※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください 永遠亭は迷いの竹林と呼ばれる場所に建っている。 そこは文字通り人が入ればたちまち迷い込み、数日は迷い続けることで有名な場所である。 実際、銀時たちもコチラに着てから数日でその場所の噂を耳にしており、この竹林に足を踏み入れたことは一度も無い。 とはいっても、もともと神経の図太い連中の集まりであるよろず屋メンツといえば、そんなことを気にして仕事を放置する気もさらさら無いのである。 何しろ生活費がかかっている。そろそろ天子の差し入れの桃だけで生活するのは色々とまずい。 特に銀時の血糖値がマズイ。そろそろ糖尿病一歩手前どころかマジで糖尿病になりそうな勢いなのである。 とまぁ、そんなわけで。よろず屋は永遠亭に到着するや否や、大掃除に呼ばれた理由をすぐに理解した。 デカイ。とにかくデカイ。紅魔館と同じぐらいあるんじゃないかっていう面積の広さに、大掃除に呼ばれた理由をすぐに察するよろず屋メンツ。 しかも追い討ちといわんばかりに、輝夜の寝室のすぐ近くにある私室。そこがもう致命的にやばかった。 なぜか鎮座するテレビは横向きに、春だというのにコタツが用意されていて、床には何か道具やら漫画やら雑誌やらが無造作に放置されていた。 平たく言うと、どこの引きこもりの部屋だ? みたいな状態だったわけで。 結局、じゃんけんで各自の分担を決めて、掃除を開始したのがつい3時間前。 途中で鈴仙がこの館の主人である黒い長髪の少女、蓬莱山輝夜の命令で誰かに青い顔しながら荷物を届けに出て行くというハプニングはあったものの、おおむね順調にことは進み、この永遠亭に住む長い銀髪を三つ編みにした薬師、八意永琳の計らいでそろそろ夕食にしましょうかという話になったのである。 「にしても、本当に広いアル。定春に乗ってどこまでも走っていけそうアルヨ」 「そうかもね~。あぁぁぁぁ、定春の背中気もちいぃ~」 背筋を伸ばしながら言葉を漏らしたのは神楽。そんでもって神楽の後を付いてくる定春の背中に乗って上半身を押し付けるように抱きついているのは、ここの兎妖怪達を実質的に仕切っている黒髪セミロングの因幡てゐである。 分担場所が同じだったこともあり、気が合うのか随分と会話が弾んでいるらしい。 「あら、随分と仲良くなったのねてゐ」 「神楽ちゃんも、随分楽しそうですね。いいことだとは思いますけど」 と、コチラは保護者気取りの薬剤師と眼鏡。どちらともなく苦笑して、彼らはある場所を目指して歩いていた。 問題の輝夜の私室。そこの掃除を担当することになったのは、あろうことか蓬莱山輝夜と、よろず屋の坂田銀時。 駄目な上司ツープラトンという最悪な組み合わせだったのである。 まぁ決まったものは仕方がないし、正直二人っきりにするとかある意味かなり心配だったが、二人とも自分達だけで大丈夫だと半ば強引に押し切られたのであった。 と、永琳の足が止まり、件の部屋の前にたどり着く。その場所にある襖を遠慮なくあけると――― 緊迫した空気のまま、坂田銀時と蓬莱山輝夜の二人は互いをにらみ合いながら動いていた。 思わず、その場にいた四人が息を呑む。 その剣呑とした空気に当てられたのか、喉から声が絞り出せない。 発せられているのは明らかな敵意。二人とも眼前の人物を睨みつけ、ただただ隙をうかがうように動いている。 どうして―――? 逡巡する思考の中で、その疑問だけがぐるぐると回り続けた。 目の前の光景が理解できない。どうしてこんなことになっているのか、新八の頭にはただ疑問しか湧き上がってこなかった。 すーっと、二人とも流れるような足運びで動き続ける。ともすれば、残像すら見えそうなこの流動。 見るものが見れば、美しいと感嘆したことだったろう。 流れる沈黙が場を支配する。その沈黙を破ったのは――― 「だから違うってば!! 無想転生の動きはこっからこーやって―――」 「ばっかオメェ!! ありゃあ北斗七星の軌跡を描いてんだよ」 そんな、緊張感のかけらもねぇ二人の間抜けな発言だった。 