※東方緋想天のネタバレがあります。ご注意ください。 今回オリキャラに準ずるキャラクターが新たに登場するのでお気をつけください。 「すまないな、わざわざ朝早くに付き合ってもらって」 「いいんですけどねー、別に。銀さんは気にしませんよー」 朝霧が立ち込める早朝、村から少し離れた場所の田畑に彼らの姿はあった。 一人はこの里で寺小屋の教師を務め、なおかつ里の守護者でもある上白沢慧音。 そんな彼女の傍らにたたずむ銀髪天然パーマーはわれらが主人公、坂田銀時。 その彼の少し後ろについてくるように、眼鏡とツッコミがとりえの地味少年、志村新八。 新八の隣には、純白の巨大犬の定春の背に乗った毒舌チャイナン、神楽。 合計四人と一匹は朝も早くから村から少し離れたこの場所を歩いている。 なんでも、今朝早くに農業に勤しんでいた里人Aさんが「妖怪が罠にかかっている」という報告が慧音にあったらしい。 そんなわけで、万が一のためにとよろず屋のメンバーも連れて件の場所にと訪れていたのである。 「でも、どうするんですか、その妖怪。罠にかかってるんでしょ?」 「退治するアルカ? それなら私にまかせるネ!」 新八が言葉をつむぎ、それに便乗するように神楽が言う。 そんな神楽は言い終わるや否や「捻りこむように、打つべし、打つべし、打つべしっ!!」と妖怪すら殺せそうな明日のためのジャブを繰り出している。 さすが宇宙最強の夜兎族。そのジャブが既にギャラくティカマグナム張りの高威力なのである。 「まぁ、相手の出方次第だ。おとなしく帰るならよし。そうでないなら……、っと着いたぞ」 最後まで言う前に目的地に到着し、慧音はそこで言葉を切った。 朝霧に浮かぶ、ぼんやりとした影。そこはかとなくその黒いシルエットは大木の枝にプランプランと何かがゆれていたりする。 「……まさか、アレですか?」 「……そう、だろうな」 もう既にいやな予感しかしていない新八の冷静な言葉に、冷や汗流しながら慧音が力なく言葉を返す。 近寄っていけば徐々に姿がハッキリと映り、罠にかかった妖怪が片足を紐に引っ掛けられて青い顔のままブランブランと揺れている。 あぁ、確かタロットカードにこんな感じの絵があったよな? などと慧音先生は思っていたが、そんな彼女の現実逃避とは別にピクリともしない青い顔の妖怪。 スカートがめくれて下着が見えているのはご愛嬌。でも事態はそんなことを気にするような場面でもなく、いやな沈黙が一同を包んでいる。 「いやー、慧音先生。罠にかかってるのが妖怪で俺たちどうしたらいいかわかんなくて、どうしたらイイですかねぇ、アレは」 農作業にいそしんでいた親父さんが慧音に語りかける。そちらに一瞬視界を移し、そしてまた逆さづり状態になってる妖怪に視線を向けて、小さくため息。 ((((とりあえず下ろしてやれよ)))) 慧音とよろず屋メンツ全員が同じことを思ったことは言うまでも無い。 ■東方よろず屋■ ■第十五話「幸せの青い鳥とか言うけど割りと結構見ること多い」■ 妖怪の少女はひとまずよろず屋に運ばれ、時刻が昼になろうかという時間帯に彼女は目を覚ました。 「ホンマにお世話になりました」 「いや、さすがにあの状態で退治しようと思うほど非道じゃねぇぞ、俺は」 深々と頭を下げる妖怪の少女に、銀時は後頭部をぽりぽりと掻きながら言葉をつむぐ。 改めて少女を見ると、随分と青いという印象を深く受ける少女だった。 長いロングの鮮やかな青い髪に、同色の鳥の翼と琥珀色の瞳。ところどころフリルで装飾された白のワイシャツに、黒のミニスカートといった外見は人間の14~16歳ぐらいの少女の姿。 少女は「アオ」と名乗り、ああなった経緯をぽつぽつと語り始めたのである。 何でも、彼女には姉がおり、名を「ソラ」というらしい。 彼女にとっては自慢の姉ではあったが、同時にかなり厳しく放任主義。 もともとは妖怪の山でひっそりと暮らしていたらしいのだが、姉の「幻想郷を見て歩き体感してきなさい!」という宣告にぽーんっと放り出されたのだという。 結果、まともに妖怪の山から出たことの無かった彼女が食事なんかをまともに取れるはずも無く、空腹も一週間続けばまともな思考力が失われる。 普通に考えれば人間なら死亡している断食期間であったが、そこは妖怪。だけど妖怪でもその空腹感には耐えられなかった。 