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No.34283の一覧
[0] [Z-E-R-O] (原作:ロックマンゼロ、ロックマンX)[村岡凡斎](2013/09/18 15:00)
[1] はじめに[村岡凡斎](2012/07/18 16:08)
[2] Prologue[村岡凡斎](2012/07/18 16:24)
[3] Waffle for Chapter[村岡凡斎](2012/11/07 01:25)
[4] OPENING STAGE 「涙の少女と寝起きのマルス」[村岡凡斎](2012/10/29 15:54)
[5] 1st STAGE 「剣」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[6] 2nd STAGE 「星に願いを 夜空に問いを」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[7] 3rd STAGE 「包囲戦線」[村岡凡斎](2013/11/25 19:59)
[8] 4th STAGE 「亡霊の影」[村岡凡斎](2012/10/29 15:59)
[9] 5th STAGE 「死屍軍団」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[10] 6th STAGE 「キズダラケ」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[11] 7th STAGE 「渇望/葛藤」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[12] 8th STAGE 「未来」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[13] 9th STAGE 「理想郷の詩」[村岡凡斎](2012/10/29 16:02)
[14] COMMENTARY 1[村岡凡斎](2012/09/18 18:22)
[15] 10th STAGE 「紅いイレギュラー」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[16] 11th STAGE 「救い」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[17] 12th STAGE 「ウラギリ」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[18] 13th STAGE 「闘将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:27)
[19] 14th STAGE 「証明」[村岡凡斎](2012/10/30 23:28)
[20] 15th STAGE 「レスキューコール」[村岡凡斎](2012/10/30 23:29)
[21] 16th STAGE 「世界を覆う白雪の上で」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[22] 17th STAGE 「理想の表裏」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[23] 18th STAGE 「color of mine/d」[村岡凡斎](2012/10/30 23:31)
[24] 19th STAGE 「妖将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:32)
[25] 20th STAGE 「届かぬ想い、その結末。」[村岡凡斎](2012/10/30 23:33)
[26] 21st STAGE 「デンジャラス・デイ」[村岡凡斎](2013/05/07 21:37)
[27] COMMENTARY 2[村岡凡斎](2012/10/30 23:37)
[52] 22nd STAGE 「レプリロイドは ぜんまいねずみの夢を見るか?」[村岡凡斎](2012/11/07 01:09)
[53] 23rd STAGE 「殺戮舞台」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[54] 24th STAGE 「罪 と 罰」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[55] 25th STAGE 「Raging River」[村岡凡斎](2013/11/19 00:54)
[56] 26th STAGE 「ABSOLUTE - JUSTICE」[村岡凡斎](2012/12/17 00:06)
[57] 27th STAGE 「隠将」[村岡凡斎](2013/01/28 22:27)
[58] 28th STAGE 「再会」[村岡凡斎](2013/05/07 21:39)
[59] 29th STAGE 「暗躍の調」[村岡凡斎](2013/05/25 23:30)
[60] 30th STAGE 「死者の国」[村岡凡斎](2013/06/23 01:04)
[61] 31st STAGE 「乱戦四重奏」[村岡凡斎](2013/08/03 00:49)
[62] 32nd STAGE 「Red, White and Bullet Blues」[村岡凡斎](2013/09/18 14:58)
[63] 33rd STAGE 「    」[村岡凡斎](2013/09/28 16:02)
[64] 34th STAGE 「月と影、そして太陽」[村岡凡斎](2013/10/06 09:36)
[65] 35th STAGE 「残光の行方」[村岡凡斎](2013/11/02 15:37)
[66] 36th STAGE 「救世主」(前)[村岡凡斎](2013/12/24 14:36)
[67]          「救世主」(後)[村岡凡斎](2013/12/25 11:54)
[68] FINAL STAGE 「Message from...」[村岡凡斎](2014/01/25 17:09)
[69] LAST COMMENTARY[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
[70] おわりに[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
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[34283] 1st STAGE 「剣」
Name: 村岡凡斎◆45ff140f ID:697d6d9c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/29 15:58


  ―――― * * * ――――



「…おーい、そこの小娘。聞いてるかー?」

「ほえ??」

突然の出来事に呆然としていたシエルに、金髪の男が呼びかける。
我に返ったシエルに、男は「生きてるか?お前さん」と問いかける。瞬間、シエルは「きゃぁっ」と声を上げ、勢いよく飛び退く。
無理もない。男の非常に端正な顔が、わずか数センチという距離まで近づいていたのだから。
心臓が、周りに聞こえるのではないかというほどドキドキと大きく鳴るのを隠しながら、顔を真っ赤にしてシエルは叫ぶ。

「お…驚かさないでよ!」

「っんな!? ……失礼な奴だな。人が呼びかけてんのを無視してボケーッとしやがるくせして」

「あ…。ご…ごめん…なさい」

横目で見ながら「やれやれ」と肩をすくめる男の前で申し訳なさげに恐縮しながら、シエルは尚も胸を抑えている。
男は辺りの状況を見回してから、頭を軽くぽりぽりと掻き、話を切り出した。

「で…何がどうなってるんだ?」

「えっ?」

質問の意味がわからず顔に疑問符を浮かべる彼女に、男は「あのな」と呆れたように切り返す。

「『えっ?』…じゃないだろ。何がどうなってるんだ?こんな寂れた場所で、ガキが一人にレプリロイド…が数体。是非とも説明して頂けるとお兄さんは嬉しいのデスガ?」

最後の方はおどけたような口調にしているが、男の質問は実に的確である。

「そ…そうね…。ごめんなさい…ゼロ。ちょっと待って…。…いろいろあって慌てちゃって…。本当に…ちょっとだけ待って」

そう言ってシエルは自分の頬を軽くぺちんと叩く。何度か深呼吸して、胸を撫でるようにして落ち着かせる。
その間、男も、レプリロイドに必要なのかどうか分からない柔軟運動をしていた。端から見たら非常に滑稽な光景だったのだが、幸か不幸か、それを目にする第三者はこの部屋には今のところ存在しなかった。

