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No.31477の一覧
[0] とある神父と禁書目録【とある魔術の禁書目録 未来設定】[1](2012/03/11 10:26)
[1] Ch.1 とある神父と英国清教[1](2012/03/11 10:28)
[2] 贖罪者の右腕 Ⅰ[1](2012/03/11 10:28)
[3] 贖罪者の右腕 Ⅱ[1](2012/03/11 10:28)
[4] 神父と聖女と聖人と Ⅰ[1](2012/03/11 10:28)
[5] 神父と聖女と聖人と Ⅱ[1](2012/02/20 22:23)
[6] 神父と聖女と聖人と Ⅲ[1](2012/03/11 10:29)
[7] バッキンガム狂想曲 Ⅰ[1](2012/03/11 10:29)
[8] バッキンガム狂想曲 Ⅱ[1](2012/03/11 10:56)
[9] 刃は懐に仕舞われた Ⅰ[1](2012/03/18 13:37)
[10] 刃は懐に仕舞われた Ⅱ[1](2012/03/31 10:15)
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[31477] 刃は懐に仕舞われた Ⅱ
Name: 1◆9507d07e ID:6af538b7 前を表示する
Date: 2012/03/31 10:15


 結果として、火織が差し出した皿は綺麗に空になった。


「ごちそーさまなのよ」


 人体って不思議。満足げに腹部をさする最大主教サマの姿を胡乱な目で眺めて、ステイルはつくづくそう思った。


「だいたい卵焼きやらはちゃんと作れるのに、どうして横文字が入るとこうなるんだい?」

「こ、これはもはや呪詛型の特殊魔術の介入を疑うべきではないでしょうか! おのれ魔術師ッ!」

「現実逃避はいけねーかも、かおり」

「インデックスまで!?」

「一応断っておくが、君の聖人体質に並大抵の魔術では通用しないよ」

「冷静に残酷な事実を突きつけないでくださいステイルぅぅ!!」


 ステイルは噛み煙草を口に放り込みながら明々後日あたりの方向を眺めた。長年の付き合いとはいえ、そろそろフォローの術も品切れが近い。


「いやいや、私にもプロとして意地があるからなー。このままじゃ終われないんだぞー」


 しかしこの絶望的状況も、プロメイドの視点からすればテコ入れの余地は存分に残されているらしい。仁王立ちした舞夏が、力強く腕を組んでにかりと笑う。途端に火織の表情も、パァッと明るくなった。


「ということは……これからも、御指導いただけるのですか?」

「紅茶の蒸らし時間から自家製ソースの作り方まで大船に乗ったつもりでどん! と任せておけー。ただし覚悟はしておけよ? 私のスパルタ指導を受けた者は紅茶色の涙を流すまで料理漬けの生活を送ることになると、巷でもっぱらの評判だからなー」


 思うに、それはただの病気である。


「必ずや旦那の大好物をマスターさせてやるからなー」

「ああ、ありがとうございます!! ……あ、いやしかし、貴女にも時間の都合というものが」


 火織が申し訳なさげに口ごもった。土御門舞夏は本来、最大主教専属のスーパーメイドである。朝晩は無論、イギリス一の健啖家であるインデックスの食事の用意に余念がないし、公務のため主が聖ジョージにこもっている昼日中とて、決して暇ではないはずだ。公邸の衛生管理は現在、彼女がほぼ一人で担当しているのだから。


「いいんだいいんだ。私これでも結構、昼間は暇してるしなー」

「え。君、一人であの豪邸の管理を請け負ってるはずじゃ」

「メイドさん舐めんなよ」

「……これは、おみそれした」


 苦笑しながら頭を下げた。ステイルが考えているより数段、舞夏は優秀なメイドであったらしい。


「そういうわけだから、火織。お前の都合さえつけば、いつでも私の仕事場に来るといいぞー」

「本当に、ご迷惑ではないでしょうか? たとえ任務に支障なくとも、あなたにだって私生活があるでしょう?」


 なおも火織が食い下がる。受けた恩義には必ず報いようとする彼女らしい気遣いだ、とステイルは思った。隣のインデックスも穏やかな表情でそれを見つめている。
 ただ当の舞夏だけは、無表情で黙りこくって軽く顎を引いた。そして小さく、ささやくような声で、


