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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] それは苦しく、そして辛い
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/08/02 10:08
 私が、整備課棟に向かっていると。見慣れてしまった銀髪眼帯の少女が歩いてきた。
「あ、ボーデヴィッヒさん。こんにちわ」
「……宇月香奈枝か」
 臨海学校が終わってから、色々と変化があった。織斑君の白式が二次形態移行したり、篠ノ之さんが専用機持ちになったり。
あるいは古賀先生が自分そっくりの専用機を作り上げた(※本人談)りもした。
そんな中、転入して一ヶ月ちょっとになるボーデヴィッヒさんにも変化があった。……なんていうか、萎れた花みたいな感じになっている。
「何があったんだろう」
 どうやら彼女は怪我をしたらしいけれど。ただ怪我をしただけで、あそこまで落ち込むなんて、ね。
「お、宇月さん。ここにいたのか」
 すると、ボーデヴィッヒさんとは別方向から織斑君がやってきた。
「あれ、整備課棟に用事があったの?」
「ああ、ちょっとデータ取りで。宇月さんはどうしたのかなと思ったんだけど、布仏先輩に呼び出されたんだよな?」
「ええ」
 私はさっきまで、生徒会室にいた。布仏先輩の呼び出し、と聞いて何かなと思ったんだけど……。ただ単に、お茶をご馳走になっただけだった。
その時に最近の自分のスケジュールについて聞かれたので、多分またやりすぎていないかどうか心配してくれたんだろう。
「今日はどうするの? これからアリーナで訓練?」
 さて、彼の予定もチェックしておこう。……彼の齎すであろう騒動に、巻き込まれないようにするために。
「いや、今日は部屋でゼリーを作ろうと思ってる。箒やのほほんさん達にご馳走するって、約束したからな。そうだ、宇月さんも――」
「ごめんなさい、気持ちだけ頂いておくわ」
 彼の返答は意外なものだった。ゼリーは嫌いじゃないけど、ね。……さて、話題を変えよう。
「どころでさっき、ボーデヴィッヒさんがそこから出てきたけど。彼女と会った?」
「いいや、別に」
「そう。それにしても、ボーデヴィッヒさんが元気がないのはどうしてかしら?」
「……そうだな」
 織斑君は、怒りや心配、そして私にはちょっと良くわからない色々な感情が混じった微妙な表情になる。
転入初日にいきなり叩かれたり、ISをまとった状態で喧嘩を売られたらしい彼からすれば、微妙な表情になるのも納得だ。
これが篠ノ之さんとかオルコットさんだったら、心配だけの表情になるんだろうけど。
「まあ、あいつの事は宇月さんは気にしなくてもいいよ。俺だって、クラス代表だからな!」
「……貴方のそういう台詞、初めて聞いた気がするわね」
 ただ、どうも『私が知ってはいけない事情』があるらしく、織斑君が心苦しそうな表情になる。本当に、嘘が下手ね。
「そういえば宇月さん、ゼリーが駄目なら今夜は一緒に飯でも食わないか? 最近また色々とお世話になってるから、デザートとか奢るぜ?」
「いいわよ別に。それよりも篠ノ之さんとか、オルコットさんとか、凰さんとか、デュノアさんとか、更識さんと一緒に食べてあげたら?」
「いや、シャルとは一緒に食べる約束してるんだ。だから宇月さんとも一緒にどうかなって……あれ? どうしたんだ?」
「いいえ、別に」
 とりあえず、自分の選択は正しかったようだ。……もしも知らずに約束していたら、デュノアさんの顔がどれだけ曇った事か、想像は容易い。


 結局彼は、そのまま寮に戻っていった。私は用事があるので、整備課棟に入り……ふと、思いつく。
「……そう、か」
 さっきはちょっと分からない、といった感じだった、織斑君の表情に出ていた感情が理解できた。それは――不信感。
「って、何で不信感なんだろう?」
 よくわからない。……まあ、いいか。




「い、一夏。ぼ、僕に大切な話って、何なのかな?」
 夕食時。一夏を約束していた夕食に誘いに来たシャルロットは『大事な話があるんだ』という一言で部屋に招かれていた。
やや空腹気味ではあるが、そんな事を完全に忘却するほどのシチュエーションに酔いしれるシャルロット。
(も、もしかして……こ、告白とか!? で、でもこんなタイミングでなんて……ううう、スカートとか、もっと可愛い格好をして置けばよかった!
そ、それとせっかくこっそりと買っておいたセクシーな下着じゃないし……! うわああああ、僕、何を考えているのさ!?)
 その心中では、もしも言葉になって漏れれば奔流のように流れ出るであろう混乱した思考が繰り広げられていた。
なお、本日の格好はショートパンツとTシャツである。共にフランスの服飾メーカーの提供品であり、涼やかな雰囲気をかもし出す服装だ。
シャルロットとしては、自分がこういう格好をした時に一夏がどういう反応をするのかを試す意味もありこの選択となったのだが。
「じつは、な。シャル……」
「う、うん。な、何、かな……?」
 一夏の言葉に、そんな目論見は掻き消えていた。
黒い瞳の少年に見つめられ、頬の紅潮と鼓動の激化を抑え切れない紫に近い色の瞳の少女。そして、その唇がほんの僅かに突き出され――。
「ボーデヴィッヒの事なんだけど。あいつ、何があったんだ?」
「……え? ぼ、ボーデヴィッヒさんの?」
「ああ。ちょっと、気になってな。あいつ、臨海学校から何か様子が変だろ」
「じゃあ、僕じゃないと駄目だっていうのは……」
「シャルは、あいつのルームメイトになったんだよな。シャルなら、あいつのことについて少しは詳しいんじゃないかなって思ったんだけど……シャル?」
 奈落の底に、突き落とされた。夢が砕け散る音を聞いた、とは後の当人談である。


