※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください 幻想郷は今日も日光に包まれて大地を照らし続けている。 妖怪の山の一際目に付く大木の枝に、彼女はのんびりと腰掛けて眼下を視界に納めている。 鴉天狗、射命丸文。幻想郷の出来事を新聞にし、自由に空を翔ける人里に最も近い天狗。 「天気晴朗、今日も幻想郷は活気に包まれている……か、いいことね」 クスリと言葉をつむいで、彼女は身軽に飛んで、大木の頂点に着地した。 広がる景色はこの地を表すようにまさに幻想のよう。眼下に広がる幻想郷は、まさしく壮観だった。 クルッと手に携えた文化帖を弄んで、天狗はいつものように見ていて気持ちがよくなるような爽快な笑みを浮かべた。 「さて、今日もネタを求めて駆け抜けますか。幻想郷最速のこの翼で」 バサリと、背中に生えた漆黒の翼を大きく広げる。 今まさに飛び立とうとした刹那、背後に生まれた気配にその足を止めてしまう。 振り向けば、文自身とも面識のある人物が、器用なことに空中に浮かぶ箒を足場にして立っていた。 黒と白の服装をした魔法使い、霧雨魔理沙が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて立っている。 「聞き捨てならないな。生憎、私は幻想郷最速を譲った覚えはないんだが」 不遜な物言いに、文はくすくすと笑ってその人物の登場に感謝する。 まさか、今日はネタのほうからやってきてくれるとは、世の中もなかなか捨てたものではないかもしれない。 「こらこら、いつまでたっても入山禁止の立て札が見えなかったの?」 「あいにく見えなかったな、そんなファンシーな立て札」 「帰れ!! っと、言いたいところですが」 以前にもやったような一連のやり取り。それが少しおかしくて、お互いに苦笑して相手を見据える。 まぁ、こんなやり取りはちょっとした言葉遊びだ。それが魔理沙にもわかっているのだろう。 特にいやな顔一つせず、相変わらず意地の悪そうな笑みを浮かべる魔法使いを視界に納め、文はクスっと笑う。 「幻想郷最速の名、譲る気は無いと?」 「当然だぜ。生憎、私は諦めが悪くてね」 文の言葉に、魔理沙はさも当然のように返答する。 あぁ、これだから彼女達は面白い。こうやって自分からネタになるようなことをやらかしてくれるのだから、新聞記者としては万々歳だ。 「わかりました。それでは、幻想郷最速にどちらがふさわしいのか、勝負することにいたしましょう」 ニヤリと、見下すように人間を視界に納める。 その視線を真っ向から受けて、魔理沙は不遜な態度を崩すことも無く、ハッと鼻で笑って見せた。 堂々としたその佇まい、まっすぐな眼光は射命丸文を臆することなく貫いている。 それが今回の喜劇の幕開けとなったのは言うまでも無いことだろう。 ■東方よろず屋■ ■第六話「過剰なスピードの出しすぎは事故の元なんで気をつけろ!!」■ 「さて、まずは大雑把にルールの説明をいたしましょう」 その日の正午。博麗神社に集まった参加者に、射命丸文はにこやかに説明を開始する。 まぁ、参加者自体は射命丸文本人と、霧雨魔理沙の二名のみ。それとは別にこの博麗神社の境内にいるのは、ここの住人である博麗霊夢と、ちょくちょくこの神社に遊びに来る幼い姿の鬼、伊吹萃香のほかに、射命丸文に立会人を頼まれてここにいる坂田銀時のみである。 「お~い、ブンブン。銀さん二日酔いでしょ~じききっついもんがあるんですけど?」 抗議の声を上げる銀時の表情は確かにすぐれない。 前夜に酒場で飲みすぎて二日酔い、昼間に起きてきてみればいつの間にか新八たちが依頼を受けていたわけで。 銀時にしてみればたまったものではない。正直、二日酔いの薬飲んで眠りたいというのが本音だった。 「スタート地点はここ博麗神社。コースは紅魔館テラスに第一チェックポイント、そこから太陽の畑に第二のチェックポイントがあります。ゆえに、紅魔館、太陽の畑を経由して、ここ博麗神社にたどり着けばゴールとなります」 「おーい、ブンブン。無視すんじゃねぇ。銀さんきついんだってば。今にも胃液的なものを吐き出しそうなんだってば!」 抗議の声を完全に無視して、文は説明を開始している。 