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No.34283の一覧
[0] [Z-E-R-O] (原作:ロックマンゼロ、ロックマンX)[村岡凡斎](2013/09/18 15:00)
[1] はじめに[村岡凡斎](2012/07/18 16:08)
[2] Prologue[村岡凡斎](2012/07/18 16:24)
[3] Waffle for Chapter[村岡凡斎](2012/11/07 01:25)
[4] OPENING STAGE 「涙の少女と寝起きのマルス」[村岡凡斎](2012/10/29 15:54)
[5] 1st STAGE 「剣」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[6] 2nd STAGE 「星に願いを 夜空に問いを」[村岡凡斎](2012/10/29 15:58)
[7] 3rd STAGE 「包囲戦線」[村岡凡斎](2013/11/25 19:59)
[8] 4th STAGE 「亡霊の影」[村岡凡斎](2012/10/29 15:59)
[9] 5th STAGE 「死屍軍団」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[10] 6th STAGE 「キズダラケ」[村岡凡斎](2012/10/29 16:00)
[11] 7th STAGE 「渇望/葛藤」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[12] 8th STAGE 「未来」[村岡凡斎](2012/10/29 16:01)
[13] 9th STAGE 「理想郷の詩」[村岡凡斎](2012/10/29 16:02)
[14] COMMENTARY 1[村岡凡斎](2012/09/18 18:22)
[15] 10th STAGE 「紅いイレギュラー」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[16] 11th STAGE 「救い」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[17] 12th STAGE 「ウラギリ」[村岡凡斎](2012/10/30 23:26)
[18] 13th STAGE 「闘将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:27)
[19] 14th STAGE 「証明」[村岡凡斎](2012/10/30 23:28)
[20] 15th STAGE 「レスキューコール」[村岡凡斎](2012/10/30 23:29)
[21] 16th STAGE 「世界を覆う白雪の上で」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[22] 17th STAGE 「理想の表裏」[村岡凡斎](2012/10/30 23:30)
[23] 18th STAGE 「color of mine/d」[村岡凡斎](2012/10/30 23:31)
[24] 19th STAGE 「妖将」[村岡凡斎](2012/10/30 23:32)
[25] 20th STAGE 「届かぬ想い、その結末。」[村岡凡斎](2012/10/30 23:33)
[26] 21st STAGE 「デンジャラス・デイ」[村岡凡斎](2013/05/07 21:37)
[27] COMMENTARY 2[村岡凡斎](2012/10/30 23:37)
[52] 22nd STAGE 「レプリロイドは ぜんまいねずみの夢を見るか?」[村岡凡斎](2012/11/07 01:09)
[53] 23rd STAGE 「殺戮舞台」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[54] 24th STAGE 「罪 と 罰」[村岡凡斎](2012/12/16 00:57)
[55] 25th STAGE 「Raging River」[村岡凡斎](2013/11/19 00:54)
[56] 26th STAGE 「ABSOLUTE - JUSTICE」[村岡凡斎](2012/12/17 00:06)
[57] 27th STAGE 「隠将」[村岡凡斎](2013/01/28 22:27)
[58] 28th STAGE 「再会」[村岡凡斎](2013/05/07 21:39)
[59] 29th STAGE 「暗躍の調」[村岡凡斎](2013/05/25 23:30)
[60] 30th STAGE 「死者の国」[村岡凡斎](2013/06/23 01:04)
[61] 31st STAGE 「乱戦四重奏」[村岡凡斎](2013/08/03 00:49)
[62] 32nd STAGE 「Red, White and Bullet Blues」[村岡凡斎](2013/09/18 14:58)
[63] 33rd STAGE 「    」[村岡凡斎](2013/09/28 16:02)
[64] 34th STAGE 「月と影、そして太陽」[村岡凡斎](2013/10/06 09:36)
[65] 35th STAGE 「残光の行方」[村岡凡斎](2013/11/02 15:37)
[66] 36th STAGE 「救世主」(前)[村岡凡斎](2013/12/24 14:36)
[67]          「救世主」(後)[村岡凡斎](2013/12/25 11:54)
[68] FINAL STAGE 「Message from...」[村岡凡斎](2014/01/25 17:09)
[69] LAST COMMENTARY[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
[70] おわりに[村岡凡斎](2014/01/25 07:03)
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[34283] 14th STAGE 「証明」
Name: 村岡凡斎◆45ff140f ID:697d6d9c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/30 23:28


  ―――― * * * ――――


「デュシスの森……?」

聞きなれないその名前に、ゼロは首を傾げる。「ええ、そうです」とエルピスがそれに答えた。

「こちらを見てください。協力関係にあるレジスタンス組織から頂いたものです」

エルピスはルージュに、そのレジスタンスから送られてきた画像データを送信するよう命じた。
画像が送られて来たことを確認すると、ゼロはそれを眺める。人工物ではあるが、緑が生い茂る森林地帯。その奥に、似付かわしくない無機質な建物が僅かに見える。

「こいつは……」

「おそらく、ネオ・アルカディアの秘密研究所でしょう」

確証があるわけではないが、マップデータ上でデュシスの森の位置を見る限り、あまり戦略的に価値のある場所ではないように思われる。そんな場所に立てる施設と言えば、秘密研究所やそれに伴なう実験施設といったものの可能性が高い。

「ゼロさんの今回のミッションは、音信不通となってしまった彼らの調査隊――――おそらく全滅していると思いますが――――の捜索と、デュシスの森にあると思われる秘密研究所の調査及び、必要であれば、その破壊です」

それだけ知らせると「それではお願いしますよ」と映像通信を一方的に打ち切った。

「なんだかご機嫌がよろしくないように見えたのですが……気のせいでしょうか?」

ペロケがエルピスの様子を心配して問いかける。ゼロは「さてな」と肩をすくめた。

「大方、先日のマゴテスの一件が気に食わなかったんだろう」

ゼロのみならず、白の団に対するマゴテスの裏切り行為。そして白の団司令官であるエルピスに相談することなく行われたペロケとの極秘作戦。エルピスが気分を害する要素は確かにあった。

