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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 白銀と白
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/02/04 08:02

「……宇月。織斑、クロトー、ボーデヴィッヒ、ドイッチ以外の専用機持ち六名。もしくはブローンと一場は何処へ行ったか知っているか?」
 皆が私の元を去って一分後、織斑先生達が乗り込んできた。……うわあ。物凄く怖い。というか、やっぱりさっきのは無断だったんだ。
「教えられません」
「何……? お前は『教えられない』のか?」
「う、宇月さん? し、知っているんですか……?」
 先生の怒りがさらに増大したのがわかる。だけど、知らない物は知らない。
「織斑君達の怪我の理由も、専用機持ちだけが集められた理由も知らない私じゃ、先生の質問に答えを返せません。
そもそも、私は行き先を聞いていませんから。それが何処かだなんて、解りません」
 彼女達が『敵』を倒しに行ったのは解る。でもそれが『何処か』なんて、私は知らない。
「……なるほど。確かに、そうだな。場所を『聞いていない』のでは『教えられない』か。確かに、そうだ」
 もっとも、先生は彼女達が『何をしに行ったのか』は理解してる筈。それが何処かを知ってるのかは、私には解らない事だけど。
「ふう。まあ良い、お前には織斑やボーデヴィッヒの看護は頼んだが、専用機持ちを監視しろとは言っていないからな。
あいつらめ。帰ってきたら、地獄を見せてやるとしよう」
 ……うわあ。私は、専用機持ち達の冥福を祈らずにはいられなかった。
敵に倒される心配よりも、織斑先生曰く『地獄』で死にはしないかという心配の方が大きくなるとは思わなかったけど。


「大丈夫かなあ」
 織斑先生達が去り、また私と織斑君達だけが部屋に残された。……ただ、今度は出て行った専用機持ち達の事が気になる。
「怪我なんてしないと良いんだけど……」
 危険なのはまだ専用機を持って一日にもならない篠ノ之さん、そして経験の少ない安芸野君だろう。
纏っているのがドールであるブローン君や久遠達もそうだし。勿論、他の面々だって怪我をする可能性がゼロじゃないんだけど。
「はあ。早く無事に帰ってきて欲しいわよね……え!?」
 突然、織斑君の体が光り始めた。眩しいけど、暖かい光……。
「何なのこれっ……!?」
 眩しくて目を閉じる瞬間、私の視界の端にその原因が捉えられた。光っているのは、織斑君の右腕。
今はガントレット――待機形態の白式が光っている。な、何なのこれ……!?
「あ、止まったわね。一体……」
「ん……?」
「お、織斑君!?」
 光がおさまると同時に、いきなり織斑君が目覚めた。え、な、何これ? どうなってるの!?
「宇月……さん? 俺は一体……? それに、皆は何処にいったんだ? あと、何でこいつが俺の横で寝てるんだ?」
「え、ええと。貴方は、怪我をして今まで寝込んでいたの。ボーデヴィッヒさんも、怪我をして安静にしていないといけないの。
皆が何処に行ったのかは、こちらもハッキリとした事は知らないけど。行かなきゃいけない場所に行ったんだと思う」
「……そっか」
 そういうと、織斑君はゆっくりと布団から立ち上がる。だ、大丈夫なの? 一体、何がなんだか解らない。
そういえば、何で『みんなは何処にいったんだ』なんて聞いてきたんだろう。まるで『皆が旅館に居ない事』を知っていたような……。
ISのコアネットワークか何かで判断したの? でもそれなら、そもそも私に『何処へ行った』なんて利く必要は無いはずだし……。
「あ、そうだ。……宇月さん、箒の事を知ってるか? 怪我とかしてなかったか?」
「篠ノ之さん? う、うん。怪我はなかったみたい。今はもう、皆と共に向かっているわ」
「そっか。なら、良かったな」
「良くないわよ。一時はものすごく落ち込んでいたし、何故かポニーテールじゃ無くなってたし……」
 あの落ち込みようは、見ていて辛かったわ。
「え、何があったんだ?」
 さあ。予想なら言えるんだけど、今の貴方に言うのはちょっと、ねえ。
「さあ。でも少なくとも、私が最後に見た時はポニーテールじゃなかったわよ」
「そっか、じゃあ……俺の荷物、あるか?」
「荷物なら、そこにあるけど?」
 何故今、荷物の事を確認するのか。すると彼は、その中から平べったい箱を取り出した。あれは……プレゼントか何か?
