良く晴れた昼下がりの午後。
洋風の古城跡地のような場所に俺たちはいた。
跡地といっても実質は図書館島の一部でうらぶれた感じはぜず、レジャーシートと弁当でも持ってきていれば最高のピクニックになりそうなシュチュエーション。
けれど今日はそれらを準備していないのが悔やまれる。
うん、次来る事があったら是非持って来よう。
だったらなんでこんな所に来ているかと言うと、今日の目的はネギ君の修行。
なんでもここは人目につきにくく、適度に広いため使いやすい場所らしい。
視線を少し下げると、そこには指導役のエヴァの金髪のツムジが見える。
隣には茶々丸。
チャチャゼロは相変わらずのお留守番。
そして視線を少しだけ前に向けると、刹那、アスナ、このか、宮崎さん達ががずらりと並んでいる。
その更に奥にはネギ君が杖を持って神妙な面持ちをしていた。
……ちなみに後ろには古菲さんと綾瀬さんがいる。
古菲さんは京都の夜の事があるから、まあ良しとしよう。
しかし、綾瀬さんはなんでここにいるんだろうと思ったので聞いてみたら、なんでも彼女は、このかの屋敷にフェイト達が襲撃をかけてきた際にたった一人だけ脱出を成し遂げ、龍宮さんや古菲さん達を助っ人として呼んでくれたのだそうだ。
そう考えると、彼女には間接的にとは言え助けられたようだ。
ある意味、恩人と言っても過言ではないだろう。
綾瀬さん曰く、
「私はあの場ではお役に立てそうもなかったです。なので自分の手に余る事柄を他人にお任せしただけに過ぎないですよ」
と、ある種自嘲気味に呟いていた。
だがしかし。
彼女はあの場で出来る最高の判断を成し得たのだ。
そのお陰で俺達はここでこうして誰一人として欠けることなく集まる事が出来ている。
賞賛されこそすれ、卑下する事など微塵もないだろうというのが俺の見解だ。
彼女の状況判断能力は確かだろう。
そして、そんな彼女はこの場で俺を見るなり開口一番呟いた。
「———おや、同志ではないですか」
「なんでさ!?」
いきなりだった。
いきなり過ぎた。
余りにも突然過ぎたので、賞賛の言葉が吹き飛んでしまうくらい。
どうしよう。
早速だが彼女の状況判断能力を疑ってしまいたい———!
同志。
ソレは同じ志を持つ物同士を表わす言葉。
では、この場で何を持って同志と俺を評すか。
それは勿論”アレ”だろう。
”アレ”。
思わず正式名称を避けてしまいそうな摩訶不思議ブツ。
”ラストエリクサー 微炭酸”。
味を思い返してみるだけで思わず微妙な表情になってしまいそうである。
不味いとは言わないが、アレは流石に愛飲する気になれん。
なので同志と言う表現には些か語弊があるだろう。
だがしかし。
いきなり同志と言う呼称はあまりあり得ないのではないだろうか。
もしかしたらあの時の1回だけの自己紹介だけでは名前を覚え切れてなかったのでそう呼んでいるのかも知れない。
「”衛宮士郎”———な。改めて宜しく」
名前の部分に若干のアクセントを置いて、もう一度自己紹介する。
我、呼称ノ変更ヲ求ム――的に。
綾瀬さんはきょとんとした表情で俺の言葉を受け止めていた。
「? ———ええ、もちろん存じ上げてますですよ?」
「ああ、そっか、そりゃよかった。俺はてっきり名前を覚え切れてなかったのかと思った」
「まさか。幾ら私でも名前を忘れるなどと言った失礼な事はしないです」
「悪い悪い。ちょっと気になってな。分かってるんなら問題ないんだ」
「ええ。私が貴方の名前を忘れているわけがないです———同志」
「…………えーーっと」
全然分かってなんかなかった!
むしろ確信犯だ!
余計にタチが悪い!
「衛宮士郎な」
「———ですから同志と、」
「衛宮士郎」
「…………」
「…………」
お互いに無言で牽制し合う。
彼女の手に握られている、ジュースらしき物の名前がチラリと見えた。
———『プルコギエキス』。
「———っ」
そ、想像が付かない!
一体全体どんな味なのかが全くの未知!
そして、流石の俺もそういった類の物を愛飲するような団体に加入するのは全力でご勘弁願いたい!!
そう———ここはある意味デッドライン。
ここで引いてしまったらきっと大切な何か色々な物を失ってしまうのだ!
「———同志」
「衛宮士郎」
「どう、」
「衛宮士郎」
「ど、」
「衛宮士郎」
「…………衛宮さん」
「うん」
勝った!
何か知らんが、何か大切な物を勝ち取った気がする!!
