※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください 魔法の森には魔法使いが住みやすい環境である。それは事実であり、実際、霧雨魔理沙とアリス・マーガトロイドはこの森の中に居を構えている。 そんな森の中を歩くのはよろず屋メンツの一人、神楽とそのペットである白い巨大犬、定春であった。 永遠亭の仕事があったのが先日。その仕事をこなし、さすがに休暇をとらにゃあ労働基準法に訴えられるとか何とかで今日は休日と相成った。 実際、そんなことをせずとも仕事が舞い込むこと自体がそう多くないというのに、こんな休暇などあまり無意味ではなかろうか? と、思いもした。 しかし、銀時が本格的にサボりたいだけと悟ると、みな結局何も言わずに休日を受け入れたのである。 そんなわけで、神楽は定春をつれて、幻想郷を渡り歩いてみることに決めたのがつい先ほど。 迷いの竹林にだけは足を踏み入れないようにという銀時の言葉を一応守りつつ、適当に歩を進めて魔法の森にたどり着き、興味本位で探索を開始したのが一時間前。 だがしかし、彼女は知らなかったのだ。ここ魔法の森も、迷いの竹林と同様に迷いやすい場所であるということを。 「定春~、帰り道どこかわかるアルか?」 案の定、彼女はこの森で迷っていた。だが、その声に危機感は感じられず、むしろ適当な感じすらするのである。 定春は彼女の言葉に応えるように、匂いをかいでいるようだが、生憎イマイチ芳しくないらしい。 そんな二人の様子を眺める三つの影がある。 「あっはっはっは、見てよアレ!! おっかしぃ~!!」 「ちょっと、サニー大声出さないでよ。いくら私の能力で音を消してるからって」 「でも、本当に間抜けな人間よね。この森に堂々と入ってくるなんて」 三種三様の言葉。大笑いする仲間をジト眼で睨む少女、そんな二人にはかまわず目の前の神楽と定春の様子に小ばかにしたような言葉をつむぐもう一人の黒髪の少女。 そんな三人の背中には、皆さまざまな薄い羽が生えていた。 サニーミルク、ルナチャイルド、スターサファイア。この魔法の森で森に入ったものを迷わせて悪戯をする妖精である。 「いいじゃん、ルナの能力は信用してるんだしさ。どうせならもうちょっと驚かせてやろうよ」 クックッと笑いを噛み締めながら赤い服を着た妖精、サニーは言葉をつむぐ。 そんな彼女の様子をむっとした様子で睨みつけているのが、ルナと呼ばれた白い服を着た妖精だった。 「ちょっと、危ないわよ。何をするつもりなの?」 「近づいていって後ろから脅かすの。私の能力なら絶対にばれないって」 ルナの言葉に、サニーの案の定といった返答が帰ってきて、思わず深いため息をついてしまう。 確かに、サニーの持つ光を屈折させる程度の能力を使えば姿を隠すことも容易だが、そういったことをやってうまく驚かせたことが今まであっただろうか? 残念ながら、ルナの思いつく限りではほとんど無い。まぁ、驚かそうとする相手が悪いといってしまえばそれだけなのだが。 何しろ、この魔法の森に訪れるものたちといったら、博麗霊夢だとか魂魄妖夢だとか十六夜咲夜だとか。 とにもかくにも、常識的に考えて戦ったらまずい分類の相手しか来ないのである。 そういう意味で言えば、今までろくに悪戯できなかったサニーがこの少女を驚かそうというのもわからなくも無い。 だが、ルナはなんというかいやな予感しかしないでいたのだ。 「いいじゃない。行かせてあげれば」 そんなルナの様子に見飽きたのか、横から声を出したのは黒髪の青い服を着たこの場にいる最後の妖精、スターサファイアだった。 そんなスターの言葉に反論しようとしたものの、肝心のサニーがかの少女に向かって飛行していってしまったのである。 