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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 新しいもの、それに向き合う時
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/06/24 08:40
 臨海学校も終わり、いよいよ新展開……というところで更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
いよいよ、色々と動き出す……筈です。


 私――カコ・アガピグループ総帥秘書、マオ・ケーダ・ストーニーの前では私の主であるクリスティアン様と、その道具となるべき者達が集っていました。
自由闊達、といえば聞こえはよいですが、TPOに合っていない多種多様の服装、平均的な年齢もかなり若年に位置する者達。
彼らはいずれも『知識』や『力』を持つ『駒』達ですね。
「では、会議を始めます。まず、オペレーション・ゴスペルブレイクについてですが」
「完全に失敗だったな。ったく、誰だよ絶対に成功して原作ブレイクだ、とか言っていたのは」
 クリスティアン様が、不機嫌そうな声をあげます。実際にグループ全体で成功を見越して根回しを進めていたのですが、それが完全に無駄になりましたね。
「ドレイク・モーガン以下『狂犬』部隊が情けなさ過ぎただけだ。ドールやレッドキャップには問題はない」
 そういうのは力を持つ『駒』の一人。ドールやレッドキャップの直接の整備はこの者が行っていましたが、責任転嫁が混じっていますね。
まあ、狂犬部隊も実力を発揮できなかったのは確かでしょうが。
「レッドキャップに関しては、試作一号機を学年別トーナメントに回したにも関わらず、あまり注目を集められなかったようだが?」
「あれは更識簪が情けなかっただけだ。代表候補生なら、もう少しやれると思ったが……。所詮は二番目だったというだけだ」
「ふむ。どう見る、マオ?」
「そうですね。更識簪に関しては、時間が足りなかった事を加味すれば力を引き出せたのではないかと思われます。
むしろ、あのドイツ人女子学生――マルグリット・ドレの奮闘は、客観的に見て中々のものだったと言えるでしょう。
今まではノーマークだった人材ですが、ヘッドハントすべき人材だと言えるでしょう」
「だ、そうだ。……つーか、お前が大言壮語だっただけだろーが」
「……」
 駒の一人は、歯軋りをしています。この辺りは、力を持っていてもまだまだ幼いとしか言えませんね。
「で、フィッシングとヤヌアリウスはどうなんだ」
「ヤヌアリウス、フィッシング両名は報告どおり再起不能状態ですね。両名とも、これ以上役には立たないかと」
「ちっ……。あいつらも口だけだったな」
「しかし、問題は両名の欠損だけではない。――篠ノ之箒への攻撃を仕掛けたことにより、両名の存在がIS学園側にも知れ渡ったという事だ>
 口を挟んだのは、ドクトル・ズーヘ。格好こそブーツと中世の欧州貴族のような服装、そして猫の尻尾を模した装身具。
手には魔術師が持つような獣の頭部を模った杖、と異様なものですが。意見としては、正論ですね。
先ほど平均年齢は若いといいましたが、彼(?)だけは年齢や性別さえも不明です。クリスティアン様は『使えそうだからいいだろ』と仰いましたが。
正直な話、この場で私が一番警戒する人物は――この、ドクトル・ズーヘですね。
「ったく、どうせ失敗するなら問題を残すな、ってんだ。……で、学園側はどうしてるんだ。ケントルム、マルゴーはどうしたんだよ」
「あの二人では、まだその辺の状況は掴めていないようです。マルゴーは負傷中ですし、ケントルムも表面上は一般生徒を装っていますので」
「ちっ、いっそもう一人か二人送り込むか。あるいは学園側の生徒を篭絡するか……」
 クリスティアン様が、苛立ちをあらわにしています。……さて、どうしたものでしょうか。
「いっそ、現場側で独自に動くっていうのもありなんじゃないかな?」
 そう口を挟んだのは、今まで無言であった、竜と虎が刺繍された鎧の主――。銀の福音やIS学園の面々とも戦った、アケノトリの主。
宋麟栄(そう りんえい)でした。転生者の中でも特異な、特殊存在を宿したという転生者である彼は、この中でもそれなりの上位の存在です。
そして同時に、G・アーマーにとっては無くてはならない人物でもあるのですが。
「事件は会議室で起こっているんじゃない、現場で起こっているです。対策も現場に任せるべきでしょう?」
 ……ふう、よくも『借りた言葉』で自慢げな顔――俗語で言う『ドヤ顔』が出来るものですね。
確かにその言葉には一理ありますが、現場の暴走、というのもあるのですよ? 旧日本軍などは、これがよく起こっていたようですが。
「マオ、どう見る」
「その件に関しては、まだ許可はできませんね。そもそもヤヌアリウスとフィッシングの篠ノ之箒への攻撃も『現場の判断』でしょう?
そのために我らの窮地が拡大したと考えれば、現場への委任は認められません」
「……」
 宋は、微かに顔を歪めました。これもまた、幼さの現れですね。まともな人間ならば、感情を封印して反省の弁を述べるでしょうに。
「そういえば、レッドキャップ・ドールの狂化に関してはどうだ?」
「今回の場合、ドレイク・モーガン以外の二名はより顕著に現れました。やはり個人差が大きいシステムのようですね」
「それは、既に通達済みのはずだが?>
「まあ、実戦で試したデータが得られただけでも上々だろ。……じゃあ、会議はこれまでだ。後は表の連中に任せるか」
 そういうとクリスティアン様は立ち上がり、私もそれに続きました。
クリスティアン様の言われた表の連中、即ち力も知識も待たぬ、カコ・アガピの重役達。人種や年齢は様々なれど、有能な人材である事は確かな者達。
ですが『ある事情』により、今は傀儡も同様の者達ですね。まあ、また頑張ってもらうとしましょうか。
「さて、と。……マオ、アレはどうなっている?」
 会長専用エレベーターに乗ると、クリスティアン様が報告を求めてきました。アレ、というと……。
「はい、既にEU議会に根回しを開始しています。ドイツ政府への問責決議は可決されるものと思われます」
「シュバルツェア・レーゲンの変異が銀の福音戦で発生する、とはな。……あっちに関しては、お咎めなしか?」
「シャルロット・デュノアに関してはデュノア社とフランス政府が『性同一性障害』で押し通す気のようですね。
理由が理由だけに、当人への接触なしではこの理由を覆すのは難しいと思われます。そして学園にいる以上は――」
「接触は困難、か。……所詮は一時しのぎだったって事だな。まあ、どうでもいいが。で、あそこはどうしてるんだ」
「スコール・ミューゼルに関しては、ティタンを除き、IS学園に仕掛ける気は無いようです。
クリスティアン様や他の者達の記憶どおり、二ヵ月後からの可能性が高いかと」
「ティタンか……。宋は、ティタンが邪魔をしたから作戦が失敗したとか囀ってたな」
「アケノトリを出現させて戦況を混乱させた事への責任転嫁である以上、聞く必要はないかと思われます。
……ですがティタンが、奇妙な行動をとっているのもまた事実ですね」
 瞬間移動能力を持つティタンは、我々にとっても欠かせぬ『駒』ですが。我々の配下というだけでなく、亡国機業の配下でもあるという存在です。
そしてあのオペレーション・ゴスペルブレイクの際、ティタンに『記録されなかった行動』があるのも事実。
そういう意味では、宋の讒言もある意味では正鵠を射ているといえますが。
「ティタンへの監視を強化できるか」
「瞬間移動能力を持つティタンを監視することは極めて難しいかと思われます」
 現在ティタンは、我々にとって便利な『足』でもあります。ティタン抜きでは学年別トーナメント最中の二度の乱入も、不可能だったでしょう。
そして『知識』ではどうだったのか知りませんが、クラス対抗戦の乱入もまた、不可能だったでしょう。
誰かと組ませるというのも手ですが、易々と尻尾を掴ませるような相手ではないでしょうし。その為に駒を一つ潰すのも、悪手でしょう。
「まあいい、報告は以上か? ――じゃあ、休憩と行くか」
 クリスティアン様は表情を崩されると、私の身体を抱き寄せました。勿論、抵抗などはいたしません。
私にとっての第一の判断基準は、クリスティアン様がどう反応されるか。クリスティアン様が望まれるなら、そのように動くだけ。

