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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 夏の銀光、輝くとき
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/08/11 08:08

 ……次の日の朝。IS学園の生徒達は、ISスーツを身に付けて整列していた。その眼前に立つは、各クラスの教師達である。そして、その場所は。
「凄いな、この地形……」
 一夏が『凄い』と言った場所は、四方を切り立った崖に囲まれた砂浜だった。監視の目を免れるため、という名目で選ばれたこの場所。
生徒達は空から輸送ヘリで運ばれたのだが、教員と物資は海中のトンネルから運ばれたというSFチック(By安芸野将隆)な場所である。
「それではこれより、ISの各種装備試験運用とデータ取りを行う。各人。担当の教員の言う事をきちんと聞いて取り組むように!」
『はい!』
 千冬の宣告に返事をする生徒達は、クラスごとに固まると移動を開始した。
それを見て、そちらを後ろの教師達に後を任せ、自分は別行動をとる為に集まっていた専用機持ち達+1の所へと移動する。
「専用機持ちのパッケージ運用は、私が監督責任者となる。それと既に知っているようだが、宇月は白式と織斑の補助だ。
一場は、いつもどおり自分の機体と共にクロトーの整備を補助しろ。部品・パッケージは既に機体別に分けてあるので、取りに行く事」
「はい!」
「よし、では各自開始……といいたいところだが。その前に……おい。そこの遅刻者」
「は、はい!」
 遅刻者と言われ、慌てて返事をしたのは、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。遅刻とは縁が無さそうである彼女だが、今朝は珍しく寝過ごしたのである。
同室の者も、まさか彼女が寝坊するとは思わず。起こさずに行ってしまった結果がこれだった。
「遅刻の罰だ。ISの、コア・ネットワークについて説明をしてみろ」
「は、はい! ISのコアには、相互情報交換のためのデータ通信ネットワークの機能が搭載されています。
これは、広大な宇宙空間での活動において互いの位置情報を交換するために設けられているもので……。
他の通信回線とも交流可能なオープン・チャネルと、操縦者同士のみで行われるプライベート・チャネルとして使用されています。
また、それ以外にも非限定情報共有(シェアリング)と言われる、コア同士が各自に様々な情報の交換を、行っているという事が近年の研究で分かりました。
これは自己進化の糧として吸収し合っていると思われますが、製作者である篠ノ之博士が自己発展の一環として無制限展開を許可しています。
ISは博士の言によれば【無限に】進化していく可能性があり、その発端となるのがコア・ネットワークであると考えられています」
「ふむ。……寝過ごしたわりには、適切な説明だな。何があったのだ?」
「も、問題はありません! ISスーツ内に記録されているバイタルチェックを提出しろというのなら、提出できます!」
「ああ、分かった。なら、もういい。それと――篠ノ之、こい!」
「は、はい!」
 副担任の山田真耶についていく一組生徒の中で、箒のみが千冬に呼び出された。本人も、何故呼ばれたのかは解っていない。
「織斑先生。私が何か?」
「ああ。お前は今日から、せ――」
「やっ~~~~~~~~ほ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
「「…………」」
 千冬が箒に話しかけた瞬間、能天気な声が聞こえてきた。千冬と箒が同時に顔を歪ませ、他の面々も声の発生源を探そうと辺りに視線を向ける中。
大きく土埃を巻き上げながら、絶壁を駆け下りて来ている人影を発見した。その人物は絶壁の中程にまで来ると――大きく跳躍する。
「とうっ!」
「と、飛んだ!?」
「バッタ!? それとも鳥!? それともIS!?」
「い、いいえ、あれは……!」
「ち~~~~ちゃ~~~~~~~~~ん!! 来たよ~~~~~~~~~~~~!!」
 困惑する声がする中、その人物は間延び声を発しながら千冬目掛けて顔からダイブしてきた。アクションヒーローさながらの、その動作。
そして、上空から急接近してくるその人物に対して千冬は。
「やぁやぁやぁ。会いたかったよ、ちーちゃん! さぁさぁ、ハグハグしよ! 互いの愛を深めよ――へぐっ」
「ふんっ!」
 全く慌てることなく顔面を掴み、その手に力を込めて相手を握りつぶす技――アイアンクローを喰らわせたのだった。




「ぐぬぬぬ。相変わらず容赦のないアイアンクローだねぇ!」
「やかましい」
 私達が織斑先生に連れられて移動しようとしたとき、謎の人物が現れて織斑先生に飛び掛ってきた。
先生に顔を掴まれながらも、変わらずのハイテンションで言葉を発する謎の人物。……な、何この人?