「悪い影響が出なければいいのですが……」

「まあ、あいつも“一人のまともなレプリロイド”だってことさ。気にしたって仕方ない。情報の整理、よろしく頼むぜ」

そう言って部屋を出てゆく。ペロケは「了解しました」とキーボードに向かい、白の団より送られて来たデータの整理を始めた。
なんとも奇抜な名前を付けたものだと呆れながら、ゼロはエルピスから聞かされたその名をもう一度だけ呟く。

「デュシスの森……ねぇ……」

聞き慣れないものは、言い慣れるにも時間がかかるのだろうと思いながら、頭を掻いた。





















 14th STAGE










         証明


























  ――――  1  ――――


過去の戦争が原因となり、荒廃してしまった大地。しかし、影響の少ない地域というのは確かにあり、ここデュシスの森と呼ばれる森林地帯もその一つだった。
とは言え、この森が“本当の自然”であったのはさらに――――それこそ、レプリロイドの先祖とも言うべき自立思考型ロボットが誕生するかしないかという程――――昔のことであり、既にその九割以上が機械化されていた。だが、現在の厳しい環境に耐え、森としての形を保っていられる理由がそこにあるのだ。

手前の岩場でライドチェイサーから降りる。風呂敷のような布を上から被せ、スイッチを押す。すると、光学迷彩が作動して周囲の風景に溶け込み、ライドチェイサーの車体は視覚的に隠蔽された。

茂みへと足を踏み入れる。
そこら中に生えている草や、曲がりくねった形で成長している樹木、それに生い茂った葉、垂れ下がった蔦などが不気味さを感じさせる。

「デートコースには…あまりよろしくないかもな」

ゼロがそう冗談めかして笑うと「『あまり』っていうか、全然よくないわよ」とレルピィは不満そうに口を尖らせた。
マップデータを確認してみる。研究所と思われる施設の正確な位置データまでは取得できなかったようだが、ジョーヌ達の解析から凡その見当はつけられているので、最終的にはそこへ向かえば良い。とりあえず一応とは言え、まずは調査隊を探すところから始めなければならない。
奥地へと進むに連れ、道が迷路のように入り組んでゆくのが分かる。正確な経路情報を注意して記録しながら進む。
やがて、さらに奥深くへと進むと、昼間だというのに日差しの明るさがまるで感じられない程、周囲は薄暗くジメジメとしてゆく。

「……さて……ここが敵の勢力圏内って言うんなら…そろそろ――――」

続きを言いかけたところで、突如、ゼロへとエネルギー弾が放たれた。その弾道を一瞬で読み、素早く躱す。
茂みから現れたのは数十機のメカニロイドだった。

「噂をすれば…ってやつだな」

「じゃあ、しなきゃよかったのに」と尚も不満そうなレルピィに「ちょっと静かにしとけよ」とコアユニットへ入るよう促す。そしてそれを確認すると、左手へと右手を添える。
刹那、ゼロは緊急加速装置を作動させ、敵陣の懐へと潜りこむ。その速度に反応できるものは勿論いない。そして、抜き出す勢いそのままに居合い斬りをお見舞いすると、五機ほどが同時に両断された。

そこからの手並みはいつも通り鮮やかなもので、放たれる敵の弾に掠り傷一つ負うこと無く、あっという間に敵のメカニロイドたちを全滅させた。

「あたし……ちょっと敵のメカニロイドが可哀想になったわ」

「おいおい、同情なんかくれてやるなよ。あっちもこっちも果たすべき使命と覚悟があってのことだぜ?」

更に先へと進んでゆく。急にゼロは木の影に身を隠した。レルピィも慌ててその後ろに隠れる。
目を遣ると、緑色にカラーリングされたパンテオン達が地を這うように蠢いていた。その手には鋭く大きな爪を装備しているのが分かる。
しばらく見ていると、何かを探すようにあたりを見回しているのが分かった。

「……生存者の捜索中か」

どうやら敵も、万が一の生き残りですら赦すつもりはないらしい。それだけ重要なものがここにはあるのだろう。
ゼロは再びゼットセイバーに刃を形成させると息を整える。

「ダーリン、上!」

斬り込もうとしたゼロの頭上から、一機のパンテオンがその爪で斬りかかってきた。レルピィのおかげか、ゼロは危なげなく躱すとゼットセイバーで一太刀のもとに斬り伏せる。

「サンキューな。……けどまあ」

既にパンテオン達がこちらを向いている。

「先手は取れなかったみたいだ」

そう言いながら不敵に笑い、パンテオンの群れへと斬り込んだ。
奇声のような声を上げながら、草むらから次々と飛び掛ってくる「パンテオン・ホッパー」部隊。不規則なリズムによる集団攻撃は、これまで相手にしてきたパンテオンとは戦闘パターンが全く異なっていた。だが、ゼロの感覚を持ってすればその程度のことは問題とならなかった。向かい来る敵を次々と斬り伏せ、十分とかからない内に全滅させてしまった。

「さてと……こんなもんか……」

そう言いながら、ゼットセイバーを軽く一振りして左腕に収納する。見事な手際に感嘆するレルピィを他所に、更に先へと進んでゆく。すると奇妙な場所にたどり着いた。
息を飲み、辺りを見回す。そこは、木々が乱暴に倒され、足元を覆っていた草は荒らされ、隠れていた茶色い土がむき出しになっている。カーブを描きながらも一本の道のようにして、そうした光景が広がっていた。まるで、巨大な何かを引きずったように。

「ねえ、ダーリン……あれ」

レルピィが差し示す方へと目を凝らす。そこには数体のレプリロイドが倒れているのが見える。その服装から、おそらくレジスタンスの調査隊であることは分かった。
しかし、一人として無事な状態ではなく、ある者は胸に大穴が空き、ある者は腰から下をなくしていた。ゼロはいったい何があったのかを推測するために、彼らに近寄り、傷の様子を確かめようとした。――――瞬間、背後の樹木が鈍くも激しい音を立てながら倒された。そして、自分へと迫り来る巨大な何かを既の所で躱し、ゼロはその正体を確認する。

そこに現れたのはヘビ型の巨大メカニロイドだった。
大きな牙に紫色の瞳。鱗のような深緑の装甲。ブロックのような塊が数珠のように繋がり、長い身体を形成している。
周囲の状況から見て、こいつが調査隊を襲ったのだろう。

