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No.3208の一覧
[0] 職業:杖[すいか](2008/06/09 19:00)
[1] 職業:杖[すいか](2008/07/01 17:54)
[2] 職業:杖[すいか](2008/07/01 17:53)
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[3208] 職業:杖
Name: すいか◆3aeb085d ID:aea6d682 前を表示する
Date: 2008/07/01 17:53

汗は、出ない。
俺の身体はそういう物になった。

「っはぁ・・・セリー・・・」
「んっ・・・なに・・・っよ」

口からでる白い吐息が空気を裂く。
まだ疲労というモノを感じられる、というこの状況が嬉しいのやら辛いのやら。

「これ・・・すごく・・」
「・・・っ、すごく?」

眼下には頬を赤くした水色の少女。
そして――



「遠くね?」
「だから言ったでしょうがぁあああああああああ!!」
――米粒よりも小さくなった人の群れ。
俺とセリーの修行は始まったばかりだというのに、速くも俺は挫折しそうだった。
足が・・・痛い。



職業:杖~第三話:宝石の身体~


ここで少し時間を遡り、俺がこんな山登りをするはめになった粗筋を語ろう。
杖となることを承諾した俺だったが、その翌日から俺に課せられたのは、修行という名の拷問だった。
なんでも俺の身体は段々とだが、水の石と同化し始めているらしい・・・とはいえ、いきなり魔法を使えだの水を操れだの言われたって困る。
と、いうか。出来るわけがない。基本は、大気中に満ちる魔力とやらを、身体に生まれながら含まれている精霊・・・俺や、この国の住人の場合は水だそうだが。
それと同調させ、魔力を水の精霊の力へと染めるのだそうだ。イメージとしては濾過器に近い。水の精霊のロゴがついた自分という名のフィルターを通すことで、魔力という水を自分に都合がいいように精製――、作り替えるのだ。
これを聞いた時は『はっはっは!そんな簡単なの楽勝だろ!』と思い、更にファンタジーに多少憧れがあった俺は、魔法を使えると聞いて意気揚々としたものだが――
――これは拷問である。あの時の俺に言ってやりたい。この阿呆と。

まず、魔力は見えない。神官長で俺を殺しかけた爺コレッツア様曰く、「見るのではない、感じるのだ」だそうだ。
具体的には――

「馬鹿もん!それでも貴様は伝説の杖か!?神の力か!?魔力を掴め流れを見極めろ己の身体を通して意志を現せ!!」
「そんなこと言ったって見えないものは見えな・・・ギャアアアアア!?」
「だから感じろと言っておろうが!!」
「無理なもんは無理だって・・・ギャアアアアアア!?」
「見えるまで今日は終わらせないからな!!」
「も、もう真夜中なのに・・・」
「つべこべ言う暇があったら魔力を感じろぉおおおお!!!!」
「アギャアアアアアアアアアアアアアア!?」

こんな感じ。途中に混じってた雑音?ああ、それは善良な杖が糞爺に氷の塊をぶつけられてる音だ。
特に気にしないで欲しい。

その他この国に伝わる伝説やら魔法の使い方、ルール、ありとあらゆる知識を『文字通り』詰め込まれた。学校の勉強よりは面白い等と油断して、魔法を使う修行よりは楽なのかと思ったあの時の俺。言うぞ?・・・・この阿呆。
結果など言うまでもなく、俺は燃え尽きた。ただ一つ言えるとすれば、俺はもう魔法使いには憧れなくなったというだけだ。

俺はなんだかんだ言って水の神様の力に浸食されてるような身だ。だが、そんな身体を持ってしても。
今の俺には水鉄砲並の水流と、つらら並の硬度の氷ぐらいしか作れない。これが他の、巫女や神官と呼ばれる人々のような身体だったとして――
一体、どれほどの努力を重ね、時間を消費し、それこそ毎日が毎日、生活の全てを魔法へとつぎ込んで――この水鉄砲を、為しえたのだろう。

