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No.31826の一覧
[0] アーマード・コア4 Tower of Raven(完結)[小薮譲治](2012/04/29 03:01)
[1] Tower of Raven Chapter One: Tower of London ravens are lost or fly away(前編)[小薮譲治](2012/03/09 19:46)
[2] Tower of Raven Chapter One: Tower of London ravens are lost or fly away(後編)[小薮譲治](2012/03/09 19:51)
[3] Tower of Raven Chapter Two:A Pocket Full of Rye(前編)[小薮譲治](2012/03/10 12:37)
[4] Tower of Raven Chapter Two:A Pocket Full of Rye(後編)[小薮譲治](2012/03/15 02:09)
[5] Tower of Raven Chapter Final:Marche au supplice[小薮譲治](2012/04/29 03:00)
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[31826] Tower of Raven Chapter One: Tower of London ravens are lost or fly away(前編)
Name: 小薮譲治◆caea31fe ID:d806b378 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/09 19:46
「皆殺しの雄叫びを上げ、戦いの犬を野に放て!」 
ウィリアム・シェークスピア「ジュリアス・シーザー」より引用

 結果だけをはじめに言ってしまえば、この戦争は我々の勝利であり、敗北だった。2000年以上地上に存在し続けた国家という存在は消滅し、二度と戻ることはないだろう。
人々は糧食を得るためだけの労働に従事し、資源を浪費することもない。

 資源を使用し、未来を作ることができるのは我々、すなわち『企業』だけだ。そう自負はしていたが、もはや、現実は誰の目にも明らかであった。

人類は、地球上で死んでいく。
緩やかに、しかし、確実に。誰の手にもよらず、自分たちの手で、緩慢な自殺を選んだのだ。





Tower of Raven Chapter One: Tower of London ravens are lost or fly away



「トルコ陸軍の掃討?」

 男は、一言言って、そんなことをやらせるのか、と目だけで問う。各種のハーネスを締め、フィッティングが問題ないことを確認し、耐G呼吸を行ってから、各種センサ類を装着されているさなかのことだった。
ブリーフィングとは食い違っている。エスキシェヒル空軍基地の破壊が、本来の指令だったはずだ。

「厳密には、アナトリア南東部の山岳地帯に展開してゲリラ戦を行っている第一SAS旅団を掃討しろ、という指令だな」

「……我々の仕事とは思えない。クルド人のゲリラに任せておけばいい。補給路を絶てば干上がる」

「……そうもいかない。あのレイヴンが現れた」

 あのレイヴン。あの、という枕詞がつく、最強と称されていた、アーマード・コアを駆るレイヴンたちの中でも、トップクラスの男。
ありとあらゆる戦場で生き残り、この『企業』と『国家』が相食む戦争、のちに国家解体戦争と名付けられたそれを、今の今まで生き残っている。国家にとっての生ける伝説。そして、企業にとっての悪鬼羅刹だ。

 ネクストの居ない戦場に現れ、企業の比較的少ない正面兵力をただ一人で消し飛ばす。
ありとあらゆる戦場で、ありとあらゆる機体を操り、ありとあらゆる敵を殲滅する。これが、一昔であったのなら、彼は国家を救い、抹殺されていただろう。だが、今はそうではない。
伝説のレイヴンの操る機体は、所詮は『ノーマル』だ。コア構想に則り作り出された、パーツ換装が可能な『だけ』の通常兵器に堕している。

 そして、この男『ベルリオーズ』は、アーマード・コア『ネクスト』を操る、現時点で最も戦果を挙げている、企業にとっての生ける伝説『リンクス』だった。

「あの、レイヴン。……鴉殺しにやらせれば良いだろう。狙っていた獲物のはずだ」

「……そうもいかない。あれは……北米で同様の任務に就いている」

「……それで、私にやらせようというのか」

 良いだろう。それが望みなら、最も飛べる鴉を、叩き落とそう。
山猫のあぎとで羽根をかみちぎり、脳を砕き、はらわたを裂いてやろう。そう考えて、ベルリオーズは笑った。




 時代は、変わったのだ。




 ベルリオーズは機体に体をうずめ、アレゴリー・マニュピレイトシステム(AMS)リンクケーブルを体のコネクタに接続し、目を閉じた。システムのブートアップシーケンスが流れ、各コンポーネントが起動を開始する。
頭部パーツの統合制御システム(IRS)が脳とのリンケージを確立し、各パーツの専用制御システム(FRS)を一斉に立ち上げる。つながり、溶ける。カメラは起動するが、体の、つまりネクスト『シュープリス』の自由は、利かない。これは、ジェネレーターの火が一旦落とされているためだ。
言うまでもなく、この機体のジェネレーターは本物の特別性だ。そして、AMSがこの機体を最高の動きを発揮するためのソフトウェアとするなら、この特別なジェネレーターが、最強のハードウェアといえる。

