デート。
世の中の男性諸君は、その言葉の響きだけに騙されていないだろうか。
果たしてデートとは本当に良いものだろうか。そう言って疑う観点をどこかに忘れていないだろうか。
人とは疑い、思惟する動物である。懐疑主義は神の死をもたらし、近代への道を切り開いた。
常に眼前の限界を疑い、それを超えるための努力が、文明の進化を導いてきた。
進歩を止めてはいけない。
進化のために、躊躇ってはいけない。
人間だけが神を持つ。その可能性という名の神を信じる限り、世界を諦めるな。
俺は諦めない。
俺以外のどんな人間が挫けて立ち止まろうと、振り返ることなく前進する。
置いて行かれた連中は、所詮その程度だってことだ。
俺は走り抜ける。誰にも追いつけないほどの、光すら振り切るスピードで。
……俺にしては長い前置きだったな。
と、いうわけで。
織斑一夏、そのあたりを確かめるために、束さんに紹介してもらったロリっ娘クロエ・クロニクルちゃんとちょっくらデートすることになりました。
舞台はIS学園とかいうハニトラの監獄からモノレールで脱出し数十分の街並み。
デート用にマドカコーディネートの服を身に纏って、俺は満を持してモノレールの駅から出た。
この服を見繕ってくれたのは一週間ほど前に外出した時だが、『ふふふ、次に私とデー……が、外出する時には、ちゃんと着て来てほしいな兄様』とか言ってたからちゃんと着たぜ!
ちなみにさっき寮を出る時ふと振り向いて建物を見上げたらマドカがこの世の終わりみたいな顔色で俺の事をみてたけど、やっぱイケメンすぎたか? 実妹すら魅了してしまうとかちょっと織斑一夏クン罪深すぎんよ~
「一夏さん」
「よッ」
駅前の時計柱に背をもたれて待つこと十分弱。
淡いパステルブルーのワンピースで着飾った美少女ロリが、俺の目の前に顕現した。
世紀の天災こと篠ノ之束は人格破綻者であり――一部の身内を除いて――他者に対して一切の興味を持たず、人間として認識できないという。だが実際は違う。アレがこうしてこうなって、あの人はどっか東北らへんで私塾を開いちゃうレベルで丸くなっているのだ。
そんな彼女が荒れていた時期から目をかけていて、隠居している間も傍に置いていた少女が一人いる。
クロエ・クロニクル。
ボーデヴィッヒを思い出させる、翻る長い銀髪。眼帯を付けていないのは、眼球に埋め込まれたナノマシンを自分の意思でオン・オフの切り替えができる証拠。とはいえ失敗作を自称していた時期もあるらしい。束さんがふしぎなことを起こして今は体も安定しているそうだ。
爽やかにズパッと手を上げた俺に対し、クロエちゃんはぺこりとお辞儀を返してきた。
「今日はよろしくお願いします」
「ん、まあそんなに緊張しなくてもいいんじゃないかな」
「……緊張せざるを得ないと思いますが」
突然クロエちゃんがウィンドウを投影した。表示されるのは可視化されたコアネットワーク。
「『人魚姫(ストレンジ・ガール)』と『コバルト・ティアーズ』と『甲龍』と『R-リヴァイヴ・カスタムⅡ』と『シュヴァルツェア・ツァラストゥラ』と『打鉄弐式』と『ミステリアス・レイディ』がステルス状態になっています。恐らく私達を監視しているのかと」
「なんだそのオールスター。ここで大乱闘ISシスターズでも始める気かよ……」
順に箒、オルコット嬢、鈴、デュノア嬢、ボーデヴィッヒに妹さんに更識と日本滅ぼす気かよって感じのメンツだ。多分実際滅ぼせる。
「まあ連中については気にするだけ無駄だ。行こうぜ」
「あ、はい。どこへ行くのですか?」
「プランなんてあるわけないだろ」
「人生ノープランですものね」
「…………」
不意打ちでいきなり言葉のナイフを刺され、俺はちょっと涙目のまま彼女をけん引して歩き出した。
実際プランないし何すりゃいいのか分からん。
ホント、恨むぜ束さん……
束さん曰く、俺には警戒心が足りないらしい。
普段から言動がガバガバ過ぎることは知っているが、まあISコア心臓に埋め込まれた時点で人生ガバガバになったわけだし許してくれてもいいだろって感じ。
『というわけで、今週末、●●駅に10時半集合! うちのくーちゃんとデートしてもらうよ!』
「え~~~~~……ちょっと女子と出掛けると疲れるっていうか、なんかこう、女子高生ってめんどくせえなっていうか」
『くーちゃんは肉体成長促進剤こそ投与されてるけど、実年齢と精神年齢はせいぜい13「行きます」ぐらい……Oh……』
違う俺はロリコンじゃない! やめてくれその憐れみの視線!