『あるアニメの、赤目の女子中学生を担当した声優は「このキャラクターは感情がないのではなく、知らないだけ」と監督から言われたようだが。
お前は、本当に感情というものが無いのだな』

 以前、宋がそんな事を口にしていたのをふと思い出しました。
一大ブームを築いた日本のアニメの、旧日本軍の駆逐艦の苗字を持つ、ロボットアニメの主人公の母親のクローン……のようなキャラ。
それは私も知っていますが、それは違います。私にある感情は、クリスティアン様への絶対なる忠誠心。それのみだという事です。
「へへへ……」
 クリスティアン様の顔が、私の視界を覆いつくし。そのお好みに合わせ、私はそっと目を閉じました。




「色々あった学年別トーナメント、それに臨海学校も終わって落ち着く……なんて事はなかったわね」
 臨海学校が終わったIS学園は、騒然となっていた。第四世代(!)だという篠ノ之さんの専用機、紅椿。
そして二次形態移行を果たした織斑君の白式。この二つが、そこらじゅうで話題になっていた。
あと、古賀先生の専用機――私、宇月香奈枝が双子か何かだと勘違いしたアレ――も話題になっている。……そして、今は何をしているのかというと。
「ふう。ようやく纏められた……か」
 白式の、倉持技研に提出するための、臨海学校で取れたデータ、二次形態移行後のデータを纏めていた。
もちろん私一人で出来る量とレベルではないので、山田先生に手伝ってもらっていた。
「お疲れ様です、宇月さん。これなら、倉持技研さんも納得してくれると思いますよ」
「ありがとうございました、山田先生。先生のおかげです」
 笑顔を見せる山田先生。先生の方も白式、紅椿のことで色々と忙しい筈なのに、私の事まで手伝ってくれていた。本当に、ありがたいと思う。
「私は、先生ですから。それにこのくらい、大丈夫ですよ」
 眼鏡を持ち上げるその様子は、普段の先生よりも『できる女』って感じがした。……勿論、普段がそうじゃないって意味じゃないけどね。
「ところで先生。ボーデヴィッヒさんに、何があったんですか?」
「……ごめんなさい、それは教えられないんです」
 私がクラス内における禁断の質問をした途端、その雰囲気は消えた。臨海学校において、ドイッチ君と共に負傷したというボーデヴィッヒさん。
怪我自体は重いものじゃなかったらしく、臨海学校の翌日――七月九日から普通に登校している。だけど、その雰囲気がまるで変わっていた。
うつむき、いつもの鋭さが微塵も感じられない。昔からの知りあいである織斑先生、同室であるデュノアさんが何とかしようとしているけど……。
効果はなさそうだった。その様子は、彼女と因縁があった織斑君でさえも心配するくらい。私も、少し心配だった。
「いえ、ごめんなさい。私の方こそ、こんな質問をするべきじゃなかったですね」
 いけないいけない。七夕の日に知ったアレのせいか、ちょっと踏み込んじゃいけない場所を踏み込みすぎてる。……注意しないと、ね。
「いいえ。宇月さんは、ボーデヴィッヒさんが心配だから聞いているんですから。大丈夫ですよ」
 そう言って貰えると、とても助かります。


 その日は、午前中が全部ISの授業となっていた。そして、HR直後。……その爆弾が落とされた。
「さて、本日の午前の授業はIS実習となっている。……臨海学校から、お前達も気になっている部分はあるだろう。
――織斑、篠ノ之! お前達は次の時間、組んで模擬戦闘を行う。準備しておけ」
「は、はい、先生。それで、模擬戦の相手は誰ですか?」
「それは勿論、わたくしですわよね?」
「僕だっているよ?」
 織斑君と篠ノ之さんがタッグ、かあ。ボーデヴィッヒさんはいないから、順当にいけばこの二人が相手になるのが相応しいんだろうけど……。
「逸るな、オルコット、デュノア。……今日は、専用機持ち以外の生徒を当てる。学年別トーナメントで、準々決勝まで残った三名を、な」
「ということは、私とかなりんと、しずしずですか~~?」
「そうだ」
「はい!」
「り、了解です……!」
 織斑先生の肯定に、鷹月さんは緊張気味に、でもしっかりと。
本音さんのトーナメントのパートナーだった、かなりんこと奥村加奈子(おくむら かなこ)さんは、少し小声になったけど、はっきりと返事をした。
この三人は、いずれも準々決勝まで残っていた。奥村さんと本音さんはドイッチ君に。
そして鷹月さんはオルコットさんと組んでいたが篠ノ之さんとボーデヴィッヒさんにそれぞれ敗れていた。
両方とも専用機持ちのペアに敗れているわけだから、それ相応の評価を受けているんだろう。
「先生。私達があの二人と戦うんですか?」
「不安か、鷹月?」
「……いいえ。トーナメントではオルコットさんに頼る部分が大きかったから、自分の今の本当の実力を確かめたいと思います」
「鷹月……」
 鷹月さんはまっすぐに言い切った。彼女のルームメイトである篠ノ之さんも少し心配そうにしていたけど、すぐに真剣な表情になる。
「鷹月、お前の決意は見事だな。……だが安心しろ、大船を用意してあるぞ」
「大丈夫ですよ、奥村さん、鷹月さん、布仏さん! 私も一緒に戦います!」
 大きく胸を揺らせて……じゃなかった、胸を張って返事をしたのは、山田先生だった。
山田先生は、以前凰さんとオルコットさんをノーマルのリヴァイヴで一蹴した実力者だから、織斑君や篠ノ之さんの相手をしても不足はないだろう。
確かに大胸……じゃなかった、大船だ。
「山田先生が相手か……!」
「セシリアや鈴の二の舞のならないよう、注意しなければならないな……!」
 専用機持ちの二人も当然あの一幕は見ていたので、警戒度が上がっている。うわあ、何か凄い事になってるかも。
「この二人が相手か……頑張らないと、ね」
 織斑君(中央、一番前)と篠ノ之さん(一番外側の列、一番前)の間に座る奥村さんが、そんな事を言っていた。……大変ね。
「宇月。お前は奥村、鷹月、布仏のセッティングを手伝ってやれ」
「は、はい!」
 と思ってたら、私にもやるべき事が出来た。まあ、本音さんが選手として出場する以上。
このクラスでは彼女の次に整備関連に詳しくなった私にお鉢が回ってくるのは、ある意味で当然かな。