俺は、魔法使いに憧れなくなった。
俺みたいな半端物には、やはり杖ぐらいが丁度良い器なようだ。







「ここ、いい?」
王宮前の酒場。
未だに名前は覚えていないが、味はとても気に入っている其処で午後に待ち受ける魔法訓練に心持ちブルーになっていた俺は、昼食のパンのような物をかじりつつも後ろを振り向いた。
「あれ、お前・・・こんな所にいて大丈夫なのかよ?」
以外や以外。自分に話しかけてくる人物などこの世界ではまだまだ少ないので候補は限られていたが、まさか彼女がここに来ているとは思わなかった。
「あのねぇ・・・誰が此処をあんたに教えたと思ってるのよ?」
それに、祭典の準備の方なら一段落ついたのよ、と俺に返事を聞いておきながらその返事を聞くことなく、どさりと彼女は席についた。
腰まで届きそうな淡い水色の髪のツインテール。見た目12歳程度で実年齢15歳の女の子。そして・・・俺の担い手予定の御巫女サマ、セリー・タリレインが其処にいた。

「いやーほんと疲れるわ・・・大体なんで授杖式のリハーサルなんて何度もやらなくちゃいけないのか、もうね。さっぱりだわ」
「本番でミスしたら格好悪い。じゃ、済まないような重要な式なんだろ?仕方ないって」
「そんなの分かってるわよ。でもね、頭で分かっていても不満は出てくるのよ」
「その不満を俺にぶつけられても困るんだがな・・・」
「あら、貴方の主人は私なんだけどね?ユージ」
「まだ俺はフリーの杖だ。セリー」

目の前でばくばくとサンドウィッチの様な物・・・この世界でこれはなんて言うのだっけか。まあそれを食べているセリーは、相当不満が貯まっているようで、ぶつぶつと文句を言いながら食事をとるという器用な状態を実に15分以上も継続させている。
ある意味これは才能だろう。魔法といい、才能に満ちあふれたちびっこだ。

今日から三日後に行われる祭典でオーナーとなるセリーは、多分今この国で最も忙しいのだろう。
俺がこの世界にくる原因ともなった、火の国の密偵の起こした事件により延期されていた祭典が、杖も一応戻ってきたことだし。と、準備再開になったのだ。
祭典で行われる主なイベントは、先程セリーが言った、授杖式という物だ。

――この国では、15歳以上で最も身体に水の精霊を含む人物を水の杖のオーナーとし、杖のオーナーが入れ替わる時だけに『新たに水の神に祝福された者が現れた』と、祭典を開き、その誕生を祝い、杖のオーナーを交代するのだそうだ。最も、一応は最も水の精霊を含む人などと言われているが、この水の杖のオーナーは歴代で巫女――女性しか、なったことは無い。無論水の精霊の数が巫女よりも多い男性――神官や騎士がいたのならその神官やら騎士はオーナーになれるだろうが、水の国に限ってはそれはあり得ない。水の精霊が持つ属性の一つ、『母性』による影響が高いのでは、と考えられているが実際の所は未だ分からない。まあ詰まるところ、要するに水の杖のオーナーは歴代巫女に固定されているのだ。こんな風にこの国の知識を引き出せるのはひとえにあの地獄の授業の成果だ。最も、あまり嬉しくないが――

「ちょっとユージ、聞いてるの?」
「・・・ん、ああ悪い、ちょっとボーッとしてた」
「全くしっかりしてよね・・・いい?もう一度しか言わないわよ?」
「? ああ」

てっきり愚痴を聞いてなかった事を責められると思ったのだが、どうやらなにか用事か伝言でもあったのだろう、悪いことをしたな。
セリーがこれみよがしについてくる溜息も今なら我慢できる。・・・多分。あ、鼻で笑いやがった。

「だから、あんたの午後の魔法修行はちゅーし。神官長様からの伝言ね、西の端にルクセンドルプ様っていう方が住んでおられるんだけど、そこにあんたを」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