最後にもう一度「ふう」と大きく息を吐き、シエルは男の方を向いた。とりあえずは、混乱していた頭を立て直すことができたようだ。

「えと、お待たせ。…それじゃ、まずは……」

「名前」

シエルの言葉を遮るように、人差し指を向けながら、率直に男が言う。

「まずは名前……それと身分かな」

「そうね」と男の要求を認め、シエルは自己紹介を始めた。

「私はシエル。ネオ・アルカディアの元科学者で、今はレジスタンス組織“白の団”のメンバーよ」

「ネオ…アルカディア…?」

聞き慣れない名前に男は思わず首を傾げる。すかさずシエルはフォローを入れる。

「分からないのも無理無いわ。あなたは百年以上、この研究施設で眠っていたんだから」

「…百年…」

少女が口にしたその数字に、男は僅かではあるが確かに驚きの色を見せた。
自分はそんなにも長く眠っていたのか。そう戸惑う彼に、シエルは「安心して」と微笑みかける。

「今の世界については、私がちゃんと説明するから。…それより次はあなたの番、でしょ?」

「あ…ああ、そうだな。相手に名乗らせておいて自分のは…ってぇのは良くないな」

そう言ってから、「さて」ともったいぶるように咳払いを一つする。それから徐ろに口を開き始める。

「俺は――――」

名乗りかけた瞬間だった。突然、男の様子がおかしくなった。
再び「俺は」と、今度は小声で繰り返し、そのまま口ごもる。だが、どれだけ待っても彼の口から自らを語る言葉は一行に出て来なかった。

「…俺…は…」

目を右往左往させる彼にシエルは「ゼロ?」と、彼の名前である筈の単語を口にする。
しかし、男の表情は決して理解しているように見えない。それどころか、その単語に眉をひそめている。

「そういや、さっきから言ってる…ゼロ…って…のは…」

男は一旦言葉を区切る。そして、またいくらか考え込んだ後、恐る恐る問い返した。



「…数…字…?」



それを聞いた瞬間、少女は言葉を失った。正直、彼が何を言っているのか、何を悩んでいるのか全く理解が出来なかった。
そうしてきょとんとする少女をよそに、男は頭を抱え悩み続ける。

「…俺は……」

次の瞬間、彼の口から飛び出た言葉に少女はそれまでの言動の全てを理解する。


「…俺は………“誰”だ?」



重い沈黙だけが、二人を包み込んだ。












 1st STAGE





       剣
















  ――――  1  ――――


シエルは愕然とした。

――――自分の名前を…知らない!?

思わず「嘘でしょ?」と疑いの言葉を漏らす。たった今彼は確かに、自分が“誰”なのかを、自身に向けて問いかけていた。それはシエルが全く予期していなかったトラブルである。
当然彼もまた、この事態に困惑していた。

「…俺の…名前…」

「…分からない…の?」

心配そうに問いかけると、男は黙って頷く。

「…分かることは? 分かることから整理していきましょう、少しずつ」

「あ…ああ…」

できるだけ優しく言葉をかけるシエルに、男はかすかに困惑の色を浮かべながら返事をする。しかし、二人の胸の内には、既にとある共通の不安が生まれていた。

「俺は…眠っていた。ここで」

「うん」

「そして…目覚めた」

「うん」

「んで………」

それからまた黙りこむ男に、シエルはオウム返しのように「『んで』?」と問いかける。
だが、しばらくして男の口を衝いて出たのは「分からない」の一言だけだった。おそらく、不安は的中してしまった。

「分からない。なにも…。自分が誰なのか…。ここが何なのか…。何がどうして、こんな所に眠っていたのかすら……」

「…まさか…記憶喪失……?」

彼の告白を聞き、シエルは思わず頭をよぎっていたその単語を口にしてしまう。途端に、男は「バカ言うな」と否定する。

「俺は……レプリロイドだぞ…」

それから眉間に皺を寄せ、頭をかきむしる。彼の胸の内を表すように、美しい金色の髪がぐしゃぐしゃに乱れた。

――――データが破損している?

そう、心の中で自ら問いかけた言葉に「違う」と首を振る。取り出せないだけだ。そこに“在る”のは分かる。
しかし、いくら検索をかけても、まるで靄がかかったように情報が引き出せない。

――――なぜだ?

己の身に降りかかったトラブルの原因を様々なパターンから考えてはみるものの、答えが見つからない。
「何故だ」と二度、三度と声に出してみるが、それに対する答えは一向に聞こえてこない。



  何がいったいどうなってるんだ?


  何がどうしていったい…?


  何がどうしてどうなった!?


  何が起こっている??????



