あの野郎
許さねぇ……!
配点(嫉妬)
その日、彼は実家の手伝いに勤しんでいた。
彼の実家は商店で、アクセサリーや小物を販売している。
神道系の白砂台座だけでなく英国の"大属の芸術"などとも提携していてデザインや種類は豊富だ。
カウンターでそろばんを弾きながら時間を潰していると来店があった。
犬臭い忍者と金髪巨乳だ。アリアダスト教導院三年竹組に在籍する彼にとっては同級生であり、学内でも時々顔を合わせる。
二人は店内を見回り、陳列されたアクセサリーを手に取って眺める。
「メアリ殿、これなんてどうで御座る?」
「私は点蔵様が選んだものならなんでも」
「いやいや、自分の方こそメアリ殿が気に入ったものなら破産覚悟で買うで御座るよ」
「まあ、点蔵様ったら」
バキィ! と持っていたそろばんが砕けた。
そして心の深いところから込み上げてくる激情があったが、何とか営業スマイルを維持する。
それから二人は十分ほど商品を吟味した後、それぞれアクセサリーを買って相手にプレゼントしあっていた。
●
「……」
手伝いが終わると同時に彼は店を飛び出し、
「エマージェンシーエマージェンシー!」
彼が魂の叫びを上げれば周囲に無数の表示枠が展開する。
映っているのは年頃の男が多いが、年配の男や女性の姿もある。
「これより緊急会議を開く! 者共、集まれ!」
呼びかけにJud.と返答があった。
彼は満足げに表示枠を消し、走る速度を速める。
●
辿り着いたのは一軒の家屋。ここが彼等の隠れ家だ。
表向きTsirhcの集会場という事になっており、外から中の様子を窺う事は出来ない。
禁教のTsirhc関連の施設は見て見ぬ振りをするのが武蔵内での暗黙の了解なのでこそこそやるには都合が良い。
入ってすぐのリビングで先程表示枠で連絡を取り合った面々が彼を迎えた。
彼は空いている場所に座り、早速店で遭遇した一部始終を話した。
それに対する反応は、
「うぜぇ……」
「忍者こけて股間強打しろ」
「……え……誰?」
「温暖化活性化の罪で逮捕しろよ」
「いやぁ、むしろ俺の体温が下がったぞ」
「ちょっと触手×忍者のネーム切ってくるわ」
口々に憤りを吐露する。
また、M.H.R.R.出身の男性が鬼気迫る形相で紙に文字を書き殴っていた。
「もげろもげろもげろもげろもげろもげろもげろ……」
何でも独逸に古くから伝わる民間術式で、文字の力を具現化出来るらしい。
「つーかさあ、この前も往来で副長交えてセックスがどうこう言ってたぞ」
「あの……えっと、名前は思い出せないが忍者の蛮行はそろそろ許し難い」
彼等は人呼んでしっと団。主に公共の場での風紀の取り締まりを主任務としている。
語源には諸説あり、一説には(バカップルに対する)座り込み活動(sitdown)からだと言われている。
その歴史は古く、神代の時代には存在していたとされる。
長い歴史を誇るだけにメンバーは世界各地にいる。
最近の研究ではプラトンもしっと団の一員であり、歴史再現で独身を貫かねばならず、更に史実の方が男色家であったと気付いた時、彼は苦悩と失意で狂乱し、近くにいた僭主にレスリングを仕掛けて幽閉されたとかされなかったとか。
他にも、師であるソクラテスが入団しようとするも全会一致で拒否されたという話もあるが、真偽は定かでない。
「あーくそ! 何か制裁加えたいけど、あんなんでも一応王配だしなぁ」
「エロゲ地雷(ヴァージンクイーンエリザベス)も無効化されるとは想定外だったぜ」
「天然も良いよね」
「よし、女装男子がヒロインの「淫ポ搾る」でも送るか。流石にあれなら不和が生まれる筈……!」
「食事に下剤混ぜたけどそっこーで看破された」
「『らめえぇぇ! そこは汚いで御座るぅぅ!』と」
使命を果たす為に議論を重ねていると、不意に、
「制裁を加える方法がない訳ではない」
口を開いたのはメアリを慕って英国から転校してきた異族の青年だ。
「聖譜記述によれば、次期英国国王であるジェームズ一世の父親、ダーンリー卿は暗殺されている」
「――!」
メンバーの中に衝撃が走り、皆は互いに顔を見合わせた。
「武蔵はヴェストファーレン会議で行動の是非を問われる訳だが、やっぱり聖譜記述には従っていた方が他国の心証もいいよな」
「……これは謀反じゃない。ただ歴史再現を実行しようとしているだけだ」
「歴史再現じゃあ仕方ない」
「まあ、一応特務だし、殺すのもあれだから九割殺しくらいで勘弁してやるか」
「では俺はボスウェル伯辺りを襲名出来るように頑張ろう」
うんうんと皆は頷き合う。
内通、調略、造反、暗殺。
裏切りと謀略渦巻く戦乱の世において、また一つの陰謀が練り上げられていった。
英国史について調べてる時につい思いついたネタ。
アニメが始まってから創作意欲が高まってヤバい。