━━━━━ アンナ・ユーリエウナ・ココロウァ ━━━━━
私には幼馴染がいる。
名前をネギ・スプリングフィールドといい、世界を救った英雄であるナギ・スプリングフィールドの息子だ。
といっても、私はネギのお父さんであるナギさんと会ったことはないし、世界を救ったと言われてもピンと来ない。
だから私にとっては結局、“英雄の息子のネギ”ではなく、“幼馴染のネギ”。
ナギさんも“世界を救った英雄”ではなく、会ったこともない“ネギのお父さん”でしかない。
そのネギだけど、変わった男の子だった。
変わったというよりチグハグな感じな男の子というべきか…………なんだかアンバランスなのだ。
興味のあることは力を尽くし、他のことはおろそかになる。
学校の勉強だってそうだった。
初めて使った魔法で火柱を立て、治療魔法を使っておじいちゃんの焼き切れた髭を伸ばした。普通、治療魔法で髭は伸びないハズなのに。
まあ、治療魔法のことはともかく…………ネギのせいで魔法学校は大騒ぎになり、急遽ネギを魔法学校に入学させることになった。
当然ね。あんなのを村で野放しにしてたら、村がいつ火事になるかわからない。
上級魔法を試しに唱えてみて、アッサリそれが発動して村が破壊されることすら有り得るわ。
………………というか学校で実際あったし。
空に向かって唱えていたから被害はなかったけどね。
そんなことがあって、ネギは学校の教師の期待を一身に背負うことになった。
背負うことになったのだけど、本人はまったく気にしていなかった…………というより気づいてさえいなかったのかもしれない。
教師が難しい魔法を勉強させようとしても、
「知るかバカ! そんなことより治療魔法だ!」
などとワケのわからないことをのたまって、治療魔法の練習ばっかりしていた。
そして3ヶ月ほど練習したら誰も治療魔法はネギに敵わなくなっていた。
きっとネギはおじいちゃんに火傷を負わせたことを、ずっと気にしていたんだと思う。
私が風邪を引いて寝込んだときも、寝ずに看病してくれていたこともあったし。
………………お返しにネギが風邪で寝込んだとき、私も看病してあげようと思っているのは私だけの秘密だ。
といっても今だにネギは風邪を引いたことがないのだけれど。
その治癒魔法の勉強が終わった後は、
「便利そうだから」
という理由で転移魔法の勉強を始めた。
確かに転移魔法は便利で、長期休暇で村に戻るのも楽になった。
というか長期休暇以外でもたまに村に帰っている。だって、1秒で着くんだもん。
しかし、あとになって考えたら転移魔法を覚えさせたのは失敗だった。
ネギの行動範囲がとんでもなく広くなってしまったのだ。おかげでネギは“山篭り”なんて妙な趣味に目覚めてしまった。
そのせいでネギに会いにタカミチさんが初めて来たときは、山の中を探し回った挙句に先に学校に戻ってきて来客を知らされたネギに迎えに来られる、という踏んだり蹴ったりな目にあってしまった。
ネギの転移魔法で一緒に帰ってきたタカミチさんの悄気た顔はしばらく忘れることが出来なかったわよ。
ウチのネギがごめんなさい。
おじいちゃんやネカネ姉さん、それに私がいくら言っても“山篭り”をやめようとしない。
でも何故か、
「買い物に行くから、今度の休みは付き合って」
とか頼むと、山篭りを休んで一緒に買い物に行ってくれる。それもアッサリと。
でも教師なんかが適当な理由で山篭りに行かせないようにしても断ってしまう。
山篭りをやめて付き合ってもらえるのは私とネカネ姉さん、それとたまにおじいちゃんの3人ぐらいだ。後輩に治療魔法を教えるとかの名目なら行かないときもある。
ドネットさんが言うには、“ネギにはネギ独自の判断基準があって、それに忠実に動いている”、ということだった。
他人が“是”とするものでもネギが“否”と思えば否定し、他人が“否”とするものでもネギが“是”と思えば肯定する。
ネギ的には「危険だからやめなさい」は“否”で、「買い物に付き合って」は“是”らしいけど、私にはネギの判断基準がわからない。というか誰にもわからないと思う。
常識をちゃんと持っていて普段は普通なのに、何故かときたまトンチンカンな答えを出すのだ。
おじいちゃんが言うには
「違うように見えて、それでも根っこはナギ似」
ネカネ姉さんが言うには
「もうちょっと落ち着いてくれるといいんだけど」
ドネットさんが言うには
「何考えているかわからない猫みたいな子」
スタンお爺ちゃんが言うには
「話が通じる分、ナギよりもある意味面倒」
要するにネギはボケボケなのだ。
やっぱりネギには私が付いていないとダメみたい。
というか山篭りのお土産がバラの花束ってなんなのよ。
結局「綺麗に咲いていたから」という理由で、特に深い意味はなかったらしいけどね。
………………ふ、深い意味って、別に変な事考えたわけじゃないんだからねっ!!!
