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No.34132の一覧
[0]  闇人VS受刑者 (ネタ) 史上最強の弟子ケンイチ、範馬刃牙 クロス[アルゴー](2012/08/04 16:09)
[1]  闇人VS受刑者 その二[アルゴー](2012/07/15 20:18)
[2] ババアVS最強の生物 前編[アルゴー](2012/07/17 21:02)
[3] ババアVS最強の生物 後編[アルゴー](2012/08/04 16:10)
[4] 喧嘩百段VS虎殺し 前編[アルゴー](2014/05/05 15:16)
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[34132] 喧嘩百段VS虎殺し 前編
Name: アルゴー◆b1f32675 ID:f562ef5f 前を表示する
Date: 2014/05/05 15:16
某市、某所に存在する広大な敷地、そしてそこに建つ古びた日本家屋…。
 一見するとそこは誰か大金持ちの屋敷か、あるいはかつての大名武家屋敷の廃墟と思うかもしれない。だが、それはどちらも誤り。
 此処は梁山泊。スポーツ化した武術に馴染めぬ豪傑と、武術を極め切った達人達が共同生活をする場所。
 そんな、凡庸な人生を送るのならば接点を持つ事など無いであろうその場所に、一人の“あまりにも普通な”少年が、弟子入りしていた。

 「し、師匠…、も、もう少し手加減を…ばわっ!!」

 「うらっ!ちゃんと教えたとおりやれっての!!手加減?もうしてらあ!現にお前死んでねえだろうが!」

 母屋に面した中庭で、一人の道着姿の少年が拳で殴られ、きりきり舞いながら地面に衝突する。少年はそれ以前にも相当しごかれたのだろう、全身は砂埃まみれ、身体には痣が出来ている場所もあった。
 少年の姿形、背格好は一見すれば何処にでもいそうな、至って凡庸な容姿をしている。
 一方少年を殴り倒した側、少年から“師匠”と呼ばれた男、彼は何処からどう見ても少年とは正反対、“凡庸”からは程遠い体つきをしている。
 180センチを超える身体は隆々とした鋼鉄の筋肉に包まれ、空手の道着がはち切れんばかりに盛り上がっている。その顔には鼻の上に一筋の裂傷が刻まれており、傍から見れば“その手の稼業”の人間と間違われかねない強面だ。
 少年の名前は白浜兼一、何処にでもいるごく普通の高校生“だった”少年、今ではこの達人の巣窟、梁山泊唯一の弟子として地獄すら生温い修行の毎日を送っている。
 そして師匠の名前は逆鬼至緒。29歳の若さでケンカ百段の異名を持つ空手の達人。兼一の空手の師匠である。
 白浜兼一はここ梁山泊で、空手の逆鬼以外にも諸々の武術の達人から複数の武術を習っている。柔術、中国拳法、ムエタイ、武器術…、そして梁山泊を纏める長老の“我流”の技。元々はいじめられっ子であった兼一はその環境から脱するために此処梁山泊に通う事とあいなった……訳であるが、ここでの下手すれば命を落としかねないレベルの(実際一度心停止を起こした)修行地獄に“実はいじめられていた頃の方がマシだったんじゃあ…”と、今になっても後悔する事がある。
 そして今は空手、他と比べて大分マシであるとはいえ、それでもきつい事に変わりはなく、兼一の体力ももう限界に来ていた。

 「チッ、仕方がねえ、今日はここまでだ」

 「ふぁ、ふぁい~…」

 もうこれ以上は無理と判断したのか逆鬼はようやく修行終了を言い渡し、縁側に歩いていく。その宣告に全身ボロボロの兼一は安堵の涙を流しながら文字通り身体を引きずって師匠の後を追う。

 「おいおい確かにお前ウチに弟子に入ってから一年程度しか経っちゃいねえけどよ、こんぐれえの修行耐え切れる体力あるだろうが?まあ元が元だし仕方がねえんだろうけどよ」

 「はあ…師匠、おぼえ悪くてすみません…」

 「ああ?ンなのお前弟子に取ってから分かりきってたから安心しな。ま、お前武術の才能“だけ”はないからな。他はいいとしても」

 「ぐはっ!ひ、人が密かに気にしている事を…」

 本気で傷ついた反応を見せる兼一を、逆鬼は面白そうにニヤニヤ笑いながら眺めている。
 最初の頃は弟子は取らない主義とツンケンしていたものの、今となっては厳しいながらも面倒見のいい師匠としての面も見せており、最初はその強面で苦手に感じていた兼一も、今では逆鬼の事を気の良い兄のように慕っている。
 何とか縁側まで辿りつき、一息つく兼一の隣にドカリと座り込む逆鬼、その姿を見て兼一は何気なく口を開いた。

