※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。 今回オリキャラに準ずるキャラクターが登場するのでお気をつけください。 それは、想像を絶するとしか表現しようのない戦いだった。少なくとも、志村新八と神楽の二人にとっては。 花が咲き誇り、美しかった大地は見るも無残に荒れ果て、ある場所は陥没し、またある場所は隆起し、またある場所は空高く聳え立ち、またある場所は抉れて傷がついている。 どうすればそんな惨状になるのか、それを目撃した当人達、あるいは戦いの真っ最中にあるあの二人以外にはわかるまい。 もはや原形を留めぬ大地で戦っているのは、お互い仲間であるはずの二人。 自らの世界に帰るために戦う、坂田銀時と。 彼らと居たいがために、自身のわがままを突き通そうとする比那名居天子。 それを見守っているのは、今この場には新八と神楽、そして定春のみであった。 そう、つい先ほどまでは。 「あら、先客が居たのね」 「ゆ、幽香さん!?」 ふわりと新八たちが居た場所に降り立つ日傘の少女、花の妖怪、風見幽香。 ここ最近は太陽の畑の向日葵畑の様子を心配して、よろず屋にはしばらく来ていなかった少女である。 「どうしたアルか姉御? こんな辺鄙な場所まで」 「最近雨続きだったでしょう? どうも異変みたいだし、私の向日葵たちもそろそろ危険だから、この異変を起こした大馬鹿をコテンパンにしようと思ってたんだけど……」 神楽の言葉に答える最中、ひときわ大きな破砕音が響き渡る。 そちらに視線を向ければ、空から落下する天子が抱えた巨大な要石を木刀で粉砕する銀時の姿があった。 そんな様子を見て、幽香はいつものようにくすくすと笑ってみせる。 「先にあなたたちが居たってわけ。それにしても随分楽しそうね、妬けちゃうわ」 「た、楽しそうって……」 幽香の発言に冷や汗を流しながら、新八はチラリと再びかの戦場に視線を向ける。 錐状の凶器となって銀時に牙をむく大地。その凶器を、愛用の木刀で打ち砕き、その隙に接近し緋想の剣を振りぬく天子。 交差する木刀と宝剣。互いに一歩も引かず、譲らず、鍔迫り合いながらも互いの隙を見出そうとにらみ合っている。 「楽しそう……ですか?」 「えぇ、とても。本当なら、私が銀時と戦ってみたいものだわ。お互い全力で、ね?」 クスリと、妖艶に笑って見せて、幽香は新八と神楽を流し見る。 ただそれだけの行為に、ゾクリと、嫌な冷や汗が背筋が伝うのを感じてしまう。 「あなたたちを殺したら、彼は本気の全力で戦ってくれるかしら?」 クスクスと、幽香はそんな物騒なことを問いかけて、哂った。哂ってはいるが、その目はどこまでも平坦で、一切の感情を宿してなどいない。 それで、新八は心のそこから、生理的な恐怖と共に理解する。 彼女は本当に、人を食い殺す類の化け物なんだということを。 そんなことは、頭の中では理解しているつもりだった。本当に、【理解したつもり】でしかなかったのだと痛感する。 それは、単純な本能。捕食者と対峙した得物が、本能的に感じる潜在的な恐怖という感情。 それが、彼女のその【笑顔】を見ただけで、白刃の下に引きずり出されてしまった。 「なんて、冗談よ新八。そのおびえた顔、凄く可愛かったけど」 だというのに、幽香はその【笑顔】をあっさりと引っ込めて、いつもの花咲くような笑顔を浮かべた。 いつも見ている幽香の笑顔。そのいつもどおりの彼女に、新八はようやく潜在的な恐怖から立ち直った。 はぁっと小さくため息をつき、頭を片手で押さえてフルフルと振るう。 「幽香さん、洒落になってないですから今の。いい加減その人を困らせたり、怖がらせたり、トラウマ作ったりするの止めてください」 「……まぁ。私に死ねとおっしゃるのね、新八」 「治らないのかよ! ていうか治す気ゼロかっ!?」 いつものようにからかってやると、また面白い反応を返す新八。だから、幽香は彼が好きだ。玩具的な意味で。 だからか、幽香は先ほど言ったように新八たちを殺そうなどとは、ほとんど思っていない。 それだけ、彼女もこのよろず屋を気に入っているということで、そのことを彼女が自覚しているかどうかは……まぁ、多分しているだろう。 この反応が、もう見れなくなるのかと思うと少し物寂しい気もするが……、まぁいいか。と、幽香は思う。 いざとなったら、あの八雲紫をぼこぼこにしてでも彼らの世界に行けばいいのだし。などと、かなりポジティブな思考だったりするのである。 まさに強者の思考である。自称最強は伊達じゃない。彼女はやるといったら念入りに【殺ル】タイプなのだ。 っと、そこでとある疑問に行き着いたのか、神楽は幽香に視線を向けて、言葉を紡ぐ。 