気づいたが、そのまま言葉を飲み込んだ。
男はじっとゼロの方を見つめたまま黙りこむ。それから、ある方角を指さし、再び口を開いた。

「そこの通りを進んでいけば右手の方にある筈だ。――――おーい、ナタリオ」

男に名を呼ばれ、一人の少年レプリロイドが部屋の奥から現れる。
人間で言えば十歳前後と言ったところだろう。少年――――ナタリオは男の前に立ち、彼の顔を見つめる。言葉は一向に発さないまま。

「ナタリオ、この人を廃工場に案内してやってくれ。通りの先にあるアソコだ」

男の言葉に、ナタリオは黙ったまま頷き、歩き始める。

「あの子に着いて行けば大丈夫だ。迷うことはないだろう」

「ありがとな……――――名前は?」

「オレクだ」

「ありがとな、オレク」

そう言って握手をかわすと、気を使って待っていてくれているナタリオの後ろに続いて廃墟を出た。
そこから十数分とかからない場所に、目的の廃工場はあった。
歩いている間、ナタリオは一言も喋ること無く、時折、ちゃんとゼロがついてきているか確かめるように振り返るくらいで、人形のような仏頂面で黙々と歩いていた。
途中でレルピィが「なんか不気味」と漏らしたのだが、ゼロは人差し指でそれを制した。ゼロはといえば、彼の異様な雰囲気に、なにかしら理由があるのだろうと思い、自分から声をかける事はしなかった。ただ一度、そこに辿り着いた時に「ありがとな」と声をかけたが、ナタリオは表情も変えずに頷くだけで、やはり言葉を発さなかった。
積み上げられた瓦礫の下を漁り、使えそうな部品や道具を掘り出す。期待した以上にいろいろと出てきてくれたお陰で、作業は順調に進むだろうと思えた。

「帰っても大丈夫だぜ?」

ナタリオにそう言ってみる。だが、ナタリオは首を横に振り、その場に留まった。
表情から考えを読み取ることはできないが、きっと自分達が帰りに道に迷いでもしないかと心配してくれているのだろうと予想した。
確かに、この廃墟群はゼロが知っている他の場所に比べて明らかに広い。とは言え、一度通った道に迷うなど、レプリロイドである自分にはありえない話だ。
だが、それでもナタリオが待ち続けてくれるので、その厚意は無下にすべきではないと考えた。ちょうどスペース的に作業もしにくかったところでもある。

「俺たちも一緒なら、いいだろ?」

そう問いなおすと、ナタリオはハッキリと頷いた。
必要になりそうなものだけを手に取り、エル・クラージュに乗せ、その場を後にする。
それからまた、オレクがいた廃墟に辿り着くまで、一行は一言も発することなく、歩き続けた。

「お帰り、ナタリオ――――……っと、あんたもか」

再び驚いたような顔で、オレクはゼロを見る。

「ちょいとこの辺で作業をさせてもらおうと思ってな」

「……なら、このビルの奥に手頃なスペースがある。好きに使ってくれ」

ビルの所有者であるかのような口ぶりで、そう言う。それから足元に転がっていたボールをナタリオに投げ渡した。

「お前はそれで遊んでおいで」

オレクの言葉にナタリオは頷き、そのまま外に駆け出した。

ゼロはオレクに案内されるまま、エル・クラージュを押してビルの奥へと入ってゆく。
電気が通っていないため、外の明かりだけが頼りだった。勿論、陽が出ている間だけだが。
しかしそれでも、スペース的にはオレクが言うとおり、十分なもので、ゼロとしては満足の行く場所だった。

その場に座り、工具を広げる。そして、エル・クラージュの損傷部を確かめる。
ふと気づくと、オレクも何やら興味ありげにエル・クラージュを眺めていた。

「最新型……か? 見たこともないマシンだな」

感心したように言う。その口ぶりで、ゼロは先程気づいたことが真実であることを確信した。

「そ、冥海軍団から奪わせてもらったんだ」

細かい経緯については若干異なるが、そういう話で通しておくことにしている。

「妖将様からか……流石だな、紅いイレギュラー」

「素直に褒めてもらえて嬉しいぜ。それで、お前は元々何処所属だったんだ?」

「ああ、俺は塵炎軍団第八方面――――……‥‥!」

言いかけたところで、口を噤んだ。ゼロがニヤリと笑いながら、見つめている。思わず咳払いをした。

「……どうして分かった?」

「ただの国抜けしたレプリロイドと思えなかったからだよ。お前みたいな、よく訓練された戦闘用レプリロイドがさ」

その佇まいや、身の振り方、一挙手一投足にまで、正規の軍に所属していたであろう独特の雰囲気が滲みでていた。
勿論、それに気づけたのは、ゼロが百戦錬磨の英雄であるからこそだが。

「とは言え、今はもう軍を抜けた身だ。あんたとやり合うつもりはないよ」

オレクはそう言って、両手を上げる。

「だろうな。そう言う感じがしたよ。偽りじゃなく…な。……それで、こんなとこにいる理由はなんだい?」

「……理由…か」

オレクは暫く考え込んだ後、観念してその場に座り込んだ。
そしてゼロを指さすと、苦笑してみせる。

「理由はともかくとして……原因は他でもない――――“あんた”だよ」




悔しさはあるが、憎んではいない。
少なくとも、今は。












































  ――――  2  ――――


ゴシック風の荘厳な屋敷の前で車を停め、ブレイジン・フリザードは目を細めて屋敷を見つめながら運転席を降りた。
それから回り込み、後部座席の扉を開けて、中の老人に声をかける。

「到着いたしました、バイル様」

「……うむ」

バイル元老院名誉議長が乗っている延命カプセルを慎重に引き出すと、その後ろに回り、押して歩き始めた。
庭を囲む大きな門の前に立ち、建造物の意匠に合わせた認証システムに、バイルの網膜を読みこませる。しばらくして、「お入りください」と中の者の声がした。

周囲を囲む、模造された植物により埋め尽くされた庭を眺めながら、カプセルを押して玄関までの道を歩く。
フリザードは、華々しく優雅なこの庭を通る度に、悪寒のようなものを感じてしまう自分に気づいていた。偽りばかりを埋め尽くしたその様子が、まるでこの世界の縮図のように思えてならなかったのだ。

やがて、短い石段を登り、玄関の前に立つ。それからまたしばらくして、二人を迎え入れるように扉が開く。
白銀の髪に、中性的な顔をしたレプリロイドが中から出てくると、「どうぞ」と中に入るよう促した。

広い廊下を真っ直ぐに進み、豪勢な装飾を施された扉の前に立つ。
銀髪のレプリロイドは二人の横を通り、扉の横に隠されていた制御パネルを引き出すと、二十桁程度の数字を打ち込み、DNA認証を受けた。
ニ分ほど経った後、扉が開く。三人はそれに乗る。銀髪のレプリロイドが、入って左手にあったパネルを操作すると、扉が閉まり“それ”は動き始めた。僅かに重力が軽くなるような感覚が、下降していることを教えてくれる。

数十秒後、到着を告げるブザーと共に扉が開く。銀髪のレプリロイドに続いて、バイルとフリザードもそれから降り立った。
あのエレベーターが空間転移装置だったのだろう。そこは仄暗い倉庫のような場所で、先程見た、あの屋敷の地下とは到底思えなかった。
そのまま先へ歩いてゆくと、明かりを手にした若い男が立っている。獅子の鬣のようなウェーブかかった金色の長髪が印象的だった。