「やぁ! 久しぶりだね箒ちゃん!」
「…………どうも」
 変な人は織斑先生の手から抜け出ると辺りを見渡し、専用機持ちの生徒達の後ろで身を隠している篠ノ之さんを発見した。
……あれ、何で篠ノ之さんは隠れてるいるんだろう。変な人から離れたいのは理解できるけど、隠れる必要は……。
「いやぁ、それにしても、こうしてきちんと会うのは何年振りだろうねぇ? 大きくなったね箒ちゃん。特に、おっぱいが……」
 次の瞬間、拳骨が変な人の頭に命中した。織斑先生ほどじゃないけど、かなり痛そうだ。……遠慮が無いわね。
「殴りますよ、姉さん」
「いった~~~いぃ! 殴ってから言った~! 酷いよ箒ちゃん!! ねぇ、いっくんもそう思うでしょ?」
「は、はあ……」
「おい一夏、束の相手などするな。時間の無駄だ」
 だけど、変な人はまるでこたえていないようで、今度は織斑君に相手をしてもらっていた。……って、あれ?
今、篠ノ之さんや織斑先生は何て言ってた? 『姉さん』とか『束』って言ってなかった? ま、まさか。この人、が?
いや、私だって博士の顔を知らないわけじゃないけど。……白衣を着て、つまらなさそうな表情の写真だったし。
青のエプロンドレスを着て変なヘアバンド(?)を付けた笑顔の女性が、それと繋がらなかった。
「お、織斑先生! もしかしてこの人が……」
「……はあ。束、自己紹介しろ」
「えー、別にいいじゃん」
「……二度は言わんぞ」
「はろー、私が天才の束さんだよ♪ ……おしまい」
 少しだけ殺気を込めた視線に、変な人も流石に危険を察したのか自己紹介をする。
入学当時の織斑君や、転入初日のボーデヴィッヒさん並に短かったけど。
「ええええええええええええええええっ!?」
「た、束って……篠ノ之束!? こ、この人が!?」
 織斑姉弟と篠ノ之さんを除く、ほぼ全員が驚く。……それも当然だろう。というか、私も驚くしかない。驚く他無い。驚く。驚くだろう。驚きだ。
……うん、自分が何を言ってるのかちょっと解らなくなってる。落ち着かないといけないわね、私。
……あれ? 気のせいか驚きのレベルが違うような気がする。具体的には、専用機持ち+先生達と、一般生徒で。
「「篠ノ之博士!!」」
 ブローン君と、付き添いのハッセ先生が篠ノ之博士に向かって近づいていく。一体、何を……?
「博士も妹さんも胸がデカいですけど、やっぱりお母さんもデカいんですか? というか是非その感触を――」
「博士。是非とも私と共に熱い一夜をすごしませんか? 何でしたら、今からでも――」
 次の瞬間、ブローン君とハッセ先生は、言葉を言い切る事が出来ずに空を飛んでいた。
織斑先生の連続出席簿アタックによって空へと舞いあがり、そのまま回転しながら砂浜に落下する。
頭から落ちて砂浜に埋もれ、足だけを出したその姿は日本の村を舞台にした名作映画のようだった。祟りじゃ……なくて、天罰覿面だろう。
何でアレを臨海学校まで持ってきてるんだろう、とか。一回しか音がしなかったのに何故二人ともが、とか。
そもそも人間って、あんなに簡単に吹き飛ぶような物じゃないって思うけど。触らぬ神に祟りなし、なので考えるのは止めた。
「今のアレ、何なのさ? 殺し屋か何かと思ったら、変な事言い出すし」
「……気にするな、というか忘れろ。覚える必要もない」
「ふーん、どうせすぐに忘れるけどね。ああ、ちーちゃんが嫌なら、アレらの人格でも消しておこうか?」
「……。…………。駄目だ」
 今、少し悩まなかったですか織斑先生!?