「ふう……」
 アリーナの整備室で、私は三人のISを整備していた。個人データ――学年別トーナメント途中にとったもの――を元に、入力を終える。
まあ、本音さんがいるから出来る事でもあるんだけど。
「それにしても、白式や紅椿と戦う、だなんて思わなかったな……」
 鷹月さんが、不安そうに呟く。それは、当然だろう。一方は、二次形態移行を果たした専用機。もう一方は、最新鋭の専用機。
私がもしそれを命令されたら、絶対に断りたい組み合わせだ。だって、サンドバッグにさえなれそうもないし。
「大丈夫、だよー。白式も紅椿も、弱点はあるしー」
「弱点?」
 本音さんが、いつものとおりのんびりとした口調で言った。でも、弱点って、一体なんだろう?
私は前述の通り、倉持技研さんへのデータ提出のため、二次形態移行した白式を調べたんだけど……。兎に角すごかった。
武装は雪片弐型一本だったのが、大口径荷電粒子砲やシールドタイプの零落白夜とかも増えて、攻撃のバリエーションも増えている。
スラスターの増設により、加速力もアップしてる。防御力とかは変化は無かったけど、総合的に見ればかなりのパワーアップを果たしたと言えるのに……。
「白式と紅椿に弱点? 布仏さん、それって……?」
「あのねー、それは……」
 鷹月さんの問いかけに、本音さんはゆっくりと、でもしっかりと答えた。そして、その回答は――。




「ほらほら安芸野君、急がないと良い席が取れないよ!」
「今日は、一組が第三アリーナを取ってるんだよ! 紅椿と白式の新しい姿を見られるチャンスなんだから!」
「そうだな」
 一年三組は、今日は一組の授業見学をしていた。それだけじゃなく、他の全クラスが自主学習らしい。
――早い話が、白式と紅椿を見たいなら見に行っていいよ、と言っているわけだ。
「もう満員ですね」
「まったくだね。私達も早く来ておいて良かったよ」
 朝のHRさえサボって来ていたブラックホールコンビが言うように、トーナメントでもここまで満員じゃない試合のほうが多い位に満員だった。
それだけ、あの二人のISへの注目度が高いんだろうけど。
「あ、そうそう。芸野君と赤堀さんは、よく見ておくと良いわね」
 新野先生が、俺達を見てそういった。はて……?
「俺達が、ですか? どうしてですか?」
「忘れたの? 篠ノ之さんは、学年別トーナメントで決勝まで勝ち進んでいたのよ?」
「――あ」
 ということは、だ。
「そうか。つまりトーナメントが再開されたら、私達が篠ノ之さんと戦う可能性もあるって事ですよね」
「そういう事よ」
 なるほど、な。更識のペアを倒したら、ドイツのアイツと篠ノ之とのペアが相手になるんだからなあ。
打鉄だったはずが、第四世代の最新鋭機だなんて話が違いすぎる、と言いたい。
「あら、例の二人のご登場ね」
「ああ、そうだな」
 クラスメート達はほぼ全員が目を輝かせて二人の登場に視線を集めている。……だけど、俺はちょっと違っていた。
「あれ、何かダウナーだね?」
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない。それよりも、紅椿と新生した白式をしっかりと見ようぜ」
 俺の真後ろで大きなカメラを抱えていたブラックホールコンビの二人が、怪訝そうな視線を向けてくる。
一夏と篠ノ之をダシにして誤魔化したが。……俺は、自衛隊からの通話が頭から離れないでいた。


『はい、安芸野です』
『夜分遅くにすまないね。一人かい?』
『ええ、ルームメイトは特別指導室に行っています』
『……何故そんな場所に行っているのか、とか何故君はそれを平然と言っているのか、とか色々と指摘したいものだが。
……ちょっと、見てもらいたいものがあるんだ』
 俺が部屋に一人でいたその時。自衛隊にいた頃に世話になった、岩本安奈さんからの連絡が来た。
臨海学校のことか、と思っていた俺は拍子抜けする。……間違いでは、無かったんだが。
『御影用の専用端末に、写真を送る。見てくれ』
『専用端末に?』
 臨海学校が終わった次の日、データ収集や送信のためにという理由で渡された新型の端末。それに送られる、って事は機密事項なんだろうか。
そんなことを考えて、端末を操作するとすぐに一枚の写真が出てきた。
『……!?』
 洋上に浮かぶ、一隻の船。そこの上には、ぬいぐるみを抱きしめる女性が映っていた。
それは、安奈さんと共に、俺が世話になった女性。IS学園OGであり、安奈の友人さん――鴨志田麻里さんだった。
『嘘、でしょ。何で、何で麻里さんが!? この船は、一体……!』
『七月七日。銀の福音と白式、紅椿が遭遇した海域で偶然、一枚だけ撮られた写真だ』
『あ、あの日に、あの海域に……!? そういえば、一夏が船を庇ったとか言っていたけど……で、でもどうして!?』
『それは解らん。だが、あの日、あの海域に麻里がいたことは間違いないようだ』
『ところで、船はどうなったんですか? 銀の福音の近くにいた、って事は』
『いや、最悪の事態になりかけたが先ほど君が言ったように織斑一夏によって救われたようだ。……その後船は海域を離れており、詳細は解らん』
『そう、ですか』
 安堵と困惑。それが通信をしている俺達二人に共通の感情だった。
『でも、何で麻里さんが……』
『皆目見当もつかんな。……だが、生きていてくれただけでもいいさ。……今だから言えるが、最悪の想像もしたからな』
 ……つまり、自殺。それさえも想像した安奈さんからすれば、こんな形とはいえ無事でいたことが嬉しいのだろう。
俺だって、そういう意味ではホッとしていた。
『何故、麻里があんな所にいたのかは知らん。だが、銀の福音か紅椿が目的であった事は間違いあるまい。
……もしも君の方で何か解ったら、すぐに教えてくれ。頼む』
『解りました!』
 ……その時は、100%本気でそう言ったのだが。冷静になって考えてみれば、何ができるわけでもなかった。
ISを動かせるとはいえ、俺自身には伝手もコネもない。紅椿や姿の変わった白式の事なら実際に戦ってデータを取ることくらいは出来る。
だが、学園の外にいる、消息不明の女性のことを調べる事なんて――ブラックホールコンビにだって、頼れない。結論として、俺には何も出来なかった。