「お待ちしておりました、バイル卿」

男はそう言って足早に寄ってくるなり、微笑みながらお辞儀をしてみせる。

「……元老院議長当選、おめでとう…レオニード卿」

バイルもまた笑みを浮かべ、目の前の男――――レオニードに賛辞を送る。

「ありがとうございます。これも一重にバイル卿のおかげです」

「……これでようやく“第三段階”はクリアだな」

バイルの言葉に、レオニードも「ええ」と頷いた。

「いよいよゲームは“ラストステージ”……というところでしょうか?」

「……いや、まだ早い。“アレ”が見つからない限りは…な」

その答えに、レオニードは「失敬」と笑みを浮かべながら返す。

「そうでしたね。あなたの目的は“そこ”だった。しかし、私にとっては既に、今が“クライマックス”だ」

「…………互いの望みのために…」

不敵な笑みを浮かべ、バイルはそう答えた。
「そうそう」とレオニードはわざとらしく、何かを思い出したように声を上げる。

「二人ほど紹介をしておきたい者がおります、まずは…コチラ。私直属の騎士――――アレクサンダです」

「お初にお目にかかります、バイル卿。以後お見知りおきを」

そう言って、銀髪のレプリロイド――――アレクサンダは丁寧に頭を下げる。それに対し、バイルは頷くことで返事とした。それからフリザードが自身の紹介をし、アレクサンダと握手を交わす。

「なんと精巧なレプリロイドか……。君の作か?」

「お褒めいただき嬉しい限りです。ええ、仰るとおり。私の騎士として、私自らが制作に携わりました」

端正な顔立ちに、涼やかな声。温和そうでありながら、その実、鋭利な刃物のような雰囲気。ただの戦闘用マシンとは思えない、まさに芸術品という出来であった。
ただ、その中性的な顔と声についてだけは、どうしても違和感を覚えてしまうのだが。
そんなバイルの内心を他所に、レオニードは「それから――――」と付け加えた。だが、その言葉は少女の笑い声にかき消された。

「お初にお目にかかりますわ、“おじいさま”」

「!?」

彼女の容姿を見た瞬間、バイルは驚きを隠せなかった。
その表情に、少女は殊更嬉しそうに口端をゆがめる。

「フフ……“お久しぶり”と言ったほうが良かったかしら?」

「……お前……は……」

動揺を隠せない。そんなバイルの姿は、フリザードも初めて見た。
その瞳は、過去の過ちを突きつけられ、凍りつく罪人のようで、返す言葉を失っていた。
しかし、そんな様子も気にすること無く、少女は尚もあどけない笑みをうかべている。

「…………赦してくれ…とは言わない」

掠れながらではあるが、ようやく搾り出せたのはそんな一言だった。
だが、少女は顔に疑問符を浮かべた後、再び笑みを浮かべる。

「いいんですのよ、おじいさま。私は今、十分に幸せなのですから♪」

「……恨めばいい……この私を……」

少女の言葉を信じ切れなかったのか、バイルはただ謝罪の言葉を口にする。
すると、少女は延命カプセルに近づき、そのカバーを抱きしめるように両腕を回した。切なげな微笑みを浮かべながら。

「『いいんですのよ』…と、先程申し上げたではありませんか……」

そう囁き、カバーに口唇を優しく押し当てる。腰まで伸びた金茶色の髪が揺れ、翡翠色の瞳は妖艶な輝きを見せる。
どこで覚えたのか――――いや、だいたいの察しはつくが、とにかくその一連の動きは、男を誘う娼婦の“それ”であった。

だが、彼女が見せるそれら全ての動作が、まるで禍々しい呪詛のように感じられて、バイルはただ胸の奥がキリキリと痛むのを感じていた。

「十分だろう、離れなさい」

レオニードがそう言い、彼女の肩を引く。
少女は「あん」とわざとらしく声を出して、クルリと軽やかなステップを踏んで、カプセルから離れた。その身体を、アレクサンダが受け止める。

「………どこで?」

バイルの問いに、レオニードはカプセル越しにヒソヒソと小声で答える。

「ミズガルズ十三番区――――“掃き溜め”ですよ。部下に見つけさせました」

その名を聞き、「やはりか」と納得する。その場所であるならば、例え人間であろうとまともな生活はできやしない。身元の分からぬ少女ならば尚更。その身に施された“仕打ち”を考えれば、絶句する以外ない。
「堕ちるとこまで堕ちたか……」と呟く。だが心の中で、それを訂正する。

――――堕としたのは……私だ……

後悔は無い。必要な選択であった。だが、罪を感じずにはいられない。それは、百年前に約束を交わした“彼”に対する“それ”と寸分違わぬほどに、バイルの心を突き刺した。

――――……それでも、回り始めた歯車は止められない

動かし始めたのは自分だ。この男と出会ってから。いや、八十年前から。――――いや、百年前のあの日、“彼”と約束を交わしたあの日から。
全ての歯車は、自らの手で動かしたのだ。ならば、過去の罪に囚われている場合ではない。進む以外、許されることはないのだから。


今もまだ、あの日見た鮮烈な光が網膜に焼き付いている。




「事情はどうあれ、もう彼女も私の協力者です。互いに手を取り合って進んで行こうではありませんか」

爽やかな声で、レオニードが言う。
この男は全てを知った上でそんな言葉を吐いているのだ。無論、理解もしている。「質が悪いものだ」と、バイルは苦笑した。

「さて、積もる話は後にして……今日の本題はここではありません。時間も押していることです。早速、参りましょう」

そう言って身を翻し、歩き始める。その後ろに少女とアレクサンダ、バイルとフリザードが続く。
そして、奥に備え付けられたエレベーターへと乗り込んだ。






















  ―――― * * * ――――


塵炎軍団第八方面軍基地司令部。そこに勤めていたオレクは、紅いイレギュラーの襲撃に出くわしてしまった。
司令官であるミュートスレプリロイド、ホッパー・アバドニアンの善戦虚しく、基地は崩壊し、部隊は総崩れ。半年ほど前、第十七部隊創設より前の話である。

命からがら生き残った者達は、救援に来た他の部隊に合流し、その場を後にした。
だが、瓦礫の下に埋められていたオレクは違った。救援が来たことも知らず、ひたすら外に出ようと努め、ようやく這い出たときは、生者の気配はどこにもなかった。全て骸と化して、そこは墓場となっていた。
レプリロイドである自分を呪った。自己修復装置が作動し、腹部にできていた傷も塞がった。だが、通信機器はどれも故障し、救援を呼べるような状態ではなかった。そもそも、唯一人残ったレプリロイドのために、誰が救援に来てくれるというのか。ネオ・アルカディアの本質を知っているからこそ、絶望的であると理解していた。
生きながら、死人のような心地で、荒野に寝そべった。

ジリジリと照らす太陽の下、オレクは一人うずくまり、時が来るのを待った。精神プログラムの閉鎖という時を。
自壊プログラムの作動も視野に入れた。だが、それをするだけの勇気が持てず、自身の精神力が底をつくのを待った。

そんな時だった。一人の少年レプリロイドが、傍を通りがかった。
彼は何を思ったのか、オレクの肩をゆすり、意識を確かめた。オレクは目覚め、起き上がった。そして、その少年に導かれるまま、ひとつの集落にたどり着いた。