酒場に雄叫びが上がる。公共の場で雄叫びをあげる不審人物が現れた。なんと俺だった。

「なにいきなり立ち上がって叫んでんのよこの馬鹿杖!」
「的確な状況説明をありがとぅっ!?」
思いっきり頭を木の皿で叩かれた俺だが、叫び声をあげても仕方ないと思う。だって・・・だって!あの訓練が中止なのだ!あの無限に降り続ける雹で凍らされたり凍らされたり凍らせたりする罰ゲームなんてレベルじゃない罰ゲームが付属してくる訓練が!休みになったのだ!今叫ばなくて俺はいつ叫ぶのかというぐらいのハイテンションだ。割れた木の皿を持って店主に謝っているセリーが視界にいようが俺のテンションはとどまることを知らず、もう一度勝利の雄叫びを――


店中から飛んできた木の皿で頭が割れるかと思った。







「なんだよ・・・自由にしてていいって訳じゃないのかよ・・・」
「当たり前でしょうが」
溜息をつくセリーが隣でぎゃーぎゃーと煩い。さっきは救いの女神に見えた気がしたが、やっぱりコイツはコイツだった。
初めて会った日からいきなりタメ口。曰く、私はあんたのご主人様だそうだ。こっちの修行や休憩の合間をわざわざ縫って会いに来ては、毎回の様にその事を確認して、何故かいきなり怒り出して帰って行く俺の担い手予定の女の子。
この世界での変人ランキングベスト5に入る猛者として俺の中にランクインしているのは、言わずもがな、だ。

「・・・見てくれは可愛いんだけどなぁ」
「なんか言った?」
「いーえ別に」

途端に不機嫌になったセリーがあからさまに頬を膨らませてくる。本当にこの子の思考回路は俺にはあまり理解ができない。まあ杖が天才を理解できる訳もないのだろうが。

「・・・いつまでほっぺた膨らませてるんだよ」
「べ・つ・に?」

セリーは青筋を思いっきり浮かべると、自分の靴に水を纏わせた・・・えーっとこの魔法は確か・・・

「・・・ラディカルグッドスピー「スライダー、よ」

この魔法を初めて見たときからあんたそんなこと言ってるけど、水の国の先祖が考えて名をつけた魔法の名前を勝手に変えないで頂戴。と、青筋3割増しで怒られた。声と同時に飛んできた氷が痛い。
まあ、真面目に説明すればセリーが展開した魔法は自分の靴に水を纏わせ、地面との抵抗を減らし、地面をスケートの様に滑り抜ける魔法だ。唯一スケートと違う点は、流動する水を纏う靴に与えられるスピードは、文字通り「目にも止まらないスピードである」というという点だろう。
ん?ちょっと待てよ?

「なあ、セリー」
「なによ」
「俺たちは今、わざわざ街のすみっこに住んでいやがられる神官様の所に向かってるんだよな?」
「そうよ」
「じゃあ何でお前・・・」

個人専用な移動手段を確保していやがりますか?
あんたを置き去りにして、アイツは遅刻ですって言う為よ♪

「ちょっおまえ――!?」
俺の声が大気に響き渡るその前に、俺の身体は巨大な破裂音と共に水に包まれた。
「うぇ・・・口に水が・・・てか服・・・」
そして、地面から舞い上がった大量の水が落ちる頃にはもう既にセリーの姿はなく、遙か彼方水飛沫の向こうへと消え去っていたりする。
「不味いな・・・これから会う人・・・絶対遅刻とか厳しいよな・・・」
神官なんてやってるぐらいだし。まあ、中には優しい方もいるんだろうが俺の中での神官のイメージはコレッツアで固定されている。
それになにより、さっきからセリーに聞いた名前が頭の中で嫌にひっかかる。なんだっけか・・・うげ。
「・・・・うあー・・・思い出した」
そうだ、あれは確かレイドルフと酒場で飲むことになって、あいつが潰れて吐くその少し前だ――