 コジマ粒子。発生原理も、はたしてどのような物質なのかも完全に機密として封印された物質。
わかるのは、最強の鎧、プライマルアーマーと馬、オーバードブーストとクイックブーストを鋼鉄の騎士たるシュープリスに与え、そして、周囲を汚染し、二度と人が住めないようにする、ということだけだ。
そして、今はまだこれに火を入れるには、早い。

 黒く塗装され、曲線と直線が入り混じる、フォーミュラーカーのような真実優美な機だった。
それにBFF社製の精密なライフルと、レイレナード製の銃剣のような意匠がついたライフルを両手に持たせ、有澤重工製のグレネードランチャー、OGOTOを装備した、レイレナード最強のネクスト。それが、シュープリスだった。

「各システム、問題なし」

「了解。敵は山岳地帯に潜伏し、慎重に偽装した陣地を構えている。一番問題なのは、歩兵部隊が潜伏していると見られるポイントから山一つ挟んで展開している野砲陣地だ。
ここからの砲撃でノーマル部隊がかなりやられている。だが、GAの衛星から得たデータによると、ACの野戦ハンガーが複数展開しているらしい。これもたたく必要はある」

「優先目標は?」

「決まっている。ACハンガーだ。といいたいが、まずは野砲陣地を叩け。確実にあのレイヴンをいぶり出して殺す必要がある」

 地図上に優先目標Alphaとして、野砲陣地の展開地点をマーキングし、トルコ陸軍部隊の展開予想地点を目標Betaとしてマーキングする。
最優先目標は、大鴉のエンブレムのレイヴンだが、これはどこにいるのかわからないため、目標X-Rayとした。野砲陣地をやれば、おそらく出てくるだろう、との予測が当たっているかどうかはわからないが、どちらにしても、やつは、ここにいる。それだけは確かだ。

「以上だ。あと30分もすれば作戦開始だ。野砲陣地から10kmほど離れたところに投下する」

「対空砲は?」

「静かな物だ。沈黙を守っている。もう無いのかもしれないが……」

「……」

 しばらく目を閉じ、シートに深く背を預け、覚醒の時間を待つ。衝撃。目をかっと見開き、直ちにコジマ粒子を放散する。来た。

「くそ……ッ!四脚型ACだ!野郎がスナイパーキヤノンでこっちを狙ってる!FCSレンジ外から当ててきただって……?!」

「直ちに投下しろ。身軽になって逃げるんだ」

「……了解、幸運を」

 扉が、開く。落下の衝撃の感触。ただちにオーバードブースターを起動。IRSより、レーダーに母機の反応がなくなった、という事が伝えられるが、かまうことはない。
いざとなればあちこちで弾薬の続く限りトルコ軍の駐屯地や基地潰しつつ合流すればいい。それができるのが、ネクストだ。衝撃。ショックコーンが発生。音速を超えた。

 シュープリスに衝撃が走る。スナイパーキヤノンがプライマルアーマーを貫通し、装甲面に多少のダメージを与えた為だ。
むろん、作戦遂行に何ら支障はないが、衝撃でオーバードブースタが機能不全を起こし、停止。2撃目が着弾する寸前、サイドブースターのクイックブーストを作動させる。
クイックブーストとは、ブースターの出力をコジマ粒子を利用し、爆発的に高め、一瞬のうちに10メートル近い全高の鉄の巨人、ネクストに時速1000km/hを越えさせるほどの代物だ。
爆発的な推力とGがベルリオーズを襲うが、しかしこの程度ではスーツ側のアシストと、コクピットの保護機構が作動し、影響はない。その結果として、弾丸は空気を裂いた。だが、ベルリオーズの機に着ず一つつけることはなかった。

 しかし、ハードウェアとしてのネクストがこれほどであっても、敵である伝説のレイヴンは尋常ではない。なぜなら、ロックオンの警告がいっさい出ていないのだ。
詰まるところ、ロックオンによる補正をいっさい受けず、音速を越えて動いているネクストに対して、弾丸を命中させたのだ。
これがノーマルであれば、と考えて、ベルリオーズはぞくり、と震えた。

「なるほど、伝説と呼ばれるだけはある」

 そして、ベルリオーズは、このシュープリスで、伝説を伝説のうちに押し込める。そのために、背部のハードポイントにマウントされた有澤重工製の折り畳み式グレネードキャノン、OGOTOを展開。発砲。
薬夾に電流が流れ、電気信管が作動、炸裂する発射薬の爆発的なエネルギーにより、榴弾が撃ち出され、後方に薬夾が排出される。高速で巡航し、さらにクイックブーストを散発的に作動させ、FCSのロックオン距離まで詰めた段階で発砲した。

通常のAC、すなわちノーマルであれば、破壊半径に収まることもなく、反動で各アクチュエーターが硬直し、停止していただろう。だが、ネクストは違う。

 遠目に見える四脚型のハイエンドノーマルから、後方に何かが打ち出される。脱出用のコクピットユニットだ。傭兵とは思えない思い切りの良さに、なるほど、と納得させられる。
ACの前方に榴弾が着弾。膨大な熱量と粉塵をぶちまけ、四脚の装甲をぐずぐずに溶かし、爆発。そこまでは見えていたが、あまりの熱量と煙に、センサーがとらえきれない。