そうとわかればあら不思議、さっきまで洗礼されていた動きに見えていたものが、なぜか今は間の抜けた動きにしか見えなくなる。 相変わらず奇妙な動きを続ける二人。そんな彼等―――というより、銀時に向かって走っていく一人の人影。 その気配に気がついたのか、銀時はハッとしたように振り返り――― 「何やっとんじゃてめぇらぁぁぁぁあぁあああああああああああああああああ!!!!」 ゴグシャッ!! と、新八の恐ろしく切れのいい跳び蹴りを食らって顔が勢いよく捩れた。 「ごぶるぁっ!?」とかなんとか奇妙な悲鳴をあげ、床に何度も叩きつけられながら吹っ飛んでいく坂田銀時。やがて庭に突き抜けて顔が地面に擦れながらようやく停止する。 そんな銀時の頭を、グシャッと追い討ちのように踏みつけるステキな人物が約一名。 「銀時ぃ? 新八の声が聞こえてここまで吹っ飛ばされてきたってことは、またサボったのよねぇ、貴方ってば」 ンフフッと素晴らしくいい笑みを浮かべながら、だがしかし、眼が激しく笑っておらず、恐ろしいほどの視認できそうなどす黒いオーラを振り乱しながら、グリグリと銀時の頭を踏みつける緑髪のセミロングの少女。 いうまでも無く、幻想郷最強クラスの妖怪、フラワーマスター風見幽香。 S(サド)っ気全快で踏みつけ続ける幽香さん。そのおかげで同じ掃除場所担当だったその他大勢の兎妖怪の方々が怯えて木の陰に隠れてしまってらっしゃる。 そんな中、顔面血だらけで銀時は踏みつけられている頭をかろうじて、目線だけを上げて抗議しようとして――― 「あ、白い。オレァてっきり黒かと……」 「ふんっ!!」 グシャッ!! と、余計なことを口走ってしまい、顔を真っ赤にした幽香に思いっきり頭を踏みつけられ、顔面が綺麗に地面に埋まることとなったのであった。 後に、八意氏は語る。あれを食らって、頭部が粉々に砕け散らなかったのは奇跡だった、と。 ■東方よろず屋■ ■第八話「嫌よ嫌よも好きのうちなんて所詮妄言って誰かが言ってた」■ 「それで、反省したかしら? 二人とも」 「……ごめんなさい、永琳」 「あの、スミマセン。とりあえず怪我の治療とかしてもらってもいいですかね? 銀さん貧血で倒れそうなんですけど? これじゃ出来の悪いホラー映画の死体みたいじゃん?」 一通りの掃除が終わって、一同が集まった縁側。 永琳の説教のあとに、素直に謝る輝夜と、血をだくだくと流しながら床を赤く染めまくっている坂田銀時。 顔面血まみれ。服も自分の血液で真っ赤。そろそろ致死量に達しそうな血液をだくだく流すマダオを見つめ、永琳は「はぁ……」と深いため息をついた。 「まぁ、少しは片付いていたみたいだからこれ以上は何も言わないわ。後は夕飯の後にしましょうか」 「あれ? 俺の治療は? マジでこのまま放置ですか!? さすがに死ぬんですけど!?」 「……銀さんのは自業自得だと思いますけど」 さらっと流した永琳にツッコミという名の救援を送ってみるが、残念ながら天子の冷たい言葉が帰ってくるだけとなった。 まぁ、実際。かなり自業自得だが。 「ところで、お師匠様。夕飯はいいですけど、鈴仙ちゃんが帰ってきてないですよ?」 「てゐのいうとおりアルヨ。あの紫ウサギが帰ってきてないネ」 てゐの言葉に同意するように、神楽が言葉をつむぐ。そんな二人の言葉にのるように、定春も「わん」と鳴いて、竹林の方向に顔を向ける。 そんな二人の言葉で、ようやく自分の弟子である鈴仙がいように遅いことに気がついたのか、永琳は思いのほか首を捻らせることとなった。 「輝夜、一体どこに使いに行かせたの? 随分とウドンゲの帰りが遅いんだけど?」 「あぁ、それは―――」 永琳の言葉に、輝夜が満面の笑みを浮かべて言葉をしゃべろうとした瞬間―――「かぁぁぁぁぁあああああああああああぐぅやぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!」 ちゅどぉぉぉぉぉおおおん!! と、信じられねぇ爆音と共に何かが炎を纏って永遠亭の庭に落下したのであった。 ……ちなみに、落下地点に善意で穴を修復していた新八が居て、もろに直撃を受けた彼は「なんですかぁぁああああああああああああああ!!?」などと絶叫を上げて吹っ飛んでいった。 その落下地点。煙が吹き上がり、生まれたクレーターのど真ん中に立っていたのは、ズタボロになった鈴仙を引っつかんでいる、炎の翼を携えた白い長髪の少女だった。 「新八ぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい!!? ちょっとぉ!!? 何あの子!!? 何なのあの子!!? えらくご立腹みたいなんですけどぉぉぉぉおおおおおお!!?」 爆発の巻き添えになって吹っ飛んだ新八の心配を微妙にしつつも、隣にいた輝夜に疑問をぶつける坂田銀時。 彼のいうとおり、目の前に落下してきた少女は目に見えて怒っているのがわかるし、憎憎しげに輝夜を睨みつけているもんだから、銀時にしてみたら彼女に問いかけるしか方法が無いわけで。 一方の輝夜はというと、「ようやく来たか」なんて呟いて、にっこりと満面の笑みを銀時に浮かべる。 「アレは藤原妹紅。まぁ、私の知り合いよ。ところで妹紅、ひとんちの庭を爆破するなんて一般常識が足りないんじゃないの? ちゃんと修理してよね」 「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞこのクソアマッ!! 人の家を自分の部下ごと爆破した奴が何言ってんだコラァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」 ビカァッと眼に怒りという名の光を灯す少女、藤原妹紅。 どうやらあのズタボロになった鈴仙は、彼女がどうこうしたわけじゃなく、ただ単に輝夜のお届けもののとばっちりらしい。 ひどい。ひどすぎる。何がひどいって自分の部下に平然と爆発物持たせて相手の住居を丸ごと吹っ飛ばす辺りとか。 まさに外道。 後ろで事の成り行きを面白そうに見守っている神楽とてゐ。 ンでもって心底どうでもよさそうにその光景を眺めているのが天子と幽香。 心底疲れきったため息を漏らしたのは永琳である。 「だからって、人の家の庭を爆破すること無いじゃないの。子供じゃないんだから、眼には眼を、歯には歯をなんて古い格言に従っちゃ駄目じゃない」 「てぇんめぇぇぇぇええええええ、テメェのその言葉こそが幼稚だとおもわねぇのかァ? あぁ?」 ギリギリと、遠く離れている銀時たちにすら聞こえてくるほどの歯軋りが、彼女の怒りの深さを物語る。ちなみに、その他大勢の兎妖怪たちはとっくに部屋の中に避難している。 ゆらゆらと、妹紅の背後に立ち上る炎。それが彼女の感情に呼応するように揺らめき、青筋を立てまくりながら輝夜を睨みつける。 そろそろ怒りのあまりに般若の顔に変わるかもしれない。あれのモチーフは怒った女性の顔らしいし。 「あのー、すんません。あの二人、仲ワリィの?」 そんな光景をはたから見ていた銀時が、疑問符つけながら後ろにいた永琳に言葉を投げかける。 すると、彼女は一瞬ぱちくりと眼を瞬かせ、「そうねぇ……」なんて呟き、そして言葉をつむぐ。 「300年前から殺し合いしてるから、そんなに仲はよくないかもね」 「そんなにってレベルじゃねぇんですけどぉぉおおおおおおおおお!!? 明らかに仲良くないよ!? 間違いなく犬猿の仲ですよ!? ト●とジェ●ーじゃん!?」 「銀ちゃん。その台詞色々と危ないアルネ」 盛大な銀時のツッコミ。しかし、それに永琳が取り合う様子も無く、神楽の冷静なツッコミが帰ってくるだけだった。 そんな後ろのやり取りを完璧に無視しつつ、輝夜は妹紅と対峙する。 彼女の手に掴まれてる鈴仙は……ひとまず保留にしておき、輝夜はクッと喉の奥で笑ってみせる。 「御託はいいわ。要は私を殺したいのでしょう? なら、―――いつものようにすればいいだけよ。ねぇ、妹紅?」 小ばかにしたような輝夜の言葉。