「そういえば姉御。竜宮のナンタラはどうしたアル?」 「ん? あぁ、アレね」 それが誰なのかに思い当たったのか、幽香はにこやかな、見る人物がみれば凄く【嫌】な笑みを浮かべて。 「ここに来るの邪魔してきたからコテンパンにしたあと岩に縛り付けて放置してきたわ」 「オィィィィ!! あんたどこまでサド気質全開なら気がすむんだぁぁぁぁ!!!?」 そんな、なんでもないことのようにとんでもない爆弾発言をかましてくれちゃった幽香に、新八のツッコミが見事にこだまする。 人呼んで花を操る妖怪改め、アルティメットサディスティッククリーチャー、風見幽香。彼女は今この場面においてもいつものようにマイペースを崩さなかったのである。 くすくす笑ってゴーゴーです。 ■東方よろず屋■ ■最終話「幼心地の有頂天」■ ゴシャリと、木刀によって砕かれた大地の槍。その隙を縫うようにして、天子は彼に接近した。 大上段から一気に振りぬく一撃は、しかし、隙を見せたはずだった銀時の身を捻るような回避でかわされる。 チッと舌打ちしたあと、彼女は途中で剣の軌道を無理やり帰る。振り下ろしから、直角に曲がるように繰り出される鋭利な薙ぎ払い。 これにばかりはさすがの銀時もかわしきれずに、木刀の腹できっちりと受け止める。 「本当に木刀なの、それ!? 緋想の剣を受け止めるどころか傷もつかないってどうなってんの!!?」 「ばっかオメェ、こいつぁな、洞爺湖の仙人から譲り受けた由緒正しき―――」 「嘘くさいにもほどがあるわよ!」 明らかな大嘘を最後まで聞くこともなく、天子がタンッと軽く大地を踏む。それに気がついた銀時は慌てて真横に転がり込むように飛び込んだ。 その刹那、先ほどまで彼がいた場所を、巨大な大地の錐が貫いていた。 「オィィィィ!! お前少しは手加減しろよ!! そんなの食らったら銀さんグロいオブジェになっちゃうんですけどもぉぉぉぉ!!?」 たまらず上がる悲鳴交じりのツッコミ。それにかまわず、天子はすぐさま行動を移していた。 緋想の剣を大地に打ち付ける。その瞬間、マグニチュード8に届こうかという巨大なゆれが大地を、いや、銀時に襲い掛かる。 襲い来る振動に、たまらず大地は悲鳴を上げて亀裂を生み、それに飲み込まれまいと銀時は必死に走り回る。 その銀時を、比那名居天子は自身で起こしたこの大地震の影響をまったく受けずに追跡する。 地震の影響を受け、足元のおぼつかないまま逃げる銀時と。 地震の影響を受けず、いつもと変わらぬ速度で駆け抜ける天子。 ゆえに、彼女が彼にすぐさま追いつくのは必然でもあった。 加えて、銀時は足場が不安定。そんな状態でまともに迎撃できるほど、生憎と比那名居天子は弱くはなかった。 「ぐっ!?」 銀時の口から、空気が零れる音がする。 結果的に、銀時はあの不安定な状態から天子の緋想の剣を見事に受け止めて見せた。そこはさすがと言うべきだろう。 が、なにも彼女の攻撃手段は緋想の剣だけではない。銀時の体にダメージを与えたのは、みぞおちに直撃した鋭い蹴りだった。 まともに受け、たまらずたたらを踏む銀時に向かって、天子の追撃が襲い掛かる。 十分な遠心力を利用した、こめかみを狙いにいった後ろ回し蹴り。そして、地震が収まったのも丁度このとき。 その瞬間を逃さず、とっさに銀時は後ろに飛んで、かろうじてその一撃をやり過ごした。 ビュオンッ!! という風きり音。鼻先をかすめ、前髪の何本かが衝撃のあまりにちぎれて宙を舞う。 タンッと、危なげながらも銀時は着地し、もう一度後ろに飛んで距離を離す。天子の追撃もここで一旦止まった。 両者の間合いは開き、仕切りなおしというかのように二人は互いを視界に納めている。 「相変わらずとんでもねー能力もッてんなコノヤロー。なかなかうまく攻めさせちゃもらえねー」 「とんでもない……ねぇ。そんなこと言われたのは初めてだわ」 相変わらずの軽口に、天子は小さくため息をつきながら答える。 【大地を操る程度の能力】。それが、比那名居天子がもつ能力であり、彼女の強さを支えるものだ。 が、彼女の能力はそもそも幻想郷においてはさして強力なものとはいいにくい。 遠く離れた場所の局地的な大地震すらも可能にし、土砂崩れや大地の陥没もお手の物。そう聞けば、確かに強力ではあるし、その力の膨大さは考えるまでもないだろう。 彼女の不幸といえば、そもそも幻想郷の決闘は基本的に【空の上】だという事実だ。 対象が空に浮いているのであれば、彼女の能力は威力半減どころかほとんど役に立たないのが現状だったのである。 だが、もし……もしもの話。相手が空を飛べない者だったなら? もし、飛び道具の持たない相手だったなら? 