「……それで、ボーデヴィッヒさんの事が気になるの?」
「まあ、な。やっぱり俺もクラス代表だし、そういうのも気にしないといけないかなって思って」
「……そんな事、今までやった事無いよね一夏」
「ぐは!」
 シャルロットの舌下の刃が、一夏を切り裂いた。もっともその傷は、先ほどシャルロットが心に負った傷に比べれば鴻毛よりも軽い物ではあるが。
「それなら、織斑先生にでも聞いたほうが良いんじゃないかな?」
「……千冬姉には、ついさっき聞いたんだ。そうしたら『お前は知る義務はない』って言われた」
「義務はない?」
「ああ。もしも機密とかなら、千冬姉は『必要はない』って言うんだ。でも、義務って言った。じつはこれもちょっと、気になってたんだ」
 わずかに怒りを込めて、そう続ける。だが、その返事は意外なものだった。そして怒りも収まった少女は、ある選択をする。
「ごめんね一夏。ちょっと待ってて」
 そのショートパンツのポケットから、個人用の端末を取り出し。
「シャルロット・デュノアです。あの――織斑先生、ですか?」
 ある許可を求めるため。担任の教師へと、連絡するのだった。


「じゃあ、僕の知っている限りを話すよ。まず、一夏はヴァルキリー・トレース・システム……通称VTシステムって知ってる?」
「ぶいてぃー……? いや、知らない。でも、ヴァルキリーって、モンド・グロッソの部門別優勝者の事だろ?」
 真剣な表情になったシャルロットが、一夏へと問いを投げかけた。だが、一夏自身は普通に答える。
「うん。VTシステムは、そのヴァルキリーのトレース……真似をするシステムなんだ」
「真似? ……つまり、千冬姉の真似をするって事か。でも、それはそれで良いんじゃないのか?」
 この時の一夏の脳裏に浮かんだのは、学年別トーナメントの最中に出会った戸塚舞だった。
彼女は千冬の剣を自分なりに学び、そして自分のものにしようとしていた。VTシステムも、そのような感じだと考えていたのだが。
「真似をするだけなら、いいのかもしれないけどね……」
「?」
 そこにあったのは一夏が初めて見るかもしれない、シャルロットの嫌悪感をあらわにした表情だった。
「一夏は、あの日の……銀の福音戦の映像で、知らないものがあるよね? それを、見せてあげる」


「……」
 彼が見たものは、暮桜の紛い物と化したシュバルツェア・レーゲン。それが、近づく物に無差別に襲い掛かる映像だった。
それは、彼の敬愛する千冬の剣とはまるで異なる物。――むしろ、侮辱とさえいっていい物だった。
「あいつの機体が、シュバルツェア・レーゲンがこうなったのか。そしてこれが、VTシステムっていう奴なんだな?」
「うん。一夏にとっては、嫌な物だっていうのはよく解るよ」
「え、マジか? そんなに、顔に出ていたか?」
「それもあるけど。……前に学年別トーナメントで、更識さんやドレさんと戦った時に言っていたよね。

『千冬姉にあこがれるのは、世界で一番強いから、とか格好いいからとかじゃない。
――千冬姉が、その強さをどう使ってきたか。それを見てきたから、その姿勢に憧れるんだ』