そんな彼女にさらに抗議の声を上げるものの、彼女がそれを気に留める様子はコレッポッチも無い。 銀時の抗議に「吐くなら帰れ」と言いたそうな巫女がいたが、それもひとまず無視を決め込む射命丸。 「チェックポイントには人を配置しています。第一チェックポイントには天子さんと神楽さんを、第二チェックポイントには幽香さんと新八君がそれぞれスタンバイしています。 彼女達からチェックポイントを通過した証として、小さなボールを貰ってくること。それが無ければ失格となるので、気をつけてください。 また、スペルカードの使用は認めますが、今回は純粋なスピード勝負ですので、相手への攻撃は無しにしましょう。 念のため、ゴールの判定は銀時さんや萃香さん、霊夢に任せてあります。まぁ、それほどの僅差になるとも思えませんが―――」 ちらりと、隣にたたずむ魔理沙に視線を向ける。 相も変らぬ不敵な笑み。自信と確信に満ちた、敵を知らぬという覚悟の顔。 そんな彼女の表情を視界に納め、文はクスリと笑って、財布から一枚のお金を取り出す。 それは小銭の王様500円。それが彼女の指にかけられた途端、ピクッと反応する気配がしたが……文はあえてそれを無視する。 「ご質問は?」 「無いぜ」 「そうですか。それでは、少々古風ではありますが、スタートはこれで」 言って、ピンッと指を弾いてコインが空高く舞った。 ひゅんひゅんと回転しながら上昇する銀色のコイン。 それは風の影響も受けずに真上に飛んで、やがて重力に引かれて落下し始める。 空気の抵抗を受けながらも、それは吸い込まれるように地面に落ちようとして――― 『貰ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!』 約二名の人影に、その落下を邪魔されることとなった。 「って、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!?」 ここに来て、初めて射命丸文が驚愕の表情を浮かべることとなった。 彼女ですら反射を許さぬ速度で疾走した二つの人影は、迷うことなくその500円に親指と人差し指で掴んだ。 疾走した陰の正体は博麗霊夢と坂田銀時。二人は血走った目で飢えた獣のごとく500円に飛び掛り――― 「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!?」 「ぎゃぁぁぁああああああああああああああああ!!?」 ものの見事に、勢い余って階段に飛び出してしまい、この百段はあるんじゃねぇかって勢いの博麗神社の石段をごろごろと転げ落ちていった。 なまじ勢いがついていた分、なかなか止まらずにかなりの距離を落下する二人。 やがてようやく勢いが殺されて、二人はピタッと石段の中腹ぐらいで止まった。500円は離さぬまま、しっかりと指に力を込めて。 「ちょっと!! 何やってるんですか!!」 さすがにあれだったのかツッコミを入れる射命丸。 そんな彼女の言葉に、ガバッと視線を彼女に向ける無傷の霊夢と、顔面血だらけの坂田銀時。 どうでもいいが同じ転び方でここまでダメージに差が出るものなのだろうか? 「ばっかオメェ!! お金を粗末にすんじゃねぇよコノヤロー!! そんなわけで、これは銀さん頂いていくかんな。最近マジで金がやべぇんだよ」 「冗談じゃないわ。私だって家計が苦しいのよ。働きもしない奴なんかにこの500円は渡さないわ!」 「馬鹿いってんじゃねぇよ霊夢!! オメェだって仕事してねぇだろーがっ!!」 「醜いんだけど!? ありえないくらいに争いが醜いんだけど、あんた達!!」 お金のことで激しく言い争いを始める二人に、思わず素の言葉使いで全力のツッコミを入れる文。 貧乏とはかくも恐ろしい。なまじ人生通して金欠の二人の目は激しく笑っちゃいねぇのである。 そんな二人にツッコミを入れている文の背中を、つんつんと突付いたのは萃香だった。 「あ、あれ? どうかしました、萃香さん?」 「んー、いや。こんなところで道草食ってていいのかい? 魔理沙もう行っちゃったよ」 ピタリと、恐る恐る先ほどまで魔理沙が居た場所に視線を向ける。 その場所に、本来居るべき彼女の姿はなく、はるか遠くに彼女の後姿が確認できた。 