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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 再開のもたらす波、それに乗り動く人
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/09/09 09:34
「クラス対抗戦、復活かあ……」
「そういえばシャルロットさんは一夏さんとタッグを組んでいましたけれど、共に苦境を乗り越えられたのでしたね。羨ましい事ですわ」
「えへへ」
 ここは、俺の部屋。タッグトーナメント復活をいち早く知らせたセシリアとシャルが、それぞれそんな感想を漏らしていた。
はて、セシリアは何が羨ましいんだろうか? セシリアとだって、クラス対抗戦の乱入者や銀の福音の時に一緒に戦ったのに。
「……ちょっと、一つ良いかしら?」
 その時、物凄く不機嫌な鈴の声がした。こういう声は、珍しい。面と向かって『貧乳!』とか言われた時レベルだ。
「何で、当然のようにこいつらがいるのよ!」
「いや、しょうがないだろ。セシリアやシャルが部屋の前にいたんだし」
 一般の生徒なら秘密にしておかないといけない部分もあるけど、この二人なら問題ないしな。
「そうですわ。客人をもてなすと言うのは、古今東西を問わず人の道でしてよ」
「えへへ、ごめんね鈴」
「きいいいいいい! ……なんであたしが一夏と二人きりになろうとすると何時もいつも邪魔が入るの? あたし、呪われてる?」
「ん、どうかしたのか? よく聞こえなかったんだけど」
「なんでもないわよ、馬鹿!」
「こら、クッションを投げるな!」
 何でいきなり不機嫌になるんだよ、まったく。
 

「おほん。……まあ、本題に入りますけれど。先ほどのクラス代表のみが集められた話し合いは、それでしたのね」
「将隆と簪さんの試合に乱入したあの機体のせいで、中断されてたんだけど。復活するんだね」
「そういう事だな」
 まあ、あの二人も頑張ってきたんだしな。あんな形で中途半端に終わるのは嫌だっただろうし、良かったよな。
「それで、俺や鈴は警護に回るように言われたんだ」
「なるほど、ね。まあ、僕は学園の警備に回されるかもしれないけどね」
「学園の警備?」
「うん、僕は一応学園への人材派遣、って形で来校しているからね」
 あー、そういえばそういう名目になったんだったな。
「あれ、じゃあ何でシャルはさっき呼ばれなかったんだ?」
「……それはさっき、フランスから事情が説明されたよ」
「え?」


「……そうなのか」
「うん」
 シャルが話してくれた内容。それは、さっき彼女が言った『学園への人材派遣』が完全に、そして正式なものになったということだった。
国籍はフランスに残るものの、その庇護は基本的に受けられない。消耗部品の補給も、共有できる物は全て学園持ち。
一種の、切捨てに近い形であったらしい。じゃあ、何故学園から説明されていないのかというと。
「中立を守るのも、大変なんだな」
 フランスがシャルを(実質的に)切捨てたとはいえ、他の国はそうは見ない。何かあれば、フランスに戻す場合もありえる。
そう考えた時、学園の中立性が損なわれる可能性がある。
だからこそシャルは、鈴の言葉を借りれば『当日に突然、何も知らされずに担当とされた場所を守らなければならない』境遇になったのだという。
「……あれ、じゃあ俺が説明したのもまずいのか?」
 俺は構わないと思ったが、万が一、これでシャルの立場がさらに悪くなったら……!
「大丈夫よ。あんたが言った事程度じゃ、事態は悪化しないわ」
「そ、そうか」
 なら良かった。
「まあ、僕としてはフランスにそんなに固執する要素があるわけじゃないし。……ある意味、将来に関しては良かったのかもしれないね」
 シャルがそう考えるなら、それで良いんだけど。はて、何故俺をチラチラ見るんだろうか?
「ちょっと、あたしも同じである事を忘れないでよね。……あんたらの前だから言うけど、あたしは別に『凰』でなくてもいいんだから」
「ぐぬぬ、わ、私には選べない道をシャルロットさんも鈴さんも選べるのですね」
 鈴もシャルロットに挑発的な笑みを向け、セシリアは悔しげだ。……わけわからん。