『なんか別のベクトルでも色々と心配になってきたけど……とにかく! くーちゃんにはハニトれorハニトるなの命令を下しておくよ。果たしてどっちなのか、デートが終わったら答え合わせをしてね! 束さんは新発明で忙しいけど行けたら行くよー』
「新発明って第五世代機でも作ってるんですか?」
『ラーメン向け小麦の品種改良』
「DASH村の見すぎでしょ」
束さんの不意の通信から、あれよあれよという間にデートが決まったわけだ。
全然、13歳とかいう青い果実とデートできる事案に興奮なんかしてないブヒ!
後で電話してる時途中から俺の鼻息が強くなってたと束さんが引き気味に報告してきて割とマジで凹んだ。
「とりあえず俺のホームに行こうと思う」
「なるほど。罠にかけて一気に火計ですね」
「思考回路が諸葛亮過ぎるだろ」
会話をしながらそこらへんの適当なショッピングモールに入る。
そもそも俺この駅で降りたことないし全部アウェーなんだけどそこには触れない。
さっき通り過ぎざまにちゃんとフロアマップを確認したので、場所は分かる。
ぶっちゃけほぼ初対面のロリ。
割と深刻なレベルでノープランの俺。
ここから導き出される結論は一つ……ッ!
「じゃあ俺ちょっと本見たいからなんでも見てていいよ」
「はい」
なんか背後の柱の裏とかでずっこける音が複数響いた。
本屋。
俺が文学コーナーに足を運ぶと、クロエちゃんは周囲をきょろきょろ見回した後、別のコーナーへ向かった。
実際気になる本はいくらかあったので、週末を利用してまとめて買いこむ。本を読め、じゃないとお前は生きてないぞ。
好きな作家の新作ももちろん買うが、まだ若干16の俺はまだまだ読めていない本が多すぎる。
古典的とすら言われる作品を、是非生きている間に網羅したいもんだぜ。
「あれ、SF読むのか」
国内小説を一通り眺めた後でSFコーナーを覗くと、クロエちゃんが本を物色していた。
「以前から興味があったので……」
「そりゃいいことだ。ISショック以降落ち目だったけど、ISがあろうとなかろうと昔のは面白いからな」
ISの登場はフィクションとノンフィクションの境界線をぐちゃぐちゃにかき乱した。
何せその技術力はSFに登場するパワードスーツそのものだったのだ。
フィクションだったものが現実に突如現れた時、人間の思考は空想を空想だと認識できなくなる。
多くのSF作家が筆を折ったというISショック。当たり前だ、作者にとっちゃ『こんな世界お前ら想像できる?』って作品を出そうと思ってたらそれが現実の世界になっちまったんだから。
「一夏さんも?」
「おう」
二人揃って真剣な表情で本棚をなめるように見続ける。
刹那が永遠に引き延ばされ、体感時間が無限に拡大する。
本屋にいる時特有の謎の現象に襲われたのか、俺がふっと時計を見ると45分経っていた。
そろそろ昼飯にはいい時間だ。
「クロエちゃん」
「はい」
横で未だ無敵モードに突入していたクロエちゃんが、呼ばれてこちらに顔を向ける。
「そろそろお昼ゴハンはどうよ」
「いいですね」
それだけで意思疎通を終えると、俺と彼女は連れ添って本屋を出た。
モールの上階にあるレストラン街を目指す旅はこれからだ!
……よし、とりあえずだが、5億パーでハニトラ確定だ。
いや怪しいでしょ。
こんなクソつまんねえデートで顔色一つ変えずについてくるとか俺の顔色をうかがってるとしか思えないハイ終わり。
驚くほど俺の行動パターンに適応してくる奴は大体恣意的にしてる。ソースは俺。
まあそもそも俺がデートのメソッドを知らなさすぎるっていうのはかなりデカいとは思うが、それでも論外。付け加えるなら俺の経験値のなさも論外。
ちなみに俺のこの灰色の脳細胞冴えわたる『わざとつまんねえデートして反応を見よう大作戦』、その根幹がそもそも真面目なデートプランを思いつかなかったからっていうのがクソ過ぎる……
らしくもない自虐思考を引きずりながらエスカレーターに乗る。
なんかイライラする。隣にロリ美少女がいるのに俺なんでこんないつも通りの日常過ごしてんの? 馬鹿なの?
