窓の外側で夕刻の景色が徐々に、初秋特有のかすかに温かみの残る宵闇に泥んでいく。それを横目でちらと眺めた一人の男。男は自宅のソファにどっしりと腰を下ろして寛いでいた。リモコンを握って適当にチャンネルをいじりながら、背後から鳴るトントン、という小気味良い音にしばし聞き入る。男の妻がリズミカルに包丁を操りながら、夕食の支度を進めている最中だった。
「幸せだなぁ、俺」
若さに似合わぬ重みあふれる実感とともに、上条当麻はしみじみと呟いた。
「も、もう、なにジジむさいこと言ってんのよ。それより、電話出てちょうだい」
高らかな電子ベルの音がリビングに鳴り響いた時、上条は妻の催促よりも早く立ち上がっていた。この世に生まれたまさにその瞬間から自立した起居を送らざるを得なかった上条には、世のお父さん方にありがちな、家事労働を厭うという発想そのものが備わっていない。
「はい、上条です……なんだ、ステイルかよ」
上条は微妙な声色で受話器の向こう側にいる男の名を呼んだ。なぜに微妙かと問われれば、実に微妙な相手だったからである。別段、声を聞いただけで嬉しくなるような無二の親友というわけではない。だからと言って、即座に受話器を置きたくなるほど冷えきった間柄というわけでもない。
もっとも相手の方は、そう思ってはいないようだが。
『なんだとはなんだい、上条当麻。僕だって叶うことなら、この短期間に二度も君の声など聞きたくはなかったよ』
「じゃあかけてくんなっつーの」
『いや、その、ね。この間の、ミセス浜面の件で確認しておきたいことが』
浜面。馴染み深い名前である。確かに上条は一週間ほど前、どこからか浜面夫人の能力について聞き付けたらしいステイルに、彼女への口添えを頼まれていた。
「土御門を探してたんだっけ? あいつ、見つかったのか?」
『君には関係のない話だ』
「冷たいヤツだなー、誰の仲介だったと思ってんだよ」
『そういう問題じゃない。奴の行方は曲がりなりにも、イギリス清教にとって重要機密なんだよ』
「ま、浜面の嫁さんに聞けば教えてくれると思うけど。あの人一見天然だけどしっかりしてる…………ようでいて、やっぱり天然だからな」
『……僕も心なしか不安になってきた。まあいい、それより』
「ん?」
『最大主教のことなんだが』
最大主教。馴染みの薄い役職名である。上条は一瞬、考えるように黙りこくって、
「インデックス? ……まさか、あいつの身に何かあったのか!?」
呻くようにして声を絞り出す。インデックス、という名に包丁が俎板を叩く音が止んだ。妻の鋭い視線が、後頭部に突き刺さってくるようだった。
インデックス。その名には馴染みがある、どころの話ではない。上条当麻の人生を決定づけた少女、と呼んで過言ではなかった。別の女性を伴侶に選ぶ決断を下した後も、上条にとって変わらず大事であり続けた女性。もう長いこと直接顔を合わせていない。さぞや立派な淑女に成長していることだろう。
「くそっ、ついこないだも電話くれて、元気そうな声を聞いたばっかりだってのに……!!」
遠く離れていても家族だ、そう思い定めていた。昔は妻ともいがみ合ってばかりだったが、今では笑い話の種にできるほどである。ゆえに妻も、親しい友人の名を焦燥に満ちた声で叫ばれて、心中穏やかではないのだろう。顔を見ずとも上条にはそれがわかった。もっと声を抑えるべきだった、と後悔しても遅かった。
とにかく上条は、ステイルの次なる発言を辛抱強く待った。
大丈夫だ。何もあるはずがない。もし何事かあったのなら、ステイルがこうも落ち着いていられるわけがない。
そう、自分に言い聞かせた。それでもたった十秒ばかりの沈黙が、上条には異常に長いものに感じられた。
『はぁぁぁぁ』
「……おい、ステイル?」
『はぁぁぁぁあぁぁああぁぁぁあ……』
「……そんな不幸オーラビンビンバリバリ全開のため息をつかれると、上条さんとしては他人事に思えないんですが。何があったんだ?」