「……でも、まじめな話。あたし達やシャルロットが警備に回っても、あまり役に立てないかもしれないわね」
「どういう意味だよ、鈴。そりゃ、簡単じゃないだろうけど、一生懸命やれば」
「でもね、一夏。臨海学校でも出てきた、あのティタンっていうISが出てきたら――撃破は兎も角、侵入はほぼ防げないよ」
「例の瞬間移動の奴、か……」
 俺の言葉を遮り、鈴が言った相手、ティタン。俺は、じつはそいつには直接会ったことは無い。
クラス対抗戦では鈴を庇った俺を撃ったのもティタンらしいし、学年別トーナメントでも侵入者を学園に紛れ込ませたのはティタンであるらしい。
そして銀の福音を一時封印し、VTシステムを発動させたシュバルツェア・レーゲンや乱入してきた火の鳥を打ち破ったのもティタンらしいが。
「なあ、あの瞬間移動を防ぐ手段って無いのか?」
「どうなんだろう? 何らかの制約があるのかな?」
「転移で消費するエネルギー総量、連続使用可能時間、移動距離の限界……。必ず、どこかに制約はあると思いますけれど。
一番気になっているのは『何処にでも転移できるのか』ということですわね」
「何処にでも?」
「ええ。たとえば、ですが。――今、この部屋に転移してくる事は出来るのかということですわ」
「こ、ここに?」
 思わず、部屋の中を見渡してしまった。
「つまりは『ティタンが行ったことのない場所』にも転移できるのかという事ですわ」
「その場合、空間座標か何かを入力すれば、何処にでも転移できるとなるってことね」
 セシリアと鈴が説明してくれたが、つまりは。
「ようは、奴が何処にでも来る可能性があるって事だろ? じゃあ、頑張って防ぐしかないだろ!」
 再開された学年別トーナメントで乱入しようという存在があるのか、それにティタンが加わるのかどうかは分かるわけない。
でも、確率がゼロじゃないんなら、それに備える事は重要だからな。
「ったく。アンタって、結局は出た所勝負なのよね」
「ですが、この場合はそれも一手ではありますわ。予想も大事ですが、全てを予想できるわけではありませんから」
「そうだね」
 何か三人から『しょうがないなあ』って感じで見られた。何でこう思うのかといえば、千冬姉が俺に向けるのと同じ感じだったからだ。


「ん? 誰か来たのかな」
 そんな会話をしていると、コンコンという小さなノックがした。はて、誰なんだろうか?
「はい、どちら様ですか?」
「こ、こんばんわ、一夏」
「簪? どうしたんだ?」
 そこにいたのは、簪だった。ドレさんにトーナメント再開の話をしにいった筈なのに、どうしたんだろう?
「どうしたんだ? ドレさんには、もう話したのか?」
「う、うん。そうしたら彼女、整備課の先輩のところに行ったの。多分、機体整備について話をしにいったと思うんだけど……」
「なるほどな。で、簪はどうしたんだ?」
「ちょ、ちょっとお話が……は、入ってもいい?」
「いいぞ。……おーい、鈴、セシリア、シャル。簪が来たぞ」
 中にいる三人に、簪の来訪を告げる。それから暫く五人で会話をし、就寝時間となったので解散したのだった。




「そ、それで、簪。織斑君とは、ど、どうなったのですか?」
「べ、別に。セシリアや鈴やシャルロットもいたから、い、いつもどおりだし……」
 一夏達と別れた後、私は自室に戻ってきていた。――事の発端は、私がトーナメント再開をドレさんに告げに行った時のこと。

『そ、そう、なんだ。また、一緒に戦えるんだね』
『うん。また、よろしく』
『こ、こちらこそ』
 こんな感じで、握手をした。そこまでは、よかったんだけど。
『あの、ところでさっき凰さんが歩いていくのが見えたんだけど。凰さんも、呼ばれてたの?』
『う、うん……。今頃、二人で話をしてるんじゃないの、かな?』
 これは、ただの予想だった。でも、この話題を持っているのはクラス代表たちとドレさん、赤堀さんだけ。
そして安芸野君が赤堀さんの所へ、私がドレさんの所に向かっているなら、凰さんは一夏と二人きりになりたがる……
というのも、ありえない話じゃなかった。
『い、良いの? ふ、二人きりにさせちゃって』
『それは……』
 本当は、少し面白くない。だけど、二人のところへ乗り込んでいく勇気はなかった。
『や、やっぱり、ゆ、勇気を出していかないと、だ、駄目だと、思う……』
 所々どもりながらも、私を後押ししてくれる彼女。その言葉と思いに応えるべく、私は一夏の部屋へと向かったのだった。