しょうがなく、消音の能力で彼女から発する音を全部消して事の成り行きを見守る。 少し飛行してから地面に着地し、一歩、また一歩、サニーが件の少女の背後に接近して。 音を消しているのに抜き足差し足という間抜けな光景ではあったが、まぁその辺りをこの妖精たちには疑問に思わない。 そして今まさに、木の後ろから用心深く接近したサニーが、少女を驚かそうとした瞬間――― 「私の後ろに立つんじゃねぇコンチクショーーーーーーー!!!!」 少女……、神楽の振り向きざまに放った蹴りが、ものの見事にサニーの頭スレスレを通過した。 「ひっ!?」 思わず硬直し、そんな情けない悲鳴を上げてしまうが、ルナが音を消してくれたおかげでそれが神楽に聞こえることは無かった。 彼女の身長が、人間の10歳そこらの子供程度の身長しかないのが幸いしたのだろう。 もし、これで彼女達が神楽ぐらいの身長であったならば間違いなくその蹴りが直撃していたはずである。 グキャリと、蹴りが命中した大木はあっさりとへし折れ、ぐるんぐるんと回転しながら宙を舞った。 当事者のサニーはもちろん、その光景を見ていたルナとスターでさえ、「はい?」と思わず声を漏らしていた。 何しろ、その大木ときたら大人4人が手を繋いで輪を作ったほどの太さがある。 そんな大木が、あろうことかあの少女の蹴りによって、衝撃のあまりにへし折れたどころか、ぐるんぐるんと宙高く空を舞っているのである。 ただの人間の子供だと思っていた彼女達は、その光景に愕然とするしかない。 だがしかし、神楽はただの人間などではなく、夜兎族と呼ばれる戦闘民族の天人(あまんと)。 その実力は一人で一個大隊だとか一個師団に匹敵するとか何とか。 そんな彼女の放った蹴りが、当然ながら尋常じゃない破壊力を秘めている。 やがてズズーンと響く重低音。その場にぺたッとへたり込んでしまったサニーは、このとき致命的な間違いをやらかしてしまっていたのである。 本当なら、この場からすぐに逃げ去るべきだった。なりふりかまわず、それこそ弾かれたように逃げていれば、こうなることは無かったはずなのである。 ひょいっと持ち上げられる体。後ろ襟を何かにつかまれたようで、後ろを振り返れば、そこにはあの巨大な犬、定春。 「どうしたアルか、定春。……? そこに何かいるアルか?」 神楽の疑問に、吠えることなくうなずくことで定春は答える。途端、サニーの顔から血の気がサぁーッと引いた。 何しろ、目の前の少女はあろうことか定春の首元……要するに、今は能力で見えなくなっているサニーがいる場所を蹴る気満々である。 ヒュッヒュッと風を切る音が少し離れたここにまで聞こえてくる。 ヤバイ。何がやばいって色々やば過ぎる。あんな蹴りを食らったらひとたまりも無いことぐらいすぐにわかる。 かといって、逃げようにもこの犬が襟をくわえて離してはくれない。 今まさに、神楽のメガトンキックが放たれようとした刹那――― 「うわぁぁぁ!! ちょっと!! 待って待って、蹴らないでぇぇぇ!!!!」 能力をといたサニーの姿が、神楽の眼に映ったのはその時だった。 ■東方よろず屋■ ■第九話「太陽と月と星に吼えてもただ虚しいだけである」■ 「ふーん、お前達この森に住んでるアルか?」 少し開けた森の広場、そこで神楽は目の前で律儀に正座している三人の妖精に視線を向けていた。 サニー、ルナ、スターの三人に一瞥をくれて、神楽は興味なさそうに三人を視界に納めている。 話を聞いたところ、この森で神楽が迷った原因は彼女達の仕業であることがわかりはしたが、神楽は別にとがめるわけでもなく、ただふ~んと頷くだけ。 「まぁ、いいアルヨ。あとで道案内してくれれば何も言わないアル。え~っと」 難しい顔をして黙り込む。