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No.31826の一覧
[0] アーマード・コア4 Tower of Raven(完結)[小薮譲治](2012/04/29 03:01)
[1] Tower of Raven Chapter One: Tower of London ravens are lost or fly away(前編)[小薮譲治](2012/03/09 19:46)
[2] Tower of Raven Chapter One: Tower of London ravens are lost or fly away(後編)[小薮譲治](2012/03/09 19:51)
[3] Tower of Raven Chapter Two:A Pocket Full of Rye(前編)[小薮譲治](2012/03/10 12:37)
[4] Tower of Raven Chapter Two:A Pocket Full of Rye(後編)[小薮譲治](2012/03/15 02:09)
[5] Tower of Raven Chapter Final:Marche au supplice[小薮譲治](2012/04/29 03:00)
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[31826] Tower of Raven Chapter Final:Marche au supplice
Name: 小薮譲治◆caea31fe ID:dfd83558 前を表示する
Date: 2012/04/29 03:00
一宿一飯の恩義がある。カラスは恩を忘れない シーモック・ドリ





 地球は、終わりだ。

 リンクス戦争で多数のリンクスが活躍し、果て、そしてネクストは死力の限りを尽くした。そして、大地を二度と住めないものにへと変貌させた。しかし、それでも。

 敵は、居た。



Tower of Raven Chapter Final:Marche au supplice



 下命された作戦内容は、ごく単純なものだった。旧ピースシティエリアに駐屯し、防衛しているGAのノーマル部隊を撃滅せよ、という物だった。だが、この作戦の真意は、そのようなものではない。ごく近傍に、あるリンクスの存在が確認されているのだ。
ローゼンタールの象徴にして、最高のリンクス『レオハルト』とその搭乗機『ノブリス・オブリージュ』である。唯一のオリジナルであり、最強の戦力。そして、しかる後にGAとオーメル社の本社を襲撃『消滅』させよとの指令が下っている。

 投入される部隊は、わずか四機。だが、その戦力は並みではない。この四機、いずれもが国家解体戦争を生き抜いた『オリジナル』だ。そして、この『リンクス戦争』を戦う猛者だ。

ナンバー21「P.ダム」搭乗機「ヒラリエス」

ナンバー15「アンシール」搭乗機「レッドキャップ」

ナンバー12「ザンニ」搭乗機「ラフカット」

 これだけでは、格下が数を頼みにどうにか挑みかかる、という程度のものである、だが、しかし。

ナンバー1「ベルリオーズ」搭乗機「シュープリス」が参加するとなると、話は違う。最強の駒を投入した、囮戦術だ。

 折り重なった憎悪はもはや取り返しのつかない領域に到達している。であれば、とベルリオーズは身を起こした。ネクストの最後の整備を行うため、立ち寄った基地に用意された寝室を見まわし、ため息をついた。
元は国軍の士官向けの一人部屋だったらしいが、前の主は趣味人とは言えなかったらしく、調度の類は何もない。白い漆喰を塗っただけの壁をじっ、と見つめ、手を見た。一瞬、シュープリスの腕部パーツと見間違え、頭を軽く押さえる。まだ早いがどうやら体はすでにシュープリスに乗っているつもりらしい、と苦い笑いを浮かべた。
体は、うっすらと緑に光っている。コジマ汚染のせいらしいが、詳しくはわからない。だが、長くもないことは知っていた。




「ブリーフィングを開始する」

 その作戦参謀の声を聞き、シュープリスのシートに体を預けたベルリオーズは、注意を向ける。
基本的には、狙撃を主体としたBFF製のレッドキャップの狙撃によってノーマルを攪乱し、支援を受けたアクアビット製のコジマ粒子の出力が極端に高いヒラリエスを盾として、レイレナードの逆関節機、ラフカットをかばい、突撃して掃討、というもので、シュープリスはノブリス・オブリージュが現れた際に備えて待機、と言う物である。

 しかし、そこでアンシールの作った笑い声が響いた。笑い声がやみ、怒声をあげる。

「ネクスト一つまともなものを作れない植民地人の粗雑なノーマルごとき、このアンシールが破壊できないはずが無ぇだろう。なめているのか」

 確かにそうだが、と発言しようとしたところで、ザンニとP.ダムも同調する。くそ、どいつもこいつも作戦の意図を理解していないのか、とリンクスたちに対して舌打ちをする。
撃破できるかどうかで言えば、できないはずはない。あたりまえだ。だが、この作戦においては、絶対に失敗できない要因が一つある。ノブリスの撃破だ。
過剰な戦力の投入ではあるが、3機のネクストが襲撃をかけてきている、という報告は絶対に必要なのだ。はっきり言えば、レッドキャップ一機では、シュープリスと戦ったあの日を境に戦果を上げ続けている『ローディー』が派遣される可能性が高い。
ローゼンタールにしてみれば、わざわざランク15程度を相手にするためにノブリスを動かし、GAに恩を売る意義などないのだ。また、ローディーの実力は証明済みだ。GAにしてみれば、オリジナルを何体も屠った戦力としての喧伝の機会にちょうどいい。これにアナトリアかアスピナの傭兵を組ませれば、最高の舞台となる。彼らはすでにオリジナルを屠っているのだ。何体も。

