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No.34283の一覧
[0] [Z-E-R-O] (原作:ロックマンゼロ、ロックマンX)[村岡凡斎](2013/09/18 15:00)
[1] はじめに[村岡凡斎](2012/07/18 16:08)
[2] Prologue[村岡凡斎](2012/07/18 16:24)
[3] Waffle for Chapter[村岡凡斎](2012/11/07 01:25)
[4] OPENING STAGE 「涙の少女と寝起きのマルス」[村岡凡斎](2012/10/29 15:54)
[5] 1st STAGE 「剣」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[6] 2nd STAGE 「星に願いを 夜空に問いを」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[7] 3rd STAGE 「包囲戦線」[村岡凡斎](2013/11/25 19:59)
[8] 4th STAGE 「亡霊の影」[村岡凡斎](2012/10/29 15:59)
[9] 5th STAGE 「死屍軍団」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[10] 6th STAGE 「キズダラケ」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[11] 7th STAGE 「渇望/葛藤」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[12] 8th STAGE 「未来」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[13] 9th STAGE 「理想郷の詩」[村岡凡斎](2012/10/29 16:02)
[14] COMMENTARY 1[村岡凡斎](2012/09/18 18:22)
[15] 10th STAGE 「紅いイレギュラー」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[16] 11th STAGE 「救い」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[17] 12th STAGE 「ウラギリ」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[18] 13th STAGE 「闘将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:27)
[19] 14th STAGE 「証明」[村岡凡斎](2012/10/30 23:28)
[20] 15th STAGE 「レスキューコール」[村岡凡斎](2012/10/30 23:29)
[21] 16th STAGE 「世界を覆う白雪の上で」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[22] 17th STAGE 「理想の表裏」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[23] 18th STAGE 「color of mine/d」[村岡凡斎](2012/10/30 23:31)
[24] 19th STAGE 「妖将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:32)
[25] 20th STAGE 「届かぬ想い、その結末。」[村岡凡斎](2012/10/30 23:33)
[26] 21st STAGE 「デンジャラス・デイ」[村岡凡斎](2013/05/07 21:37)
[27] COMMENTARY 2[村岡凡斎](2012/10/30 23:37)
[52] 22nd STAGE 「レプリロイドは ぜんまいねずみの夢を見るか?」[村岡凡斎](2012/11/07 01:09)
[53] 23rd STAGE 「殺戮舞台」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[54] 24th STAGE 「罪 と 罰」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[55] 25th STAGE 「Raging River」[村岡凡斎](2013/11/19 00:54)
[56] 26th STAGE 「ABSOLUTE - JUSTICE」[村岡凡斎](2012/12/17 00:06)
[57] 27th STAGE 「隠将」[村岡凡斎](2013/01/28 22:27)
[58] 28th STAGE 「再会」[村岡凡斎](2013/05/07 21:39)
[59] 29th STAGE 「暗躍の調」[村岡凡斎](2013/05/25 23:30)
[60] 30th STAGE 「死者の国」[村岡凡斎](2013/06/23 01:04)
[61] 31st STAGE 「乱戦四重奏」[村岡凡斎](2013/08/03 00:49)
[62] 32nd STAGE 「Red, White and Bullet Blues」[村岡凡斎](2013/09/18 14:58)
[63] 33rd STAGE 「    」[村岡凡斎](2013/09/28 16:02)
[64] 34th STAGE 「月と影、そして太陽」[村岡凡斎](2013/10/06 09:36)
[65] 35th STAGE 「残光の行方」[村岡凡斎](2013/11/02 15:37)
[66] 36th STAGE 「救世主」(前)[村岡凡斎](2013/12/24 14:36)
[67]          「救世主」(後)[村岡凡斎](2013/12/25 11:54)
[68] FINAL STAGE 「Message from...」[村岡凡斎](2014/01/25 17:09)
[69] LAST COMMENTARY[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
[70] おわりに[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
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[34283] 21st STAGE 「デンジャラス・デイ」
Name: 村岡凡斎◆45ff140f ID:697d6d9c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/07 21:37













※WARNING※

この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などにはいっさいがっさい関係ありません。
また、架空の人物、団体、事件などについても、直接つながりがあるかどうかは保証いたしません。

よいこのみんなの自己判断でお願い致します。

















  ―――― * * * ――――


握りしめたハンドガンは冷たく、軽い。指を掛けたトリガーの、なんと小さく安っぽいモノか。

たった一度これを引くだけで、得物の先端に空いた丸い穴から、必殺のエネルギー弾が放たれる。そうすれば、力尽くで抑えつけたこの頭部は、どす黒い疑似体液まみれの屑鉄に姿を変える。
“それ”も自分の仕事……では別にないのだが、やるべきだと思っていながら、安易にその道をとることができない。
躊躇っているワケではない。まして、悩んでいるワケでもない。

――――…ただ…虚しい…

同じレプリロイドとして生まれてきたハズなのに、何故こうも殺し合わなければならないのか…。

――――…答えは簡単だ…

「同じ」ではないからだ。この男と、自分とに限らず、この世界に生きるレプリロイド達は一人として「同じ」ではない。
特に、自分のような「華麗で優秀なイレギュラーハンター」と、この男のような「凡庸なイレギュラーハンター」達とでは、その立場から何まで大いに異なる。

――――ならばどうする?

そう自分に問いかける。もう何度その問いかけをしてきただろうか。しかし“見つけたかった答え”は何処にもありはしないのだと、今度もまた割り切ってしまう。

「考えるまでもないな…」

その呟きはおそらく、彼の下で喚きちらしている男には微塵も聞こえていなかっただろう。











「……あの副隊ちょー…カッコつけてないでその銃をどけてくれませんか……?」


「“その呟きはおそらく、彼の下で喚きちらしている男には微塵も聞こえていなかっただろう”!」

「あの……思いっきり口に出してるとこ悪いんですが……自分、別に喚いてもいないし…そもそも凡庸でもないんで……――――……ぇでででっ!!」

「 え え い !  勝 手 に 人 の モ ノ ロ ー グ に 口 を 挟 む で な い ! 」

そう言うとシューターは殊更強くドローの頬にハンドガンの銃口を突きつけた。「あがががが」と言葉にならない奇声を発してドローは抗議するが、怒り心頭のシューターの耳に届いている様子はない。

「俺は哀しいぞ! ドロー隊員! 貴様のような男がいるおかげで俺はまたしてもあのクラフト野郎に釘を差される羽目になってしまった! 分かるか! この屈辱が! 分かるか! この虚しさがぁ!!」

「副隊長! 落ち着いてください! ドローの奴も悪気はなかったんすよ!」

「そうです副隊長! 今こいつは猛烈に反省しているところです! 猛省です! どこぞの賭博師もびっくりです! 故にここはどうかお見逃しを!!」

「シャラップ!! アーチ、ボウ! お前らも俺の邪魔をするというのならドローのように“銃口グリグリ”の刑だ!! 間違って俺が引き金を引いてしまうかもしれないという恐怖に揉まれながらほっぺたの肉の悲鳴を存分に聞くがいい!!」

「うくらいちょー(副隊ちょー)、おっえらのりうあいえいあんああえあえんっれ(ほっぺたの肉は悲鳴なんかあげませんって)」

「なんて言ってるのかはぜーんぜん分からんが、尚も反省する気 Z-E-R-O ということだけはよぉく分かった! 謹んでこの引き金引いてくれよう!!」

「副隊長! それだけはダメっす!」

「俺たちに免じてコイツの命はどうかお助けを!!」

アーチとボウはシューターを取り押さえにかかるが「ええい! 離せ離せ!」と喚きジタバタと抵抗されてしまう。
しかし、なんとか頬からハンドガンが離れたのを見計らい、ドローはよじよじと押さえつけるシューターの下から這い出ようとしていた。

「ええい! 逃すものかよ!」「お待ちを! 副隊長! お待ちをぉ!」「ストップ! ストーップ!!」「よっこらせ…よっこらせ…」

ドタバタと騒ぎ立てる面々。このいつも通り見苦しい騒動は、残念ながら暫く続くことだろう。






――――だが

真に華麗なハンターという者は、常に己の任務を自覚し、神経を鋭敏に張り巡らせ、あらゆる状況においてもその使命を達成する為に行動をする。

「そう……この私…コード隊員のように……」

状況を整理しよう。
現在、我々イレギュラーハンター第十七精鋭部隊“特殊班”は紅いイレギュラー追跡任務のため、奴の行動を分析し、活動していた。
あらゆるイレギュラーの集落を張り込み、時にはイレギュラーを尾行し、レジスタンス組織の拠点に侵入しては紅いイレギュラーを捜索し続けている。