「笑えたよ……『四軍団員ともあろう俺が、こんなガキのイレギュラーに助けられるなんて』ってさ」

当時を振り返り、オレクは苦笑を浮かべる。

「けどな……おかげで生き延びることができたんだよ、俺は」



少年――――ナタリオとの生活が始まった。
初めはその集落の中で、言葉をなかなか発さない彼に戸惑いを感じた。しかしその優しさに触れ、オレクもまた穏やかな時間を過ごした。
暫くの後、紅いイレギュラーにより、闘将ファーブニルが倒されると、塵炎軍団の風紀が乱れ、意味のない略奪が始まった。
オレクはナタリオを守りながら襲撃を掻い潜り、いくつかの集落を転々とした後、この場所に落ち着いたのだ。

「それで今に至るわけ。あの日、あんたの襲撃がなけりゃ、俺はこんな場所にいなかったんだよ」

そう言って、再び苦笑いを浮かべる。「けどな」と付け加える。

「大事なもんに気がつけた気がするよ。ナタリオと出会えて。俺は…どう転んでもレプリロイドなんだよな。ここにいる連中や、あんたと同じ……レプリロイドなんだよな」

「……ああ、そうだな」

違いなど無い。皆、同胞なのだ。争いあい、血を流しあってはいるけれど。

「そんなわけで、俺はあんたのことを憎んじゃいない。だからまあ……警戒しないでくれていいよ」

はにかむようにそう言うオレクに、ゼロは「ああ」と返事をした。

「しかしまあ……なんというか不思議なもんだな。お前とナタリオ――――まるで人間の親子みたいだ」

先ほど見た遣り取りなどを思い浮かべ、率直な感想を述べる。確かに、今まで見てきたレプリロイドたちに比べると、そういう雰囲気を抱いてしまう。
すると、オレクは「いいや」と首を横に振る。そして、得意げな笑顔で、答えた。

「“みたい”じゃない。――――その“つもり”さ。俺たちはもう“親子”なんだよ。生活を始めてからずっとな」


その笑顔は、息子を愛おしむ父の顔だった。































  ――――  3  ――――


蹴り飛ばしたボールが思ったよりも遠くに転がり、ナタリオは走って追いかける。
そのボールを、一人の男が足で受け止める。紅いコートのレプリロイド――――紅いイレギュラーことゼロだ。

「俺も混ぜてくれよ、ナタリオ」

この廃墟群に足を踏み入れてから一夜が明けた。
整備を始めてみるとエル・クラージュのダメージが思った以上に深いことが分かり、しばらくこの場所で休息ついでに処置することにしたのだ。
ペロケに、エルピスへ状況に関する伝言を頼み、心配はしないようにと言いつけた。
だが、一日中エル・クラージュにピッタリと張り付いての作業というのも、なかなかキツイものがあり、気分転換にと散歩をしていたところ、ボールを使って一人で遊ぶナタリオに出会したのだ。

ゼロが優しくインサイドキックでパスを送ると、ナタリオはそれを綺麗にトラップし、蹴り返す。
今度は、それをダイレクトで左に振るように蹴る。ナタリオは軽く走ってそれを止め、「お返しに」と浮かせて返す。
ゼロは胸トラップで上手く足元に落とし、同じように浮かせて返す。勿論、ナタリオの身長に合わせて。

そんなやり取りを繰り返すと、ナタリオは笑顔を浮かべるようになった。
昨日のうちには一度も見ることが出来なかったその表情に、ゼロも嬉しくなる。

正直なところ、エル・クラージュの整備をすぐにでも終わらせて、帰ってしまっても良かった。
しかし、オレクとナタリオの“親子”に興味が湧き、理由をつけて暫く残ってみることにしたのだ。
同じ設計思想、部品等を用いているために、兄弟関係を設定されるレプリロイドはいる。
だが、何の関係もない二人のレプリロイドが――――どこまで本気かは分からないが――――親子を名乗って共に暮らしているのだ。これは明らかに稀な事例だ。
その真意が知りたいとか、そういうわけではないのだが。それでもこの二人の関係が気になってしまい、ゼロは後ろ髪を引かれ、留まってみることにした。

数十回のボールのやり取りを終え、瓦礫の上に二人で並んで座る。

「そのボールは……拾ったのか?」

ゼロの何気ない問いに、ナタリオは首を横に振る。
そして、この二日間で初めて、ゼロの前で口を開いた。

「父さんが……くれた……」

大事そうに抱える腕を見て、それが、オレクからのただの贈り物ではなく、ナタリオにとって何より大事なものなのだと分かった。
ボールを抱える姿が、アルエットと重なって、親近感が湧いた。

「いい“父さん”…だな」

そう言うと、ナタリオはゼロの方を見て、笑顔を見せた。先ほど見せたものよりも、眩しく、可愛らしい笑顔に、この“親子”が確かな絆で繋がっていることを感じる。

ネオ・アルカディアから抜けた経緯は知れないが、少年型の彼が受けた仕打ちは容易に想像でき、その痛みは想像を絶するものだろうと思えた。
彼がなかなか言葉を発しないのはその辺の事情が関係しているのかもしれない。ゼロは決して聞くまいと誓った。――――誰にでも、思い出したくない過去はある。

「……幸せだよ…ぼくは……」

不意に、そう呟く。

「……幸せなんて………どこにもないと思ってた………」

きっとその幼い瞳は、絶望の淵を何度も見てきたのだろう。
けれど、オレクと過ごす内に、温かいものを知っていくことができた。
そして、「幸せ」を知ったのだ。

胸に迫る想いのままに、ゼロは少年の頭を撫でた。
オレクの気持ちが少しだけ分かった気がした。














「何を書き綴ってるんだ?」

廃ビルに戻って早々、ゼロはオレクに問いかける。
オレクは少しだけはにかみながら答える。

「日記さ。ココに来てからのだけどな」

「……日記?」

ゼロは首を傾げる。
それもそのはずで、レプリロイドの電子頭脳を持ってすれば、その日、その時の様子や行動を記憶することなど容易い。それなのに、日記などを綴る理由がどこにあるのか。
そんな疑問は本人もよく分かっていたようで、自嘲気味に説明を付け加え始める。

「おかしいってのは分かってるんだ。けどさ、なんとなく書いてみたくなったんだ。人間の真似事みたいだけどさ」

「“人間の真似事”……ね」

その言葉が真実なのかもしれない。
今現在、レプリロイドが人間の暮らしに憧れてもおかしいことはない。地位や身分に関して考えれば当然だ。
“親子”を演じるのも、もしかしたら初めはその程度の気持ちだったのかもしれない。けれど――――

「――――いいんじゃないか、最初は真似事でも」

ゼロの言葉に、オレクは思わず「え?」と問い返す。
ゼロは笑いながら続けた。

「いいんじゃないか、最初は人間の真似事でもさ。例え“真似事”でも、お前自身がちゃんと真摯に向きあっていけたなら、それは“本物”だよ」

何気なくつけはじめた“日記”でも。偽りの“家族”でも。

「そもそも、俺達は“模造”から生まれたんだ。……もしも真似事を笑うなら、自分達を笑うのも同じさ」

生物の姿を模して作られた者達――――レプリロイド。けれど、そこには確かに命があり、感情があり、想いがある。
決して“偽物”ではない、“本物”の存在なのだ。
ゼロの言葉に何を思ったのか、オレクは言葉を失ったまま、呆気にとられたように、彼のことを見つめていた。
紅いイレギュラーと呼ばれた破壊神が、そんなことを口にするとは思っても見なかったのだろう。