「そう、ならそれでいいね。……さて、本題に入ろうか!!」
 本題? そういえば、何で博士がここに?
「ね、姉さん。では、頼んでいたものを……?」
「そうだよ。ふっふっふ~、お待たせしたね箒ちゃん! さあ! 大空をご覧あれ!!」
 博士が直上を指差すと、何かが降ってくる。砂浜に轟音と共に降り立った巨大なそれは、銀色の水晶体のような何か。
そして八面体の水晶が開き、中からは――。
「じゃっじゃじゃーんっ! これぞ箒ちゃんの専用IS・紅椿! 全スペックが現行ISを上回る最高の機体だよ!」
 その言葉に反応するように作業アームで外に出されてくるのは、真紅の装甲のISだった。
――ってちょっと待って、全スペックが現行ISを上回る!? な、何それ!? そんな代物、ありうるわけ……。いや、でも……。
「さぁ! 箒ちゃん、さっそくフィッティングとパーソナライズを始めようか! 束さんが補佐するから直ぐ終わるよー」
「……それでは、頼みます」
「堅いよ~箒ちゃん。実の姉妹なんだから、もっとこうキャッチーな呼び方でね。お姉ちゃんなんて……」
「……早く、始めましょう」
 困惑する私達を尻目に、事態は動いていき。私達は初めて『IS開発者の世界』を垣間見る事になった。


「は、速い……」
 博士の入力速度は、異常だった。虚先輩や更識さんを更に凌ぎ、手の速度が文字通り見えない速度。え?
今、9つのディスプレイが同時に消えた? あ、今度は指で操作された立体ディスプレイがまるでピーンボールのように跳ねてる。
その跳ねているディスプレイが他のディスプレイに当たると、処理が進んでいった。
多分、跳ねているディスプレイは何かのプログラムで、それがインストールされているんじゃないかと思うんだけど……。
「これが……篠ノ之束の入力なの……」
 隣にいる久遠も、呆然と見ている。何ていうか、人間業とは思えない速さ。
これをISの飛行速度と喩えるなら。虚先輩の速さでさえ、まるで本音さんの歩くスピードに見える。
そのくらい、桁外れだった。これが世界最高の科学者の実力なんだ……。
「よし、じゃあこれで後は自動で終わるね。じゃあいっくん、白式を見せてくれるかな?」
「白式を? えっと……良いのかな、宇月さん?」
 ちょ!? な、何でそこで私を呼ぶの貴方は!? いや、この場合はそれが正しいんだけど!!
私も、臨時とはいえ白式の整備を任されているわけだから、それが当然なんだけど!! 時と場合によっては、それを無視していいのよ!?