先日はと言うと、紅いイレギュラーを見たという老レプリロイドの言葉を信じ、とある集落へと出向いたところ、とある“オレっ娘少女”に出会した。
十七部隊の保護を受けているという主張をされたが、我が愚かなる副隊長シューター様々は確認を取ること無く「そんなものはデマだ」と決めつけた。
それに対し、抵抗する“オレっ娘少女”。彼女の言動をうるさく感じたシューター様はドロー隊員に少女の身柄拘束を命じる。嫌々ながらもドロー隊員が少女を取り押さえたところで、通信機が不吉な呼び出し音を鳴らした。
だが、普段通りぐだぐだと不満を口にするドロー隊員と口論を続けるシューターは、それを知らせる私の声に耳を傾けず、十数分が経過。ようやく私の声に気づいたシューター野郎が通信機を手にとった時、既に事態は遅かった。
クラフト隊長の腰巾着その三、シメオンが部下とともに駆けつけ、我々特殊班を逆に拘束するという珍事に発展してしまった。
おかげで私も含め、皆一同にクラフト隊長のお叱りを受けるというハメに。っていうか、ドローに命じたのもお前だろ。赦すまじ、シューターのろくでなし野郎め。

しかし、そんな不幸もなんのその。私はめげることなく任務を続けている。
このクズ野郎シューターへの忍耐の日々も、いずれ本国に帰還した時、その功績を元老院議長様方と救世主さまに認めてもらい、華のエリートコースへと進むためだ。
そして先程、レジスタンスに所属していると思われるとあるレプリロイド十数人ほど(おそらく班を組んで行動していたのだろう)を尾行し、隠しゲートを通って地下へと帰って行く様を目にした。

私は聞き逃さなかった。彼奴らはその口からシューターの次くらいに忌々しいあの名前を口にしたのだ。
そう――――「ゼロさん」と。あの紅いイレギュラーの名称を…だ。

間違いなく彼奴らはあの紅いイレギュラーの仲間に違いない。

これぞ千載一遇のチャンス! 棚から牡丹餅!

故に私は先程からシューターへと呼びかけ続けている。

「……あのー…副隊長…」

もう何度言ったかわからない屈辱的なフレーズ。しかし、奴はそれに気づく気配すら見せない。今もまだ他の三人の部下とともにふざけあっている。

「あの……ですね……」

決して私がモゴモゴ話しているとかそんなんじゃない。騒いでいる奴らが悪いのだ。そうだ、うん。絶対そうなんだ。
心の広い私はこれから、いつも通り十数分程呼びかけ続けることになるだろうが、全然それでも気にしない。この愚か者もいずれは気づくはずだ。
心の広い私は待ち続けてやるのだ。うん。寂しくなんか全然ないもん。


「あのー…副隊長…」




そして実際に私の声にシューター副隊長が気づき、いつも通り「なんだ!? ハッキリハキハキ話せ!」と偉そうに宣ったのは十三分後のことだった。

























 21st STAGE











       デンジャラス・デイ




























  ――――  1  ――――


「ふぃー……っと。ようやくコイツで終わりかね」

そう言ってドワは汗を拭うようにわざとらしく額を右手の甲で擦り、そう零した。先日の作戦で使用されたライドチェイサーとライドアーマーをひと通りチェックし終えたところだ。

「コッチは終わったぜ、班長。どれも異常なしだ」

後ろから部下のジョナスが溌剌とした声で報告する。

「流石だなジョナス。お前さんの手早さにはワシも感服するよ」

「照れるぜ、班長。まあ、“上司”の指導が良かったからかな」

「そいつは否定せんがな」

誇らしげに言いながら「ガハハ」と笑う。そうしている間も、彼の手は作業をスムーズに進めていた。
その様子を見ながら、ジョナスもまたドワの手際に思わず唸り声を上げそうになった。無駄口を叩きながらもテキパキと、丁寧に仕事を進めるだけの力は自分にはまだない。
ジョナスの雰囲気が伝わったのか、ドワは微笑みながら「まあ、場数が違うわ」と言葉をかける。そんな芸当に、ジョナスはさらに力の差を感じてしまうのだが。

「そういや、班長。今日は局長の用事の方はいいのかい?」

「おお。セルヴォの方はな、もうワシの役目は済んだ。あとはあ奴が一人でやるとさ」

ここ数日、セルヴォはドワも含めた白の団の技術者連中数人と共に何やら怪しげな活動を行なっていた。ジョナスだけでなく、他の一般団員たちにも「今はまだ見せられない」とだけ言い残し、セルヴォはとあるハンガー内に篭ったまま暫く姿を見せていなかった。
エルピスが「まあ、彼のことです、問題はないでしょう」と言葉をかけるも、シエルが誰よりも心配そうに表情を曇らせているのには、誰もが気にせざるを得なかった。

「いったいぜんたい、何をしてやろうってんだい、局長は」

「そいつは見てのお楽しみじゃ」

そう言ったところで、通信を知らせるアラーム音がドワの耳元で鳴り始める。
「噂をすれば…というやつじゃな」と、言ったことでジョナスにもその相手がセルヴォであることが分かった。
一言二言交わし、僅かに驚きと歓びに身を弾ませたかと思うと、そのままジョナスの方へと振り返る。

「せっかくじゃ。お前さんも来い」

整備を終えたライドチェイサーを軽く一叩きすると、そう言って促し、歩き始めた。ジョナスは好奇心の赴くままに、ドワの後ろについていった。












基地の中心部から一キロと少し、旧式のジープを走らせると、セルヴォが作業をしていた七番ハンガーに辿り着いた。
そこには既に、作戦を終えて帰ってきたマークチームが物見遊山に立ち寄っていた。
ジープから降りて半開きになっていたシャッターを屈むようにしてくぐると、ジョナスの目に、とんでもない物が飛び込んできた。

ゴーレムの頭部に、腕。他にもネオ・アルカディアのメカニロイドに装備されていた様々な武器が至る所に装着されたライドアーマーがそこに仁王立ちしていた。
気づけばセルヴォが柄にもない高笑いを上げている。


「フフフフフ……フハハハハハハハハハハハ――――! 遂に! 遂に完成したぞ! 見てくれ、ドワ! これぞ私の技術の粋を集めて完成された決戦兵器! 名付けて“メガ・ブランシュ”!!」


そのゴテゴテとした奇抜なデザインに茫然とするマークやジョナス達を尻目に、ドワとセルヴォが達成感のままにハイタッチを交わしている。

「思えばここまでの道のりは決して楽なものではなかった! 一ヶ月ほど前から、ゼロが薙ぎ倒してくれた敵メカニロイド達のパーツを、団員たちにせっせと運び込んでもらい! 挫折とひらめきを繰り返してはパーツを繋ぎあわせ! 幾度の実験を重ねようやくここまで辿り着いたのだ!」

ついこの前依頼された作業を思い出し、「あの指示はこれのためだったのか…」とトムスが零す。「いったいなにかと思ったよな」とコルボーも呆気にとられながら言葉を返す。
ランナーズ・ハイならぬ“メカニック・ハイ”状態のセルヴォは、そのままサイバーエルフシステムにアクセスし、デルクルに指示を出す。

「さあ! 今こそ起動のときだ! 頼むぞデルクル!」

「ハイサー!おまかせを!!」

セルヴォが叫びながら起動スイッチをオンにすると、同様にどこかおかしなテンションのまま、デルクルはメガ・ブランシュのメインコンピュータ内に飛び込む。
そして、数秒の沈黙の後、プシューッと豪快に排気を吹き出すと共に、メガ・ブランシュは右腕を振り上げた。

「きたー! 来ましたよ、セルヴォさん! リンクシステムはバッチリです!」

「キターーーーーーーーーーー!! 計画は完璧だ! パーフェクツ!! 今日は祝杯だーーーーー!!」

「よくやった! よくやったぞセルヴォ! 今日はワシがいくらでも酒を振る舞ってやろう!!」

呆気にとられる他の面々を無視して、二人と一体(?)は踊るように歓びを分かち合っていた。
何より、普段では決して見れることのない、ハイテンションなセルヴォの様子に、マーク達は言葉をかけられないでいた。










それからしばらく経って――――

「なるほど、これがセルヴォさんが制作していた新兵器ですか」

団長であるエルピスもまた、メガ・ブランシュのお披露目に立ち会っていた。
ハンガーから出て、そのゴテゴテとした体に似合わぬ軽快な動きを披露するメガ・ブランシュに、感心の声を上げる。

「ああ、褒めてくれいいのだよ、エルピス。私は今どんな賛辞も受け入れよう」

「……頭のネジでも落としましたか」

「……なかなかすごいデザインですね…」

ゴーレムの腕を振り回すメガ・ブランシュを眺めながら、ジョーヌが戸惑いながら感想を述べる。
だが、デザインの点についてはセルヴォも気にしていたのか、その言葉自体拾おうとはしなかった。
しかし、一般団員が何より戸惑っているのは、間違いなくセルヴォの謎のテンションである。それこそ、なにかしら怪しげなプログラムでも取り入れてしまったかのようにさえ思える。
が、本人はいたって正常であると言いはって聞かなかった。