「どうしたの、何か元気ないけど」
「いや……。あれの片方が、もしかしたら決勝戦の相手かもと思うと気が重いだけだ」
「あー、確かにねえ。あの二機って、組んだらとっても強そうだしね。紅白だし」
「……」
 あかほ……もとい、唯がそんな感想を口にした。まあ、確かに強いだろうな。第四世代型と、二次形態移行したばっかりのISなんて……。
「あれが、紅椿……」
「白式、確かに姿が大きく変わってるね……」
 そしていよいよ、アリーナのピットから白式と紅椿が出てくる。俺はあの銀の福音戦で見ているが、上級生を中心に両方とも初見の人も多い。
どよめきと、撮影の音がアリーナ全体に響く。
「一夏、行くぞ!」
「おう!」
 そして、あの二人が空中で待機していた。反対側のピットから出てきたのは……リヴァイヴと打鉄、二機づつか。




 白式と紅椿の相手をすることになった四名は、準備を終えてアリーナに出ていた。
セシリアをパートナーとしていた為に打鉄に慣れている鷹月静寐が最前衛。そして布仏本音も、打鉄を纏い静寐のすぐ後ろに控え。
トーナメントでは本音の支援をしていた奥村加奈子がリヴァイヴを纏いその後ろに立ち。
そして生徒達を援護できるよう、元日本代表候補生――山田真耶がリヴァイヴを纏い後衛に回っていた。
『ルールは学年別トーナメントとほぼ同様だ。ただし、試合終了などに関しては私以外にも外部からの指示があるのでそれに留意する事。
そして織斑、篠ノ之のシールドエネルギーは100%だ。……試合、開始!』
 織斑千冬の声と共に、合計六機のISが動き――を止めた。空中での、奇妙なにらみ合い。
『動かない、か。……箒、聞こえるか? やっぱり、一番の敵は山田先生だよな?』
 一夏と箒が個人秘匿通信で、会話をし始める。突然であったため、まだ作戦などは無い。
『そうだな。どちらかが山田先生に仕掛けるか、いっそ三人を疎外して二人で山田先生を……いや。
あの三人も、トーナメントで生き延びた者達だ。放置していれば、どうなるか解らないか』
『そうだな……。専用機相手だと、相手が何をしてくるかは解ってるけど……』
 一夏は、自身が戦ってきた相手を回顧していた。シャルロットを切り崩し、勝利まで後一歩と迫ったロミーナ・アウトーリ&春井真美。
回避特化で判定勝利を狙い、命中させる事への苦労を知ったマーリ・K・カーフェン&パリス・E・シートン。
凰鈴音を破り、要塞の如き黒吹雪パッケージと攻撃力重視スタイルで二つ目の金星を狙ったミレイユ・リーニュ&椿ほのか。
レッドキャップを駆使し、それを無くしても打鉄弐式と共に戦い抜いて、判定に持ち込んだ更識簪。
その彼女に頼りきりにならず、ルールにのっとって自分達に勝ったマルグリット・ドレ。
この中で、専用機を持っていたのは更識簪のみであったが、誰もが一筋縄ではいかない相手だった。
『とにかく、流れをこっちに持ってくることが大事だな』
『でも、宇月さんが言ってたんだけど、白式の武装って結構燃費が悪いらしいんだよなあ』
『では、私の雨月と空割で牽制をする。いざとなれば――瞬時加速と零落白夜で落としてくれ」
『おう、任せたぜ!』
 そしてまず先手を取ったのは、数に劣り機体性能に勝る一夏・箒のペアだった。




「来ます……!」
 篠ノ之さんが、あの二刀の武器――空割と雨月を使い始めました。私も、あの海岸で。そして銀の福音戦で十分に見ていましたが……。
「敵としてみると、意外と厄介な武装ですね……!」
 特に狙いを定めない、乱射攻撃。私と生徒達を引き離すのが目的……ですね。恐らく、次は。
「先生! ――貰ったぜ!」
 元々速度にすぐれた機体である白式の、更に強化された瞬時加速。私――山田真耶は、それをブラッドスライサー二本で受け止めました。
「……ちっ!」
「そう簡単にやられませんよ、織斑君!」
 見ると、篠ノ之さんも動き出しています。――奥村さんと布仏さんの、中間くらい。あそこから三人を牽制、攻撃するつもりなんでしょう。
「っ!」
 織斑君も、真剣な表情で攻撃をしてきます。あの時――織斑君がISを初めて動かした後、試験管をしていた私が相手をした時よりも、りりしい表情。
普段なら見る側であった私に向けられるその表情は、様々な戦いを潜り抜けてきた結果か、隙も無くなっています。
「山田先生を落とせば……!」
 織斑君の狙いは、私の撃墜ですね。確かに私達の総合戦力としては、二人が以前戦った銀の福音よりも下です。……ですけれど。
「そう簡単には、やられませんよ!」
 アサルトライフル・ヴェントを構え。移動先を予想し、その砲口に銃口を向け、引き金を引く。もう、何千回と繰り返した行為。
「っ!」
 織斑君の移動先を読んだ攻撃。いくら白式が加速性能に優れていても、よけた先への攻撃は避けられませんよね?
「位置取りが甘いですよ、織斑君!」
「くそっ……なら!」
 織斑君が、左腕の新武装・雪羅を展開しました。そして私のリヴァイヴが、その腕に空気中の荷電粒子が吸収・収束されていると知らせてきます。
「くらえっ!」
「そうはいきません!」
 大口径荷電粒子砲――。四組の更識さんの打鉄弐式の荷電粒子砲よりも大きな、直撃すれば一撃必殺もありえる一撃。
あのクラス対抗戦の乱入者のそれと匹敵する威力をもつ一撃。ですけれど、私に命中させるには、織斑君にはまだまだ経験も技術も足りません。
「ふう……。でも、威力だけは凄いですね」
 私の横を、荷電粒子の渦が通り過ぎていきました。距離は少しあるのに、その熱量が感じられる一撃。
「このっ!」
「おっと!」
 そして、即座に瞬時加速からの零落白夜。私がもし彼と初対面であれば、やられていたかもしれない攻撃ですが。
「ふふ」
 瞬時加速は、直線的加速であるが故に避けやすい攻撃でもあります。勿論、タイミングや移動方向を見極めたうえで、の事ですが。
「今度はこちらから行きます!」
 射線を一定方向『以外』に集中させ、織斑君の移動範囲を誘導する攻撃。以前オルコットさん、凰さんと戦ったときにも使った戦術ですが……。
「っ!」
 織斑君の……というか、白式の回避能力は、モニター越しに見るのと実際に体験してみるのとでは大違いでした。
誘導しようとしても、その前に範囲から逃げられてしまう。……なら、このままロングレンジを保っていては生徒達に向かわれるかもしれない。
だったら、少々危険でも彼の得意とする間合いに入り、そこから逃がさない方が良い。そう判断した私は、彼に接近します。
彼への対格闘戦用の武器――猫の手を模したような爪を生やしたグローブ、キャットハンドを展開させて、身につけて。
「先生が、近づいてくる……!?」
 疑問に思ったのか、彼の顔に困惑の色が浮かびます。……でも、そこで考えるより行動に出るタイプなんですよね?
「いや、これがチャンスだ!」
 そうすると、雪片弐型を両手に持ち私を迎撃せんとします。……さて、と。
私のやるべきことは二つ。織斑君を足止めし、三人の生徒さん達に向かわせない事。そして――。