「ほう。そのような経緯で、簪は織斑君の部屋に向かったのですね」
「う、うん」
 そして今、就寝時間になって自室に戻ってきた私は、悠に経緯を話していた。
彼女の服装は、私達の年齢ならまず着ないであろうネグリジュ。背伸びしすぎじゃないかな、と思ったけど口にはしない。
「でも、ドレさんがあんな事言うなんて、意外だったな……」
「確かに、普段の彼女からは考えられない発言ですが。それにしても簪、まだ彼女の事をドレさんと呼んでいるのですか?」
「え?」
 そういえば、そうだった。一夏たちと戦うまでは、それどころじゃなかったし。
「そろそろ、私達のように互いに名前で呼び合ってはいかがでしょう? まあ、私がどうこう言う問題ではないのですが」
「そう、だね」
「と、ところで簪。男性というのは、苦境にあるときにどのような話をすれば良いのでしょうか?」
「え?」
 悠が、意外な事を聞いてきた。……その理由に、すぐに思い当たる。
「ドイッチ君のこと?」
「え、ええ。臨海学校でなにやら怪我をされたという事で、心配で。
ま、まあ私はタッグトーナメントで共に戦った間柄ですから、し、心配なのです! そ、それだけです」
 分かりやすいなあ、と思った。……でも、もしかしたら私達も同じなのかもしれない。
たまに、他の娘と一夏が一緒にいるところを見かけるけど、今の悠と同じような感じだった。……あれ、それって、私も、なのかな?
「~~!」
 とたんに、恥ずかしさがこみ上げてきた。自分が、そんな姿を見せていた事に。
「ところで簪。聞いてはいけない事ならば、黙っていて構いませんが。ゴウ君のこと、何か知りませんか?」
「……ごめんなさい、何もいえない」
「そう、ですか。いえ、私こそごめんなさい」
 私は彼の怪我の原因を知っているけれど、悠には口外できない。そして、彼の事情はまるで知らない。
勿論、更識家では色々調べているだろうし、その方の伝手をたどれば少しは事情が分かる。それに、あの人が……。
「どうしたのですか、簪。――もしかして、お姉さんの事を考えていませんでしたか?」
「え……!」
 その私の心を読んだような一言に、感情をあらわにしてしまった。そんな私を見る悠の目は、優しい。
「そうではないかと思いました。簪が悩む姿を見せるのは珍しくありませんが、そこに別のものが混じるのはお姉さん絡みですからね」
「ゆ、悠……」
 そういえば彼女には以前、あの人との関係について言われたことがあったっけ。

『この機体、100%以上使いこなせたのならば。きっと、貴女にしか成し得ない『何か』が出てくるのでは無いですか?』

 だっけ。それで、本音や宇月さん達の力を借りる決心がついたんだった。
「お互いに、人間関係についての悩みは大きいようですね」
 悠がため息をつき、そして笑った。……私も、同じだなと思い笑顔を浮かべる。
「おや、もうこんな時間ですか。――眠るとしましょうか」
「そうだね。お休みなさい」
「はい、お休みなさい」
 互いにベッドに向かい――突然、何かがぶつかる音がしたので慌てて振り向いた。そこには。
「~~~~!」
 痛みのあまり声も出ない悠がいた。どうやら、ベッドに優雅に入ろうとして――そして転んで床に顔をぶつけてしまったらしい。
何故そう判断するのか、といえば前例があるから。
「鼻血は出ていないみたいだね……。大丈夫?」
「だいじょう、ぶです……ううう」
 繰り返しはせず、普通にベッドに入る悠。こんな事を言ってはいけないのは分かっているけど、彼女にはコメディアンの才能があると思った。