足場もまともに確保できないなか、相手だけはそんなことも気にせずに移動できる。 大地全てが敵であり、また凶器でもあるという事実。 これが、強力でなくてなんだというのか? オマケに、彼女の能力は隙のなさもこれまた厄介だった。 何しろ、彼女はイメージして大地を少し強く踏む。これだけで大地の槍を作り出せるし、緋想の剣を打ち付けて広範囲に大規模な地震すらも起こせる。 実に馬鹿げている。オマケに、天子の体はナイフが刺さらないほどに頑丈でもあるし、なによりも打たれ強い。 さすがに、速度は射命丸文や風見幽香には及ばないが、それでも十分に早く、攻撃には威力もある。 口の中に広がってきた鉄錆の味を無くすために、ぺっと血の混じった唾を吐き捨てる。 みぞおちの辺りに鈍く重い痛みが沈殿するが、それを意識しないようにギッと奥歯を噛み締める。 はっきり言おう。彼女は、比那名居天子は間違いなく強かった。 「ったく、駄々っ子の相手も楽じゃねーな」 「えぇ、そうですね。駄々っ子はつまるところ自分の我を通そうとする子供ですものね。否定はしません」 「自覚あるところがまた手に負えねぇ」 くすくすと天子は笑い、銀時はうんざりとしたように呟いた。 そんな様子がおかしかったのか、彼女はまた一層おかしく笑ってみせる。 その姿が、本当に可笑しそうで、本当に楽しそうで、遊びに夢中な童女のようだった。 そこには、いつもの彼女がいた。 そこには、いつもよろず屋で見せていた彼女の顔があった。 ともすれば命のやり取りとも足られかねない激しい戦闘を行っている最中で、天子は実に楽しそうに笑うのだ。 そんな姿を見て、銀時は小さくため息をつきながら目の前の少女に言葉を投げかける。 「さって、そろそろ決着と行こうじゃねーの。おーい、てんこ。オメェの切り札、俺に使って来いや」 「だから、てんこじゃありませんってば……って、今更ですね。 それはつまり、あなたが私のスペルカードを破れたら、あなたの勝ちに。破れなかったら私の勝ちにしようと、つまりはそういうこと?」 「おうよ。このままやってても埒があかねぇ。つーか、今更俺に敬語でしゃべるなッツーの、気持ちわりー」 「やっぱり?」 今度は、お互いに苦笑した。 銀時の提案は、端的にいえば無謀以外のなんでもない。いや、彼にはある意味ではこれしかないのだ。 銀時の身体能力はずば抜けている。それこそ、普通の人間とは思えないほどに卓越し、技術という面においても尋常なものではない。 だが、唯一、持久力というてんでだけは、どうしても彼は劣ってしまう。 だから、彼は短期決戦を挑むしかない。比那名居天子に隙がないなら、その隙を作るしかない。 無論、その狙いには天子だって気付いていた。彼女は天人であるだけに知識や思考能力においても常人よりははるかに上だ。 ならば、その銀時の案を蹴れば、それで彼女の勝利はほぼ確定となる。彼女はその選択をするべきだ。 だが――― 「いいわ。受けてたちましょう」 ……彼女は、その選択をよしとはしなかった。 自身のけじめをつけるために、自身のわがままのために、だけど大切な場所を引き止めたいがために始めた、この決闘。 ならば、相手の挑戦を受けて勝利してこそ、その勝利には意味がある。 少なくとも、天子はそう思った。だからこそ、彼のその言葉に同意した。 それに何より、彼女は自分の持つ最強の切り札であるあのスペルカードに、絶対の自信があったのだ。 スッと、一枚の緋色のスペルカードを懐から取り出す。一旦目を瞑り、天子は祈るように瞑目したあと、改めて銀時を視界に納めた。 「銀さん、私、出来る限り威力を押さえるけど、うまく防ぐなり回避するなりしないと……」 すぅっと、目を細める。その瞳に、一体どんな感情を宿したのか、銀時が知る前に――― 「下手をすると、死ぬからね」 ……そんな、心底物騒な言葉を紡ぎだした。 「あれ?」 「うぉぉ!? 私の体から変な靄みたいなのが溢れてるよ新八!?」 その異変に気がついたのは、新八と神楽の二人だった。 二人の体からは緋色の靄が大気に昇り、よくみれば幽香の体からもそれは吹き上がっている。 緋色の靄は大気に昇り、やがてそれはある一転を目指して収束していく。その様子を見た新八は、そうしてあることに気がついた。 「な、なんなんですかこれっ!?」 空が、緋色の靄に包まれていた。緋色の靄がありとあらゆる場所から一転を目指して収束していき、その膨大さゆえに空が緋色に染まって見えているという怪異を生み出した。 その緋色の靄が集まっていく先には、比那名居天子の姿がある。 「新八、神楽。定春をつれて私の後ろに」 幽香からの、静かな声。