その様子にゼロは笑いを堪えながら、奥へと去っていった。
それからオレクは一人、満足気に微笑んだ。



























  ――――  4  ――――














    今よりもずぅっと昔のことじゃ

    救世主さまがネオ・アルカディアを作ったばかりの頃、ワシは小さなパン屋で働いておった

    その頃はまだ、レプリロイドへの風当たりもそこまで強くはなくての

    近くの学校にパンを届ければ、子供たちが笑顔で迎えてくれたり

    店に来るお客さん達とも、まるで友のように言葉をかわしたり

    とにかく幸せな毎日が続いておった




    さてさて

    そのパン屋にとある少女が通うようになった

    ワシの名前を覚えてくれたようで

    「アンドリューさん、こんにちは」

    「アンドリューさん、ありがとう」

    「アンドリューさん、さようなら」

    と礼儀正しく挨拶をしては、お礼もしてくれて

    ワシはどんどん仲良くなっていった


    数年経つと、少女は素敵な女性に変わっていった

    いや、成長していったと言った方がいいのじゃろう

    とにかく、可憐だった少女は、麗しい美女へと育っていったのじゃ


    ある時のこと、彼女はワシに、自分の想いを伝えてきた

    ワシは…そりゃもう昔はイケメンのレプリロイドじゃったからのう

    そんなことは日常茶飯……というわけではなかったが………


    ゴホン


    ……彼女の気持ちに、ワシもまた、同じ想いであることを伝えた

    彼女は瞳を潤ませて、ワシを抱きしめた

    ワシもまた、彼女を抱きしめた


    それからの毎日は……生きてきた中で一番幸せな時じゃった

    隣を見れば彼女がいた

    手を伸ばせば繋いでくれる手があった

    本当に愛おしい相手が、ずっとそばに居てくれたのじゃ


    ワシは、最高に幸福な時を

    最高に大切な人と過ごしたのじゃ




    それから十数年が経った

    彼女は少しずつ歳を重ねていった

    初めはさほど気にしておらんかったが

    いつまでも変わることのないワシの姿を見ては

    ため息をついた


    ワシもまた、ともに歳を重ねられないことが悲しくなってきた



    そこで、ワシは人間の親友に頼み込んだ

    「歳をとりたい。とらせてほしい」

    「彼女とともに、少しずつ老いていきたいんだ」

    ――――と

    親友は快く引き受けてくれた


    それからワシの身体は数年ごとに皺を刻んでもらい

    人工筋肉を減らしてもらい

    骨格を歪めてもらっていった

    視力も弱めてもらい

    毛髪も脱色していき

    禿も作り

    人間のように年老いていった


    そうして、ワシは彼女とともに歳を重ねていった


    横にいる彼女も、初めは戸惑っておった

    けれど、「共に歩んでいきたいのだ」とワシが伝えると


    互いに想いを伝え合った時のように

    瞳を潤ませて、ワシを抱きしめた

    ワシもまた、強く彼女を抱きしめた




    それから数年

    彼女に最期の時が来た

    寿命というやつじゃ

    弱り果てベッドに横たえた彼女を見つめ

    ワシは迫ってくる寂しさに胸が苦しくなった

    すると彼女の手が、ワシの手を握ってきた

    そして言ったのじゃ

    「いつでも傍にいます」と


    それが最期の言葉じゃった

    ワシは泣きたかった

    彼女の亡骸を抱きしめて

    涙を零したかった


    けれど泣けなかった

    彼女のために泣きたかったのに


    涙はついに流れてくれなかった



    レプリロイドは涙を流せない

    それは仕方のないこと無いことじゃ




    ワシは暫くそのことを悔やんだ


    じゃが


    今ではそれで良かったと思っておる




    なぜなら





    最後まで泣くことができなかった代わりに



    互いに微笑みを交わし合って




    別れることができたのじゃから






























 


「……すてきなお話ね」

全てを聴き終えた後、子供たちの輪の中で、アルエットがぬいぐるみを抱きしめながら素直な感想を零した。
「そうね」とセラもまた、アルエットに同意した。何人かの子供たちも頷く。
しかし、アークが「俺は哀しいな~」と口をとがらせる。

「最後に恋人が死んじゃうなんて、それは哀しいよ」

「……ちゃんと最後まできいてたの?」

セラに睨まれ、アークは「聴いてたよ!」と焦りながら答える。
その様子に、アンドリューは「ホッホッホッ」と微笑ましそうに笑う。

「感想は人それぞれじゃ。みんながみんな同じ考えでは、世の中つまらんからのう」

「僕は大変興味深いと思いましたよ!」と後ろの方で聞いていたイロンデルが口を挟む。

「まさかアンドリューさんがそんな素敵な理由で、その姿になっていたとは! ……むっ。また一ついいポエムが書けそうだ!」

そう言って身を翻し、駆け足で自室へと戻っていった。

「でも……わたしはアークの感想もわかるよ」

アルエットが突然口にする。

「やっぱり……ずっといっしょにいられたら……そっちの方がいいもん」

そう言って、再び強くぬいぐるみを抱きしめる。
心のなかにはシエルやゼロのことを思い浮かべていた。
そんなアルエットの頭を、アンドリューが優しく撫でる。

「確かにそうじゃ……。けど……“出会い”があるから“別れ”があるように。“別れ”があるからこそ、残るものもあると思わんかの?」

「『“別れ”があるからこそ、残るもの』……?」

さっぱり分からないというように、アンドリューの顔を見る。
アンドリューは、「うむ」と頷いてみせる。

「少なくとも、その“別れ”があったから、お前さんたちにこの物語を伝えることができたのじゃからの」

もしもその“別れ”が無かったならば、きっと今の“アンドリュー”はここにはいない。
こうして、子供たちに“おはなし”を聞かせてくれる優しい老人型レプリロイドは存在しなかっただろう。

「……うん…そうだね」

アンドリューの言葉に、僅かばかりの切なさを感じながら、アルエットは優しく微笑んだ。






















  ―――― * * * ――――


三日目の昼頃。
エル・クラージュを整備するゼロのもとに、ナタリオが何やら手に持って近づいてきた。そのまま手を差し出す。
その中には、ぜんまい仕掛けのねずみの玩具があった。

「どうした?」

目で促されるまま、ゼロはそれを手に取る。
そして背中のネジを回してみる。だが、ねずみは動かない。

「……こわれちゃったんだ………」

ポツリと寂しそうに呟く。

その玩具もまた、オレクが廃墟の中から見つけて、ナタリオにプレゼントしたものだった。
暫く遊ぶ内に、動かなくなってしまった。きっとオレクにはなかなか言い出せなかったのだろう。

「任せな」

そう言って、ゼロはねずみの玩具を眺める。
そして、工具を使って慎重に中身を開いた。一瞬、ナタリオは戸惑いの表情を浮かべたが、じっと堪えた。

「歯車に小石が挟まってんな」

荒れた場所で遊んでいたせいだろう。ゼロはピンセットを使い、小石を除去する。
それから再びカバーを閉じ、数回転ほどネジを回した。
すると、今度はカタカタと軽快な音を立てて動き出した。