「よし。ちょうどいいだろうし、それじゃ、行くか」
「お、織斑君!? 何処に行……いや、何処に行くのかは見当がついてるけど。何考えてるのよ!?」
 その行動があまりにも自然だったので、一瞬そのまま通そうとしてしまった。だけど、慌てて止める。
流石に、今の彼を行かせるなんて事態は避けたい。そう思って止めようとしたのだけれど。
「今、皆が戦ってる。俺だけ、戦わないってわけにはいかないからな」
「だけど、貴方は怪我人だったのよ? 行かせるわけには――」
「え、怪我? 何の事だ?」
「え?」
 今度はこっちが、え? となった。確かに、彼の身体には、傷らしき物は見当たらない。あ、あれ? どうなってるのこれ。
「俺、怪我人だったのか?」
「え、ええ。その……筈なんだけど」
 一瞬、自身の記憶を疑ってしまいそうだった。この学園に入学してから、色々と驚く事が多かったけれど。その中でも最大級の驚きだ。
「そっか。……じゃあ、怪我の借りを返しにいかないとな」
「……詳細は知らないけど、専用機持ちがいなくなったのはやっぱりそういう事なのね? それと、貴方の怪我も」
「ああ。だから、俺も行かないとな」
 ……こういう時の彼を止めるのは、私には無理だ。そう悟らされる表情をしていた。
「なら、私は少し場を外しておくから。……気付いたら、貴方はいなかったって事にしておくわね」
「さんきゅ、今度昼飯おごる」
「いいわよ、それは。刺されそうだし」
「刺される……? 蚊か?」
 ……蚊ならまだ良いんだけどね。嫉妬の視線の五重奏、とかになったらついていけないわ。
「馬鹿な事言ってないで、さあ、早く行ってあげて。貴方を、皆が待ってるから」
「おう。ありがとう」
 素っ気無い口調の私に手を振って、織斑君が白式を展開させる。――だけど。
「え……?」
「あ……」
 ISの装甲やブースター、武装が展開されて装着されるのがISの展開だけど。今、私の目の前ではまるで違う事態が起きていた。
全身からさっきとはまた違う光が放たれ、現れるのも今までに見た事のない装甲やブースター。
更に左手には手甲のような物まで現れる。ま、まさか……これって。
「白式……お前も、再び立ち上がるための力を手にしていたのか」
「白式が、進化してる……! も、もしかして第二形態移行(セカンド・シフト)!?」
「これが、白式の新しい力なんだな」
 不思議なほど落ち着いている織斑君とは裏腹に、私は顎が外れそうなほどの驚きに包まれていた。
第二形態移行。ISと操縦者が長い時間をすごすうちに、その同調や経験を元にIS自身がその姿を大きく変えてしまうということ。
知識としては知っていたけど、自分で見るなんて夢にも思わなかった。しかも、白式が、だなんて……。
「どうしたんだ、宇月さん?」
「わわわわわ!」
 呆然としていたら、織斑君が私の顔を覗き込んでいた。ち、近いって!
「だ、だって第二形態移行したのよ!? お、驚くのが当たり前じゃない!」
「え、第二形態移行? これが、そうなのか?」
 今度は、腰が抜けそうなほどの脱力感を覚えた。無知の幸せ、ってこういうことを言うんだろうなあ、って実感する。
「ま、まあいつもの貴方らしくて安心したわ。……でも、本当に大丈夫なの?」
 今度は、さっきまでとは違う不安が生じてきた。今までとは違うであろう性能で、何か新装備を持っているっぽい白式。
それを、ただでさえ経験は少なめの彼が扱うという事への不安だ。
「大丈夫だ!」
 それは、マジカルアップル! を含めたアニメや漫画のキャラクターのような断言っぷりだった。
……でも、根拠があるように見えたのは何でだろう?
「宇月さん」
「え? な、何?」
「色々と、迷惑かけたな。……それじゃ、皆の所にいって来る」
「はいはい、不吉な言葉を言ってないで。ちゃんと、皆揃って帰ってきてよね。場所は解るの?」
 慌てて思考を打ち切る。ふう、まあ、もう賽は投げられたんだからグダグダ言ってもしょうがない、か。
「大丈夫だ、今、コア・ネットワークで確認した。――じゃあな」
「それじゃあ聞く必要なかったんじゃないの。……いってらっしゃい」
 苦笑を浮かべる私に背を向け。彼は、再び大空へと舞い上がって……あれ、何で私を見てるの?
「そこまでだ、織斑一夏」
「な、なんだあんたら!! なんて、宇月さんに銃を向けてるんだ!!」
「え……」
 織斑君の言葉で気付いたけど。いつのまにかドール三機を含めた男性八人が現れ、そのうち四人が私に銃を向けていた。
そのドールは破損だらけだったけど、よく見れば簪さんが学年別トーナメントの準々決勝で使った装備、レッドキャップを纏っていた。
な、何で、これがここにあるの? ……というか、何でこんなに破損だらけなのを放置しておくんだろうか。ちょっと嫌な気分になった。
「君を行かせない為だよ、織斑一夏」
「な、何だって?」
「われわれには世界で数人しかいない男性IS操縦者の身柄を守る義務があるのでね」
「じゃあ、何で宇月さんに銃を向けてるんだよ! 彼女は……!」
「君にはこうするのが最も有効な手段だと判断しただけだ。さあ、白式を収納してもらおうか」
 確かに、その読みは当たっているだろう。……でもこれ、どう考えても悪役の行動よね?