その声に一瞬呆然としたが、新八と神楽は慌てて定春をつれて彼女の後ろに回った。 それを彼女が確認すると、愛用の日傘を開き、盾のように眼前に突き出した。 「下手に動かないで。私の後ろから絶対に出ないこと。でないと―――」 幽香の顔には、相変わらず表情はない。冷たく、いつもの笑みすらない能面。そんな表情のまま……。 「ただじゃ済まないわよ。あんなものが直撃したらね」 そんな、言葉を紡ぎだしていた。 「―――『全人類の緋想天』―――」 そうして、彼女はスペルカードを宣言した。 途端、銀時の体から緋色の靄が噴出し、天子の眼前に集まっていく。 いや、銀時からだけではない。気がつけば、どこから集まってきたのか空を緋色に覆うほどの緋色の靄が彼女に向かって集まっていく。 彼女の手のひらに、ぎゅうぎゅうに圧縮されていく緋色の靄。だというのに、緋色の靄はとどまることもなく遠慮無しにその場所に集まってきている。 それは、その赤い靄は、人々や妖怪たちが持つ【気質】。人々が潜在的に持っている気象で現せるその人間の気性。 博麗霊夢なら【快晴】、十六夜咲夜ならば【曇天】、霧雨魔理沙ならば【霧雨】、八雲紫なら【天気雨】。 その【気質】が、緋想の剣の力を借りて、天子の眼前に集まってきている。 ゆっくりと、天子は少しだけ宙に浮いた。 その間にも緋色の気質は集まり続け、見ただけでもわかるほど膨大な力の塊が今かと今かと解放を待ち望んでいる。 だというのに、その力は未だに集まり続けている。一体どこからそんなに集まってくるのかと疑問に思うほど、その気質はどこからともなく集まり続けていた。 その答えは、彼女が宣言したスペルカードの名の中にあった。 【全人類の緋想天】。つまり、その力は彼女だけではなく、ましてやこの場にいる全員からでもない。 文字通り、この幻想郷、果ては外の世界全ての人間や妖怪の気質をかき集めている。 世界には人間だけで、すでに桁外れな人数が存在している。その全員から気質をかき集めたスペルカードのその破壊力。 その破壊力を想像して、あまりの規模のでかさに冷や汗が流れ出すのを止められない。 ヤバイなんていうものじゃない。本能が全力で逃げろと警告し、わめきたててくる。 「おいおいおい、マジかよ。洒落になってねぇっつーの」 思わず、そんなことをぼやいてしまう。はたから見れば神々しいだろうその光景も、もう少ししたら自身に向けられるのだと思うとそんな感想すらも抱けない。 だから、銀時は走り出した。後ろにではなく、全力で前へ。 その規模ゆえに、それの発射までには時間がかかる。その間に天子を気絶させるなり、一撃入れさえすればそこで銀時の勝ちだ。 だが、それを実行するには、銀時と天子との距離は、あまりにも遠かった。 空が元の色を取り戻す。ギチギチに収束した緋色の気質は、天子の両腕に抱かれるようにそこに顕在した。 良くも悪くも、この一撃で全てが決まる。それを自覚して、改めて、天子は己が覚悟を強固にする。 もう、後には戻れない。どっちが勝っても、どっちが負けても、これで【最初で最後】なのだという事実。 緋色の気質が、出口を求めて膨張を開始する。それを、銀時に向かって突き出して――― 「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええっ!!!!!!」 彼女の最強のスペルカードが、今まさに放たれたのだ。 緋色の気質はまるで巨大なレーザーのように直線状を薙ぎ払う。 空気を焼き、大地を抉り、緋色があらゆるものを蹂躙する。 それを目の当たりにして、銀時はどこが威力を抑えるだよっ!! と愚痴を零したくなったが、生憎これでも威力は抑えてあるのだ。 それほどまでに、彼女のこのスペルカードは強力だった。 その本来の破壊力は、それこそ単純な威力でいうならば、フランのスペルカードにも匹敵しうるだろう、天子のもつ最強の切り札。 威力、攻撃範囲、速度、どれも十分すぎる。避けようにも、タイミング的にとてもよけれるようなものではなかった。ここに来て、彼女に向かって走り出したことが裏目に出た。 もし、彼女に向かって走っていなければ、最悪回避ぐらいは間に合っただろうが、今となってはもう後の祭りだ。 そんな圧倒的な暴力の奔流を目の前にして、銀時はあろうことか、顔をかばうように腕をクロスさせ、その緋色の暴力の中に身を躍らせたのだ。 避けられないのなら、防御しながら突っ込む。それが、銀時の選んだ選択だった。 「なっ!?」 「フンごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」 天子の驚愕の声と、銀時の気合なのか踏ん張るような声が同時に上がる。 