そのまま地面に置くと、まるで本物のように走り出し、暫くしたところでゆっくりと動きを止めた。
ナタリオは笑顔でその玩具を拾い上げる。

「ありがとう、おにーちゃん!」

殊更大きな声でお礼を述べ、そのまま笑顔で去って行った。

「『おにーちゃん』だってさ」

意地悪そうに笑いながら、レルピィが言う。

「まあ、悪くないな」

「本当は“おじいちゃん”なのにね」

「うるせーやい」と頬を緩ませながら、再び工具を手に取る。

「ところで、ダーリン。いつまでここにいるつもり?」

ここに来てから二晩も過ぎている。
レルピィとしては、早くこの寂れた廃墟群から抜けだして、屋敷へと戻りたい。
ゼロもそのことには気づいているらしく、ある程度予定は立てていた。

「そうさな……今晩か、明朝には出るつもりだ。まあ、夜の方が身を隠せていいとは思うが」

追われている身でもあるのだから、できる限り安全に出てゆきたい。
もしもの時は、ここにいるレプリロイドたちにも迷惑をかけてしまう筈だ。

「うん、オッケー。じゃ、そういうことで」

予定が定まり、レルピィも安心したようだった。
そう言いながらも、少しだけ寂しさがゼロの胸に募る。
僅かに自嘲を浮かべ、エル・クラージュの車体を再び調整し始めた。











































  ――――  5  ――――


「“手駒”の調子はどうだ?」

上昇してゆくエレベーターの中で、バイルが不意に問いかける。
レオニードは不敵な笑みを浮かべ「順調です」と答える。

「――――が、引き篭もっていることにそろそろ痺れを切らしてきたらしく………もう少し辛抱をするよう伝えています」

「……結構なことだ」

「私としては気苦労が絶えませんがね」

そう言って苦笑する。だが、満更でもなさそうな表情だ。
少女の方はと言うと、中を囲む鉄格子に指を絡ませ、外を眺めていた。勿論、空間転移装置であるエレベーターの周囲は暗闇に包まれ、何も見えやしないのだが。

「ねえ、おじいさま」

ふと、呼びかけられ、彼女に視線を向ける。
少女は格子に指を絡ませ、背を向けたまま、問いかける。

「“あの子”はどうしているのかしら?」

“あの子”――――四人の中で、フリザードだけが首を傾げた。彼女が気にする“あの子”が誰であるか。
事情を知るバイル、レオニード、そしてアレクサンダはピクリと反応する。彼女の口からその話題が出るとは、正直思っても見なかった。
バイルは僅かな沈黙の後、慎重に言葉を選び、徐ろに口を開く。

「今は……私のもとにはおらん。だが……元気にやっていることだろう」

「……そ」

短く答える。
そして、少しだけ黙りこんだ後、軽やかに振り返り、口端を歪ませる。

「死んでくれていたなら良かったのに」

「フフッ」と軽く笑いを零しながら、彼女はサラリとそう口にした。
彼女と“あの子”の関係を知っていれば、その言葉を吐く理由は仕方のないことのように思えた。

だが、アレクサンダだけが、彼女の言動に違和感を感じていた。
それが何処から来るのかは、分からないのだが。



到着を告げるブザーが鳴り響く。
それと同時に開く扉。

眼の前に広がる荒野。そこには、直径数キロはあろうかという巨大なクレーターができていた。
中心部には、半壊した人工物が見える。それはかつて宇宙空間に浮かんでいた、スペースコロニーの成れの果てだった。

「……足を運ぶのは久しいな」

バイルがポツリと呟く。その声はどこか感慨深げであった。
レオニードは一同の前に立ち、振り返る。そして、両手を広げ、声を上げた。





「ようこそ、“エリア・ゼロ”へ」





エリア・ゼロ――――イレギュラー戦争終盤において、イレギュラー軍がスペースコロニーを落下させた中心地である。
占拠後、あらゆる生物、化学兵器の類を内側に詰め込まれ、コロニーは地球に向けて落下。中のそれらは爆風とともに、世界各地に拡散された。
特殊シェルターに非難していた一部の人類だけが生き残り、地上は完全に汚染されてしまった。
当時の最新技術を以って、なんとか十数年程度で生活圏を確保することはできたが、未だ危険な地域は残されている。

バイル達は、クレーターの坂を慎重に下る。それから、一台のホバークラフトに乗り合わせ、中心部へと向かい進み始めた。
周囲には、数人の科学者らしき者達と、その指示に従い動く、作業者達がいた。

そこにいるのは全て人間であった。
こうした危険な場所の調査には、レプリロイドを派遣することが当然のことであるのだが、このエリア・ゼロに限っては、それは許されないことだった。
厳重なチェックを通った人間しか近寄れないようになっており、バイルとレオニードだけが特別にレプリロイドを連れ、近づけるのだ。

それには勿論、理由がある。

「これを」

中心部――――コロニーの残骸の直ぐ側に辿り着いた頃、地上に降り立ち、レオニードはそこに存在するあるものを片手で指し示し、バイルに声をかけた。
そこにあるものに、バイルは思わず目を丸くする。話には聞いていたが、真実であるとは、その目で確かめるまでは半信半疑だったのだ。

「……花………か…………」

荒れ果て、生命など死滅したはずの大地。
その上で、確かに白い花が揺れているではないか。周囲には僅かだが緑も見える。

「コロニー内の植物プラントが奇跡的に生きていたのだろう……と我々は見ています」

レオニードが説明する。
化学兵器が充満していた筈のコロニー内で、この植物は偶然にも生き延びていた。――――いや、おそらく生き延びたのはこの植物に“なる前の植物”だろう。
植物プラントの管制コンピュータが化学兵器に対応し、中の植物を品種改良していったのだろう。そして、幾つかの代を重ね、こうして荒れ果てた大地に根付く強い花が生まれたのだ。
しかし、それは“奇跡”と言ってよかった。
地上に落下した衝撃の中で管制コンピューターとプラントの両方が無事に生き残り、中の植物は、世界中の生物を死滅させた化学兵器に耐性を持った植物へと変種した。そしてそこからさらに、滅びかけの大地に根付く花へと変種した。この奇跡的な事実に、急激な進化に科学者達の興味は尽きない。

「汚い花ね」

少女は冷ややかな視線を向けながら、唐突に呟く。
レオニードは鼻で笑う。

「可愛げのない反応だな。年頃の娘なら気に入ると思ったのだが?」

「……どうとでも」

それっきり、少女は興味が無いというふうにそっぽを向いた。レオニードは「やれやれ」と肩を竦める。
そんな二人のやり取りなど気にすること無く、バイルはただその花を見つめていた。
レオニードが再び口を開く。

「花がこの地に咲いた。……つまりは――――」

「――――地球はまだ生きている……ということだな」

バイルが言葉の先を言うと、レオニードは頷く。
現在、ネオ・アルカディアにあるのは人工の自然だけだ。救世主の膝下であるユグドラシルですら、機械で補強された自然が彩っている。どれだけ技術を注いでも、ついぞ大地に花を芽吹かせることが出来なかったのだ。
しかし今、目の前の大地にはしっかりと花が根付いている。僅かな緑とともに。自然が芽吹いているのだ。
これは、驚くべき発見であり、同時に護らねばならない貴重なサンプルだ。

「人類がこの先、この星で生き続ける事を望むならば、これは一つの“希望”と見て良いのではないかと思っています」

レオニードの言葉に、今度はバイルが頷いた。
地球はまだ生きている。自然が大地を覆い尽くす日が、再び訪れるかもしれない。
そんな希望を抱かせてくれる貴重な存在だ。それ故に、限られたものしかここに近寄ってはならないことになっているのだ。どんな野心でこの芽を摘まれてしまうか、分かったものではない。