『はぁ。最大主教は君に連絡を取った。そして、ミセス浜面の連絡先を聞き出した。合ってるね?』
「な、なんだよお前気味悪ィな!? まさかこの電話、盗聴でもしてるんじゃ」
『よりにもよって君の家の電話など、誰が盗聴するかッ!! ……とにかく、もういい。OKだ。僕の用事は終わりだ。はいさよなら』
「わっけわかんねえ」
『わからなくて結構』
切り捨てるような口調に憮然とさせられるが、こうなったステイルは決して口を割らないだろう、ということは、上条の乏しい記憶力からでも十分に導出可能な結論だった。インデックスのことは気になるが、イギリスにいる連中に任せるほかに術はない。それはインデックスが学園都市から去って五年、悩みに悩んで上条が出した結論でもあった。
気が付けばトントングツグツ、という涎を誘うハーモニーが、キッチンから再び奏ではじめられている。上条が何かを捨てて選びとった、日常の象徴そのものだった。
『……あとは、そうだな』
受話器の向こうで、ステイルが何度か口を開閉する気配がする。
『御夫人と、仲良くやれよ』
駆け回るだけの気力を失った感情を、さらに太縄で締めつけたような声だ、と上条は思った。
「それこそ、お前に言われるまでもねえよ」
『フラグをこれ以上増やすなよ。君の建てまくった旗のせいで、割と世界の大部分を敵に回したあの頃を忘れたとは言わせないぞ』
「それは、言われるまでも……あった、な。…………じゃねえよ! さっさと切れ!」
『ふん、やれやれだ』
乱暴な音を立てて通話は途切れた。
「ほんと、お前に言われたかねーよ」
誰にも聞こえないように、上条は口の中で独りごちた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
イギリス、聖ジョージ大聖堂。カテドラルとしてはこじんまりした部類に入るこの聖堂には実のところ、限られた者が限られた手段を用いねば立ち入ることのできない“裏”があった。空間認識と人払いの魔術を巧みに応用して防衛網を張った広大な空間に、イギリス清教の中枢としての機能が集められているのである。
神裂火織はその中で最も豪奢かつ警備の厳しい一室、すなわち最大主教の執務室を訪れていた。憔悴しきった様子のステイルから、「火急の用件によりただちに協議を持ちたい」との連絡を受けたのだ。
「本当に、やれやれだよ」
通話を終え、携帯電話を仕舞うステイルの表情を見て、火織は胸を衝かれた思いがした。悲しみを背負ってしまっている。そういう男の顔をしていた。
「事情は把握しました、最大主教。根本の部分でいまだに全容を掴みかねる疑問が残ってはいますが」
ステイルが向き直ったのは、怪訝な面持ちでデスクに着いている二人の魔術師の上司――――清教派最高権力者、インデックスその人だった。一見して、異常に見舞われた様子はない。つい先刻も、ドアを破壊せんばかりの勢いで飛び込んできた火織に、朗らかな朝の挨拶を掛けてくれたばかりである。
いったいどこに問題があるのか。そう火織がステイルに問い質すより先に、インデックスが気遣わしげに眉をひそめて言う。
「なにやら疲れが超たまりているように見えたるのよな、ステイル。でも大丈夫! さようなステイルでも私は超応援しにけるにゃーん」
「…………」
「…………」
「……不幸だ」
「あの、ステイル、これはどういった」
「神裂、僕は一度医者に罹った方がいいのかもしれない。耳鼻科がいいな。最近彼女が口を開くたびに幻聴が聞こえるんだ。いや待て、ついでだから眼科にも行こうか、あれはなんだろう、流星かな? いや、流星はもっとこう、バーッと輝いてるもんな……」
「精神科医ーーーっ!! 誰か精神科医を手配してあげてくださいぃぃぃぃっ!!!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
Passage2
神父と聖女と聖人と