 そんな頃。生徒会室では、簪の姉・更識楯無と腹心の布仏虚が書類処理を行っていた。ちなみに虚の妹・本音はここにはおらず夢の中である。
「それにしても、こうなるとはねえ」
「――オムニポテンスの整備担当の男子生徒を編入、ですか。ドイッチ君の部屋に住まう予定のようですね」
「日本政府は、織斑君とドイッチ君を同じ部屋にしてはどうかとも言ってきてたしね。その前に――って事かしら」
 あいつぐ転入生により、男子生徒といえど、一人部屋を使わせる余裕はもう無くなりつつあった。
そこで、現在は一人部屋である一夏とゴウを同じ部屋にしてはどうかという案が出ていたのだが。
「まあ一場久遠とロバート・クロトーという前例があるから、専用機を扱う専門整備の為の生徒を転入させたいというのも分からないではないけど」
「少なくとも、望ましい前例ではありませんね」
 これを続ければ、専門整備を受け持つ、という名目で生徒が増え続けかねない。
一夏に千冬が以前言ったように、あらゆる風俗・習慣・境遇・事情に配慮し、基本的には、生徒を無条件で受け入れなければならないのであるが。
一部の国からの流入が増える事を、二人は危惧していたのだった。
「まだ正式な書類は来ていないけれど、どんな生徒なのかしらね」
「まあ、ここに来るくらいですからただの人物ではないのでしょう。……願わくば、これ以上の騒動は勘弁して欲しいものですが」
「シャルロット・デュノアちゃん、ラウラ・ボーデヴィッヒちゃん、そしてドイッチ君の例もあるからねえ。
まあ、男性だから織斑君に落とされる――なんて事は無いでしょうけど」
 楯無が『同性愛にも寛容たれ』と扇子で口元を隠して笑う。――だが、その内心は虚にはお見通しだった。
「ところでお嬢様。――簪様と織斑一夏君の事を、どうお考えなのですか?」
「な、何でその話になるのかしら」
「落とされる、と口にしたところで突然表情が変わりましたから」
「それはいけないわね。――でも虚ちゃん、もしも織斑君に本音ちゃんが落とされちゃったらどうする気なのかしら」
 その言葉に、楯無は硬直するしかなかった。だが、せめて一矢をと言葉をつむぐ。
「別に、どうということもありません。彼の人格は未熟ではありますが善良。
血縁及び社会的地位においては優。布仏の一員として相応しいか、という点においては現状においては無理ですが、悪い相手だとは思いません」
 だが、その矢は射返された。それはむしろ、楯無が判断すべき内容なのだ。
布仏を更識に変えれば、そのまま簪と一夏の仲の判断になってしまうのだから。
「まあ、そもそも食い気が第一の本音が色恋沙汰に現(うつつ)を抜かすのは想像が出来ない、というのが真実ですが」
「う、虚ちゃん。流石の私もそこまで言うのはどうかと思うわよ?」
「事実ですから」
「……まあ、ね」
 厳しい、を通り越したような虚の言葉に、楯無も『過剰なる厳格!』と感嘆符付きの扇子を取り出した。だが、その事実については否定しない。
なお、後日これを楯無から聞かされた本音が『お姉ちゃん酷い~~! ねえ、かなみーもそう思うよね?』と隣に居合わせた宇月香奈枝に同意を求め。
宇月香奈枝が、己の不幸を呪ったのは余談である。


 学生達が働く中、当然ながら教師達も働いていた。――ある意味、現時点における最大の問題児が齎した問題と。
「学年別トーナメントの再開について、織斑一夏を復活させろ、という声があるのか。……横紙破りが好きなようだな」
 その書類を読んだ織斑千冬の感想は『ミニ束』であった。勿論、それを口に出す事は無いが。
「しかし彼らは、準々決勝で更識簪、マルグリット・ドレらに敗れた筈です。
残っているのは彼女達と、安芸野将隆と赤堀唯のタッグ。そして篠ノ之箒とラウラ・ボーデヴィッヒのタッグのみのはず」
「そこを何とかしろ、という事なのでしょうねえ」
「二次形態移行した白式は、一応生徒の眼にもふれさせてはいますが。それだけでは不十分、ですか」
「どうしたものですかねえ」
 教師達も、頭を悩ませた。織斑一夏を出しても、問題は無い。
だがそれにより、明らかに不当な不利益を被る生徒がいる以上、そう易々とは決断できなかった。
「確か、更識簪の問題で彼女が準決勝に出られない可能性があるという話がありましたが。それを使いますか?」
「無理だろう。あの時は倉持技研からの申し出があったゆえにそういう話だったが、今回は無いからな」
「……では、最悪の場合は倉持技研から話を持ちかけてもらいますか?」
 苦い汁でも飲み干すような表情で、一年二組担任のゴールディンが案をだす。だが。
「それでは、あからさまに織斑一夏を出すために更識簪を引っ込めた事にもなる。生徒にも示しがつくまい」
「ですね……。となると、織斑一夏をエキシビジョンマッチで出すしかないでしょうか」
「それが妥当でしょうね。問題は、その相手なのですが……」
「望まれているのは、篠ノ之箒。――いや、紅椿ですか」
 二次形態移行した白式と、紅椿の対決。それが望まれているのは明白だった。
「問題は、試合の日時と決勝戦を戦った紅椿の損耗具合だな。損耗が激しければ、エキシビジョンといえど戦わせる事など出来まい」
「そうですね。――そういえば思ったのですが、そのエキシビジョンマッチはシングル戦とするのですか?」
「ふむ……」
 一年三組担任・新野智子の質問に一同が不意を突かれた表情になる。そこは、ある意味で盲点だったからだ。
「もしタッグマッチとするのならば、織斑一夏も篠ノ之箒もタッグトーナメントで共に戦った相手……とするのが自然だが」
「織斑君はデュノアさんと、篠ノ之さんはボーデヴィッヒさんと、と言うことになりますね」
「こちらはこちらで問題があるな。シャルロット・デュノアは学園警備に回る必要がある人物で。
そしてラウラ・ボーデヴィッヒは篠ノ之箒同様に決勝戦の出場者だ。……あの一件も、気になるがな」
 ラウラの問題。それは、銀の福音と戦う最中に生じた、VTシステムだった。
それが、本当にもう問題が無いのか。その危惧が、完全に廃されたわけではないのだ。
「それにしても、ドイツの研究所が消失、か。一体誰がやったのやら」
 その証拠であり真相解明の手がかりとなるであろうドイツの研究所は、消されていた。
最初はドイツ軍の証拠隠蔽かと思われたが、現在は否定されている。その手段が、あまりにも常識外れだったからだ。
(建造物や資料などが消滅、それにも関わらず人員の損失は無し……。知識としては知っていたが、実際に目にすればどれほど常識外れなのかが解るな)
 古賀水蓮が、織斑千冬に視線を向ける。その視線に気付きながらも。千冬は、何も返さないのだった。




