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No.32444の一覧
[0] 乳列伝 【完結】[abtya](2015/11/22 19:20)
[1] 0[abtya](2012/04/02 17:21)
[2] 1[abtya](2012/04/21 10:01)
[3] [abtya](2012/04/28 10:05)
[4] [abtya](2012/04/04 17:31)
[5] [abtya](2012/04/28 08:42)
[6] [abtya](2012/04/20 23:26)
[7] [abtya](2012/04/12 17:03)
[8] 7[abtya](2012/04/21 09:59)
[9] [abtya](2012/04/27 08:43)
[10] [abtya](2012/05/01 23:39)
[11] 10[abtya](2012/06/03 21:29)
[12] 11 + なかがき[abtya](2012/07/07 01:46)
[13] 12[abtya](2013/01/10 01:12)
[14] 13 乳列伝[abtya](2013/01/12 01:21)
[15] 14[abtya](2013/03/17 00:25)
[16] 15[abtya](2013/05/19 16:18)
[17] 16[abtya](2013/06/06 01:22)
[18] 17[abtya](2013/06/23 23:40)
[19] 18[abtya](2013/07/14 00:39)
[20] 19[abtya](2013/07/21 12:50)
[21] 20[abtya](2013/09/29 12:05)
[22] 21[abtya](2015/11/08 22:29)
[23] 22(完)+あとがき[abtya](2015/11/22 19:19)
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[32444] 16
Name: abtya◆0e058c75 ID:598f0b11 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/06 01:22
決闘開始から数十分が経過した。
クレアは拳剛の間合いの遥か外から間断なく攻撃を続けている。しかし攻勢一方の彼女の内心は以外にも、焦りに蝕まれていた。思った以上に戦況が膠着していたからだ。
風の弾幕が一面に降り注ぐ中、拳剛は一向に倒れる様子は無い。当たっていないわけではない。むしろ当たってない攻撃の方が少ない。ノーモーションで放たれる『風の壁』で足を止め、そこに広範囲に高威力で爆散する『圧縮空気弾』を叩きこんでいるのだ。直撃こそしないものの、その余波は確実に標的である拳剛にダメージを与えている。だが致命傷には至らない。
そして拳剛はただひたすら避け続ける。攻撃をしようとするそぶりすら見せない。

(こちらを挑発しておきながら、結局逃げるだけ。一体何を考えているのか。いっそ一気に畳みかけてしまえば……
いや、焦る必要はないはず。私の攻撃は確かに効いているのですから)

クレアは指を噛む。逸る自身を痛みによって落ちつかせる。
避け続けているとは言っても、拳剛の動きはだんだん衰えてきているのだ。この状況がいつまでも続くことはない。

(あるいは疲労で私が隙を見せると思っている?ならばその認識は甘いと言わざるをえません)

拳剛と違いダメージが蓄積していないクレアは、あと半日くらいは楽に戦闘続行が可能だ。拳剛が倒れるまで弾幕を降らす程度の余裕は十分ある。クレアが隙を見せるよりも、拳剛が倒れる方が先だろう。
だがそれでも、仮に拳剛がその隙を狙っているのだとすれば、クレアは慎重にならなくてはならない。

(此方が間合いの内に居ない以上、彼に攻撃の手段は無い。そしてこのまま攻撃を受け続ければ如何な等々力拳剛とはいえ戦闘を続けるのは不可能。
ならばこのまま圧し潰すが上策。無為に危険を冒す必要はない)