結果、人里のはずれにあった田畑の野菜や果物に目をつけ、なりふりかまわず盗もうとして罠にかかったのだという。 非常に迷惑な話だが、彼女にとっては死活問題だったのである。その辺を歩いていた人間を標的にしなかっただけまだマシだったのだろう。 まぁ、問題があったといえば。もともと体力の限界が近かった彼女が、極限の空腹状態から人がいなくなる夕方から早朝まで逆さづりにされて無事なはずも無く。 「気がついたら、あんさん達に助けられとったっちゅうわけやな」 うんうんと頷くアオ。ちなみに用意された茶菓子はすべからく彼女の胃袋に消えていった。 その話を聞いて、慧音は思わず頭を抱えた。なんというかこの少女に致命的に危機感が欠けていたせいだろう。 つい先ほどのことなのにもう過去のことにしているし、自分が死に掛けていたという自覚も無い。 まぁ、救いといえば、どこと無く紅魔館の紅美鈴や、竜宮の使いの永江衣玖と同じ「人を襲わない妖怪」の独特な雰囲気を感じることだろう。少なくとも悪人ではない、と慧音は直感する。 「そうか。それなら早々に自分の家に帰るといい。こんなことが度々おこっては里の人々も気が気でないし、君自身もこれ以上は生活できないだろう」 「いやー、そうなんやけどなぁ」 慧音の正論に、しかし、アオは気難しそうに、それでいて困ったように唸ってしまう。 「ソラねぇちゃんには『500年は帰ってくるな』いわれとるし、このまま帰ったら間違いなくウチ妖怪の山の滝に重石付ノーロープバンジーさせられるの目に見えとるもんなぁ」 「どんな姉だソレは!!」 思わず慧音先生ツッコム。何にってその姉にあるまじき発言とか、妹に対する仕打ちとか色々。 その慧音のツッコミに頷くよろず屋メンバー。ちなみにこの日、幽香と天子は先日の「幽々子カフェ襲来事件」にて筋肉痛でダウンしていたりするが、それはこの際おいておく。 そんな一同の反応に、「あはは」とわりと能天気な笑顔を浮かべるアオ。 「いや~、ウチは基本的に根っからの不幸体質やからなぁ。滝にダイブさせられるとか、スズメバチの大群に追い掛け回されるとか、弾幕勝負の巻き添え食らったりとか日常茶飯事なんよ」 「オイィィィ!! にこやかに言うところじゃねぇよソレ!? 嫌だよそんな命の危機に脅かされた日常!!」 えらくヘヴィな体験を日常茶飯事で済ますこの少女に、新八が思わずツッコミを入れる。 その様を眺めていた慧音だったが、本当に先ほどからため息が止まらない。この妖怪、下手すると知らない間に死んでるんじゃないかと思うほどの不幸率である。 このまま外に放すか? いや、多分それだとしばらくしたら餓死死体が見つかりそうなんで却下。 妖怪の山に送り返すか? いや、それはそれで彼女が滝の下で藻屑になってそうだ。 じゃあ、一体どうすれば……? 「銀さん、家で居候させましょう。この子、一人にするとマジで死にそうなんですけど?」 どうやら慧音と同じ結論に至ったらしい新八が、銀時に言葉を投げかける。 しかし、銀時はというと別段興味なさそうに頬杖をついてため息をつくのだった。 「ばーか、新八。ウチにそんな余裕あるわけねぇだろーが。寝言は寝てから言いなさい、新八君」 「そうあるね新八。人間善意だけじゃ生きてはいけないアルヨ。善意でお腹は膨れないアル。所詮世の中お金ヨ新八。 「酷い!! そして黒いよアンタ等!!」 そしていつものやり取りなよろず屋メンバー。その様子を、ぽかんとした様子で眺めているアオに、慧音がぽんと肩をたたく。 「私も新八君の意見に同意するよ。今更この家に妖怪が増えたって変わらないだろ」 慧音の言うことももっともである。何しろこのよろず屋、今日は筋肉痛でダウンしているが、最強クラスの妖怪が割りと毎日入り浸っているのである。 里の人たちも半黙認状態だし、今更ここに妖怪が一匹増えたところで何も言うまい。もとい、誰も文句がいえない。という事実はこの際バットでホームランしておき。 「アオ、君はどうだ?」 「へ? いや、そらありがたいんやけど……ホンマにええの?」 「いいわけねーだろーが!! ウチの財政状況考えろ慧音先生よぉ!!」 いつの間にやら取っ組み合いのけんかになっている三人のほうから、銀時が二人にボこられながら大声で抗議する。 