「……我々にとっては…どうだ?」

バイルが不意に尋ねる。
すると、レオニードは不敵な笑みを浮かべて答える。

「私にとってはなんとも言えませんが……あなたの目的が“アレ”であるならば、同様に“希望”と見て良いのではないでしょうか。――――あなたは“アレ”が目覚めてからの、世界の行く末まで気にしているのでしょう?」

「………敵わんな」

そう言って、バイルは「フッ」と口元を緩めた。
「だからこそ、あなたに見せたかったのですよ」と、レオニードは再び笑顔で口にした。

「用事が済んだのなら、帰りましょうよ」

後ろの方で少女が、金茶色の髪を弄りながら不満げに漏らす。

「まだまだお子様には早い話だったかな?」

「そうね。退屈すぎて死んでしまいそうだわ」

皮肉を返され、レオニードは「仕方ない」と首をすくめる。

「それでは、この辺で――――」

その瞬間だった。
傍らに突き刺さっているコロニーの小さな破片の一つ、その物陰から、人影がゆらりと動いた。
そして、そこに隠れていた人物は吠えるように声を張り上げ、レオニードの元へと駆け寄出した。

その手には一本のナイフが握られていた。





皆、その光景に唖然とした。



























  ―――― * * * ――――


その日の晩、暗闇に隠れてこの廃墟群を抜けることにした。
エル・クラージュの整備もあらかた終わり、夜が来るのを待ち、ようやく漆黒が空を覆う頃、ゼロはオレクに別れを告げに出て来た。

「もう行くのか?」

オレクに問われ、ゼロは「ああ」と頷く。

「勝手に長居しちまったからな。――――いや、世話になったよ」

「もう少しゆっくりしていってくれてもいいんだが」

そう言ってオレクはペンを机の上に置き、椅子から立ち上がる。

「そういう訳にもいかない。俺は俺で、やらなきゃいけないことがある。それに、お前らにも迷惑かけてしまうだろうし…な」

名残惜しいのも確かだ。親子二人の生活に興味はあるし、ナタリオとも親交を深めた。
だが、彼らができる限り穏便に暮らし続けるには、これ以上の長居はするべきではないし、口にする通り、やるべきことがある。
ホームへ連れてゆこうかとも考えた。これほど打ち解けた二人ならば、信用もできると。――――だが、二人がせっかくこの場所で懸命に生きているというのに、それを邪魔する必要もないだろうと思い、誘うことはしなかった。

「迷惑なんて……そんなことはない」

「みんな、そう言ってくれるんだよな。嬉しいぜ。――――けど、いつかはトラブルが起こる。そうなる前にケジメはつけとくもんだ」

そう言って、エル・クラージュを停めてある。奥へと足を向けた。
瞬間、オレクが「ちょっと待ってくれ」と声をかける。ゼロはそのまま振り返る。

「どうした?」

「……いや……その……なんだ…」

問い返され、オレクは慌てたように口篭る。ゼロは首を傾げ、オレクが再び冷静に話してくれるまで待った。
しばらくして、「フゥ」と息をつくと、オレクは静かに口を開いた。



「……あんたにとって…“幸福”ってなんだ?」



「………………………は?」



それは、思いもよらない問いだった。
ゼロはそのまましばらく固まり、訳が分からないと言うふうな顔をしてみせる。

「急にそんな哲学的なことを聞かれてもな」

「別れ際に、突然聞かれても」と、頬を掻く。
だが、改めて聞かれてみると、考えてしまう。成程“幸福”とは自分にとってなんなのか――――そんなことは考えたこともなかった。
暫く黙りこんで考えてみるものの、簡単に答えは出てくれない。すると、オレクが「俺が思うに」と再び口を開く。

「“まっとうに生きていくこと”だと思う」

「『まっとうに――――』……」

思わずその言葉を繰り返す。
オレクは言葉を続ける。

「今の世界で……俺達レプリロイドの地位は……その生活はだいたい地獄みたいなもんだ」

そのことについては、聞かされる必要もないほどに、ゼロ自身も良く理解していた。
これまで出会った者達を思えば、知らずにいられるわけがない。

「だから………できる限りまっとうに生きていけたなら…それこそが“幸福”なんじゃないかって思ってる。それだけで十分だって……俺は思うんだ」

「決して多くは望まない」と、その目は語っていた。僅かばかり質素であろうと構わない。ただ、尊厳を守ることが出来る程度に、意志をある程度尊重してもらうことが出来る程度に、苦痛ばかりを感じない程度に――――ある程度でも、“まっとうな生き方”ができたならば、それがきっと“幸福”なのだろう。
「なるほど…ね」とゼロも呟く。賛同するつもりはないが、オレクの考え方も理解できる。それも“幸福”の一つであると認められる。

「だから……俺は…」

オレクは再び口篭る。それから、「俺は」と繰り返すように呟く。
ゼロは再び疑問符を浮かべる。どうも先ほどからオレクの様子がおかしい。話がまとまってすらいないのに呼びかけたり、唐突にまた口篭ったりと、どこか怪しげだ。
そんな風に訝しんでいると、オレクは意を決したような表情でゼロを見つめる。そして、はっきりと口にした。








「俺は……そんな“幸福”が欲しい」







廃ビルの窓から一斉に強烈な光が差し込み、その眩しさにゼロは思わず手をかざす。同時に、拡声器らしきもので拡大された音声が廃墟中に響く。

「この廃墟群は我々、烈空軍団が包囲した! 紅いイレギュラーは直ちに投降せよ!」

「なッ!?」

突然の勧告に、ゼロは驚きの声を漏らす。そして、その瞬間全てを理解した。
そう、理解した――――眩いサーチライトの灯りを背に受けて、エネルギーガンの銃口を自分の眉間に向ける、目の前の男の不可思議な言動の全てを。


「俺が呼んだんだ」


オレクはそう言って、エネルギーガンのセーフティロックを解除した。

































  ――――  6  ――――


何かを企んでいるような気配どころか、殺気の欠片も感じ取ることが出来なかった。それ故に、完全に不意を衝かれてしまった。この廃墟の周囲は、既に烈空軍団の一部隊により包囲されている。オレクの密告によって。

「何故なんだ……オレク」

ゼロは、思わず問いかける。
この短い付き合いの中でも、彼の中には憎悪の欠片も無いことは明白であったし、それどころか互いに親しみすら覚えていた筈だ。
良き関係を築いていたはずだ。それなのに何故、彼が自分の眉間に銃口を突きつけているのか、ゼロには全く理解が出来なかった。

「さっき言ったとおりだ。……俺はまっとうに生きて……“幸福”になりたいんだ。……ナタリオと一緒に」

そう言う彼の声と、エネルギーガンの柄を握る手は僅かに震えていた。
その時、ゼロは一つ理解した。今、彼が銃口を向けているのは決して憎悪や悪意といった感情のせいでは無い。――――ただ“少しでも幸福に生きたい”という願いだけが彼を突き動かしているのだ。