つまり、ローゼンタール、GA両者にこれは放置すれば本当に不味い、と思わせる必要があり、かつシュープリスのような過剰な『餌』をさらさない、という意図がある。

「……一つ、良いか」

「お前は俺を馬鹿に……チッ……どうぞ、ベルリオーズ」

 盛んに作戦参謀に不満と罵声を浴びせていたアンシールは舌打ちをすると、ベルリオーズに発言の機会を譲る。息を吸い、吐いた

「私は作戦参謀の作戦を支持する。……アンシール、ザンニ、P,ダム、諸君らならばローゼンタールはノブリスを投入することを決意するだろうな」

「……なるほど。失礼しました、ベルリオーズ」

 ザンニは得心した、というようにそういうと黙り、P.ダムも、アンシールも納得したように黙る。そして、次に目標の選定が行われる。ノーマルに燃料を供給する、大型燃料供給車を最優先目標Alphaとし、まず第一撃としてアンシールがこれを撃破し、爆発にまぎれて撃破するノーマル部隊をGA製の二脚型ACのものを目標Bravo、有澤製の戦車型ACをCharlieとする。
いくつかの通常兵器と、野砲群が少し離れた場所に陣取っているが、これは無視しても構わない目標Deltaとした。これらの砲撃を防御するためにP.ダムが盾となり、ザンニの突撃を支援。そして、数がある程度減ったところでアンシールが突撃し、三機で『完全に撃滅』することを目標とする。

 また、これで仮にノブリスが出てこなかった場合でも、他の拠点の襲撃を行うことで、速やかに囮戦術の完遂をめざすこと、とした。そして、ベルリオーズはこれらの状況では『絶対に手を出してはならない』のだ。なんらかネクストが襲撃してきた場合のみ、状況に応じて参加、ということとなっている。この場合、当然ながら他のネクストが撃破されるというリスクをとるか否か、である。

「以上が作戦内容だ。諸君らの健闘を祈る」

 そういって、作戦参謀は一礼し、少しののちにメールを送ってきた。ありがとう、ベルリオーズ。というタイトルだけを見て、ベルリオーズはため息をついた。
 これが、ネクストを使うということなら、制御できない犬を放つのと大して変わらないではないか。という意見が企業上層部にあることも、ベルリオーズは知っている。
リンクスとは一騎当千であり、作戦参謀『ごとき』の意見を聞く必要などない、という弊風があるのも、先ほどの態度を見ればわかるだろう。

 これは、この戦争での戦果の『上げすぎ』にも起因している。当然でもある。制御のきかない犬を欲しがるほど、ハンドラーたる企業は間抜けではない。いつ、自分たちが解体した国家と同じものに変わるか、などわかったものではないのだ。

 そのリスクを何一つリンクスが意識していない。戦略眼をもっていない。兵士のつもりで将校の振る舞いをしている。これでは、と考えた瞬間、首を振った。
 考えても仕方がない。倒すべき敵ははっきりしている。やることをやるだけだ、と。

 もっとも、やることをやった暁に得られるものは、死体の山と、不毛の大地だけであったが。

 しかし、得るものはあるはずだ。GAの本社となれば、あの鬼神のごとき働きを見せている『ローディー』や『あのレイヴン』とめぐり会えるかもしれない。その期待だけが、今のベルリオーズを満たしていた。




「こちらレッドキャップ。状況開始、状況開始。目標Alphaを攻撃する」

 その声を聞き、遠距離からの観測を行っている観測車両とベルリオーズはリンクする。連接状況は極めて良好であり、ビット欠落は見られない、という。有線接続であるため、なにか『こと』があれば、引きちぎって移動することになるが、ともあれ、何も起こらないだろう。