考えれば考えるほど、深みにはまってゆく。
彼の頭をぐるぐると、同じような問いが駆け巡り、その言葉だけが埋め尽くしていく――――……


「ストップ!」


不意に突き刺すようなシエルの声が、暴走気味な男の思考を止めた。
しかし、無理やり割って入ってきた少女の声を、彼はとても不快に感じたらしく「なんだよ、小娘」と睨み返した。「思考の邪魔をするな」とその瞳で訴えかける。
だが、シエルにはそれを気にする様子が少しも無い。それどころか、真っ直ぐ、優しい大きな瞳で見つめていた。

「記憶…喪失なのね?」

心配と不安の入り混じった声で彼女は再度確かめる。
「記憶喪失」という単語に若干の引っかかりを覚え、彼は他に適切な言葉を探したのだが、ついには見つからず、観念してその言葉を受け入れた。

「……認めたくないが」

「そう…」

さて、どうしたものか。そう再び考え始めた矢先、シエルは突然、首を強く横に振り出す。

「ううん。…迷っている暇はないわ」

自分に言い聞かせるようにそう呟く。確かに、彼女には迷っている暇などない。今にもこの場所にネオ・アルカディアの増援が現れてもおかしくはないのだ。
シエルは男の目を見て、強く訴えかける。

「お願い、話を聞いて。大事な話なの」

少女の真剣な表情と焦りの混じった声に気圧される。
だがそれでも、己が何者なのか思い出せないというのに大事な話も何もあったものではない。

「おいおい…。他人にかまってられる状況じゃ…」

「あなたのことは私が教えてあげる」

突然の提案に、思わず「は?」と声が漏れる。一瞬、思考が止まった。
しかし、そんな男を無視して、少女は話を続けようとする。

「あなたは百年前の英雄……‥‥」

「ちょっ…待てって! 『私が教えてあげる』って……意味が…」

「いいから聞いて!!」

少女の小さな体からは考えられないほどの大声が、部屋中に響く。
普段では考えられないような自らの様子に、シエルは「あ」と声を漏らす。それから「ごめんなさい。急いでるの」と男に謝った。
焦りと苛立ちをなんとか取り繕おうとする、その様子から、事態が思うよりも深刻らしいということを男は感じ取った。
男は再び頭をくしゃくしゃと掻き、「仕方ない」と一言つぶやく。

「どうどう考え続けても何か変わるわけじゃなし。その“大事な話”ってヤツを聞いてやろうじゃないか」

男の了解を聞き、シエルは素直に感謝する。

「ありがとう、ゼロ」

「また『ゼロ』か。なんのおまじないだ?」

彼にとって、それはただの数字を差す単語に過ぎず、先程から繰り返されるその言葉に、またも首を傾げてしまう。
するとシエルは、「いいえ」と首を横に振る。

「まじないなんかじゃないわ。もちろん、数字でもない。……これは名前」

「名前?」

そう問い返す彼に、シエルは「ええ、そうよ」ときっぱりと返事をした。少女の顔は真剣そのものだった。
そして、声のトーンを落とし、強く言い聞かせるように、一つの事実を告げる。


「『ゼロ』――――それがあなたの名前よ」












  ―――― * * * ――――




時に21XX年――――。
レプリロイドと呼ばれる擬似生命体が生み出されてから、数十年という時間が経過していた。
発展した都市は快適な生活を提供し、情報は光の速さで世界中を飛び交い、張り巡らされた交通網はいかなる場所への移動も可能にし、高度に洗練された医療は生涯の健康を約束し、最新の技術は人々の持つあらゆる要望を実現していた。
そんな世界の中で人間とレプリロイドは共に支えあい、平和に暮らしていた。何もかもが満たされ、安らかな日々が人々を包んでいた。

しかしそんな平穏も、崩れてしまう時はなんとも呆気ないモノである。

ある一人のイレギュラーによるテロ事件が全ての幕開けだった。一部のレプリロイド達が、人類への反抗心から結束し、各地で大規模なテロ活動を行ったのだ。
その事件は、レプリロイドによる警察組織――――「イレギュラーハンター」の尽力により、数カ月程度で終息した。だが、そこから人類とレプリロイドとの間に生まれた亀裂はまた新たな争いを生み出してしまう。

今度はレプリロイドによる軍隊「レプリフォース」の反乱を皮切りに、レプリロイドによる人類への全面的な報復劇が始まった。人類は国連軍と、残ったイレギュラーハンター達を用いて対応。世界は戦乱の渦に巻き込まれてしまう。

両陣営の争いは宇宙空間に浮かぶスペースコロニー落下事件まで引き起こし、その結果、世界中は大混乱に陥り、それまで築き上げてきた豊かな文明は脆くも崩れ去ってしまった。
戦争終結後、残った人類は荒廃した地球の上で、互いに結束し、最終国家「ネオ・アルカディア」を設立。そこで新たな生活をスタートさせた。「レプリフォース戦役」から始まる一連の戦争は「イレギュラー戦争」と呼ばれるようになり、記憶と記録の隅に一つの歴史として追いやられていった。

それらの戦乱の中、人類を救うべく命を賭して戦った伝説のレプリロイドこそ、ネオ・アルカディアを創立した「蒼の救世主」――――エックスである。

そして、彼の戦友として共にイレギュラー戦争を戦い抜いたもう一人の英雄――――「紅の破壊神」こそ、最強のレプリロイドと名高い「ゼロ」、その者である。








  ―――― * * * ――――



「――――それがあなた」

「ほう」

ひと通り語り終えたシエルに、そう告げられる。だが男は軽い返事をするだけで、ハッキリと理解したような様子も見せなければ、驚いたような様子もない。
不安に煽られ「分かった?」と再度尋ねてみるが、「まあ一応」という男の曖昧な返事に、シエルは渋い顔をする。

「『一応』…って…。分かってないなら『ない』って言ってくれていいのよ」

「いや、だいたいは理解した。つまり俺は戦争を終わらせた救世主のお友達で、人間様方が崇め奉る伝説の英雄の一人、『ゼロ』――――ってことだろ?」

「……ええ、そういうことに…なるわね」

ひどくまとめ過ぎてはいるが、間違ってはいない。……たぶん。

「それで?」

次の瞬間、シエルは「はっ」と息をのんだ。
先程まで半分ふざけていたような目の前の男は、探るような鋭い目で、彼女を見つめていた。

「……その“英雄のゼロ”様に、お前は何をしてほしいワケ?」

少し口端を嘲笑うように歪めながら、けれど突き刺すような眼差しで見つめている。
そして、彼はまた問いかける――――




「…俺を目覚めさせて、どうしようっていうんだ…?」




  その英雄の力を利用して、お前は何を企む?