「……行きなさい、織斑君」
「え?」
「どうせこの人達がISに追いつけるわけないし、行ってしまえばこちらの物よ」
「う、宇月さん……」
「口を開いていい、と言った覚えは無いぞ」
「っ!!」
 肩を、硬い物――後ろだったから見えなかったけど、棒状だから多分、銃器の銃身? ――で殴られた。い、痛……。
「何するんだ! 宇月さんは生身なんだぞ!!」
「何をする、だと? これは君の暴走が原因だよ。君が何もしなければ、我々が彼女に暴力を振るう事も無かった。
我々は悪くない。君が悪いのだ。そう。我々は間違ってなどいないのだ!! 我々こそが正しいのだ!!」
 ……な、なんなのこの人。学園の関係者じゃないみたいだけど、少し声の調子がおかしい。
何て言うか……息も荒いし、自分で「間違っていない……間違っていない……」って呟いているし。え、ひょっとしてヤバい人なの?
「そもそも、最初から君には出撃命令は下っていないのだ。これは軍事的にも正当な――」
「ほう。――そうだな。だが、貴様にそれを指図する権利は無い」
「こ、この声は!?」
「随分と勝手な事をしてくれるな。お陰で指揮所を離れる羽目になってしまったぞ」
 ……何故ここにいるんでしょうか織斑先生? 今一瞬だけど、心臓が止まるかと思いましたよ。
「い、いくらブリュンヒルデといえど、生身ならば――」
「じゃあ、ISを使われたら降伏しますか?」
「そこまでですよ」
 そこには、今日の訓練で使うはずだったリヴァイヴを纏っている山田先生や新野先生達がいた。
それぞれブラッド・スライサーやガルム、あるいは葵を構え、全く破損のないリヴァイヴや打鉄を纏っている。ドールとISのキルレシオは1対5。
それで計算すると、こちらは20、相手は4。レッドキャップ装備だとはいえ、これでは勝てないだろう。
「これ以上騒ぎを大きくしない方がいいと思うのだが? ――ましてや、上司に無断でとは、な」
「き、貴様ら、何をやっているのだ!」
「く、駒旗村指令!」
 そこに、慌てた表情の男性がやってきた。この人が『くはたむら』って人なの?
「い、一体何をやっている! 我々は撤退を命じられただろう!」
「いいえ、このまま撤退など出来ません! せめて、この女だけでも!」
「!」
 レッドキャップを纏っていた一人が、私に銃口を向けた。そして次の瞬間、吹き飛んでいた。……あれ?
「私の生徒に手を出そうとは、いい度胸だな」
「……ち、千冬姉」
「い、いつのまにブラッド・スライサーを……」
 どうやら織斑先生が、もっとも近くにいた山田先生のリヴァイヴからブラッド・スライサーを奪い、私に銃口を向けたドールを吹き飛ばしたらしい。
言うまでも無いが、織斑先生は生身だ。……あの、この人本当に人間? 
実は古賀先生の『ドッペルゲンガー』みたいに、暮桜が織斑先生の姿になっている、なんてオチじゃないわよね?


 ……結局、ドールを纏っていた人達はそれを解除し。駒旗村って人と一緒に旅館の外へ送られていった。
一体この人たちは何だったのか、そしてどうなるのか。……まあ、それは聞きたくもないし知りたくもない。
「……行っちゃった、か」
 そして、それと同時に織斑君は出撃したのだった。お姉さんから『出て行った連中と一緒に、必ず無事に帰ってこい』と言われ。
「一夏の事だ、どうせ飛び出すだろうとは思っていたが……予想通りだったな」
 苦笑気味に、でも何処か嬉しそうに織斑先生は呟く。でも。
「さて、宇月。――お前は、見たのだな? 他に見た者はいるか?」
 瞬時に厳しい表情になり、私を詰問する織斑先生。何を見た、とは言わなかったけれど。間違いなく、アレだろう。
「はい。織斑君の怪我が、一瞬で消えました。白式も、二次形態移行しました。……他の人は見ていない筈です」
「解った、お前を拘束する。理由は、命令違反だ。ついて来い」
 次の瞬間、私に見せた顔は今までに見たこと無いほど真剣だった。そして本当の理由は告げられず、私は先生の後についていく。
でもあれは、何だったのだろう。傷を癒すなんて、ISにそんな力は無い筈。でもワンオフでもない筈。なら一体……?
「そういえば、まるで……白い天使だったわね」
 何故だろうか。そんな物を、何故このタイミングで思い出したんだろうか。よく解らなかったけれど。何故か白式を見て、それを思い出していた。
「白い天使? 何だ、それは?」
「い、いえ。その……」
「……話せ」
 その時、織斑先生の顔にさっきまでとは浮かんでいなかった物があった。……だけど私は、それの存在には気付いても。
それが何であるのかは、解らなかった。
「おやおや織斑先生。宇月さんが怯えていませんか? あまり怖がらせてはいけませんよ」
「古賀先生?」
 何故かそこに、古賀先生がやってきた。いつもどおり、何処か飄々とした感じ。でも、さっきまでいなかったのに何故ここに?