 「あの~、師匠。一つ聞きたい事があるんですけど~…」

 「ん?何だ?金と女の事以外ならどんな相談も受け付けるぜ?」

 いつの間に持ってきたのか缶ビールを啜る逆鬼に、兼一は何気なく質問していた。

 「あの…、師匠って、その、負けた事とか無いのかな~…とか。思っ…ちゃっ…たり…」

 言った後に兼一はこちらをジッと見る逆鬼の視線にガタガタと震えだす。
 たまたま少し気になったから口にしただけなのだが、自分自身自覚している事だがどうも口を滑らせて他人の一番気にしている事を口にしてしまい、相手を怒らせてしまう事が度々あるのだ。
 そして逆鬼は大の負けず嫌い…。負けた事がありますか、なんて質問は地雷なんてレベルではないだろう。

 「そ、そんなことありませんよね~!師匠は空手最強ですもん!!もう師匠に勝てるのなんてこの世にいな…」

 「ん~、まあ、あるぜ?そりゃ俺だって。負けの一つや二つくらいは」

 が、兼一の予想に反し、逆鬼は何でもなさそうに返答した。特に機嫌も悪そうではなくいつもと変わらない様子に、むしろ兼一は拍子抜けしてしまう。

 「え…?マジですか…?」

 「おうよ、マジもマジ、大マジよ。俺だって生涯無敗ってわけじゃあねえのよ。というか俺は確かに空手の達人じゃあるがよ、空手界最強、ってなわけじゃあねえんだぜ?」

 楽しそうに笑いながら話す逆鬼を、兼一は何処か信じられなさそうに眺めていた。
 喧嘩百段、逆鬼至緒。その戦いを兼一はずっと眺めてきた。
 自分が到底敵わない達人級の敵も師は難なく倒してきた。そんな師が、負ける…。兼一には到底想像する事も出来なかった。

 「んだよ信じられねえような顔しやがって…。しゃあねえ!んじゃあ俺が一つ話してやるか。俺の恥ずかしい敗北譚、ってやつをな」

 少し恥ずかしげに頬を掻きながら、逆鬼は自分の弟子に語り始めた。
 かつて自分が戦い、そして敗れたとある男の話を…。



 

 それは、逆鬼が梁山泊に入る前の話であった。
 その頃既に空手界で敵無しと呼ばれ、一部の大会では出場すらも禁止される身の上となっていた逆鬼は、それでもなお空手の道を極め、その道の達人になろうと精進を重ねていた。
 そんな日々の中で、逆鬼は二人の空手家と出会った。
 空手界最強を自負していたその頃の自分に、比肩できるであろう二人の男。
 一人は後に闇の無手組、一影九拳の一人となって袂を分かつ事となる人越拳、本郷晶。
 もう一人は逆鬼と本郷に憧れ、そして彼等を越える空手家にならんと欲する青年、鈴木はじめ。
 とある事がきっかけで出会った彼ら三人は、時には仕合し、時にはある組織の依頼を友に果たし、時には命を狙われるような事件に巻き込まれながらも、お互いに技を切磋琢磨し、そんな毎日を送る中で、彼等三人の間には単なる友情以上の強い絆が生まれ、育まれていった。
 そして今日もまた…。

 「あーあ…、今日もまた引き分けですか。早くどちらが強いか決着付けて下さいよ~」

 「うっせえアホ!そう簡単に決着つくんならもうついてるわ!」

 土管の上で呆れた様子の鈴木に向かい、逆鬼は息を荒げながら怒鳴り声を上げる。一方の本郷は何も言わずに服に付いた埃を払い、呼吸を整えていた。
 これは彼等の日課である空手の仕合、審判は決まって鈴木、戦うのは逆鬼と本郷。
 無論両者とも若くして空手界屈指の実力者、中々勝敗は決まらずにもう100戦をとっくに超えている。
 審判である鈴木からすれば、二人の仕合は自分にとって技を見て、盗む事が出来る絶好の機会であり、何より空手界の若手最強の呼び名も高い二人の仕合を何度も見られるのは願ったり叶ったりではあるのだが、正直もうそろそろ決着をつけてもらいたいと言うのが彼の本音であった。