思わずシエルはゴクリと唾を飲み、その圧倒的な威圧感に負けまいと、心を引き締める。
そして、彼の抉るような問いに、身長に言葉を選びながら答える。

「……私たちに…協力してほしいの」

「…協力?」

「さっき言ったでしょう…。私はネオ・アルカディアに反抗するレジスタンス組織[白の団]の一員だ――――って…」

少女の言葉に「ああ」と理解した後、男は再び嘲るような目で見つめる。

「俺様にテロリストの一味に加われと?」

明らかな嫌味を含んだその問いに、シエルは臆す事無く、きっぱりと答える。

「ええ、そうよ」

確かに自分たちのやっていることは明らかなテロ活動である。それが分からないほど子供ではない。
無駄な犠牲を出したくないと願っても、きっとそう簡単にはいかないだろうし、そんな自分たちの戦いを絶対的に正しいと肯定できるワケでもない。
けれどネオ・アルカディアのやり方を許すことは、なによりできない相談である。

「ネオ・アルカディアは今、レプリロイドにとって地獄なの」

「人類保護法」「レプリロイド審査法」の制定により、レプリロイドは奴隷同然の扱いを受けている。
また、救世主エックスと人類、それらに従う一部のレプリロイドたちにより、一般のレプリロイドたちは「イレギュラー化の危険有り」という名目で迫害され続けている。

「私はそれが許せなかった」

だからこそエルピスと共に「白の団」を立ち上げ、ネオ・アルカディアと袂を分かつ決意をしたのだ。
自分を支えてくれたもの、自分を慕ってくれたもの――――あらゆるものを振り切ってまで。

「ネオ・アルカディアの現体制を変えたいの」

決してレプリロイドを奴隷のように扱うことのない世界に。レプリロイドが人間のパートナーとして再び認められるように。
人間とレプリロイドが共に支え合い、暮らしていた、かつての楽園を取り戻したい。
どれだけの血が流れようと。どれだけの傷みを受けようとも。

「――――そのためには……」

戦わなければならない。
全てを束ねている巨大な力と。荒廃しきった中、唯一残ったこの世界の常識と。そして何より、幾度もの窮地において世界を救ってきた人類の救世主と。

そのための力が――――……‥‥



「……『ゼロ』の力が――――救世主エックスと戦えるだけの力を持つ、あなたの力が必要なの」




そう言い放つシエルの体は、ほんの少しだけ苦しそうに強張ったのだが、そのことに目の前の男が気付いたかどうかは分からない。














  ――――  2  ――――



突然過ぎて、何が起きたのか全く分からなかった。
男が何か叫んだ次の瞬間、ガラガラと大きな音とともに壁が崩れ去り、彼女はいつの間にか宙に浮いていたのだ。――――分厚い装甲で包まれた、冷たくも重々しい巨人の指。それに体を絞められ、今にも砕けそうな少女の華奢な体。
部屋中に響き渡る、別の男の声。

「そこまでだ、イレギュラー!」

金髪の男にエネルギー銃を向ける三人のレプリロイド。――――その横にはゴーレムがシエルを握り、構えている。

「……派手にやってくれたものだ」

真ん中に立つ、リーダーらしき一人が部屋を見渡す。
男が破壊したパンテオン達の残骸が無残にも転がり、夥しい量の疑似血液がそこら中に飛び散っている。

「なんだテメェら……」

明らかな敵意をむき出しにし、男は睨みつける。
それに答えるように、真ん中の一人――――遺跡警備隊隊長、リーグは睨み返す。

「『なんだ』とはなんだ? それはこちらのセリフだ、イレギュラー。名乗れ! 貴様はいったい何者だ!? われわれ冥海軍団の持ち場で何をしてくれている!?」

「冥海軍団……?」

聞きなれない名前に、男は眉をひそめる。
おそらくは、リーグと名乗るこの男の所属だろう。となれば、先ほど少女が説明してくれたネオ・アルカディアの一部隊に違いない。
状況を考察している男を他所に、ゴーレムはシエルを下ろし、横にいたリーグの部下――――ナイロに引き渡す。

「…ゼロ……」

「お静かに、Dr.シエル。あなたの運命は今、我々の手にある」

「小娘をどうするつもりだ!?」

問いただす男に「動くな」と一喝して、リーグはエネルギー銃の引き金に指をかける。

「安心しろ。彼女は我々の大事な“手柄”だ。悪いようには扱わんよ」

そう言って「ふん」と鼻で嘲笑う。

「――――まあ、ここで死ぬ貴様には関係ないがな!」

その言葉とともに、ゴーレムの腕が勢いよく射出される。

「ゼロ!避けて!」と叫ぶ少女の声を聞くまでもなく、男は倒れこむようにして拳を避ける。
間一髪。その言葉通り。流れる金髪をギリギリかすめ、拳は破壊力を物語るようなひどい轟音とともに地面に突き刺さる。

「…なん…つぅ…」

床にできた大きなヒビと、巻き起こる風の強さから、その威力は容易に想像できた。当たっていたら――――などと考えたくもない。

「いきなりやってくれるじゃないの……。俺の話には聞く耳持たないってか?」

「ほう、どんな話がある?」

男の言葉に少しばかり興味を惹かれたらしく、リーグは問い返す。
すると、シエルは肩をつかむナイロの手を振りほどき、「彼は記憶喪失なの!」と声を張り上げた。

「な………おい!」

突然割り込んできたシエルの声を、男は遮る。敵にこちらの情報をわざわざ知らせる必要はない。それにより形勢がどのように傾くか分からないのだ。
だが焦る男を無視し、リーグはシエルの言葉に、更に興味深げに耳を傾ける。