「どうしましたか、古賀先生」
「ああ、実は篠ノ之箒以下専用機持ちの出撃について、ですが。私が許可を出しましたので、報告に来ました」
「……ほう」
「え、えええええ!?」
 織斑先生はやや顔を顰め、その代わりに大きく驚いたのは、まだリヴァイヴを纏ったままの山田先生だった。
ISを纏ったまま、文字通り『飛び上がるほど』驚いている。いや、私も気持ちは同じだけど。
「貴女が? どういう権限で、ですか? そもそも貴方は何処に行っていたのですか? そして、何故それを私や他の先生方に伝えなかったのです?」
「質問が多いですね。――まず一つ目、権限と言うか先ほどの委員会からの指令の延長線上に当たると思い許可しました。
そして二つ目、この事を委員会と日本政府、ついでに在日米軍にも伝えていました。そして三つ目ですが――」
 そこで古賀先生は言葉を一度切った。気のせいか、視線がちょっと鋭くなった気がする。
「……まあ、別の準備がありましたのでね。他の先生達に伝える余裕が無かったのです。それだけ、ですよ」
 まるで別人のような口調で、古賀先生は言い切った。別の準備、って何だろうか。
それにどうして織斑先生に対して『ボーデヴィッヒさんが織斑君を見るような目』を向けるんだろうか?
「それにしても織斑先生。貴女の方こそ、一時ここを離れていたようですね」
「え、ええ!?」
 こんども驚いたのは山田先生。だけど、私も驚いた。だって、織斑先生の顔が珍しくも引きつったように硬くなっていたから。
まるで『触れられたくない場所』に触れてしまったかのように。……何故私が判るのかというと、私が地雷を踏んだ相手と同じ表情だったからだ。
「ああ、兎狩りは貴女の義務ではないというわけですか。……いや失敬」
 兎狩り? 何の事だろう? 織斑先生の外出と関係あるんだろうか?
「兎狩り、ですか。……そういえば古賀先生。私も疑問なのですが」
「疑問、ですか? はて、何でしょうか」
「貴女は兎が来ると、解っていたのですか?」
「……予想ですが、ね。まあ兎の妹がいるのですから当然の予想だと――」
「ああ、言い方が悪かったようですね。私が疑問に思っているのは『兎の格好をしてくると解っていたのか』という意味ですが」
「……!」
 あれ、今度は古賀先生の表情が硬くなった。どう違うのかは、よく解らないけど。……あれ? 兎の格好って、まさか……?
「よく誤解される事ですが、兎が来る、というのは何処の誰にも解らなかった筈です。
私でさえ『兎の格好をしてくる』とは知らなかったのですが。……どういう事なのでしょうか?」
 ……なんか、気温が下がった気がした。夏の夜は、昼間よりも気温が下がったとはいえ決して寒くなんかない。
でも、まるで冷蔵庫の中にでも入ったかのような寒気が、辺りを包んでいた。




「……時間だな」
 ここで、時間は少々遡る。旅館より数キロ離れた海域。そこに、ISやドールが集まっていた。
紅椿、ブルー・ティアーズ、甲龍、ラファール・リヴァイヴカスタムⅡ、打鉄弐式。
プレヒティヒ、舞姫。6機のISと2機のドール、という一軍にも匹敵する戦力である。それが相対するのは。
「La……!」
 不可視の結界から開放された光翼の天使、銀の福音。数時間の間にエネルギーを溜め込んでいたらしく、白銀の焔も復活している。
炎に包まれた身体、全身を覆う目の模様、その身を包まんばかりに開かれた大きな翼も健在だった。そして――。
「やはり、そう来たか!」
 即時粉砕。銀の福音の選択は、それだった。先ほど、ドール部隊と共に仕掛けたときは誰も予想だにしない長期戦になった。
そしてアケノトリやティタンの介入を招き、銀の福音にとっても危機的状況を招いた。それ故に、今度開放されれば敵に容赦はしない。
もしも周辺に敵機が存在していれば、即座に攻撃に入るだろう。――これが、古賀水蓮が生徒達に渡した推察だった。
その予想の通り、数多の光の翼から光弾が形成され。そして、豪雨もかくや、の密度で放たれる。……だが。
「この位なら、僕が防ぐ!」
「あたしだって、弾幕じゃ負けていないわよ!」
 ラファールのパッケージ、ガーデン・カーテンのエネルギーシールドが。あるいは甲龍の熱殻拡散衝撃砲が。その豪雨を受け止め、あるいは相殺した。
「!」
「貴女の弱点……それは、攻撃手段と機動手段が併用されているということですわ!」
 さらに、間隙を突くようにセシリアの攻撃が福音を直撃する。BTレーザーライフル、スターダスト・シューター。
そこから放たれる光が、福音を撃つ。だが福音も、幾人かについては既に交戦済み。故に、その能力も概ね理解していた。