ゆっくりとに、だが確実に。クレアは獲物を仕留めるべく杖を握り直した。


**************


ここで、クレアは大きな判断ミスを犯した。彼女は今、多少無理をしてでも一気に畳みかけるべきだったのだ。実は拳剛は攻撃を避けるのも一杯一杯なのだ。物量で無理矢理押し切ったのならば、確実に戦闘不能にできた。クレアはリスクを負ってでも止めを刺しにかかるべきだった。
風見クレアは聡明な女性だ。普段の彼女であればこんなミスはしなかっただろう。さながら狩人のように、どのようなプロセスで獲物を追い詰め仕留めるかの正しい判断が下せたはずだ。それができなかった原因は二つ。悲願達成のために絶対に負ける事が出来ないという巨乳党党首としての責任感の重圧。そして挑発しておきながら逃げ回るだけという拳剛の意味不明な行動。この二つである。この二つに押しとどめられて、クレアは機を逃した。
実のところ、先ほどの挑発になにか隠された拳剛の思惑があった、などと言うことはまったく無い。基本単細胞の拳剛がそんな駆け引きができるはずもない。さきほどのアレは、プロレスで言うところの「どうしたオラ全然効いてねェぞゴラァッ!!?」という台詞の意味くらいしかない。要するにただの強がりだ。だがクレアはそれを深読みしてしまった。何か策があって、それでクレアの大技を誘っているのだと勘違いしてしまった。拳剛の意図を読み違えたのだ。

拳剛は別にクレアの隙を突こうと思っていたのではない。だが無意味に避け続けていたわけでもない。
拳剛はひたすらにクレアの乳を視ていたのだ。乳を視、肉の動きを視、気脈の流れを視て、クレアの一挙一動を視ていたのだ。
何故、拳剛は攻撃をすることもなくひたすらにクレアの乳を視ていたのか。それは拳剛が魔法使いという存在を今日まで知らなかったからだ。クレアとの戦闘は、拳剛にとっては文字通り未知との遭遇の連続だった。その未知なる敵が放つ未知なる攻撃は、無敵の内視力を以ってしても対応ができなかったのである。それゆえ、『内視力』をクレアの攻撃に対応させるため、拳剛は魔法という現象を理解する必要があった。どのような肉体の動き・気脈の流れを伴い魔法という事象が発現するのか。そのプロセスを把握しなくてはならなかったのだ。
未知なる現象の理解には時間が必要だ。風の弾幕の中、拳剛は自分が倒れるよりも早く、解析を終える必要があった。これは賭けだった。とても分の悪い賭けだった。何故なら既に拳剛の肉体は先刻のクレアの攻撃に依り深く傷ついており、更に現在進行形で傷は増え続けていたからだ。
実際、拳剛はこの賭けに負けるはずだった。内視力が平常モードであったのならば、魔法と言う現象を理解するよりも早く、拳剛は力尽きているはずだったのだ。だがそれは覆された。原因はほかならぬ風見クレア自身である。
クレアが類稀なる美乳であったことが、拳剛の幸運であり、クレアの不運だった。内視力を拓くのは乳への強き渇望。稀代の美乳を前に、拳剛のテンションは最高潮に達していたのだ。そのため、解析は予想よりも遥かに早く進んだのだ。

そして今、拳剛は賭けに勝った。
圧倒的なリビドーを伴い、内視力はアップデートを遂げる。


****************



「『突撃せよ』、『集え』――――――――『突撃せよ』」

クレアは『風の壁』で拳剛を足止めし、ほんの僅かの後、『圧縮空気弾』を発射する。
膨大な質量を伴い、風の弾丸が拳剛へ飛来する。肉を抉り骨を粉砕する魔弾だ。だが拳剛はもう動かなかった。
微動だにしない標的を確認し、とうとう拳剛に限界がきたのだと、クレアは勝利を確信する。『圧縮空気弾』は着弾と共に広範囲に炸裂する。迎撃しても大ダメージを喰らうのだ。大きく避ける以外に逃れる術は無い。

だが弾丸が着弾する、まさにその瞬間だった。予想を覆す光景がクレアの視界に飛び込んできた。
拳剛の繰り出した拳の一撃が、無造作に風の砲弾を弾き飛ばしたのだ。
弾き飛ばされた遥か先で、風の砲弾が大爆発を起こす。

(『弾いた』……ッ!?)