「記憶喪失…?」

「そ…そうよ! 彼は自分が誰かも分からないの! だから…彼は…彼はイレギュラーじゃない!」

そう訴えかけるシエル。リーグは「ふむ」と再び考えるようにし、それからあたりを見回す。
目につくのは勿論、破壊されたパンテオン達の残骸ばかりだ。

「しかし…我々のパンテオンは……‥‥」

「私を助けようとしてくれたの! それだけよ! 意味も分からず戦ったの! あなたたちに反抗しようとしたワケでは無いわ!」

そう。記憶喪失の男は、ただ幼気な少女を助けるために戦ったのだ。なにも非難されるようなことはしていない。
シエルは男の無実を伝えようと、必死になって弁明した。
しかし当然ながら、リーグにはその弁明をただ素直に聞き入れるということができなかった。
この目の前にいる男が関係ないと言うのならば――――


「――――それならば、Dr.シエル。あなた方はいったい何のためにこのような場所まで、命を賭して足を踏み入れたのでしょう?」

「それは……!」

言い返そうとして、口ごもる。
核心をつくリーグの問いに、正直なところ返す言葉が見当たらない。どう説明しようと、不利になることしか考えられない。
リーグは険しい表情でシエルを追い詰める。

「隠そうとも無駄だ、Dr.シエル。この男の戦闘能力を、既に我々はこの目で見ている」

その目で確認し、全てを理解した。自分たちが守らされてきたモノ。
ネオ・アルカディアが隠し続けてきた“パンドラの箱”――――その中身。

そして、それがネオ・アルカディアの脅威となりうるものだと、彼は確信していた。

「――――それをみすみす逃してなるものか!!」

「ゴーレム!」とリーグが呼ぶと同時に、巨人が誇るもう片方の剛腕が、男めがけて撃ち出される。

「…っそぉ!」

男はまたしても寸前でかわし切る。僅かにかすめた脚部のアーマーから火花が散る。
ゴーレムが男に応戦している内にと、リーグはシエルを連れ、その場を離れようとナイロに促す。

「いや! 離して!!」

シエルが必死に抵抗しようとも、腕を引いているのはレプリロイド。力では勝てるハズもない。
その光景を目の端に捉え、男は少女を救おうと駆け出そうとした。――――その瞬間。

「…っ!」

ゴーレムの頭部から発せられた光が道を遮る。床から壁までを焼き切るように、激しい閃光が一気に走り抜ける。

「まず…っ!」

男が気づいて、声を発して時には、既に遅かった。レーザーが切り崩した壁の瓦礫がガラガラと大きな音を立て崩れ落ちてゆく。
その状況を目の当たりにしたシエルは、彼の名を叫んだ。しかし響き渡る少女の悲痛な叫びとともに、そこにいたはずの男の姿は、あっという間にかき消されてしまった。

「……いや…ゼロ…」

呆気ない幕切れに、シエルは言葉を見つけられずにいた。
その姿を鼻で笑いながらリーグは冷淡に言い放つ。

「当然の結果でしょう、Dr.シエル。たかがレプリロイド一人。我らがゴーレムに敵うはずもない」

そう、当然の結果だ。どこの誰が見ようと変わりようのない状況だったというのに、この少女は何を期待していたと言うのか。
たった一人のレプリロイドに、どんな希望を見出していたと言うのか。――――まあ、今となってはそんなことはどうでもいい。

「さあ、Dr.シエル。これであなたも諦めが付くでしょう。早くネオ・アルカディアへ参りましょう」

そう言ってリーグが差し伸べた手を、シエルは「イヤ」と声を上げ、払い退けた。

「…そんなハズない…! ゼロが…“伝説の英雄”がそんな簡単に負けるハズないでしょ!」

「何をバカな……。事実、ヤツはあの“ザマ”だ!」

リーグが瓦礫の山を示す。もちろん、シエルにも分かっていた。あれだけの攻撃を受けて無事でいられるものなどいるわけがない。
たとえ伝説のレプリロイドといえど、丸腰のレプリロイド一人がどうしてあのゴーレムに敵うというのか。しかし、それでも――――

「……諦められるワケない! 諦めるワケにはいかないの!!」

ここで諦めてしまえば仲間たちの、親友の死を全て無駄にしてしまうことになる。
それこそが彼女にとってもっとも受け入れ切れない現実だったのだ。だが、彼女の心にトドメを刺すように、リーグは声を荒げて問いただす。

「ならばあの瓦礫を掘り起こし、ヤツの屍をご覧に入れれば納得してくださるか!?」

思わず、シエルは絶句する。その様子を見るやいなや、リーグは追い討ちをかける様に、言葉を続ける。

「血まみれの頭部を差し出せば納得してくださると言うのか!? Dr.シエル!」

希望を棄てきれずにいるシエルに対し、リーグは怒りを顕に、冷酷な現実を突きつける。
リーグの痛烈な問いにシエルは言葉を返せずにいた。いや、言葉を発する気力すら完全に削がれてしまった。

「英雄は死んだのだ」と、はっきりと言われたのだ。

シエルの体から抵抗する力が失せてゆく。リーグが黙って彼女の手を引く。今度は払い退けられる事も無く易々と。
全て終わってしまったのだと、シエルは思った。
ここまで守りぬいてくれた仲間たちの命を無駄にし、命がけで英雄を目覚めさせてくれた親友の期待を裏切り、希望は呆気無く失われた。