「普段、クラスの皆さんと出掛ける時もこういったショッピングをされるのですか?」
いつの間に買ったのか、新書をぱらぱらめくりながらクロエちゃんが尋ねる。
「あー、どうだろうな。あんま外出しねえから何とも言えねえけど、こんな感じな気がする」
「回答が適当すぎませんか……」
呆れ顔でそう言われてもなあ。
この子はちょっと俺の休日に適応し過ぎてて怖い。怖いよ(迫真)
あ~こういう幼な妻と穏やかな休日を過ごしてェ~
「でも良いと思いますよ」
「あ? 何が?」
「こういった、何の変哲のない日常は……一夏さんも、束様も、きっと強く渇望していらっしゃるものだと思います」
「……かもな」
「誰だって幸せになりたいと、そう思うものですから」
「…………」
幸せ、か。
昔の人は言った。『善く生きよ』と。
俺にとっての『善く』とは何か、まだ俺は、誰かを守ること以外にそれを知らない。
でもひょっとしたら、他にもあるのかもしれないな、なんて……そう、思った。
織斑一夏は、機械ではない。
織斑一夏は、ただの人間だ。
柄にもなくそんなことをしんみりと思いながら、エスカレーターがゲーセンの階を通り過ぎていった。
「騒がしいですね、あそこは何ですか?」
「動物園」
レストラン街で適当な洋食屋に入ると、俺は迷わず本日のランチを選んだ。クロエちゃんはハンバーグセット。
「…………」
「……なんですか」
「や、なんか苦労してんなあって」
「このコーンが……とりづらくて、ですね……ッ!」
「そんなんじゃ甘いよ(嘲笑)」
フォークの取り回しに困っているクロエちゃんをおかずに、俺は本日のランチであるエビフライを貪る。うまいッ!
「ほれほれ」
箸でコーンを掴んで器用さアピールをする。
クロエちゃんは俺が掲げるコーンを見て、なんか逡巡した後、身を乗り出してパクりと食べた。
は?
「ありがとうございます」
ごっくんとコーンを飲み込んで、丁寧に頭まで下げられてしまう。
一方の俺は気づけばロリにあーんしていたという事態に戦慄し、完全にフリーズしていた。
「最高かよ……」
「え?」
「いや、生きてて良かったって……ッ!?」
なんだ――俺は今何を言っていた!?
ダメだ、口が俺の意思と関係なく動いてるのは突かれてる証拠だ。別にロリ特有の身長差とかそんなの全然気にしてない。その理屈だとボーデヴィッヒとこれから顔を合わせて話せない。
「生きてて良かったとまではいきませんが、私もうれしいです」
にっこりとそう微笑まれて、俺は何と返したらいいか分からず困惑する。
女の子の笑顔を真正面から見たのがあまりにも久々過ぎてなあ……
だってあいつらすぐ喧嘩するし。仲良くしろって言っても仲良くしねえしお前ら小学生かよ。
「……なら、良かったけどよ」
「はい。だから、お返しです」
クロエちゃんが何の前触れもなく俺のエビフライにフォークを突きだして、俺の口元まで持ってきた。
「どーぞ」
「いただきまァす!」
条件反射で物凄い勢いで貪ってしまった。
しかしいかん……いかんなあ……左手もちゃんと下に添えてのあーんはいかんなあ……ちょっとお兄さんの雪片がねぇ……うん……いかんなあ……
「うんおいしいおいしい……あっそうだ、トイレ行って来ていいかな?」
「ええ、どうぞ」
満足げにムフーと鼻息を吐くクロエちゃんを席に置いて、俺はトイレに赴いた。
あ~おじさん零落白夜しちゃうよ~(意味不明)
正直もう全てを許せる。ちなみに俺には腹違いの妹がいたような気がしたがそんなことは全然あったぜ! とソードマスターヤマトすらしのぐテンションで俺はシコ……じゃない、トイレに向かった。
ちなみにだが零落白夜は燃費悪いのですぐ(エネルギー切れの表示が)出ます。
俺から言えるのは、これだけだ。
「「ふぅ……」」
俺が賢者タイムでトイレを出ると同時、隣の女性用トイレから出てきた女の人が全く同じタイミングでまったく同じ声を漏らしていた。
ちらりと見ると視線がぶつかり――ってこいつスコール・ミューゼルだわ。
「「……ッ!?!?」」
同時に距離を取って右腕を振るう。瞬間、光の粒子が弾け飛び、一秒とかからず互いにハンドガンを召喚、発砲。2つの射線が交わり銃弾が激突、互いに潰し合いそのまま落下する。物理学者が白目を剥きそうな光景だ。