「……というわけで、本日からこの学園のカウンセラーとなった海原裕です。よろしくお願いしますね」
 クラス代表が集められ、タッグトーナメント再開が告げられて数日後。突然の全校集会で紹介された人物に、俺は驚きを隠せなかった。
それが、既知の間柄だったからだ。――海原裕。この人と出会ったのは、俺がISを動かせると解った次の日だった。

『初めまして、安芸野正隆君。私は、海原裕という者だ』
『……今度は何処の博士ですか? それとも、政府のお偉いさんですか?』
『ふむ、一応博士号は持っているし政府関係者だった時期もあるが今は違うね。――おっと、これを渡すのを忘れていたな。失敬』
 その時の俺は、お偉いさんや博士とかに会いっぱなしで、半分ノイローゼだった。警察の取調室みたいな部屋で、延々と知らない人に会う。
誰と会っていたのかも、正直よく覚えていない。名詞に顔写真が無ければ、もう全員を忘れていたであろうレベルだった。
『心理療法士、海原裕……?』
『そろそろ気が滅入ってくるのではないか、と思ってね。――そうだ、昼食にしようか。何がいいかな?』
『別に、食欲も無いですが』
『いかんな、若者がそれでは。食事は一日三度取るのが大事なのだぞ』
『はあ……』
 確かに、時刻は正午過ぎ。昼食をとるには相応しい時期だったが、俺はそんな気は無かった。
『ふむ、ではとりあえずここを出るとしようか。この部屋では、折角の昼食をあまり美味しく食べられそうもない。……構わないかね?』
『……どうでもいいです』
 そして俺は部屋を出た。まあ、この部屋を出られるなら良いか……くらいの感覚だった。


『弁当、ですか?』
『そうだ』
 昼食、と称して連れてこられたのは日当たりのいい展望デッキだった。ガラス戸の向こうから、四月の日差しが入ってくる。
空調も完璧で、気持ちさえ平静なら物凄く心地いいんだろう、と思える場所だった。そして、そこで渡されたのは弁当なのだが。
『これ、誰が作ったんです?』
 それは御重や木箱の弁当箱ではなく、プラスチックの、学生が持ってくるような弁当箱だった。
ちょうど、母親が作ってくれたような感じに近い。
『私の妻だ。断腸の思いだが、ぜひ味わってくれたまえ』
『はあ』
 断腸の思いってなんだ、と思ったがとりあえず蓋を開けた。……そこには。
『……』
 思わずごくり、とつばを飲んだ。そこにあったのは、俵巻きのおにぎり、唐揚げ、金平牛蒡、玉子焼き、プチトマトやポテトサラダなど。
普通の家庭でもあるような、一般的なメニュー。……だけど、物凄く美味しそうだった。
『い、頂きます』
 割り箸を割り、まずおにぎりを掴む。……そして、口にすると。
『あ……』
 さっき母親が作ってくれたような、と感じだがそれはある意味で正しく、また違っていた。味付けなんかは、俺の母親とは全然違う。
――だが、温かさって言うのか。市販品とか仕出しの弁当とは違う、何かがあった。