絶望と後悔だけが、彼女の頭の中を埋め尽くしてゆく――――……‥‥






「…いか…s…な…い…」

突然、掠れたような声とともに、何かがリーグの足にしがみついてきた。

「何だ貴様!」

入り口の瓦礫の合間から、一人のレプリロイドの腕が飛び出てきたのだ。
その姿を捉え、驚きとともにシエルが彼の名を呼ぶ。

「ミラン!」

「…シエ…r…あ…k…らめ…ちゃ…d…メ…だ…」

パンテオン達に撃ち抜かれたボディからは疑似血液がどくどくと流れ出し、ところどころちぎれた人工皮膚からは人工筋肉や内部機関を司る機械部分が醜くむき出していた。
すでに機能が停止していてもおかしくない状態のハズだ。

「…かえ……るn…だ……き…み…は……k…なら…ず…」

――――みんなの元へ、帰らなくちゃいけないんだ。

すでに形を成していない唇から、ミランは想いを伝えようと言葉になりきらない音をつなげてゆく。

「この死にぞこないが!」

「やめて!」

シエルは咄嗟にリーグの手を振りほどき、エネルギー銃を瀕死のミランに向けるイーガを止めようとしがみつく。

「これ以上、彼を傷つけないで!」

「離してください、Dr.シエル!」

怒鳴りつけても、しつこくしがみついてくるシエル。イーガは「ええい、邪魔だ!」と無理やり突き飛ばした。
幼い少女の身体は容易に引き剥がされ、その場に倒れこんだ。

「シエ…ル………っ!?」

瞬間、三発の銃声が響く。
鈍い音と共に、シエルの息が詰まる。ミランの体から疑似血液が噴出し、宙を紅く染めた。

「無駄な手間をとらせてくれる……」

「…ミラ…ン……」

呼吸を取り戻すとともに、状況を認識したシエルはひたすら彼の名を叫び、駆け寄ろうとするが、ナイロがそれを許さない。

「放して! 放してよ!! ……ミラン! ミラン!!」

「落ち着いてください! Dr.シエル!」

「くそ! これだから子供は!!」

「いい! そのまま引きずって行け!!」

リーグの言葉通り、ナイロはシエルを無理やり引きずって行く。
このような乱暴な扱いをしたことが上に知れてしまえば、それなりの処罰は受けることになるだろう。だが、そんなことをいちいち気にしている余裕は無かった。

「……ミラン!?」

「な!?」

それでも尚、ミランは動いていたのだ。噴き出る擬似体液でドロドロの体を引きずり、立ち上がってきた。

「なんなんだコイツは!!」

「…い…k……せ…n…い………し…え…r…」

死体同然の彼の姿に、「もういいよ」とシエルは口に出してしまいたかった。これ以上傷つかないで欲しかった。苦しまないで欲しかった。
全ての希望が絶たれた今、彼の努力が報われる事など無いというのに。

それでも、それを口にすることができなかった。いや、口にしなかった。
涙をポロポロとこぼし、唇を噛み締め、彼の姿を目に焼き付ける。


――――神様、どうか神様……


どうか救って欲しい。死力を尽くして守ろうとしてくれる彼のためにも。
もはや頼るものがなくなってしまった彼女は、ただひたすら祈ることしかできなかった。――――しかし、それすらも叶わない。

「ガラクタはガラクタらしく眠っていろ!!」

すかさずリーグがミランに銃口を向け、引き金に指をかける。
結末を見ていたくなくて、現実を受け入れたくなくて、シエルは瞼を閉じた。










  ――――  3  ――――







――――なにが…どうなった…?

辺りは暗闇に包まれ、何も見えない。

――――たしか…緑の光が来て……

ゴーレムから放たれたレーザー光を思い出す。そして合点がいった。
ああ、そうか。そのまま崩れてきた瓦礫に埋められたのか。

――――ざまぁ無いな……‥‥

こんなこと、以前なら。――――そう考えた後で、ふと気づく。

――――……以前?

引き出せなかったはずの記憶のピースが頭によぎる。
脳裏に浮かんだのは、閃光を操り瓦礫を切り裂くイメージ。手にしているのは見紛う事無き――――……‥

――――…武器……

そう、武器。
確かにあった。持っていたハズだ。かつては。

――――…なら…どこに…?

かつてあったというなら、今はどこにある?
大切な力。戦うために必要な力。

――――…思い出せ……

状況を好転させる、たったひとつの可能性。

――――思い出せ。思い出せ!

このまま終わるわけには行かない。
己が誰なのかも忘れたまま、再び眠りに付くわけには行かない。ただひたすら己の中で念じ続ける。

――――思い出せ!思い出せ!思いだせ!………‥‥



‥‥……思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ!思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ思い出せ!









    思い出せ!!











――――…あるよ

(!?)


  焦りを諌めるように

  不意に声が響いた

  頭の中で


(この声は…?)


  闇の中、聞いた声

  どこか懐かしい

  優しい声


――――武器ならあるよ。

(どこに…?どこにある!?)


  クスクス


――――本当に分からないのかい?

(笑ってる場合じゃないだろう!)


  必要なんだ

  どうしても



焦る彼に、声は静かに問い返した。

――――…何のために?

(…っ?)

――――何のために、武器が必要なの?

(……闘う…ためだ…)


――――じゃあ…


    それなら君は



    何のために闘うの?





(………)


即座に答えられず、言葉に詰まった。

(何のために?)


  自分が死なないため?


(それもある)


  あの少女を助けるため?


(それもある)



(だが…)


そう、理由がある。
全ての理由の上に、さらに理由がある。



(それは……)


――――それは…?






