定食屋でハラを満たした俺は、マドツキを連れて一旦滞在中の安宿に戻った。依頼内容の再検討と、今後の方針を決める為である。
マドツキの面倒を見ると決めちまった以上、依頼には一層気合いを入れる必要があるからな。なにしろ、ガキを養うのには結構なカネが掛かると聞くし。
ちなみにホテルのロビーではちょっとした一悶着があった。そりゃ一月以上滞在している明らかにカタギじゃない客が、急に小さい少女を連れて来たらビビるのは分かる。逆の立場だったら俺だってビビる。
だけどなにも警察に電話掛けなくても…。まぁ慌てた俺がハンターライセンスを見せながら、適当な理由をでっちあげた事で、何とか未然に防げたんだが。…なんか先が思いやられるぜ。
いやいや、そんな事は片隅にでも追いやって、今は依頼に集中だ。俺はハンター協会支部でプリントアウトして貰っていた依頼詳細にもう一度目を通す。ちなみにマドツキは、室内のテレビを真剣な顔で食い入るように見つめていた。
詳細のうち、まず気になるのが最初に発見された遺体に見られたという不審な部分。はっきり書いていないのが気になるな。情報を集めるとしたらまずは警察署だろうか?
次に生き残った被害者たち。犯人に到るには現状、情報が不足しすぎてる。こいつらの証言は貴重だろう。第二の行き先は病院に決定。
そして一番引っかかるのが協会の対応だ。なぜハンター協会はこの事件を念能力者による仕業と断定した?集団ヒステリーやらの可能性もあるだろうに。
自殺させる能力者か、或いは自殺に偽装した殺人と協会は見抜いている?べらぼうな報酬も良く考えるとおかしい。…しかしこれは考えても仕方ないか。ハンター協会上層部の判断なんぞ、俺には及びもつかん。調べる方法も無いしな。
さて、現時点で推測される犯人像はなんだ?動機はマフィアへの怨恨?はたまた無差別の犯行か。前者だとしたら、マフィアに恨みを持つ人間を探ればいいが…。これにはクラピカの助けが要るな。裏社会の情報は中々表には漏れない。ライセンスを使って調べるよりも、身近な伝手を頼るべきだ。
さらに考えるべきは犯人の能力。先月の一件で念の恐ろしさを実感したからな。いくら情報収集が中心とは言え、その過程で犯人とカチ会わせちまう可能性は十分にある。予め用心するに越したことは無い。
マフィアの事務所に潜入して多数のスジモンどもに気付かれず組長を暗殺、あるいは自殺に追い込む。そしてそれからタイムラグのある第二の犠牲者。やはり一番可能性が高いのは操作系か。人を自殺させるなんてそれくらいしか…。
いや待てよ?変化系はどうだ?例えば念を毒物…。違うな、感染性のある病原体に変えて組長を殺害。そして第一発見者に感染した後に他のヤツラにも伝播した。おおっ、これはビンゴじゃないか?念能力なら司法解剖で検出されないのも頷ける。なかなか冴えてるぞ、俺!
だが能力が推測できてもどうする?俺ははっきり言って念初心者。そんなバケモノみたいな敵に対処できるか?…この辺のこともクラピカに聞かなきゃダメそうだ。あいつは俺よりずっと念に精通している。
よっし、それじゃあまずはクラピカに連絡を取るか。
「おいマドツキ。すまんが電話掛けるから、音下げていいか?」
俺がそう言うと、マドツキは素直にこくんと首を振った。うんうん、聞き分けが良くて何より。リモコンで音量を下げつつ、空いた手で携帯を耳に当てる。
………。長く続く呼び出し音。暫くして繋がったと思ったが、聞こえてきたのは無機質な女の声と、それに続く甲高い電子音。やっぱり仕事中だったか?しょうがねえ、俺は取り合えずメールで用件を伝えることにする。
え~と、まずは用件と、依頼の詳細も一応送っといたほうがいいか?くそっ、文字数が多くてめんどくせえな。おっと、あっちは病み上がりだから最初に見舞いの文句も。マドツキの事は…、まあ書かなくてもいいか。………折り返し連絡求む、っと。これでよし。
「わりぃなマドツキ!もうボリューム戻していいぜ…。…?」
俺が振り向くとマドツキはテレビの前、自分の足を抱えて座ったまま器用に眠っていた。すぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてくる。その姿を見て、俺はぽりぽりと頬を掻いた。あ~、まぁ…疲れてたんだろうな。こいつが今日までどこに居たか知らんが、色々あったんだろう。
しゃーねぇな、ベッドに運んでやるかね。俺はマドツキを抱き上げ、一つしかないベッドに運ぶ。見た目通り軽い体だ。その間、マドツキは全然起きる気配が無かった。ついさっきまで起きてたのに、こいつ無茶苦茶寝付きいいな。
本当はこの後警察署にでも行きたかったんだがなぁ。だがこいつは目が覚めた時、俺が居なかったら不安がるだろう…。俺も色々あって疲れたし、明日に廻すか。…疲れたのは大体こいつのせいな気もするがな。
ん~、と大きく伸びをすると、目の端に作りつけの書机が写る。その上には以前買ったきりになっていた参考書とノートが乱雑に置かれている。…。ふぅ、今日この後は受験生らしく過ごすのもいいか。
室内にあるのは、規則的で静かな寝息、紙の上をペンが滑る音、それに時々頭を抱えた俺の唸り声。――まぁこんな時間も悪かないな。
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今回は短い繋ぎ回でした。ちょっとだけ鋭い?ところを見せたレオリオさん。
それと感想板に寄せられたご意見を元に、だい2やをちょこっと修正しました。
この場で改めて御礼申し上げます。また他の皆様もご意見ご感想ありがとうございました