「セルヴォさーん! これほんと楽しいですよ!」

デルクルは嬉しそうに声を上げながら腰をぐるぐると回す。

「別に遊ぶために作ったわけじゃないぞ、デルクル! ほどほどにな!!」

そう言いながらも、顔からは笑顔が絶えない。

「班長……本当に局長大丈夫なんすか?」

募る不安のままに、ジョナスがドワにコソコソと問いかける。

「う…む……まあ、根を詰めて作業を続けておったからな……。気が抜けてるだけじゃろ。明日にはきっと元通りじゃ」

「……だといいんすけどね」

今のセルヴォの様子を見ている限り、どうにも信用がならないのだが。

「うわー! 楽しいなー!」

メインコンピューター内で動作制御をしているデルクルは手足ができたかのような心地に満足していた。
ゼロや一般団員たちとの任務の際に、ライドチェイサーの管制システムを操ることはあっても、このように四肢を動かし、動く機会などめったにない。
セルヴォの意図がどうあれ、デルクルは現在の状況が楽しくて仕方なかった。

しかし、その様子を不満気に見ている者達がいた。

「ちょっとデルクル! あたしたちにも使わせてよ!」

「げ! ウインキィ!」

そこにはウインキィ、ナッピィ、ハピタンの三人組が構えていた。
白の団のサイバーエルフの中でも悪戯好きで有名な三人組である。一般団員からオペレーター陣まで、誰かれ構わずちょっかいを出しては慌てるさまを見て去ってゆくという、最高に質が悪い三人組だ。
サイバーエルフ達の中でも、この三人に絡まれたら「有無を言わず要求に従え。さもないと×××」と言葉にも表せないほどの仕打ちが待っていると有名なのだ。

だが、メガ・ブランシュを動かすデルクルはその要求に戸惑うも、「嫌だ!」ときっぱりと拒否する。

「こ…これは僕がセルヴォさんに託された“ひみつへいき”なんだぞ! 簡単に使わせてやるもんか!」

「あんた、あたしたちに逆らうわけ?」

ナッピィがそう言ってずいと身を乗り出すと、「うっ」とデルクルは後退る。すると、メガ・ブランシュも奇妙な挙動を見せる。その様子に、浮かれるセルヴォ以外のメンバーはわずかに首を傾げた。

「その態度…どうなるか分かってんでしょうね!」

「う……うるさーい! 絶対に渡さないもんね!」

システムにしがみつく(実際にしがみついているわけではないが、表現上このようにする)デルクル。それに三人が飛びかかり、身を引き剥が(これも実際に引き剥がすわけではないのだが表現上(略)そうとする。
抵抗するデルクル。メガ・ブランシュの挙動はますます怪しくなり団員たちは後ずさる。ようやくセルヴォも異変に気づき、様子を注意深く見守る。

「どきなさいよ! このオタンコナス!」

「うわー! 邪魔すんなよ! 離れろ!」

「あんたこれ以上逆らったら痛い目見るわよ!!」

「さっさと渡しなさい!!」

「うるっさい! うるさーい!!」

激しい四人の攻防に合わせ、メガ・ブランシュは更に激しく暴れ始める。
団員たちは急いで距離を取り、セルヴォだけがそこに留まり、デルクルに「何があった!?」と慌てて呼びかける。


「どきなさいって!!」

「渡しなさいよ!」

「あたしたちによこしな!!」


「う…うううう……うるっっっっっさーーーーい!! これは!! 僕のもんだーーーーーーーーっ!!!!!!」




内部で起こる激しい攻防が最高潮に達した時、メガ・ブランシュの動きが止まる。
明らかに怪しい様子に、一同は恐る恐るその状況を見守る。
セルヴォが「デル…クル……?」と呼びかけるが、返事がない。

やがて、けたたましいアラーム音とともに、ゴーレムのアイカメラ部分が赤く輝き出した。
それが危険を知らせる合図であることは、誰の目にも明らかだった。

































  ―――― * * * ――――



「…俺のことは…棄てて行ってください」

アーチ隊員が弱音を吐く。
敵の電子ロックに固定されてしまった彼の両腕は、もはや自由に動くことはできず、このまま死を待つだけとなっていた。
しかし、華麗なる狩人と称されるこの私、シューターもとんだドジを踏んでしまった。お陰で同様の状況に陥り、彼の命をどうこうという場合ではない。
だが、それでもアーチは私が逃げることを切に願った。――――たとえ自らの命と引き換えにしても、後の英雄となるべきこの私を守り通したいと本気で思ってくれていたのだ。


コード隊員が発見した秘密の入口をハッキングしてこじ開け、中へと侵入した。するとそこには非常に疑わしい広大な地下施設が存在していた。過去の戦争の遺物であることは、優秀な私の頭脳には即座に判断できたのだが、微かに感じられる人の気配に、今でもこれを利用している輩がいるのではという疑念がわき出し、そのまま深部へと調査に行こうと思い立ったわけだ。
しかし、それがこのような事態を招くキッカケになろうとはその時の我々には思いもよらなかったのだ。

「…増援は来ないのでしょうか…?」

ふと、ボウ隊員が弱々しく問いかける。しかし皆、口を噤み、誰一人として答えようとしない。――――いや、答えるまでもないと分かっていたのだ。問いかけた本人までも。

増援は来ない。
なぜなら、この私の天性の嗅覚についてこれるハンターなど露ほどもおらず、この秘密基地を発見して仲間を救いに来れるような者は、私自身を除けばあり得ないからだ。
それを理解しているからこそ誰も答えず、けれどそれが分かっていて尚、問いかけてしまうのは、まだまだ彼が未熟な隊員であるがゆえのことだ。寛大な私はそれを赦す。

しばらくの重い沈黙の後、ドロー隊員が苦笑まじりに口を開く。

「…あの“救世主の再来さん”は来てくれたりしないんでしょうかね」

その皮肉めいた発言に、ある者は同じく苦笑をこぼし、またある者は憤りの色を浮かべた。

『あの救世主の再来さん』とは、これまで何度となく私の事を詰ってきた、矮小な心の持ち主であるにっくき第十七精鋭部隊長のことだ。
思い出すだけで腹立たしい。私はドローの頭を小突いてやりたかったが、手が出なかったので、頭突きで赦してやった。

今だからこそ身に染みて分かる。
私のことを理解してくれる者達がもっといれば、精鋭部隊は本当の精鋭だったのに…と。

とても正面から立ち向かってどうにか話を聞いてくれる連中ではない。が、言葉を凝らしたとしても、あのクラフト野郎は「以上だな、健闘を祈る」といつもいつも変わらぬ気の利かぬセリフを吐くばかり。
もしも私が隊長であったならば、千の兵の言葉を一の耳を以って、全て聞き、それぞれに相応しい労いの言葉を返してやるというのに。あの朴念仁はそのような気も利かない無能ちゃんなのだ!
ええい!思い出せば更に腹立たしい。腹立たしい事この上ない!
このように味方が謎のイレギュラーたちに囚われ、銃口を突きつけられ、強烈な生と死の匂いで浮かれる暇もなく身を震わせているとうのに!一向に気づくことなく、淡々と職務をこなしているのだろうと考えれば考えるほど腹立たしい!

そう、今だから分かる――――

「………………この状況……ピンチだ……」







「何をブツブツつぶやいてんだ、お前ら! 撃っちまうぞ!」

「ひぇぇぇ! お許しをーっ!!」

銃口を再度強調するヘルマンに、シューターは情けない声を上げ、頭を下げる。
「落ち着け」とマークがヘルマンを慌てて制止する。

「今はこんな連中に構っている場合じゃない。団長の指示を忘れたのか」

シューターたちに聞こえないよう、耳元でこそこそと囁くように言う。

「チッ……命拾いしたなてめえら」

ほっと一息つくシューター達。
だが、“謎のイレギュラーたち”に囲まれて、万事休すという状況は尚も変わらない。
一体全体、どうしてこのような状況になってしまったのか。時間は、シューター達が白の団基地への入り口に足を踏み入れた時点まで遡る。













  ――――  2  ――――


「なかなか広大な空間で…………どうやら旧世紀の遺物みたいですね」

ボウがあたりを見回しながらそう呟く。
イレギュラー戦争中に使われていたものだろうと思われた。だが、埃まみれになっていてもおかしくないと言うのに、外の砂が不規則に散っており、定期的にハッチが開かれ、また、整備も行われているような節がある。
おそらく何者かがここに潜み、この施設をしばらく利用しているのだ。