(……正義)



  いや




(……信念)



  己の信念を貫くため


  いや


(そんなカッコいいもんじゃない…)


  許せない者を許さず


  護りたい物を護り


  救いたいモノを救う


(俺の……‥)

男は自嘲気味に、けれど満足そうに笑った。
百年の時が経過しても尚、闘い続ける理由。

それは――――


(“ワガママ”を通すため…さ)


単純で飾ることのない真実の理由。
それこそが、“力”を必要とする理由だ。





――――…あるよ。

(………)

――――君は持ってる。

(……?)

――――…もう武器を持ってる。

(…どこに…?)


  かすかに聞こえる笑い声

  優しい響き


  全てを包み込む温かい流れを感じる



――――君の武器は



    いつだって



    君自身の中にある







それきり、声は聞こえなくなった。全ては沈黙に包まれた。

思えば、一瞬だった。しかし、何十分も何時間も話していた――――そんな気がした。
目の前は相変わらずの暗闇。だが、おかげで漸く思い出すことができた。



――――俺の……武器

  俺の“ワガママ”を通すための唯一の力



  許せない者を許さず、護りたい物を護り、救いたいモノを救う“力”



暗闇の中で、彼は左腕を前に出す。


――――俺の武器……‥‥


  封印されて久しい、俺の刃


左腕の真紅のアーマーに溝が走る。そこから鮮烈な光が溢れ出る。


――――俺の行く手を阻む

    全ての敵を両断する

    俺の剣



アーマーが開くと、そこには白い柄が見えた。
男はそれを、強く握りしめる。

血が滾るのを感じる。鼓動が大きく、激しく鳴り響いてゆく。体中に力が、満ちてゆく。
そう、それは彼の――――



――――俺の…‥“誇り”



    俺の写し身






    俺、そのもの!









神話の英雄は、光の剣を引き抜いた。













  ―――― * * * ――――



瓦礫の合間から光が溢れだす。同時に、一筋の閃光が空間を駆け抜けた。
リーグは構えていたエネルギー銃の引き金を引くこと無く、その光の行先に目を奪われた。
そしてその瞬間、誰もがその光景を疑う。

「…ゴーレムが…!?」

刹那の間に、その巨体は真っ二つに割れ、光を放った。
リーグが「伏せろ!」と叫ぶと同時に、イーガとナイロは身を屈める。そして巻き起こる爆発。激しい爆風で破片が周囲に飛び散った。

「くっ…何が起こった…!?」

「隊長!!」

ナイロに呼ばれて振り返る。その場にいたはずのシエルが忽然とその姿を消していた。

「どこへ!?」

事態が理解できない。いったいここで何が起こっているのか。なにもかもが唐突過ぎて、思考が全く追いつかない。
光が溢れた。ゴーレムが破壊された。捕らえていたはずのDr.シエルは姿を消した。そして――――

「…ガ…ッ……!!」

短く、鈍い断末魔が響く。気づけばイーガの首が宙に舞っていた。
切断面から疑似血液が吹き出す。

「…な…んだと…!?」

そこで漸く、リーグは目の端に真相の鍵を捉えた。
空を裂く緑の閃光。流れる金髪。そして、少女を片手で抱える一人の男。
シエルを抱きかかえながら、彼は悠々とそこに立っていた。先ほど、瓦礫の下敷きになったはずの彼が――――である。

「貴様…!!」

「『死んだはずだ』ってか?」

男は「ハハハ」と高らかに嘲笑う。

「なあに。たかが“瓦礫に埋まっただけ”さ。なあ、小娘」

呆気にとられるリーグとナイロを無視して、男は抱えていた少女を優しくその場に降ろす。

「ゼ…ロ…」

シエルもまた目の前の状況が理解できないでいた。それもその筈だ。
つい先程まで、全て諦めていたのだ。何もかもが終焉を迎え、希望は絶たれ、少女の世界は暗黒に閉じられてしまったのだと、そういう現実を突きつけられていたのだ。
だが、彼は生きていた。文字通り“全て”を諦めていた少女の前に、颯爽と蘇ったのだ。
喜ぶより先に、容易には理解しきれない現実だった。そんなシエルの表情を見て、男は「なんだよ」と口端を下げる。