肉のこげる匂いが鼻につく。ただれ、焦げて、顔を除く全身が火傷のような熱に襲われていく。 それもしばらくして、何も感じなくなった。どうやら、痛みをつかさどる神経が麻痺したらしい。 意識が遠のく。視界は緋色で埋め尽くされて、ともすれば心がくじけそうになる。それでも――― 「なめんじゃねぇっつーの!!」 気合を乗せた言葉で、そのくじけそうな心を強くする。 その足は止まらない。駆け出している脚は、いまだ深い傷を負いながらも止まらずに前へ進む。 そして、緋色の本流の中から、白の夜叉が飛び出してきた。 天子が居た場所よりもはるか高くに跳躍し、大きく木刀を振りかぶる。 その姿を天子が捉えたとき、彼女はその姿に驚愕した。 満身創痍なんてものじゃない。とても戦えるような体ではなかった。 腕と脚からは煙が上がり、おそらく焼け爛れたか、悪い場所は炭になっているだろう。特に、服のなかった腕はその被害は一目瞭然だった。 そうして、緋色の暴力はやがて力を失い、完全に消失する。 でも、天子はそんなことも気にならないくらい、違うものに魅入られていた。 ぼろぼろの体。全身、無事なところなんてほとんどないのに、それでも、その男の目はこれっぽっちも死んでいなかった。 いつもとは違う、死んだ魚のような目ではなく、もっと鋭利で底冷えのするような、そんな目に、天子はただ魅入られた。 かつて、白夜叉と呼ばれ恐れられた男は、この土壇場になってかつての姿を取り戻したのだ。 「こんの超絶わがまま娘ぇぇぇぇ!! 歯ぁくいしばれぇぇぇぇ!!!」 気合と共に振り下ろされた一撃は、重力と落下の力も合わさって十分な重さとなる。 木刀は天子の肩口に叩きつけられ、その衝撃は十二分に彼女の体を貫いていく。 その一瞬が、二人にはとても長い時間に感じられた。それこそ、終わりの感じられないほど長い長い時間に。 無残な大地にたたきつけられる二人。盛大な土煙が巻き起こって、それが二人を包み込んだ。 ずきずきと、たたきつけられた場所が痛む。それが……天子に、自分自身がどうなったのかを知らしめる。 「負けた……。あ、はは……そっか、負けちゃったのか」 力なく、彼女は笑った。笑ってはいたが、目から溢れる涙が止まらなくて、やがて嗚咽が零れ始めた。 守りたい場所があった。無くしたくない場所があった。だけどその場所は―――零れ落ちてしまった。 「ぅっく、……ぁぁあああっ」 止めようとしても、止めようとがんばってみても、どうしても……止まってくれなかった。 涙も、嗚咽も、どちらも止まらないまま。 天子はただ、仰向けに倒れたまま泣き続けていた。 「あー、マジ痛ぇ。マジでいてぇんですけどコレ。その場のノリで突っ込むんじゃなったなこりゃ」 ずきずきと痛みが復活してきた頃、銀時はそんなことをぼやいていた。 まだあらかた痛みが麻痺しているのと、アドレナリンが放出されているおかげもあるのだろう。傷のワリにはまだまだ大丈夫そうな銀時だった。 そんな彼に、歩み寄る人影があった。 新八と神楽、そして――― 「あれ? なんでオメェがいるんですか、ゆうかりん?」 恐ろしいほどに上機嫌な幽香が定春に腰掛けてやってきた。 そんな銀時の疑問の声に、幽香はニコニコと笑顔を浮かべて、その疑問に答える。 「何でも何も、私も異変を解決しに来たんだけど、おかげでいいもの見れたわ」 いい物を見れた。それは、彼女があの日からもう一度見たいと思っていたあの目だった。 それを、意外な形で見ることが出来た。だから、彼女はものすごく機嫌がよかった。 いい物を見れたという言葉に、何か別のものを想像したのだろう。銀時はものすごく微妙な顔をした。 「相変わらず趣味ワリィな。おめぇは」 「なんとでも」 くすくすと笑いながら、幽香は手を差し出す。 「さ、掴まって」 「掴まれるわけねぇだろーが!! お前この腕見ろこのやろー!!」 「わかってて言ってるんだけど?」 幽香の容赦のないからかいに、銀時の怒りのボルテージが急上昇。 本当にこの妖怪、相手が誰だろうがどんな状況だろうが容赦しねぇのであった。 そんな様子の銀時に、やれやれと肩をすくめる幽香だったが、彼をいじめるのも一旦おいておき、倒れたままの天子に視線を向けた。 「……どう? 新八」 「……寝てますね。もうこれでもかってくらいに」 幽香の言葉に新八が答える。その言葉の通りに、天子は泣きつかれたのかその場で安らかな寝息を立てて眠っていた。 それも、当然なのかもしれない。彼女はこの一週間、ほとんど眠ってなどいなかったのだから。 何しろ今回の異変、目的を果たすにはずっと雨を降らせなければいけなかった。 