「いやあ…奥の方まで結構続いてますよ。こいつは怪しさビンビンっすね、副隊長!」

目を細め、軽い口調でアーチがそう言うと、シューターも「うむ」と唸るように答えた。

「こいつは流石の俺様も何か悪しきものを感じてならんな。よって、我ら特殊班による調査を開始する!」

「「イエッッッッサー!」」

元気よくボウとアーチが返事をし、早足で進み始めた。
ドローとコードは相変わらず何処かやる気なさげだが、後ろの方からしっかりとついてきている。

「ええい、お前らもあの二人を見習い、シャキシャキ歩かんか。俺様、グズとノロマは大嫌いなのだ」

「はあ……そうは言いましてもねぇ」

ドローは浮かない顔で頬を掻く。

「副隊ちょー……これ、クラフト隊長に報告しなくてよかったんですかねぇ?」

「ぬぁ~にぃ!?」

気に食わない名前を口にされ、シューターは口端を歪ませながらドローに詰め寄る。その剣幕に気圧されながらドローは「そのですね」と説明をはじめる。

「こ…コード隊員の報告が確かであるならば……ここが紅いイレギュラーに縁ある場所である可能性は高いわけですし……何よりこれだけの施設を扱う組織が相手であるなら…我々だけの力では心許ない…」

「口を慎め、ドロー隊員!」

ボウがすかさず口を挟む。

「シューター様率いる、我々特殊班ほどの精鋭が、このような穴蔵にこもる狢どもに遅れをとるわけなかろう! 何より、あのクラフト隊長ごときに頼ろうなどという発想自体が笑止千万! ですよね、副隊長!?」

「うむ、ボウ隊員! 貴様の言葉がほぼそのまま私の言葉と言っても過言ではないな! だがひとつ言わせてもらえば、憎たらしいあんちきしょうの名前は二度と口にしないでくれ!」

「あいや、これは失礼いたしました!」

二人のやり取りにため息をつき、「そういうことだ」と話をまとめるシューターに、ドローは「はあ」とだけ疲れたように返事をした。
しかし、正直なところ不安は尽きない。
あの紅いイレギュラーとこんなところで鉢合わせしてしまえば、今度こそただでは済まない気がする。そもそもこのような地下施設を扱えるだけの集団がいるというのなら、紅いイレギュラーのバックと考えるに相応しい。
となれば、今の我々は“飛んで火に入る夏の虫”。最も適切な動作は、十七部隊の他の班に応援を要請し、協力して突入することだったはずだ。

――――こいつは、俺の悪運もここまでかなぁ……

今までこの男とつるんできて、よくも死ななかったものだと回想する。
死を直前にした走馬灯よろしく、これまでの出来事が脳裏を駆け巡る。どれも碌でもない思い出ばかりなのだが。しかも、そのどれもにシューターが関わっている。
あまりに虚しさが募るので、ドローは考えるのを止めた。

突如、けたたましいサイレンが鳴り響く。
慌てふためく一同を点滅する赤いランプが眩しく照らす。

「な…なんだなんだ!! なにがどうした!?」

「まさか! もう侵入に!?」

気づかれてしまったというのか。

「ど……どう致しますか!? 副隊長!?」

「落ち着けボウ隊員!」

慌てる部下を制して、シューターは考える。そして「クワッ」と表情を引き締め、声高らかに叫ぶ。

「引くも地獄、進むも地獄! ならばこのまま前進あるのみ!! 続け! 道は我々の後ろにできるのだ!!」

「うおぉ! 流石っす副隊長!」

勇んで駆けてゆくシューターとアーチ。そしてその後ろをボウが慌てて追いかける。

「いや! え!? マジですか副隊ちょー!? ちょっと待ってぇ!?」

慌てふためくまま、ドローもそれを追いかけ、僅かな逡巡の後、コードもそのまま駆け出した。
予想以上に長く続く地下施設の道を駆け、もう一キロはとうに越えたであろうという時、シューター達は前方で暴れる何者かを発見する。

「副隊長! アレを!」

ボウがそう言って指さした先には、謎の大型メカニロイド(?)がゴーレムのような豪腕を振り回し暴れていた。

「な……なんだアレは!? 見たことのないヤツめ!」

「…明らかに悪者っぽいっすね! どうしやすか!?」

そのハチャメチャな暴れように、後ずさるシューター達一行。だが、猶予はもはやない。メカニロイドの視線がこちらに向けられたのが分かった。

「……邪魔者……ハケ…ん……排除…シマ…す…………hi…じょ……shi…す……」

まともな言葉になっていない音声は、不気味さを更に強める。

「なんかめちゃくちゃヤバイ状況っぽくないですか……副隊ちょー…!」

「ええい! ビビるなビビるな! こんな時こそ我々精鋭部隊の真の力が試されるのだ! ドロー隊員! 私専用のアサルトビームライフルを寄越せ!」

「え……は…い?」

「………『え……は…い』?」

ドローの気の抜けた返事に、思わずシューターは凍りついたように動きを止める。他の面々も「え」と声を漏らし、ドローをじっと見た。
沈黙の後、ドローの口が重々しく開かれる。

「……いや……副隊ちょーが『潜入調査に邪魔になるような装備は置いてゆけー!』って…言うから………」

「……『言うから』……?」

「……言うから………」

まるで阿呆のように同じ言葉を互いに繰り返し、再び沈黙が訪れる。
その沈黙こそ、全ての答だった。

「ば……バッカモーン!! 私の専用兵装が邪魔なわけがないだろう!! このような緊急事態において最も必要になるではないかー!!」

「いや…今までだって同じようにしてきたのに…副隊ちょーは何も文句言わなかったじゃないですか…!?」

その言葉に、ボウ達の視線はシューターに向けられる。ぐっと言葉を飲み込み、考えた後、シューターは声を大にして叫ぶ。

「人に責任をなすりつけるんじゃなーい! だいたい貴様はいつもいつも俺様の邪魔を! ええい! 今度こそユルさーん!」

「人になすりつけてんのは副隊ちょーの方じゃないっすかー! 今度という今度は俺も言わせてもらいますよ!!」

「二人共喧嘩はやめましょう!!」

「そんなコトしてる場合じゃないっす!!」

シューターとドローが言い争うのを、ボウとアーチが必死に止める。しかし、二人は尚も「ギャーギャー」と喚き、争いはやまない。
ふと、ボウがあることに気づく。

「こ……コード隊員! なにか言いたいことがあるのでは!?」

殊更声を大きくし、皆の注意をそちらに向ける。もじもじとなかなか喋りだそうとしないコードであったが、ようやくその口を開いた。

「あの……すぐそこに……」

恐る恐る指で指し示す方向へと、顔を向ける。
そして、皆一様に言葉を失った。

よく見慣れたゴーレムの頭部と視線が合ったのだ。目と鼻の先に立つ、不気味なメカニロイドと。






「邪魔mo…の……はいjo…………mあs……」




「ギャァァァッァァァァァァッァァァァァァァッァァァァァァァッァァァァァァァアァァァァァッァァァァッァァァァ!!」




振り下ろされる豪腕を五人は飛び退くようにして躱す。そして方向もよく分からないまま、一斉に走り始める。

「逃げろ! 逃げろ! とにかく走れ!」

叫ぶシューター。部下達もその後に続き必死に駆けてゆく。だが驚くことに、そのメカニロイドもまたシューター達を追って駆け出した。
ドカドカと巨体が荒々しい音を立て、時に豪腕を振り回し、時にレーザーを放ち………シューター達はそれらをスレスレのところで躱しながら、なんとか走り続けた。
やがて、周囲に幾つか倉庫のようなものが並んでいるのが見え始めた。どれもシャッターが降りている。

「ふ…副隊ちょー! とにかくどこかに隠れましょう!」

「よし! ドロー隊員! 囮になれ! その間に我々は隠れる!」

「死んでも嫌です! 死ぬのも嫌です! 副隊ちょー! 部下のためにお願いします!」

「ええい! 全ては誰のせいでこうなったと思っているのだ!」

「アンタのせいだ!」

「俺様のせいか!?」

「こんな時まで言い争いはダメっす! オレに任せてください! 副隊長!」

そう言って、アーチは足を止め、振り返る。

「な! アーチ隊員! いかん、それでは君が!」

「グラーツ隊長に、伝えてください。アーチは『あなた達の部下で幸せでした』…とね」

グッとサムズアップを見せつけ、アーチはその場に仁王立ちする。そして、メカニロイドに対し、構えた。

「来やがれ! イレギュラー! ……ハイル・エックス! 万歳グラーツ! 第四部隊に栄光あれー!!」




「ジャマ」



 べ チ ン ッ 



「 あ ぶ べ ば し !!」


「アーーーーーチィーーーーーー!!!!」


ボウの悲痛な叫びが響く。アーチの健闘(?)虚しく、メカニロイドはたった一撃で彼の身体を弾き飛ばした。宙を舞ったアーチの身体はボウ達の頭上を超え、そのまま前方に転がる。
虫を殺すかのごとく、何の躊躇いもないその非道な攻撃に、一同は戦慄した。