「よし、では始めろ」
と。
そんなエヴァの声で過去の激闘の記憶から現実に引き戻される。
む、いかんいかん。いくら他人の修練を見学するだけといっても気を抜いていては失礼にあたってしまう。
「刹那、『気』は抑えておけ。相応の練習がなければ『魔力』と『気』は相反するだけだ」
「はい、エヴァンジェリンさん」
刹那が頷く。
それを確認するとエヴァがネギ君に向けて顎をクイッ、と上げて合図した。
「いきます。———契約執行180秒間! ネギの従者『近衛木乃香』、『宮崎のどか』、『神楽坂明日菜』、『桜咲刹那』!」
ネギ君がそう唱えると、4人の体が淡い光で包まれる。
サーヴァントシステムとは違うだろうから俺には良く分からないが、4人の契約者との同時発動はキツそうだ。
けれどもエヴァはそんな事を気にもせずに矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「よし、次だ。対物・魔法障壁全方位全力展開!」
「ハイ!」
「———次! 対魔・魔法障壁全力展開!」
「———ハイ!」
「…………」
アスナが心配そうにネギ君を盗み見ている。
やっぱり色々と心配なんだろう。アスナは何も言わないがその態度から簡単に分かってしまう。
「———そのまま3分持ち堪えた後、北の空へ『魔法の射手・199本』! 結界張ってあるから遠慮せずにやれ!」
「うぐっ……ハ、ハイ!!」
ネギ君は返事をするものの、段々と勢いが無くなっていってるのがありありと見える。
「———光の精霊199柱。集い来りて敵を射て! 『魔法の射手・連弾・光の199矢』!!」
呪文の発動と共に放たれる光の束。
それらが上空へと勢い良く飛んで行き、膜のような物に当たり光の粒子へと変わった。
「おおーー」
「これが魔法……ですか」
背後から綾瀬さんと古菲さんの驚きの声が上がった。
それに引き換え、このかや宮崎さんは、
「キレー……」
「花火みたいやなー♪」
とか、ノンビリとした声が上がる。
まあ、確かに光が輝く様は花火に見えなくも無い。
でもこれって、撃ってる方は大変だろうな……。
「あうう〜〜〜?」
案の定である。
ネギ君は過負荷に耐えられず目を回してしまっている。
それに慌ててこのかや宮崎さんが介抱に向かう。
エヴァはそれを見て、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「この程度で気絶とは話にもならんわ! いくらヤツ譲りの強大な魔力があったとしても使いこなせなければ宝の持ち腐れだ!! 張ってある結界ごとぶち抜く勢いで撃たんか!」
……や、それやり過ぎだから。
折角張ってあるのを壊してどうするかっ。
「よーよーエヴァンジェリンさんよぉ。そりゃ言い過ぎだろ。兄貴は10歳だぜ? 4人同時契約3分+魔法の矢199本なんて修学旅行の戦い以上の魔力消費じゃねーか。気絶して当然だぜ。並の術者だったらこれでも十分……。それにあんな強力な結界抜くなんて旦那じゃねーんだからって無理だって」
「———黙れこの下等生物。仮にもこの私を師と呼び、教えを乞う以上それくらい出来なくては話にならん」
……おーい、エヴァ。顔が怖いことなってるぞー。カモなんか怖がってアスナに抱きついてるし。
しかしまあ……思った通りエヴァの修練内容はハードらしい。修学旅行の時ですら倒れなかったネギ君がアッサリと倒れるんだから半端じゃない。
それでもちゃんと意味がある事なんだけど。
仕方ない。
エヴァはそういうコトをいちいち説明するような性格ではないのだから、それをフォローするのは俺の役割だろう。
「あのな、カモ。エヴァも考え無しに限界の力であんな事やらせたんじゃないんだぞ?」
「おい、士郎。余計な事は……」
「いいから、いいから。……エヴァは今のネギ君の限界を測っていただけだ。限界値が分からないとどこまで鍛えて良いか分からないだろ? だから今後の参考の為にこうしたんだ」
「……ちっ」
エヴァがそっぽを向いて舌打ちする。
それにアスナが感心したようにへー、と言った。
「エヴァちゃん、それホント?」
「———知らん。士郎が深読みしているだけだろうよ」
エヴァがそう言うとアスナはニヤニヤと笑ってその様子を眺める。
すると、そんな視線が居心地悪かったのかもう一度舌打ちすると、倒れたままのネギ君に向かって言った。
「そんな事よりだ、坊や。———今後私の前でどんな口応えも泣き言も許さん。少しでも弱音を吐けば地獄すら生温いキツイ仕置きを与えてやるからな。覚悟しろ」
エヴァはきっと脅しのつもりでそう言ったのだろうけど、ネギ君はそれを受けても全く引かなかった。
それどころか、
「はい! よろしくお願いします、エヴァンジェリンさん!!」
と、望む所だと言わんばかりに返事をした。
「む……?」
エヴァはそんな勢いに押されてやりにくそうにしている。
はは……、エヴァは直球に弱いからな。
それでもエヴァはなんとか搾り出すようにして言った。
「わ、私の事は師匠(マスター)と呼べ」
エヴァが何やら俺を恨みがましく見上げている。
まるで、俺のせいだとでも言っているようだ。
とんでもない冤罪であるが、俺はそれを取り合えず適当に笑って受け流す。
いやはや……色々と問題はあるがやっぱり騒がしくなってきた。むしろこの面子がそろって静かな方があり得ないか。
すると、ネギ君が何かを思い出したかのように真剣な表情で切り出した。
「は、はい師匠! あ、あのっ、所で師匠———ドラゴンを倒せるようになるにはどれ位修行すればいーですか?」
『——————は?』
あまりの発言に思わずエヴァとハモってしまった。
だって……ドラゴンってアレだろ? 最強の幻想種にして神にも似た存在っていう。
アレに勝つのか?