「番犬にしちゃ、図体がデカすぎると思うがな」

不敵に笑いながらそう言うと、ゼロはゼットセイバーを手に、立ちはだかる大蛇の懐へと飛び込んだ。



























  ――――  2  ――――


「ちょっとハル、話を聞いて」

足早に議事堂の廊下を歩いてゆくハルピュイアを、レヴィアタンは引きとめようと声をかける。
しかし、一向に聞く耳を持たない彼に対し、仕方なく歩きながら話を切り出す。

「ファブのことだけど……。…確かにあいつは馬鹿な事をしたと思うわ。紅いイレギュラーを倒すためとは言え、四天王としての職務を忘れて私闘に興じた挙句、敗北まで喫した……。もう……本当にただの馬鹿よ…」

先日の紅いイレギュラーとの戦闘に関して、元老院と四天王リーダーであるハルピュイアとの間に協議が行われた。
そしてその結果、「感情に任せた身勝手な行動による職務放棄」と「救世主の守護者でありながらの敗北」と言った失態から、ユグドラシルの地底深くに設置された「特殊監獄ヘルヘイム」第九階層への一時的拘束と一ヶ月の謹慎処分が決まった。

「――――けど、そこまでの処分が必要かしら?」

元老院との決定に、レヴィアタンは異を唱える。

「“四天王として課された職務と使命の放棄”は勿論、重大な問題よ。……けれど……」

少しだけ言葉に迷う。感情のままに述べるべき事柄ではない。

「……けれど……本当にあいつは馬鹿だと思うけれど……私は…あいつの気持ちをもう少し理解してあげてもいいと思う」

同じく四天王計画から、救世主のDNAデータを元に生まれたレプリロイドであり、それは言わば兄弟同然の存在とも言える。強い仲間意識を持って行動する必要があるとは決して思わないが、それ程弱くもない絆を無下にすることもないと彼女は思っていた。
だがそんな訴えも届いているのか、一言も返事をせず、ハルピュイアは黙々と廊下を歩く。

「ちょっとハル!」

そんな様子に、やがて腹が立ってきたらしく、レヴィアタンも語気を強めてその名を呼び始める。
すると、後ろから「お待ちを、レヴィアタン様」と彼女を呼び止める声がした。その声の主は、ハルピュイアの腹心を務めるミュートスレプリロイド、“三羽烏”長兄、アステ・ファルコン・アインだった。

「ハルピュイア様は決して処罰することだけ考えていたのではありません。むしろ、元老院の追及から養護したのです」

「え?」

予想外の事実に、レヴィアタンは思わず足を止める。

「元老院が提示しようとした処分は『精神プログラムの精密検査と“再教育”』。また他にも『戦略研究所への実験素材としての提供』という案まで用意しておりました」

“再教育”――――即ち、精神プログラムの調整や、最悪の場合は消去からの再構築という作業である。人格データに問題ありとされた場合に行われることが多く、“イレギュラー処分”と同程度の処分と考えて良かった。
ファーブニルに関してはその設計思想が既に問題視されており、元老院は機会さえあればそのような措置をとろうと窺っていたのである。

「元老院側の処分を予期し、ハルピュイア様は四天王リーダーという身分から、それを切りだされるより早く、自ら今回の処分を提案。元老院側も『それだけ重い処分であれば』と、なんとか話が落ち着いたのです」

「余計なことをベラベラと喋るな、アイン」

ようやく口を開いたハルピュイアにそう叱咤され、アインは「申し訳ありません」と頭を下げる。

「ハル……あなた――――……‥」

「別に、あいつのためにやったわけではない」

無愛想にそう言いながら、廊下の柱を抜け、中庭へと出る。そして、アインに飛行形態へと変形するよう促した。

「元老院議長……特にヴィルヘルムは我々を追い落とそうと画策している節がある」

四天王へのライバル心からか、それとも他の何かがあってのことか――――とにかく、元老院の中でも彼は“反四天王”という立場に強く傾いており、それに寄り添う者も決して少なくない。ハルピュイアはそれを気にしていたのだ。

「我々の使命は、エックス様がこの百年間抱き続けた正義を貫き、護り続けた人間をこれからも護り抜く“力”となること。……だが、その使命も俺達四人が揃ってこそ達成できると、俺は信じている」

変形したアインの背に足をかける。

「奴の行動を赦すつもりはないが、こんなことの為に奴を失う訳にはいかない。――――四軍団中最大規模を持つ塵炎軍団の今後の士気と、その動きにも関わるしな」

アインが浮遊を始めると風が巻き起こり、羽織ったマントがバタバタと音を立て始める。ハルピュイアは帽子を抑え、レヴィアタンの方へようやく視線を遣る。

「貴様も用心しろ、レヴィアタン。俺達が生まれてからの“十年”という土台は、思った以上に頼りがないぞ」

そう言った後「俺はこのまま任務に向かう」と、ハルピュイアはアインの背に乗ったまま、空高く飛び去って行った。その姿を、レヴィアタンは黙って見送った。
遠方の地域へ足を運ぶのに空間転移装置を使わず、清々しく広がる青い空を選んだのは、彼もまた煮え切らない想いを堪え、静かに葛藤していたからだろう。
とは言え、そういった考えなどについて一言くらい相談があっても良かったのではないかと思ってしまう。

「男って…ホント……」

肩をすくめながらそう呟くと、苦笑のような微笑みを浮かべた。






























  ―――― * * * ――――


思いもよらぬ侵入者の登場に、この秘密研究所を預かっているミュートスレプリロイド――――ヒューレッグ・ウロボックルは驚愕した。よもやこのような所にかの紅いイレギュラーが現れようとは。管制室にて森の至る所に配置された監視カメラ、その一台の映像を睨みながら、コブラを模して造られたその頭部に焦りの色が滲む。
ファントムより下された二つの密命。それらをこの状況において、共にクリアするのは非常に困難である。ウロボックルは何度か考えを巡らせた後、意を決する。

