闇人VS受刑者
とある場所にて・・・。
「・・・と、このとおり、ビッグロックは現代でも最高峰の防御システムを有しており、たとえ『闇』の達人でも容易に抜け出すことは不可能です」
「うむ・・・、しかし完全(・・・・)に(・)脱出不可能、というわけではないのだろう?議員」
「・・・・!そ、それは、その・・・」
「まあまああまり議員をいじめるな。確かに『闇』の連中にはいかなる防御システムも気休め程度にしかなるまい。全く、達人とは化け物の集団か・・・」
「しかし、その化け物集団を無力化しなくては我々反闇の立場の人間はいつまでたっても連中の風下に立つ以外に無いだろう・・・」
「とはいっても、達人に敵う人間は達人以外にはいないだろう。まさかあの梁山泊の方々にビッグロックの警備を勤めてもらうわけにも行くまい?」
「幾らなんでもそれは不可能だろう?そもそも本人たちが承知すまい。これから闇との抗争が激化する以上、彼らとの関係悪化は避けたい」
「しかし、ならばいったいどうするつもりだ?まさか他の達人を雇うとでも・・・」
「一影九拳に比肩する達人は少ない。探すのも雇うのも今からでは間に合わない」
「なら一体・・・!!」
「落ち着け、問題は無い。アリゾナのあの(・・)男(・・・)を送ればいい」
「なっ!?何を言っている!?君は自分の言っていることを理解しているのか!?あの怪物を外に出すなど・・・・」
「アレはいつも自分勝手に外に出ているだろう?彼の異名は聞いたよ。君達は人工衛星までも使ってあの男を監視しているそうだね?」
「・・・・・」
「確かにあの男をそのままにしておくのは危険だろう。だが、あの男なら闇の一影九拳に敵うのも事実、ここは毒をもって毒を制すと思い、承知してくれないかね?」
「・・・・しばらく、考えさせて欲しい」
「いい返事を期待しているよ、バート局長」
反闇勢力の会合から三ヵ月後・・・。
某所、ビッグロック。
闇の達人を収監するために作られたその施設は、これ以上ないほどの防衛設備、警備システムを導入している。
故にたとえ無手組の特A級達人、一影九拳でも突破不能とまで言われている。事実、つい最近収監された二人の『九拳』及び闇人も、誰一人として脱出しようともせず、大人しくしていた。
しかし、彼らが脱出しないのにはビッグロックの警備以外の理由があった。そもそもいかなる警備や防御システムであろうと、人外の域にある達人である彼らにとっては、ほとんど意味のないものである。ましてや『九拳』のレベルになれば、1、2時間もあれば充分突破できるだろう。
だが彼らは脱獄しない、いや、出来ないのだ。
何故ならこの施設には、防衛設備と警備システム、それを遥かに上回る『怪物』が生息しているのであるから・・・。
番号1448番囚人室。ビッグロックの奥にあるその囚人室の内部は、囚人室とは名ばかりの広い空間が広がっていた。その一室で、一人の男が壁に向かって絵筆を走らせていた。
男の容姿はウェーブのかかった金の長髪、そして切れ長の瞳が特徴的な美男子であった。が、何故かその男の周囲だけ、冷房がかかっているかのように冷たかった。
部屋の内部には、男が作ったのであろう石像、陶芸、絵画等の芸術品が所狭しと飾られていた。どの作品も、市場に出せば1000万は下らないであろう作品群である。
そして今現在男は部屋の壁に壁画を描いていた。通常の囚人は持っていないであろう高価な絵の具に筆を用いて、彼は作品に没頭していた。彼はまるで目の前の作品以外は何も見えないかのように壁に筆を走らせていた。
と、突然背後のドアが音を立てて開き、顔にマスクをかぶった筋肉質な男が部屋に入ってきた。来訪者の訪れを、男は気付いているのかいないのか、壁画から少しも視線をずらさない。
「おいおいアレクサンドル、折角来たんだから少しはあいさつくらいしてくれてもいいだろう。少し傷つくぞ、私は!!」