反動に蹴り上げられた腕をそのままに俺とスコールは左腕にもう一丁のハンドガンを形成。並行してその場を駆け出し疾走しながら、腋の下から差し込むようにしてエイミングし銃撃。俺の背後の窓ガラスが次々に割れて飛び散る。スコールの向こう側でモールが並べていた壺が順番に破砕されていく。
「いきなり俺の日常シーンに現れてんじゃねえよ窓ガラス割れてるかと思ったじゃねえか!!」
「大丈夫、君の後ろでバンバン割れてるわよ!!」
並走してモールの通路を駆け抜け、角に差し掛かる。スコールがインコーナーを取る形だ。
「いい加減目障りだったんだよッ、ここらでぶっ殺して死体画像をSNSにアップロードしてやるッ!」
「モラルハザードを起こさないでくれるかしら!?」
自分でも主人公とは思えない最悪な発言をして、俺は一気に加速。スコールを置き去りにしてコーナーに差し掛かる。
背後からビュンビュン飛んでくる銃弾、ぶっちゃけ怖くて泣きそう。
加速したままコーナーに突入、理想的なアウト・イン・アウトの形で疾駆。そのまま体を反転させ靴底で地面を削りながら停止。
「チィッ!」
「死ねッ――――!!」
角から飛び出したスコールめがけてトリガーを引きまくり、二丁拳銃が火を噴く。タイミング・エイミング全てが揃った射撃。
スコールは減速もコーナーリングもせず――そのまま直進、壁に右足を叩きつけて跳躍した!
「死ぬのはそっちよォッ!!」
空中で俺の銃撃を棒高跳びよろしく避けながら、奴もまたトリガー。マズルフラッシュが互いの目を焼き、弾丸が交錯。俺の足元で火花が散り、たまらず転がって後ろへ下がる。
間髪入れず跳ね起きた俺に向かってスコールが右のハイキック――食らうかよッ。即死しかねない死神の鎌を潜り抜け左のハンドガンを突き出す。だが発砲の前にスコールの右手が俺の腕ごと銃を弾く。並行して俺の脳天に向けられる銃口、同様に右のハンドガンをぶつけ射線から逃れる。
超至近距離での射線の奪い合い。一瞬でも気を抜いた瞬間に頭を吹っ飛ばされるのは明白だ。
「シッ!」
スコールが腕を振るうと同時に、奴のハンドガンのグリップ部分から打撃用の棘が飛び出した。
そのままハンドガンが俺の頭部へ吸い込まれる。泡を食って叩き落とし、バックステップで距離を取る。
今のまま攻防を続けていたら、劣勢に追い込まれていた可能性が高い。そしてその劣勢を仕切り直すのは、状況が長引けば長引くほど難しくなる。ならばここで一旦リセットする。
「今までの動き、あなたも少し齧っていたようね」
「何……?」
「見せてあげましょう、皆伝の戦い方というものを」
スコールがなんかやたらノリノリで腰を落とし両腕をクロスさせ銃口を床に向けた、訳の分からん構えを取った。
まあ訳が分からんと言っても、その体勢は巧緻極まる、あらゆる角度から打撃と銃撃を叩きこむため計算され尽した構え。
「篠ノ之流接近銃撃術・攻の型――『掃魔破邪の構え』」
スコールがその名を口にした瞬間、俺は反射的に構えを取っていた。
両腕をクロスさせることなく折り曲げ、そのまま胸の前で構える。体は半身にして重心を落とす。
篠ノ之流接近銃撃術・攻防一体の型――『柱月滅我の構え』。
ほう、と目の前の女がごく自然に防の型『万力鉄芯の構え』に移行しながら息を漏らした。
「あらやだ。あなたも篠ノ之流をかなり深いところまで学んでいたようね」
「いや……テメェ、なんでこれができるッ!? 皆伝ってどういうことだよッ!?」
この篠ノ之流接近銃撃術は箒の父がなんかノリで作り上げた、そのくせして各国の特殊部隊の格闘術にすら影響を与えたというデタラメ極まりない戦闘術のはずだ。
俺がかじったのは篠ノ之流剣術と戦闘術、加えてこのインチキ・ガン=カタ術のみ。
開祖たる箒パパ直伝である以上、ぶっちゃけ俺はこの三つの中だとこれが一番得意だ。というか俺以外誰も真面目に習ってなかった。俺はエアガン二丁拳銃がカッコ良すぎてやってただけだしな。
箒パパ曰く、攻→防→攻防一体→攻、みたいな感じで三すくみが成立しているらしい。
さっきから俺もスコールも決して止まることなく次々と構えを変え続けているが、それはこの流派における攻略法を忠実に行っているだけだ。
端から見たら凄い中二病患者同士の演武みたいになるんだけどな!