「しまった!!」 慌てて翼を大きく広げ、ダンッと力強く大地を蹴る。 空を翔る鴉天狗。風きり音と共にその姿はあっという間に遠くに遠くにと小さくなり、彼女が飛び去った余波であたりの木が風に揺られた。 そんな彼女を見送ったのは萃香のみ。霊夢と銀時はぎゃーぎゃーと500円をかけて格闘中。 「さて、どうなるかねぇ」 ケタケタと豪快に笑いながら、萃香はグビッと酒を煽った。 人間対天狗。この差がいったいどう結果に影響するのか、それはもう萃香にもわからない。 (あぁもう、私としたことが!! これで負けたら銀さんと霊夢のせいだからね!!) 心の中で愚痴を零しながら、文は目の前の人物を追いかける。 空で繰り広げられる追走劇。既に音速に近づきつつある文の速度を持ってしても、箒にまたがって空を飛ぶ霧雨魔理沙の背中は、なかなか近づかない。 速い。以前よりもはるかに!! 自分の見込みの甘さと油断に舌打ちして、彼女は黒と白の魔法使いのあとを追いかける。 徐々に徐々に近づきつつはあるが、この分では博麗神社に到達するまでに差を埋められるかどうか…。 そして徐々に見えてくるチェックポイント。魔理沙がテラスに降り立って、神楽からビーダマ程度の大きさのボールを受け取ると悠々と太陽の畑に進路を取って、箒にまたがって飛び去ってしまう。 その光景を視界に納め、彼女は苦々しく顔をゆがめてようやくテラスに到着する。 「ほい、がんばってくださいね」 天子から投げ渡されるチェックポイントのボール。 それを受け取って「ありがとうございます」とあわただしく言葉にしてから、文は翼を羽ばたかせて飛び去っていく。 状況は圧倒的に文に不利。徐々に差は縮まりつつあるが、この差は絶望的なまでに大きい。 流れていく風景。流れていく景色。その世界の中で、眼前を行く霧雨魔理沙という少女だけが姿をぶれる事なく視界に映し出されている。 知らず、文の口元がニヤリとつりあがった。 あぁ、上等だ霧雨魔理沙。お前が幻想郷最速を欲するというのであるならば、私は全力を持ってお前を叩き潰そう。 嬉々とした感情。知らず知らずのうちに沸き起こる高揚感。この絶望的な状況において、射命丸文はなおも勝利を捨ててなどいなかった。 「どうした!? 幻想郷最速なんじゃなかったのか!!?」 「言ってなさい!!」 安い挑発にも、文は笑みを浮かべて嬉々として言葉を返す。 既に二人の速度は音に届き、幻想郷の空を我が物のように翔けていく。 二人が通り過ぎた後には風が巻き起こり、地にいる生物や植物を吹きつけ、吹き散らしながらそのスピードを物語る。 この状況において、もはや二人に追いつけるものなど居はしまい。 徐々に徐々に差を詰めてくる文を背中越しに見据えながら、黒白の魔法使いはニヤリと、帽子で目元を隠しながら笑った。 「はっ! そうこなくちゃ面白くないぜ!!」 引き上げられるトップスピード。アクセルを踏みっぱなしで翔けて行く、空が舞台の追走劇。 互いに風を感じながら、魔理沙は目的の第二チェックポイントを視界に納めた。 すぐ背後に迫る鴉天狗の気配。 クッと、喉の奥で魔理沙は笑い、敵の手強さに嬉々とした感情を宿らせる。 そうだ。それでこそ幻想郷最速をかけるにふさわしい。 太陽の畑に着地すると、未だに咲かない向日葵たちを背景に、志村新八がボールを手渡した。 それに軽くお礼を言いながら、魔理沙はあっという間にスピードを跳ね上げて空へと飛び立つ。 それからわずか2秒の差で、射命丸文がチェックポイントに到達した。 「はい。文さん、がんばってください」 「ありがとう、新八君」 手短に笑いながら言葉を返して、天狗の少女も空を翔ける。 空を飛び立つ拍子に、巻き起こった風が新八に吹きかかる。 そして上空を見上げてみれば、もう既に二人の姿は視界に映っていなかった。 信じられないスピード。ともすれば、新八たちの世界に存在するどの乗り物よりも早いのではないかとさえ思えるあの速さ。 いや、実際にあの二人のスピードならば、新八たちの世界の乗り物は相手にすらならないだろう。 「すごいなぁ、どっちが勝つと思います、幽香さん?」 傍らにたたずむ幽香に言葉を投げかける。 そんな新八の言葉に、幽香は「そうねぇ」なんて呟いてからしばらく考え込む。 