『音速を遥かに越え』飛来する『空気の塊』を、単なる拳撃で対応された。その上、大爆発するはずの砲弾は、どういうわけか弾かれた瞬間に炸裂することはなかった。想定外の事態にクレアが一瞬硬直する。茫然自失に動きが止まる。
それは拳剛にとって、ひたすらに狙い続けた機が来たことを意味していた。この隙を逃す拳剛ではない。
拳剛の大腿筋が、常人の五倍ほどにも膨れ上がる。次の瞬間、拳剛の姿はソニックムーブを残して地上から消失した。衛星軌道に突き進むロケットのように、天空高く舞うクレアに向け突貫する。耐えに耐えに耐えて、ようやっと巡ってきた好機だ。迎撃される危険など気にしている余裕はない。

「ッ、『廻れ』ッ!!!」

拳剛の跳躍に一瞬遅れてクレアが反応する。選択した行動は防御。クレアの呪文に応えるかのように、超音速の風の渦が、彼女を守るかのように包み込む。
だがそれは悪手だ。東城流の『通し』の前には、どんな盾も、鎧も、城壁も。あらゆる防御は意味を為さない。
拳剛は大きく剛腕を振りかぶり、突撃の勢いをそのままに、『風の障壁ごと』クレアを打ち抜く。拳が標的の横腹に着弾し、太陽が爆発四散したかのような轟音が響き渡った。

「かあっ……は……ッ!!!」

とてつもない衝撃に、クレアの身体が更に天高く放り飛ばされる。

「くッ!!」

一方拳剛は、激しく回転しながら吹き飛んでいくクレアの姿を見て表情を歪めた。
思いのほか拳撃は浅かった。おそらく戦闘不能とまでは行かないだろう。戦闘で負った傷は、拳剛に十全の力を発揮することを許さない。
あるいはこれが地上であれば踏み込んで追撃ができたが、空中だとそうはいかない。拳剛は、跳躍の運動エネルギーを全て使いきり、重力にしたがって地上に落下する。

地面に着地すると、予想通りクレアは空中で体勢を立て直していた。だがそこに先ほどまでの余裕はない。顔面を蒼白にし、額からは大量の脂汗をたらしている。

「空気の塊って、殴れるものなのですね。はじめて知りました」

クレアは微笑を浮かべ、はっきりとした言葉で語る。相当な負傷のはずだが、それを態度にはまったく見せない。すさまじい精神力である。
しかし戦闘を一時中断しわざわざ話しかけているのは、時間稼ぎにほかならない。

「別にその程度は難しくない。」

だが拳剛は、明らかに時間稼ぎとわかっているその会話にあえて応じる。平然と立っているように見えても、拳剛にもダメージは蓄積されているからだ。数十分にわたり風の砲撃を喰らい続けていた事を考えれば、拳剛の方が損傷は大きいかもしれない。体勢を整えさせてくれるというのならば、乗らない手は無かった。

「東城流の二本柱の内の一つ、『通し』。これは殴る物を取捨選択する能力だ。つまり俺は、固体だろうと液体だろうと気体だろうと肉体だろうと気脈だろうと、殴りたい物を殴りたいように殴ることができる」

要するに拳剛は、衝撃の伝播を操作できるのだ。この能力を以ってすれば、人質ごと殴って敵だけを制圧したり、超音速で乱回転する気流ごと中の人間をぶっ飛ばしたり、ヘタれ男の金玉の片方だけを粉砕することなど朝飯前である。

「とはいえ、殴れようとも的が視えなくては意味がないのでな。視えるようになるまで避け続けていた」
「……なるほど、深読みしすぎましたか」

ここで、クレアは先ほど拳剛が逃げ回っていた理由を理解する。すなわち、拳剛の挑発にはまったく意味がなく、逃げ回っていたのは内視力をクレアの攻撃に慣らすまでの単なる時間稼ぎだった、ということをである。