来訪者は言葉とは裏腹に気にした様子も無さそうに笑い声を上げている。そんな来訪者の笑い声に、アレクサンドルと呼ばれた男は溜息を吐きながら筆を下ろし、来訪者に顔を向ける。
「“笑う鋼拳”、一体何のようかね。見ての通り私は壁画の作成で忙しいのだが・・・」
「まあまあ折角友人が訪ねてきたのにそんなにそっけない態度はないだろう!」
「確かに“闇”では君は私の同士ではあるが、私自身は君の友人になったつもりはない」
アレクサンドルはなおもそっけない態度を繰り返すが、笑う鋼拳と呼ばれた男は構わず部屋にあるソファーにどっかり腰掛けた。アレクサンドルは、作品制作の邪魔をされたのが気に食わなかったのか少し嫌そうな顔をしていたが、何も言わずに笑う鋼拳の反対側のソファーに腰を下ろした。
この二人こそ、“闇”の無手組にて最強と称せられる達人集団『一影九拳』のメンバー、『殲滅の拳士』アレクサンドル・ガイダルと、『笑う鋼拳』ディエゴ・カーロであった。
両者共、活人拳の象徴たる梁山泊の達人に敗れ、ここビッグロックに収監されていた。
のだが、両者共、囚人としては有り得ない待遇で此処に住んでいる。アレクサンドルが収監されているこの監獄もその一つだ。同じ九拳の一人であるディエゴもまた、アレクサンドルと同じく現在何不自由も無い暮らしを送っている。
これはこの収容所の方針なのか・・・、それともあの男の意向なのか・・・。
「で、本当に一体何のようかな鋼拳。さっさと壁画制作に戻りたいのだが」
「まあまあいいじゃないか。と、話なんだが・・・、あの男がまたやらかしたそうだぞ!」
その言葉を聞いた瞬間、アレクサンドルの迷惑そうな表情が一変した。
それを見たディエゴはしたり顔で話を続ける。
「相手は最近此処に入ってきた武器組の槍使い三人だ!収監直後に喧嘩売って、武器まで返してもらったにもかかわらず奴に叩きのめされて再起不能にされたそうだ!」
「・・・・・」
ディエゴが笑いながら話す内容を、アレクサンドルは黙って聞いていた。
「まあ入所早々あの怪物に挑んだ時点で情報不足というか何と言うか「あの男の怪我具合は?」・・・話を区切るな!確か体中を刺されたらしいが、全然元気そうだったぞ!もうステーキやらワインやらをたらふく飲み食いして回復してる頃じゃないのか!?」
「そうか」
ディエゴの話を聞いたアレクサンドルは再び沈黙した。その様子に気になったのかディエゴは初めて笑うのをやめて、アレクサンドルに問い掛けた。
「なんだ、アレクサンドル。まさかあいつに挑むのか?」
「さあ、私は此処で芸術を楽しみながら楽隠居するのも悪くないと思っている。わざわざ危ない橋を渡る気はない「それにしては腕は衰えていないようだな!」・・・それを言うなら君自身はどうかね?武人としての本能が闘いたいとうずいているのではないか?」
アレクサンドルの問い掛けにディエゴは天井を見上げてしばらく考えている様子だった、が、
「う~ん・・・、まあ確かに武術家として、是非とも死合いたいという思いもある・・・・、
しかーーーーーし!!!」
突然ソファーから立ち上がると右腕を前方に突き出して高笑いをし始めた。
「私は武術家以前にエ・ン・タ・ー・テ・イ・ナ・ーなのだ!!!観客(オーディエンス)の居ない場所での死合いは、しなあああああああい!!!」
「頼むから此処で高笑いするのは止めてくれ、やるのなら自分の部屋で、一人でやってくれ」
部屋に響き渡る高笑いに、アレクサンドルは耳を塞ぎながら苦い表情を浮かべていた。
その頃、ビッグロックに存在するヘリポートにて・・・、
「そろそろか、ミスターのご帰還は」
サングラスを掛けた白人の男が、隣に立っている警備兵に質問した。
「はっ!ミスターは一時間も前にターゲットを捕獲し、既に帰還されているとの報告です!!」