や、そりゃ同じ世界じゃないから同レベルで考えたらダメなんだろうけど……。
「……もう一回言ってみろ」
「ですからドラゴンを……」
「ほうほう、ドラゴンか」
「はい!」
エヴァが眉間を親指でぐっぐっ、ともむ仕草をしてから俺を見る。
その瞳が語っていた。
———ヤッてしまっても構わんか?
目は口ほどにモノを言うものである。
そんな事言われたら俺の返事なんて決まってる。
———適度にゴー。
俺はおざなりに手を振って返事をする。
ソレを受け取ったエヴァは深々とため息をついた後、
「————アホかーーっ!」
「ぺぷぁ!?」
グーで殴った。
ポキャ、とかなんとも痛く無さそうな音で。
「21世紀の日本でドラゴンなんかと戦う事があるかーー! アホなコト言ってる暇があれば呪文の一つでも覚えておけ!!」
エヴァがネギ君に掴みかかって大声で怒鳴りちらした。
けど今回ばかりはエヴァに同意。
だって、ドラゴンなんて何処にいるってんだ?
そんなもんがいたら生態系が狂う……ってそんなレベルの話じゃないか。
なんにしてもどこからドラゴンなんて出て来たんだか。
「———ったく、まあいい! 今日はここまでだ、解散!」
「ハ、ハイ、師匠!」
エヴァの掛け声で各々、散っていく。
俺とエヴァはそれを並んで見送っていた。
「なあ、エヴァ。ドラゴンってやっぱ強いんだろ?」
「んあ? まあ……ピンキリだがな。それでも基本、竜種は強力なモノが多い」
あ、やっぱりそこら辺は一緒なんだ。
『——————か、関係ないって今さら何よその言い方!』
『——————いえ僕は無関係な一般人のアスナさんに危険がないようにって……』
「ちなみにどれ位だ?」
「あー……なんとも幅が広いから一概に言えんが……そうだな、坊やでは無理だがお前ならかなり上位のドラゴンまでも打倒できるんじゃないか? ……もっとも、お前に更に隠し玉があるんならそれ以上すら可能だろうが」
「———あれ? そんなもんなのか?」
ちょっと拍子抜け。
俺程度で勝てるんだ。
『——————無関係って……こ、このっ……私が時間ない中わざわざ刹那さんから剣道習ってんの何でだって思ってるのよーっ』
『——————ええ!? 僕、別に頼んでないです! 何でイキナリ怒ってるんですか!?』
「そんなもんって……それだけでも相当なモノだと思うがな。しかし、あくまで打倒の可能性があると言うだけで、勝てると断言はできん。お前の能力はどうも特化型だからな、勝てる要素はあるが負ける要素だって同じ割合だけ存在する。———と、まあ、この話は後でいい。それよりこの後ガキ共に説明しなければいけない事があるから連中を連れて家に戻りたいんだが……アレは何してるんだ?」
「———さあ?」
いい加減無視できなくなってそちらに意識を向ける。
なにやらさっきからギャーギャーうるさいと思ってたけど……ネギ君とアスナ、何してんだろ?
「何でって……これだからガキは……あんたが私のことそんな風に思ってたなんて知らなかったわ———ガキ! チビ!」
「ア、アスナさんこそ大人気ないですー! 年上のくせにっ———怒りんぼ! おサル!」
……何て言うか、
「まんま子供の喧嘩だな」
「……ふん、アホらしい。放っておけ」
エヴァがため息を吐きながら言う。
……まあ、大した事ないだろ。見ていて微笑ましいというかなんと言うか。
喧嘩するほど仲が良いってやつだろうか?