「たとえ紅いイレギュラーであろうと……優先すべきはここの秘匿だ」

そう言って「シャーッ」と唸ると、研究所内に配備されていたパンテオンとメカニロイド達に出撃命令を下した。
大蛇型のメカニロイド――――アルトロイドの性能を疑うつもりはないが、どれだけの戦力を裂こうと無駄なことはないだろう。敵はそう言う相手だ。

「もしもの時は俺が出るしか無いだろうがな…」

万が一の時には命を賭してでも始末をつけなければならない。ウロボックルは自身の主を思い浮かべると、その使命を必ずや果たすことを誓った。








蛇の体を形成するブロックの中心にある紫色のクリスタルが輝きを放つ。そこから自身へと発射されたレーザーの一斉射撃を華麗に交わすと、ゼロはゼットセイバーで大きく斬りつける。
だがその瞬間、ブロックは連結を解き、独立して浮遊を始めた。

「なかなか……楽しませてくれる!」

ゼロを中心に、囲むように陣形を組むと、そこからまた一斉にレーザーの連続攻撃が始まる。二発、三発とセイバーで防ぎ、地を転がるようにして躱すとその内の一つへと跳びかかる。だが、今度はそれを察知してブロックは瞬時に集まり一繋ぎに連結する。そして、大蛇の首が大きく口を開け、ゼロへと襲いかかる。
素早く地を蹴り、飛び退く。それに対し、側面に向いたクリスタルからレーザーが発射される。ゼロはまたもゼットセイバーでそれを弾いた。

「ダーリン、あっちにも!」

レルピィが示す方――――秘密研究所の方角からメカニロイドとパンテオンの軍勢が現れる。その数は百機近く、背後にはゴーレムの姿が五体ほど確認できる。
このような場所に良くもこれだけ部隊を裂いたものだと呆れながら感心しつつ、余計に何が隠されているのかが気になりだした。

「気の乗らない任務だったが……だいぶ面白いことになってきたじゃないか…」

ゼロはニヤリと笑い、メカニロイド達からの集中砲火を躱す。それから大蛇が放つレーザーを掻い潜り、パンテオンの軍勢へと飛び込み、高速回転斬り「円水斬」により近づく敵を薙ぎ払う。
周囲のパンテオンを気にも留めず、大蛇はゼロへと向かい口を開けて襲いかかる。ゼロがその場から上空へ跳ぶと、周囲のパンテオンだけが犠牲となる。そしてそのまま大蛇の身体へと着地した。

「それなりの乗り心地だな……。ぶち壊すのがもったいないぜ…」

大蛇へのダメージを厭わずに、強化型のゴーレムが放つ雷を纏ったレーザーを、ゼロは大蛇の背を駆けながら躱す。その途上、ゼットセイバーを左腕へと収納する。そして左腕へとエネルギーを蓄積する。
しかし突如、己の危機を察知したのか、大蛇の身体は再び分離した。ゼロはブロックの一つに振り落とされないよう慌ててしがみつく。だが、それすら計算済みである。

「まずは一つ!」

左腕をブロックへと打ち付けエネルギーを直下に放出する。アースクラッシュのエネルギーを応用した必殺技――――天照覇の激しい輝きがブロックを貫き、真下にいる敵部隊までも破壊した。
それからヒラリと華麗に着地すると、またしても地面へと、今度は右腕を打ち付ける。もう一つのアースクラッシュ応用技、落鳳破がゼロへと襲いかかる2つのブロックと取り囲むメカニロイドたちを破壊する。

「一気に三つまで…か。それで……達磨はあと何個だい?」

挑発するようにそう言うと、怒りのままに唸る蛇へとゼットセイバーを再び構えた。



























  ――――  3  ――――


アルトロイドの反応が完全に消失する、その後次々と部隊が損耗していき、最終的には全滅となってしまった。残ったのは紅いイレギュラーの反応ただ一つのみである。

「これほどまでとは……クソッ」

ウロボックルは戦闘態勢に入る。研究所内の隔壁を作動し、通路を遮断する。とは言え、ゼットセイバーとアースクラッシュの前では大した時間稼ぎにすらならないだろうことは容易に予想できた。
だが、一つの“カモフラージュ”としての効果は期待できるだろう。

どの様な手を使おうと、どれだけの犠牲を払おうと、ここにあるものを見られる訳にはいかない。たとえ見られたとしても、その詳細な情報を外部へと持ちだされるわけにはいかないのだ。

「――――そう、どれだけの犠牲を払おうとも……な」

そう呟くと、管制室の扉から廊下へと足を踏み出し、戦場へと赴いた。









敵の残骸を避けて歩き、研究所の扉へと忍び寄る。壁に耳を当て、聴覚センサーのポテンシャルを最大限に活用する。だが、中では工場の機械のような、特に大きなものが動いているような気配はない。

「どうやらこの目で確かめるしかないようだな……」

ゼットセイバーに炎を纏わせ、ロックされた扉を乱暴に溶かし斬る。そのまま蹴破り、中へと足を踏み入れた。
警報は鳴らない。無論、既に侵入は気付かれているため、そんなものを気にしたところで何の意味もないのだが。
そのまま周囲に気を配り、奥へと進む。予想した敵の部隊は一向に現れず、施設の中はすっかり静まり返っていた。とは言え、部隊を指示していた者がいたはずだ。用心は怠れない。

目の前を閉ざす隔壁に左腕を添える。そして、小さくエネルギーを発し、溶かし破ろうとした――――その瞬間、隔壁を破るようにして二本の腕がゼロに向かい、高速で伸びてきた。
それらはゼロの身体を捉え、一気に引き戻る。ゼロは隔壁に勢い良く押し付けられた。

鈍い痛みが頭部に走るがそれに構わず、左腕からエネルギーを放つ。隔壁を破れたが、そのままゼロの身体は引きずられてしまう。その先には腕の主であるミュートスレプリロイド――――ヒューレッグ・ウロボックルが立ちはだかっていた。