って」
「そう、だったな。……それにしても、よく覚えてたな?」
「そりゃあ、忘れるわけ無いじゃない。……アレでライバルが一人増えちゃったんだし」
「ん、何か言ったか?」
「別に。……話を戻すけど、シュバルツェア・レーゲンはこの後、あの瞬間転移する乱入者にやられちゃったんだ。
彼女の落ち込みの原因は、間違いなくこのVTシステムが絡んでいるんだと思う」
 ただ、流石のシャルロットにも『使用したゆえに落ち込んでいるのか』『それを使用しても負けた事に落ち込んでいるのか』は解らなかった。
そもそもこんな物を搭載する時点で、何か不可解な点を感じないわけではないのだが。流石にそこまで一夏に伝える気は無かった。
「そう、か。……ひょっとしたら、俺もアイツの落ち込みの遠因になってるのかな」
「え? 遠因……って、どういう意味?」
「ああ。クラウスに、銀の福音を倒した後で言われたんだ。あの時、最初に仕掛けたときには俺が箒を庇って撃墜されたけど。もしも、だけど。
あの後、銀の福音が旅館に来たらどうするつもりだったんだ、って」
「え? クラウスが、そんな事を言って一夏を責めたの?」
 女子生徒(+女性教諭)に軟派な口調で話しかけるものの、決して嫌味はないのがクラウス・ブローンという人間の印象だった。
思わぬ一言に、シャルロットも驚くが。
「いいや、責めたわけじゃないさ。でも、俺が怪我をして心配した人が大勢いるって事だけは忘れるなって言われた」
「……それは、そうかもね」
「ああ。……でもな、シャル。もしも俺が、一番初めに出撃したときに銀の福音を倒せていれば。
ボーデヴィッヒもドイッチも、それにドールを纏ってやってきた、カコ・アガピって所の人達も、怪我をせずにすんだのかもしれないんだよな」
「一夏……」
 シャルロットは、眼前の人物の優しさにまた心臓の鼓動が激しくなるのを感じた。
決して仲のよくない人物でも、出会った事の無い人物でも、怪我の心配をする。その優しさが、たまらなく愛しかった。
そして、自分が何故彼に惚れてしまったのか。それを、改めて自覚する。
「……一夏は、何処まで僕の心を掴むのかな」
「ん? 何だって?」
「え? くくくく、口に出してた!?」
「ああ。でも、ちゃんと聞こえなかったんだ。何て言ったんだ?」
「そそそそそそそそ、そんな、気にする事じゃないから! 気にしないで!」
「お、おう、そうか」
 明らかにおかしいシャルロットの様子に、一夏はそれ以上の追及をやめた。それの代わりに、彼は別の話題を出す。
「あ、そうだシャル。お前、ゼリーは好きか?」
「え? う、うん。好きだけど。どうかしたの?」
「いや、箒と、今日戦った三人のために俺がゼリーを作ったんだけど。一つ、余ったんだよな。良かったら、食べないか?」
「い、一夏の手製のゼリーなの!?」
「おう。まあ、今から夕食だし、持ち帰って明日にでも食べればいいと思うから……」
「今、いただくよ!」
「そ、そうか? ゼリー一個でも、夕食前に食べるのは、あまり感心しないけど……」
 一夏は基本的に夜は小食であり、夜食や間食もしない。そんなにゼリーが好きなのか、としか思わなかった。


「ご馳走様でした。それじゃあ、食事に行こうか?」
「そうだな。約束してたしな」
「うん!」
 一夏手製のゼリーを味わい、今から一緒に夕食をとる。シャルロットにとっての、至福の時は、まさに今始まろうとしていた。
「おーい一夏! 食事でも行こう……ぜ」
「お、クラウスか。よし、それじゃ行くか!」
 そして、クラウスによって木っ端微塵に砕かれた。自分の行動がどういう結果を齎したのかを悟ったドイツの少年は、流石に表情を引きつらせる。
「その、なんだ。……悪かったな、シャルロット」
「いいよ、わざとじゃないし」
「ん? どうかしたのか、シャル?」
 クラウス同様の引きつった笑顔のシャルロット、そして全く理解しておらずそのままの一夏。
この奇妙な三人による夕食は、少女の心にダメージを残しつつも恙無く終わったのだった。……あくまで、夕食だけであったが。


「本音たちだけずるーい!」
「機会の平等を申し入れます!」
 翌朝。一夏が登校してくると、そんな抗議がクラス中を包んでいた。原因は、というと。
「本音やかなりん達だけ織斑君のゼリーをもらえるなんて、ずるいよね!」
「そうそう! 私達だって、食べてみたかったのに!」
 前日の、一夏や箒の力を見せた模擬戦。その結果として、一夏が参加メンバーにゼリーを振舞ったのだが。
その事がクラスメート達にも発覚し。自分達も、と望むメンバーが騒いでいるのだった。
「まあまあ、落ち着こうよ皆。皆の分を作るのは、いくら一夏でも大変だし……」
「まあ、そうですわね。でしたら、わたくしも一夏さんを手伝って――」
「いや、それは俺一人でやるよ」
 こうフォローしたのは、一緒に登校したシャルロットであった。なお、二匹目の泥鰌を狙ったセシリアの一言は一夏自身に却下される。
「しかし一夏、昨日は材料が揃っていたから作れたようだが。すぐに作れるものなのか?」
「大丈夫だよ~~。購買部で、ゼリーの材料とかも入手できるし~~。また食べてみたいな~~」
 ゼリーを食している箒の疑問に答えたのは、同じくゼリーを食した布仏本音だった。なお、わずかに涎が出ている。
「織斑君、大丈夫なの?」
「そうだな。まあ、六人分なら兎も角、十人以上となるときついけど。希望者に、作ってもいいかもな」
 ゼリーを食していた鷹月静寐の問いに、一夏はあっけらかんと答える。
この発言は、クラス代表として偶にはこういうのも良いんじゃないか……などと軽く考えた結果だったが。
「……ちょっと待ってくださいな。一夏さんが昨日作られたゼリーは、六人分でしたの?」
「ああ、材料の関係で六人分だったんだ。で、俺、箒、のほほんさん、鷹月さん、奥村さんが食べて。で、夜に、シャルに一個あげたんだ」
「……デュノアさん。よろしいかしら?」
「な、何かなオルコットさん?」
 思わぬところに飛び火するのであった。シャルロットに問いかけるセシリアの瞳は、既に狙撃手のそれ。
それも、怒りを込めた瞳。それは、何者も逃れられない裁定者の眼。
「どうしてあの時の模擬戦に参加していなかった貴女がゼリーをいただいているのかしら?」
「そ、それはその、ええっと……」
 一夏の手作り、という部分に異様な迫力を込めたセシリアの言葉。それを向けられたシャルロットの目は、完全に彼女を直視できないでいた。
ちなみに、一夏達もやや引いている。この事態を唯一打破できる可能性のある担任教師は、未だに姿を見せない。
「そもそも、夜に、と仰いましたけれど。……まさか!」
「ち、違うよ! 一夏やクラウスと一緒に、夕食を食べただけだから!」
「ブローンさんと、ですの? そうだったんですの?」
「おう。シャルと約束していたんだけど、クラウスも来たから一緒に食べたんだ」
「……そうでしたの」
 セシリアの怒りは、その言葉で霧散した。せっかくの機会を潰された恋敵に、わずかに同情してしまったのである。
「ところでおりむー、結局どうするのー?」
「そうだな。とりあえず希望者には作ってもいいけど……あ、山田先生」
「おはようございます。皆さん、そろそろホームルームですよ!」
 そこへ、副担任の山田真耶がやってきた。だが、それと同時に来る筈の担任の姿は無い。
「あれ、織斑先生はどうしたんですか?」
「織斑先生ですか? 織斑先生は、今日は用事でHRと午前中の授業は不参加です。ですから、私一人で……」
「どうしたんだろ? 臨海学校も終わったのに、用事なんて……」
「テストかな? でも、それで授業まで休むのも本末転倒だよね……」
「み、皆さん、授業を始めますよー」
「ほら皆、ゼリーはご馳走するから座ろうぜ」
 ややざわめきかけたクラスだが、一夏の一言であっという間に生徒達が着席する。
……ちなみに、自身の指導力<<一夏のゼリーであった副担任が大きく落ち込んだのは全くの余談である。