「では、弾が炸裂しなかったのは」
「それも『通し』だ。」

先ほどクレアの『圧縮空気弾』を打ち返した時、拳剛は刹那の内に2度拳撃を放っていた。初撃で圧搾するように衝撃を伝播させることで空気弾の炸裂一瞬止め、弐撃目で遥か彼方までぶっ飛ばす。これにより、圧縮された空気を暴発させることなく爆発の範囲外まで殴り飛ばしたのだ。

「成程。お見事です、等々力拳剛」
「お前こそ、だ。風見クレア。まったく、最近はあっさり俺を追い詰める輩が増えたな。太刀川にしろ薄井にしろ、お前にしろ。今までそんな奴は先生か、あるいは尻狂いの番町くらいしかいなかったんだがな」
「あら、自分よりも強い人がいるのは嫌ですか?」
「いいや、大歓迎だ」
「……ふふ」

しばらくの沈黙のあと、二人は無言で構えた。クレアはしっかりと杖を握り直し、拳剛は腰を落として拳を構える。
張り詰めた空気の中、最後に拳剛の口から出たのは、好敵手への賞賛の言葉だった。

「お前は、いや、お前たち巨乳党は凄いな」
「凄い?」
「たかが脂肪の塊のために命を懸けようとしている」
「それを貴方が言うのですか、等々力拳剛。」

拳剛の冗談めかした物言いに、クレアはクスリと笑う。

「私たちにとって、巨乳になることは命よりも重かった。ただそれだけです。貴方にとって全ての乳がそうであったように」
「……きっと、お前たちは巨乳となるために、壮絶な努力をしてきたのだろうな。お前の乳は、気高く美しい」
「えっ……!」

クレアの頬が朱に染まる。
拳剛の内視力はクレアの乳をしっかりと捉えていた。それは彼女の努力の結晶、人生そのものだ。この世に存在するありとあらゆる手段を用いて磨き上げられたその胸部は、拳剛をして驚愕せざるを得ないほどの美しさであった。一体どれほどの研鑽を積めばそれほどの乳となるのか。拳剛ですら理解の及ばない階位まで、クレアの乳は到達していた。
おそらくは、この世で最も気高い乳。飽くなき精錬の果てに届いた乳の境地。
しかし、だからこそ。

「だからこそ、俺には気に喰わんのだ。それほどまでに気高いお前が、龍脈の力などに縋って、運命を捻じ曲げてまで願いを叶えようとするのがな」
「……!!」

拳剛の瞳に、怒りの炎が宿る。

「知っているか、乳は揉むと大きくなるのだ」
「……それは、嘘ですよ」
「腕立て伏せも効果てきめんだ」
「…………大胸筋が付くだけです」
「牛乳飲んでバストアップ」
「…………………………私はッ!!!」

拳剛の言葉をさえぎるように、クレアは叫んだ。

「私は全て試した!! 胸を揉むのも腕立て伏せも、クリームもサプリも乳酸菌も豊乳マシーンも牛乳もっ!!」 

その時、彼女から巨乳党の党首という仮面は完全に剥がされた。そこに居たのは、己が運命を呪うただの無力な一人の少女だった。

「だけど大きくなんてならなかった!! 壁は私では打ち砕けなかった!!! 人の力では、貧乳のバストアップなんて不可能なのよ!!!」
「できないなどと誰が決めたァッ!!!!」
「!!!」

少女の悲痛な叫びを、その拳剛は一喝する。

「医者か? 科学者か? それとも神か? 違うな、決め付けたのは…………お前自身だ」

だから拳剛は気に喰わない。クレアが今までの自分自身を否定してしまった事が。極地まで精錬されたその乳を否定した事が。

「元よりこの決闘、負けられない理由が俺にはある」

愛する少女を守るため。そのために拳剛は万難排し突き進む。そのためには絶対に負けるわけにはいかなかった。それは鉄の決意だ。何よりも硬い鋼の誓いだ。
だが今それとは別の、燃え盛る炎の如き想いが、拳剛の内に湧き上がっていた。