「……お姉ちゃん、この人達なにしてるのー?」
「シーッ、ほっといてあげなよ、今楽しんでるところなんだから」
……ギ・ギ・ギと、錆びついたブリキのように俺とスコールは顔を横へ向けた。
そこには俺がよく見知った少女――五反田蘭と、見覚えのない小学生ほどのロリっ子がいた。
視線があった瞬間、『あっヤベ』みたいな感じでバッと蘭が目をそらす。
「……いつか見てた?」
「窓ガラスの下りあたりからですかね」
「死ぬわ」
「私もお供するわよ」
「わァァァッ待って待ってッ! 早まらないでください一夏さんと美人さんッ!!」
あんな意味不明の演武ノリノリでやってるとこ見られたら誰だって死ぬしかねーだろッ!!
割れたガラスの向こう側は吹き抜けの広場となっており、余裕で飛び降り自殺できる高さだったので普通に死のうとしてしまった。あぶねえあぶねえ。
黒歴史ノートをオカンに見られたがごとく発狂していた俺とスコールをなだめる女子中学生と興味なさそうにその辺のガチャガチャを眺めている女子小学生(推定)の絵面は、多分果てしなくカオスだった。
「お久しぶりですね」
落ち着いた俺が廊下の隅に座り込んでうなだれていると、背後から蘭が肩を叩いてきた。
成長期の女子らしい、なんか爽やかで……こう……ちんちんがイライラする女の子の香りがする。んだコレ。そうやって童貞殺しにかかるのやめろ。ホント弾がいなけりゃ何回即ハボしてたか分かんねえな。
「……で、蘭は何やってたんだよ」
「いや、この子が迷子だったんで一緒にお母さんを探してあげてたら、途中でこんなことになっちゃったので隠れてて」
「こんなこと?」
「……ねぇ」
立ち直ったスコールが、不意に口を開いた。
「おかしいと思わないかしら」
「あ? 何がだよ」
「私達、メチャクチャに銃撃戦を展開してたわよね」
「ああ、それがどうし……ッ!?」
あ、これおかしいわ。誰も俺たちをしょっぴきに来ない。
気まずそうに蘭が口を開く。
「もしかして、聞いてなかったんですか……?」
「えっ何が」
「今このモール、テロリストに占拠されてるんですよ」
「…………」
なんかこんな展開前にもあった。
「そういえばレゾナンスも前にテロリストが――」
「やめろ。その話はどうでもいいだろ」
スコールの話をぶった切って俺は口を開く。
「俺のツレはどうなってんだ」
「私も今日はデートだったのだけれど、皆何処へ行ったのかしら」
隠れていたという蘭と幼女以外、周囲には人影がまったくない。
「多分、人質として、一階に……」
「は? 温厚な俺もこれはキレるわ」
「テロリスト許せないわね、殺すわ」
それお前も死ぬんじゃねえかな。
世界を又にかけて暗躍する秘密組織の首領とは思えぬセリフに、俺は内心のツッコミをどうにか飲み込んだ。
こいつは敵に回せば厄介この上ない敵だ。ただし、味方になれば、この上なく頼もしい。
「オーケーだ。蘭、その子のお母さんもそこにいるんじゃないか?」
「たぶんそうだと思いますけど……」
「なら、迎えに行くしかねえだろ」
「織斑君の言う通りね」
スコールがその金髪を風になびかせ、俺は首を鳴らす。
「ずっと思ってたんですけど、あの人どなたですか?」
「あー……えっと、あれだ。俺のハーレム要員その8」
「その辺のチョロインと同じにしないで頂戴」
ガチギレスコールににらみつけられ、俺は失禁しそうになりながら肩をすくめた。
まあ失禁しそうになったのは隣で「え……8……? 私を含めたとしても7人ぐらいオトしてるんですか一夏さん……?」とハイライトの消えた瞳で俺を見つめブツブツ言ってる蘭のせいっていうのが大半だけどな!