「二刀だと、三人の敵は倒せないよね~~」
「織斑先生が、どうして私たち三人を指名したのか……。その理由がこれよ!」
 一方、箒を取り囲んでいる三人の女子は完全に連携しながらの攻撃に入っていた。
 二人に狙いを定めれば、その二人が逃げ失せ残りの一人が攻撃に移る。
常に移動し続けて一定の距離を保ち続け、決して二者が同一射線に入る事は無く。紅椿の二刀流を、封じ続けていた。
「鬼さんこちら~~」
「くっ……!」
(銀の福音とは違う……。このままでは、一夏の援護も出来ん……!)
 ――これには、箒が『一対多』の戦いをあまり経験していない事も原因だった。箒の場合、一対一、あるいは二対二の戦いを多く経験してきた。
トーナメントでは相手タッグが自分だけを狙ってきた事もあったが、それでも対応していた。
その時の相手が『自分に向かってくる相手』と『その相手を援護する相手』に完全に役割分担していた事も箒には有利だった。
眼前の敵を倒し、その次に別の敵を狙う。この戦術で、箒は戦ってきた。石坂悠やゴウとの戦いでも、この形式だった。――しかし。
(連携が上手すぎる……! 奥村と布仏はともかく、鷹月が加わっているのにまるで乱れが無い……!)
 一対三になると、状況は一変していた。三人の敵への注意はハイパーセンサーを介せば可能である。
だが、それを実際に行動に移すとなると話は変わってくる。箒の武器では、二人を同時に攻撃するのが限界であり。
二人を狙っても、残る一人が、隙を見て襲い掛かってくる。それにも反応したが、今度は自分が攻撃していた二人が援護役となってしまう。
その切り替えや仲間を庇う速さ。まるで、セシリアのブルー・ティアーズの子機の連携のようだ……とさえ箒は感じていた。


「意外と篠ノ之さんが苦戦しているわね。紅椿の力、あんな物じゃないと思うのだけど」
「ええ。詳しくは『まだ』話せませんが、あのようなものではありませんでしたよ」
 アリーナの一角では、一年三組のマリア・ライアンと二組の一場久遠……米国の代表候補生同士が戦況を見守っていた。
ちなみにロブは、二組の生徒に預けてきている。
「そうですね。チェスでたとえるなら……。女王(クイーン)は三つの歩兵(ポーン)で、そして城兵(ルック)は女王が封じているといった感じでしょうか」
「そうね。自在に戦場を駆け回る最強の駒、女王たる紅椿は布仏さん、奥村さん、鷹月さんが封じ。
何処までも突き抜けられる城兵たる白式を、もう一方の女王である山田先生が封じている。……数の優位を生かした戦術ね」
 この二人のみならず、各国の代表候補生たちがこの戦況を意外なものであると感じていた。
だが、そのうちの何人かはあることに気付く。
(……さて、織斑君達は気付くのかしら。女王と歩兵だけでなく『指し手』がいる事に)
 マリア・ライアンも気付いたそれこそ。歩兵をもって女王を抑えきっている、理由だった。




「くっ……焦るな、焦るな!」
 私は、クラスメート達の連携を前に責めあぐねていた。――正直な話、銀の福音さえ倒せた私達ならば山田先生以外の三人はすぐに倒せる。
言葉には出さなかったが、そんな意識が心の何処かにあったのだろう。焦りが、生まれ始めていた。
「……! エネルギー残量、残り50%……!」
 その時、警告音が響いた。紅椿の稼動用エネルギー……シールドエネルギーとは違うそれが、戦闘開始から既に半減している、と。
この紅椿という機体は、攻撃・防御・機動に優れた素晴らしい機体なのだが、兎に角エネルギーを食う。
展開装甲を全開にしていれば、そんなに長い時間は戦えない。銀の福音の時はある程度、使う展開装甲を絞ってエネルギーを節約していたが……。
三人を同時に相手にする事に気を取られ、気付けばエネルギーを無駄遣いしていたようだ。
「っと! ……箒、大丈夫か?」
「一夏……!」
 そこへ、一夏が戻ってきた。山田先生と接近戦を繰り広げていた筈だが、どうしたのだ?
「いや、山田先生ってやっぱり強いな。俺の間合いよりも、更に近くで戦うなんてな」
「更に近く? ……つまりは、武器を使わない徒手空拳の格闘戦か?」
「ああ」
 なるほど、な。その間合いでは、刀剣である雪片弐型は使えまい。そうなると、一夏にはあまり戦術が無いだろう。
あの猫の手のような武器で殴りかかるのが、山田先生の雪片弐型封じというわけだ。
戦国時代の戦場でも、刀や槍よりも更に近い間合いで組み合う事もあったと聞くが……いや、待てよ?
「雪羅……だったか。左腕の新武装は使えないのか?」
「厳しいな。あれなら格闘戦の間合いでも戦えるけど、相手が山田先生だからそう簡単には使わせてくれそうも無い」
「なるほど。それで、間合いを取った……といったところか?」
「ああ」
 そして山田先生が追撃を掛けなかった理由とは、混戦になり一夏が他の三人に刃を向けるのを阻止するためか……?
『それにしても、あいつらは連携が上手すぎる。布仏と奥村はトーナメントを戦っていたから兎も角、それに鷹月が加わっているのに全く違和感が無いな』
 ここから先は、個人秘匿通信での会話だ。……流石に、聞かせられないからな。
『そうだな。あの時の、銀の福音と戦ってた時の俺達よりも連携が上手そうだぜ』
『ああ……。あの時は、何だかんだで上手く行っていたが。あの時は、私やお前を皆が支援してくれていたような物だったな……』
『それ言ったら、クラス対抗戦の乱入者だってそうだぜ。あの時は、途中からセシリアや楯無さんが――』
『……一夏?』
 一夏が何かに気付いたのか、山田先生へと視線を向ける。……どうしたのだ?
『俺、もしかしたら解ったかもしれないな。……敵は四人だけど、戦っているのは五人分だったんだ』
『ど、どういう意味だ?』
『多分だけど――』
 一夏の説明は、端的なものだった。しかし私には、その理由が即座に理解できた。
『なるほど。それが五人分、ということか。……得心がいったぞ』
『問題は、どうやって切り離すか、だよな』
『そうだな。……ならば、やはりばらばらで戦っていては駄目だろう。……何とかして、連携を崩さねば、な』
『……俺に、考えがあるんだ。あのな……』
 一夏の策は、確実とはいえなかった。だが、もしも決まれば必ず連携を打ち崩せる。……そして私も、それに同意するのだった。