「箒。俺は今日は剣道部に向かおうと思うんだけど、お前はどうするんだ?」
 放課後。一夏が、そう呼びかけてくれた。普段なら瞬時に承諾するところだが、今日だけは駄目な理由が存在していた。
「いや、ちょっと頼まれている用事がある。すまん」
「そうか。じゃあ、またな」
「ああ。また、誘ってくれ」
「では一夏さん。わたしと一緒に最良の一時を過ごしません事?」
「ちょっと一夏! 箒が行かないなら剣道部に行かずに勉強しない?」
「いや、ちょっと待てって二人とも。今日は――」
 普段なら、私も参加するであろう言い争い。……だが、今日だけはそうはいかなかった。


「篠ノ之さん、こんにちわ。よく来てくれましたね」
「約定は守る。それが、武士だからな」
「そ、そうなのですか」
 アリーナにやってきた私の前に現れたのは、宇月の幼なじみにして一夏の隣人、一場久遠だった。
鈴の話によると、米国がなにやら企んでいるという話だったが。あれ以後、一夏に彼女が近づく事はほとんど無かった。
まあ、それは良いか。……そして一場の隣には、もう一人女子がいた。
「ようこそ、篠ノ之さん。約束を守ってくださり、感謝します」
「お前は……確か、三組の代表候補生の」
「マリア・ライアンよ。何度か、合同授業で一緒になった事があったわね」
「ああ」
 そういえば彼女も、アメリカの代表候補生だったな。ならば、当然か。
そしてその後ろには、私とよく似た……ただし少し違う形で金色の髪を纏めた、長身の女子生徒がいた。
肌の色は、褐色――というのだろうか。あまり、見慣れない感じを受ける。
「ご存知かもしれませんが、こちらは三年生のアメリカ代表候補生、ダリル・ケイシーさんです。ケイシー先輩、こちらが――」
「おう。お前か、例の篠ノ之束の妹ってのは。……しっかし」
「……何か?」
 ケイシー、と紹介された先輩はなにやら私を凝視してくる。思わず、見返してしまったが。
「一年生にしちゃあ、でかいな。ライアンやイチバの更に上だ。……オレに並ぶか、越えてるんじゃねえか?」
「は? ……っ!」
 その視線が私の胸に向かっているのを理解し、慌てて背を向けた。
「な、何を言い出すのですか!」
「……ケイシー先輩、初対面の人間にその言葉はどうかと思います」
「同感です」
「けけけ、冗談だっつーの。アメリカン・ジョークだよ」
「ただでさえ誤解されがちな我が国が更に誤解されるので、止めて下さい」
 一場とライアンの言葉にも、馬耳東風といった様子の先輩。……お、おほん。
「この場にいるという事は、一場が言っていた、私と刃を交えたいという相手は貴女であると考えてよいのですね?」
「その予定だったんだが……。あー……。何かだるいな。ライアン、お前に任せていいか?」
「駄目です」
「あの、ケイシー先輩。私が【舞姫】の機密事項を明かしてまで得た機会を生かして欲しいのですが」
 ……何なのだろうか、この先輩は。やる気のない輩というのは何処にでもいるものだろうが、このIS学園にもいるとは思わなかった。
聞いた話では、この人も一場やライアン同様の米国代表候補生。さらに、この人は――。
「私も同感です。ヘル・ハウンドもバージョンが1.8になったと聞きました。その性能を確かめるのに、紅椿は相応しい相手かと思うのですが」
 ライアンが口にしたとおり、専用機を持っている代表候補生だ。
私の周りには専用機を持っている代表候補生が多いので意識しないが、これは極めて異例なことであるらしい。
実際、現在の三年生で専用機を持っているのはただ一人だけ――。この、ダリル・ケイシーという先輩のみであるというからな。
「まあ、IS自身はオレとヘル・ハウンドの手に相応しいかもしれないけどよ。操縦者がどうなんだ、って話だよ」
「け、ケイシー先輩!」
 ……つまり、紅椿を扱うには私ではまだまだ力不足だと言いたいのだろう。……だが。
「確かにそうかもしれません。ですが一場には、私のために本来は秘密にしておかなければならない力を貸してもらった、借りがあります。
その借りを返す機会を、先輩に作っていただきたいのですが」
 それは、ある意味で自分自身が最も解っている事だ。今更、否定などしない。
「へえ。挑発にはのらないか。……思ったよりも冷静だな」
 ケイシー先輩は、獲物を見据える獣のような目になった。……なるほど。そういう事か。
「よし、んじゃあちょっくらヤるか。……おいライアン、イチバ、データ収集は頼むぞ」
「心得ました」
「はい」
 二人の一年生が頭をたれ、ケイシー先輩はピットに向かった。