一体何を考えているのかと疑問に思ったが、どうやら視線はサニーに向けられているらしい。 うっと呻くサニーをよそに、神楽はやがてようやく思い出したといわんばかりにポンッと手を叩いた。 「ビッチ」 「ビッチ!? 何それっ!!?」 「何ってお前の名前アル」 「違うわよ!! ていうか一文字も掠ってないし!!?」 大いに怒鳴り返すサニー。その様子を嗜めようとするルナだったが、「面白そうだからもうちょっと見てましょう」というスターに止められる。 そんな心配そうなルナと、いかにも楽しんでいる風のスターをよそに、神楽とサニーの言い争いは続いていた。 「サニーミルクよ、サニーミルク!! 変な名前付けないでよ!!」 「うるさいアル。お前の名前が無駄に卑猥からそんな突拍子も無い名前がつい浮かぶんだろうがクソが」 「卑猥って何よ!!? ていうか言葉使い悪いしっ!!?」 一旦始まってしまえば収まらない口げんか。それはどんどんヒートアップしていき、サニーのほうはともかく、まぁ神楽の口から放送禁止用語が出るわ出るわ。 その辺の言葉の意味を、この妖精三人が知らなかったのは幸いといえばそうなのかもしれない。 まぁ、その三人のうちの二人は、神楽とサニーの口げんかにいい加減飽きたのか定春とじゃれ付き始めていたりするが。 「じゃあ、私がビッチならあの二人はどうなるって言うのよ!?」 ズビシッと、定春とじゃれ付いていた2人に指をさすサニー。 ルナはともかく、スターは「こっちに話し振るなよ」と言いたげな目を向けていたが、その視線にサニーが気付く様子は無い。 そんなサニーの言葉に、神楽は少し考え込んで――― 「ドリルと田中」 「ど、ドリ……」 「た、たな……」 神楽から飛び出した言葉に、思わず絶句する2人。ちなみに、ドリルがルナ。田中がスターである。 「な、なんでよ!! なんで二人だけ微妙に名前が掠ってるのよ!!?」 そして恐ろしくピントのずれたところで怒るサニーを尻目に、ガクッと落ち込んでいるルナとスター。 サニーにいわれてその事実に気がついたのか、神楽はしばらくして「あ、本当アル」なんて呟いていた。 恐ろしい混沌空間。ここにはなまじツッコミがいないだけによりカオスな空間が広まりつつあった。 Come on!! 新八!! 頼むからこいつ等を何とかしてくれ!! 「よし、わかったわ!! そんなにいうんなら勝負よ勝負!!」 完全に頭に血が上っているのか、そんなことをのたまうサニーにぎょっとするルナとスター。 さっきの光景を忘れたというのか、もう狂気の沙汰にしか思えない。 案の定、ルナとスターは慌てて彼女に駆け寄って「なに考えてるのよ!?」だの、「無茶よ!?」だの言い争っている。 そんな光景を視界に入れて、神楽はニヤリと笑って見せた。 「わかったアル。勝負の方法は?」 掛かった!! ニヤリと、サニーが今度は表情をゆがめた。 彼女達にいわれるまでもなく、今回はちゃんと頭を使ったのである。 何も勝負とは殴り合いだとか弾幕勝負だけじゃない。自分達にもっとも有利な勝負があるじゃないか。 堂々と神楽を見据える。その表情には歓喜と余裕が見て取れる。そんな不適な表情を浮かべたまま――― 「かくれんぼよ!!」 そんな、しょうもない勝負を提案したのであった。 サニーの提案した勝負はこれ以上にないくらいしょうもないものだったが、彼女達の能力を考えればそれはこれ以上にないくらい有利なものだった。 勝負の詳しい内容を説明すれば、刻限は空が夕暮れになるまで。範囲はこの広場を中心にした半径500mの森の中。 鬼は神楽。隠れるのはサニー、ルナ、スターの三人。 単純に考えて、この勝負は神楽が圧倒的に不利だ。何しろ、妖精たちの能力はそれぞれこのかくれんぼに適しているといえる。 サニーの能力は光を屈折させる程度の能力。