『……ご馳走様でした』
 気がつけば、あっという間に完食していた。分けてもらったお茶を飲み干し、一息つく。
『どうだね、勇美のお弁当は美味しかっただろう?』
『ええ』
 美味しかったかね、ではなく美味しかっただろう、にちょっと違和感を覚えたが、その答は決まっていた。
……同時に、さっきまでささくれだっていた心が随分と落ち着いたような気がした。
『そうか、ならば良かった。……では食休みとするか』
『え?』
『うん、何故そこで驚くのかな? 昼食の後、すぐに動くのはあまり良くないのだよ?』
 心底不思議そうな顔をされた。てっきり、すぐに何か話をすると思っていたのだが。
『時間は、良いんですか?』
『ふむ、まあ問題は無いな。あと五時間ほど貰っている』
『五時間!?』
 それまでは、一人と話すのは長くても十分くらいだった。それなのに、この人は五時間。
『まあ、冗談だが』
『冗談かよ!?』
『おや、ようやく調子が出たかな?』
『!』
 思わずツッコミを入れてしまった。さっきまでの俺なら、考えられない行動。部屋を出て、弁当を食っただけでこれか。……俺って、単純だな。
『さて、と。――色々溜まっている事もあるのだろうが。私に、話してみてくれるかな』
『……はい』
 今考えてみても不思議だが、それから俺は溜まっていた鬱屈を全部吐き出していた。相手の話術に誘われた、ということもあるのだろうが。
二十分もすれば、俺はそれまでの鬱屈が消えていた。
『さて、と。そろそろ時間のようだな』
『そうですか』
 正直な話、俺はこの時初めてこの時間が終わるのが惜しいと思っていた。どういうわけかISを動かしてから、色々な人間に会ってきたが。
そう思ったのは、初めてだった。
『では明日、同じ時間に来るのでまた会おう』
『はい……え?』
 その時の俺は、埴輪みたいな表情になっていたと思う。
『えっと、え? また来るんですか?』
『まあね。君が綺麗なお姉さんのほうがいいというのなら、代わっても構わないが。――私の妻以外ならな』
『べ、別にそういうんじゃないですけど』
 というか、何で貴方の奥さんが出て来るんだよ。
『そうかね。では明日また会おう』
 そう言って、海原さんは去っていった。その時俺は、あることに気付く。
『……最近出会った人を、さん付けで呼んだのは初めてだったな』
 海原さん、と口には出さなかったがそう呼んだ。それに驚いていたのだった。


「では次は……海原さんに質問タイムです。皆さん、男性への質問は難しいと思いますがどんどん質問してくださいね」
 回想に気を取られていると、状況は質問タイムへと移っていた。この声は、一組担任のやまや……じゃなかった、山田先生か。
以前の、シャルロットやクラウス達が来た時にあった転入生紹介イベントでは、こういうのは無かったよな。
「海原さんは、奥さんがいらっしゃいますか? どんな人なんですか?」
 そんな事を思っていると、真っ先にそんな質問をした女子がいた。
「あちゃあ……」
「よりにもよって、その質問をするか……」
 そんな声が、一組の方から聞こえてきた。片方は一夏の声だったような気もするが、俺も同感だ。……ああ、始まるな。
「ふむ。私の妻の名は、海原勇美。旧姓、天知勇美という。19XX年12月25日、クリスマスの日に生まれた女神だ。
身長は169センチ、体重は……流石にこれは秘密にしておこう。意志の強さを込めた、ややツリ目気味ではあるが鋭すぎない瞳。
艶やかなストレートの黒髪、小さいながらも整った鼻筋、桜の花びらのような可憐な唇など全てが美しい女性だ。
もちろん、他の部位もビーナスのごとく美しいのだがそこは割愛させていただこう。
まあ、勇美の美しさは外見だけではない。私達の出会いは、その外見だけではなく内面に起因する事で――」
「はいそこまで。……海原先生。悪い癖が出ていますよ」
 更識会長が、何処からとも無く現れて海原さんの言葉を封じた。……あー、助かった。あのままだと、あと二時間は話してたぞ。




「……まさか、海原さんが来るなんてなあ」
「一夏、あんたあの変なおっさんと知り合いなの?」
 昼食時。織斑君と彼を慕う少女達――ただし、更識さんは不在――が、テーブル席でそんな会話をしていた。え、私は誰かって?
今日は逃げ出せず、一緒の席で食事をするしかなかった宇月香奈枝です。
「鈴さん、あの人の前職を聞いていらっしゃいませんでしたの? ――元IS日本代表の、メンタルトレーナーを勤めていらしたのですよ?」
「あ、そーだっけ。……あれ、元IS日本代表って、まさか」
「私だ」
「げ! ち、千冬さん……ぎゃん!」
「織斑先生、だ。……それと、教師に向かって『げ!』とはなんだ」
「す、すいません……」
 何処から現れたんでしょうか、織斑先生。うかつに悪口とか言ったら、大変な事になりそうだ。
「あ、あの織斑先生。じゃあやっぱり、あの海原って言う人は、織斑先生の?」
「そうだデュノア。私の、元メンタルトレーナーだ。織斑とも、一度話した事がある。……篠ノ之も、だったな?」
「は、はい!」
「え、箒もなのか?」
「ああ。私の話を聞いてくれたんだが。……非常に、心が落ち着いたのな」
「そうだな」
 へえ。織斑君はそうじゃないかと思っていたけど、篠ノ之さんとも知り合いだったんだ。
「それにしても、カウンセラーね。今までいなかったのが不思議なんだけど」
「下手な人物を連れてくれば、ある国への進路誘導なども出来かねないから……という噂ですけれど」
「まあ、一応ここって中立であれ、って場所だしね」
 オルコットさんと凰さんが、そんな事を口にした。昼食時には相応しくない、きな臭い話題ね。
「ところで、カウンセラーって具体的にはどういう人なんですか?」
「なんだ宇月、知らないのか?」
「知識としては知っていますけど、悩み相談に来た人の話を聞く人……くらいの感じでしか解らないので」
「まあ、一応はそんな所だ。話を聞く、それがカウンセリングの第一歩であり真髄だ……と本人が言っていたのを聞いた事がある」
「悩み解決はしないんですか?」
「これも本人からの受け売りだが。悩みの殆どは、既に本人が解決策を解っている場合が多い。自分は、それを引き出すだけだ……と言っていたな」
 なるほど。
「それにしても、カウンセラーが必要な人って多いのかな?」
「さあ、な。まあ、悩みの無い人間などいない。他人に頼るか否かはそれぞれだが、そういう意味では全ての人間が必要としていると言えるだろう」
 織斑姉弟が、そんな会話をしていた。まあ、確かに。
「そういう人がすぐに必要な人もいるんでしょうね。苦労の多い人とか、自分で全部を背負い込むことの多い人とか……ん?」
 そんな事を呟いていると、同じ食卓を囲んでいるメンバー+織斑先生が私を見ていた。……うん、自分で言っていて気付いたけど。……これ、私だわ。