「これ以上先へは通さんぞ、紅いイレギュラー!!」

そう叫ぶと伸ばした腕を振り、力尽くでゼロの身体を投げ飛ばす。横の壁に窪みができるほど強く叩きつけられた。
痛みに耐え、ゼロは立ち上がる。

「ここまでされると俄然興味が湧くな……ここに何があるのかにさ」

地を蹴り、一気に頭部へと斬りかかる。だが、ウロボックルは地を這うようにその斬撃を躱すと、長い腕を無理やり回してゼロの身体を殴りつける。遠心力を活かしたその衝撃は、細い腕に似合わぬ威力を発揮する。ゼロはまたしても反対の壁へと叩きつけられる。
「チッ」と舌打ちと共にウロボックルを睨みつける。すると、視界を覆うようにスプリング状の物体が六つ程飛んできた。そしてそれはゼロの身体に触れると共に爆発する。一発一発の威力は小さいが、複数が同時にヒットすることでその効力は高められた。
爆発により突き破られた壁。その奥へと倒れこむゼロ。立ち上る煙の中を睨み、ウロボックルは警戒する。――――と、眼前に何かが高速で投げ飛ばされる。ウロボックルはそれを咄嗟に弾き飛ばした。

「……瓦礫………っ!」

一瞬の隙を突き、ゼロの刃は右腕を断ち斬る。ウロボックルはそれに怯むこと無く冷静に痛覚を遮断し、痛みを遮ると、そのまま左腕で殴りつけた。
ゼロはそれを察知し、飛び退く。そして得意げに笑う。

「悪いが…先に行かせてもらうぜ」

一瞬の攻防の中、ウロボックルとゼロの立ち位置が逆転した。ゼロは施設内にある“何か”を探索することこそ優先すべきと判断し、ウロボックルを警戒しつつも、背を向け駆け出す。眼前を塞ぐ防壁をゼットセイバーで斬り破ると、後方――――ウロボックルに向けて左腕を地面に押し当てる。瞬間、激しい閃光がその場を包む。ダメージを与えるほどのエネルギー波を放ちはしなかったものの、その光量は視覚センサーに影響を及ぼすだけの威力を発揮した。
ウロボックルは目を覆いながら「待て」と声を荒げるが、ゼロは既に奥へと行ってしまった。

一人その場に取り残されるウロボックル。だが、彼は焦るどころか悠然と斬り落とされた右腕を拾い、切断面に押し当てる。そのまま体内の自己修復機能をフル稼働させ、応急処置を済ませた。

そして不敵な笑みを浮かべ、背後にあった壁に手を押し当て、そこに現れた隠し扉の奥へと消えた。











施設内を走りまわり、それらしき扉を見つけては蹴破る。だがその度にゼロを出迎えるのは静かに待機していたパンテオン部隊ばかりだった。
今も何度目かの銃撃を躱し、頭脳ユニットには傷をつけないよう注意を払い、横一線にその首を斬り伏せた。それから床に転がった首を一つ手に取ると、レルピィを脳内に侵入させる。
必要となるマップデータを取得したいのだが、サーバーにハッキングしようにも、端末らしき物ですらひとつも見当たらない。苦肉の策として、パンテオンが記録しているマップデータを利用しようと考えたのだが、ここまで全て空振りに終わっていた。
しばらくした後、レルピィがパンテオンの脳内からコアユニットへと戻る。

「ダメだわ。このパンテオンも、施設の正確なマップデータを所持していない」

「仕方ないな……自力で行けってことだろ」

とは言うものの、余りにも手掛かりが無さ過ぎて何処へ向かえばいいのかも分からない。そもそもここまでで何も見当たらないというのが不自然過ぎる。既に二階フロアまで扉らしきものは全てこじ開け、可能な限り制圧し尽くした筈だ。
施設の外観と、ここまで自分の足で掻き集めたフロアのマップデータを照合するが、これ以上何か研究できるようなスペースは考えられない。最上階となる三階フロアに至ってはそれだけの広さを備えている様子すら無い。

「これだけの施設を作りながら、空室ばかり作りやがって……贅沢なもんだな、ネオ・アルカディア」

皮肉めいた愚痴をこぼしながら、一応の確認のため三階へ上がろうと階段を登ってゆく。ふと、足元に何かが転がる。

「これ…は……――――……‥っ!!」

それは先程ウロボックルから投げつけられたスプリング状の爆弾だった。見上げると階段の上から、十数個のそれが飛び跳ねながら一気に落ちてくる。その更に上には先程下の階で撒いた筈のウロボックルの姿が確かに見える。

「弾け飛べぇ!」

その掛け声と共に、着弾したスプリングが一斉に爆発する。その衝撃に弾き飛ばされ、登りかけた階段から転がり落ちた。
だが、それだけでウロボックルの攻勢は終わらない。スプリング状の爆弾を絶え間なく投下する。連続した激しい爆発に、とうとう二階の床は崩落し、ゼロはそのまま瓦礫と共に一階へと落下した。

施設内を移動するための空間転移装置が何処かに仕掛けられていたのだろう――――そして三階へと先回りし、待ち伏せをした。その可能性について考えておくべきだったと、痛む体を抑えてゼロは苦笑する。
しかし、最も引っかかるのは、これだけ派手な攻撃を少しも躊躇うこと無く実行するウロボックルの戦術であった。ここが秘密研究所であり、秘匿すべき何かが本当にあるというならば、このような攻撃をするべきでないことは誰にでも分かる。
そしてゼロが辿り着いた結論は単純明快だった。

「ブラフか……この施設は…」

「如何にも。その通りだ、紅いイレギュラー」

三階からゼロを見下し、ウロボックルはチロチロと特有の長い舌を踊らせ、嘲笑を浮かべる。
ここに建てられた研究所らしき施設の全てがただのハリボテだったのだ。おそらく、真に隠している“何か”はこの周辺の何処かだろう。調査隊も、ゼロも、まんまと策にはめられたというわけだ。

「お前に選択権をくれてやる。――――今すぐここを去るか、俺の攻撃で死を迎えるか。無論、逃げたとてそうそう楽に帰してやるつもりはないがな」

「俺は逃げも隠れも…してやるつもりはない」

ゆっくりと立ち上がり、ゼットセイバーを構える。

「勿論、殺されてやるつもりもないがな」

「…シャー……減らず口を…」

睨み合う二人。だがそんな中、ゼロは表情を変えること無く、ある違和感に対し考えを巡らせていた。

――――何故、奴は攻撃を止めた?