 「逆鬼」

 「んあ?あんだよ本郷」

 唐突に息を整えた本郷が逆鬼に話しかけてくる。こちらも荒い呼吸を整えた逆鬼が少々投げやり気味に視線を向けると本郷がやけに真面目そうにこちらを見ている。何かあるのかと若干身構える逆鬼に本郷は…。

 「…今度は少し手加減してやろうか?」

 「それどういう事だオイ!!俺がテメエより弱いって言いたいのかオイ!!」

 「違うのか?」

 「違うわっ!!」

 至って真面目な表情な本郷に対し逆鬼は若干キレ気味に声を荒げる。おそらく本郷なりの冗談だったのだろうが結果的に逆鬼を怒らせるあたり、あまり上手いとは言い難い。そんな彼等の口喧嘩を鈴木はじめは楽しそうに、それでいて何処か羨ましそうな表情で眺めている。

 「何だかんだで仲いいですね~、お二人は」

 「「いや何処が」」

 そーやって息が合うところとかですよ~、と鈴木は面白そうに笑い声を上げる。そんな鈴木の姿に二人は何処かバツが悪そうに眼をそらす。そんな素直じゃない二人の姿にまた噴き出しそうになった瞬間…。

 「ん?こりゃ、どっかで見た顔だなオイ」

 突然響いた何者かの声を聞いた瞬間、鈴木の笑顔が硬直した。それだけではなくまるで幽霊にでも出会ったかのように怯えたような表情を浮かべ、ブルブルと身体を振るわせ始める。
 突然友人の様子が変化した事に気が付いた逆鬼と本郷は、思わず鈴木の視線の先、空き地の側を通る道路側へと視線を向けた。

 (……!!)

 そこに居たのは一人の禿頭の男であった。身長は精々170㎝、容姿を見るにそこまで若くは無い。少なくとも40、50代、着ている物も特に変わったものではない、至って平凡なモノだ。
 だが二人はその男に圧倒されていた。その男の比較的中肉中背な体型から放たれる雰囲気、そして身体の各部分を見ただけで、二人はその男の実力を見てとり、反射的に構えをとったのだ。

 「…おい、本郷。あのおっさん…」

 「分かっている。……強い、桁違いにだ」

 冷や汗を流しながら、逆鬼と本郷は男をジッと見据える。
 服の上からでも分かる鍛え上げられた筋肉、長年空手で打ち込んできたであろう拳、いかな衝撃にも耐えられるだろう頸部の筋肉、幾多の打撃を受け続けて潰れた鼻、掴まれ続けて皺の沸いた耳…。
 それらを見ただけで逆鬼と本郷、達人となったばかりの二人は悟った。この男と自分達との実力差を…。
 強い、自分達よりも遥かにっ…。
 男は二人の間をすり抜け、土管の前に立って、震える鈴木の肩を、軽く叩いた。

 「よお、こんな所で、奇遇だな鈴木よォ」

 「お、お久しぶりです…。お、愚地館長」

 鈴木はガタガタ震えながら男に挨拶を返す。
 逆鬼と本郷は互いに知った様子の二人に視線を移動させる。

 「…おい、鈴木」

 「……知り合いか?その男は」

 「んあ…?お前さん達だれよ。見たところ中々出来そうだが…、鈴木ぃ、この兄ちゃん達はお前さんの知り合いかよ」

 自分の友人にしてライバルの二人と禿頭の男三者に視線を向けられ、鈴木はハッとした様子で身体を震わせた。

 「あ、ああ!さ、逆鬼さん!本郷さん!紹介します!この人は僕の師匠で神心館館長の愚地独歩先生です!!お、愚地先生、この人達は逆鬼至緒さんと本郷晶さんです!!ふ、二人共空手の若手じゃあ敵無しの実力者なんですよ!?」