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「それで……いったい全体なにがどうなって…………その、こんな有様に?」
およそ一時間後。錯乱状態のステイルがようやっと落ち着いた時機を見計らって、火織はおずおずと問題提起した。
「むむっ! 久方ぶりに会いたる超親友にむけてその言い草はブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・いなるのよな、かおり!」
こんな有様、とはご覧の有様である。どうしてこんなになるまで放っておいたのか、とステイルを責めようにも責められない。最大の被害を被っているのは誰か、と問われれば百人中百人が当事者であるインデックスではなく、ステイル=マグヌスくんにじゅうよんさいかわいそう、との返答を憐憫の情と共に投げて寄こすであろう。
「申し訳ありませんが、少し黙っててくださいませんか、最大主教。とても捌ききれませんので」
ステイルが額に手を当てながら無気力に告げる。しょんぼり顔のインデックスを見て、火織はわれ知らずのうちに顔を綻ばせていた。ステイルにキッと睨みつけられてようやく自覚する程度の、ほんの数秒間の無意識の産物であったが。
はぁぁぁぁ、とステイルが再三嘆息する。長い長い吐息が、部屋の湿度をどんよりと押し上げているかのようだった。
「僕の胃もいい加減に限界だった。本当によく来てくれたね、かんざ……っと、すまない」
「ふふっ、あなたからはそう呼ばれる方がしっくりきますからね。今まで通り、神裂で構いませんよ」
正確に言えば、もう「神裂火織」は自分の名前ではなかった。半年ほど前に入籍して、苗字が変わったのである。とはいえステイルのように、旧姓で呼ぶ者も決して少なくはない。彼女自身慣れない名で慣れない相手に呼び掛けられるよりは、その方が気楽だった。
「お言葉に甘えさせてもらうかな。さて、この危機的状況についてだが」
「冷静になって考えてみれば、なんというか。状況は読めますね、だいたい」
「……まあ、例によって元凶はあのアンポンタンだよ。髪の無駄に長い方の。それにクワガタ頭やら学園都市の能力者、とくにレベル5やらが絡むうちに」
「どうしてもこうなった、と」
「現状を嘆いても始まらない。更なる症状進行の前に手を打たないと」
「原因がハッキリすれば話は早いのですが。インデックスの完全記憶能力に端を発しているとするならば、どちらかというと科学の領分ですね」
「スットコドッコイがなにがしかの魔術を仕掛けた可能性も完全には否定できないが……今のところ、そういう形跡は見られないね」
哀しいことに、この手の善後策の協議は二人にとっては手慣れたものだった。イギリス清教という組織は内外問わず、脳内ストッパーが絶賛職務放棄中の愉快な思考回路の持ち主が多すぎるのである。筆頭に挙げられるメンバーだけでも短い金髪のバカ、長い金髪のバカ、クワガタ頭のバカ、計三名。人材が豊富すぎて泣けてくるレベルだった。
希望に満ちたイギリス清教の行く末に二人が目頭を熱くしていると、インデックスがひょこひょこと腕を精一杯伸ばして何事か訴えてくる。
「どうしました、インデックス?」
「ああ、すまない。発言していただいて構いませんよ」
教師と生徒じゃあるまいし。火織は思ったが、現状はぴったり当てはまっている。二メートル越えの大男と、一五〇センチ強の幼ささえ残る女。この取り合わせでは無理もない。ましてや「実は女の方が年上なんです、ステイルくんはロリコンじゃないんです」などと釈明しても、誰も信じはしないだろう。
「学園都市には、超学習装置なるものがあるのよな。それで脳を上書きすれば」
「「却下です」」
「あれー? なぜに応援してくれぬのよ?」
学習装置の名には火織も聞き覚えがあったが、考える前ににべもない拒否の言葉が口をついていた。