「あはははははははははは! た、確かにそれって香奈枝ね」
「もう。そこまで笑う?」
 授業が終わり、今日は自室で勉強をしていた。そして昼食時のことをフランチェスカに話したら大笑いされた。
「でも香奈枝、何かあったらすぐに行かないと駄目だよ。脂肪と一緒で、悩みは溜め込んでもいい事なんか無いんだから」
「そうね」
 ちなみに貴女、昨日のお風呂上りに体重計を見て顔色が変わっていたわね? 大丈夫なのかしら。
「そういえばさっき、ロミから情報が流れてきたんだけど。……タッグトーナメントの再開日時、正式に決まったみたいね」
「へえ」
 アウトーリさんから、って事はブラックホールコンビからの情報なんだろう。ということは、多分それで決定だ。
「あれ、香奈枝って篠ノ之さんに整備頼まれていなかったっけ?」
「……そういえばそうだったわね」
 今まで、完全に失念していた。ドイッチ君達との戦いの際は、私もほんの少しだけど助言したし。
でも臨海学校の後は、彼女から聞きにくる事も無く。トーナメントも再開されないし、自然消滅したんだと思っていたんだけど。
「じゃあそろそろ篠ノ之さんが来たりするんじゃないの?」
「いや、そんな事が――って、お客様みたいね」
 ノックの音がして、ドアを開ける。そこには。
「宇月、少々良いだろうか? ……どうしたのだ、そんな顔をして」
 まるで、呼ばれたように篠ノ之さんがいた。神様は、よほど私の事が嫌いのようだ。


「紅椿を整備、ね」
 篠ノ之さんの話は、予定通りだった。……せっかく免れたと思っていた問題が、またやってきた事を嘆くしかない。
「本来ならば、もっと早く……臨海学校が終わった直後に頼むのが筋なのだろうが、色々とあって、遅れてしまった。すまない」
「いいのよ」
 話を聞くと、彼女は最初から私に頼むつもりだったらしい。だけど、紅椿は篠ノ之博士謹製の最新鋭機。その上、所属国家のないISだ。
それはつまり、何処の国の所属にでもなれるということであり。そんな彼女に近づきたい国は、山ほどあるらしい。
そしてそれは、私が近づく事も望ましくは無かったという。――何故なら私は、臨海学校で白式を見るように倉持技研さんから任されたから。
これがよその国から見ると、日本政府が倉持技研のスカウトした一生徒(私)を取っ掛かりにして、篠ノ之さんと紅椿を掠め取ろうとしている……。
となるらしい。そしてこのアイディアは、日本政府と倉持技研は本気で考えてもおかしくはない、と山田先生が篠ノ之さんに教えてくれたのだとか。
「何か、凄い話ね……」
 話を横で聞いていたフランチェスカが唖然とした表情になるけど、私も同意だった。……なんか、知らない間にどんどん立場が変わってるなあ、私。
「それで、もう大丈夫なの?」
「ああ。千冬さんや学園側が動いてくれたようだ。……どうだろうか宇月。今一度、力を貸してくれないだろうか?」
「頼ってくれるのは嬉しいけれど……でも、私なんかが力になれるのかしら?」
 タッグトーナメントでは助言や整備が出来たけれど、あれはあくまで彼女の機体が打鉄だったから。
でも、今の彼女の機体・紅椿に関してはほとんど何も分からない。
「それでも、宇月が良いのだ。――頼む。力を、貸してくれないだろうか?」
 彼女は、見とれるほど綺麗な姿勢で頭を下げる。……はあ。
「私でよければ、力になるわ。……だけど、タッグトーナメントが終わるまでにしてくれないかしら?」
 そう言うしか、なかった。それでも一応、期限をつける。彼女と紅椿にこれからも付き合っていく決意があるのならば、期限なんて必要ないんだけど。
私にはその技量も、決意もない。だからこそ、つけなければならなかった。
「そうだな。山田先生や千冬さんからも、そう言われていた。では宇月、頼むぞ」
 そういうと彼女は手を差し出す。細いけどしっかりと鍛えられた手を掴み。私は、彼女に握手を返すのだった。