『篠ノ之さん、もう少しでケイシー先輩の準備が整います。もうしばらく、お待ちください』
「承知した」
 私は、紅椿を展開してアリーナの上空に待機していた。偶々居合わせた者達や、そこから情報を得た者達がアリーナに集まってきている。
私としては、あまり人目を引くのは好きではないが……。
「よう、待たせたな!」
 そこへ、ケイシー先輩がやってきた。……そのISは、情報によるとヘル・ハウンドBr.1.8。
どうやらこの機体は、少しづつバージョンアップさせていくタイプの機体であるようだ。
ダークグレーの機体の中で特徴的なのは、両肩に備え付けられた犬の頭部のような部位。あれは、武器なのか。それとも……?
「そら、まずはこいつで試させてもらうぜ!」
「あ、あの頭は別稼動するのか!」
 両肩の犬の頭が本人より離れ、その犬の頭が共に炎を放ってきた。
一年生の専用機でたとえるなら、セシリアのブルー・ティアーズの子機のようなものか。ただ、アレほど遠くには動かせないようだが。
「なるほど。鎖に繋がれたままだということか!」
「地獄の猟犬(ヘル・ハウンド)に、何言いやがる!」
 心なしか怒りをあらわにし、炎の弾丸を犬頭から放って来る。先ほどはブルー・ティアーズの子機に喩えたが。
衝撃と炎、という違いはあるが鈴の甲龍、衝撃砲に近いスタイルの武器だな。
「見せてもらうぜ、紅椿の力を!」
 炎は、衝撃砲のごとく連発された。威力は、それほどでもないが密度は中々の物だ。……しかし。
「私も、高密度攻撃には慣れている!」
 空割と雨月から放たれる斬撃で、炎を相殺する。一部は、ヘル・ハウンドの本体まで到達したようだ。
「うわちちちち! ……まさか、こっちに反撃してくるとは思わなかったぜ」
「射程は然程長くは無い、か。口蓋から発射されるところを見れば、鈴のあれほど角度も困難ではないか」
 犬の頭が本体から離れて攻撃するのには少し驚かされたが、特に回避が困難というわけではない。
鈴の衝撃砲のように、射角が自在に動くわけでもない。……これが『アレ』と同じ米国第三世代型、なのか?
だが、今得た情報だけで過信は禁物だ。……あの日の事は、決して忘れていない。
「……へえ。猪かと思ってたが、分析の方もやるじゃねえか。焦ってもいない、かといって油断も無い。……冷静なもんだな」
「これを得た日、私も色々な事がありましたから」
 苦味を込めて、先輩の問いに返事をする。わずかに考えた後、先輩は私の言いたいことを理解したように笑った。 
「そっかそっか。そういえばお前らは『アレ』と戦ったんだったな」
「はい」
 小声で囁かれた、アレという単語が指し示す内容。間違いなく、銀の福音のことだろう。あれも、米国の機体だったからな。
「まあ、それじゃしょうがねーか。……おい、来ていいぞ!」
「ったく、人使いが荒いッスよー」
「!?」
 アリーナのピットから飛び出したのは、こちらも見た事のないISだった。髪を三つ編みにした、小柄な女子生徒が纏う水晶のような装甲のIS。
紅椿から伝えられた情報は、それをギリシャの第三世代型IS……。コールド・ブラッドだと伝えてくる。
乱入、か? いや、今のケイシー先輩の言葉からすると。
「なあ、こいつも交えていいだろ? オレの真価は、こいつとのコンビネーションだからよ」
「何言ってるんスか。人がおやつを食べていたら、プライベート・チャネルでいきなり呼びつけたくせに」
「いいじゃねーか。どうせ紅椿の情報はギリシャでも欲しいだろ?」
「まあ、その通りッスけどね。……んで、そっちはどうなんスか、篠ノ之箒。私は途中からの乱入ッスからね、無理に、とは言わないッスよ」
 コールド・ブラッドの操縦者……公式の情報によると、二年生の専用機持ち、ギリシャ出身のフォルテ・サファイアという先輩が問いかけてくる。
この女性も、私よりも力量は上だろう。一場との約束ゆえに戦うことになったケイシー先輩と異なり、彼女と戦う義理はないのだが。
「……いいえ。こちらから、お願いします」
「そうっスか。まあ、それなら相手をしてもらうッスよ」
「それじゃ見せてやるか。私達無敵のイージス、その真価って奴をよ!」