「……こんな場所にいつまでも居られるわけがないんだ」

こんな寂れた廃墟に居続けたところで、それは“真っ当な生き方”ではない。
オレクは言葉を続ける。

「あんたを捕らえて……討ち取って……そうすれば俺は“英雄”になれる。そうすれば…ナタリオと一緒にネオ・アルカディアで真っ当な暮らしを送れる」

それくらいの功績がなければ、あの最終国家の中で平凡なレプリロイドが幸福に暮らすことなど不可能だ。そのことを、オレクはよく理解していた。
だから決断した。ゼロを差し出すことで、己の幸福を得るのだと。
決して恨みからではない。それは間違いない。それどころか、ゼロが思っているとおり、友情すら感じていた。
だがそれ以上に、大切にしたいものがあった。守りたいものがあった。――――ただ、それだけだ。

「来るな、ナタリオ」

物陰から姿をのぞかせるナタリオに、オレクは震える声でそう言う。
奥で眠りについていたナタリオは、突然の騒ぎに起きてしまったのだ。傍にはレルピィも飛んでいる。

「早まるんじゃない……オレク」

ゼロは説得しようと口を開く。だが、オレクは「黙れ」と声を荒げる。

「これ以上何も言わないでくれ。頼む。何も聞きたいくない! 何も話したくないんだ!」

これ以上言葉で遣り取りを続ければ、決心が鈍ってしまう、それを感じていた。
しかし、事は既に動いているのだ。烈空軍団はスナイパーで周囲を囲み、突入の構えも見せている。もう後戻りなどできない。
歯車を回し始めたのが自分である以上、迷い、立ち止まる訳にはいかない。だから、これ以上ゼロと言葉をかわしたくはないのだ。

「こんなことをしたところで――――…」

「黙れと言ってるだろう!!」

声を更に荒げ、銃口をゼロの眉間に強く当てる。
物陰から見守るナタリオの視線が、突き刺すように感じられた。だが――――いや、だからこそ、彼と視線を合わせることもできない。

「……なら、そのまま撃てよ」

再び制そうと口を開き、オレクは言葉を失った。「撃て」と確かにゼロは言った。

「ダーリン!」

レルピィが悲痛な叫び声を上げる。それをいつも通り、ゼロは「喚くなよ」と冷静に抑える。
そのままオレクを睨む。

「…お前の気持ちは分かった。それなら、そのまま撃てばいい。幸福をつかめばいい……」

そう言ってから、「できるものならな」と付け加えた。

オレクは気づいた。ゼロの目には決して諦めの色は浮かんでいない。
この万事休すの状態で、冷静なまま、構えている。そのまま躱す自信があるのかもしれない。根拠は知れないが。
オレクは奥歯を噛み締める。――――しかし、それでも引き金を引けない自分がいる。

「紅いイレギュラー! 降伏せよ!!」

烈空軍団からの勧告が再び行われる。
猶予はもうないだろう。しばらくすれば痺れを切らした彼らも突入を始め、この場所は戦場になる。ナタリオまでも巻き込んで。

「俺…は………」

秤にかける。
大切な物を左右の皿に乗せ。できるだけ幸福に近づける方を選択する。
そうだ。――――例え、卑怯者となろうとも。大切な息子から軽蔑されようとも。
掴むべきものがある。守りたいものがある。

その為に回した歯車。後戻りはできやしない。
そして、決断する。


言葉にならない咆哮を上げ、引き金を引く。ゼロの眉間に向け。



「!?」

だが、そこに横切る一瞬の怯えと躊躇いが身を強張らせる。その一瞬の隙を、ゼロは見逃さなかった。
そのまま伸ばした腕を掻い潜るようにして、オレクに飛びかかり、押し倒し、抑えこむ。――――すると、放たれたエネルギー弾が壁に当たり、僅かな衝撃が起きる。ボロボロの棚に置いてあったボールが僅かに揺れ動き、そのまま落ちた。

「――――…ぁ…!?」

小さく声を上げると、ナタリオは走りだしていた。
ボールは傾いた床の上を加速しながら、出口の方へと転がってゆく。サーチライトに照らされた、道の方へ。
ゼロに抑えこまれながら、それに気づいたオレクが静止の声を上げる。

「ナタリオ! 駄目だ!」

だが、その時既にナタリオは廃ビルから通りの方へと出ていた。――――父から貰った大切なボールを追いかけて。
サーチライトに少年の姿が照らされた刹那のことだった。






    一瞬の内に響く、十数発の銃声。飛び散る肉片と擬似血液。







そのままグチャリと生々しい音を立て、ナタリオの亡骸は崩れた。

「――――レッドリーダーより各員。どいつもこいつも手柄を急ぎすぎだ。あれじゃ確認がとれんぞ」

通信機を口に当て、烈空軍団員が状況を部下に伝える。
「チッ」と舌打ちをして、部下の一人が返答する。

「見てました。ガキのイレギュラーですよ。全く紛らわしい」

そう言って、憂さを晴らすように再びライフルの引き金を引く。弾は転がっていたボールを正確に撃ちぬいた。
その光景を、ゼロも、レルピィも、オレクも、ただ唖然と見つめていた。



「 ナ タ リ オ ぉ お !」



衝動のまま、力の抜けたゼロを跳ね飛ばし、オレクが叫ぶ。
そのまま地を蹴るオレク。「待て!」とゼロが腕を掴むが、それを振りほどき、走りだす。息子の名を叫びながら。
サーチライトの中に、再び現れる人影。烈空軍団の一人が功を焦ってか、素早く引き金を引く。その銃撃はオレクの右肩を砕いた。

「オレクッ! 戻れぇ!」

「ダメよ! ダーリン!」

オレクを連れ戻そうとするゼロの視界をレルピィが遮る。

「今出たらダーリンが撃たれる!」

「邪魔をするな!」

声を荒げるゼロ。それでも尚、レルピィは退かない。
その向こう側で再び響く二発目の銃声。今度はオレクの腹部が貫かれる。

「どくんだレルピィ!」

「ダメよ! 行っちゃダメ!」

堪えきれずゼロは吠える



「こ の ま ま じ ゃ 救 え な い だ ろ う !! 」



気圧され後ずさるレルピィ。だが、その怯えたような表情を見て、ゼロは我に返る。
彼女の言うことが正しい。このまま外に出れば、敵のスナイパーにより蜂の巣だ。衝動のまま飛び出したところで、オレクの二の舞だ。
幸い、オレクは生きている。標的ではないレプリロイドを撃ったことで、敵が最初の時より慎重になっているのだ。
歯を食いしばり、ようやく堪えるゼロ。ふと思いつき、レルピィが「任せて」と声を上げ、廃墟の奥へと急いで戻っていった。




「ナタ……リオ………?」

血溜まりの中、オレクは地に伏せたままナタリオ“だったもの”に手を伸ばす。

「…ぅ……ぁぁ………ナタ…リ…オぉ…!」

無残な姿に成り果ててしまった。
暫くの間、ともに暮らした少年のレプリロイドは。息子と呼び、慕った少年は。「父さん」と朗らかな声で呼んでくれたただ一人の“息子”は。
もう、あの呼び声は聞こえないのだ。

直ぐ傍に、あのねずみの玩具が転がっていた。
事切れたように、それは虚しく転がっていた。

背中のネジを回す者はもういない。


それはもう、二度と動くことはない。



三度鳴り響く銃声、オレクの左足が貫かれる。
体中に走る激痛。だがそれ以上に、胸の奥が苦しい。暗い渦のようなものが、ドロドロと唸りを上げているのが分かる。

悲しみと絶望が、押し寄せているのが分かる。


四度響く銃声。だがそれはライフルのものではない。
廃墟の奥からエネルギー弾が放たれる。そして、オレク達の直ぐ側にあった瓦礫を粉々にする。巻き起こる粉塵。

「何が……? ――――ライドチェイサー!?」

烈空軍団員が驚きの声を上げる。
廃墟の中から、一台のライドチェイサーが現れる。そして、ライドチェイサーはその場でエネルギー弾を四方に乱射し、瓦礫を砕き、粉塵を巻き上げる。そして、自らもその場でスモークを噴出する。