「いいんだ。馬鹿兄貴がいないと、毎日にハリがないからなー」


 束の間の沈黙。
 ややあって、舞夏がことさら明るい声を上げた。


「よーし、そうと決まれば修行メニューを考えないとなー! 弟子を取るのは久々だ、私も腕がなるぞー!」


 空元気なのは誰の目にも明らかだった。舞夏の夫がロンドンを離れてはや数カ月。その間彼女は、一時も変わらず一人の家で夫の帰りを待ち続けているのである。インデックスが公邸で寝泊まりするよう誘ったことも、一度や二度でない。しかし舞夏は、頑として首を縦に振らなかった。主を立てる仕え人としての矜持か、家門を守る妻としての自負なのかは、ステイルには判断がつかない。


「……そうですね。再三の固辞はかえって失礼にあたります。先生、どうかご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします」

「おーおー、大船に乗ったつもりでいろー」

「がんばっちまってね、かおり! 結局、私でよければいつでも味見するんだよ!」

「インデックス、お前には仕事があるだろー」

「むー」


 女たちの微笑ましくも姦しいやりとりを、ステイルは一歩引いた位置から見守る。外に出て一服でもしようかと、席を立った。


「ん?」

「あれ、電話。誰の?」

「失礼、僕です」


 ベル音が高らかに鳴り響いた。マナーモードにし忘れていたらしい。立ち上がったのを幸いとばかりに女性陣から体を背けて、端末をチェックする。ステイルは携帯電話を常に二つ持ち歩いているが、“こちら”の番号を知る者はごくごく限られていた。
 “お仕事”用の端末の表示は、非通知だった。


「僕だ」


 ステイルは誰何すらしなかった。この端末に、この方法でコンタクトを取ってくる相手はさらに限定される。何ともタイミングのいい話だと思わないでもなかったが、ステイルには相手が誰なのか、声を聞く前からはっきりとわかっていた。


『ポイントB-74。今そこにいる』

「……ああ。すぐに向かう」


 通話は簡潔に、しかし的確に要件の伝達を為して、一瞬で終わった。


「誰からだにゃーん?」


 すかさずインデックスが、後ろから通話の切れた携帯を覗きこんでくる。目ざとい、とステイルは小さく舌を打った。
 組織のトップが組織のすべてを把握している必要などないのである。それが、組織の暗部に関わる案件となればなおさらだ。


「なに、大したことではありません。少し中座いたしますゆえ、最大主教はここでお待ちを」

「むー。連れてかないと私も超長電話してやるのよな」


 ステイルは一度だけ、インデックスと目を合わせた。普段はあまりこうして目線を交わしたりはしない。互いの顔を見ながら喋ることには慣れていなかった。
 おどけたような口調と裏腹に、聖女の目はまったく笑っていなかった。


「我儘言わないでください。おい、神裂。後は頼むぞ」

「あ、はい。任せておいてください」


 ステイルが側にいないとき、最大主教の身辺警護はこの聖人に引き継がれる。それが現在の「必要悪の教会」における暗黙の了解だった。ステイルはいそいそと外套を羽織り、舞夏に軽く会釈をして、部屋を辞そうとする。


「ステイルはいっつも、大事なことは言葉にしてくれないよね」


 暗い声だった。返事どころか、反応すら返さずに食堂を後にする。
 “気が付かなかったふり”が板についてきたな、とステイルは自嘲気味に口許を歪めた。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ポイントB-74とはランベス区からそう遠くない、閑静な住宅街の隅を指す。人気はない。ないというより、煽動や心理操作に類する魔術の初歩概念を応用して「失くしている」、というのが正しかった。
 「必要悪の教会」はこのようなポイントを無数に国内に確保している。今回のように、人目を憚る報告や会合を持つために使用されることもある。しかし大半のケースにおいては――――魔術師の「仕事場」として有効利用されているのだった。