以前のように人の気質に任せても、望んだ結果は得られない。うっかり晴れてしまったらそれこそ彼女の努力が無駄になる。 だから、彼女は眠ることもせずに、緋想の剣を使って気象を操り続けた。 その反動だろう。彼女は一向に起きる気配を見せなかった。 「あらあら、満身創痍ですわね」 にゅっと、何もない虚空に亀裂が走り、スキマが生まれて中から女性が顔を覗かせる。 「おー、ゆかりんじゃねぇの。いつから見てやがった?」 「それはもう最初ッから。霊夢たちと一緒にね」 くすくすと笑う女性、八雲紫。彼女の言葉の通りに、隙間の向こう側には博麗霊夢のほかに、大宴会で集まるいつものメンバーが勢ぞろいしていたのである。 その様子に、銀時は思わずため息をついた。 「おいおいおい。俺はみせもんじゃねぇんですけど?」 「あら、それはごめんなさい」 胡散臭く誤る紫。そんな様子に、銀時はますます深いため息を漏らしたのであった。 そんな様子を見ても、紫はやっぱりくすくすと妖しく笑うだけ。 もう直らないんだろう。彼女のこういう胡散臭い性格は。 だけどまぁいいかと、銀時はいい加減に納得して、大地に倒れ付したまま空を見上げる。 地上では、雨はもうとっくに降り止んで、晴れ晴れとした青空が広がっているに違いないのだから。 そうして、彼女は目を覚ました。 目を覚ました瞬間、目の前にあったのはいけ好かないスキマ妖怪の顔。 「……最悪ね」 「ひどいわね、もう」 直球なその感想にも、紫は気を悪くした風もなくころころと笑う。 彼女……天子はゆっくりと身を起こし、辺りを見回してみると、その光景に気がついた。 いつものようなドンちゃん騒ぎ。いつも異常にハイテンションなそのメンバーに混じって、よろず屋の面々も楽しげに混ざっていた。 大怪我をしていたはずの銀時は、今もやっぱり包帯でぐるぐる巻き状態だったが、それでもだいぶ元気そうである。 頑丈な奴。素直にそう思う天子であった。 そして、同時に、自分が負けたのだという事実が、より一層心を支配していく。 「……情けないなぁ。決めたはずだったのに」 ポツリと呟いて、天子は自嘲するように笑みを零す。 なんてことはない。ちゃんと決めたはずなのに、ちゃんと覚悟したはずなのに、まだ帰って欲しくないという自分がいることが、ただ情けなく感じた。 負けた自分が、あいつ等に最後に出来るのは、笑顔で送り帰してやる。ただ、それだけだっていうのに。 「さ、天人もおきたことですし、記念写真でも取りましょうか」 「わっかりました!! 私の出番ですね!!」 そんな天子の心情をまるっきり無視して、紫の写真という言葉を聞いて俄然とやる気の上がる鴉天狗、射命丸文。 そんな様子を見て、寝起きでイマイチ頭の回らない頭で考えようとするが、うまくいかない。 夜のほとぼりが落ちた博麗神社。今この場の宴会は、かつてないほどに大きなものになっているらしい。 幽霊楽団のプリズムリバー三姉妹に、ミスティアのボーカルコラボ。 ある意味では豪華なそのキャスティングな歌の最中に、みんながみんな文の前に集まっていく。 「さ、あなたはこっち」 「え、ちょ、ちょっと」 紫に押されて、天子がいる場所は銀時の隣。反対側には幽香もいたりするが、それに気付くほど意識が集中できない。 終わりが近い。その事実を、否が応にも認識させられる。だけど回りはそんなことも気にしないといわんばかりに、がやがやと馬鹿騒ぎを引き起こしている。 世界は回っている。ぐるぐるぐるぐる。彼女の心の整理などお構い無しに、世界はただ無情に進んでいく。 「よぉ、目ぇ醒めたか」 「う……うん」 いつものように気だるげな言葉で問いかけられて、でも、なんとこたえていいのかわからず、つい口ごもる。 らしくないとは思う。だけど、整理をつけたはずの心が、未だにごたごたとしていて、思ったとおりの反応が出来ないでいた。 そんな天子の様子に気がついたのか、銀時は小さくため息をつきながら言葉をつむぐ。 「今まで、悪かったな。散々世話になっちまった。お前ぇにも、それにこの世界にもな」 感慨深そうに、銀時はその言葉をつむぎだす。もう一度、今いる幻想郷の風景を視界に焼き付けるように。 その銀時の表情を見て、胸がずきりと痛むのを感じる。 「世話になったのは、私のほうよ」 「そうかねぇ?」 「そうなのよ」 軽口がうまく、言葉になってくれて、それで少し心が軽くなる。 その言葉は偽りのない本心で、代わりようのない事実のひとつ。 相変わらず、目の前に銀髪はやる気なんてないような表情をしているけれど、それが彼らしいのだと、そう思う。 「それからよ、もうちょっと手加減しろよおめーは。おかげで満身創痍じゃねーか」 「だからしたってば。