 「ん~?あ、ども、うちの元弟子が世話になってるようで。愚地独歩です」

 鈴木の紹介に男、愚地独歩は本郷、二人に軽く会釈をする。
 その飄々とした姿は傍から見ればただの普通の中年の男にしか見えない。しかし…、

 「…!!」

 「愚地独歩……だと?」

 逆鬼と本郷、二人は男の名前を聞いた瞬間目を見開いた。無意識の内に身体を強張らせ、油断のない視線で独歩を見据え、半歩身体を引いて身構える。それほどまでに衝撃的だったのだ、鈴木の口から出た名前、愚地独歩の名前は…。
 愚地独歩、およそ空手を嗜んでいる人間ならばその名を知らぬ者はいないであろう。
 『人食い愚地』『虎殺し』『武神独歩』…多くの通り名で呼ばれ数々の伝説を作りあげた空手界最強の男、愚地独歩…。
 ありとあらゆる格闘技の達人と立ち合い、勝利し、仕舞いには虎を素手で倒したと言う…。今では世界規模の空手団体、神心館の創設者にして総帥の立場にあるが、その影響力と勇名は、今なお全世界の空手家の間で色褪せることなく鳴り響いている。
 その空手界の生ける伝説と呼ばれた男が、今二人の目の前に居る…。

 (…挑むか…?)

 二人の心はただ一つに一致している。
 愚地独歩に、空手界の伝説に、挑むか、挑まざるべきか…!
 願うのなら空手家として、一人の武術家としてこの男に挑み、自分の技を、拳を、足を、存分に打ち込みたいっっ…。そう、二人の武術家としての本能が訴えていた

 そんな二人の気も知らぬのか、独歩は二人に挨拶すると直ぐに鈴木へと向き直る。
 その表情を何処か不満そうに歪めながら…。

 「鈴木ぃ~…、お前まだ空手やってやがるのか?」

 「あ…、はあ…、まあ…、一応…」

 おずおずと言った感じで返事を返す鈴木に、独歩は弱った様子でこめかみを撫でる。

 「俺は確かお前にもう空手やるんじゃねえって破門したはずなんだがねェ~。ど~してこうも聞きわけないのやら…」

 「で、でも僕は空手家最強になって、何時か愚地館長に挑むって…」

 「やかましいぞオイ」

 いつになくおどおどとした調子で弁明する鈴木を、独歩は威圧感に満ちた眼光で睨みつける。ただそれだけ、ただそれだけで鈴木は身体を硬直させ、口を閉ざす。
 言葉を噤んだ鈴木に、独歩は彼の肩を軽く叩いてまるで聞き分けのない子供に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

 「鈴木、二度は言わねえ、命惜しけりゃ空手は止めな。お前、その若さで死ぬ気かよ」

 「…!そ、それは…」

 「…若けえ身の上で死に急いでんじゃねえ、命を粗末にすんな、ガキが」

 カタカタと震える鈴木を突き放す様に独歩は言い放つと、話は終わりといわんばかりに背を向けてさっさとその場を後にしようとした。

 「おいオッサン」

 「………」

 …が、そんな彼の前に逆鬼と本郷が立ちはだかる。それも凄まじいまでも怒気と殺気を滲ませながら。

 「んあ?どうした兄ちゃん達。俺ァもう帰りてえからちっとそこ通してくれねえか?」

 「さっきから聞いてりゃ随分とまあ勝手な御高説をベラベラと…。命惜しけりゃ空手やめろだ?テメエ何の権限あってンな事ほざけるんだああ?」

 「あんたもこいつの元師ならば知っているだろう?こいつがどれだけ空手が好きなのかを。それをアンタは止めろと言うのか」

 心臓が弱い人間ならば軽く心停止を起こしてしまいかねない殺気と怒気に満ちた視線を浴びながら、それでも独歩は眉一つ動かさずに困ったように溜息を吐いた。

 「知ってらあンな事。そいつがどれだけ空手が好きか、どれだけ打ち込んでるかってこともなァ…。文字通り命削りながらやってやがる事もよ」

 「命を削る…?一体どういう事だ…?」

 「そりゃテメエらがそいつから聞けや。まあとにかく、だ。俺ァどうやってもこいつに空手をやらせねえ。たとえ誰に何と言われようがコレは変わらねえ。分かるか兄ちゃん達?」

 独歩のまるで幼子に宥め聞かせるような口調で目の前の若い武人二人を説き伏せようとするが、むしろ逆に二人の怒気と殺気はさらに膨れ上がっていく。

 「全く持って分からねえ、こちとら…キレてそれどころじゃなくてなっ!!」

 「そいつに今すぐ謝罪するならば見逃してやってもいいが…、どうする?」

 説得は失敗、どころか逆に二人の機嫌はかなり悪化している。返答次第では今すぐにでも独歩に殴りかかりかねない。が、独歩はそんな反応を予想出来ていたのか、いつもと変わらぬ、むしろ二人の反応を何処か楽しんでいるかのような様子である。

