<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.31477の一覧
[0] とある神父と禁書目録【とある魔術の禁書目録 未来設定】[1](2012/03/11 10:26)
[1] Ch.1 とある神父と英国清教[1](2012/03/11 10:28)
[2] 贖罪者の右腕 Ⅰ[1](2012/03/11 10:28)
[3] 贖罪者の右腕 Ⅱ[1](2012/03/11 10:28)
[4] 神父と聖女と聖人と Ⅰ[1](2012/03/11 10:28)
[5] 神父と聖女と聖人と Ⅱ[1](2012/02/20 22:23)
[6] 神父と聖女と聖人と Ⅲ[1](2012/03/11 10:29)
[7] バッキンガム狂想曲 Ⅰ[1](2012/03/11 10:29)
[8] バッキンガム狂想曲 Ⅱ[1](2012/03/11 10:56)
[9] 刃は懐に仕舞われた Ⅰ[1](2012/03/18 13:37)
[10] 刃は懐に仕舞われた Ⅱ[1](2012/03/31 10:15)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[31477] 神父と聖女と聖人と Ⅱ
Name: 1◆9507d07e ID:6af538b7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/20 22:23



 懐かしい夢を見ていた。


「そ、それ待ったなんだよ!」

「おいおい、冗談だろう? チェックだ」

「ステイル! 少しぐらい手加減して欲しいかも!」

「君の頭脳にかかればあっという間に僕より上手くなるよ。これくらいの意地悪は許してほしいね」

「ステイル……それは少し大人げないですよ?」

「いいか何度でも言うぞ、耳をかっぽじってよく聞け。……僕の方がインデックスより年下だッ!!」


 あの子と初めて会った頃の夢。十年前、『奴』の手で彼女が救われるより、さらに昔。


「おかわりなんだよ」

「おい神裂! 気持ち多めに用意しておけとあれほど言っただろ!?」

「用意しましたよ、『気持ち多め』に! でもそれじゃ全然足りてないじゃないですか! なんであの身体にあんなに入るんですか!?」

「私の『宇宙胃袋』に常識は通用しないかも」

「「やかましい!!」」


 『あの子』を救えなかった時の夢。


「それじゃあお別れだね。すている、かおり」

「イン、デックス……! ごめんなさい、私は、わたしたちは……!」


 何一つ為せなかった無力な自分の姿。振り払いたい過去。消したくない記憶。


「安心して眠るといい。たとえ君はすべてを忘れてしまうとしても――――」


 もうどこを探しても見つからない、永遠になった少女との思い出にすがりながら、少年は惨めに生きながらえて青年になった。



 心は強くならないまま、かたちだけは大人になった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「ん……ここは……?」


 ステイルが目を覚ますと、そこは清潔なベッドの上だった。上体だけでも起こして辺りを窺おうとすると、


「つっ! か、肩がっ……!?」


 柔らかい毛布に手をつくだけで鈍い痛みが走り、起き上がることさえ満足にできなかった。仕方なく首だけ回して状況を把握しようとするも、ベッドの周囲は薄いベージュ色のカーテンにすっぽり覆われている。
 手触りの良い枕に頭を預け直す。とにかく、状況を整理すべきだった。この無機質な天井、規則的な機械音、極めつけに鼻をつく薬品臭。魔術の総本山たる聖堂にそぐわない、近代的な医療機器が無数に運び込まれた、聖ジョージ大聖堂の医務室ではないか。どうやら自分は怪我を負って運び込まれたらしい。この医務室に運ばれるということはすなわち、聖堂内で倒れたことになる。


「――――っ!!」


 そこでようやく気が付いた。肩の激甚な痛みなど忘れて、ステイルはベッドから這いずり出ようとする。


(彼女は、どこだ!?)


 護衛の自分が倒れるような事態が起こったのだ。必然、彼女の身にも何かが、


(何か、が……)


 動きが止まる。脳の動作が、五体に送られる指令が、強制的にストップさせられる。
 何かを忘れている。彼女に関することだ。そうだ、脳裏に焼きつく最後の光景は、切迫した表情の彼女が、何事か、叫んで……?
 思い出すべきでない記憶が、すぐそこまで顔を出している。煩悶し、混乱するステイルはカーテンの向こう側にひそりと現れた気配に気が付かない。


(えっと、確か神裂と一緒に何かを話し合っていたんだ。そこで、彼女が……)


 息を吸っては異端を狩り、息を吐いては骸を生む。血腥い戦場に常時身を置く魔術師の端くれとして、致命的なミスだった。闖入者は前触れなくカーテンを勢いよくめくると、考え込むステイルに向かって―――






「目を覚ましたるかにゃーん、超すている! 大丈夫、こ、この人魚姫アワメイドが看病しちまうのよな!」






 魚類の鱗を意識したのだろうか、赤い網タイツ。大事な部分は泡のような謎の物質で覆い隠された下半身。ゆったりとした修道服の内側でもなお存在を強烈に主張していた部位にいたっては、大きな貝殻が二枚、直に張り付いているようにしか見えない。全体的にスケスケ素材で歩く18禁ボディをコーティングした「人魚姫アワメイド」とやらが惜しげもなく、精神年齢に明らかに合致していない艶姿をふりまいていた。