アレはあれで精一杯なのよ。真正面から突っ込んだ銀さんの自業自得よ」 「いや、ほらアレだ。だってあのモヤモヤ綿菓子みたいだったじゃん? つい食いつきたくなったんですよ銀さんは」 「嘘ばっかり」 意味のよくわからない返答に、今度はちゃんと笑みを浮かべることが出来た。 本当に、不思議なものだと思う。銀時と話していると、沈んでいた気持ちがいつもの調子に戻っていくのを感じるのだ。 「それじゃ、とりますよー」なんて、元気のいい鴉天狗の声が聞こえてきて、二人は同時に前を向いた。 タイマーをセットしたらしい文が、慌ててこちらに走ってくる。そして彼女は銀時の前、新八と神楽の間に陣取った。 思いっきり写真に写るど真ん中。とびっきりの特等席である。 その様子に各所で「ずるっ!?」なんて声が聞こえてきたが、文はそれを聞かないフリをして銀時に背中を預け、ぺロッと小さく舌を出して見せた。 「はい、チーズ!」 問答無用。そういわんばかりの文の言葉と同時に、パシャッという音とフラッシュが辺りを一瞬照らした。 あとは阿鼻叫喚の地獄絵図。文の行為に怒りを覚えた一部のメンツが彼女を捉えようと追っかけまわし、その文は怪我人の銀時を抱えて文字通り音速を超えて逃亡を開始した。 かつてないほど騒々しく、かつてないほど大騒ぎした大宴会。 そんな様子を眺めて心底頭痛そうに手で押さえている霊夢の姿は、実に印象的であった。 ちなみに、文に逃亡のための道具として散々連れまわされた銀時は、博麗神社に帰り着いた頃には音速を超えたGによって怪我が悪化するどころか怪我が増えまくっていたことは言うまでもない。 そうして、とうとうその時はやってきた。 辺りは先ほどまでの大騒ぎが嘘のように、しんっと静まり返っている。 ほとんどのメンバーが酔いつぶれ、この博麗神社に無事に残っているのはよろず屋のメンバーと、八雲紫、アオ、伊吹萃香、そして風見幽香と比那名居天子。 「ほら、コレは私特性のお酒。大事に飲んでよ~。鬼のお酒なんて貴重なんだからさ」 「おうよ、ありがたく貰っとく」 酒ビンに入った萃香特性のお酒を受け取る銀時。見るだけで確かにおいしそうなそのお酒を、銀時はしげしげと見つめている。 「私からはコレ。私が特にいいのを選んであげたから、大切にね」 そう言って、大きな向日葵の花を神楽に渡したのは、幽香である。 彼女のことを知っている人物なら、少なくともその行為に驚愕することだろう。 彼女の手渡したその向日葵は、彼女の能力で生み出したものではなく、あの太陽の畑に咲いている一輪なのだから。 「ありがとうアル、姉御。みんなで大事にするアルヨ!」 「ぜひそうして頂戴。でなかったら思いっきりひっぱたくんだから。主に銀時を」 「俺!!? なんでですか!!? 意味わかんねぇんですけどぉ!!?」 神楽のお礼の言葉に、やっぱり銀時を対照にした言葉の刃をさらりと混ぜる幽香。その幽香に身の危険を感じてツッコミを入れる銀時。 あれは絶対に大事にしようと思わせるには十分だったらしい。やっぱり彼女は人を苛め倒すのが大好きなのである。 銀時のそんな様子を見て、クスクスと満足そうに笑うデンジャラスサディスティッククリーチャー。この辺、彼女の性格をより強く表してると思う。 「私は写真が現像できたら紫さんに頼んでそちらにもっていってもらいますんで、それまで少々お待ちください」 「ありがとう、文さん。楽しみにしてますね」 「えぇ、待っていてください新八君。きっとステキな写真になってますから」 文の言葉に新八が答え、彼女は自信満々にそんな言葉を紡いでいる。 新聞記者としてのプライドか、それともカメラマンとしての絶対の自信なのか、どちらかはわからないが、よっぽど自信があるらしい。 その生き生きした表情が、実に天真爛漫な彼女らしい表情だった。 「うちは、なんも用意できひんかったから、これで勘弁したってな」 そう言って、少し照れたように笑うと、アオは銀時の頬に軽くキスをする。 そのことに一瞬驚いた銀時だったが、同じことを新八と神楽、定春にもやっていたので、どうやらスキンシップの一種らしいと安堵する。 この場では、誰も知らないことではあったが、実はこのとき、アオは自分の能力を彼らに使っていた。 彼女の能力は、【自身の幸運を他人に分け与える程度の能力】。 そのため、彼女はこの能力を使うたびに誰かを少しだけ幸せに出来る代わりに、自分自身の運が下がっていく。 彼女の不幸体質の一旦は、この能力こそが原因であるとも言えた。 だからか、この能力の本質を知ったとき、なるべく使わないようにしてきたのだが、それでも今回彼女は使うことをためらわなかった。 