この青い敵機、ブルー・ティアーズが加速性能や機動性においては自身に近いレベルの機体である、と言う事も。
そしてそれゆえに、近接する空間座標に位置する紅椿同様、優先的に撃破すべき敵である、という事も。
「La……!」
 BTレーザーの一撃を避け、反撃に移る。紅椿とブルー・ティアーズ。この二機を落とせば、銀の福音からすれば遅すぎるISばかり。
だからこそ、その二機を討たんとあの渦巻きの光線の発射体勢に入った。ここからなら、甲龍も、リヴァイヴカスタムⅡも、攻撃は出来ない。
福音にとって未知である打鉄弐式、プレヒティヒ、舞姫にも攻撃の態勢は見られない以上、攻撃するべきだと判断した。……だが。
「よう。俺とは初対面だな、銀の福音!」
「!」
 そこに、銀の福音がそれまで全く認識していなかったIS……御影が現れた。その最大の特徴である、ステルス機能。
自身の中にもデータだけが存在していたそれを、自身で味わう事となった。全身の目が大きく開き、暴走中であるのに驚愕をあらわにする。
そして刃により、全身を包む翼のうち、三つの翼が切り裂かれた。これは、銀の福音にとって攻撃力と機動力、加速性まで減じられた事となる。
「よっしゃ……今だ!」
「チャンスだよ!」
「どんな手品も、ネタバレしていたら面白くもなんとも無いのよ!」
 そしてそれこそが、最大の攻撃のチャンスとなる。クラウスのプレヒティヒが、その特徴である飛行機の先端部のような装甲を開放する。
リヴァイヴカスタムⅡが、両手盾から長銃二丁へと武装を瞬時に切り替える。甲龍が、その全砲門を最大開放する。
迫撃砲弾が、銃弾が、そして衝撃砲が雨霰となり福音に炸裂した。
「今度こそ、倒してみせるぞ!」
 そこに、紅椿が突貫する。天裂と雨月、二刀の斬撃が銀の福音に次々と叩き込まれる。怒涛の連続攻撃に、銀の福音も押される。
――だが、福音もそうそう甘くは無く。レッドキャップドール部隊に見せた、蹴りによる攻撃を仕掛けた
「うぐっ……!」
 箒の下腹部を直撃したそれにより、一瞬ではあるが紅椿の猛攻は停止する。その瞬時の隙を突き、一気に距離を取り――。
「そうはさせませんわよ!」
「そこの穴は、私達が埋めさせてもらう!」
「もう逃がさない、銀の福音……!」
 きれなかった。そこに、絶妙なタイミングでブルー・ティアーズと舞姫の攻撃が加わった。さらに打鉄弐式の攻撃も加わる。
銀の福音に対しては、瞬時の隙が命取りになる。それゆえに一気に押し流し、相手に攻撃さえさせずに打ち落とす。
それが、生徒達の必勝法だった。……だが、それを持ってしても。銀の福音は、難敵であるのだった。




「この!」
 さっきから、何度同じ攻撃を繰り返しただろうか。セシリアや箒の攻撃をメインとして、その間隙をあたし達が埋める。
銀の福音を逃がしもせず、多少ダメージは背負っているけど致命的な一撃も受けることなく。あたし達は、福音を追い詰めていた。だけど。
「幾らなんでも、タフすぎないかこいつ!?」
「ええ。またあの焔による再生も行われていない……数時間前よりも、更に耐久力が上昇しているようですわ」
 安芸野やセシリアも同じことを思っているようだった。明らかに、以前レッドキャップやあのドールと戦ったときよりも強い。
まさか、二次形態移行してその上で進化した、っていうの? ……いや、まさか、ね。
「……皆、聞いて!」
「ど、どうしたの、簪さん?」
 簪が、珍しく大声を出した。その声に混じっているのは、驚きと……ちょっとだけの、恐怖。
「反応速度が『一部だけ』速くなっている。……さっき戦ったメンバーと、そうじゃないメンバーとでは反応速度が違う」
「え? ど、どういう事だ?」
「……つまりはだな、将隆。紅椿、ブルー・ティアーズ、リヴァイヴカスタムⅡ、甲龍に対してはより強くなっているっていう事だろ」
「な、何だって!?」
 そういう事、か。……それ自体は不思議な事でも何でもない。あたし達がそうであるように、何度も戦ううちに手の内が見えてくるのは当然だ。
……だけど、反応速度の違いだけでここまで違うって言うの?
「多分、決め手はあの全身を覆う目……あれが一定数、攻撃を受けるたびに動いていた。それにより、データが取られていたんだと思う」
「ま、マジ? でもさっきは……」
「うん。さっきの戦いではまだそんなことは無かった。変化したてで使いこなせなかったのか、あるいは封印中にデータ更新されたのか。
どちらにせよ、また厄介になっている」
 ったく。どれだけ厄介な物を作るのよアメリカって国は!