「よし、分かった。直ぐにミスターの食事の準備をしておけ。あの方のことだからかすり傷程度しか負っていないだろうが、一応治療の準備もしておくように」
「かしこまりましたっ!!」
最敬礼した警備兵はすぐさまヘリポートから立ち去った。その背中を見送りながら、サングラスの男、ビッグロック所長ケリー・アンダーソンは溜息を吐いた。
「ミスター、か」
その名前を呟いた彼の表情は何処か複雑なものだった。
犯罪者を捕獲するために、犯罪者を拘束するために犯罪者を雇う。
それもこれもこのビッグロックの犯罪者の“質”が、他の犯罪者共とは段違いであるからだ。
武術という武術を極めた達人という人種。
その人外とも言うべき連中を捕縛するために、“彼”はアリゾナ州立刑務所から此処に“貸し出された”のだ。
コレでは何の為のビッグロックか分からない。完全な防御設備、完璧な警備システム、かのアルカトラズを上回るであろう脱出不可能な牢獄が、完全に名前負けしてしまっている。
いや、確かにこの牢獄は脱出不可能であろう。
いかなる達人も此処から脱出できないであろう。
だがそれは、この施設の警備ではなくただ一人“彼”の力によるもののみである。
ケリー所長の何度目か分からない溜息が口から吐き出されたとき、周囲にヘリコプター特有の爆音が響き渡った。
「・・・!!」
所長が視線を空に向けると、そこには間違いなく彼が乗っているであろう軍用ヘリが降下してきていた。
「ミスターのご帰還だ!!全員お迎えの準備をしろっ!」
所長の声を聞いた周囲の警備兵は、すぐさまヘリポートの近くに整列する。その表情はどれも緊張しており、まるで一国の首相か大統領を出迎えるかのような雰囲気である。
やがて地上に着陸したヘリコプターの後部の扉が開き、そこから一人の男が姿を現した。
男の姿を見た所長と警備兵達は、直ぐに男に向かって敬礼した。
その男の身体は、一言で言えば巨大であった。
身長が巨大というわけではない、ウェストが巨大というわけでもない。
その男の身体を覆う“筋肉”が巨大だったのである。
180センチ以上の身体は、高密度の筋肉で覆われている。
男が着ている派手な絵柄のシャツも、ズボンも、内側の張り詰めた筋肉によってはち切れそうでありシャツからむき出しの腕は、女性のウェスト等比ではないほど太い。
男がヘリから降りるのを見た所長は、敬礼しながら叫ぶように言葉を出す。
「ミスターオリバ!!任務お疲れ様です!!」
所長の声に唱和してお疲れ様です、と警備兵も怒鳴る。それを聞いたオリバと呼ばれた男は、ニッと笑みを浮かべて、
「ご苦労様だ所長、そして警備兵諸君。ターゲットはちゃんと捕獲しておいた。後で問い合わせておいてくれ」
「はっ!!既にお食事の準備もしておりますので、ゆっくりご休息ください!!」
その男に対するケリー所長の態度は、まるで自分の上司、それも相当上位な存在に対するもののようであり、一見すると、男と所長のどちらが立場が上か分からなくなる。まるでこのオリバという男がこのビッグロックの最高権力者のようにも見えてしまう。
だがそれは間違いではない。
元よりこの男は何者にも縛られない存在。
囚人でありながら自由に刑務所を出入りし、自由に生きることを許された存在だからである。
この男は元々アリゾナ州立刑務所に“棲んで”いた。
刑務所に入れられた囚人でありながら、他の犯罪者を捕らえ、刑務所において何も不自由なく暮らしていた。
そして今、この男は“闇”を抑える為の“切り札”として、この収容所に招かれた。
彼こそこの世で最も自由なる存在。
“縛られぬもの(アンチェイン)” ビスケット・オリバ。
あとがき
と、まあ突然のノリで書いてしまったケンイチと刃牙のクロスです。意外に少ないですね・・・。
まあほとんどノリでかいた一発ネタですので、あまり続きは期待しないでくださいww