「ようよう、面と向かっては久しぶりぜよステイルくーん」


 だから、なのだろうか。暗がりから這い出るように姿を見せた男の、濃すぎるほどの死臭が気にならないのは。
 そこかしこから血の臭いが漂っている。死者の断末魔が聞こえるようだ。断罪を謳う教会の狗に、そうとは知らず人気のない路地裏に追い込まれ、思うさま大地に血を吸わせた、異端者たちの断末魔が。


「やあやあ、よく帰ったね」


 ステイルは男の掌を隠れ見た。大量の血で穢れた、薄汚い手のひら。自分のものと大差ない、とステイルは思った。


「土御門元春」


 もったいつけたように男の名を呼んでから、しばらくステイルは言葉を発しなかった。かわりに、その一挙手一投足に神経を尖らせる。行動のすべてに意味がある男。「なにもしない」にすら隠された意図の存在を疑わねばならない相手。土御門元春とは、ステイルがそうまでして警戒心を払うに値すると認めている、数少ない人間のうちの一人だった。
 土御門は日陰に陣取って、サングラスの奥の眼差しをステイルに窺わせようとはしなかった。ただ、唇の端がうっすらと持ち上がっている。
 一秒。
 五秒。
 十秒。
 一分は経っただろうか、とステイルは手の内に納めておいた懐中時計にちらと目をやる。三十秒と経過していなかった。


「ぷっ。相変わらず、眉間にヒビ入ったような真面目くさった面してやがるな」

「……せめて、シワ、と言ってもらえるとありがたいが」
 

 張り詰めていた緊迫感が、穴の空いた風船のように急速に萎んだ。と同時に交わる視線が、別の意味で緊張を孕んだものに変化する。


「いやーそれにしてもステイルくん、メヒコの別荘では素晴らしいプレゼントをありがとうにゃー」

「なに、君の置土産に較べればなんてことのない代物さ」


 ちくちくと互いに嫌味を投げ合う、他愛のない、お遊びのような緊張感。ナイフを突きつけ合ったかのような、先程までの対峙と較べれば何ほどのこともなかった。


「おかげで舞夏の元に戻ってくるのが一月ばかり伸びちまったぜい」

「……御夫人には申し訳なかったがね、あれは自業自得と言うんだ」


 一ヶ月ほど前、ステイルが土御門の潜伏先に送り付けてやったブラックジョークを指して、土御門は珍しくこめかみをひくつかせているのであった。
 飄々とした態度を一年三六五日崩そうとしないこの稀代のウソツキが感情的になるのは、かつての義妹にして現在の妻に関わる事柄をおいて他にない。そこを突かれると痛いものがある。寮の食堂で舞夏の空元気を目の当たりにしているだけになおさら心が痛んだ。しかしステイルにも、一応の言い分というものはあるのだ。


「なんのことかにゃー。そうそう、こないだフィアンマちゃんから新店舗の特別招待券が届いたんだぜい」

「それのことだそれのっ! くそっ、ただでさえ問題は山積みだっていうのに!」

「あ、お前の分も同封されてたぜい。今度一緒に中国の四川省の方に行かなっ、アチョーーーーーッ!!」

「あの野郎ッッ……! なにを全世界展開なんてしてるんだ!」


 ボウッ、とステイルのやりきれない怒りがアロハシャツに引火した。危うく消し炭になる寸前で鎮火に成功したグラサン野郎は、つるをクイと押し上げてニヒルに笑う。


「そう言ってやるな。これが今奴の目に映ってる世界の在りようなんだ。戦争なんぞ起こされるより遥かにマシだろう」

「君が掛けさせた色眼鏡に映ってる世界だろうがッ!! どんだけピンク色のレンズなんだ!!」

「いやぁ相変わらずよくキレるツッコミで安心させられるぜい。ロンドンに帰ってきた、って気分になるにゃー」

「ああ確かによくキレてるよ僕は!!」


 なにやら無性に悲しくなってきて、ステイルは思いきり吐き捨てた。本当に、イギリス清教にはこんなヤツばっかりなのである。加えて王室もアレ、引退したご隠居もアレ、ローマ正教も公式の使者からしてアレである。アレアレ尽くしで至れり尽くせり。まったく嬉しくない魔術サイドオールスターキャスト。そのオールスターからボケの嵐を日課のように浴びせられているステイル=マグヌスにじゅうよんさいなのであった。
 乱暴に懐をまさぐって、煙草とライターを取り出す。最近お気に入りの銘柄は『ラッキーストライク』だった。……別に、煙草の銘柄でくらいアンラッキーなファクターから離れていたいとか、そういう寂しいゲンかつぎではない。ないったらない。