「こ、これは……!」
 敵の動き方が、変わっていた。先ほどまでは、どちらかといえば攻撃的な動き方だったケイシー先輩が、まるで流水のように舞っている。
そして、もう一人のサファイア先輩と、二心一体の動きをしていた。どちらかを狙おうとしても、避けられ、受けられ、先読みをされる。
もう一方がその隙を突き、攻撃してくる。空割も雨月も、まるで当たってはくれない。まるで、実体の無い幻を相手にしているようだった。
ケイシー先輩の炎も、精度を増している。どうやら先ほどまでは、本気ではなかったようだ。
「距離を取るしかない、か……むっ!?」
 私が二人の先輩から距離を取り、抜刀しようとした瞬間。……エネルギーを発生させる展開装甲の部分が、凍結していた。
「私のコールド・ブラッドは冷気を操るISッス。まあ、空中で冷気を使っても動きを鈍らせる事くらいしか出来ないッスけど」
「その隙が、命取り――だな!」
 私の刃を凍結させた事により攻撃に生じた、僅かなタイムラグ。それを見逃す二人ではなかった。
そのまま、二人同時に瞬時加速を行い私へ攻撃を仕掛けてくる。二人同時の息の合った蹴撃が、紅椿ごしに私に衝撃を与えた。
「……くっ!」
 今の一撃で、シールドエネルギーもかなり削られた。なのに、相手のシールドエネルギーは殆ど削れていない。
「これが、二人の真の実力というわけか……!」
 先ほどまでとは、まるで別人のようだった。その動き、攻撃、そして雰囲気。
私もタッグトーナメントを戦い続け、少しはコンビで戦うという事がどれほど強いものであるのか分かったつもりでいた。
だが、この二人はまるで別物だった。これに比べればセシリアと鷹月、あるいは一夏を苦戦させた者達でさえコンビネーション不足に思えてしまう。
「んー、思ったよりはやるッスけどね」
「まあ、な。……んじゃだりいし、そろそろ止めるか」
「そうッスね」
「は、はあ?」
 突然の、休戦宣言。ケイシー先輩は二つの刃の付いたブレードを収納し、サファイア先輩もまた武装を収納する。
「ど、どういう事ですか」
「これ以上やっても、データ収集はあまり変わらねーだろからな。ここらで終わり、ってわけだ。後輩を苛める趣味はねーんでな」
「まあ、予想よりも良かったッスよ。……一人づつなら、どうなってたか分からなかったッスね」
 そういうと二人は、私に背を向けた。完全に、戦う気は無い。こうなっては、私から攻撃できるはずも無い。
「ま、気が向いたらアメリカに遊びにこいや。グリーンカード(※永住許可書)はいつでも支給してやるからよ」
「ギリシャもお勧めッスよ。地中海の海の幸や神話時代からの遺産は、日本人にも好評っスからね」
 言いたいことだけを言うと、先輩達は去っていく。……狐につままれたような、そんな感じだった。




「悪かったな、いきなり呼び出して」
「まったくッスよ。……まあ、紅椿の情報は本国も欲しがってたから渡りに船だったッスけど」
 ピットに戻った、二人の専用機持ちが共に自機を収納した。その様子は、遠慮も何も無い女子の物。
「やっぱそーか。で、お前は『本当のところは』どう思った?」
「別に、気にするほどの事も無いと思うッスけど。あれが国家代表レベルの操縦者が使うなら兎も角、今の彼女じゃ宝の持ち腐れ……って所ッスね」
 先ほど箒に言った言葉とは、間逆の答えを返すフォルテ・サファイア。
それを明かすのは、彼女がダリル・ケイシーという人間に対して絶対の信頼を持っている証ともいえた。
「そうだな、まだまだ雑魚だ。だけど、これからどうなるかは解んねーかな」
 その瞬間、ダリルの目がわずかに鋭さを増した。その変化にフォルテはやや訝るが、次の瞬間表情を一変させる。
「わわ、何するんスか!」
「ちょっと撫でてみたくなったから、な」
「ったく、私の髪はオモチャじゃないッスよ」
「悪い悪い、また編んでやるからよ、そー怒るなって」
「……じゃあ今夜、頼むッス」
 河豚のように膨れながらも、フォルテが嬉しそうに笑みを浮かべる。育った国も違い、ISの性質にいたっては対極ともいえる。
だが、まるで必然のように二人は出会ったのだった。――その先に、何が待つのかも知らないままに。


「さってと。……お仕事、といくか」
 わずかに自嘲と、それとは異なる感情を込めてダリルは生徒用端末とは別の端末を開いた。そしてわずかなタイムラグを経て、相手が通信に応じる。
『あら、お疲れ様。どうだった、紅椿は?』
「まあ、今は大した事ねーな。……本当に何かあるっていうのか?」
『ええ。だって、篠ノ之博士が第四世代と言い切り、そして実の妹に与えたISよ? 何か無い方が不自然だわ』
「そうかもしれねーけど、よ。……イージスには手も出なかったぜ?」
『それはそうね。貴女達のコンビネーション、学生レベルだと中々太刀打ちできないでしょうし』
「まーな。でもそんなに欲しいのかよ」
 通信相手は、自慢げなダリルの言葉も受け流す。だが、その次に放った言葉にはダリルも表情を変えた。
『ええ。欲しいわねえ、紅椿」
 映像は無いが、ダリルにはその相手が蛇のように舌なめずりをしているのが分かった。
相手がこういう態度をとった場合、どんな悪辣な手段を使ってもそれを完遂しようとするのを知っていた故に、彼女は篠ノ之箒にわずかに同情する。
「……そう思っていないIS関係者はいねーだろうな。んじゃ、またな叔母さん」
『叔母さんと呼ばないでといったでしょう? ああ、ところで、ちょっと学園内で接触して欲しい人物がいるのだけれど』
「誰だよ?」
『一人は、一年四組の専用機持ち、オベド・岸空理・カム・ドイッチ。そして――』
 二つの名前を聞いたダリルに、不審そうな表情が出た。オベド(省略)ことゴウは理解できる。だが、もう一人が理解できなかったのだ。
その人物の名は、頭の片隅にはあったものの。今まで、会った事さえないのである。
「何でそいつと接触するんだ?」
『それはお楽しみ、よ。じゃあ、よろしくね』
 言いたい放題言ってしまうと、相手は通信を切った。その、気ままな雨のような通信相手とは。
「ったく、スコール叔母さんも相変わらずだな。また、だりい事になりそうだぜ」
 スコール・ミューゼル。亡国機業の一員であり、米国代表候補生のダリルは、彼女と繋がっていたのだった。