 やつらとて、リンクスだ。

「目標Alpha破壊。巻き添えで一機やった。植民地人のローストだ」

 そう聞くと、一瞬ノイズが走る。振動。燃料に引火し、空気が震える。悠然と構えていたレッドキャップは、再び狙撃を開始する。その次の瞬間には、2機のネクストが飛び出し、混乱の只中にあるノーマルの群れに突撃する。羊の群れに、狼が大挙して押し寄せたようなものだ。

 ヒラリエスは濃密なコジマ粒子で届く弾丸すべてを受け止め、プラズマとコジマ粒子でGA製のネクストの装甲版を破壊し、ザンニは逆関節機特有の強烈な三次元機動ですべての弾をかわし、レーザーを連続して叩き込む。

 そして、その撃ち漏らしをレッドキャップは狙い続ける。そのたびに悪態をついているが、しかしそれは彼の腕とは関係ない。有澤製のノーマルのコアと脚部の継ぎ目に命中させ、はじけさせたかと思えば、GA製のノーマルの頭部を噴きとばし、金属片をぶちまけさせる。さすがはBFFの、と言うべき腕前だ。

 およそ、10分もたたないうちに、静かになった。そう、ピースシティエリアは、黒煙に包まれ、そしてその只中に3体の緑色のヴェールに包まれた神が屹立している。まるで、撃破されたノーマルの怨念のようだ。と思った瞬間、映像が途切れる。

「……来たな」

 即座に機を前に進め、ケーブルを引きちぎる。そう、来たのだ。やつが。

「空き巣、か。なるほど、礼節を教えてやろう。……行くぞ、ミド」

「了解。レオハルト」

 二機のネクスト。片方は『あの』レオハルトだ。羽をもつ白銀の騎士。ノブリス・オブリージュと、付き従うアンテナのような頭部のナル。さあ、闘争の始まりだ。

「ユダ豚とその従騎士様のお出ましか。へっ、クソが」

 レッドキャップの悪態を聞き、ため息をつく。やはり、複数機での運用にこのような人材は、いかにもまずい。

「……潰すぞ。目当ての敵だ」

「その声はベルリオーズか」

 そう聞きながら、背部のレーザー砲を展開し、つい先ほどまでシュープリスが立っていた空間を切り裂く。さあ、状況開始だ。

「その通り。ここで死ね、その誇りと共にな」

 グレネードを展開、射撃。それと同時に、スナイパーのレッドキャップが支援を行う。だが。レオハルトも、ナルも、早い。何れもオーバードブーストを吹かし、散開。狙いを分散させて狙う、という腹のようだ。

「こちらシュープリス。聞いているな。全機、ナルを狙え。策にわざわざ乗るな。繰り返す、狙うのはナルだ」

「こちらレッドキャップ。クソ……こっちにノブリスが来る! 俺の機では逃げられん! 不可能だ!」

 当然か、とふと考える。一瞬判断が遅れた。それが奴らには無かっただけだ。ネクストは一騎当千である。だが、同じネクストどうしであれば、そのアドバンテージはほぼ無い。そして、事前にやることがわかっていたとはいえ、作戦前ブリーフィングで雑な計画しか詰めていなかった、悪く言えば野合のこちらと、それなり以上に連携の取れている二機とでは、話が違う。

「ち……やはりか! こちらシュープリス。支援に向かう」

 当然、与し易し、と見られたナルには、ザンニとP・ダムの両方が食いついている。ちら、と横目で見た限りには、しかしそれは間違った判断だ。踊るように軽やかに戦い、超接近戦でブレードを振っては二機を翻弄している。やつは、十分に強い。

「くそが、くそがっ!」

 ジグザグ機動と、直線的なQBを織り交ぜながら、機を激しくゆすぶりながら、スナイパーとしての矜持かはわからないが、いずれもノブリスに命中している。だが、その命中弾は致命傷ではない。しかし、四つの複眼をもつBFFの頭部やコアの一部がすでに命中したノブリスのレーザーによって溶融し、一部アクチュエーターを空転させている。それでも当てている、というのは純粋にレッドキャップの腕前だろう。

「どこを見ている。敵はこちらだ」

 そういって、オーバードブーストでレッドキャップの前に立ち、くるりとクイックブーストを吹かしてターン。オーバードブーストをカットせず、そのまま向かってくるノブリスに抱擁するかのような勢いで体当たりする。敵の左の砲口がねじ曲がり、接合部を引きちぎる。金属が降り注ぎ、発射されるはずだったエネルギーが放散され、爆発。衝撃と溶融した金属がコジマ粒子に焼かれ、サーカスのように踊る。

 レッドキャップは、上手く逃げられたらしい。反応が遠ざかっている。ともあれ、目の前の敵は片方の翼を失ったが、しかしそれでも装甲は健在だ。まさか、ノブリスとやり合うことになるとは、と考えるが、しかし。