現実的な方法ではあるのかもしれない。かつてほどに科学というものへの不信に凝り固まっているわけでもない。ただその方法だけは、本能が認められなかった。
(もう二度とあなたの脳を、人生を弄ばせはしません)
ステイルと目が合うと、小さく頷いた。二人の思いは一致している。そうとは知らぬインデックスだけが、息の合った二人を眺めて不思議そうに唸っていた。
「やはり、地道な矯正こそが最大の近道ではないでしょうか」
「はぁぁぁ……それしかないか。そういうことなら適任は僕と君、かな。他にはいるか?」
「信頼が置け、口が固く、かつ言葉づかいが無個性、もとい平易な人物というと……五和、ですかね」
良い性格になったよなぁ。
ステイルが遠い目をしながらつぶやいた気がしたが、火織にはよく意味がわからなかった。理解できないことにはこだわらない主義の火織は、次々に名前を挙げていく。
「それから……少々恐れ多いことですが、ヴィリアン王妹殿下などどうでしょう? インデックスともお茶友達でしたね」
「ヴィリアンのところに行くとえも言われぬ美味が並びてにゃーん!」
「寮の連中ならシスター・ルチアとシスター・アンジェレネに……シェリーもギリギリセーフ、と見ていいかな」
「誠に遺憾ですが、天草式の男衆どもは面白半分で引っ掻きまわしそうなのでアウトです。浦上や対馬にも手伝ってもらいましょう」
ステイル、火織、五和、ヴィリアン、ルチア、アンジェレネ、シェリー、浦上、対馬。家庭教師という名の被害者(予定)を指折り数え上げていく。
すると、おかしなことが起こった。
「……むー」
インデックスが列挙される名をぶつぶつ反芻していたかと思うと、急激に表情を険しくしたのである。くりくりしたエメラルド色の瞳と、かすかに上気した頬に差す桜桃のような赤み。天から祝福された玉のごとき美貌は、眉間に厳しく皺を寄せてもなお愛らしいものではあったが――――
「もしや、彼女らと毎日毎日、その矯正とやらを行わなければ超いけなし?」
「まあ、公務に支障の出ない範囲で最大限行っていただきます。いずれは学園都市への表敬訪問もありますし……最大主教?」
「……むむー」
はっきりと、目に見えて、インデックスは不機嫌だった。火織は助けを求めるようにステイルに視線をやった。だがステイルも、お手上げと言わんばかりに肩をすくめる。当惑も露わにステイルが説得にかかるも、むくれたインデックスが聞く耳を持ってくれるようには思えなかった。
「インデックス? その、私たちとでは不満なのですか?」
思いつくままに、火織は可能性を口に出した。叶うならば否定してほしい可能性だった。
十年以上前に喪った、自らの手で壊してしまった絆。長い時間を掛けて修復できたと信じていた、自分とインデックスの友情。それらをことごとく否定する可能性の存在に、それでも聖人は真正面から切り込んだ。そこにかつての弱く脆い神裂火織は、もはや微塵も存在していなかった。
「そ、そういうわけにはあらぬのよな! ただ、その」
インデックスは慌てたように両手を突き出して、火織の発言を明快に否定した。不思議なことだが、それを聞いて胸にこみ上げてきたのは安堵感ではなかった。老婆心、という言い方は一身上の都合により断固拒否するが、それに似た感情。
火織は昔からインデックスと接している時には、彼女にとって頼りがいのある姉でありたい、という願望にしばしば襲われたものであった。それは彼女が幾万の信徒の崇敬を集めるようになった今でも、何も変わらない。それを再確認した火織の胸の中で、小さなしこりが融けさった気がした。インデックスの最大主教就任以来わだかまっていた、彼我の距離感に対する寂しさ、と言い換えてもいい。
「その?」
「その……」
だから火織は、決して急かそうとは思わなかった。ただ、インデックスのなけなしの勇気を促すような、呼び水の役割を果たしてくれる清らかな囁きを振りかけただけだった。待てばいいのだ。親友から追跡者へ、追跡者から同僚へ、歪に箍められた絆は、時間をかけて取り戻すことができた。急ぐことなどなにもない。自分とインデックスには、そしてステイルにも、まだまだ時間は有り余っているのだから。