「……そろそろ半分くらい、かな?」
「多分、そうだと思うよー」
「やっと半分、か……。大変よね」
 一方。量産機で専用機二機と対峙している女子三人は、エネルギー残量を推測していた。とはいえ、彼女達自身はまだまだ冷静だった。何故ならば。

『白式と紅椿に弱点? 布仏さん、それって……?』
『あのねー、それは……エネルギーの消費が、どっちも激しいって事だよー』
『エネルギー……? ああ、そういえば白式の零落白夜はシールドエネルギーを消費して攻撃するタイプだけど……。紅椿もなの?』
『んー、ソースは明かせないんだけどねー、高性能だからこそ燃費もきついらしいんだよー』
『じゃあ、私達の戦い方は』
『エネルギー切れを狙う……。トーナメント三回戦で織斑君たちが戦った、三組の二人みたいな戦い方ってこと?』
『そうだよー。そのために、連携を強化しないといけないから、協力してもらうよー』

 はっきりと、やるべき事が理解できていたからであり。
「奥村さん、布仏さん、鷹月さん。大丈夫ですか?」
「はい、先生!」
「まだまだ、やれます……!」
「そうですか。……私もがんばりますね!」
「おりむーとしののんに、勝ちますよー」
 そして、副担任の声にもはっきりと答えるのだった。


「……来ます!」
「山田先生……!」
「貴女から、倒す!」
 一夏と箒が、共に山田真耶を狙って攻撃し始めた。しかし、真耶はそれを察しており。三人の生徒も、ただ遊んでいるだけではない。
「そうはさせないよ……!」
「私達だって……そう易々と、通さない!」
「通さないよー」
「く!」
 三人が一糸乱れぬ連携をみせ、箒を足止めした。一夏は、その横を通り抜け――目標である副担任へと、一気に距離を詰める。
「だったら、俺だけで先生を先に倒す!」
「そう簡単にやられませんよ、織斑君!」
「おりむー、私達を忘れたら駄目だよー」
 箒の攻撃を避けていた本音が、一夏の方向に向けてグラネードを投擲したのだった。
だが、それは降り注ぐ閃光がグラネードを貫き、一夏に届く前に爆発させてしまう。
「一夏の邪魔はさせん!」
(動き方が……変わった?)
 雄雄しく宣告する箒、その動き方に鷹月静寐がやや違和感を覚えていた。箒の動き方が、先ほどまでとは違っているのだ。
自分達に攻撃する事のほかに、一夏や真耶への視線を外していない。先ほど何か個人秘匿通信で話したのか、と察する中。
「これならば……どうだ!」
「!」
 腕部の展開装甲が開き、空割・雨月と合わせた複合攻撃が始まった。
彼女達は知る由も無いが、その密度は銀の福音の『銀の鐘』や甲龍のパッケージ『崩山』の熱殻拡散衝撃砲に匹敵するほどの密度。
エネルギー消費は激しいが、それに見合った威力と攻撃範囲を持つ攻撃。そして鷹月静寐が被弾し、多くのシールドエネルギーを削られてしまう。
焦りが生まれ、動きが乱れ……。
「くっ……」
「しずしず、落ち着こーねー」
 それを打ち消す、おっとりとした声がした。その声は、先ほど白式と紅椿の『共通の弱点』を述べたときと同じものだった。
「だいじょーぶだよー、このままフォーメーションを崩さなければー」
「そうだな。――逆に言えば、崩せば私達の勝機となるということだ!」
「……!」
 箒の攻撃が、真耶へと向けられた。他の三人の撃破を優先したかとおもえば、狙いを切り替えたのか。副担任がそう考えた、次の瞬間。
「これで、決めてやる!」
「!」
 それまで接近戦を仕掛けていた一夏が、左腕を真耶に向けた。今の一夏にある、もう一つの攻撃方法。
零落白夜だけではなく、左腕の新武装、雪羅の荷電粒子砲による攻撃を仕掛けようとしていた。
左拳を突き出すような体勢になり、雪羅の砲口が開き、閃光が今にも放たれんとする。そして、回避手段を模索していた真耶は――。
『発射まで0.001秒』とハイパーセンサーが伝えた情報を視認した瞬間、その表情を、一変させた。
「え……」
 0.00001秒後。一夏の左腕がいきなり背後へと向けられ、それにあわせて雪羅の砲口が、瞬時に向きを変えた。その先にいるのは、奥村加奈子。
腰付近に固定されている打鉄弐式のそれとは異なり、雪羅の荷電粒子砲は、腕一本の向きを変えるだけで目標を変えられる旋回砲口だったのである。
一夏の策。それは雪羅の向きを直前で変える事により、荷電粒子砲の目標を変更することだったのだ。
「きゃああああああああっ!」
 突然、しかも大口径の荷電粒子砲を浴びせられ、奥村加奈子のリヴァイヴのシールドエネルギーの大半が削られた。だが、それ自体は不可思議でもない。
山田真耶が先ほど推測していたように、雪羅の大口径荷電粒子砲は、それ相応の威力を持っているのだから。不思議なのは。
「う、後ろ向きで命中させた……!?」
 一夏の射撃能力は、それほど高い物ではない。ならば、何故それが命中させられたのか。
「箒、サンキュー! ばっちりだったぜ!」
 その回答は、一夏の言葉だった。つまり、今の射撃は。
「篠ノ之さんが、奥村さんの座標を教えたんですか……!?」
「その通りだ。紅椿には、白式には無い射撃管制システムがある。それを参考にし、一夏に個人秘匿通信で奥村のポジションを教えたのだ」
 心なしか、自慢げに箒が正解を告げた。だが、これで終わりではない。
「それに、そっちも同じなんだろ? 山田先生が、のほほんさん・奥村さん・鷹月さんに指示を出していた。
三人は、それに従って箒と戦っていた。……それが、この連携の謎だ!」
 一夏が、自分の推測を公言した。……それを聞いた真耶は、優しそうに微笑む。
「……半分正解、です。でも織斑君、よく気づけましたね?」
「は、半分?」
『その回答は、私がしようか。――悪いんだけど、一時試合を中断してくれる?』
「その声は……ご、ゴールディン先生!?」
 一年二組担任、フローラ・K・ゴールディン。アリーナの管制室から聞こえるその声が、試合を止めた。
『生徒三人の動き方については、アリーナの管制室から、私が指示を出していた。山田先生が、ではないが織斑君の推理は確かに半分正解だな』
「そうか……。やけに連携が良いな、とは思ってたけど、外部から指示が出ていたのね」
「それで、試合開始前に織斑先生が『外部からの指示があるので留意する事』って言ってたんだね」
「てっきり、試合終了に関してかと思ってたんだけど。よく考えたら試合終了『など』って言ってたよねー」
「ふむ。……織斑君も、意外と鋭いのかしら?」
「まあ、ヒントはあったしね……」
 その声に、アリーナの大半からどよめきが生じた。そうでないのは、気づいていた者達のみ。
「気付かれて、たんだ……。私たち三人の位置取りや攻撃タイミング、全部先生が指示していたことに……」
「むー、気付かれちゃったかー」
「まあ、そうじゃなかったら奥村さんと布仏さんならともかく、二人と組んでいなかった私にあそこまでの連携は無理だよね」
 一方、生徒三人は驚きを隠せないでいた。自分達の勝機の鍵であった連携。その根底にあるトリックを、見破られてしまったのだから。
「それにしてもおりむー、どうして気付いたのー?」
「何か、三人の動きがセシリアを相手に模擬戦をやっているような感じだって気付いたんだ。……それと、俺も色々とあったからな」
 一夏は後半を誤魔化した。彼の気付いた要因には、クラス対抗戦や銀の福音戦での指示を出す者と従う者がいたことに起因する。
だが、流石にそれをこんな場所では公言できなかったからだった。
『それじゃあ、そろそろいいかしら。――試合、再開!』
 ゴールディンの声と共に、六機のISがはじかれたように動き出した。最も早く動いたのは――紅椿。
「一夏、行くぞ!」
「おう!」
 シールドエネルギーの減少し、先ほどよりもやや後ろに下がった奥村加奈子のリヴァイヴを狙う……かと思いきや。
その剣先から放たれるエネルギー弾は、最も強敵である山田真耶を狙っていた。
高密度のエネルギー弾と、白式による連携攻撃。普段の真耶にならば、それを避けるのは朝飯前……だったが。
(……本当に私狙いなのか、見極めないと!)
 ギリギリまで、避けるのを思いとどまった。先ほどの荷電粒子砲だけではなく、一夏には瞬時加速もある。
もしも自身に攻撃を仕掛ける……と思わせておいて、生徒三人への攻撃をされてはたまらない。そう、考えたのだ。
「え……」
「あ」
「……お」
 どういう偶然か。……否、それは必然だったのかもしれない。避けづらい胴体部への攻撃を狙った一夏。避けんとしたが僅かに遅れた真耶。
そして一夏の攻撃は、何かを握ろうとするような形での左手の武装、雪羅での零落白夜。最後に、真耶の身体的特徴。これらが重なり合った結果。
「い?」
「おおおおおおおおおおおお織斑君!?」
「い、一夏貴様あああああ!?」
 真耶の、身体にそぐわぬ大きな胸。右のそれを、一夏の――というよりも白式の指が、しっかりと掴んでしまったのだった。
一夏は呆然とし、真耶は先ほどまでの戦い方が嘘のように慌て始める。残る者も、ある者は呆然とし、ある者は激怒し。そして最も早く動いたのは。
「やっぱり、おりむーはおりむーだねえ」
 一組の中の癒し系少女、布仏本音だった。もちろん彼女も、この結末を予想していたわけではない。
だが、彼女の動じない気質――というよりも、徹底的なマイペースさが動揺を最小限に抑えた。そして。
(しののん、隙ありだよー)
 激怒し、一夏以外を視界から外してしまった箒へと攻撃を仕掛ける。その手に握られたのは、小型の槌のような武器――フィアンマ・マルテッロ。
和訳すると炎の槌、となるこの武器は、ロミーナ・アウトーリや鷹月静寐が先のトーナメントで使った武器、ヴァルカン・マルテッロ。
そのダウンサイズ版、とでもいう武器である。本音はそれを手に、箒に突撃した。
破壊力はヴァルカン・マルテッロよりもやや劣るものの、量子変換領域の占める割合をかなり減少させたそれが、箒に迫る。
トーナメントで多くの戦いを経験した本音は、普段の行動からは思いもよらない速度で仕掛けた。
「……! させん!」
 だが、箒もまたトーナメントや銀の福音戦で成長を遂げていた。フィアンマ・マルテッロもまた加速用ブースターを備えているのだが。
それを使用し、なおかつ最高速で接近した打鉄の攻撃に、ギリギリで反応したのだ。
隙を見せていたとはいえ、その反応速度はまぎれもなく成長していた――というのは戦闘後のゴールディンの分析である。
「……そこまで。……織斑は、あとでアリーナのピットに来い」
 そして、千冬の静かな声で模擬戦は打ち切られた。唐突に、そして中途半端に終わった戦いだがそれに不満を述べる者はない。
千冬の言葉に込められた感情と、それが向かうであろう対象……一夏の冥福を祈る雰囲気が、アリーナを包んだという。