「アーチ隊員大丈夫か!?」

「すまねえ、ボウ……俺ァもうダメだ……」

「カムバーック! アーチよ! 我が愛する部下よーーーー!!」

「副隊ちょー! なにか知りませんが奴の動きが鈍ってるっす!」

弾き飛ばした獲物を探しているのか、キョロキョロとあたりを見回すような動作をしている。
これは千載一遇のチャンスだ。

「どうやらアーチ隊員の死は無駄ではなかったらしい! ありがとう、アーチ!」

「ボウ……勝手に殺さないで…」

「おおーーっと! あそこに微妙な隙間を発見!! 神は俺様を見捨てていない!! 走れ皆の衆! あそこに滑り込めぇ!!」

シューターの合図に導かれ、皆はとあるシャッターの下へと身体を滑り込ませる。危機一髪というところであった。メカニロイドが気づいた時には、五人の姿は既にそこから消えていた。
かくして、シューター達特殊班はひとつの危機を回避した。

「……ふぅ……なんとか…助かっ……」


そう、“ひとつの危機を回避した”。――――しかし、いかなる時でも、場合でも、訪れる危機や試練というのは一つとは限らない。

向けられる銃口。咄嗟に上げる両腕。
緑色の統一されたユニフォームに身を包む十数人のレプリロイド達が、シューター達を囲んでいた。

「へ……ヘルプミー」

情けなくも口を衝いて出たのは、そんな一言であった。

































  ―――― * * * ――――


「いや~……見てるだけで惚れ惚れするようなマシンですねえ…」

エル・クラージュの整備を行いながら、ペロケがため息をつく。
ネオ・アルカディアの最新技術が詰まったこの最高級マシンは、技術者魂をこの上なくくすぐるらしい。

「私よりもセルヴォさんやドワさんのほうが、きっと上手に整備できるのでしょうが……いやはや…あの二人にも見せてあげたいものです」

「一段落ついて、向こうに戻った時にそうしてやるさ。それまではお前がこいつの面倒を見てやってくれよな」

ゼロが「よろしく頼むぜ」と肩を叩くと、ペロケも「お任せを」と胸を叩いた。

「そういえば、セルヴォさんはセルヴォさんで、何か新しいことに取り組んでいるらしいですよ」

「『新しいこと』?」

思わず問い返す。

「ええ、なんでも『ゼロ(さん)をびっくりさせてやるんだ』って呟いてたそうで」

「俺を…?」

「なんでしょうね」

軽く笑いを浮かべ、ペロケは再びエル・クラージュの方へと向き直った。
ゼロは首を傾げながら、メンテナンスルームを後にする。

まあ、あのセルヴォのことだ。おかしな事をやらかすような心配はないだろう。
とは言うものの、自分をびっくりさせるようなものをどうにかしようという話を聞いてしまっては興味が尽きない。
何か新しい武器や道具でも発明したのか……。はたまた別の何かか。

「……後で小娘にでも聞いてみるか」

そう呟いて、自室の扉に手を掛ける。

「あ…ゼロ……」

声の方へ視線を向けると、アルエットがぬいぐるみを抱きしめて立っていた。
どこか心配そうな眼をしている。

「……どうした、アルエット?」










  ――――  3  ――――


「さて、困ったことになりましたね」

エルピスが顎に手を当て、考えこむ。
メガ・ブランシュの暴走に対し、白の団の面々はハンガーの一つに身を隠すことで難を逃れた。
しかし、そこに招かれざる客が現れてしまったのだ。

シャッターの下から滑りこんできたシューター達を拘束し、既に三十分が経った。
現在、エルピスは団員全員と口裏を合わせ、とある壊滅したレジスタンス組織からこの場所へ偶然逃げ込んだレプリロイドの集団を演じていた。身に着けているプロテクターから彼らが十七部隊員であることを察し、十七部隊が現在、小規模レジスタンスチームに対して非好戦的な路線をとっていると知っていたためである。
ジョーヌに暗号通信を送らせ、以後、こちらから指示があるまで本部からこちらへの一切の交通、通信を禁止した。
メガ・ブランシュの暴走に対し、本部に通じる隔壁を全て封鎖していたのは正解だっただろう。万が一、彼らがこの先に行き、本部に辿り着けば、ただ事では済まなかったはずだ。
さらに、ゼロの名を口にすることも、現在この場所にいる者達には禁止した。もしも“紅いイレギュラー”と縁ある者達であると知れれば、それこそ無事では済まない。

「一思いにやっちまえばいいんじゃないですか?」

血気盛んなヘルマンが、耳打ちをする。しかし、エルピスは絶対にいけないと念を押す。

「彼らのビーコンがここで途絶えたと知れれば、本隊がこの場所を訝しみ、増援に来るかもしれません。それは避けなければ」

幸い、今捕らえた五人のハンターたちは、“あの”五人だ。
自称“華麗なる狩人”シューター率いる元第四部隊といえば、ゼロがこれまで何度となくあしらってきた連中だ。過剰な対応を取らなければ、それ程害はないだろう。
しかし恐ろしいことに、このシューターという男は、“別の方面”でも有名なのである。
その事実も知っている以上、迂闊に手を出すことも、刺激することもするべきではない。
故に拘束したまま、どうにか落ち着いて事が収められないかと、エルピスは思案しているのだ。
しかし、問題はもうひとつある。

「……すまない…みんな…」

ハンガーの隅で背を向けたまま膝を抱え、どんよりとした空気を纏っている一人の男。今現在暴れているメガ・ブランシュの製作者、セルヴォだ。

「…私があんなものを作ってしまったために……」

「そんなこと言ってても仕方ないですよ、局長。元気出してください」

そう言ってジョナスが慰めるように肩を叩く。メガ・ブランシュの暴走のせいで皆に迷惑をかけてしまったと、猛省していたのだ。
ちなみに、メガ・ブランシュについては、この基地内にあったメカを利用して、技術屋である彼が興味本位で作り上げた代物だという、苦し紛れの言い訳で押し通している。

「ジョナスの言うとおりです、セルヴォさん。なんとかこの状況を打開する策を考えましょう。このままでは全員このハンガー内で一生を過ごすことになりかねません」

「それだけは本気で勘弁です、指令~!」

ジョーヌが身を捩りながら悲鳴を上げる。

「とは言うものの、何が原因かもよく分かったもんじゃないですからね……。管制システムはスタンドアローン状態だし」

マークが低い声で唸りながらそう呟く。
エマージェンシー状態に入り、メガ・ブランシュの管制システムは突如としてスタンドアローン状態となってしまった。そのため、中にいるはずのデルクルがいったいどのような状況なのか、把握することができないでいる。

「もういっそ破壊するしか無いんじゃないですか? この辺にある兵器を使って」

トムスが提案すると、セルヴォの肩がぴくりと反応する。それを気にしたのか、ドワが「いやいや、待て待て」と制止する。

「セルヴォがせっかく作ったもんじゃ。できればそんなことせずに事を収められんかの?」

「そんな事言ってる状況じゃないでしょう、ドワさん……」

コルボーが疲れたように項垂れる。だが、ジョナスも「俺も反対です」と口を挟む。

「もしもここで、奴を破壊してしまえば、管制システムとリンクしているデルクルも只ではすまないんじゃないですかね」

「だからなんだってんだよ」とヘルマンが突っかかると、ジョナスが負けじと語気を強める。

「サイバーエルフっつっても俺達の大切な仲間ですよ? 簡単に見捨てていいんすか?」

「けどよぉ……この状況だぜ?」

確かに、冷静に考えればヘルマンが言う通り、強行突破といった方が楽に収まるだろう。
だが、デルクルの事が心配なのは皆同じだった。故に、簡単にそちらへ舵を切ることはできないのだ。
そんな様子を眺めながら、シューター達が何やらコソコソと話し合っている。

「……なかなかどうして…事情が込み入っているらしいですね…」

「どうします、副隊長?」

「うむ……残念ながらここは忍耐あるのみ! ……俺様たちもあんな化け物を放っておいてはオチオチ逃げることもできん」

「副隊ちょー……どちらにしろ、両腕塞がってちゃ逃げようがないっすよ……」

「むむ! ……それには言い返せん………」

「何をごちゃごちゃ話してんだこいつら」と一人の団員が、危ないものを見るかのように横目で見る。すると他の団員が「放っておけ」と促した。

それから再びの沈黙。既にここに閉じこもってから一時間は経っただろう。
だが、一向に策は浮かばない。というか、そもそもメガ・ブランシュの製作者であるセルヴォが詳細を説明してくれない限り、止め方など誰にもわかるはずがないのだ。
痺れを切らし、再びヘルマンが声を上げる。しかし、先程までの覇気はなく、萎れたような声しか出てこなかった。

「セルヴォさんよぉ……いい加減にどうにかしてくれよぉ……」

「ホントですよぉ……もう私いつまでもこんな埃っぽいところいたくありませんよぉ……」

ジョーヌもまた、情けない声を上げる。するとドワが「これこれ」と言葉を返す。

「お前さん達は辛抱できんのか。セルヴォも今考えているところじゃ」

「『考えてる』……って、落ち込んでるだけだろうが。俺たちゃアイツのせいで迷惑してんだぞ」

「文句ばかり言うなら、お前も考えればいいんじゃ! どうにかしてこの状況を打開する策を!」

「それが思いつかねえから言ってんだろうが!」

「落ち着け、二人共!」とマークが止めに入る。今にも手を出しそうなヘルマンをコルボーが慌てて止める。
この状況に、皆ストレスを感じているのだ。気づけば、場の空気は張り詰めた糸のようになり、非常に息苦しい。