火織が穏やかな心地で微笑んでいると、大きな瞳を忙しなく左右させていたインデックスが、意を決したように腕を持ち上げた。ある高さまでじりじりと緩やかに上昇していた右腕が、突如として弾かれたように、“ある方向”を向く。
「ぼ、僕がなにか?」
白く細い人差し指が、ふるふると小刻みに震えながら、ステイルに突きつけられていた。
「す、すているは、超参加しなくてよしにつき!」
ピシリ。
大理石の床にヒビでも入ったか、と火織は首を傾げた。床面に視線を落とし、異常の見受けられないことを確認してから戻す。
「あら? す、ステイル?」
視界の先で、炎の魔術師が燃えていた。
否、燃え尽きていた。真っ白に燃え尽きていた。限界だった精神がナニかを振りきってしまったらしい。あまりに見事な劇画調燃え尽きっぷりに、一瞬感嘆の息を吐きたくなってしまった。
「……ステイル? ステイル!? しっかりしてください!! ちょ、息してませんよこの子ぉぉぉぉ!!」
「……ハッ!? わ、私は何を言ってるのよな……かっ、かおり!! かおりの力でかように揺さぶっては!」
ガクガクユサユサ。
ピクピクブクブク。
ヘイヘイステイルくん南無三。
「ああああっ! ステイルが超!ゴ・リ・ン・ジュ・ウ・か・く・て・いになっちゃうんだよ!?」
「ごご、ごめんなさいステイル! とり、とりあ、とりあえず医務室に運ばなくては! ああなんということでしょう、ほんの半年ほど前までインデックスにどんなイヤミをぶつけられても平然としていたステイルが、こんな有様になってしまうなんて……!」
「説明口調で人の黒歴史掘り起こせしとか! 実はかおりって私のこと超嫌ひなのかな!?」
慌ててステイルのバカでかい体躯をお姫様だっこして、火織は執務室の外に転がるように飛び出した。騒ぎを聞きつけたのか、『必要悪の教会』の主要メンバーがあちらこちらの部屋から顔を覗かせる。
「か、かんざ、き……あまり、大げさにす、ウボァ!?」
ドスッ。
「あて身」
「あて身って言いながらあて身した!?」
「せめてもの情けです」
「いやいやいやいや」
見た目華奢な女性に横抱えにされている様を不特定多数に目撃されたと知ってしまったら、最悪ステイルは首を括るおそれがある。男という生き物はプライドだけは無駄に高いのである。大して役にも立てられないくせに。
「ぎゃあぎゃあ喧しいな、何かあったのかしら?」
「ったくうるせー連中ですね、こちとら仕事中ですよ」
「おっ、おしぼり要りますか!?」
「こりゃあ大変なのよな、くくく」
「おーいインデックス、どーかしたのかー?」
「にゃー」
泡を吹いた姿を目の当たりにし本気で心配してくれる人員が数十名中数名。ステイルの日頃の苦衷がこういうところにまざまざと現れているな、と火織はどこか他人事のように思った。いやまあ、間違いなく他人事だけれども。
とにもかくにもすているくんにじゅうよんさいの受難はまだまだまだ終わらない。まる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「そういえば、ステイルの話でよくわからない部分があったのですが」
「なぁに、かおり?」
「いえですね、あなたの口調をしっちゃかめっちゃかにしてくれた表六玉とクワガタについては疑問の余地がないのですが」
(ヒョーロクダマ?)
「レベル5、というのは、その……“彼女”のことではないですよね? 彼女とは一、二度会っただけですが、口調はごく平易であったと記憶していますし」
「…………」
「あなたはいかにして、他の能力者と交流を持つに至ったのですか? その辺りの経緯がよくわからなくて」
(……かおりもステイルも、ホントとうまに似てきたんだよ)
「なにか言いましたか?」
「なんでもなし!」
「はあ……左様ですか」