「だがそれ以外にもお前を負かしたい理由ができたぞ。俺はお前のその乳を、今までの努力を、決して否定はさせん!!」

それは、全ての乳を愛する者の、心の底から発された願いだった。たぎる想念が拳剛の全身に満ち、ボロボロに傷ついた肉体と気力を再び蘇らせる。

「運命など変えさせん。たとえお前自身が拒もうとも、お前の乳をなかった事になど、させてやるものかッ!!!」

大気を揺らす拳剛の、魂の底からの絶叫。クレアの頬には、知らずの内に温かい雫が一筋流れていた。

「ありがとう、等々力拳剛」

その口から出たのは、己が信念を全力でぶつけてきてくれた目の前の無骨な男に対する、感謝の言葉だった。とめどなく溢れるそれを拭うことなく、クレアはほほ笑む。

「貴方の言葉は、今の私を真っ向から否定する。だけど、かつての私を、ただ純粋に未来に思いを馳せ、夢を追いかけていた頃の私を真っすぐに肯定してくれた。貴方のそのたった一つの叱咤は、幾万の賞賛よりも暖かい。だからこそ……」

そして少女は涙をぬぐう。再び顔を挙げたとき、そこに居たのは最早ただの少女ではなく、一人の戦士だった。

「だからこそ、私は全力で貴方に応えます!!!」

クレアが天高く杖を掲げる。瞬間、空は混沌たる渦に包まれた。拳剛と、その遥か上空に浮かぶクレアの周りを囲うように風が吹きすさぶ。いや、それは風と言うには余りに強く鋭く凶悪だ。
刃にも等しいその大風は、拳剛とクレアを取り囲んだまま天までも伸びる。

「竜巻だと!!?」
「超音速の風の刃の束。触れば肉どころか骨まで断ち、遥かな天空まで獲物を巻き上げます。 如何な等々力拳剛と言え耐えられるものではありません」

上空遥か彼方まで続く風の柱。先ほどまでの攻撃とは規模も威力も段違いだ。まさかこれほどの奥の手を残していたとは。拳剛の頬を冷たい物が伝わる。
だが、これほどの魔法をここまで使わなかったことを考えれば、おそらくこれはクレアにとってもリスクが高いのだろう。実際宙に浮かぶクレアは、先ほどまでの比ではないほどに呼吸が乱れ、顔面は色を失い、手足は力なく垂れさがり、尋常でなく消耗している。これを耐えれば勝機はあるのだ。だんだんと半径を狭める竜巻に、拳剛は如何にして対処するか思考を巡らせる。
だが、そんな拳剛の内心を見透かしたように、クレアは告げる。

「これは貴方を討つ刃でなく、貴方を閉じ込める檻。あくまで動きを封じるためのものです」
「なに?」

拳剛の疑問に答えることなく、クレアは杖掲げる。

「『集え』『集え』『集え』『集え』――――――」

震える身体で掲げた杖の先が、歪んだ。超圧縮された空気が、視認できるほどにまで屈折率を変化させているのだ。先ほどまでの『圧縮空気弾』とは比較にならないほどの空気がクレアの杖の先端に集中している。

「今度は、着弾の前に炸裂させます。先ほどのように弾けるとは思われないよう。そして、竜巻に囲まれたあなたに最早これを避ける術はありません。」

先ほどの比ではない空気を圧縮した弾丸。当然炸裂範囲も先ほどの比ではない。つまり、なにをしようが爆発に巻き込まれる。竜巻に囲まれた拳剛に為す術は無かった。

「これで決着です」

クレアが杖を振りおろす。超圧縮された空気の砲弾が、超音速で発射される。瞬間、大地を揺るがすほどの大爆発が巻き起こった。
爆発の余波で土塊が空へと巻き上げられ、突風を伴い土煙が撒き散らされた。

数十秒後、土煙が晴れ、爆心地が顕わになる。クレーターのように大きく抉られたそこには、しかし拳剛の姿は無かった。

「ッ!!?」

クレアの表情が驚愕に染まる。
肉片も残さぬほどに吹き飛ばされたのか。いや、拳剛の肉体強度を考えればそれはありえない。腕の一本は転がっているはずだ。だがそれすらない。
つまり拳剛は、攻撃を回避したのだ。

(上方は圧縮空気弾、周囲は超音速の竜巻、ならば地中に逃げた?
いや、地面に潜ったところで空気弾の爆発からは逃れられない。ということは……!!?)