「でも――そんなの、関係ないよ!」
「その通りだ!」
 福音を抑えていたシャルロットが退き、箒が攻撃に加わる。……どちらかというと解りやすいタイプの箒は兎も角。
シャルロットがああいう風に怒気をあらわにするのは珍しい気がする。
「どんなに見抜かれようと、倒してみせる! 私達が成すべき事は、それだ!」
 今日初めて専用機を駆ったとは思えないほどの苛烈な攻撃で、箒が福音を攻め立てる。
箒のデータも当然ながら取得されているはずだけど、あの娘自身も全身の展開装甲とかいうアレをフル活用して戦っていた。
……データ収集、か。本当のことを言うなら、紅椿のデータも欲しいんだけど。
「La……!」
「ぐっ!」
 福音が、一瞬の隙を突いて光のグローブ――さっきシュバルツェア・レーゲンのレーザーブレードを受け止めたそれ――で刀を止め。
カウンター気味に、銀の鐘を叩き込む。……だけど、反撃もそこまでだった。何故ならあたしが突っ込んで、熱殻拡散衝撃砲を叩き込んだから。
「す、すまん鈴!」
「いいのよ! それより、交代よ!」
 双天牙月の一撃を更に叩き込む。……その時、ようやく福音はあの焔による再生能力を使ったのだった。




「折り返し、だな」
「ええ。――箒さん、今のうちに!」
「ああ! ……頼む、一場!」
「心得ました。……しかしまさか、私が紅椿に補給をする事になるとは思いませんでしたね」
 福音の自己再生。ある意味ではクラウスが言ったように『折り返し』となるタイミングで、学生達は始めてフォーメーションを崩した。
IS版空中給油機、といえる久遠の舞姫。その補給機能により、紅椿にエネルギー補給を行おうというのである。
燃費の悪さでは随一の紅椿、その弱点を補う戦術だった。
「まあ、上層部には紅椿との交戦権で納得していただけるでしょうが、ね」
 ちなみに、米国所属ではないIS(もしくはドール)に補給する場合、あるプロテクトの解除が必要なのだが、それは久遠自身が解除していた。
本来ならば緊急時を除き勝手に解除できる物ではないのだが、紅椿との模擬戦の優先権で交渉を成立させたのである。
なお、自身だけではなく三年生の米国代表候補生、ダリル・ケイシーにも優先権を与えるようにしたのだが。
「ドールの容量からして、一度に送れる量は多くありませんが、元々が補給機として構築されている分、高速で可能です。
――その相手が、我が国のISである銀の福音であるのは遺憾ですが、ね」
 コードが離れ、紅椿のエネルギーが回復し。そして紅椿もまた、戦線に復帰するのだった。


「どりゃああああ!」
 鈴の女子らしからぬ怒号と共に、熱殻拡散衝撃砲が、赤の豪雨となって降り注ぐ。
しかし福音もいい加減に慣れてきたのか、直撃は受けない。それどころか、翼の一部から光弾を放ってきた。
「でもそれは、僕が守れば大丈夫だよね」
「まあ、ね。……あたしにとっては、ちょっと苦い思い出のある戦術なんだけど」
 その光弾を防ぐのは、シャルロットだった。これは、学年別トーナメントで鈴自身を破った、ミレイユ・リーニュと椿ほのかの戦術。
一方が防御を、一方が攻撃を捨てた完全委託の戦術。もっとも、これは彼女達の物と完全に同じではない。
彼女達は防御と攻撃で完全に役割分担を決めたが、今回は共に代表候補生。しかも、片方は高速切り替えの使い手シャルロット・デュノア。
「そこ!」
 防御をしつつの攻撃も、可能となる。痛打は受けずに済んだのだが。
「La……!」
「うおっ!」
 相手に、即座に銀の鐘の全方位発射をされてしまい。学生達の狙い――御影のステルス接近による、光翼の切断にまでは至らなかった。
福音の光翼の切断を狙いつつ、フォーメーションを微妙に変えてきたのだが。それにも、福音は対応してきている。何故なら。
「ちっ……あいつ、御影をこれでもかって位に警戒しているわね」
「ええ。そうですわね。銀の鐘とステルス機能の相性が悪い、ということを考えても。まだ、翼を切り落とせていませんし」
 先ほどは御影の奇襲により翼の切断――つまり火力・機動力・加速力の低下――に成功したのだが。
白銀の焔での再生後は、一枚の翼も切り落とせてはいなかった。実際、セシリアのいうように御影と銀の福音の相性は最悪だった。
理由は、広域殲滅兵器である『銀の鐘』とステルス機能の相性。この武器は、大まかな狙いをつける事で発動する。
つまり「あの辺りに居るな」と解れば、それが多少ずれていても被弾する。御影のいる位置が分からずとも、全方位に放てば必ず当たるのだ。
そして福音の周りには敵しかおらず、仲間を配慮する心配は無い。エネルギー切れ以外では、福音が躊躇うこともなかった。
(……不味いわね。光翼を少しでも減らしておかないと、ほんの一瞬の隙で紅椿やブルー・ティアーズ以外じゃ追いつけなくなる)
(攻撃力や速度を下げるためにも、少しでも削っておきたいのに……)