「……はっ!」
 深夜の第三アリーナでは、黒い影が舞っていた。その名は、シュバルツェア・レーゲン。それを駆るのは、ラウラ・ボーデヴィッヒ。
ワイヤーブレードを射出し、レーザーブレードを展開し、空間投影された目標を切り裂いていく。――そして。
「――穿て!」
 レールカノンも火を噴いた。実弾ではなく、極めて実弾に似せられた模擬弾(作成・古賀水蓮)が目標を穿ち、そしてアリーナのバリアに当たり四散した。


「反応速度、通常時の八割五分か。……鈍っているな」
 アリーナのピットに戻ったラウラは、自身の行動データを振り返り苦虫を噛んだ。
銀の福音戦においてVTシステムを発動させ、機体は精査された。そして今日、ようやく機体展開が許されたのである。
「一人は、気楽でいいものだ。できればいつも、こうありたいがな」
 彼女からの申し立てにより、それまでのブランクを埋めるため、一晩だけアリーナを深夜開放する事が許された。
じつは、一夏が箒と共に入学直後にアリーナを深夜使用した『前例』があったがゆえに許されたのだが。彼女は、それを知らなかった。
「……終わったか、ボーデヴィッヒ」
「教官!」
 そこへ、千冬がやってきた。彼女はアリーナにいたわけではない。終了時間になり、その確認をしにここまで足を運んだのだった。
「どうだった」
「少々の弛みはありますが、すぐに取り戻して見せます!」
「そうか。――ではもう戻れ。あと、は」
 電光石火の煌きと共に、出席簿が振るわれた。それがラウラの頭を掠め、癖毛を切り裂く。
「教官ではなく、織斑先生だ。――いい加減に覚えろ、馬鹿者」
「し、失礼しました! ――ほ、本日はありがとうございました!」
 恐怖と感謝を交え、ラウラは去っていく。――そして千冬の視線が、やや荒れた第三アリーナに向く。
ここで、再開されたタッグトーナメントが行われる予定なのだが。
「更識や安芸野ならば、あの闇を払えるのだろうか、な」
 珍しくも気弱な雰囲気の言葉を漏らす千冬。……それを聞いていたのは夜の闇と、それに紛れる金属製のリスだけだった。




「んー、ちーちゃんにしては珍しく弱気な発言だなあ。本当、変わったねえ」
 千冬の言葉を聞いていた金属製のリス――その主である篠ノ之束は、その映像と音声を一人で見ていた。――そこへ、黒い穴が開かれる。
「束様」
「んー、なんだい?」
「IS学園の学年別トーナメント、その準備が整いました。――学園側も、そして我らも」
 それから現れたのは、千冬の言葉を伝えたリスを手にした、ティタンだった。武士が主君にするように片膝をつき、報告を行う。
その内容は、学園の人間が聞けば誰でも顔色を変えるものだった。
「ふむ、やっとか。……思ったよりは、遅かったねえ」
「はい。それと、あちらはどうしますか?」
「んー、怪我が治ったらそのままリハビリだね」
 二人の眼前には液体の詰まったポッドが置かれ、その中には小柄な少女がいた。一見は、小学生にも見える幼い少女。
だがその瞳は閉ざされ、うなされている。その動きにあわせて、かすかに銀の髪も揺れていた。
その身体には幾つか細かい傷があるが、それは元々はもっと大きな傷だった。
この少女は、束がドイツのある場所に赴いた際に拾ってきた(当人談)少女なのである。
(私の『知識』でも詳細は不明だったが……お前は、このタイミングで束様に拾われていたのだな。――クロエ・クロニクル)
 まだ名も無い少女に、自身の知った『知識』の名を呼びかけるティタン。
その少女にその名前が『知識』の通りに束によってつけられ、呼称は『くーちゃん』となるのは、その数日後だった。


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