「クソ、やられた! 各員突入!」

通信機に向かって吠える。
その間、既にゼロは粉塵に紛れながら、オレクたちに駆け寄る。そして、オレクの身体を持ち上げる。

「待……って…………ナ…タ…リオ…」

オレクが耳元で呻くように懇願する。たった一人の大切な相手をここに放置してゆくことなどできない。
その気持ちはゼロの心を抉る。だが、あくまでも冷静に答える。

「……無理だ。あれは…もう」

ひと通りカモフラージュを仕掛けたエル・クラージュ――――レルピィが戻る。そして、ゼロはオレクの身体を担いだまま、跨り、ハンドルを握った。
少年の亡骸をそこに置いたまま、走りだすエル・クラージュ。オレクは最後まで、手を伸ばし続けていた。しかし、想いも虚しく、その遺骸から遠く離れてゆく。

少年の傍らに残ったのは、ただ一つ。
あの日、大切な父から貰った、もう二度と動くことのない、ぜんまい仕掛けのねずみの玩具だけだった。


































  ――――  7  ――――


男の生首が宙を舞い、そのまま地を転がる。

「……ご無事ですか、レオニード様」

振りぬいたビームサーベルを腰に戻し、アレクサンダは自分の主の安否を確かめる。

「問題ない、アレクサンダ。ありがとう」

「フッ」と軽く笑い、レオニードは労いの言葉をかけた。そしてまた、ほぼ同時に男の腹部を貫いたフリザードにも、「君もありがとう」と頭を下げる。

「暗殺とは…な」

バイルも、安心したように息をつき、呟く。

「ええ………まさかこの場所で襲われるとは思いませんでした」

元老院議長の椅子に座った以上、こうした事件が何時起きても不思議ではないということくらい、レオニードも心得てはいた。
だが、そもそも彼らがこの場所に訪れることは、それ程公にしてはいない情報だ。それを掴んだというのだから、余程身近な相手か、それとも優秀な情報屋を傍においているかだ。

「バイル卿の部下にも、手を煩わせてしまい……申し訳ない」

「いえ、お気になさらずに」

改めて頭を下げるレオニードに、フリザードは慌てる。

「それに……私よりもアレクサンダ…殿の方が早かったようでしたから」

フリザードはそう言って、アレクサンダの方を見る。彼は軽く会釈をするだけだった。
正直なところ、フリザードはアレクサンダの俊敏さに驚いている。
男の衣服を見る限り、研究者に紛れてこの場所に足を踏み入れたのだろう。
フリザードは一瞬、この男を殺すことに躊躇った。当然だ。――――相手は“人間”なのだ。
ネオ・アルカディアに生まれたレプリロイドである以上、人間を殺すということに僅かでも躊躇いを見せないものなどいない。例え、バイルの命であろうと、フリザードは一瞬の隙を見せてしまうだろう。
だが、アレクサンダは違った。刹那の躊躇いも、迷いも見せること無く、ただ冷静に刃を振りぬいた。“殺す”という選択肢以外持ち合わせていなかった。

後に、どれだけの処罰を受けようと、レオニードという主を守るためならば構わない。――――そう言う揺るぎない意志を、フリザードは感じとった。しかしながら、あまりにも冷たい彼の横顔を見つめると、背筋に悪寒のようなものを感じずにはいられなかった。
レオニードは男の亡骸に近寄り、膝をつく。ポケットの中を探り、IDを取り出し、名前と身分を確認する。研究員であると記されていたが、おそらくは偽造だろう。
そのまま、他に手がかりはないかと探る。――――と、あることに気が付いた。思わず「バカな」と声が漏れる。

「どうした?」

バイルの問いかけに、レオニードは苦笑とともに答える。

「この男、レプリロイドです」

「………なに?」

この場所は、万が一にもイレギュラーが侵入することなど無いように、強力なセキュリティを張り巡らされていた。
だが、この研究員に扮していた男は、紛れも無いレプリロイドであった。
上半身の服を捲り上げ、確認する。男は人機判別撹乱スーツを纏っていた。

「レジスタンスが開発したものか……」

「確か、黒狼軍が最初でしたか。どうやらその改良版ですね」

肌への密着度や、手触りで分かるその材質などから、更に精度が上がった撹乱スーツであることが分かった。おそらく他にも何か仕掛けがあるのだろう。
とにかく、この男は最新の対策機器を使い、セキュリティを突破し、暗殺に備えたのだ。

「……黒狼軍の下部か?」

「まさか。“彼”もそこまで“愚か”ではないと思いますが……。――――おそらくは、政敵でしょう」

対立する陣営の仕業に違いないと、レオニードは断定した。
正直、彼の興味を引いたのは、その男が何者であるかという以上に、その男がレプリロイドであったという事実の方だ。

「こうして間近で確認するまで、私にも分かりませんでした」

「そんなものだ………」

レオニードの声に、バイルは軽く答える。
そして更に、言葉を続ける。

「人間とレプリロイドなど……所詮その程度の違いだ。大した差などありはしない。――――その“愚かさ”から何まで…な」

バイルの言葉を聞きながら、ただ一人、少女だけが風に吹かれる白い花を見つめていた。
花はただ、ゆらゆらと優しく揺れていた。




















  ―――― * * * ――――


廃墟から離れ、エル・クラージュを走らせ続ける。
どこまでも広がる虚しい荒野の真ん中で、背にもたれかかるオレクが、声を振り絞る。

「……どうし…て……」

「もう…喋るな」

ハンドルを握り、ゼロはただそう言う。だが、オレクは尚も問いかけ続ける。

「………どうして……なんだ……」

誰に向けたわけでもない、果てない問い。

――――どうしてだ

多くを望んだつもりはない。
ただ幸福を願っただけだ。卑怯であったことは認めよう。どれだけ軽蔑されようと構わない。
けれど、これほどの仕打ちを受けねばならないほどの罪であったのか。
あんな寂れた場所から抜け出したいと、そう思っただけだ。それがそこまでの罪だったのか。

“幸福”を求めたことが、それ程までに罪だったというのか。

しかし、それならばどうして、あの少年が死ぬのだ。
何も知らないまま。どうして彼が死ななくてはならなかったのだ。
ただ、世界の片隅で、細々と生きていただけだというのに。
誰かを殺めたこともないあの少年がどうして。


何故、この世界はこんなにも、残酷で。
それでも時は過ぎてゆくのか。


「どう…し…て…………ナタリオ…」

「お前たちは……何も悪くない」


オレクの問いに、堪えきれずゼロは答える。
だが、明確な答えを、彼もまた持ちあわせてはいなかった。



「それでも……こうなってしまったんだ。それだけだ…きっと」



それ以上、言葉は交わされることはなかった。
ゼロは気づいた。自分の背中にもたれ掛かる男が、静かに逝ったその瞬間に。
救えなかった者の温もりが、消えてゆくことに。



それでもただ、荒野は続く。
薄紫色の朝焼けに照らされる、遠い空の向こうまで。





























 NEXT STAGE











        殺戮舞台
























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