やがて考えがまとまったのか、彼女はゆっくりと言葉をつむぎだしていた。 「今回のこのコース、いろんな要素が試される。スピードはもちろん、瞬発力、持久力、スタートダッシュ等、その点を考えれば、今の二人は互角に見えるけど―――」 目を細めて、幽香は二人が飛び去った空を見据えて、二人の後姿を幻視した。 そう、確かにその点で言うならば、今の二人はほぼ拮抗しているといってもいい。 スピード、瞬発力、スタートダッシュ、このどれもが二人には僅差といっていい。 だが――― 「問題は、後半戦。ようは持久力ね。二人には徹底的にその差が大きすぎる」 淡々と、風見幽香は事実を伝えてくる。 その事実は、言われてみればあまりにも必然だった。 霧雨魔理沙は確かに尋常じゃない速度を誇るが、あくまでも彼女は人間。 対して、射命丸文は生粋の鴉天狗。持久力の差など、これだけで説明できてしまうほどの純然たる事実。 「加えて、魔理沙は魔力を駄々漏らしにするから、余計に魔力を消費する。箒で飛んでいる以上、飛行するには魔力を消費するだろうし、スピードをあそこまで上げているなら消費も馬鹿にならないでしょう」 「……じゃあ、この勝負」 幽香の言葉を聞いて、新八は言葉をつむごうとして……他でもない幽香に止められた。 「まだわからないわ。なんにしても、私たちの仕事は終わったのだから、博麗神社に向かいましょう」 優雅に日傘を差して、幽香はそんな言葉を紡ぎだした。 それに納得しかねる様子ではあったが、新八は小さくため息をついて彼女のあとをついていく。 幽香の口元は薄く笑みの形を作っていた。 確かに、彼女がこのまま行けば魔力を枯渇させる可能性がある。そうなれば射命丸文にあっという間に逆転されるだろう。 だが、ただで終わらないのが霧雨魔理沙だ。それは幽香もよく知っている。 「さて、どうなるかしらね。この勝負」 あぁ、楽しみだわ。なんて呟いて、幽香はつかつかと歩いていく。 空は快晴。この上なく晴れ渡った空を、二人の少女が幻想郷最速の名を賭けて空を翔けている。 意識が朦朧とする。いよいよ自分の限界が近いのだと体中が訴える。 浮かび上がる汗が、べとべととして気持ち悪い。まだ春だというのに、魔理沙の体は異様な熱を持って、その体を冷まそうと発汗作用が働いている。 順位は、ここに来てすっかりと逆転していた。 無理も無い話だ。文に勝つためにと力づくで速度を引き上げ、膨大な魔力を引き換えに彼女と同等の速度を得ていた。 だが、爆発剤にしていた魔力(燃料)がなければ、スピードで負けていくのは道理。 風のように駆け抜ける鴉天狗。その背中を、魔理沙は意地と根性で粘るように着いてきていた。 このまま負けられない。負けたくないという気持ちに反比例して、スピードは徐々に徐々に落ちていく。 ぐらりと、意識が遠のく。無理やりに動かしていた体がとうとう限界を向かえたのか、意識が闇の中に沈んでいく。 その間際に―――、文がコチラに顔だけを振り向かせるのが見えた。 その顔が、その表情が、何よりもその眼が―――魔理沙に言葉を投げかけていた。 ゛―――そんなものなんですか、貴女は―――゛ 見下す赤い瞳。言葉が発せられたわけじゃないけれど、その眼は明らかにそう語っていた。 期待はずれだと、この程度だったのかと、興味をなくし、失望したかのようなその瞳。 その瞳が、死に体だった霧雨魔理沙に熱をともした。 「舐めるなよ、鴉天狗」 ギリッと歯を食いしばって、魔理沙は箒を強く握る。 体に残ったありったけの魔力。それを使わずして、どうして諦めることが出来ようか? 手に持ったスペルカード、今この場で、今このときに使わず、いつ使えというのか! 「彗星『ブレイジングスター』!!」 発動するスペルカード。宣言と共にありったけの魔力を総動員。残りっカスすらも残すつもりなど無い。 今この場で全部使い果たす勢いで、魔理沙はその力を解放する。 そうして、彼女は青白い光に包まれて音速を突破して文を振り切った!! 「なっ!?」 上がる驚愕の声。完全に魔力が無くなりかけていたあの状況で、こんな大技を使うなどと誰が想像しただろう。 魔理沙は文字通り彗星のように空を翔け、博麗神社まで一直線に爆進する。 その光景を視界に納めて、文はクッと喉の奥で笑いを堪えた。 