「お前さんも俺が死んだと思ってたのか」

そう言って不満気にため息を漏らす。
正直、弁解のしようもない。シエルは「だ…だって…」と口篭る。

「もっと信用してくれてもいいんじゃないか? そうだろ? だって俺様は伝説の英雄――――“ゼロ”なんだろ?」

彼はそう得意げに言うと、不敵な笑みを浮かべた。

「ば…化物がぁ!!」

エネルギー銃を向けるリーグ。だが、銃口を向けたその一瞬で、既に男はそこから姿を消していた。――――いや、消えたのではない。

「…ァ…」

ナイロの首も飛ぶ。男の速度は、彼らの知覚を容易に超えていた。
次に鮮緑の刃が中に弧を描いた時、それを目にした瞬間、リーグは全てを悟った。

――――ああ…そういうことか……


自分たちがこれまで守ってきた本当の対象。己の存在意義。そのすべてを理解した。



  全ては、この怪物から

  ネオ・アルカディアの秩序を

  ネオ・アルカディアの平和を

  守るため




ミュートスレプリロイドでも無い一介のレプリロイドである自分に、四天王はそんな大役を任せてくれていたのだ。


――――……しかし、本当に残念だ



  己の死の間際にそれを知るとは……‥‥



悔やみきれぬ虚しさの中、彼の首もまた、呆気無く宙を舞った。











  ――――  4  ――――







気がつくと、一番会いたかった人の顔が瞳に映った。

「…s…エ…ル…」

右手に優しい感触。気がつくと、一番大切な人の温もりがそこにあった。

「ありがとう…ミラン…」

最期まで、命を懸けて護ろうとしてくれた。感謝の言葉は尽きない。
だが、シエルの言葉に、首を小さく横に振るミラン。

「お…れい……は…い…r…ない…」

――――感謝したいのは、俺の方だよ…

自分の存在を認めてくれた。

何度も立ち上がる勇気をくれた。

一番会いたいときに会えた。




気がつくと、一番大好きな人の涙が頬に零れ落ちていた。




「…やく…そ…く…して……k…れ…」

とぎれとぎれの言葉。それでも、自分の想いを、願いを、なんとか伝えようと、ミランは最期の力を振り絞るように言葉を紡ぎだす。


「…つく…って…く…れ…――――」




  未来を

  見せてくれ

  誰もが笑顔で暮らせる優しい未来を


  人間とレプリロイドが手と手を取り合い暮らす

  温かい未来を


  連れて行ってくれ

  みんなを


  いつか誰かが夢に見たような

  いつか誰もが望んだような





  “懐かしい未来”へ



「…お…れ……は……ずっと……」


――――見守っているから


「…約束する…。約束するよ…ミラン」


絶対にみんなを連れて行く。どんな困難にぶつかろうと、もう二度と決して諦めやしない。
今日という日を胸に抱いて、大切な仲間たちの死に顔を心に突き刺して、進み続けることを誓おう。


「…………シエ…ル…」


残った僅かな力を振り絞り、最期に願う。


「……シエル…笑って…」



微笑むミランの瞳に、最期に映ったものは――――……‥





何よりも優しい笑顔だった。










ミランが事切れてから、しばらく、静寂が二人を包む。
僅かに聞こえてくるのは、鼻を啜る音、堪えようとも漏れだす小さな嗚咽。

「……小娘…」

「待って…ちょっとだけ」

男の呼びかけに、シエルは背を向けたまま返事をする。
涙を拭い、息を吸い、心を落ち着かせる。

「…大丈夫。大丈夫よ…」

そう言って、シエルは振り返った。
泣いた跡がはっきりと赤く残っているが、シエルは力強い眼差しで男を見つめる。

「ありがとう、ゼロ」

「……礼なんざいらないよ」

「ふっ」と笑って歩き出す。その背中を見つめるシエル。

「…本当に良いの?」

はじめは渋っていた男が、今は自然と協力する流れになっていることに、シエルは少し不安になった。
先程の戦闘より、遥かに厳しい戦いが待っているだろうことは容易に想像できる。彼のこれからを思うなら、断られてもおかしくはない。
だが、男は苦笑交じりに答える。

「“乗りかかった船”ってやつさ。どの道、この場所だって快適な寝床とは言えなくなったしな」

遺跡警備隊を敵に回した今、ネオ・アルカディアの増援が来てもおかしくはない。この場所での安眠はもう期待できないだろう。

「さ、行こうぜ。いつまでもぼっとつっ立ってるワケにはいかないだろ」

そうだ。少女は先へ進まなければならない。大事な願いを託されたのだから。それを理解しているからこそ、彼もまた、覚悟を決めたのだ。
そうした一切を悟り、シエルは「うん」と頷き返し、彼の後ろについて歩き出す。

「ちゃんとベッドは用意してくれるんだろうな?」

「もちろん。……快適とまでは言えないかもだけど」

苦笑いを含みながら冗談めかして答える。彼もまた軽く微笑んだ。

そんな何気ないやりとりの後、ふと男が立ち止まる。
そして振り向くことのないまま、口を開く。それまでとは打って変わって真剣に。

「…もしも……」

一旦そこで言葉を切る。慎重に考え、それからまた続ける。

「もしも俺が…お前の言う“ゼロ”ってのじゃなかったら……どうする?」

突然の問い。場に緊張した空気が流れる。
シエルは黙り込んだまま、男の背中をじっと見つめ、それからほんの少しだけ目を閉じる。
そして、数秒も経たないうちに答えを見つける。

「そんなの、決まってるじゃない」

予想外の軽さに、男は驚きながら振り返る。
しかし、朗らかにそう言う少女の、真っ直ぐ向けた瞳に、迷いの色はどこにも無い。


「あなたが何者であろうと、私にとって、あなたはもう“ゼロ”なの」


そうだ、問われるまでもない。
彼の言う通り、真実など分かりはしない。だが、先程の彼はどうだ。
確かにその戦闘力の高さも証明のうちに入るかもしれない。だがそれ以上に、己の生命を危機に晒されながらも、シエルを救うために剣を振るい戦ってくれた、そんな彼の姿こそ、その答えに他ならない。だから、彼を信じる少女の心には一点の曇りもない。

「――――だから、あなたは“ゼロ”よ」

屈託なく笑って答えるシエルに、男は呆気にとられた。
やがて、おかしそうに「フフ」と笑った。


「……後悔すんなよ」

「しないわ、絶対に」





少女の揺るぎない言葉を聞き、ニヤリと笑って――――「ゼロ」は答えた。







「させないけどな」

















  ―――― * * * ――――





  管制室にはもはや誰もいない。

  先程まで動いていたはずの者たちは、物言わぬガラクタと化していた。

  部屋中に散らばる疑似血液。漂う特有の匂い(死臭と呼んで良いのだろうか)。



  そこにはもはや“誰もいない”。



  そして、静寂に満ちた廊下を黒い影が通る。





  そう、終わりでは決して無い。

  歯車は今、回り始めた。




  ゲームは始まったばかりだ。


















 NEXT STAGE








     星に願いを 夜空に問いを

















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