もともと、輝夜を目の前にすると沸点の低くなる妹紅が、それを許容できるはずも無く。 ブッツンと、大事な何かが切れる音がした。 それからの妹紅の行動は実に早かった。片手に掴んでいた鈴仙をその場に離し、信じがたい速度で低空を飛行して、輝夜の首を思いっきり引っつかんで空中に舞い上がった。 飛翔する炎の翼。夜空に舞い上がる紅蓮の翼は、確かに美しく夜空を彩った。 そんな光景を眺めていた永琳は、小さくため息をついてその光景を見上げた。 「やっぱり、こうなったわね」 「やっぱりじゃねぇよ!! 止めろよアンタッ!!」 突然横手から上がる声。その声に視線を向けてみれば、なんと、先ほど吹き飛ばされた志村新八だった。 その彼の背中には、未だボロ雑巾状態の鈴仙が気絶している。 「新八!? 無事だったか!!?」 「当たり前じゃないですか!! あの程度で死んだりしませんよ!! ついでに、鈴仙ちゃん回収してきました!!」 「でかした新八!! そして、新八君。あれやばかったから。明らかに即死もんだったって、アレは」 お互いの無事をたたえあいながら、ひとまず鈴仙を寝かせると、新八は永琳に視線を向ける。 感慨深そうな表情。ただ、遠いものを見るように目を細めて、永琳は上空の二人に視線を合わせていた。 ギャリッと音がして、二人が離れると、そのまま高速移動の空中戦が展開された。 炎が大気を焦がし、お互いが展開する弾幕が夜空を埋め尽くす。弾丸と弾丸がぶつかり合い、焦がし、消失し、幻想的な世界を生み出していく。 銀時が、新八が、そして神楽が。初めて眼にする純粋な決闘。この世界にのみ存在する、スペルカードルールによる弾幕勝負。 「すげぇな。これが弾幕勝負ってやつか」 ポツリと、銀時は嘘偽りの無い本心を口にした。 こっちの連中はそろいもそろって常識はずれと言うかなんと言うか、こんな決闘方法なんて普通は思いつかない。 いや、彼女等だからこそ出来ることなんだろう。 仮に、自分が弾幕勝負をする羽目になったらと思うと、改めて理解させられる。 おそらく、自分は彼女達にかなうまい。あんな弾幕の嵐を、全てよけて接近するなんてあまりにも無謀が過ぎる。 以前、稗田阿求が妖怪である風見幽香に接近戦で対等に渡り合うことのほうがすごいといわれたことがあったが、銀時にはこっちのほうが凄いとしか思えなかった。 それだけ、上空で繰り広げられる戦いは壮観で、確かに美しかった。 「お師匠様、あの戦いとめたほうがいいと思う。余波で屋敷が壊れたりとかしたら、また掃除しないといけないし……」 「む、そういえばそうね」 今日が大掃除だということを思い出したのか、てゐの言葉に気難しげに唸る永琳。 いつもなら、二人の気がすむまで大いに暴れさせるのだが、今回は永遠亭が近くにあり、なおかつ掃除の途中である。 あの二人、戦いになると見境無く攻撃しまくるところがあるので、このままだと永遠亭に危害が及ぶ可能性が大である。 そうなると、今まで掃除した場所をまた掃除しなくてはいけないどころか、最悪大工の真似事までしなくてはいけなくなってしまう。 それだけは避けたい。絶対に避けるべき最悪のシナリオである。 「おーい、神楽。あれ止められっか?」 「無理ネ、銀ちゃん。あんなに高くはさすがに飛べないアルヨ。新八、お前が行けヨ。地味眼鏡だろ」 「って、何それ!? 無理に決まってんだろ!! ていうかどんな理由だよそれはっ!!?」 そして、再び掃除するのが嫌なよろず屋メンバーは、何とか止めようとするために作戦会議をするものの、残念ながら弾幕勝負の出来ない彼らに、はるか上空で戦う輝夜たちを止めるすべは無い。 永琳たちが行けばいいのだろうが、生憎、二人が永琳の言葉を素直に聞くとも思えず、結局どん詰まりに行き着いてしまった時……。 「しょうがないわね」 そんな、花の妖怪の一言を聞いた気がした。 迫り来る炎の弾幕。それをすばやく、鮮やかに、時には戦闘機のロール回転のように回避しながら、輝夜は弾幕を展開していた。 無数の弾による弾幕で、相手を封殺し、なおかつ蹴散らす。 