(それに『眼』の影響なのか、少しづつ当てづらくなっている……。早く、決着をつけないと……)
 福音の戦術は既に学生達も熟知していたが、それは福音にとっても同じだった。自身にとって何が一番危険であるのか。
それを知る故に、絶対に御影や甲龍など光翼を切断できるISは近づけさせない。
二刀を操り、なおかつ福音に速度で匹敵する紅椿は防ぎきれなかったが、その攻撃さえも何とか防いでいた。
「篠ノ之、エネルギーは大丈夫か?」
「安芸野か……。ああ、まだ、大丈夫だ」
 緊張と高速機動の連発の故か、箒も息を荒げている。剣道で鍛えたその身体は、生半可な事では乱れる事は無かったのだが。
「……やばいかも、な」
「クラウス?」
「正直、これだけの条件下でも俺達が押し切れていない。何か間違えたら、一気に持っていかれるぞ」
 真剣な表情のクラウスに、将隆もその事態の切迫度を悟る。……そして彼は、今まで何も無かった左腕を微かに撫でた。
「……だったら、こいつだ!」
「ま、将隆!?」
 将隆が、複合武装兵装『岩戸』を展開させた。だが、その形状がいつもとは異なっている。
「御影のパッケージ……特殊兵装・土蜘蛛だ!」
複合兵装・岩戸が展開し、その中から各部位が糸で繋がった黒色の鎧が現れる。それは腕部の追加装甲や腰部の追加スラスターとなり。
御影の機体をより重厚な印象へと変えていった。なお、これを見た更識簪の感想は。
「あ、アラーネア・グローリア……?」
 自身を学年別トーナメントで破ったゴウの、オムニポテンスの特殊武装。アラーネア・グローリアを連想したという。
「安芸野!? お前は、パッケージ持ってたのか!?」
「話は後で聞く! それよりも、今は……!」
 将隆の視線の先では、福音を決して逃がさずに攻撃する鈴とシャルロットの姿があった。そこに、御影がステルス機能を発動して突貫していく。
「将隆!?」
「ちょ、タイミングが早いって!」
 一見、将隆の手は悪手だった。このタイミングでの御影の突貫は、鈴とシャルロットの攻撃の阻害になる。
福音の攻撃は将隆もろとも、で構わないのだが。少女達は、そうもいかないのだから。
「La……!?」
 そして、福音もそれを逃さなかった。翼から光の弾丸が形成され、まさに全方位に放たれ……。そして誘爆し、幾つかの光の翼を吹き飛ばした。
そして御影が姿を現したが。機体と同時に、福音を覆う蜘蛛の網のようなものも出現した。それが、御影の両手首の中から地引網のように延びている。
「これこそ特殊武装、出雲の網! ……機体を覆いつくし、非実体攻撃を乱反射させてしまう鳥篭だ!」
 御影のステルス機能により『気付かれないうちに』敵機の周りを覆い、エネルギー攻撃を乱反射させて敵機自身を傷つけるという代物である。
なお、何故御影にこんな特殊武装が開発されたのか、は――ある筋から齎された『シジミチョウ』の強奪情報が絡んでいるとか。……閑話休題。
「――! 好機ですわ!」
「今こそ、全火力を集中させますよ!」
 いち早く反応したのは、その場から最も遠かったセシリアと久遠だった。スターダスト・シューターとアサルトカノン『ガルム』が吼える。
そして一瞬遅れて熱殻拡散衝撃砲の豪雨が。更に荷電粒子砲『春雷』が、レイン・オブ・サタディ二丁が、それに続く。
出雲の網は将隆により収納されており、福音へと直撃していった。
「……このチャンス、逃さない!」
「落ちろ!」
 そしてシャルロットの密接射撃が、箒の一閃がとどめとばかりに叩き込まれた。
この連続攻撃に、福音も動きを止める。光翼も萎れるかのように羽ばたきを止め。ゆっくりと降下していった。
「やった、か……?」
 福音を止める事に対するよりも強い思いに比例するような、額から流れる大量の汗を拭う箒。その視界が腕で僅かに遮られ。
「しまっ……!」
 一瞬の、隙だった。わずかな、一瞬の隙。長引いた戦いで精神の磨耗も大きくなり、安堵した一瞬の隙。
忘れていた、事実――福音の、白銀の焔による再生は『二度』行えるという事。それらが重なった結果。
「ぐううううう!?」
「ほ、箒さん!」
 焔の喪失を引き換えに、完全修復した銀の福音の逆襲を箒は受けた。その両手が箒の細い首筋を掴み、圧迫する。
「ま、まずい!」
 もっとも近くにいた将隆が、箒を救わんと接近する。――だが、その突撃を福音は『箒の首を絞めたまま』回避した。
そして、他の面々も箒を救わんと一気に動き出したその瞬間。
「!?」
 福音が、飛び込んできた光に吹き飛ばされた。
「か、荷電粒子砲か!? でもこの威力、一体誰が……」
「はいはい、どーせ山田先生とか新野先生とかなんでしょ? ……え?」
 それは、白騎士も使った装備・大口径荷電粒子砲。将隆が驚いたそれを、鈴は教師陣の援軍だと判断した……が。