「………………」

「………………どきどき」


 凍れる時の術式が作動して数秒後。


「……ふっ」


 完全にチルド状態だったステイルが突如として笑みを浮かべた。近年稀に見る穏やかな微笑だった。スーパー(笑)イノケンティウス(笑)を発動した『法の書』事件以来かもしれない。賢者の時間フィロソファーズタイムでは間違ってもない。


「おお! そんなに気に入りてか! さあさ、これからあなたは私の超応援看病を受けなければいけね……え? 何?」


 喜々としてご奉仕(……)を開始するべく、インデックスが手に持ったおしぼりをかざすと、ステイルが首を横に振った。ステイルはさらに、油の切れたブリキ細工のようなぎこちない動作で腕を持ち上げ、次いで耳に人指し指を突っ込む。


「……? 耳を? 塞げと言いたいのよな?」


 我が意を得たり、とステイルが笑みを深めて頷いたのを見て、恐る恐るインデックスがそれに倣った――――次の瞬間。






「最  大  主  教  ッ  ッ  ッ  !  !  !  !  !」






 今世紀最大級の雷が、大げさでなくロンドンの街並を震度三ほどで揺るがした。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 憤懣冷めやらぬステイルが真っ先に行ったのは、看病させてくれと身を乗り出してくるインデックスから必死で視線を逸らしつつ、その身体を押しのけることだった。渋るインデックスを無視してピシャリとカーテンを閉めると、


「着替えてきてください」

「す、ステイルはアワメイドが気にいらねーのかな……? さすればここは超原点に帰りて、かおりもその昔着用したると噂の堕天使メイドで」

「元の主教服に着替え直してください。さもなくば僕の半径三メートル以内には近寄らせません」

「えー」

「いいからとっとと着替えてこいっ!!」

「はーい」


 そんなやりとりから十分後。
 金刺繍のふんだんに盛り込まれた純白の主教服が、忙しなく医務室を動き回っていた。


「はぁ……また土御門のアホか! んっ……ゲホッ、カホッ!」

「あまり叫びすぎては喉が潰れちまうにゃーん?」


 インデックスは桶に張った冷水に清潔な布を浸していた。しみひとつない美しい掌に似合わぬ、慣れた手つきで白布が絞られる。パン、と爽快な音を立てて布を広げると、インデックスは上半身の着衣をすべて剥ぎ取られたステイルに向き直った。有無を言わさず、の修飾先が十分前とは逆転する形となっている。看病を始めた途端に迫力を増したインデックスに、ステイルはとうに諦め顔だった。肩口にひんやりとした感触が押し当てられる。


「……貴女には、危機感というものが足りていない。まったく……」


 こんなにも男の素肌に近づいて、「清貧・貞潔・従順」を旨とする修道会三原則に抵触しないのだろうか。ステイルがそう、現実逃避気味にぶつくさ言っていると、


「怪我で苦しんでる人を助けるのに、神様がダメなんて言うわけないんだよ。ね?」


 蕾の花が春の訪れを喜ぶように、インデックスの頬がゆったりと綻んだ。日頃の天真爛漫な笑顔とはまるで趣を異にする、別世界のものかと錯誤したくなるような聖女の微笑み。ステイルは先ほどとは別の意味で顔を背けると、顔面を上ってくる血液の熱さを誤魔化すように非難の声を上げた。


「そもそも、喉が潰れそうなのは誰の、ガフッ……だれ゛のぜいだど思っでるんですか」

「さにあれども、此度の超メイド服はもとはるから貰いしものではないかも」

「なに゛……?」


 ステイルの眉が不審げに跳ねた。
 イギリス清教きってのトリックスター(メインターゲット:ステイル)がこの一件に関わってないなどとは、にわかには信じ難い事実である。しかしよくよく先刻のインデックスの艶姿を回想してみるだに、確かに全体的な意匠に違和感があった。もう少しざっくり言ってしまえば、ロリな義妹を愛するオープン犯罪者土御門元春の嗜好からやや外れている、ような気がする。
 と、いうことは。


「出でこい、貴様ら゛ぁっ! ぞごにいるのはわ゛かってるんだぞ!」


 ステイルは一定の結論を脳内で導いて、医務室の外に群がる無数の気配に向けて殺気を放った。


「ふ、ふふふ、ふふふのふ。なかなか察しがいいじゃねーのよ、神父さん?」


 どこからともなくガラの悪い声。十年前、敵味方として初めてまみえた時も、そういえばこの男の第一声は悪役丸出しだった。


「そう、最大主教に『人魚姫アワメイド』を献上したのは我々だ」

「…………さでは自作だな、あれ゛?」


 ガラッ。引き戸が開く。登場そのものは割と普通だった。





「いかにも! 我ら天草式十字凄教の総力を結集して製作した、至高にして有頂天の逸品なのよな!」





 おおおっっ!!と興奮気味に鬨の声を上げるむさくるしい集団の戦闘に立つ、珍妙にして奇抜な髪形の持ち主が一人。


「あ、さいじだ」

「建宮に゛天草式ぃ……! やばりきざまら゛の仕業かッ……!!」



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 天草式十字凄教とはもともと、日本の隠れキリシタンを母体とする十字教の一宗派であった。『法の書』事件を契機にイギリス清教傘下に加わって以降、外様ながらそれなりの待遇を受けている。スタンドプレー要員ばかりが幅を利かせる『必要悪の教会』において、とある武闘派シスター集団に並ぶ、貴重な集団戦のプロだからだ。
 彼らが女教皇プリエステスと崇める女性が下した、イギリスに骨を埋めるという決断に従い、彼ら天草式もロンドンの日本人街を我が庭のようにして久しい。