数百に及ぶであろう、整頓とした弾幕は、大気を焦がすように妹紅に殺到していく。 それを、妹紅は最短距離を飛行しながら、輝夜に接近する。 あるものは避けて、あるものはその手で弾き、あるものは避けもせずに被弾するが、そのおかげで距離をとろうとした輝夜の首を再び掴んだ。 ギリギリと締め付ける。そのまま力を込めて、このまま炎に包ませてやろうとするものの、それよりも先に伸びてきた輝夜の腕が、妹紅の首を爪を立ててつかみとる。 「っぐ!?」 「っ」 そうして、結果的には、一時的に弾幕が止んで、静けさが辺りを包み込んだ。 次第に、お互いの腕に力が込められる。首が絞まり、ともすれば互いの首を砕かんばかりの勢いで、ギリギリと力を込めていく。 この程度で、二人は死なない。何しろ、二人とも蓬莱の薬という秘薬を飲み、不老不死となった身。 既に生を数えれば千年以上のときを、この二人は生きている。 たとえ、首をへし折られようが、真っ二つになろうが、跡形も無く消し飛ぼうが。 二人は絶対に死なず、すぐさま体が再生する。 実際、先ほど妹紅が被弾した場所にはもう火傷の跡すらも無い。 爪が肉に食い込み、お互いをビリッとした痛みが脳に伝わる。そして――― ゾクリと、二人の背筋を言い知れない悪寒が走りぬけた。 「……なぁ、輝夜」 「……何、妹紅」 恐る恐る、二人が言葉を投げかける。 背筋に残る悪寒はちっとも消えてくれず、むしろ強くなる一方。 いつの間にかお互い首を絞めることすら忘れていたが、今はそんなことに気をかけている余裕は無い。 「なんかさ、すっごくいやな予感がするんだが……」 「奇遇ね、私もよ」 二人とも感じている悪寒。あぁ、気のせいだったらいいのにね、なんて。お互い乾いた声で笑ってみる。 OK、落ち着こう私。落ち着こうか私。 大きく息を吸い、大きく息を吐いて深呼吸。 恐る恐る、眼下に視線を向けてみるとそこに、 ステキに嫌な光景が広がっていたのでした。 とりあえず、その光に二人はよく見た覚えがあった。 白い光が収束し、膨張した光が今か今かと、開放される瞬間を心待ちにしている。 そう、それは黒白の魔法使いが得意とし、特に愛用していたスペルカード。 【恋符「マスタースパーク」】と呼ばれる、小さな山ぐらいなら跡形も無く吹き飛ばす高出力スペルカードと、その光景はとってもよく似ていたのだ。 うん、それはいい。いや、今この状況でなんでそんなものが見えるのかとか色々思うことはあるが、とりあえずそれは脇に置いといて、一番の問題はだ。 なんで、そんなトンデモネェスペルカードとよく似た光を、あの風見幽香がニッコニコ笑顔でこっちに向けているのかということだ。 閉じられた日傘の先に、白い光が凝縮されていく。暴力の塊がぎゅうぎゅうに凝縮されて、今か今かと開放の瞬間を待っている。 「ちょ、待て待て待て!! それマズイだろ!! 何で他人のスペルカードをパクッてんだよ!!」 「そ、そうよ!! 落ち着きなさい!! さすがにそれは痛い所の話じゃないんだけど!!?」 さすがにあれを食らうのは嫌なのか、全力で抗議の声を上げる二人。さっきまでケンカしてた割にはすばやい結託である。 だがしかし、幽香はそんな二人ににっこりと、それはもう見ていて寒気が走るほどのすばらしく綺麗な笑みを浮かべて、そして言葉をつむぐ。 「本当は横槍するの好きじゃないんだけど、あなたたちにケンカされて仕事が増えたらさすがに嫌だモノ。あと、これはそもそも私のほうが先に使ってたんだから、パクッたのはあっちよ」 愕然とする二人。そんな二人を視界に納め、そしてもう一言。 「じゃ、そういうわけで遠慮なく」 「ちょっ!?」 「まっ!?」 叫び声を上げる暇もあらばこそ、ぼひゅっ!! と、大気を焼く音と共に、幽香の放った白い光の奔流は、見も蓋もなくあっさりと、文句を垂れようとしていた二人を飲み込んでいたのだった。 白い光が空を切り裂いたかのような錯覚さえ覚える光景。やがて長く放出されていた光は細く細く弱まっていき、やがてその力を失って虚空に溶ける。 空を漂っていた雲がわれ、欠けた月がぽっかりと顔を出す。