「一体、どうしたんだろうな?」
「俺たち四人を集めるって事は、学年全体に関わる事なんだろうがなあ」
「そんなの、先生が来たら分かるでしょ」
「……うん」
 夜遅くに談話室に集められたのは、俺、鈴、将隆、簪の四人だった。シャルの父親と話した部屋とは別の談話室で、あそこよりも少し広い。
この四人、つまりクラス代表を全員集めるということは将隆の言うように一年全体に関わる事、なのか。
「待たせたな。――うむ、揃っているか」
「織斑先生」
 そこにやって来たのは、今日は姿を見せなかった千冬姉だった。山田先生も一緒にいるが、千冬姉のネクタイとかスーツの感じからして、今、帰ってきたのだろうか?
「えー、クラス代表の皆さんにお知らせがあります。期末テストの前に、大事なイベントが復活する事になりました」
「大事なイベント?」
「それって、まさか……」
「そう! トラブルで中止になっていた学年別トーナメント……再開決定です!」
 山田先生が展開させた超大型空間ウィンドウで表示されたのは、あの乱入事件で中断されていた学年別トーナメント。
それが、再開されるという知らせだった。日付や開始時刻、使用アリーナも明記されている。
それによると、一年生の場合は準決勝を一試合やって。その次の日に、決勝という形になるらしい。
「あれ、俺達の場合、勝ち上がったら連戦……じゃないんですね?」
「まあ、色々と都合があってな。……最初からこうしていればよかったのだろうが、な」
 千冬姉がため息をつく。多分、大人の事情って奴なんだろうな。
「ちなみに学年別トーナメントは、中断された試合の状況からの再開となります。ただ、再現が難しい状況であれば再試合扱い、となります」
「そう、か。……じゃあ、一年生の戦いは最初からって事ですね」
「そうだ、安芸野。二人とも、機体の整備とタッグ相手との連携を再度強化しておけ」
「はい!」
「分かりました」
 将隆と簪が返事をする。そして千冬姉が俺と鈴のほうへ視線を向けた。
「織斑、凰。お前達は、今回アリーナの警備に回されることになった。理由は言わなくても分かるだろうが、詳細は追って伝える」
「はい!」
「了解です!」
 俺は警備、か。まあ、乱入者対策なんだろうけど。……あれ?
「あの、織斑先生。警備に回されるのは俺達だけですか? セシリアやシャルは、回されないんですか?」
「確かにな。篠ノ之は出場するから無理だとしても……」
「ちょ、一夏! あたしだけじゃ不満だって言うの!?」
「そうじゃねえよ。でも、セシリアやシャルがいればより安全だろって事だ」
「ふむ、織斑も頭を使ったな。……明日は嵐か?」
 ちょ、酷くないか千冬姉!? 笑ってるから、冗談なのは解ってるが!
「まあ、織斑の疑問も当然だが。……篠ノ之対策だ」
「箒の?」
「え、何でそこで箒の名前が出てくるんですか?」
 まあ、確かに将隆の言うように箒は勝ち残っているわけだから警備には回れないだろうけど。準決勝、つまり一日目なら回れるよな?
「本来なら、織斑の言ったようにオルコットやデュノアのようなクラス代表ではない専用機持ち、そして他の代表候補生も警備に加えるべきだろう。
だが、今は篠ノ之がいる。確かにあいつは警備に回れるだけの力はあるが、それは出来ん。あいつの重要度は警備される側だからな。
お前たちが知っているかどうかはしらんが、今日あいつは二年生のフォルテ・サファイア、三年生のダリル・ケイシーのコンビと模擬戦を行った。
結果はほぼ完敗だったようだが。……今のあいつでは、学生二人にも翻弄されかねん。だからこそ、警備には回せなかった」
「……そう、ですか?」
 銀の福音との戦いでは、立派に戦っていたと思うだけどなあ。
「なるほど。箒だけを外すよりは、いっそあたし達『だけ』警備に回して後はフリー、ってわけですね」
 鈴が、銀の福音戦の打ち合わせでも見せた『代表候補生の目』になる。それはいいんだが、何か俺たちだけ、って部分を強調しているような……?
「説明は以上だ。何か、質問はあるか?」
 その言葉には、俺達四人は何も無かった。そのまま打ち合わせは終了し、俺達は部屋から出る。
「さて、と。まあ赤堀には、今のうちに伝えておくか」
「私も、伝えてくる。……それじゃ」
 将隆と簪は、別方向に去っていった。まあ、あの二人が試合して。勝った方が、箒とあのボーデヴィッヒと当たるんだもんな。
「さてと一夏。これから、あたしの部屋で打ち合わせでもしない?」
「おいおい、お前の部屋じゃ同室のハミルトンさんがいるだろ。俺の部屋でやろうぜ」
「……え?」
 どうしたんだよ、鳩が豆鉄砲食らったような顔して。
「え、あ、あの、その、いや、あ、えっと……。あ、あ、アンタの部屋、で?」
「そうだよ。俺の部屋なら誰もいないから、聞かれたりしないだろ?」
「で、でも、その、こ、心の準備が……」
 心の準備? いやお前、中学時代にも俺の部屋に普通に入ってきたし。この寮に入ってからも、普通に俺の部屋に来るじゃないか。
「ほら、行くぞ!」
「い、一夏ぁ!?」
 ちょっと変な鈴だったが、俺はそのまま引っ張っていった。……軽いなあ、こいつ。
そういえば箒の奴を入学初日に引っ張った事があったけど、箒はもう少し……いかんいかん、鈴の目が鋭くなってきた。この考えはやめよう。
「……ん?」
 箒のことを考えた瞬間、何か変な事に気づいた。千冬姉は箒は『警備に回れる力はある』と言った。
だけど、二年生と三年生コンビに翻弄されたと言った。だったら、警備に回れる力があるなんて言わないと思うんだけど……。
「ちょっと一夏、前、前!」
「え? おわああああ!?」
 考え事をしながら歩いていると、ちょうどそこへ壁が現れた。とっさに半回転し、背中で衝撃を和らげようとする。
「……ふー、危ねえ危ねえ。前方不注意だったな」
「い、一夏? あ、あの、さ。ちょ、ちょっと痛いんだけど……」
「へ? おわっ!」
 鈴を引っ張ったままの俺が半回転すればどうなるか。引っ張られていた鈴が、半回転した俺の元に飛び込んでくる。……それは自明の理だった。
ちょうど、抱きしめているような形にも見えるな、これ。
「わ、悪い悪い。痛かったな」
「……そ、そんなに急いで離さなくてもいいのに」
 鈴を慌てて離す。あれ、今何か言ったか?