「お互いリンクスだ」

「なるほど」

 それだけで、十分だった。我々はリンクスなのだ。

 二機の抱擁は長く続いたように思えた。だが、その一言だけをかわし、お互いにクイックブーストを敵に浴びせ、ライフルを構える。騎士が罵詈雑言を剣とともに繰り出すのなら、ネクストはクイックブーストとともに銃弾を吐き出す。白い騎士と黒い騎士が近づいては離れ、銃撃を浴びせ、そしてお互いに死角と敵の命を取ろうと動き続ける。

 しかし、埒が明かないのも事実だ。お互いに敵の動きは痛いほどわかっている。轡を並べた仲だ。わからないはずはない。

 敵の背には三門のレーザー砲がある。アレを撃てば、こちらの装甲を蒸発させてあまりあるだろう。だが、こちらには有澤製のグレネードがある。プライマルアーマーを溶かし、そして敵を消せる。しかし、その動作をとれば、その時が舞踏の最後だ。致命的な隙であり、好機。しかし。

 撃ち合うほどに敵の動きが鋭くなる。それが、余りに楽しい。気づけば、口からは獣のような咆哮が漏れている。

 だが、シュープリスはグレネードを展開した。そして、発砲。当然それは躱され、こちらに一息に向かい、首を刈るためにブレードを展開し、迫る。だが。

 グレネードを爆砕ボルトでパージ。後退し、FCSをカット。AMSにダイレクトリンク。地面にグレネードが落ち、その瞬間に跳ね、その横をノブリスがパス、そして、左手の引き金を絞った。弾倉に命中、爆発。制御されない破片があちこちに飛び散り、爆炎がノブリスを覆う。地面に着地し、オーバードブースタ発動。ぐっと右腕を引き、煙の中に立つプライマルアーマーの消えたノブリスの胴、コアに銃剣のごとき鋭さを持つ銃を突き立て、放つ。

「……」

 ノブリスが膝から頽れ、うずくまり、動かなくなる。銃を引き抜き、そして首を銃ではねた。

 ノブリス・オブリージュ、撃破。そして、例の男の罵声と、ナルの悲鳴を聞く。

「ユダ豚が……くそったれの売女め、死ね!」

 動かなくなったナルに執拗に弾丸を浴びせ、四本の足で踏みにじる。その光景を見て、ノブリスの方を再び向く。戦場を穢されても、動くことは、ない。

 そして、ある反応があった。輸送機の反応。識別コードは、アナトリア。


 やつだ。『生ける伝説』がやってきた。


「アナトリアのネクスト」

 口にするだけで、うそ寒い。

「やはり来たな、レイヴン」

 似合いの戦場に。腐肉漁りの鴉がやってきた。




「味方機、反応ありません。……そんな……全滅?!」

 シュープリスの耳に『レイヴン』のオペレーター、フィオナ・イェルネフェルトの声が聞こえる。そうだ、お前の救援すべき味方機は文字通り全滅させてやった。トルコ陸軍の連中と同じように。

 蜃気楼を破り、砂漠の稜線から一機のネクストが姿を現す。その形状は、奇しくもレイレナードのそれだ。MSACのミサイルとグレネードを背負い、ライフルと、左にアンジェのブレード、ムーンライト持っている。そうだ、奴に『鴉殺し』こと、アンジェはやられたのだ。

「4対1よ……作戦放棄を提案します。すぐに離脱して!」

 させるものか。そういわんばかりに、四機で迫る。だが、オペレーターの気遣いは、別の声でさえぎられる。若い男の声。エミールという名前の男の声。

「作戦、続行する。……敵も無傷ではない、君ならやれる。幸運を」

 殺し文句だ。そして、その殺しは我々が担当してやる。シュープリスは口を開く。

「敵増援確認。アナトリアの傭兵だ」

 ああ、奴だ。レイヴンなのだ。だが、レッドキャップはそれをあざける。

「アナトリア?ああ、例の時代遅れか」

「侮るな、優秀な戦士と聞いている。……潰すぞ」

 聞いている。うそ寒い言葉だ。知っている。やつは真実の怪物だ。ありとあらゆる機体を手足のように操り、その戦術をもって、悪鬼羅刹として戦ってきたのだ。それは、たとえ乗る機体がノーマルからネクストになったところで変わるはずはない。軽量機、重量機、逆関節、タンク、四脚。ライフル、レーザー、グレネード、ミサイル、コジマ兵装。数えきれないバリエーションで戦場に現れては、蹂躙する。それが、あの伝説であり、地上最後のレイヴンだ。