「さて、織斑。お前は先ほど自身が言ったように、山田君がお前と戦いながら布仏・鷹月・奥村に指示を出していたと考えたのだな?」
「は、はい。だからこそ、先生を止めれば皆の連携も止まると判断しました」
「おりむーも、こういう事には敏感なんだねー」
「なるほど、な。しかし実際はゴールディン先生が指示を出していた。
奥村が一撃を受けて後退し、篠ノ之が布仏・鷹月と競り合う中で、その篠ノ之と連携して山田君を倒そうとした。……そうだな?」
「は、はい、そうです」
「そして山田君を動揺させることにより、動きを止める。……戦術としては、確かに適切だろう。……だが、あんな手段を使うとはな」
「そ、それは誤解です! 俺は、山田先生に向かっては行ったけど、胸を触ったのは事故です!」
 アリーナのピットでは、一夏が床に正座させられていた。一夏も、正座は別に苦にならないタイプである。むしろ、心を落ち着ける事さえ出来る。
だが、眼前に怒れる虎――姉の千冬がいては、心落ち着くはずも無かった。勿論、隣にいる箒達も同様である。
「……だ、そうだが。どうする、山田先生。君が裁きを下せ」
「わ、私、ですか?」
 当事者の一人ではあるが、怒れる虎におびえていた真耶に裁きは一任された。そして――。
「お、織斑君。わ、わざと、じゃないんですよね?」
「は、はい!」
「じゃ、じゃあ今回は、許してあげます。で、ですけど、気をつけてくださいね?」
 自身がしゃがみ、正座をしている一夏に視線の高さを合わせて許しを告げる真耶。その表情は穏やかではあるが何処か赤いものだった。
そしてしゃがんだ事によって強調される、一夏が触れてしまった場所。……客観的に見れば、むしろ男の性的衝動を刺激するものでしかないのだが。
「ありがとうございます! あと、すいませんでした!」
 相手が、織斑一夏であったことが幸いした。偶然とはいえ、自身も認める過失を許してくれた事への感謝と謝罪。
それが、どちらかと言えば頑固な少年に土下座をさせた。……それを見た千冬は、苦笑いを浮かべ。
「さて、と。――では、これで半分は終わった。次に織斑、篠ノ之、お前達が自機の性能を出し切れたといえるか? 述べてみろ」
「自分の機体の能力?」
「ち……織斑先生、それはどういう意味ですか?」
「簡単な事だ。元代表候補生の山田先生は兎も角、布仏、奥村、鷹月に関しては一蹴されてもおかしくは無かった。
それが出来なかった理由を考えてみろと言っている」
「お、織斑先生、それは……!」
 慌てたのは、先ほどまで顔を赤くしていた真耶だった。彼女も、一夏や箒にその質問をする事自体は悪いと考えているわけではない。
だがここには、一蹴されてもおかしくないと言われた対象――奥村加奈子、鷹月静寐、布仏本音の三人がいるのだから。
「……少なくとも、私自身は三人の連携に惑わされていました。紅椿の能力を活かしきれた、とは言えません」
「俺も、ですね。雪羅の荷電粒子砲は一発だけ命中、それに零落白夜も中々当てられず、それでシールドエネルギーを消耗してしまっていたし。
もしコレがトーナメントだったら、判定負けになってもおかしくない状況だったと思います」
 だが、それに構わず一夏と箒は自身の戦いぶりを分析した。それを聞いた千冬は、表情を変えずに別の方向を向く。その先には。
「では次はお前たちだ。奥村、鷹月、布仏。お前たち自身は、自分の戦い方に何点を付ける? ああ、100点満点でだぞ」
 またしても、難題を吹っかけた。加奈子と静寐が思わず顔を見合わせる中。
「んー、90点ですねー」
 布仏本音が、即答する。その声の調子は、生徒会長さえ恐れる千冬の前でも乱れる事は無い。
「ほう、その評価基準はなんだ?」
「やれる事と、やらなければならない事はやったからでーす。……だけど、勝ちきれなかったから満点じゃないかな~」
「ふむ、そうか。では奥村、鷹月、お前達はどうだ?」
「わ、私は……80点です」
 次に言ったのは、鷹月静寐だった。真面目でしっかり者のポジションを確立させた彼女だが、やはり状況が状況だけにやや平静ではない。
だが、千冬をまっすぐに見据えて自己評価を切り出した。
「その評価基準はなんだ?」
「大半は、今布仏さんが言ったのと同じです。ですけど、私はあのアクシデントに対応できませんでした。それが、彼女よりも10点マイナスの理由です」
「ふむ。……では、奥村はどうだ?」
「わ、私は、あの……。60点、です」
「鷹月や布仏よりも低めだな。その理由はなんだ?」
「荷電粒子砲を一発受けてしまった事、アクシデントに対応できなかった事、それと篠ノ之さんの行動を必ずしも抑え切れなかったから、です」
 最後の評価を聞いた千冬は、そのまま沈黙を守った。自身の評価が、何か間違っていたのか。加奈子や静寐の表情に不安が見え隠れするが。
「よし。ではこれで反省会を終わる。解散」
「え、今の評価への評価って無いの……ですか?」
 それは、ギリギリで丁寧語へと変換した一夏でなくても疑問の出る終わり方だった。そしてその回答は。
「お前たち自身が自分をそう評価しているのならば、それ以上私がいう事はない。……だが、次の機会がきた時、今の反省をどれだけ生かせているか。
それを見せてもらうとしよう。……今の反省が口先だけでないのならば、な」
 そういうと、副担任を連れてピットを去っていく。残されたのは、生徒五人。
「……なるほどー。自身の反省点を自身に見出させ、それをどう克服していくかを考えさせるのが狙いだったんだねー」
「千冬さんらしい、な。先ほどの変な言葉も、そのためだった訳か」
「あ、奥村さんも鷹月さんもさっきの言葉、大丈夫だったか? 結構、千冬姉らしいきつい言葉だったけど」
「うん、大丈夫だよ。……実際、私達がもしミスをしていたら瞬殺されていたのは間違いないし」
「織斑先生って、言葉はきついけど見捨てているわけじゃないのは私達だって解ってるし、ね」
「そっか。千冬姉が誤解されないか、とちょっと心配だったけど。ホッとしたぜ」
「まあ、千冬さんはああいう人だからな……」
 誤解される事も無く、目論見を読んでいた生徒達。それは、難題を出す千冬と合わせてある意味で理想の形となった。……だが。
「ねーねーおりむー」
「ん? どうしたんだ?」
「何でかなりんとしずしずには大丈夫か、って聞いてくれたのに私には聞いてくれないのー?」
「え? い、言い忘れてたか俺?」
「ああ、そういえば布仏の名前が抜けていたな」
「そうね」
「酷いなー、織斑君」
 僅かに目を細めて、本音が抗議をした。とはいえ、一夏の言葉は単純な度忘れである。理由など、あろう筈も無かった。
それが分かっているため、加奈子の視線にも抗議の色は無い。
「わ、悪い、のほほんさん。ごめんな」
「んー、それじゃーおりむー手製のデザート一品で許してあげようかー」
「お、俺手製のデザート?」
「うん。あのねー、臨海学校一日目に、織斑先生とやまやんがそんな話をしてたんだよー」
 一夏の家事能力の話から始まり、デザートも作れるという話を千冬がしたのである。それを本音が聞いていたわけだが。
「わ、解った。じゃあ、ゼリーでも作って持っていくか」
「わーい!」
 手を振り上げ、全身で喜びを表す本音。それを羨ましげに見つめる三人だが、直後の一夏の