何にしても生暖かい目で見守って置くのが一番か。
微笑ましい二人の喧嘩を横目に、このかの方まで歩いて行く。
このかはこのかで喧嘩している二人が心配なのか、落ち着かない様子で見守っていた。
「このか、ちょっといいか?」
「あ、うん。なんや、シロ兄やん?」
「この後エヴァが皆に話あるらしいんだけど……時間あるか?」
「エヴァちゃんが? うん、ウチはOKなんやけど……」
このかはそう言って、まだ喧嘩をしているアスナとネギ君を心配そうに見る。
「心配なのは分からなくもないけど……取り合えずやらせとけよ。変に溜め込んでいるより吐き出してスッキリさせた方がお互いのためだろ?」
「うーん……そんなモンなんかな?」
「そんなもんじゃないか? ほら、このかだってこの間までは刹那とそうやって一緒にいれなかった。それでも今側にいれるのはそんなわだかまりが無くなったからだろ?」
「———あ。……えへへ。うん、そうやね」
このかが嬉しそうに笑って隣にいる刹那を見る。
刹那はそれを受けて照れくさいような笑みをしていた。
……うん、こっちも仲が良さそうで言う事はないな。
そんな光景に思わず頬が緩む。
「———僕聞きましたよ。パイ○ンって毛が生えてないってことですぅー!」
……だってのに、なんでそんな発言が聞こえてくるかな。
言いたい事は言っとけ見たいな事は喋ったけど、誰がそんなこと言って事態を悪化させろと言ったかっ。
そんな事言ったらアスナだって……。
「———こ、の……『来れ』(アデアット)!」
あー……こりゃ来るな。
俺がそう思った瞬間、アスナはハリセンを召喚した。その顔は羞恥で真っ赤だ。
ネギ君はソレを見て瞬間的に障壁を展開したが、
「アホーーーーッ!」
「はうーーー!?」
スパコーン、と軽快な打撃音と共に簡単に突破してしまうアスナ。
アスナも衝動的にやってしまったのだろう。一瞬だけ自分のやってしまった行動に自分で驚いたような表情をしたが、顔を背けて逃げるように走り去ってしまった。
「あちゃ〜……、まさかこうなるとはな……俺も考えが足りなかったか」
思わず顔を手で覆う。
この展開は予想外だった。
せめて話し合いで解決すると思ったんだが……考えが甘かったか。
いつもだったら簡単に手を出してしまうアスナを諌めるとこだが、今回の事は色々と問題のある発言をしたネギ君に非があると思う。
かと言って、放っておけと言ったのは俺だし、このままにしておくのは余りにも後味が悪すぎる。
「悪い、エヴァ。俺、アスナをフォローしてくるから話は先に進めててくれ」
「放っておけば良いものを……まあ良い、早く帰って来いよ」
「ああ、わかってる」
エヴァの許可を取ってからアスナを追いかける。
その途中でネギ君が俺を縋るような目で見ていたけど、今回はあえて無視する。
ちょっと反省してなさいって感じだ。
アスナは相変わらずの健脚で、俺が追いつく頃には寮の前まで来ていた。
「おいアスナ、ちょっと待てって!!」
ようやく追いつき、走るアスナの手を捕まえる。
アスナは別段、逃げたりもせずに素直に止まってくれたが、こっちを見ようとはしなかった。
「…………なによシロ兄。また叩いたから叱りに来たの?」
ぶっきらぼうに言う。
これは完全に拗ねてるな。
「違うって。別にお前を叱りに来た訳じゃない。ただお前がイキナリ走って行っちまうから心配で追いかけてきたんだよ」
「…………心配してくれてアリガト。でも大丈夫だから」
そう言いつつもまだこっちを見ようとしない。
そんなアスナを見て両手を腰にあててため息を吐く。
やれやれ……、そんな様子で大丈夫なんて言われても信じられるかってんだ。
今は取り合えず落ち着かせなきゃいけないか。
「ふぅ……アスナ」
出来るだけ優しく言ってやる。
「…………何」
そっぽを向いたままでアスナが応える。
「店、寄っていけよ。お茶ぐらいご馳走してやる」
◆◇—————————◇◆
店内に紅茶の優しい香りが漂う。
アスナは大人しく着いてきたものの、カウンター席に座って一言も喋らず俯いたままだ。
「ほら、出来たぞ。少しだけブランデー垂らしてあるから気分も落ち着くはずだ」
そんなアスナの前にそっ、とカップを置く。
アスナはそれを見て「アリガト……」と、小さく呟くとカップに口をつけた。
「———ん……美味し」
「そっか、そりゃ良かった」
俺もカウンターの中の棚に寄り掛かったまま、自分の分のカップを傾ける。
紅茶の香気が口に広がって気分が落ち着くのが分かる。
夕日で赤く染まった店内でアスナと二人、無言でカップを傾ける。
暫くそうしていたが、アスナがカップをソーサーに下ろして呟くように囁いた。
「……ねえ、シロ兄」
「ん?」
その声にアスナを見てみると、アスナは琥珀色の紅茶の水面に映った自分を見ているようだった。
「……私、一人で勝手に盛り上がってるだけなのかな」
「……と、言うと?」