そんな彼の様子に、慧音は「仕方がない」と小さく呟き。 「月に大根、にんじん、キャベツにほうれん草を提供しよう」 『OK、俺(私)達は諍いを捨てて協定の輪をとりましょう』 ピタッとあっさりと喧嘩を止めて慧音の案を承諾する銀時と神楽。 「アンタ等……」 そして頭痛そうにその光景を眺めて頭抑えている苦労人、志村新八。 なぜか、アオは彼と仲良くなれそうな気がした。主に不幸体質つながりで。 「じゃあ、お前は新人だから私の舎弟ネ。酢昆布買ってきな!」 『うぉぉぉぉい!! 第一声がそれか!!?』 大胆不遜とはこのことを言うのか。ソファーにふんぞり返った神楽は、見下した目でアオを睨みつけ、新八と慧音が同時に突っ込む。 その神楽の態度と言葉が、アオにとっては凄く不快だった。 仮にも、アオは温和なほうだが妖怪である。そんな彼女が、たかが人間にそんな風に見下されて黙っていられるはずがない。 妖怪であるがゆえに、神楽のその態度がとにかく、不快でたまらなかった。 「ふざけるんやないで小娘!! ウチは腐っても妖怪や!! アンタなんかの舎弟になった覚えは―――」 ズドンっ!!!!! かっこよく啖呵を切ろうとしたアオの言葉は、そんな大轟音に遮られることとなった。 神楽の放った拳がアオの顔面スレスレを通過し、空気の焼けるきな臭い匂いが鼻につく。神楽の拳はその勢いのままに壁に突き刺さり、巨大な穴を空けさせた。 ピタリと、口も動きも止まる。ついでに身動き一つとれずにただ呆然と神楽の視線を真正面から受け止める。 「なんか言ったアルカ?」 「イエ、ナンデモアリマヘン」 眼つけられながら神楽に言われ、アオは情けなくもカクンカクンと首を機械のように振るしか出来なかった。 残念ながら不幸体質Aランク突破してEXランク。目の前に対峙する少女は宇宙最強と名高い夜兎族。 その気(夜兎の血全開)になればレミリアとだって接近戦で張り合えるようなモンスターなのである。 そんな彼女に、強さで言えばルーミアやミスティアレベルの彼女には到底太刀打ちできるはずも無く、あえなく彼女は神楽の舎弟という形でよろず屋に居候する羽目になったのである。 端的に言えば、アオの働きぶりは目に見張るものがあった。 部屋の掃除、食事の用意、買い物や花の手入れetcetc なんだか半泣きで作業に没頭するさまはかなり哀愁を誘うが、その辺に目を瞑れば実に優秀である。 しばらくは自分で提案したコトながら「早まったか?」などと思っていた慧音だったが、徐々に銀時たちと受け入れられ始めている彼女を見て、これなら大丈夫かと安心する。 今では銀時や新八、神楽にも笑顔を見せている。なら、多分大丈夫だろうとは思うのだが、イマイチ釈然としない。 ま、大丈夫だとは思うので、その日は一旦帰ってまた明日訪れることにしたのだ。 そして、翌日。彼女と彼はそこにいた。 途中でふらっといなくなった銀時とアオを探す羽目になった一同だったが、空から探していた慧音はすぐに見つけた。 よろず屋の屋根の上。そこにごろんと横になった銀時と、横になりながら空を見上げているアオの姿。 まったく、とため息をつきながら、慧音は屋根に降り立った。 「何やってるんだ、お前達は」 「いーだろ、慧音先生。こーやって昼寝するっていうのも乙なもんだぜ?」 「そーそー。気持ちえぇよ? 青い空が綺麗で、手を伸ばせば掴めそうや」 あきれたような慧音の言葉にも、銀時はいつものようにやる気無く答え、アオはケタケタと笑いながら手を伸ばす。 憧れに手を伸ばすかのように。恋焦がれる場所に届くように、あらん限り力いっぱい手を伸ばして、そして諦めた腕が力なく横になる。 「ウチな、空、飛べへんのよ」 ポツリと、小さく言葉をつむぐ。春の陽気が心地イイ。麗らかな日差しが全身を清めるように降り注ぐ中、アオは相変わらず晴れ渡った青空を見上げていた。 彼女の不幸な体質は生まれつきだった。生まれつき翼は不自由で満足に飛行も出来ず、幸せを運ぶはずの青い鳥の妖怪であるはずなのに、彼女は青い空に恋焦がれた。 姉に何度も訓練してもらった。厳しくもあったが、それ以上に空が飛べるならと苦にはしなかった。 それでも、彼女の願いはかなえられなかった。 必然的に、彼女のツバサは飛ぶためのものではなく、ただの装飾品に成り下がった。 