それはあり得ないことだ。考えられないことだ。だが可能性はそれしかない。己が予想を確認すべく、クレアは咄嗟に天を仰いだ。

その予想は的中していた。

「風見、クレアァアアアアッ!!!!!」

その男は、等々力拳剛は、空から降ってきた。全身から血を滴らせ、妙な方向に捻じれた左腕を力なく垂れ下げながら、血走った目でクレア目がけて一直線に突っ込んでくる。

拳剛は自ら竜巻に呑まれていたのだ。圧縮空気弾をあのまま喰らっていれば間違えなく死んでいたから。無論竜巻に巻き込まれてもただでは済まない。が、しかし竜巻は上へ上へと渦巻いている。つまりあの大渦は、クレアに通じていた。
難しい事ではない。座して死ぬか、一歩でも敵に近付いて死ぬか。その二択で、より前のめりの方を選んだだけの事。
生きてるか死んでるかでいえば、拳剛の身体はほぼ死人だ。それを動かしているのはただ二つ。沙耶への想いと、乳への想い。その二つの想念だけが、死に体の男を突き動かす。

切り刻まれズタぼろになった身体で、拳剛は唯一使える右腕を振り上げる。撃てるのは一発。たった一発。だが拳剛にはそれで十分だった。
天空からの襲撃者に気付いたクレアは咄嗟に圧縮空気の竜巻でガードしようとするが、しかし遅い。圧倒的意志を以って突撃する男を止めるには、防御などでは遅すぎる。

「ガあァァアアアああああああっ!!!!!」

クレアの防壁が出現するより速く、咆哮する拳剛の拳がクレアに叩きこまれる。圧倒的筋力で以て、その華奢な身体が吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられる。

拳剛の勝利だった。


*********************


拳剛とクレアの死闘は、拳剛の勝利と言う形で幕が下りた。
互いに死力を尽くした二人の戦士、風見クレアと等々力拳剛は、一人は力なく戦場に倒れこみ、もう一人は片膝をついて息も絶え絶えに座り込んでいる。

と、突如、拳剛とクレアしかいないはずのその場に拍手が響き渡った。拳剛が音の元を探すと、そこには、いつの間にか現れた一人の男がいた。黒瀧黒典だった。黒典は微笑を浮かべて静かにたたずんでいる。

「見事だ等々力拳剛、まさか風見クレアに勝つとは」
「黒瀧黒典、」

お前が何故ここに、と言う前に、拳剛は黒典が何かを担いでいることに気付いた。
それは拳剛もよく知っているものだった。そしてこの場にはいるはずのないものだった。
黒典が携えていたもの、それは等々力拳剛最愛の少女

「ッ沙耶っ!!?」

護国衛士と憂国隠衆に守られているはずの少女が、そこに居た。
驚愕する拳剛をよそに、黒典は表情を変えずに淡々と告げる。

「等々力拳剛、龍脈の守護者よ。真の龍脈の鍵は頂いた」
「貴様ッ、一体何を!!!?」

事態の展開に、拳剛の思考は追いつかない。何故沙耶がここに居るのか。何故黒典がここいるのか。何故黒典は沙耶を抱えているのか。何故黒典は―――気づいているのか。
混乱する頭では、口から出せるのは意味のない言葉だ。目の前の男を止めることなどできはしない。

故に、黒瀧黒典は高らかに宣言する。

「そして今こそ名乗ろう!全ての偽りを剥ぎ取り名乗ろう!!
私はたった一人の軍勢。全ての乳を滅ぼす者。すなわち我こそは―――――――『虚乳党』」



戦いは、最終局面を迎えようとしていた。


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