そこにいた人物は山田真耶と同じくらいの髪の長さだが、それよりも長身であり。新野智子と同様に黒髪であるが、長さが違っていた。
「普通だったら、ここで来るのって米軍や自衛隊の援軍の筈なんだけどなあ」
 シャルロットが苦笑いする。だがそれは、一機だった。
「女性の援軍、なのかと思っていましたけれど……ふふ」
 セシリアが、優雅に笑う。だがそれは、男性だった。
「……狙ってるのかな、と思ってもしょうがないタイミングで来たね」
「あ、あああああ……!」
 簪は微笑み。そして、箒は信じられない物を見る眼でその人物を見た。その、人物は。
「俺の仲間を、これ以上傷つけさせないぞ――銀の福音!」
 生まれ変わった白式を駆る男――織斑一夏だった。




「い、一夏! い、一夏なのか!?」
「おいおい、俺が誰に見えるって言うんだよ」
 皆は大丈夫か、と飛んできてみれば。福音の奴に箒が首を絞められていた。
今までの俺だったら零落白夜と瞬時加速しか選択肢が無かったが、今は違う。
新しい武装、荷電粒子砲『月穿』を初めて使い、セシリアやドイツのアイツのような遠距離攻撃が出来た。
「箒、大丈夫か? 首、絞められてたけど」
「も、問題はない……そ、それよりお前こそ、どうして!」
「それは――あ」
 俺にくってかかる箒だが。何か違和感あるな、と思っていたら宇月さんの話どおり、ポニーテールじゃなかった。
「でも、リボンが無かったのならちょうど良かったな」
「え?」
「ほら、これ。――誕生日おめでとう、箒。こんな状況でいうのも何だけど、な」
 本当は、戦闘が終わって渡すべきだったのかもしれないが。俺は、持っていた箱を箒に渡した。
「リボン……?」
 それは以前、シャルと一緒にレナンゾスに買い物に行った際に購入した物だった。ようやく、渡せたな。
「おーい、お二人さん。悪いんだけどそのやり取りはまた後でしてくれよな」
 呆れたようなクラウスの声がした。周りを見ると、セシリア、シャル、簪、将隆、クラウス、一場さん。皆がいる。その無事に、思わず顔が綻ぶ。
「La……!」
「え!?」
 だが。俺の一撃を受けた福音が『萎んだ』ように見えた。……いや、違う。これって……本当に、萎んでいる!?
「な、何なのこれ!? こんなの、聞いていないわよ!?」
「これは……? ……う、嘘! そ、そんな、事って……」
 簪が何かに気付いたらしく、顔を青ざめさせる。何か、とんでもない事態が起こっているのか?
「福音は……自分自身を、エネルギーに変えてる……」
「え? 自分自身?」
「自分の持つ、装甲……その一部を、エネルギーに変えている……」
 ……え? な、何だって?
「そ、そんな事出来るのかよ? 物質を、エネルギーに変えるなんて真似……」
「でも、そうみたいだね。……良く考えてみれば、不思議でもなんでもなかったよ」
「ああ」
 怯えたような将隆の言葉を、やけに冷静なシャルの言葉が肯定する。そして白式も、銀の福音の変化を捉えていた。
装甲が一部抹消し、その代わりに、エネルギーが全回復したというこの状況を。
そしてそれが……白式にとっての『零落白夜』と同じものが銀の福音にも生じたのだ、という事を。
「……また初めから、なの」
「きっついなあ、これは」
 鈴やクラウスの声にも、疲労が隠せていない。他の皆も、同じみたいだが。
「大丈夫だ! 福音だって、絶対に倒せる!」
 さっき宇月さんに言い切ったように、俺は声高らかに断言した。雪片弐型を握り締め。――そして、福音との最後の戦いに向かった。




「……」
 福音のコアは、自らを苛む激痛に耐えていた。自身の装甲の一部をエネルギーに変換するという荒行は、決して望ましい選択肢ではなかった。
もう二度とやれない、最終手段。これ以上削る事は、許されなかった。では、何故それをやったのか。その理由は。

 ――もう、飛べなくなるのは嫌。

 ここで敗北すれば、米軍に引き渡され閉じ込められてしまう事が目に見えていたからだった。その為にも、しつこい『姉妹達』をここで打ち破る。
仮に、ここで黒い巨人(※ティタン)が来ても大丈夫なように。そしてそのための手段として、自身の装甲をエネルギーに変換するという能力。
――ワンオフアビリティーをここで会得したのだった。
そして、向かってくる『長姉』に対して福音は高らかに鳴く。自らの命さえも厭わぬ、空への思いを込めて。






 というわけで、福音もワンオフアビリティーに目覚めました! ……いや、何処まで続くんでしょうかこの戦い。
御影のパッケージの説明などと纏めて次回に説明(予定)ですが。……次こそ、福音戦に決着です!
そして――第一期アニメラストのあの会話! ……今年中には、夏休みパートに入りたいなあ。


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