『どうせだったら、皆も食うか? 一個だけつくるのも、勿体無いし』

の一言で全員が笑顔(※約一名、素直に表せなかった人物がいるが)になったのは余談である。


「こんばんわ~~」
「いらっしゃい、本音ちゃん。お疲れ様。……どうだった、二次形態移行した白式と紅椿は」
「んー。紅椿と白式には、特に関係なかったよな気がしますー。それとー、これがデータでーす」
 その夜。更識楯無が、本音を生徒会室に呼び出していた。そして彼女は、授業中の模擬戦の情報が入ったデータディスクを渡す。
「ご苦労様。……さてと、これを解析しないとね。……出来れば、このままウチだけで調べてみたいところなんだけど」
「各国からの問い合わせは未だに増え続けていますからね。……それに、下手な事をして『天災』を刺激しては一大事です」
 ディスクを弄る楯無。浮かべる表情は、腹心である虚同様、曇っていた。……と、そこへ別の声がかかる。
「では、私は今までどおりと言うことで宜しいのですね?」
「ええ。頼んだわよ」
 虚でも本音でもない少女に、楯無は声を掛ける。その脳裏に浮かぶのは、彼女も見ていた模擬戦での紅椿の姿。
(白式が零落白夜の再現をしたように、紅椿にも恐らくは『何か』がある。さあて、何なのかしらね)
 『五里霧中』と書かれた扇子を閉じ、そのディスクに手を伸ばし――そこへ、据え置きの電話機に緊急の通報が入る。
ややアナクロニズムな雰囲気の電話であるが、中身は盗聴防止機能の髄を尽くした最新鋭のもの。その通信相手は。
「はい。――っ! そう、ですか。委員会も、了承したんですね?」
『ああ。……例の騒ぎを見て、委員会も放置は難しいと考えたのだろう。……また、忙しくなるな』
「まあ、仕方ないですね。……では、後ほど会いましょう。――古賀先生」
 一年三組副担任、古賀水蓮。IS委員会に接触し『ある許可』を求めていた相手だった。




 今回からオリジナル展開に入りました。そして一夏のラッキースケベ炸裂! 
さて、次は誰がラッキースケベの犠牲者になるでしょうか。……あれ、何か違う。


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