彼女にとって、彼らは第二の家族のようだったから。だから、家族に幸せになって欲しいと願うのは、当然のことなんだから。 「さて、そろそろ時間よ」 そして、そのことを告げたのは誰でもない、八雲紫だった。 彼女の能力が時限の境界をあいまいにし、世界と世界を繋いで道を作る。 巨大なスキマが出来上がり、それは彼らが通るのをただ待ち続けている。 「みんな」 小さな言葉。その言葉を紡いだのは、ほかでもない天子だった。 その言葉に、銀時たちが振り向く。その視線が天子に向けられて、彼女は小さく深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。 そうして、彼女は精一杯の笑顔を浮かべた。決闘に負けたときはそうやって彼らを送り帰そうと、ずっと心に決めていたから。 うまく笑えていたか、少し自信はなかったけれど、それでも、天子はその言葉を彼らに投げかける。 「今まで、本当にありがとう。さようなら」 いってしまってから、涙がまた溢れそうになる。だけど、それだけは見せたくなくて、彼女は必死になってそれを押さえ込んだ。 それは、彼女の秘めた精一杯の気持ち。今まで楽しい時間をくれた、彼らに対する最高の賛辞。 もっと、うまい言葉があったかもしれない。だけど、それ以上どう言葉で気持ちを表せばいいのだろう? だから、きっとそれだけで十分だったのだ。それだけあれば、彼らは理解してくれるだろうから。 「そりゃこっちの台詞だっつーの。けどな天子、一つ間違ってんぞ」 そして、帰ってきたのは意外な返答。一瞬「え?」と呆けた声を上げてしまいそうになった天子だったが、次に彼から飛び出した言葉にまた驚愕することになる。 「こういう時は、『さよなら』じゃなくて『またな』って言うもんだろーが」 その言葉に驚いたのは、何も天子だけではない。この場にいた、ほとんどが、その言葉の意味を理解して内心驚いていた。 この男は、またいつか会えると思っている。彼女達と出会えるのだと、微塵も疑ってなんていなかった。 それが当然のことのように、彼はそんな言葉をいつものように紡ぎだしていた。 「あっははははは!! いやぁ、銀時らしいねぇ!!」 と、これは萃香。 「まったくね。一度頭カチ割ってどうなってるか見てみたいわね」 これは幽香の弁。 「あやや~、最後の最後まで変わりませんねぇ」 苦笑しているが、どこか楽しそうな文。 「まぁ、銀さんらしいっちゃ、らしいなぁ」 どこか呆れたようなアオの言葉。 「あらあら、それはつまり私にみんなから喧嘩売られろってことなのね。酷いですわ」 言葉とは裏腹に、実に楽しそうにいう紫。 「そうですよ。またいつか会えますって。今度、僕等の家にも来てくださいよ。案内しますから」 「そうアル。私たちよろず屋銀ちゃんが面白おかしく案内してあげるアルヨ!」 新八の言葉に同意するように、神楽は笑顔を浮かべてそんなことを言う。 銀時だけでなく、彼らもまた会えるのだと疑っていない。 そんな彼らを見ていると、ごちゃごちゃと悩んでいた自分が、なんだか馬鹿らしく感じてしまう。 そう、自分も彼らの一員。彼らの仲間。だったら、彼らのその能天気さに、自分が乗ったって何にも罰は当たらないだろう。 「えぇ、わかった。いつかそっちに行くから、絶対に案内してよね。約束よ?」 いつもどおりの、天子の言葉。悩みも悲しみもない、いつもどおりの彼女の屈託のない言葉。 その言葉に安心したように、銀時たちはそろってうなずいて見せた。 その様子にみんなして苦笑して、そしてゆっくりと時は過ぎていく。 「それじゃ、またね」 「それじゃ、またな」 笑顔で伝えた、再開を約束した言葉。 その言葉を最後に、銀時たちはそのスキマをくぐってもとの世界へと帰っていく。 そうしてスキマが消えて、彼らはこの幻想郷をあとにした。 だけど、誰も悲しんではいない。だれもさびしいとは思わない。 だっていつか、また彼らと会えるのだということを知っているから。 だって、彼らとまた会うのだと、そう約束したのだから。 それは、長いようで短かった、楽しい楽しい、三ヶ月の間の出来事。 ■あとがき■ みなさん、どうだったでしょうか? 最終話「幼心地の有頂天」をお送りいたしました。これで残るはエピローグのみとなります。 なんか過去最長の話になってしまい、皆さんが飽きないか心配で仕方ないです^^; ところどころ真夜中に書いた部分もあるので、どこか分がおかしかったりするかもしれません。 今回アオの能力は初公開。色々なやんだ結果こうなりましたが、皆さんいかがだったでしょう^^; それでは、エピローグはなるべく早く上げたいと思います。 ではでは、今回はこの辺で。