アスナは紅茶の水面を見ながら儚く笑うと、手でカップを回して、その中で紅茶をクルクル回した。
「私ね、さっきネギに無関係だって言われて頭に来た。今まで散々巻き込んでおいて今更なんだそりゃーって思った。私がわざわざ剣道習ってるってのに頼んでないとか言われて、これだからガキは嫌いなんだって本気で思った」
ユラユラと揺れる水面をジッ、と見ながら話す。
彼女がその水面に何を見ているかは分からない。
けれど俺にはその揺らぎが彼女の心情そのものだと感じられた。
俺はアスナの言葉に耳を傾ける。
「…………最初はそこら辺のガキと一緒で、無神経で無鉄砲で無責任に泣き喚くだけのヤツだと思ってた。でもね、アイツは———違ったの。アイツはいっつも一生懸命で……一生懸命すぎるヤツで。だから危険な事だって一生懸命に頑張っちゃうから、———あー、これは私が何とかしてやんなきゃなーって思ってたのに……関係ないって言われてショックだったのかも。ねえ、シロ兄? ……結局これって私の思い込みなのかな……? ねえ、シロ兄……私のしている事って余計なお節介なのかな……っ」
ポツリ、と。
彼女の大きな瞳から雫が落ちた。
それは溢れるように次から次へと零れ落ちて、紅茶の中にも波紋を作って行く。
それを見て実感した。
———そっか、アスナは不安なんだ。ネギ君の側にいて、彼を近くから見守り続ける事が出来なくなるのがたまらなく不安なんだ。
だから無関係だって言われてこんなにも怒った。
自分のしていることが意味の無いような事に思えて。
「…………ぅ………っ」
ポロポロと涙を零すアスナ。
それはまるで不甲斐ない自分を責めているようにも見えた。
「———アスナ。少し、昔話をしようか」
「…………昔話?」
手の甲で涙を拭い、こちらを見上げてくる瞳に頷く。
「ああ、昔話だ。———遠い、遠い国の、とある男の物語」
今はこの子の為に記憶を集めてみよう。
役立たずの頭でも。
この子の励みになると言うならばパズルをかき集めてみよう。
そして、ゆっくりと話し始める。
「昔、昔。ある所に一人の男がいました。その男は少しだけ普通の人とは違う、けれども、役にも立たないような力があるだけの何の取り得もない平凡な男でした。ところがその男はひょんな事から、ある宝物をめぐる戦いに巻き込まれてしまったのです。二人一組、そのチームが7組で一つの宝物を奪い合うゲームです。その男は何の知識もなく戦いの渦中に放り込まれてしまいました。そして、そんな男のパートナーは……一人の騎士でした」
「……騎士?」
「そう、騎士だ。……その騎士は男とは比べるべくもないほど強く、高潔で、誇り高い最高の騎士でした。騎士は男を見て言いました。自分が戦うから貴方は下がって見ていろ、と……。当然です、男は騎士に比べて遥かに弱く、頼り無かったからです。……でも、男は引き下がりませんでした。無謀にも戦いの中心で戦うことを決めたのです。当然、弱い男は何度も何度も傷つき、何度も何度も倒れました。その度に騎士は何故無謀な事をするのだと男を叱り付けました。男はそれに答えました」
———それは、今もこの胸にあり続ける答え。
「心の底から信頼する騎士が傷つくのが嫌だ、と。男は騎士の制止を振り切り、何度も戦いました。何度も何度も……。そしてやっと騎士も認めてくれた……んだと思います。男の馬鹿さ加減に呆れながらも共に戦うと認めてくれたのです。そして———戦いは続いていくのでした。……おしまい」
すっかり冷めてしまった紅茶を飲みながらそう締めくくった。
「———え? 終わりって……続きは?」
「……これの後はな———白紙なんだ。きっと自分で考えろっていう話だ」
アスナはポカン、とした後、「なにそれ」と小さく笑った。
やっと笑ったか。
「で、その御伽噺が何だって言うの?」
「———分からないか? アスナ、お前はその男と同じとは言わないが似たような事をしてるって言ってるんだぞ?」
「え?」
「今のお前だとネギ君の方が強い。それなのにお前はネギ君を守りたいと言う。力になりたいのだと言う。……それはどうしてだ?」
「そ、それはアイツが弱いクセに無茶ばっかりするから……」
「でも、力がないのはお前も一緒だろう? お前は普通の女の子だ。そんなお前がネギ君のパートナーになってどうする。怖いから逃げたって誰も……それこそネギ君だって責めたりしない」
「…………そ、そりゃ私はシロ兄みたいに強くないし、もちろん怖いわよ」
「だったら、」
「———でも!」
アスナが俺の言葉を遮って声を挙げた。
「それでも! そんな事よりもアイツが私の見てない所で大怪我したり、死んじゃったりするかもって考える方がもっと怖いの! どっかで馬鹿やって勝手にいなくなったりしたりするのが嫌なの———!! ———だから守りたいの。アイツにパートナーとして見てもらいたいの!」
アスナが強い瞳で俺を見る。
その瞳は涙に濡れているが、その奥に宿る決意の炎は消えてなんかいなかった。