「おっ、俺にも火ィくれよ」

「お好きにどうぞ」


 ライターを投げて寄こすと、手近な人家の、レンガ造りの壁に寄りかかる。一メートルほど空けて土御門も並んだ。ロンドンの秋空に二条の白煙がたなびく。白昼ながら人気の失せた街並みはどこかちぐはぐで、不気味ですらあった。魔術師の棲む世界とは、得てしてそういうものではあるが。


「新最大主教様の治世が始まって一ヶ月、ってとこか。滑り出しは上々みたいだな」


 咥え煙草が半分ほどに減ったところで、土御門が切り出した。


「前任者が典型的独裁者であったことを考慮に入れれば、ね」


 呼気と煙を大げさに吐いて、ステイルはこの一月を振り返る。
 権力移譲に伴う宗派内構造の劇的な変化は、ステイルにとってもっとも恐れる事態であった。ローラ=スチュアートが一種のカリスマ的権力者であったことは認めるが、独裁者の治世とは得てして長続きしないものである。社会的な混乱の中で破滅的に崩壊していった帝国など、歴史書を紐解けばいくらでも見つかる。
 イギリス清教にしても、第零聖堂区に強権が集中していたことで、他の聖堂区は長年相当な抑圧を強いられてきたはずである。そうした不満分子が絶対的独裁者の退位を契機に蠢動を始めたとしても、何ら不思議はなかった。
 そこでインデックスが選んだのは、対話路線だった。各区責任者のである大主教たちの機先を制して、こちらから出向いては、粘り強く自らの考えを訴え続けた。
 「必要悪の教会」の面々にも彼らなりの事情があること。さりとて現状を良しともせず、中央に集められていた権限は少しずつ聖堂区に移管させるべきだと考えていること。血を見る争いにだけは、発展させたくないこと。
 この一ヶ月というもの、インデックスはイギリス各地を回ってそんなことばかりしていた。聖人や王族やメイドとのティータイムなど、目の回るような多忙さの中でほんのひととき転がり込んできた、束の間の休息にすぎない。だがその甲斐あってか、ここまでは順風満帆だった。新体制の下で清教派がまとまる日も遠くはない、とステイルはある程度の見通しを立てている。


「ま、そのへんはお前が上手くやったんだろ」

「まさか。僕には政治的嗅覚などないよ。彼女の人柄あってのことだ」

「高徳のみで治まるほど世の中が簡単なものなら、ゴルゴダの磔刑などお呼びじゃないな」

「それでも十字教徒か、君は」


 しかし、土御門の言うことももっともだった。インデックスは味方を作ることに関しては天才だ。彼女の笑顔は見るものを惹きつける、どんな宝石でも再現できない無二の輝きがある。
 だがそれだけですべての教区を籠絡できるほど甘いものだとは、ステイルも思ってはいない。


「だとすれば、大衆政治の浸透に感謝すべきかもしれないね。彼女は一般信徒の受けがいいから、他の大主教たちもそのあたりを無視できなかったんじゃないのかな」

「……本気で言ってるんだとしたら驚きだな。お前がこの十年というもの、誰の下に付き従っていたのか。当の本人が一番自覚してないってことになる」


 ステイルが誰の下にいたのか。誰のおかげで、この地位にいるのか。


「真のローラ=スチュアートの後継者はインデックスじゃない。お前だ、ステイル=マグヌス。イギリス清教全体が、お前をそういう目で見ている。忌々しい独裁者の面影への憎悪と、畏怖の入り混じった目でな」