施設が完全にハリボテであるというならば、不意打ちから続く攻勢の手を緩める必要はなかった筈だ。
上の階に陣取っている分、地の利は奴の方にある。だというのに、奴は敵を追い詰めた爆弾による攻勢を止め、こちらをただ見下し、動向を観察している。
また、挑発の中に――――それがどれだけのつもりで挙げたのかは不明だが――――「去る」という選択肢を含ませていた。万が一、ゼロが逃げ延びた場合、周辺にあると思われる本当の研究施設が発見される恐れは間違い無くあるというのに。

考えられる事実はひとつ。無意識に述べたのだろうが、“その発言”こそ本心ではないだろうか。つまり、ゼロをこの場から遠ざけることこそが、奴にとっての最優先事項。
勿論、それ程意味のない戯言という可能性は否定できない。だが、攻勢の手を緩めた事実と、こちらの動向を窺っているような現在の状況が、この推測を強く裏付けている。

――――ならば……間違いない…

真の研究施設は間違いなくこの場所のどこかにある。或いは、この施設の何処かから転送可能な場所にある。そしてその鍵は……――――止んだ攻勢こそが示していた。確たる証拠は何処にもないが。

「……レルピィ」と名を呼ぶ。レルピィはゼロを見つめる。

「ちょいと賭けをしようと思うんだが……着いて来てくれるか?」

突然の呼びかけに、一瞬呆気にとられてしまったが、レルピィはその意図を汲み取ると、強く頷く。

「何処にだって着いて行くに決まってるでしょ」

その言葉を聞き、ゼロは意を決する。
ゼットセイバーを仕舞い、左腕にエネルギーを蓄積し始める。
状況からの予想に反した、その行動にウロボックルは驚き、目を見開く。そして、その行動の意図に勘付く。
瞬間、それまでの冷静な態度とは一転、鬼のような形相で両腕を伸ばす。

「やめろォぉオオォぉ!!」

その叫びが届くかどうかという刹那、ゼロは左腕を地面へと突き立て、蓄えたエネルギーを直下へと放出した。
すると、激しい光と爆音の中、一階の床はゼロ共々見事に崩れ落ちた。




そこに広がる地下空間へと、真っ逆さまに。




























  ―――― * * * ――――


内心、怒りが燻っていることを隠すことは出来なかった。
雲の上を進むアインの背に掴まり、空を仰ぎ見る。自然とハルピュイアは眉間に皺を寄せていた。

ファーブニルの愚行。――――己の預かった軍団を投げ出し、私闘に興じた挙句、紅いイレギュラーを倒せなかったどころか、その生命までも見逃してもらった。四天王の長として、屈辱を感じずにはいられない。
元老院――――特にあのヴィルヘルムに対し、弱みを見せてしまったことも、彼としては呑み込み難い事実であったし、その失態を擁護しようと詰め寄ってきたレヴィアタンに関しても不満を感じてしまう。

――――だが……

眉間に入っていた力を解き、溜息をつく。
最も屈辱的であるのは、そのファーブニルを赦す気になってしまった自己の存在であった。

『私は…あいつの気持ちをもう少し理解してあげてもいいと思う』

先程のレヴィアタンの言葉が耳の奥で反響する。
ファーブニルの気持ち――――それは単純に言えば“闘い”を望む気持ち。
正直、それ自体には全く理解を示すことができない。救世主の守護者たる四天王としての生を受けたというのに、己の欲望と衝動に突き動かされるまま行動したというのは、彼にとって許しがたい“悪行”である。

だが……それでは何故、ファーブニルは“闘い”を望んだのか。

快楽や悦楽を求める心を満たすため? ――――それもあるだろう。だが、そのような気持ちだけで四天王としての使命を放棄する程、あの男が愚かではないということくらい、ハルピュイアにはよく分かっていた。
では、彼にとっての“闘い”とは何か。
目を細めながら、照らす陽を見つめる。

答えはただ一つ、“存在の証明”である。

“闘い”を宿命付けられ、“闘い”の為に作り出された以上、“闘い”を通すことでしか己の存在を証明することはできない。
そして、ファーブニルにとって“救世主の守護者”という役割を超えた所にそれはあった。そしてその証明を満たし得ると判断した相手が“紅いイレギュラー”だったのだ。

いや或いはその宿命に、“救世主の守護者”という役割を超えさせた存在があの男なのかもしれない。

いずれにしても、彼はそれを求め続けていた。自己の存在を証明し得る“闘い”を。
そして、紅いイレギュラーとの決闘こそが、ファーブニルにとって存在の証明と成り得たのだ。

――――ならば……“僕”はどうだ…?

懐から自身の愛刀、専用ビームサーベル「ソニックブレード」を手に取り、その柄を見つめる。
“救世主の守護者”――――それはファーブニル同様役割にすぎなかった。

その役割を負う自身の“存在の証明”足り得るものは他にある筈だ。
頬切る風を感じながら、自問自答をする。だがどれだけ考えようと、辿りつく答えはただ一つである。

――――それは……「正義」

救世主エックスの「正義」、そしてそれを行使することこそが自身の存在の証明。自分はそれを守り、行うために生まれてきた。
では、その「正義」が真であることは何が証明するのか。
ソニックブレードを強く握り締める。

「僕は……“俺”は……」

その答えもただ一つ。
その「正義」が真であるならば、その「正義」を貫き続けるほかない。敗北も、屈することもあってはならない。何故ならそれが「正義」だからだ。

どれだけの犠牲を払おうと、その「正義」こそが存在の証明である以上、その「正義」を証明し続けなければならない。
そう、“どれだけの犠牲を払おうと”――――たとえ幾千の同胞の血を流し続けようとも…だ。

「俺は……負けんぞ」

“存在の証明”を果たすがために闘ったファーブニル。しかし、その心を理解していても尚、怒りと屈辱を感じてしまうのは、ハルピュイア自身の“それ”に反したが為であろう。
「難儀なものだな」と自嘲気味にニヤリと笑う。そして、ソニックブレードの柄を懐へと仕舞った。

















  ――――  4  ――――


地下深くに広がる真の研究施設。ゼロが落下したのは、その廊下部分だった。
そして瓦礫を押し退け、すぐ傍にある壁をとりあえず突き破ってみたところで、ゼロの足が止まる。