ああ……ホント、強情な子だ。
「だったらそうやって言う事だろ?」
「……え?」
「お前はネギ君を守りたい。つまりはそれだけの事だ。だったらそれをネギ君に伝えれば良い。言ってないんだろ?」
「——————あ」
アスナが呆気に取られたようにしている。
やっぱり、か。
俺はそんなアスナを見てククク、と笑う。
「……言葉にしないでも伝わる気持ちもあるけど、言葉にしなきゃ伝わらない想いだってある。まずはそうやって言ってやれ。全てはそれから———だろ?」
アスナは間の抜けたような表情で俺を見続けている。
そして、
「———そっか……うん、そう……よね。まずは、それから……よね」
自分で確認するように何度も頷く。
その表情はどこかスッキリとしていた。
「じゃあ今から行くのか? ネギ君も結構しょげてたし」
「…………今は行ってやんない。アイツ、私の悪口言ったし」
あー……それは”あの”発言か。
ま、それはネギ君の自業自得。自分で何とかしてもらおう。
頬を膨らませて可愛らしく怒るアスナに俺は苦笑する。
アスナはそれで吹っ切れたかのような表情になると、カップに残った紅茶を一気に飲み干した。
「シロ兄、ご馳走さま! おかげで少しは気が晴れた」
「そっか」
アスナが言う通りその表情は晴れ晴れとしていた。
元気に椅子から立ち上がると、弾むような足取りで店のドアを開け放った。
……さて、後は当人同士の問題か。でも悪いようにはならないだろうな。
そんな事を考えながらアスナのカップを片付ける。
「…………ねえ、シロ兄」
「———え?」
声の方を見るとアスナはドアを開けたままで、まだそこに佇んでいた。
入り口に背中を預けたまま横向きになり、首だけを廻してこちらを見ている。
夕日が開いたドアから差し込んで、その逆光のせいでアスナの表情は良く見えなかった。
「———今日はアリガト。シロ兄が来てくれた時、ちょっと嬉しかった」
「……どういたしまして。大事な妹分だからな、大切にするさ」
珍しく殊勝に礼を言うアスナに思わず微笑みながらそう返す。
するとアスナは顔を背けながら小声で言った。
「———シロ兄に言ったことなかったと思うけど……私ね、家族がいないの。物心付く前から一人だった」
「……そうだったのか」
知らなかった。
いつも明るい彼女にそんな過去があるなんて。
考えてみれば俺は、アスナのことをほとんど知らなかったのだ。
そんな俺にアスナは何かを伝えてくれようとしている。
「でもね、寂しいなんて思わなかった。このかも高畑先生も側にいたし、クラスの皆は楽しいし。って言うか、あんまりにも騒がしすぎて寂しいなんて思う暇がなかったって言うのが正確かも」
「そっか」
アスナはクスクスと笑ってその楽しい光景を思い出しているようだった。
その雰囲気に陰りや強がりはなく、本当に楽しい物だったんだろうという想いが伝わってくる。
「それでね。今年に入ってシロ兄に会ったじゃない? 私がバイトしてる時に」
「ああ、そうだったな」
「うん。シロ兄ってばその時から愛想無いくせにやたらと親切にしてくれたでしょ。それも一回だけじゃなくて会う度にいっつも」
「……そうだっけか?」
「———うん。私は覚えてるわよ。忘れたりもしない。でね、その時から段々と思うようになってたの」
アスナが鼻の頭を照れたように掻きながら。
それでも。
大切な想いを言葉に乗せるように囁いた。
「…………ああ、もしも私に家族がいればこんな感じなのかな……お兄ちゃんがいればこんな感じなのかな……って」
「…………」
「私、シロ兄の事、お兄ちゃんって呼べるようになる事が出来て———本当に……本当に良かった。いっつも優しいし、困ってる時には助けてくれる。こうやって落ち込んでる時には励ましてくれた———私ね、シロ兄の事、本当のお兄ちゃんみたいに思ってるから」
「——————」
「だから、ね。———本当にありがとう」
照れたようにボソボソと言う。
……ったく、照れるくらいなら言うなよな。お陰で俺まで照れくさくなっちまったじゃないかっ。
きっと今の俺は真っ赤になってるんだろう。
夕日のせいで分からないとは思うが、この頬の熱さ日差しのせいだけなんかじゃない。
でも、まあ。
可愛い妹分にそこまで言われたら、
「———そうだな。俺も元気な妹が出来て嬉しいよ。ま、俺としてはもう少しお淑やかにしてくれれば言う事ないんだけどな」
冗談めかしてそうやって言う。半分以上は照れ隠しだって自分でも分かっている。
でも、そうでもしなきゃこんな空気に耐えられなかったのだ。
アスナは俺の答えを聞いて、んべっ、と舌を出した後に走り去っていった。
それでも。
最後に見えた夕日に照らされた顔は間違いようも無いほどの笑顔だった———。
「——————パートナー、か」
誰も居なくなった店で一人佇む。
考えるのは先ほどのアスナの言葉。
———だから守りたいの。アイツにパートナーとして見てもらいたいの!