「そうですか。上手く誤魔化せましたか、篠ノ之さんのことは」
「ああ」
 クラス代表たちが集められていた談話室では、今度は一年全クラスの担任・副担任、計八名が集まっていた。千冬の説明に、新野智子も安堵の息を漏らす。
「とにかく、篠ノ之さんが『最悪の事態』になるのを避けろとのお達しでしたからね」
「そうだな。あいつも一日目、準決勝の警備になら回せないわけではない。ケイシーやサファイアには苦戦したようだが、それなりに紅椿を使いこなしている。……だが」
「彼女は、織斑君の怪我で動じたようにまだまだ精神的に未熟な部分がありますから。もしも何かあれば、あっさりと拿捕されるなんてケースもあり得ますよね」
 箒の、紅椿の拿捕。それを恐れる故に、箒を変事があれば自在に動かざるを得ない警備から外したのだった。
なお、当日は千冬が『決勝戦の相手をよく見ておけ』という理由でラウラと共にアリーナ管制室に押し込める予定になっている。
「まあ、あの瞬間移動能力者……クラス対抗戦や福音の一件にも絡んでいるあのISが出てくれば、これらの警戒も実質無意味になるんだろうだね」
「古賀先生……!」
 副担任・古賀水蓮の元も子もない一言に、智子がたしなめた。だが、千冬はまるで能面のように表情を変えない。
「出てくれば、ではなくほぼ間違いなく出てくるだろう。……古賀先生、貴女のISは何処まで使えるんですか?」
「織斑先生。何処まで、とはどういう意味です?」
「戦力として、です」
「ふーむ。私のドッペルゲンガーは、私並みの整備能力を持つが。戦闘力に関しては、それほどではないなあ」
「古賀先生でしたら、大陸弾道弾を量子変換していても驚きませんが」
「おいおい、冗談とは珍しいな……って」
 智子の反応に笑い飛ばそうとした水蓮だが他の教師達も真面目な反応しかしていなかった。……この辺り、彼女への評価が分かる。
「ところで織斑先生。三組副担任補佐のゲルト・ハッセ先生は呼ばなくて」
 そう問うたのは、一組担任の山田真耶だった。彼女としては、自然な質問だったのだが。
「ああ。……まあ、今は、な」
「そうですか……」
 何処か謎掛けじみた返答にわずかに疑問を持ちながらも。担任を信頼する彼女は、そのまま流してしまうのだった。


「……やれやれ。私には、こういう仕事はやはり向かんな」
 寮長室に戻った千冬は、一人ため息をついていた。何故なら、彼女は副担任の真耶を含む全員に嘘をついていたからだった。
「やはり、授業中の模擬戦程度では納得しない、か」
 彼女が、自分のクラスの生徒である篠ノ之箒を、警備から外した理由。それは彼女を、必要以上に戦わせたくはないからだった。そして、その理由は。
「……何を隠している、束」
 未だ全貌が明らかでない紅椿。その真の力を恐れて、であった。


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