「これは……‥?」

その奇妙な光景に言葉を失う。
仄かな灯りの中、三列ほど置かれた机の上には、毛髪や他の装飾が一切付加されていないレプリロイドの頭部だけがそれぞれ十数個ずつ整列されている。そして、一つ一つの頭部から伸びる数本のコードが、設置された謎の機器へと繋がれていた。
よく目を凝らすと、それらの閉じられた瞼からは何か光る雫が流れているのが見える。おそるおそる近づき、確認する。――――それは“涙”だった。
並べられた頭部、そのどれもが閉じた瞼から涙を絶えず流し続けていた。

「どういう……――――……‥ッ!?」

呆気に取られていると、後方から伸びる二本の腕がゼロの身体を捉える。そして、そのまま一気に引き戻される。

「なにか面白いものでも見つけたか、紅いイレギュラー?」

ゼロを絞めつけたまま、ウロボックルが尋ねる。暗くて顔は良く見えなかったが、その声は焦りを滲ませていた。

「答えろ……あれは何だ?」

「貴様が知る必要のないものだ!」

反対側へと投げ飛ばされ、瓦礫に身体が叩きつけられた。
だが全身を駆け巡る痛みよりも、ゼロの頭は先程の光景のことだけで一杯だった。
涙を流し続ける、四十近くの生首。一体何がなにやら分からず、混乱だけが思考を埋め尽くす。

「…あれが隠していたもの…か?」

「どうだかな。それを教えるほど愚かではないぞ。…シャー!」

スプリング状の爆弾を投げ込む。ゼロは着弾する前にそれを斬り払い、ウロボックルへと跳びかかった。
しかし剣先が届く寸前で、ウロボックルの腕がゼロの身体に巻き付き、身動きを封じる。

「少なくともこの地下施設を隠していたことは事実だ。故に、貴様を生かす訳にはいかなくなった!」

突如、ゼロは体の力が抜けてゆくのを感じる。逆に、ウロボックルのエネルギーは増大してゆき、排熱機構と冷却装置がフル稼働している。
ウロボックルはその両腕からエネルギーを吸収していたのだ。
だが、身体が弱っていくのを感じながらも、ゼロはニヤリと笑う。

「俺と“そう言う勝負”をしようって言うのは…些か迂闊ってもんだぜ?」

両腕のジェネレーターをフル稼働させ、アースクラッシュのエネルギーを蓄積してゆく。するとその莫大なエネルギーがウロボックルの身体へと吸収されていった。

「……成程…確かに容易に許容しうる量ではない……しかし!」

オーバーヒート寸前の状態に耐え、それでもエネルギーの吸収速度を緩めることはなかった。しかし、ゼロの身体も無事ではない。普段ならば一瞬にして放出するはずのエネルギーを絶えず生み出し続けているのだ。その負担はかなりのものである。

「我慢比べと行こうじゃないか!」

悲鳴を訴える身体に構わず、エネルギーの生成を続ける。ウロボックルもまた、関節部から吹き出る煙に臆さずに、その腕を緩めること無くエネルギー吸収攻撃――――ポイズンホールドを続ける。
互いに歪む表情。だが、それでもエネルギーの生成と、その吸収という静かな攻防は続く。

そして数分に及ぶ攻防の末、決着の時が来る。

「つぁ…ッ!!」

発する熱にゼロの腕が煙を吹き始めた頃、ウロボックルの関節部から火花が走り、やがて両腕が肘のあたりから焼け落ちる。そして背中からも、排出し切れなかった熱にやられたのか、焼け焦げた匂いと共に煙が立ち上った。
力が抜けた腕を振り払い、ゼロは僅かな力を振り絞り、フラフラな身体で地を蹴り、ウロボックルの身体へと体当たりをお見舞いする。そして馬乗りになり、ゼットセイバーの切っ先を喉元に突きつけた。

「……もう一度……問う………あれは……何だ?」

息を切らしながら、震える口を動かし、ゼロは問いかける。だが、ウロボックルは答えない。そしてその代わりに高笑いを上げた。

「何が……おかしい?」

ゼロは眉をひそめる。ウロボックルは一仕切笑い終えると、「クックッ」と嘲るような表情をする。

「いや、何……それよりも貴様は他に問うべきことがあるのではないかと思ってな」

心中を言い当てられ、ゼロは「チッ」と舌打ちをする。そして素直に“それ”について尋ねることにした。

「何故…俺を……殺そうとしなかった?」

先程のポイズンホールドは確かに必殺の技であった。だが、この地下施設を見つけるまでの攻撃は、どれだけ激しかろうと、ゼロを撃退こそすれ、完全に命を奪うつもりがあったとは思えなかった。
もしも本当にこの場所を隠し通すことこそが彼にとっての使命であるならば、必殺の技を出し惜しみする必要など無かったはずである。

「……一つ、教えてやろう。貴様にとっても屈辱的な事実を」

尚も、嘲笑いながらウロボックルはその答えを口にする。

「貴様はな……生かされているんだよ。とある命により……な」

「なっ…?」

衝撃的な事実に、ゼロは戸惑いの色を隠せなかった。
“とある命”とは誰から下されたものであるのか。その理由はなんなのか。だが、それ以上問い詰めようと、ウロボックルが答えてくれる気配は一向に無かった。痺れを切らし、ゼロはゼットセイバーを握る手に力を込める。

「……お前の頭を持ち帰るしかなさそうだな」

「…………もう一つ良い事を教えてやろう」

その言葉に、首を斬り落とそうとしたゼロの腕が止まる。それを確認すると、何を思ったのかウロボックルは「フッ」と微笑んだ。そして、静かに口を開く。

「……俺は斬影軍団の一人、ヒューレッグ・ウロボックル」

斬影軍団――――四軍団の内、最も少数により構成された隠密部隊。将であるファントムの命あらば、身の危険も厭わず使命を全うする忠臣のみで構成された精鋭部隊である。
そう……如何なる無理難題であろうと、ファントムからの言葉であれば、必ずや果たさなければならない。この身は、ただそれだけの存在であり、それこそが存在の所以なのだとウロボックルも含め、全ての軍団員が理解していた。