『・・・あー。そういやユージ、お前ってばルクセンドルプ様に会ったことあったっけか?』
『やー、ないけど。てか、なに。今はあんたの奥様の自慢話だったじゃん、いきなりなんでそんな聞いたことも無いような人の話に飛ぶんだよ』
『そんなもんは酔ってるからに決まってるだろう。いいから聞け、ルクセンドルプには気をつけろよー』
『ん、コレッツァの爺より嫌な奴なのか?』
『コレッツアの師匠だ』
『うげ・・・』
『あれは忘れもしないぜ、俺の人生はアイツに会わなかったら門番どころか騎士にすらなれたかも――』

――などと、愚痴に紛れて言っていたコレッツアの師匠と同姓かどうかは知らないが同名だ。
セリーからその名を告げられた時からなにかもやもやとした言いようの無い嫌な予感はしていたが、このタイミングでこの話を思い出したのは幸か不幸か。
できれば幸で会って欲しい。

「絶対に不幸なんだろうけどなぁ・・・」

とりあえず俺は、セリーの吹き散らした水飛沫の跡を辿りながら、全力疾走を開始した。
人間離れしたスピードはでないし、息切れもする。ていうか疲れることが、まだ俺が杖になってない証拠みたいに思えて。
俺は嬉しいのか悲しいのか分からないまま、遅れそうになっている時間に間に合うように走り続けた。





「遅い」
「遅いわね」
「遅すぎるな」

「「お前の事(だ)よ!!」」
「へばらっ!?」

右から水流。左から氷塊。どうやらどさくさに紛れて遅い奴を責める側にまわってしまおうという発想は失敗してしまったようだ。
まあ遅れてきた俺が責める側にまわったら、責められる立場の奴が誰もいないのだから当たり前か。でもそれもいいじゃないか。ラブ&ピースって大事だって、絶対。

「と・・・とりあえず、俺はユージ。ユージ・オリカワだ。よろしくたのむ・・・ええっと」

俺が挨拶をし、手を差し出したのはこの家に入った瞬間にセリーと共に俺に氷塊をぶつけてきた女性だ。見た目20代って所だから、ルクセンドルプに仕える方か、娘さんとかその辺りだろう。
いきなり氷をぶつけてくる辺り、ルクセンドルプがかなりファンキーな教育をしているんだろう。そんな感じに考えながら差し出した手を冷ややかな視線で見られた・・・見透かされた?

「随分となれなれしいが、まあいいだろう。私はルクセンドルプ。ルクセンドルプ・アル・クラインだ。ユージ君」
「・・・・っへ?」

差し出したまま固まっていた手を強く握り返されて、ようやく思考が会話に追い付いた、けど。え?

「あんたが・・・いや、貴方が、ルクセンドルプ・・・・?」
「? だからそうだと言っているだろう。聞き逃したのならもう一度だけ言ってやる。私の名前はルクセンドルプ。ルクセンドルプ・アル・クラインだ。今度こそ覚えたか?」
「い・・・いや、そうじゃなくて」
「なんだ、言ってみろ」
「ルクセンドルプって人は俺、コレッツアの爺の師匠で、神官だって聞いてたんだが・・・」
「ああ、確かにコレッツアの魔法の指導をしたのはこの私だ」

頭の中にハテナマーク。あれ?俺の知識では神官=男だし、コレッツアの爺の師匠ってことは爺より年上だよな?
そんな風に脳味噌をぐるぐる回していた俺の顔をみて、君は考えている事が顔にでやすいようだが、それは美点でもあるが・・・後は言わなくても分かるな?と、ルクセンドルプさんは軽く笑みを浮かべた。
ルクセンドルプさんはそのまま握っていた手を離すと、大袈裟に口に手を添えて、こう続けた。

「そうだな、君の疑問の全てを一言で晴らそう・・・私はね、」






「不老不死、なんだよ」






微笑んだ彼女の笑みはとても美しかったが、美しすぎることが、逆に怖ろしかった。


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