これで三人の姿を消してしまえばそれだけで見つけにくい。 ルナの能力は音を消す程度の能力。サニーの能力で姿が消え、これで音を消されてはわずかな気配すらもわからなくなる。 そしてスターの能力は、動くものの気配を探る程度の能力。簡単に言えばレーダー能力だ。 そこで、神楽には定春を使うことが許され、サニーたちは固まって行動しないというハンデが与えられた。 使う能力も、自分達のものだけを頼るというもの。それに承諾した神楽は、今まさに、100まで数え終わるところだった。 「99~、100~」 木から顔を離し、辺りを見回すが案の定彼女達の姿は見えない。 もとより、受けた勝負に負ける気などない。神楽はニヤリと口元を歪めて、定春の背中に乗った。 「いくアルよ、定春。一人残らず見つけ出すネ!!」 「ワンッ♪」 神楽の言葉に応えるように、定春は一声吠えると匂いを頼りに進みだす。 当面の目標は、一番厄介な能力を持つスター。何しろ、コチラの居場所を感じ取られてはすぐに場所を移されて、最悪見つけられないだろう。 サニーの能力には匂いという弱点があるし、ルナの能力はこの三人の中で比較的見つけやすい。 それでも、見つけ出すことが難しいことには変わりないが、だからこそ面白い。 神楽はもともと負けず嫌いな性分だ。はなッから、負ける気なんてさらさらない。それがどんな勝負であったとしてもだ。 こうして、4人と1匹のかくれんぼは始まりを告げたのであった。 「なんでこんなことになるのかしらねぇ」 そう小さな声でぼやいたが、返ってくる言葉はどこにもない。 スターは草むらの中に身を潜めながら、辺りの気配を注意深く伺っていた。 彼女の能力の利点は、顔を出さずとも動いたものの気配を感じ取れるということだろう。 これなら、たいした危険を冒さずに相手の位置を確認できる。 「みんなばらばらに隠れたわね。サニーもルナも、すぐに見つからなきゃいいけど」 そう呟きながら、小さくため息をつくスターであったが、生憎、彼女は最後まで逃げ切る自信があった。 彼女の能力は確かに、かなり優秀であり、こと逃げるとか隠れるといったことに特化してるといえる。 それが、この妖精の自信の根本。事実、彼女の【目】にはコチラに移動してくる気配が見えている。 すぐさま、距離があるうちに移動を開始する。このままいけば、一直線にスターに向かってくる。 なら、そうならないように移動して、大きく距離をとることが大切なのだ。 その道理にしたがって、スターは動いていた。しかし、誤算があるとすれば、その気配は間違いなくコチラを追ってきているという事実だった。 「まずは、私ってわけね」 苦虫を噛み潰した表情をしながら、スターは呟く。 いい判断だと思う反面、絶対につかまってやるものかという意識も芽生えてくる。 彼女は良くも悪くも、あの3人の中で一番冷静だ。敵の思考を読み取った彼女は、熱くなることもなく状況を冷静に判断した。 一定の距離を保ちながら、移動を続けるスター。だからこそか、その異常に気がつくのにさほど時間はかからなかった。 「……なんで、一気に距離を詰めないのかしら?」 おそらく、敵は匂いで追っているのだろう。そうであったなら、コチラに徐々に迫ってくるのはわかる。 だが、コチラの動きにあわせたように、一定の距離を保ちながら移動してくるのは一体どういうことだろうか? そうして、行き着いた一つの可能性。その事実にはっとした瞬間、スターはその気配が完全に立ち止まったことを確認した。 そして――― 「見つけたアル」 ―――その声を、はるか頭上で聞いてしまった。 見上げれば、そこには高い木に登って眼下を見下ろす神楽の姿。 そう、彼女は誘い出されたのだ。この場所に。 彼女の能力は確かに優秀だ。