「ストーップ! 皆の衆! 落ち着くのだー!」

突然声を上げた男へと、皆注目する。拘束されているシューターであった。

「何がどうなっているのかは知らんが、とにかく落ち着くのだ! 仲間割れなぞしていたところでどうにもならんぞ!」

言葉を失う一同。そしてヘルマンがまたも言葉を返す。

「偉そうに言うんじゃねえ、捕虜が!」

「すいません!」

向けられた銃口に、思わず謝罪の言葉を口にする。その銃口をマークが「落ち着けって」とすかさず片手で抑えた。

「この人が言ってることも正しいさ。仲間割れしてたってしかたない」

「おお、話の分かる者よ! ありがとう!」

自分に向けられたフォローに歓喜の声を上げるシューターだが、ヘルマンが睨みつけるので、直ぐに口を閉じた。

「……でも…セルヴォさん。ヘルマンの言ってることも正しいよ。あなたがどうにか考えてくれないことには、どうにもできない」

「…………」

一同は隅っこで膝を抱える情けない背中に視線を向ける。だが、セルヴォはなかなか答えようとはしてくれない。
そうとう、落ち込んでいるのか。それとも何か他のことを考えているのか。その心中は誰にもわからない。

――――と、不意にぼそぼそと小声が漏れてくるのが聞こえた。

「……ライドアーマーのコクピット…だ……」

それから、セルヴォは徐ろに立ち上がり、皆の方へと向き直る。

「メガ・ブランシュの素体となっているライドアーマーのコクピットに、メインコンピューターの制御装置がある。そこに取り付ければ、なんとかデルクルを救えるかもしれん」

そこに取り付き、アクセスすることで、スタンドアローン状態を解除し、デルクルをサルベージする。
だが、奴に取り付くのは簡単なことではない。コクピット部を傷つけること無くそれ以外を破壊し、動きを止める位しなければならないのだ。
当然、メガ・ブランシュは再起不能となるだろう。

「……まあ、出来ればの話だがな」

そう言って、少しだけ寂しげな顔をする。
勿論、アレを作ったのは伊達や酔狂などではない。

「“彼”をサポートしたくて作ったというのに……こんなことになるとはなあ…」

セルヴォなりに色々と考えて完成させた代物だった。“彼”という言葉が差す相手を、白の団のメンバーは皆直ぐに分かった。それ故に、尚更セルヴォの気持ちが伝わってきた。

「……やりましょう。力を合わせて」

そう言ってエルピスが、励ますようにセルヴォの肩を叩く。
すると、セルヴォも「そうだな」と微笑み、言葉を返した。

しかし、そうは言うものの、メガ・ブランシュの武装は強力だ。ここにいるメンバーで太刀打ち出来るような相手だとは到底思えない。
それこそ、戦闘用として秀でた、優秀なレプリロイドがいないことには――――………‥‥



「ここに、射撃武器はあるか?」


問いかける声の方向に、またもや皆視線を移す。
そこには先程までの弱々しい男ではない。不敵な笑みを浮かべる勇敢な戦士の姿があった。


「フフフフ………苦節十ヶ月と少し……いや……にじファン崩壊も含めれば、すでに軽く一年以上経過した今……ようやくこの俺様の見せ場が来たな……」

「思えば初登場から随分と経ちましたね?」

「まだにじファンで連載していた頃、作者が言うには『コイツら出したら評価で一点入れられた』って話ですから」

「『お気に入りもその瞬間五件は減った』って。これまた今回は随分な賭けでしたねー」

「フッ……俺様の素晴らしさに、エレガントさに、スマートさに、グレートさに…共感できる者達が少なかっただけさ。…………ていうか、貴様らメタ発言やめろし」


他の連中を置いてけぼりにした素っ頓狂な遣り取りの後、彼はムクリと、そして堂々と立ち上がった。



「この戦場! 華麗なる狩人と呼ばれたこのシューター様が預かった!」


殊更自信ありげに語気を強め、そう言い放つ。
それから背を向け、両腕を差し出して、一言だけ付け加えた。


「そんなわけで……この電子ロックを華麗に外してくれたまえ」

































  ―――― * * * ――――


「エルピスやセルヴォ達と連絡が取れない?」

モニター越しに、何やら心配そうに表情を曇らせるシエルに、ゼロは聞き返した。

「そうなの。格納庫方面でなにか起きたらしくて……エマージェンシーコールの後にエルピスから暗号通信が入って、『こちらから連絡があるまで通信は禁止』だって」

並々ならぬ状況に、不安が募るばかりである。彼女の様子が心配だったアルエットが、ゼロを呼びに来たのだ。

「なるほどね」と考える。どうやら基地の中で只事ではない何かが起こっているのだ。
しかし話によれば、エルピスは他の団員への指示をしたわけでもなく、ただ「通信を禁止」しただけだ。
万が一、ネオ・アルカディアの軍勢が侵入したり、なにかしら戦況に関わる問題が発生したなら、団員全員になにか指示をしているはずだし、ゼロに対しても救援要請か何かしらのアクションをとっていることだろう。

「まあ……『心配するな』と言ったところで無理だとは思うが。“した”ところで状況がつかめないなら仕方ないだろ。指示通り、向こうからの連絡を大人しく待つしか無いと思うぜ?」

「そう……よね」

シエル自身も理解してはいるのだが、気持ちとしては容易に飲み込める事態ではない。
表情からゼロにもそれが伝わってくる。

「なんなら……俺がそっち行ってやろうか?」

「え?」

思いもよらぬ提案に、シエルは驚く。
それから少しだけ考えると、苦笑をしながら答える。

「…いや、大丈夫。それこそエルピスの指示もなく…勝手な判断をするべきじゃないと思うし……」

ただでさえ目をつけられている“紅いイレギュラー”だ。万が一にも移動中に発見され、そのまま白の団の位置が特定されては意味が無い。

「賢明な判断だ。そんなら…ゲームでもしながら気長に待とうぜ?」

そう言って、ボードゲームのアプリケーションを起動させる。
シエルのことを気遣って、少しでも気を紛らわそうとしてくれているのだろう。
そうした何気ない配慮に、シエルは胸の奥が温まるのを感じた。

「……できるの、ゼロ?」

笑いながらそう問いかけると、ゼロもまたはにかんでみせた。











  ――――  4  ――――


「認めよう。……確かに貴様達の言う通り、この私は“イレギュラーハンター”なのだろう」

よろけながらも立ち上がり、そう言いながらシューターは真っ直ぐに見つめた。
暴力であれ、権力であれ、力を持った強者により、この世界は動かされている。そして、弱者はその力に振り回され、時に犠牲となってしまう。それは変えられない摂理だ。
そう、それはまさしくあの憎き十七精鋭部隊長と、我が愛するか弱き元第四部隊メンバーとの関係である!
その中で一人、戦い続けていた。“イレギュラーハンター”として、華麗に! 優雅に! 蝶が舞う如く! 誰からも憧れられるような超人的な活躍を見せつけて!

「…俺は……もう迷わん」

正直、葛藤とかそういうものは全て昨日に置いてきたので、元から迷ってすらいないのだが。
今この場にいた幾数人のイレギュラー……いや、心優しき協力者達の手により調整されたエネルギーガンを手に、シューターは構える!

「謎のメカニロイドめ! 貴様がこれまで行なってきた数々の蛮行は、赦し難き罪悪だ! 故に、この“華麗なる狩人”――――“赤鬼”グラーツ率いるイレギュラーハンター元第四部隊副隊長にして現第十七精鋭部隊特殊班班長シューターの名において、貴様を粛清する!」

迷いを吹っ切った眼と声色に、アーチ達は感嘆の眼差しを向ける。
「流石っす! 副隊長! かっちょいい!!」とアーチ隊員は思わず叫ぶ。



「俺様は前に進む。それだけだ」





「とっとと行きやがれ!」

「あいた!」

キメ顔を決めているシューターの背中をヘルマンが蹴り飛ばす。

「……ええい! この俗物め! 他の者達は友として認めるが貴様だけは許さん! いずれ成敗してくれる!」

「勝手にしやがれ!」

言い争う二人をトムスとコルボーが取り押さえる。マークが「まあまあ、落ち着けって」と再び仲裁に入った。

「それで、副隊長。陣形はいかが致しますか?」

「うむ、ボウ隊員。我らが必殺の陣形トライアングルフォーメーションで行くぞ。アーチ、コード、貴様らは右翼。ボウ、ドロー、貴様らは左翼。俺様の初撃を合図に展開。以降、左翼から時計回りに奴の身体を攻撃する」