「あああ、最大主教!! なんで着替えちゃってんですかもー!?」

「だって、ステイルが超着替えろってうるさいから」

「人のせい゛にしないでくだざい!」


 両の手で顔を押さえてムンクの『叫び』を全身で再現した男の名は天草式が一員、牛深。


「やーね奥さん聞きまして? ステイルくんったらまた据え膳をちゃぶ台返しで跳ねのけたらしいですわよ?」

「こうも我々のお膳立てをことごとく回避するとは……ややもすると、彼は不能なのかもしれないね」

「そこの゛オッサン二人、よほど君らの故郷の風習に従っで火葬されたい゛と見えるな」


 くね、と気持ち悪いしなを作ったのは野母崎。困ったことに、これでも既婚者である。
 野母崎の耳打ちを受けて真顔でバカをのたまった小柄な老人の方は、諫早といった。 


「…………ぼー」

「香焼、鼻血出てるのよな」

「はっ!! で、ででで出てないっすよ! 違いますよステイルさん、自分最大主教のわがままボディをもう一度だけでも拝見したかった、なんて思ってないっす!」


 ちり紙で慌てて鼻を覆う青年こと香焼は、ステイルより一つ年下だったと記憶している。天草式が誇る貴重なショタ要員も、今では立派な男に成長していた。色んな意味で。


「はーぁ、ダメなのよ、ダメダメなのよな最大主教――――否、同志インデックス!」


 そして満を持して声を上げたのは、彼ら特級の馬鹿どもを統べる超特級、否、極級の馬鹿。


「されどさいじ、ステイルには超アワメイドが通用しなかったんだよ……こんなステイルは応援できなし……」

「本人の゛目の前で攻略法の相談をしな゛いでくだざい」


 その男、名を建宮斎字。自自ともに認めるロンドンNo.1フリーキッカーでありクワガタ頭であり芸人であり元天草式十字凄教教皇代理でもある。一時期など死亡説が流れたことすらある生粋のエンターテイナーだ。曰く、年末のかくし芸大会にむけて真剣白刃取りの練習をしている最中不幸な事故にあったとか、俺たちの知ってる建宮はもういない、彼は『建/宮』となって星に還ったんだ、とか。実に様々な風説が流布したものである。


「一度や二度のアタックですべてを諦めているようでは望みは薄いのよな! 同志インデックス、我らの敵は二十四年間肉体的にも精神的にも童貞を貫き通してきた童貞の中の童貞、いわば『鉄の童貞アイアンチェリー』ッ! 一筋縄じゃいかねえのは最初からわかりきってたことよ!」


 うん、決めた。こいつは今すぐにでも焼く。肩が外れようが喉が潰れようが知ったことではない。今後のイギリス清教のためにも、この男だけは紅蓮の業火に焼かれて消えてもらわねばならない。
 しかしズボンのポケットからカードを抜き取ろうとした腕を、ステイルは直前で唐突に凍りつかせた。言い知れぬ殺気、匂い立つ死の濃密な香り。動くべきではない、と直感が告げる。


「いけいけ諦めるなどうしてそこで諦めんだそこでぇ!! ……ん? お前たち、どうかしたのよな?」


 天草式の面々が熱弁を振るう建宮に必死のジェスチャーを送っていた。口を閉じろ、そして後ろを向け、と。
 そこはさすがに武闘派の魔術師、伊達に修羅場はくぐっていない。尋常な事態ではないと察した建宮は、おそるおそる同志の導きに従って振り返る。どこからともなくフランベルジュを抜き放ち、臨戦態勢に入ることも忘れない。


「………………? な、なんもいないじゃねーか。ったく、驚かせてくれちゃってよ」


 なんだ鼠か、驚かせやがって。
 パニック系ハリウッドムービーのノリで死亡フラグを見事おっ立てた建宮は、再度ベッド側へと向き直――――



「あ な た た ち ?」

「な に や っ て る ん で す か ?」



 ――――ると、そこに鬼がいた。



「ぷ、女教皇、五和!? 違うのよな、これにはバイカル湖より深いわけが」

「おーもーいーがーしゅーんーをーかーけーぬーけーてー」

「ばさらけぇおぉぉぉぉぉぉ!!!??」


 ズサッ、バシュバシュバシュバシュバシュバシュバシュッ。建宮は死んだ。七閃(笑)




前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.028505802154541