しかし、来週で私達は魔法学校を卒業することになる。
私もネギも一年の飛び級、といってもネギは普通より11ヶ月早く入学して同級生だったので、同時に卒業することとなる。
これから一人前になるための修行内容がお告げによって決まる。
私は一人でも大丈夫だけど、ネギはどこか抜けているから心配だわ。アイツは一人でもやっていけるのかしら?
この前なんか、『皇帝たる不死鳥』とかいう、火の鳥を放つ魔法を開発して喜んでいたりしてたし…………。
新魔法を開発するなんてのは凄いことだけど、“退屈だったから”という理由で開発するのはどうかと思うわ。
━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━
今のは『燃える天空』ではありません。『奈落の業火』です。
………………さすがに『魔法の射手』で『燃える天空』以上の威力を出すのは無理でした。
もうすぐメルディアナ魔法学校を卒業するのですが、だいたい前世の戦闘の勘を取り戻せました。
麻帆良に行っても、全力状態のエヴァさんから逃げ切れるぐらいのことは出来ます。転移魔法もありますしね。
まあ、エヴァさんに対しては『登校地獄』の解呪に協力すれば悪くはされないでしょう。並行世界で解呪した知識もありますし。
「ほい、チェックメイト」
「ぬお! 待つんじゃ、ぼーず!」
そんなとき、気晴らしにスタン爺さんとチェスを打っています。
いや~、それと親衛騎団の作成は無理でしたね~。頭数少ないのを何とかしたかったんですけど。
やはり知能を持って、自律行動可能な駒なんてものは作れません。
「それにしてもぼーずもあと一週間で卒業か。月日が流れるのは早いもんじゃな。
しかし、村にいていいのか? てっきり魔法の研究とかずっとしてるもんだと思っておったぞ」
「あと一週間で卒業だからだよ。一週間じゃ時間足りないからね。
うっかり研究始めたせいで、研究に興が乗って卒業式サボることにもなりかねないし」
「…………あまりネカネに心配かけさせないようにするんじゃぞ」
「わかってるよ。だからここでゆっくり休暇とってるんじゃない。
僕としても今まで急ぎすぎてた感があるのは思っていたからね。卒業までの一週間ぐらい、ゆっくり休暇とってもバチはあたらないでしょ」
『カイザーフェニックス』の再現は難しかったですね。威力も『燃える天空』の方が強いから完璧なネタ技になりましたが。
『天地魔闘の構え』も無理でした。一度に攻撃or魔法と防御の2手までなら出来ますが、攻撃と魔法と防御の3手になると一気に難しくなります。何とかしてやり遂げたいなぁ…………。
ただその修行の過程で、魔法を術式固定状態で手に持っておいて、それを敵に叩きつける戦闘方法を開発出来ました。『風花・風障壁』を使えば『フェニックスウィング』もどきが使えます。
悪戯心で『雷の暴風』の固定状態をイノシシに飲み込ませたら、破裂して凄いスプラッタなことになりましたが。
………………ラカンさん相手でも通じるだろうなぁ。確実に死ぬでしょうけど。
「イノシシとか熊を狩ってくるのは、ゆっくりしてるうちに入らないと思うんじゃが」
「だったらスタンお爺ちゃんの腰の治療もしなくていいのかな?」
「ぐぬっ! …………まったく可愛げがなくなりおって。
小さいときの純真なぼーずはいったいどこに行ったんじゃ?」
ハイハイ、と生返事を返しながら駒を初期状態に戻します。
もうすぐ卒業です。
麻帆良に行ったら頑張りますか。
並行世界と違って明日菜さんはバカレッドだし、刹那さんもポストバカレンジャーだから期末テストが面倒臭いですねぇ。
早めにバカレンジャーの皆さんと刹那さんに勉強頑張ってもらうようにしましょうか。