「「「了解!」」」

「……返事をしていない奴もいる気がするが、さておく。……で、だ! 私は右のアイカメラを先ずは仕留める。左翼は奴の右足を、右翼は当然、奴の左足を」

シューターがテンションもそのままに部下達に指示を送っている。横で聞いていたエルピスが「ちょっと待ってください」と口を挟む。

「初撃はどこから与えるつもりで?」

「……? ……無論、ココの隙間からだが?」

「スコープもついていない、小銃タイプのエネルギーガンですよ!? 当たるんですか!?」

今この場にあるエネルギーガンは精密射撃、狙撃に対応した専用のライフルでは決して無い。だが、このハンガー内からメガ・ブランシュの頭部――――それも“右目”を狙い撃とうなどというのは無謀以外の何物でもない。
もしも外れて、注意を逸らすことも、ダメージを与えることもできなかったなら、展開した部下達の身が危険にさらされるだろう。
しかし、エルピスの言葉に、シューターは不敵な笑みを浮かべてみせる。

「この俺様を誰だと思っている? “華麗なる狩人”様だぞ? ――――この程度の障害、突破せずしてどうする!?」

「そんな無謀なことを――――…「流石です! 素晴らしすぎます!」

エルピスの言葉を遮るようにして、ボウが顔を輝かせながら賛辞を送る。

「フッ! 流石も何もあるまい! なにせこの場にいるのは“ 俺 様 ”なのだから!!」

「「おおおおおおおお!」」

アーチとボウが声を上げて囃し立てる。そのテンションにどうにもついていけず、ついにエルピスも黙って見届けることにした。
五人は銃を構えてシャッターの前に立つ。その後ろに、コクピット部に取り付く役を負った、セルヴォとジョーヌが立つ。

「フッ……名も知らぬ技術士と麗しきレディーよ。恐れずついてくればよい。この俺様の背中にな☆」

「…………あ……ああ、そうさせてもらうよ」

「(――――不安しかない!)」

セルヴォとジョーヌの浮かない気持ちなど知らないまま、シューターは作戦開始を告げる。

「それでは、俺様の発砲と同時に展開だ! いくぞ!」

そう言って寝そべり、シャッターの隙間からメガ・ブランシュの頭部を狙う。
先ほどまで見失った獲物を探してうろうろとしていたが、今は動きを止め、休息をとっているように見えた。まさにチャンスである。

――――1……2の……





「3!」




合図とともに引き金を引く。
まるで呼吸するかの如く、自然なその動作に、白の団のメンバーは皆呆気にとられた。緊張感が張り詰めることも、闘気や殺気を発することもなく、シューターはごく自然な雰囲気のまま、引き金を引いた。
そして放たれたエネルギー弾は、寸分違うこと無く、宣言通りにメガ・ブランシュの右目を撃ちぬいた。

「なんと!?」

エルピスは思わず声を上げる。驚くのはそればかりではない。
着弾するより早く、シューターが引き金を引いた瞬間には既に、四人の部下はフォーメーション通りに展開するべく、シャッターをくぐり抜け、駆け出したのだ。
彼の射撃が、必ず成功すると信じていなければできない芸当である。

さて、右目を損傷したメガ・ブランシュは、ダメージのチェックをすると同時に、射線を辿り、シャッターの隙間に気づく。そして、そこに敵がいるであろうことを確信し、一気に取り付こうと地を蹴る。

「そうは問屋がおろしませんよ!」

掛け声と共に、エネルギー弾が右膝の裏にヒットした。衝撃に膝をつくメガ・ブランシュ。
既に展開していたボウとドローが同時に、同一箇所を撃ちぬくことで、確かなダメージを与えた。
メガ・ブランシュは、二人に気づき、すかさず右腕を振り回す――――……つもりが、左膝の裏に再びヒットしたエネルギー弾に、バランスを崩して倒れこんだ。

「油断大敵ってね!」

アーチとコードの連携攻撃もまた、メガ・ブランシュの動きを止めるに十分な力を発揮した。
しかし、メガ・ブランシュもそれでは終わらない。ゴーレムの両腕を広げ、がむしゃらに振り回し始めた。――――その瞬間、四発の銃声が響く。

メガ・ブランシュの右肩と、左肩が、ほぼ同時に二発ずつ放たれたエネルギー弾により、破壊された。
停止すると共に激しい音を立てながら、両腕が地に落ちる。

その華麗なトドメを与えたのは他の誰でも無い「――――華麗なる狩人! シューター様だ!!」





…………地の文にまで侵入してくる奇想天外ぶりを見せつけながら、シューターはそのまま銃を構えて、様子を見る。
未だにまともな言葉にならない音声を発するメガ・ブランシュではあるが、どうやら、害は去ったらしい。
そのまま後ろに備えていたセルヴォとジョーヌに合図を送る。

「ゴーゴーレッツゴー名無しの技術士と麗しき美女よ! 脅威は去った! 後は君たちに任せよう!」

「……名前がないわけではないんだが」

「えと……まあ、とにかく行きましょう!」

予想以上の手際良さと、些か以上にズレた発言に、半ば呆気にとられながら、二人はメガ・ブランシュの胴体部分に取り付き、コクピットハッチを強制開放した。
メインコンピューターに手を加えること数分、事態は穏やかに収束した。


まさに華麗な終幕であった。

































  ―――― * * * ――――







……



……………



…………………





  眼前に広がるは暗闇


  色もない 音もない


  触覚も 己の存在を確かめるもの全て


  何もない


  それでも 聞こえる……‥‥




――――…もう…いいっすよね?


(…誰だ?)


――――…あなたも十分休みましたよね?


(…誰なんだ?)



  耳の奥で響く優しい声

  しかし、問い返した言葉は何もつかめず、暗黒に消える




――――…さあ、「   」。


(……何だ?)


――――…「みんな」を、任せましたよ……


(……)


  響きが遠ざかる
  そして、声は聞こえなくなる


(……待て……待てよ……おい…)


  慌てて呼びかける

  けれど、見えない声の主は離れてゆく

  不意に、彼は気づく



(…貴様は…)




……貴様は……?




(…………俺様は……?)







     俺様は









  繰り返す問い

  突き刺さる衝撃

  見つかりかけた答えを消し去るように


  鮮烈な光が


  闇を






  切り裂いた

















    「目覚めて」


















「――――目覚めて下さいって、副隊ちょー」

そう言いながらドローがシューターの頬をベチンと叩いた。
それと同時に、急に開いたシューターの目が、ドローをギョロリと睨みつける。思わず「やべ」と声を漏らし、ドローは後ずさった。

「…………俺様は眠っていたのか……」

そう言ってムクリと起き上がる。
既に陽は登り始め、辺りは朝焼けに染まりつつある。五人は岩陰に身を隠し、休息をとっていた。

「ハッ……まさか夢オチ!?」

「そんな馬鹿なオチがありますか、副隊長! 全て現実です!」

既に起きていたボウがすかさず切り返す。

「マジでか!? ならば、俺様の華麗なる技に惚れた美女は何処にいる!?」

「おそらくその辺は夢っす! 副隊長!」

アーチの切り返しに「む……それは残念だ」と項垂れてみせる。それから赤くなった頬をさすると、ドローを再び睨みつけた。ドローは「何も知りません」というような顔で明後日の方角を眺めていた。

「……俺様のほっぺたがひりひりするのだが……何故だ??」

「誰に聞いてるんですか?」とでも言いたげに、答えようとしないドロー。それにジリジリと迫りながら、再びシューターは口を開く。

「……貴様に叩かれた辺りがひりひりしているのだが………な・ぜ・だ!?」

「……そ……それは……」

あまりの迫力にドローは思わず言葉を漏らし、後ずさる。
答えはとうに分かっている。そう、目覚めるまで何度も叩いていたのだ。恨みつらみを込めながら。

「赦すまじ! この反逆者め!!」

「い…いつまでも起きない副隊ちょーが悪いんスよ!」

「喧嘩はダメっす! 二人共!」

「副隊長! コイツも悪気はなかったんです! 副隊長が寝過ごして寝こみを襲われないか心配で!」

「黙れ黙れ! 貴様らも止めずに見ていたな!! 一緒に成敗してくれるぅ!!」

「「ひぃやぁーーーー! お助けをを」」




――――などといつも通りのドタバタ劇を繰り広げる無能な同僚たち。
しかし真に華麗なハンターという者は、常に己の任務を(略、神経を鋭敏に(略、あらゆる状況においても(略

「そう……この私…コード隊員のように……」

これを読んでいる紳士淑女の皆様方には、この優秀なるコードがこれまでの経緯を簡単に説明しよう。

今現在、あの穴蔵から出て、既に七時間が経過した。
我々の華麗なる連携攻撃により地に伏したメカニロイドは無事に制御され、どうやらあそこに住み着いていたレプリロイドたちもひと安心できたようだった。