本当は止めたかった。
そんな危険に何も知らずに身を置くと言う彼女を止めたかった。
……でも、あんな強い瞳で言われたら何も言えなくなってしまっていた。
だから、せめて。
「———アスナ、お前の想いが本物だって言うなら俺がお前達を守るよ。お前がネギ君を守ると言ったように俺がお前達を守って見せる」
京都での夜の誓いを再度誓う。
足りない覚悟で言ったお前たちの言葉は俺が補ってみせる。
いつか、言葉の意味を再認識して同じ言葉が言えるようになるまで。
誰もいない店内で、誰に立てるでもない誓いを立てる。
そして、俺のパートナーである騎士を想う。
「…………セイバー、お前だったらこんな俺に呆れるのかな」
———こだました声に答える声は無い。
ただ、いつまでも残響音のように響いていた。
◆◇—————————◇◆
「ただいまー」
帰宅の挨拶を告げながら扉を開ける。
「お、帰ったか士郎」
「お帰りー、シロ兄やん」
見るとエヴァとこのかが階段から降りてくる所だった。
「ただいま。他の連中は……まだ居るみたいだな」
二階の方からは話し声がする。
どうやら一息ついてるようだ。
「で、どうしたんだ二人で」
なんで二人して一階にいるんだろ?
話があるならみんなですれば良いのに。
「何、今は坊やに考える時間が必要だろうから放っておいてるだけだ。それに木乃香には話があるからな。そうだ、丁度良い。お前も付き合え」
「ふーん? 別に良いけど……」
良く分からないが、取り合えずソファーに腰掛ける。
そうするとエヴァは俺の隣に腰掛け、このかは俺の正面に腰掛けた。
「あ、せや! シロ兄やん、アスナ、どないやった?」
座るのと同時にこのかが身を乗り出して聞いてくる。
あんな事があった後なんだし、気になってて当然か。
「大丈夫。すぐには仲直りできないと思うけど、近いうちに仲直りできるさ」
「ホンマ?」
「もちろんだ」
そう言ってやるとこのかはにこやかに笑った。
エヴァはソレを見てため息を吐くと、咳払いした。
「あー……そんな事より話を進めるぞ」
「あ、うん。了解や」
「まずはさっきも説明したように、詠春から魔法使いになる気があるのなら教えてやって欲しいと頼まれている」
「詠春さんがか?」
「ああ、お前はいなかったから知らないだろうが、そういう言伝があったんだ。……私としてはメンドイからイヤなんだが」
「そっか……それで?」
「うむ。それで話を戻すが———木乃香、お前は魔法使いになる気はあるのか?」
エヴァがこのかをジッ、と見つめる。
このかはソレを受けながら「う〜ん」と、顎に手を当てながら考え込んだ。
「ウチ、まだ良く分からん……。ソレって今すぐ決めなアカンの?」
「なに、別段急ぐ事ではない。ただ、もしもその気があるのなら『魔法使いの従者』は早めに決めておけ」
「『魔法使いの従者』って……このカードの事?」
このかが懐から『仮契約』のカードを取り出す。
「ああ、お前は坊やと違って魔力はあっても基本や下地が無いからな。早めに従者を決めておいて守りを固めておくに越した事は無い。……もっともそんなモノは考えるまでも無いと思うがな」
エヴァがククク、と笑う。
考えるまでも無いって……ああ、そうか、刹那の事か。それなら確かに考えるまでも無い。
「ま、それもこれも魔法使いになるかどうか決めてからだ。じっくり考えてから結論を出すと良い」
「……うん、わかった。ウチ、ちょっと考えてみるな」
話はそれで終わったのか、エヴァが疲れたように深々とソファーに身体を預けた。
今日は面倒を見なければいけなかった人数が多かったから流石に疲れたんだろう。
だったらその労は労ってやらねばなるまい。
「エヴァ、お茶飲むか?」
「ん? ああ、スマンな。貰う」
了解、と呟いて立ち上がり、キッチンへと向かう。。
ちょっとした労いの意味も込めて良い茶葉を使ってやるか。丁度仕入れたばかりの物があったはずだ。
後はそれに合う様なお茶菓子だけど……昨日茶々丸が作ったクッキーが残ってたな。
そう考えて、いつも菓子類を入れておく戸棚を漁って探すが……。
「———あれ?」
ない。
おかしいな? 今朝見た時はまだあったのに……。
どこにいった?
「……って、考えるまでもないか」
俺は当然食べてないし、茶々丸だって一人で食べるような事はしない。チャチャゼロは動けないし、そうなるとエヴァしかない訳だが……。
「ま、いっか」
大方、小腹が減ったから食べただけだろう。別に目くじら立てるような事でもない。
でもそうなると困った事になった。
お茶請けが他にない。
まさか今から作るわけには行かないし……。
「むむむ……」
ヤカンがシュンシュン、と沸騰している側で悩む。
別にこのままお茶だけ出しても良いんだが、それでは些か片手間落ちなような、物足りないような気がする。
と。
『———いやぁああーーっ!?』
絹を裂くような女の子の悲鳴が外から聞こえた。
でも今の声って……、
「アスナ……?」
さっき分かれたばかりのアスナの声だった。
何でここに居るんだ? 寮に帰ったと思ってたけど。
取り合えずヤカンの火を止めて、確認に向かう。
その途中でエヴァと目が合い、視線で何事かと聞いてくるが肩を竦めて返す。
そして、ドアのノブに手をかけた所で、
「お?」
勝手にノブが回って開いた。
いつの間に自動ドアを設置したんだろうか?