 「はあ…ったくしゃあねえなあ…」

 独歩は弱りきったような口調で吐きだしながら上着を脱ぎ捨てる。が、その口は言っている事とは対照的に嬉しげに微笑んでいる。まるで目の前に上等な獲物を見つけた猛獣のように、凶暴な笑みを浮かべて二人を舐めるように眺めている。

 「なーにがしゃあねえだこの狸が。そのにやけ面は何だってんだにやけ面は」

 「喧嘩が出来て嬉しいと言ったところか。実に、歳がいもない」

 軽口を叩く逆鬼と本郷に対し、独歩は何も言わない。ただ二人を見据えてじっと立っているだけだった。一方逆鬼と本郷は独歩を見据えて構えをとる。逆鬼は前羽の構えを、本郷は天地上下の構えを…。
 どれも鈴木はじめのアドバイスを受け、互いの構えを入れ替えたもの。これで以前の構えよりも戦力は上がっている。そして今や同年代でも最強と目される逆鬼と本郷のタッグ、通常ならば誰であろうとほぼ相手にならないであろう戦力だ。
しかし、それでも目の前の相手と渡り合えるかと問われれば、疑問符を浮かべざるを得ない。名ばかりという可能性も無きにしも非ずだが、その溢れる闘気、その拳を見ればこの男が“本物”である事は疑いようがない。

 「…んでおっさん、開始の合図は…?」

 独歩と同様凶暴な笑みを浮かべる逆鬼の問い掛けに、独歩はニイッと唇を吊りあげた。

 「もう始まってらあ」

 瞬間、逆鬼の拳、本郷の抜き手が目にもとまらぬ速さで独歩に迫る。
 車すら一撃で粉砕する拳、鉄骨すら易々貫通する抜き手、どれも生身の人間が直撃すれば一撃で絶命しかねない文字通り凶器。だが…。

 「おおっ!?」

 「……」

 独歩は両手でいなし、受け流す。風車のように回転する両手は、迫る拳の威力を削ぎ、独歩の身体に傷一つ負わせない。
 そして受け流した右手で拳をつくり、それを振るう。
 拳は一撃を受け流されて咄嗟に動けない逆鬼と本郷の顎を、ほんの僅かに掠る。が、結局それまで。一瞬で背後に飛びのいた二人は、独歩の拳の射程圏外に居た。

 「ヘっ、まさか俺の正拳突きを回し受けされるたあ、お前以外初めてだな本郷!!」

 「フッ、俺の抜き手を受け流せる奴がお前以外に居るとは、噂に違わず、か…!!」

 受けられて僅かに痺れる拳に、逆鬼と本郷は戦慄し、ゴクリと唾を飲み込んだ。
 先程の一撃は手加減など微塵もない、文字通り必殺の一撃だった。速さ、破壊力共に申し分ない、殆どの空手家ならそのまま直撃して昇天しているであろう一撃…、それをこの男は、防ぎ切り挙句に掠った程度とはいえ自分達に反撃をお見舞いしてきた。
 噂以上、まさに異名通りの実力に逆鬼と本郷、二人の中に流れる武人の血が猛り狂う。
 が、二人が勝負はこれからと気合を入れた瞬間、目の前の獲物は予想外の行動に出た。
 地面に落ちた上着を拾い上げ、土ぼこりを軽く払って羽織るとまるで二人を無視するかのように彼等の横をすり抜けていったのだ。
 あまりにも予想外の行動に本郷と逆鬼も呆気にとられていたが、ハッと我に返ると弾かれたように独歩に向かって振り返る。

 「っておいコラ!!勝負はこれからって時に何逃げようとしてやがるんだテメエ!!」
 
 「止めた、もうお前らの負け。鈴木、命は大事にしろよ、じゃあな」

 「!?て、テメエ!!待ちやがれこのおっさ……」

 勝負も決まっていないのにさっさと帰ろうとする独歩に掴みかかろうとした瞬間、逆鬼の身体が大きく傾いた。

 (…あ?何だこれ…、何が起こってやがる…)

 逆鬼はまるでスローモーションのように近付いてくる地面をぼんやりと眺めながら、心の中で一人ごちる。

 (何で地面が起き上がってき…や…が…)

 そして、何が起こったか分からぬまま、逆鬼至緒の意識は途絶えた。



 何年ぶりの投稿か…。もうすでに忘れている方もいらっしゃるかもしれません。
 つい刃牙続編を読んで勢いで書いてしまいましたッッ。
 …独歩が強すぎる?経験の差ということで…。


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