 煙草を、噛むようにして味わう。表情の動きはそれだけに留めた。暗黙のうちになされた質問に答えを返してやる気が、ステイルにはなかった。その間にも土御門は語り続ける。語り騙るのはこの男の十八番だ。


「そして、だからこそインデックスは上手くやっていけてる。お前がインデックスの意向を最大限に尊重することは、清教派の誰もが知っているからな」


 かくして恐怖の的であった独裁政治を、穏健な対話主義者が抑え込む、という構図が出来あがる。


「完璧とまでは言わんが、良く出来た青写真だ。誰が作ったんだろうなぁ、これ」

「僕に言えるのは」


 遮るように言葉を発した。否、実際に土御門の発言を遮った。“誰”の設計図に従った結果として、この理想的な現状が成立しているのか。ステイルは、わかっていながら認めたくなかった。


「彼女に、権謀術数など似合わない。それだけだ」

「そして、代わりにお前が手を汚すわけか。まあ時の為政者たちを顧みれば、珍しい話じゃあないがな」


 けらけら、と土御門は呵々大笑した。ステイルは無言でちびた煙草を虚空に放り投げる。燃えさしは地面にたどり着く前に、滓も残さず焔に消えた。それを眺めながら、隣にいる男のことを考え始める。
 土御門元春。日本出身の陰陽師。いかなる事情があったかは知らないが、幼い身空で単身イギリス清教に身を投じ、そこからまた学園都市に派遣された多重スパイ。敵に回したことは、幸いにして一度もない。しかし、味方だと思ったことも一度もなかった。信用はしても、信頼を置いていい相手ではない。土御門元春がこの世で裏切らないのは、ただ一つの存在だけであるからだ。
 恐ろしい男だ、と思ったことは一度や二度ではない。土御門は「譲れないもの」のためになら何だってする。無論ステイルとて、インデックスを守るためならどんな卑怯な真似でもするつもりだ。ただ、この男を見ているとそれが揺らぐ。「何でも」のレベルが違うのである。どんな拷問吏や暗殺者でも思い付くまい、という目を覆うような汚い策謀に、土御門は平気で手を染める。人間という種の闇を煮詰めた肥溜を、覗き見ているようでさえあった。


「こちらからも一つ、聞いていいかな」


 二本目の煙草を、シガレットケースから抜きながら問いかける。


「お好きにどうぞ? 聞くのはお前の自由。答えるのは――――俺の自由だ」


 歯を見せて土御門は笑った。嫌な奴だ。何度もそう思った。それでいて、ステイルは本当に土御門を嫌いではないのだった。幾百の死を見送ってきたであろう無慈悲な面を下げたまま、決して陰性のものではない笑みを浮かべられる。そういうところに、土御門元春という男の魅力があるのかもしれなかった。


「それにしても、今日は結構悠長に過ごしてるにゃーステイルくん。護衛のお仕事をほっぽりだしたまんまでいいのか?」

「僕だってたまには、彼女の側を離れてのんびりしたい」

「贅沢な悩みだな」

「自覚はあるよ」


 本当に贅沢な愚痴だった。十年前、いや五年前ならば、考えられないことだったはずだ。
 自分のような人間がこうして、おめおめとインデックスの隣でふんぞり返っているなどとは。


「本当は二十四時間、愛しの愛しの最大主教ちゃんの側にいたいくせにー」

「……そんなことは、ない」

「ウソツキ野郎が」

「ウソツキは君だろう……じゃなくてだな」

「ああ、聞きたい事があったんだっけな。ほれほれ、何でも聞いてみ? 友だちのつくり方か、それとも女の落と」

「君はなぜ、イギリス清教を選んだんだ」


 立て板をものともせぬ、清水のように流れていたおどけた文句。


「どうして、日本に留まらなかった? あの国は君の生まれ故郷だ。学園都市には友人だって多いはず。何より」


 それが、ぴたりと止まった。


「――――アイツがいる。君とアイツは、親友なんだろう?」


 “アイツ”の名を口にしてしまうことを、なんとなくステイルは躊躇った。




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