 通信を、例のレイヴンだけに絞る。

「さあ、来い」

 殺してやる。あの時と同じように。




「くそが……俺のせいかよ!」

 レッドキャップ、奪われた己のスナイパーライフルで射殺。

「戦場だ、覚悟は出来てる」

 ヒラリエス。暴走したコジマ兵装で装甲を焼かれ、消滅。

「なるほど、強い……」

 ザンニ、グレネードで停止したところを串刺し。

 三機の何れも、私に傷一つつけることができなかった。三機の何れも、私に追いつけはしなかった。レイヴンは、己の力で、己が高く飛べる鳥であることを、示すものだ。そして、過去の悪夢に向き直る。シュープリス。やつを断頭台の露とする。





 夕日を背に、敵は向き直る。ああ、そうだ。これだ。やつはこれだから良い。シュープリスは、目前に居る同じく黒いネクストの殺気を受け止め、笑う。殺し合うのには似合いの相手だ。

 レイヴン。さすがだ。そう敵を褒めたたえ、ライフルを構え、機動する。上下で交差し、レイヴンはミサイルを放ち、こちらの機動を制限してライフルを確実に当てる腹らしい。だが。あえて大きく尾をクイックブーストで引かせ、ミサイルに追わせる。
そうしてライフルを躱し、右で敵を撃ち、左で躱せないミサイルを撃ち落とし、ターンして高度を落とし、す、とすれ違う。その瞬間を狙い、ブレードを振りかぶって敵が突撃してくる。だが。

 遅い。そういわんばかりにクイックブーストを吹かし、ライフルの弾丸を叩き込む。ああ、ノブリスにグレネードをくれてやったのが惜しい。やつにくれてやるには勿体なかった。このレイヴンが来るとわかっていたのだったら、レッドキャップなど見捨てていたというのに。惜しい。実に、惜しい。

 グレネードの爆炎が、シュープリスを包む。爆炎の只中から敵が現れ、再び切り結ぶ。左手のライフルが溶断され、発射機構が作動しない。しかし、それでもパージしない。

「当ててくるか!」

 レイヴンを賞賛し、そして、再びライフルを構える動きを取ったところに、作動不良の銃を押し付け、強制的に発火させ、爆発させる。左腕が消滅し、幻の痛みに襲われるが、しかし。

 同じく、敵の右腕をとった。ライフルは使用不能だ。ミサイルが展開して口をあけるが、しかし。

 即座に、敵はそれをパージする。おそらく、こちらに狙撃されることを恐れたためだ。いかにネクストとはいえ、ここまでの接近戦となってしまえば、プライマルアーマーを貫通した際のリスクは計り知れない。装甲にぶつかればまだ良いが、そうでない場合がまずい。そう、レイヴンは私ならばやれるし、やるだろうと考えているのだ。

 一瞬の静止。赤い複眼が、敵をじ、と見据える。そして、敵もこちらを見据え、離さない。

 オーバードブースターを吹かし、双方とも前進。発生した爆発的な推力がお互いの機を押し出し、音速を突破させ、そして。

 ライフルを突き出す。敵が剣を生成する。ライフルをコアに突き立てる。装甲をはじきとばし、めくれ上がらせ、破壊する。だが。

 衝撃、振動。右腕を切り飛ばされ、ライフルが宙を舞い、そしてそれをとらえた瞬間には、シュープリスはコアを溶断され、レイヴンに寄り掛かるように擱座。抱擁。




「……良い戦士だ」

 感嘆の言葉が、うつろに流れる。

「感傷だが」

 ああ、そうだ。今ならば、言うことができる。

「別の形で出会いたかったぞ……」

 別の形で出会えていたならば、もっと別の結末もあっただろう。
 しかし、とめどなく流れる血のような赤い太陽は、違うと言っていた。








 リンクス戦争。死体と、不毛の大地だけを残し、勝利の凱歌もむなしいその戦いはプロトタイプネクストによるアナトリア蹂躙によって終焉を迎え、レイヴンは飛び立ち、アナトリアはロンドン塔の鴉を失ったイングランドのように滅びた。

終戦後、ベルリオーズの予想通りにリンクスに首輪をつける方向に、企業は進んだ。結局のところ、その一点に関してだけは、企業は賢明だった。管理組織の名を、カラードという。

 かくして、再び真実は秘匿され、そしてある組織によって暴かれる。それには、別の戦争を待たなくてはならない。真実とは、血を求めるものなのだ。



Tower of Raven Chapter Final:Marche au supplice End.




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