そうだ。それでいい。それでこそ、―――この勝負を設けた甲斐があるというものだ!! 文もスピードを限界近くまで引き上げながら、これ以上魔理沙に離れまいとスペルカードを取り出す。 (まさかこれを使うことになるとは思わなかったけれど―――) わずかな逡巡。あの魔理沙がここまでして全力で勝負を挑んでいるというのなら、全力で答えねばなるまい。でなくては、どうして鴉天狗が彼女等より強者だと振舞えようか。 (仕方ないわね!) もとより、思考は一瞬。迷いなどあれば、この勝負は間違いなく自分が負ける。 それを自覚している。だからこそ、彼女はそのスペルカードを使うことをためらわない! 「『幻想風靡』!!」 スペルカードを宣言する。そのまま、彼女は全身に力を込めて、最大速力を引き出していた。 先を先行する魔理沙に、風を切りながら矢のように差を縮める文。 魔理沙が彗星だと評されるなら、文はまさしく神速の風そのものだった。 共に音速などとうに超えている。二人が通り過ぎた途端、大地を突風が遅れて巻き起こる。 まるで早送りのように視界に近づく博麗神社。 文が。 魔理沙が。 博麗神社の境内に降り立ったのはほぼ同時だった。 「くっ!」 「っ!?」 あまりのスピードだったせいか、うまく着地できずにごろごろと転がる二人。 数メートル以上転がりながら、彼女達はようやく止まることが出来た。 着地地点が抉れ、相当強い勢いで自分達は突っ込んでいったらしい。 文は妖怪ということもあって何とか立ち上がるが、魔理沙は完全に魔力切れを起こしたのかピクリとも立ち上がらない。 一応意識はあるらしく、やれやれと苦笑して、文は魔理沙に肩を貸した。 「……あー、きついぜ。さすがに」 「無茶しすぎなんですよ。まったく、さすがに驚きました」 彼女のそんな言葉に、文は苦笑しながら言葉をつむぐ。 まぁ、もっとも。その無茶が無ければ、魔理沙は間違いなく負けていたわけだが…。 とはいえ、結局は二人まとめて突っ込んだこともあり、結果が不明。 まさか本当に僅差になるなんて……と、文は微妙な感情にとらわれながら、ゴールの判定を頼んでいた三人に視線を向けると――― 「だぁから、その500円は俺のだって言ってんだろーが!!」 「私の500円よ!! 私の家の敷地内で落ちたもんは等しく私のものなのよ!! アンタのものも私のもの!! 私のものも私のものよ!!」 「何その偏屈したジャイアニズム!!? 新手のガキ大将ですかオメェは!! 空き地で音痴な歌をリサイタルですかコノヤロー!!」 未だに500円ぴったりと離さず、ケンカしてる霊夢と銀時の二人が眼に映ったのだった。 ……え、何? この状況? などと呆然と思っていると、彼女達に気付いたのかケタケタと萃香が笑って二人を出迎えた。 「おぉ、お帰りぃ。で、結局どっちが勝ったの?」 そんな彼女の一言に、ぐらりと本気で眩暈を覚えた二人。 えーと、つまりなんですか? 見てない? 見てないんですね、三人とも。 今までの私たちの勝負は一体なんだったんだろうと、二人はその場にばったりと倒れてしまう。 一人はあんまりな結果に耐え切れず。 一人は結果+魔力枯渇の疲労困憊で。 とりあえず、二人とも空に無意味に叫びたい気分だったが、そんなことをしてもまるっきり無意味なんで黙って意識を手放した。 人それを、現実逃避という!! なんて変な言葉が聞こえた気がしないでもなかったが、特に反論も出来ないので天狗と魔法使いはあっさりと意識を手放し―――要するに、気絶したのであった。 ■あとがき■ ども、作者の白々燈です。 今回はいかがだったでしょうか? 試験的に東方分を強めにしてみましたが…。 新八。悲しいほど目立ってねぇなぁ。 内容としては、幻想郷最速を賭けたレースみたいな感じになってます。 うーん、でも書いてて思ったけど、これってもしかして誰かがネタにしてるんじゃなかろうかと思わなくも無い。漫画なり小説なり、ありがちな話だったかもしれないです。 …かぶってたらどうしようかな…。 銀魂キャラはこれ以上増やさないことにしました。 みなさん、ご意見どうもありがとうございました。 ご感想、ご指摘、ご意見等ありましたら、遠慮なく書き込んでください。 それでは、今回はこの辺で。