 降下してコクピットに居るであろうレイヴンを殺すため、着地。地が割れ、アクチュエーターの膨大な悲鳴がコクピットに響き、そしてシュープリスの赤い複眼をぎらぎらと動かし、周囲を探索。
大地に微妙な熱がある。なるほど、虎穴というわけか、と笑う。つまり、罠だ。

 あのレイヴンは、コクピットから飛び出すや、用意していたらしいオフロードバイクに乗り、すぐに移動を開始していた。
そして、その後退を支援するためか、反応偽装されていた近接対空機関砲が、モーターで機関部に供給される 20mm 砲弾を猛烈な勢いでこちらを射撃。だが。

「残念だったな」

 そう、全く持って残念な話だ。対空機関砲から発された、数万を超える弾丸は、一発たりともこのシュープリスの装甲には届いてはいない。そう、ただの一発たりともだ。

 ぎらり、と赤い目を光らせ、両腕のライフルを掲げる。動かなかったのは、着地の衝撃で動けなかったわけではない。ただ単に、動く必要がなかっただけだ。

 所詮、弱々しい羽虫の羽ばたきなど、ただ煩わしいだけだ。

「命を無駄にする事もなかっただろうが……もう、遅いな」

 後方に一気にさがり、粉塵をぶちまけながら、展開していた対空砲を見る。
黒光りする、束ねられた砲身と、そのすぐ近くで、撃ちきった弾丸をあわただしく交換する人々を見、吐き出された薬夾を踏みながら、呆然とこちらの赤い瞳を見ている、青い瞳の兵士を見つめた。

「哀れな」

 両腕に抱えたライフルから、瞬きよりも早く、弾丸を吐き出させる。
命中してねじ切れ、そして束ねられた砲身がはじけ、砲身を回すはずの伝達ベルトが放り出され、兵士の体を打ち据え、息をしていた肉塊に変える。それが何度も繰り返された時には、既にバイクは走り去っていた。
だが、彼は高揚していた。まだ、楽しめる。奴は生きているのだ、と。殺戮のただ中であるにも関わらず、目の前でゆら、と揺れるコジマ粒子のように、彼の心はおどった。
だが、目標Alpha、すなわち榴弾砲陣地を先に狙うこととする。楽しみを邪魔されては、たまらない。

 空気を裂く音と、爆炎が機を覆い、ざ、と砂を巻き上げる。だが、このシュープリスに、傷など付くはずが、なかった。コジマ粒子が踊り、再びオーバードブースターを、起動。
ショックコーンが発生し、破裂音とともに、周囲のありとあらゆるものをはじきとばした。



「シャイターン(悪魔)め……」

 偽装対空砲陣地と、雇っていたレイヴンの機が破壊され、脱出した、との報を寄せられ、155mm自走榴弾砲群を統制するの指揮車の中でラップトップを広げ、いくつもの弾道計算プロセスを走らせていた男が歯がみする。
撃とうにも撃てなかったため、その復讐戦を計っていたら、この「ざま」である。数度にわたって直撃させたというのに、いまだ敵は健在であるというのだから、衝動的に日本製のタフブックを放り捨てたくなった。だが、それはできない。

企業の提供していた、トルコ軍の弾道計算クラウドが乗っ取られ、純粋にネットワークなしで機能するコンピュータは希少だからだ。
ミッションクリティカル用途のために、ありとあらゆるリソースを、違法、合法問わず乗っ取り、接収することを可能としてたが、そのいずれも、企業の手にある。なにしろ、この接収プロセスそのものが、アメリカのMSACインターナショナルによって作られたものだったためだ。バックドアで、ものの見事にやられている。

 そして、スタンドアローン環境で動くPCの中でも、限定的な動作をするものばかりであり、このタフブックが使っているのは、Intelが最後に使った8nmバルクプロセスで作られたプロセッサだ。これはネットワークから切り離されても完全に動くものだった。
 そして、敵AC(そういっていいかどうか、かなり疑問だが)がこちらにかなり高速で向かっている、という急報を受け、ともかくも射撃を開始する。
厳密な意味で「日本製」ではないが、今反乱を起こしている勢力、すなわち「日本企業」の有澤重工が作った砲が、膨大な炸薬を使ってNATO規格の弾丸を大量に吐き出す。しかし。

「目標!なおも健在!」

 オペレーターの声が絶望的な響きをもつ。いずれかの弾丸は直撃し、いずれかは空中で炸裂し、破片をぶちまけ、破壊と殺意をもたらしたはずだ。はずだった。

「さらに加速しています!」

 その声は、指揮車のだれにも、もう届かなかった。その瞬間には、増速したネクスト「シュープリス」の、同じく有澤製の砲が、彼らを消滅させていたのだ。Intel製のごく希少なプロセッサとともに。



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