それが、その攻撃の破壊力ッてぇもんをありありと語ってくれたのでした。マル。 ひゅるりぽてりと庭に落下する気絶した二人。原形をとどめている辺り驚愕に値するかもしれないが、まぁそれもいいかと幽香は発射口代わりにしていた日傘の先端をゆっくりと下ろした。 「はい、止めたわよ」 「ってやりすぎじゃボケェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!! 何!? なんなの今の波動砲っ!!?」 悪気の無い笑顔で言ってのける幽香に、新八が何の遠慮もなしにツッコミを入れる。 凄い。さっきの光景を見てここまで堂々と罵声を浴びせられる人間が果たして世の中に何人いることか。 さすがは志村新八。ツッコミに命をかける男だ。きっとその体はツッコミで出来ていたに違いねぇのである。 「凄いアルヨ!! 今度から姉御って呼んでもいいアルカ!?」 んで、今の波動砲を見た神楽は大興奮。その眼が憧れに輝いている。 傘を持ってるんだから自分もつかえるんじゃなかろうかと思っているかもしれない。 そんなよろず屋メンバーをよそに、気絶した二人を丁寧に運んでいくてゐと鈴仙。鈴仙はどうやらさっき眼が覚めたらしく、今もまだ眼が少し眠そうである。 「ありがとう。おかげで助かったわ。私はあの二人を寝かせてくるから、掃除の続きはそれからということで」 「えぇ、わかった」 永琳が幽香にそう言葉を伝えて、鈴仙たちが消えた場所に歩いていく。 おそらく、簡単な治療だけ施して帰ってくるつもりなんだろう。そんな永琳の後姿を眺める幽香に、銀時は言葉を投げかけていた。 「なぁ、最初に俺たちが出逢ったとき、あれ使うつもりだったか?」 その言葉の意味が一瞬理解できなかったのか、幽香は少し驚いたような表情を浮かべて、しばらくしてからクスクスと笑い出す。 あ、ヤベ。なんか嫌な予感がする。 銀時がそう感じた瞬間、彼女は相変わらず笑顔を浮かべて――― 「そうね、長引いてたら使ったかもね」 なんて、そんな恐ろしい事実をにべも無く口にしたのであった。 (……あ~、マジであん時たたかうのやめててよかったぁ~) 冷や汗流しながら思う。もしもあの時、あのまま彼女と戦い続けていたら、あの波動砲もどきを自分に叩き込まれていたわけで。 まじでよかった。味方で本当によかった。改めてそう思う。 ちなみに、結局掃除が終わってから二人は目を覚ました。またケンカしようとした二人だったが、今度はさすがに永琳が黙らせた。物理的に。 妹紅の家は責任を持って妖怪ウサギ達や自分が直すことを妹紅に伝えると、しぶしぶながら引き下がったので、どうやら万事解決らしい。 そうして、永遠亭での仕事はさまざまなハプニングがあったものの、何とか終わらせることが出来たのであった。 ■あとがき■ どうも、白々燈です。今回はまたいかがだったでしょうか? イケイケ元祖マスタースパーク。旧作ネタは正直どうなんだろう? とか思ってみましたが、物は試しということで。 次回の話もある程度は固まってます。まぁ、どうなるかは書いてみないとわかりませんが。 にしても鈴仙。今回の話はマジごめん。 銀魂キャラの説明も欲しいとのことだったので、とりあえずそっちのほうも書いてみようかと思います。 まぁ、こっちはこのSSで登場する人数少ないので2人ずつぐらいで書いていこうかと。 皆さん、ご意見、ご感想、誤字の指摘など、いつもいつもありがとうございます。 さて、次からは白々燈的キャラ紹介に行きますよw ■銀魂キャラクター紹介■ 【坂田銀時(さかたぎんとき)】 ・よろず屋を経営する銀髪の男。趣味はジャンプ。好きなものは甘いもの。 糖尿病一歩手前のまるで駄目なオッサン。略してマダオだが、その昔、天人(あまんと)相手に戦った元攘夷志士で、白夜叉と呼ばれた実力者で、実際かなり人間離れした身体能力をしている。 洞爺湖と銘の入った木刀片手にあまたの事件を面白おかしく、時にはシリアスに解決する。 大体金欠。そして万年金欠。