――――如何なる犠牲を払おうとも、任務を遂行する。それこそ我が忠義の証……

たとえそれが自身の命であっても――――……‥

「…この施設の自爆装置は五分で作動する。気張れよ、紅いイレギュラー」

そう言うと、上体を無理やり起こし、自らの頭部をゼットセイバーの刃へと押し当てた。
困惑するゼロを他所に、ウロボックルの頭部は真っ二つに切り開かれてしまった。――――その瞬間、施設内を赤いランプが激しく彩り、警報がけたたましく鳴り響く。

「ダーリン、これは!?」

「野郎っ! やってくれる!」

おそらくウロボックルの死と共に自爆装置が作動する仕掛けだったのだろう。
不明な事だらけで戸惑うばかりだが、ただ一つ理解できたのは先程の台詞。

『この施設の自爆装置は五分で作動する』

先程の部屋を詳しく調査しようにも、その時間はない。
ゼロは急いで立ち上がると、耳を劈くようなエマージェンシーのコールに耐えながら、力の抜けた体を押して、なんとか瓦礫の山を駆け登り始めた。






























  ――――  5  ――――


「……それで、施設からは何も見つけられないまま、自爆されてしまったんですね」

映像通信でジョーヌへと事の顛末を報告する。傷ついたゼロの身体を心配そうに見つめると、ジョーヌは「大丈夫ですか?」と声をかける。

「まあ、傷の方は大したことない。それより任務の方な……そういう訳だから、エルピスには『期待に答えられず申し訳ない』と伝えてくれ」

「分かりました。――――ゼロさんも、無理しないでくださいね。先日の闘将戦といい、戦闘続きですから……。少しお休みになってください」

そう言って優しく笑うジョーヌに、「敵わないな」とゼロは苦笑する。
「それでは」と一言交わし、映像通信を終えた。

「ゼロさんにしては珍しいですね。本当に疲れが溜まっているんじゃないですか?」

ペロケが心配そうに尋ねる。だがゼロは「気にすんなよ」と片手をひらひらと振る。

「敵さんが必死だったってだけさ。――――とは言え、少し休ませてもらうとするかな」

それからペロケに「またな」と声をかけ、廊下へと出た。レルピィがゼロの顔に寄る。

「いいの、ダーリン? あれのこと報告しなくて……」

ゼロは複雑な表情を浮かべて答える。

「“あれ”が何だったのか、詳しいことが言えない以上、報告したところで意味はないしな。俺たち二人の秘密としておこうぜ?」

『俺たち二人の秘密』という言葉がまんざらでもないのか、頬を赤らめ「まあ、別にいいけど」とあっさり引き下がった。
しかしそんなレルピィとは逆に、ゼロは頭を悩ませていた。

――――“あれ”は何だったのか……

あの研究施設で見た、涙を流すレプリロイドの生首。ウロボックルが言った「生かされている」という事実。ゼロの心は明らかにならない幾つかの謎に埋め尽くされる。
そう言われて見れば、後者の方は思い当たらないことがないわけではない。
目覚めた日、忘却の研究所での戦闘の直後、遺跡内にいると思われる敵の警備隊は足止めに現れるどころか、全く姿を現さなかった。マークチームを救った作戦、またアヌビステップとの戦闘の後。傷つき倒れたゼロの位置は補足されていたはずである。それなのに敵部隊は止めを刺しに増援を送り込んでこなかった。

戦いを監視されている――――引かれたレールの上を踏み外さぬよう進んでいるかどうか。
そんな不気味な想像を立てたが、その根拠となる事柄は正直少ない。

涙を流すレプリロイドの生首にしても、例えあれが何かの実験だったとして、それが何なのか判断する材料が足りなすぎる。

――――それに……

どうしてか、触れてはならない事のような気がしていた。その漠然とした想いもまた、報告せずにいた理由の一つでもあった。
せめて研究施設が残っていればと思うが、地下からの激しい爆発によりあっという間に全てが粉々となってしまった。
その光景をもう一度思い出し、苦い顔をしながら、靄々とした物を抱えて、ゼロは自室のドアを開いた。













  ―――― * * * ――――


「研究所の件……誠に申し訳ありません」

黒いコートは膝をつき、自身の部下が冒してしまった失態を謝罪する。
だが、窓から外を眺めていた彼の主は、叱りつけるどころか「フフッ」とただ柔らかく微笑んだ。

「仕方のないことだよ…。彼が来てしまったのだから」

「それに」と今度は苦笑いを浮かべる。

「もう……何の意味もないものだったからね。――――むしろ、そこで命を散らした君の部下に申し訳がないよ」

「そのようなこと……」

「仰らずに」と言いかけて、やめた。彼の言っていることは事実だった。既に“あの場所”には何の価値もなかった。それが分かっていても尚、死守を命じ続けたのは、所詮彼の悪あがきだったのだ。
無表情の裏に彼が抱えた複雑な想いを感じ取ったのか、彼の主はゆっくりと近づき静かにしゃがむと、その肩に手を置いた。

「……ファントム……君の忠誠、嬉しく思うよ」

それは間違いなく真実の言葉だった。
ファントムは顔を上げ、彼の主――――救世主と視線を合わせる。

「……それは当然でございます。拙者は貴方の……――――……‥」

「――――“影”…だったね」

ファントムが口にするより先にそう言って、もう一度優しく微笑む。

忘れてなどいない。あの日捧げられた誓いの言葉。互いに交わした約束。
哀しみと絶望の淵から、力強く掬い上げてもらったあの時の事は、今でも鮮明に思い出すことができる。
そして、その時から“この闘い”は本当の始まりを告げたのだから。

二人はほぼ同時に立ち上がる。そして、ファントムは自分の胸に拳を当てた。

「……“太陽”照らし続ける限り……“影”消えること無し」

そう言うと、静かに振り返り、暗い影へと姿を消していった。
一人残された救世主は、もう一度窓へと寄り、手を当て、空を眺める。

「……『“影”在り続ける限り…“太陽”沈むこと無し』…………」



天高くより窓へと差し込む陽の光が、やけに眩しく感じられた。
































 NEXT STAGE









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