その能力を考えれば、探し出すことはかなり難しい。 なら、おびき寄せればいい。彼女の能力は、【動いていないもの】を映し出すことは出来ないのだから。 迂闊だったといえばそうだろう。もう少し注意深く考えていたなら、彼女は少なくとも見つからなかったのだから。 「……まいったわ」 両手を挙げて降参のポーズ。ルールはルールだ。見つかったものは仕方がない。 そんな彼女の姿を視界に納め、神楽は楽しそうに笑って見せた。 「まずは一人」 木から飛び降りて、綺麗に着地する。あんまりにも綺麗に着地する神楽を見て驚いた表情を浮かべるスターだったが、神楽はそれに気付かなかった。 定春が走ってくるのを視界に納めて、自身の前で止まった定春の頭を遠慮なく撫でてやる。 「よくやったアルヨ定春。この調子で他の二人もあっという間ネ」 そんなお気楽な1人と1匹を見て、そんなにうまくいくものかと嘆息する。 まぁ、そんなスターの様子に気付いている風にも見えないの二人を見据えながら、スターは他の二人の場所を探ってみる。 よせばいいのにまぁ……、あの2人はじっとしておくという言葉を知らないのだろうか? デタラメに動き回る二人の気配に、「あぁ……」と深いため息をついて頭を押さえた。 いけない。、このままじゃ本当にコイツに全員捕まってしまうんじゃなかろうか? という、一抹の不安を覚えながら。 ちなみに、結局スターの予想通り、ルナはともかく、姿を隠せるサニーまでもがあっさり見つかることとなった。 え? 内容? 正直かなり盛り上がらないんで内容は省く。 「あーあ、結局逃げ切られたアル」 「ふんっ! あったりまえじゃない!!」 魔法の森の入り口。そこに神楽と定春、そして妖精三人はお互いに口を交わしていた。 アレから何度もかくれんぼは行われ、最初の全員ばらばらで逃げていたときは神楽の勝利。 そして、今度は三人そろってのかくれんぼが執り行われ、今度ばかりはさすがに神楽と定春には分が悪かった。 結果、三人は見事に逃げ切り、サニーたちの勝利という子達に納まったのである。 結果的に一勝一敗の痛みわけだが、4人と1匹はそんなことはどうでもよさそうにくすくすと笑っていた。 時刻はすっかり夕方。人里に帰り着くのは夜ぐらいになるだろう。 銀時や新八は自分の心配をしているのだろうか? そう思って、新八はともかく銀時が自分の心配をするようには思えなくてくすくすと笑った。 「それじゃ、道案内ありがとうアル。今日は楽しかったアルヨ。今度うちに来るといいネ。なんでも引き受けるヨ」 そういいながら、彼女は定春の背中に乗って帰っていく。 そんな神楽の背中を見送りながら、3人はくすくすと笑ってしまう。 「ん~、今日は散々だったね」 「まったくよ。サニー、だから止めとけばよかったのに」 「でも、楽しかったわね」 サニーの呟きに、ルナが苦笑しながら答え、スターが言葉をつむぐ。 そんな彼女の言葉に、あぁ違いない。と、3人で苦笑して、誰ともなしに満足そうな表情を浮かべていた。 こんなに充実した一日はいつ以来だろうか? 自分達以外のものと遊んだのは初めてだし、オマケにそいつは妖怪並みの身体能力を持ってると来た。 それでも、あの1人と1匹と遊んでいる間は、本当に楽しかった。 視線の先に、もう神楽の背中は見えない。もう少しで夜のほとぼりが落ちて、世界を闇に染め上げるのだろう。 彼女達は、そろい合わせたように家路に着いた。 今度うちに来るといい。そんな、神楽の言葉を脳裏に反芻しながら。 丁度昼間、稗田阿求はお隣さんに差し入れのお米を持ちながらその玄関前に立っていた。 ここの住人は一癖も二癖も強く、ともすれば濃いメンツという表現がぴったりな連中で、阿求にもなんと表現していいのか想像が付かない。 