めんどくさがりな所はあるが義理は通すし、なんだかんだでいい人である。 【志村新八(しむらしんぱち)】 ・よろず屋で働く眼鏡の少年。主にツッコミ担当。ツッコミが絡むと異様に強くなる。 普段は地味でダメージ担当であることが多い。基本的に無個性。 性格は真面目だが、アイドルオタクだったりと地味に個性的。しかし、このSSでそれが発揮されることは多分あるまい。 姉がおり、二人で暮らしている。家が道場なので、剣の心得あり。地味に強い。本当に地味に。 ■東方キャラクター紹介■ 【八雲紫(やくもゆかり)】 ・種族 妖怪 ・能力 「境界を操る程度の能力」 ・東方一のバランスブレイカー。最強クラスの実力を持つ萃香いわく、存在そのものがインチキ。モノにもよるが、間違っても彼女を戦闘メインの作品にクロスなんてさせてはいけない。例えるならは○めの一歩にDBのブロリーを持っていくようなものである。 彼女の境界を操る能力は物事の根底を覆す能力で、別の場所と場所を繋いで移動するほか、論理的な創造と破壊を可能にする能力で、阿求の言を借りれば「神様に匹敵する能力」。彼女も最強クラスの実力を持ったうちの一人で、友人関係も伊吹萃香、西行寺幽々子と、最強クラスの力を持ったメンツが多い。能力のほかにも、常識を超えた身体能力と、超人的な頭脳を持つ。 性格は人情に欠けるとされているが、本人は話し好き。天子を亡き者にしようとした割には、なんだかんだで桃を持ってくれば許すみたいな発言をしているあたり、案外優しいのかもしれない。 ちなみに、彼女ほど幻想郷を愛しているものはいないといわれるが、皆からは何を考えているかわからないだの、胡散臭いだのいわれて色々犯人扱いされることも多い。 【十六夜咲夜(いざよいさくや)】 ・種族 人間 ・能力 「時を操る程度の能力」 ・紅魔館で働くメイドで、レミリアの世話をし、絶対の忠誠を誓っている。紅魔館に訪れる里の人間にも冷たく、常に妖怪の味方。一応、客としていく分には礼儀正しく接してくる。 彼女の時間を操る能力は人間が持ちえる能力としては最上級。時間を早くしたり遅くしたり、時間を止めたりと出来るが、時間を元に戻すことだけは出来ないらしい。また、この能力は空間をいじることも同様に可能とする。 【小悪魔(こあくま)】 ・種族 悪魔 ・能力 - ・紅魔館に住み着く小悪魔。名は無い。ちなみに正式な設定も実はほとんど無く、悪戯好きであるというこは公式設定らしい。 ただ、大体は礼儀正しく書かれていることが多く、パチュリーの使い魔だったり、図書館の史書のようなしごとをしていたりされていることが多い。 外見にしても、二通りあり、髪が長くスタイルがいいタイプと、ボブカットで子供に近い体型の二通り。 ちなみに、公式絵が無いのでどちらが正しいのかも現時点では不明。 【パチュリー・ノーレッジ】 ・種族 魔法使い ・能力 「魔法(主に属性)を操る程度の能力」 ・紅魔館に住む魔女。属性魔法を得意とし、さまざまな魔法を組み合わせたりして行使する。 中でも小さな太陽を作り出して、それを破裂させることで大爆発を起こす日符「ロイヤルフレア」は圧巻の一言に尽きる。 性格は暗く愛想が悪いが、思考が暗いわけではない。物静かで、めったに外には出ない。100年以上生きているが、ほとんどを本を読むことで生活している。喘息もちで、呪文の詠唱が最後まで出来ないことがしばしば。 魔理沙とは「ルパンととっつぁん」な関係。よく魔理沙に本を盗まれる。 【上白沢慧音(かみしらさわけいね)】 ・種族 獣人(ワーハクタク) ・能力 「歴史を食べる(隠す)程度の能力(人間時)」「歴史を創る程度の能力(ハクタク時)」 ・知識も豊富でちょっと固いところがあるものの人がよく、人里で寺子屋を開いている。満月のときにハクタクに変身し、体毛が変わり、角が生える。 能力の歴史を食べるとは、文字通り歴史を隠してしまうことである。また、歴史を作るというのは文字通り、歴史を作り上げるという、能力はかなり強力であると思われる。 不老不死の藤原妹紅の数少ない理解者でもある。