それが、彼女には何よりも辛かった。 「鳥の妖怪なのに、ウチは空を飛べへん。もっとも空に近いはずやのに、ウチは生まれてからあの青い空はずっと遠い場所やったんや。 あの青い空を自由に飛べたら、それはなんて―――」 あぁ、そうだ。あの青い空を、自分の翼で自由に飛びまわれたら。それはなんて、気持ちいいことだろうか。 どこまでも飛んで行きたい。どこまでも吸い込まれそうなあの青い世界を泳げたのなら、どれだけ気持ちがいいだろう? 想像することしか出来ない。それでも、彼女はその妖怪なら半ば「あたりまえ」に近い飛翔という事実に、ただ憧れた。 その憧れこそが、慧音が感じた違和感の正体だった。 おかしいと思ったのだ。彼女は青い鳥の妖怪で、立派で美しい青い翼がある。 なのに、彼女は昨日も今日も、その翼をまったくといっていいほど動かさなかった。 彼女の翼は、動かさなかったのではない。【動かせなかった】のだ。 本来なら空に近いはずの妖怪なのに、彼女は最も空から遠い生き物になってしまった。 それはなんて―――つらいことだろうか。 「―――だったら」 唐突に、銀時は言葉をつむぐ。 自然と彼に視線が集まるが、銀時は気にした風も無く言葉を続ける。 「俺たちが手伝ってやるさ。何度でも、俺たちでよければな。諦めなきゃ、いつか報われるもんだろ? なら続けりゃいい。挫けたっていい。弱音をはいたってかまわねぇ。 確かに、難しいことなのかもしれねぇ。俺は翼なんて持ってねぇし、オメェの気持ちも理解してやれねぇ。だからこそ頼れよ。そんときゃ、手伝ってやらんことも無いさ」 「僕だって手伝いますよ」 「私だって手伝うネ」 ひょこっと、銀時の言葉に続けて飛び出る言葉。 気がつけば、はしごが掛けてあったほうから新八と神楽が屋根の上に上がってくるところだった。 「おいおい、いつから話きいてやがったんだ。つーか、下の受付はどうすんだコノヤロー。客着たらどうすんだ」 「大丈夫ですよ。幽香さんがいますから」 「いや、それはかえって大丈夫じゃない気がするんだが……」 新八のさらっとした返答に、慧音が思わずツッコミを入れる。 やっぱり新八もいい具合に毒されているらしい。アレが視界に入ったら大抵の里の人間はまず逃げるぞ。 そんな慧音の心配を気付いているのかいないのか、新八も神楽もごろんと横になった。 新八に「さ、慧音さんも」と促され、最初は嫌がっていたのだが、やがてしぶしぶと横になる。 五人そろって屋根の上で寝転がる。ある意味では、滑稽な光景なのかもしれない。 「頼りないかもしれないですけど、遠慮なくいってください」 「まったくアル。舎弟は舎弟らしく、遠慮なく私に相談するといいアル」 「私も、……そうだな。少しぐらいなら力になるさ」 新八が、神楽が、そして慧音が、アオに言葉を投げかける。 こんなにも、空は青く澄み渡っている。飛べない自分を馬鹿にするわけでもなく、彼らは手助けをしてくれるという。 それが、こんなにも、満たされてしまいそうなほど嬉しかった。 どうしてかはわからない。目から零れ落ちそうな熱い何かを拭うように、アオは腕でごしごしと擦る。 腕をどければ、また青い空が視界に映る。 その姿がとっても綺麗で、見惚れてしまう美しさ。その世界にいつか、私は飛びたてるのだろうか? 「ありがとう」 満面の笑みで、アオは礼を言った。 その言葉に、苦笑が重なって、アオはおかしくなってケラケラと笑った。 それが、よろず屋に幸せを運ぶ青い鳥が住み着くようになった日の出来事だった。 ■あとがき■ こんばんは、白々燈です。今回は試験的な話でしたがいかがだったでしょうか? 人間のオリキャラは店長がいたので、今回は妖怪のオリキャラを作ってみようという話でした。元は童話の幸せを運ぶ青い鳥をイメージしました。 一応、これ以上明確なオリキャラは登場しない予定です。オリキャラ嫌いな人本当にごめんなさい。 実はこのオリキャラのアオ。まだ能力が決まっていません。 一応、自分は「身近な幸せに気付かせる程度の能力」とか考えてますが、それじゃてゐとかぶるんですよね。 なにか案があったら感想のついでに書いてくださいw あと今回短いうえに時間が無くて見直ししてないので誤字多いかも…。あと展開も急だったかもしれない。色々スミマセン。 それでは、今回はこの辺で。