———じゃなかった。
そんな訳はなく、ドアの向こう側に人が居るだけだ。
ゆっくりとドアが開く。その向こうに居たのは、
「あれ? タカミチさんじゃないですか」
タカミチさんだった。
手に紙袋を持って、何やら困ったような顔をして笑っていた。
「やあ、こんばんは士郎君」
そんな困ったような顔のまま挨拶をする。
はて、今の声に何か関係あるのだろうか?
「あ、こんばんは……今の悲鳴、何かあったんですか」
ドアから顔を出して外を確認してみてもアスナはいなかった。
そのかわり、何故かネギ君が地面に手をついて落ち込んでいる。
……訳が分からん。
「いや、まあ……今そこでネギ君に会ったんだがね……」
「まあ、そこにいますからね」
「そしたら、ネギ君が何やら魔法を使おうとしていたところらしくて……」
「……はあ」
タカミチさんは言い難そうに言葉を濁す。
むむ、何をそんなに言い淀んでいるのだろうか?
様子を見る限りそんなに切羽詰った状況じゃないみたいだが……。
そしてタカミチさんは決心を決めたようにして言った。
「その……何故か裸のアスナ君が出てきてね———」
「………………何ですかその状況」
「いや、どうも『仮契約』カードを使ってアスナ君を召喚したらアスナ君が入浴中だったらしくて」
「——————はぁ〜、何やってるんだか……」
話を聞いて思わずため息が出る。
折角アスナが許しかけているのに何で事態を悪化させるかな……。
これでまたややこしい事になるんだろうと考えると頭が痛い。
まあ、根っこの部分では解決してるみたいだから俺がこれ以上口出しする事はないんだろうけど。
「そういやタカミチさんはどうしてここに?」
「ん? ああ、そうだった。本来の目的を忘れる所だったよ。ほら、これ……西の長からのお礼って事で荷物が届いたから持ってきたんだよ」
タカミチさんは手に持った紙袋を持ち上げながら言う。
ああ、詠春さんからの……。
「言ってくれれば俺が取りに行ったのにわざわざすいません……。あ、折角ですからお茶くらい飲んで行きませんか?」
「ありがたいけど遠慮させてもらうよ。これから少し用事があるんでね」
「そうですか……それなら仕方ありませんね。それじゃ、わざわざありがとうございました」
「ああ、エヴァによろしく言っといてくれ」
それじゃ、と手を振って帰るタカミチさんを見送る。
お茶くらい飲んでいけばいいのに……やっぱり忙しいんだろうか。
「———おい、士郎。誰だったんだ?」
背中にエヴァの声がかかる。
あ、そう言えばお茶の準備の途中だったっけ。
「ん、タカミチさんが詠春さんからのお礼の品を届けてくれたんだ」
「詠春からの?」
エヴァはスリッパをパタパタ鳴らしながらやって来ると、袋の中を覗きこみ、包装紙に包まれた箱を取り出した。
……コイツも少しは待てないのかね? そんなにあせんあなくても今持ってくっての。
「……宇治抹茶スイーツセット?」
エヴァが取り出した箱を見ながらそう言った。
俺もその声につられて、エヴァの手にある箱を見る。
「へー、美味そうだな。丁度いいや、これをお茶請けにしよっか」
「おお、それは良いな! 賛成だ、早速食べようではないか」
「んー……でもそうなると何飲む? お茶? 紅茶? コーヒー?」
宇治抹茶が入ってるなら日本茶で合ってるようなそうでもないような。
でも一応は和菓子っぽいから紅茶とかコーヒーって雰囲気でもないような……。
「む、そうだな……紅茶で良いのではないか? セット、と言う事は色々入ってるのだろうしな。紅茶なら何にでも合うだろうさ」
「そっか。それもそうだな。うし、それじゃあ俺は紅茶の準備してくるからソレ持って行ってくれ」
うむ、とエヴァは頷いて箱を抱えながらソファーに戻って行く。
それに苦笑してキッチンに入ると、早速ビリビリと紙を破く音が聞こえてくる。
どうやらイキナリ包装紙を破りまくっているらしい。
「……ったく、仕方ないヤツだな」
ホント、こういう所は子供っぽいヤツだ。
まあ、いっか。それだけ今を楽しんでる証拠だ。
「———おーい、ネギ君! そんな所で落ち込んでないで取りあえずお茶にしないかー?」
俺はそんな時間をもっと充実させる為にも人数分のお茶でも淹れるとしようか———。