まぁ、ものすごく貧乏というかなんというか、こうやって差し入れしておかないとマジで飢え死にしてそうなので、お隣さんとしてはそれだけは勘弁してほしい。 「よし」 小さく息をついて、一つ強く意識を持つ。 何しろ、この先には人間+妖怪+天人というとんでもカオスワールドが広がっているのである。 そんな場所に、今度は何が起こってもいいように覚悟を決め、そして玄関を開ける。 ガラガラと引き戸が開き、阿求が遠慮なくお隣さん……よろず屋の坂田銀時宅に足を踏み入れたのだった。 「銀さん。差し入れのお米―――」 持ってきましたよー、なんてつむごうとした口が凍りつく。 覚悟はしていた。覚悟していたはずだった。だっていうのに――― 「えぇっと、サニーミルクっつったっけ? ……なんつーか、アレだな。名前の響きがエ……」 ミヅッ!! 「銀さん。こんな見た目小さい子を前にしてその先の発言はどうかと思いますよ?」 「銀さんもお前のその要石の顔面殴打はどうかと思うんですけどもー。こんな見た目小さい子の前で流血沙汰はまずいと思うんですよー銀さん」 「……何、私の名前そんなに変?」 銀時と天子のやり取りに、自分の名前のことにショックを受けているサニー。 「はい、ルナちゃん。コーヒー」 「あ、ありがとう新八」 そんな三人のやり取りを無視してコーヒーを楽しむ新八とルナ。 「へぇ、あの子苦いものが好きだなんて妖精の割には変わってるのね」 「そうアルか? ドリルは妖精の中でも変わってるアルか? 田中」 「田中じゃないってば。スターサファイアだって。んー、確かにルナは他の妖精と変わってるけど」 そんな二人のやり取りを見て、何気ない会話を交わす幽香、神楽、そしてスターの三人。 ……えぇっと、何? この状況? そんな思考が堂々巡りして思考がフリーズしかかっている彼女を見つけたのは、偶然玄関に視線を向けた天子だった。 「あら、阿求じゃない。どうしたのよ?」 「いえ、天人さま。これ……どういうことですか?」 阿求の視線の先には、未だによろず屋メンツと楽しそうに談笑する三人の妖精たち。 それで納得がいったのだろう。「なるほどねぇ」なんて苦笑してから、天子は神楽を視界に納めて言葉を紡ぎだす。 「神楽のお友達だってさ」 「と、友達? 妖精と?」 まぁ、半ば呆然とした阿求の発言ももっともなのかもしれない。 妖精とは人間よりも弱い。それはこの幻想郷における確たる事実である。 まぁ、それでも多少なりの危険はともなうし、めったに危険なことにはならないが、だからといって妖精を友達と表現する者はおそらく居るまい。 いや、以前からわかっていたつもりだった。 つもりだったのだが、天人の次は妖怪、妖怪の次は妖精とか……どんだけ見境がないのか、ここのメンツは。 阿求は目の前のカオスワールドを視界に納め、深くため息をついた。 まぁ何よりも確かになった事実といえば、お隣さんが今まで異常にやかましくなったという事実だろう。 「おーい、新八!! お前も思うよな!? サニーミルクってなんか響きがアレじゃね!?」 「うるせぇんだよこのマダオがぁっ!! その話を僕に振るなボケェェエエエエエエっ!!!」 ……いや、以前からやかましかったか。 ■あとがき■ ども、みなさんこんにちわ。白々燈です。 今回は神楽をメインにすえた話しにしてみました。 色々疲れを残したままの執筆になりましたが、いかがでしょう。 今回は、サニー、ルナ、スターの三人に登場していただきました。 今まで神楽がかなりかげ薄かったので、これで少しは濃くなればなぁなどと思いつつ。 反面、もうちょっとかくれんぼの描写増やしたかったですが、すんません、色々限界でした。もっと精進したいです^^; それでは、今回はこの辺で。 次からは恒例のキャラ紹介に行きます。 ■銀魂キャラクター紹介■ 【神楽(かぐら)】 ・見た目は人間だが、常に傘を持ち、日光の光が当たらないようにしている。 これは彼女が日光に弱いためで、肌もかなり白い。 実は天人(あまんと)で他の星の住人、戦闘民族【夜兎】の一人。 その強さは本物で、岩を一撃で砕いたり、怪我をしてもほぼ一日で完治したりとおおよそ人間の身体能力を凌駕している。 性格は結構腹黒く、見た目の可愛さに反して破天荒でかなり辛辣。酢昆布が大好物。 【定春(さだはる)】 人を乗せて走れるほどの巨大な犬。万事屋の前に捨てられていたところ神楽に拾われ、万事屋で飼われるようになった。 その正体は大地の流れ龍脈が噴出する場所「龍穴」を守護する「狛神(いぬがみ)」だが、一緒に暮らしていた双子の巫女姉妹、阿音・百音に経済的な理由により捨てられた。 彼女らからは「神子(かみこ)」と呼ばれている。 苺と牛乳を飲ませると巨大化して顔がごつくなって大暴れするため要注意。 ■東方キャラクター紹介■ 【稗田阿求(ひえだのあきゅう)】 ・種族 人間 ・能力 「一度見た物を忘れない程度の能力」 ・九代目阿礼乙女で稗田家の現当主。九代目だから名前は「阿求」らしい。 百数十年に一度の転生を繰り返しながら幻想郷縁起を書いている。 一代一代は短命で30歳ほどしか生きられないが、総括的に見ればとんでもなく長生きしている。 主に妖精に対する黒すぎる感情が見え隠れする。なんかいやなことでもあったのか? パチュリー、慧音、永琳に並ぶ知識人。 【アリス・マーガトロイド】 ・種族 魔法使い(元人間) ・能力 「主に魔法を扱う程度の能力」 ・沢山の人形を操って暮らす賑やかな独り暮らし。魔理沙とは蒐集仲間でありライバル。 弾幕はブレイン。弾幕はパワーだと主張する魔理沙とは正反対なタイプ。 魔理沙とは「ルパンととっつぁんな関係」の人その2。 なんだかんだで彼女に力を貸すことが多く、でもやっぱり口喧嘩は多い。 東方ただ一人のヤンデレ担当。東方では唯一、彼女の曲がアレンジされてカラオケにあったりする。 【サニーミルク】 ・種族 妖精 ・能力 「光を屈折する程度の能力」 ・三妖精のリーダー格。日の光の妖精。 日の光を屈折させて、虚像を見せて道に迷わせたり、自分達の姿を見えなくしたりする。 だが雨の日などは不自然でばれやすくあまり役に立たない。愛称は「サニー」。 3人の中で最も頭は切れ、表情豊かで明るく、元気もある。でも一番失敗が多い。 日の光を浴びる事で怪我を治癒する事が出来る。 もっぱら名前の響きがえろいとか散々な言われようだったりするが、そこには目を瞑ろう。 【ルナチャイルド】 ・種族 妖精 ・能力 「音を消す程度の能力」 ・月の光の妖精。周りの音を消す事が出来る。だが音が鳴っている環境では不自然で反ってばれやすくあまり役に立たない。 愛称は「ルナ」。三月精の中で最もとばっちりを受ける役回りをすることが多い。 月の光を浴びる事で怪我を治癒する事が出来る。「文々。新聞」を読んでるシーンが度々登場し、人間の子供と同じ様なものを好む妖精の中では珍しく、蕗の薹やコーヒーなど苦味のあるものを好む。 月の光の妖精だからか夜に出歩くことが多く、十六夜の日には色々なものを拾ってくるらしい。 一応3人の中では一番残酷らしく、紫から「(三月精の中で)最も妖怪に近い」と称されていた。 地味に小説版の主役らしい。 【スターサファイア】 ・種族 妖精 ・能力 「動くものの気配を探る程度の能力」 ・星の光の妖精。気まぐれな性格で腹黒い。 能力は三妖精の中でレーダー的な役回りで間接的ながら重要だが、彼女の性格のせいか悪戯が失敗する事が多い。 三妖精の中では唯一天候に関係なく能力が使える。愛称は「スター」。天候に影響を受けず、常にゆっくり回復する。