『あなた達のおかげで救われました! 本当に有難うございます! 救世主さま! 心より感謝いたします!』

リーダーと目される白いマントを羽織った男から、少々派手すぎる感謝の言葉をいただき、快い気分で外に出た我々。
陽が暮れ、宵闇に包まれた大地に身を任せ、激闘の疲れを癒すように眠りに就いたのだった。


「いやぁ、それにしても久々に決まりましたね、我々の連携攻撃」

平手打ちを食らった頬を摩りながら、ボウが嬉しそうに言う。
同じく頬を摩りながら、アーチが「そうだなあ」と共感の声を上げる。

「最近じゃ久しくあんな戦いしてないっすからねえ」

紅いイレギュラー捜索活動に専念している以上、何度も戦闘状態に入るということはない。更に言えば、紅いイレギュラーと交戦したとしてもずる賢い手により上手く撒かれてしまって、なかなか連携攻撃を見せつけることもできない。

「『できるんなら、やれよ』って声が聞こえる気がするっす……副隊ちょー」

両頬を摩りながら、ドローが零す。

「何を言うか! 俺様達は何時だって全身全霊! 命がけ! 手を抜いたことなど一度もない!」

「じゃあ、なんでいつもやれないんでしょうかね……?」

「それは! ――――………」

ドローの返しに言葉が詰まる。それから暫く硬直した後、シューターは「シャラップ!」と声を張り上げた。そして勢い良く立ち上がると、拳を天に向かって突き上げ、声高らかに宣言する。

「俺様、過去のことを振り返ってウジウジするようなウジウジくんは大嫌いなのだ! 俺様が生きているのはまさに今! この時! この瞬間! 未来に向かって生きているのだ!! 故に過去など不要! 昨日の反省などしてやるものか!!」

「流石っす副隊長!」「そこに痺れるッ! 憧れるぅ!!」

そう言って尚ももてはやすアーチとボウの裏でドローだけが「だからダメなんじゃ」と溜息混じりに漏らしていた。












  ―――― 5  ――――


事の顛末をシエルから聞いて、ゼロは腹を抱えて大笑いをする。
「笑わないであげてよ」とシエルが言うのに、「クククッ」と堪えながら言葉を返す。

「いやぁ……セルヴォもとんだ災難だったなあ。しかもあいつらが関わるとは」

「『あいつら』…って、どっちのことなんだか……」

「勿論十七部隊の方さ。サイバーエルフの方は……まあ、どうしようもないな」

そう言って、尚も笑みを浮かべていた。
メガ・ブランシュの動きを封じた後、ジョーヌとセルヴォの手により、デルクルは救出された。
それと同時に、今回の事件の真相が判明した。
ウインキィ、ナッピィ、ハピタンの三人組がデルクルと争ううちに、デルクルとリンクしていたメガ・ブランシュのメインコンピューターに干渉。
その影響がバグとなって、暴走の原因となってしまったのだ。そもそも制御用に一体分の空きしかなかったリンクシステムに他の三体が干渉した事自体が問題で、チェック不足によるシステムの欠陥であったことは言うまでもない。
とは言え、実際に問題を引き起こした三体のサイバーエルフは、危険なものを秘密裏に作ろうとしていたセルヴォと一緒に、シエルからキツイお叱りの言葉を受け、しばらく反省の証にデータ整理の奉仕活動をすることで話はまとまった。

「セルヴォのおっさんまで叱る必要もなかったんじゃないか……プフッ」

十四歳の少女に叱りつけられる、中年男性レプリロイドの姿を想像して、思わずゼロは噴きだす。
顔を少し赤くしながら、シエルが「そんなことないわ!」と語気を強める。

「言ってくれれば協力でもなんでもしたのに……勝手にそんなもの作ってたなんて…許せない」

そう言って、子供っぽく口をとがらせ、頬を膨らます。
その様がいつも以上に歳相応に思えて、何より、怒る視点と理由が彼女らしくて、ゼロは微笑みを浮かべる。
ゼロの眼差しに、シエルは「なに?」と問いかけたが、「なんでもないよ」と返した。




セルヴォがメガ・ブランシュを作ったのは、誰でもない、ゼロのためだった。
「彼だけに戦わせ続ける訳にはいかない」と思い立ち、苦心して作り上げたのがあのマシンだっただけに、破壊する時には些か以上に悔しい思いがあっただろう。

「とは言え、腕も足も綺麗に外されていたから、修理はそこまで大変じゃないって、明るい顔していたわ」

「その点に関してはあの連中に感謝だな。何処まで分かってたのかはともかくとして、有難いもんだよ。――――それにしても大丈夫なのか? ……そのまま帰してしまって」

曲がりなりにも十七精鋭部隊のメンバーだ。もしかしたら白の団の拠点への入り口が割れてしまうかもしれない。
だが、「その点は大丈夫でしょう」とエルピスは言っていた。

「『必要以上に褒め称えて、いい気分で帰ってもらいましたから』って、エルピスが。最後まで疑うような事は言われなかったそうよ」

「…………ホントかよ……と言いたいとこだが、確かにあの連中ならそれで大丈夫そうだな」

「………どんな連中よ……」とシエルは思わず零した。
正直なところ、調べた情報ではそこまで“間が抜けた”人物であるなどという情報はとても掴めなかった。
能ある鷹は爪を隠すというが、それどころの話ではない。そのシューターという男について、もっとも多く流れている噂は、天才と呼ばれてもおかしくないとある記録の件についてなのだ。
ハンター養成課程における、射撃技能テスト――――イレギュラーハンターがネオ・アルカディアに設立されてからの八十年の歴史の中で、断トツのトップ記録を保持している一流の射撃手。それがそのシューターという男なのだ。

「携帯式の小型エネルギーガンで、予備動作の欠片も見せずにシャッターの隙間から数十メートル離れたメカニロイドにヘッドショットを決めたり、ほぼ同時に四発のショットを放っては、ズレること無く二発ずつ二箇所に命中させたり……尋常な射撃の腕じゃないと思うんだけど」

「俺もそう思う……が、まあ………“天は人――――とレプリロイドに二物を与えず”ってことで…な」

「『…な』って………」

尚も納得出来ないというシエルの表情に、ゼロはまた笑い声を上げた。
天才少女の頭脳を持ってしても理解できないというのだから、ある意味シューターという男は、真の天才なのかもしれない。
















  ―――― * * * ――――



「ところで、今回の件。クラフト隊長にはどう報告するつもりなんですか?」

ドローの問いに、シューターは凄まじい形相で詰め寄り問い返す。

「貴様! もしやまた報告を!?」

「してないっす! 今回は断じてしてないっす! ――――……で、どうするんすか?」

「う……むぅ」

再び問い直され、シューターは考えこむ。
そして暫くの後、首を横に振り、「いらんだろう」と答えた。

「彼らに紅いイレギュラーとの繋がりなどきっとない……というか、そもそも今回の件をどう報告すればいいと思う?」

「それは………」

話を振られ、アーチとボウが考えこむ。
だが、聞かれたところでまともな答えは出てこない。




紅いイレギュラーと縁の有りそうなレプリロイド達を見つける

  →地下空間でメカニロイドに追い回される

    →レプリロイドたちに捕らえられる

      →なんやかんやで協力

        →恩人と称えられ、脱出(←今ココ



「………報告できるような手柄一個もないっすね」

「だまらっしゃい!!」

サラリと答えるドローに、シューターは声を荒げる。

「ゴホン! ……まさにそのとおり。報告したところであの小僧がまたつけあがるだけだ。故に、俺様は黙秘権を行使する!」

「おお!副隊長、その思い切りはかっこいいっす!」

「惚れます! 男惚れします!!」

要は「怒られるのが怖いから報告しない」というだけだというのに、アーチとボウはいつも通り持て囃す。流石のドローも憎まれ口を叩く暇なく、ただ呆れてみせた。

「さあ、昨日の栄光にすがる暇など無いぞ! グズグズはしておれん! 皆の衆! 我々特殊班は再び紅いイレギュラー討伐のために歩みださねば!!」

「「イエッサー!」」

「…いえっさ~」

「………………」

「うむ、気合の入らない奴らも、今日の俺様は赦してあげようではないか! では行くぞ! ついてこい! 俺様の背中に!!」

そう言って、朝陽に向かって地を蹴るシューター。その後を追いかける四人の部下達。








    一つの戦いが終わりを告げる!


    しかし!


    彼らの戦いはまだ始まったばかりだ!


    行けシューター!


    走れシューター!


    クラフトに怒られたって、いちいちイジケちゃダメだぞシューター!


    もう出番がなかったとしても、絶対泣くなよシューター!






    「俺様の戦いはまだまだこれからだぜぇ!!」












    コード先生の次回作にご期待ください!






















※WARNING※

この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などにはいっさいがっさい関係ありません。
また、架空の人物、団体、事件などについても、直接つながりがあるかどうかは保証いたしません。

よいこのみんなの自己判断でお願い致します。

























 NEXT STAGE












     レプリロイドは ぜんまいねずみの夢を見るか?
















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