「なあ。どうする、宇月さん?」
「あ、相手が相手だし、い、良いんじゃないかしら?」
「そっか。じゃあ、良いですよ束さん」
 私を巻き込まないで、というオーラを込めつつ返事する。……ふう。何とかこれ以上は巻き込まれずに済んだわ。
いや、後で倉持技研への弁解があるけどね。外部の人に弄らせていいわけは無いけど、相手が相手だし、私がどうこうできる相手じゃないし……。
「よーし、じゃあ始めようか。……ところで今のアレ、何なのかな、いっくん?」
「え、えっと……彼女は宇月香奈枝さん。俺や箒のクラスメートで、この三日間だけですけど白式の整備を頼んでいるんです」
「ふーん……」
 ……と思ったら、話題が私の方に向いてきた。何か言われるかな、と身構えたけど。
幸い博士は私の方には目もくれず、白式を弄くりだした。……あー、良かった。幾らなんでも、心臓に悪すぎるわ。


「……」
 多分、今の私の顔は埴輪みたいになっているだろう。……博士が白式を弄くりだしているのを見て、私は一応それから目を離さなかった。
……おそらく、変な事はしていないと思うんだけど。
「ん~~、不思議なフラグメントマップを構築しているね。何でだろ、見た事のないパターンだね」
「それってやっぱり、俺が男だからですか?」
「そうかもね。いっくんをナノ単位まで分解したら解るかもね。してもいい?」
「いいわけないでしょう!」
「にゃはは、それもそうだね」
 この辺りまでは、何とか耐えられた。だけど。
「そういえば、束さんなら、白式に後付で装備を搭載できるんじゃないんですか? 白式は、何故か追加武装を受け付けてくれないんですけど」
「んー、そもそもそう設定したのは私なんだけどなあ」
「え? た、束さんが白式を仕上げたんですか!?」
 ……この辺りから、雲行きが怪しくなり。
「元々欠陥機をちゃんと動くようにしただけだけどね、そのおかげでワンオフアビリティーが第一形態から使えるでしょ? 元々、それが狙いだったみたいだし――」
 とんでもない事をさらっと博士が言い出した時点で、私の処理能力を超えてしまった。なお、博士の頭には織斑先生の拳骨が飛ぶ。
「機密事項をベラベラと漏らすな。それよりも、あっちは終わりそうだぞ」
「おっと、紅椿の準備だね! さてと、ではいっくん、ちょっと待っててね!」
 まるで玩具を飽きて放り投げる子供のように、博士は篠ノ之さんとIS……紅椿とかいう機体の元に行ってしまった。残されたのは、織斑姉弟と私だけ。
「……すまんな宇月。またお前に迷惑がかかったようだ」
「い、いいえ。先生が謝る話じゃないですから……」
 うん、何処か夢を見ているような感覚だった。――もっとも、準備の済んだらしい紅椿というISを纏った篠ノ之さんを見た時。そんな感覚は消し飛んだ。


「どうかなどうかな?箒ちゃんが思っている以上に速く飛んでるでしょ?」
『は、はい……!』
 篠ノ之さんが、紅椿を纏い空を飛んでいるんだけど……。その様子は、とても初めてだとは思えなかった。というか、速度が段違い。
私も白式や他の専用機を見てきたけど『何か』が違う感じ。そして本人も、興奮気味だ。
「よしよし。それじゃあ続いて、武装のチェックの方に行こうか! 箒ちゃん、出してみて!
右のは雨月(あまづき)で左のは空割(からわれ)だよん! 武器のデータとお試し用の的を送るよ~!」
 博士の言葉と共に、その身長を凌駕するサイズの十六連装ミサイルポッドが現れた。そして、篠ノ之さんに向かってミサイルが放たれる。
『やれる……この紅椿なら!』
 その言葉と共に、篠ノ之さんが二本の刀を展開した。そして、刀を振るとそれぞれ赤いエネルギーが放出される。
違いとしては……右の方は球体をしていて、射程はアサルトライフル位。左の方は帯状で、広範囲を同時に攻撃できるようだった。
そして、ミサイルは全弾撃墜される。……その様子に、私達は声も出なかった。
「さて、紅椿を使ってこれから頑張ってね箒ちゃん。いっくんに変な虫もついているみたいだしねー」
 ……虫って、もしかしなくても私の事だろうか。いや、そりゃあ博士と比べれば私の整備の腕なんて虫レベルですけどね……。
『……姉さん。虫など、ついていません』
「えー? だってほら、いっくんの隣に地味なのがいるじゃん?」
『一夏の隣にいるのは、私達のクラスメートだけです。……私も世話になっている女子を、そんな風に言わないでください』
「ふーん……。まあ、箒ちゃんがそう言うならいいか。それよりもどうかな、紅椿は。最高でしょ?」
『……はい』
「そっかそっか。まあ、当然だけどね!」
 篠ノ之さんの言葉に、ちょっとだけ感動した。……まあ、地味という点においても否定はしないでおこう。
「それにしても、これで箒も専用機持ちになったのか……」
 何処か状況を理解していないような口調の織斑君だけど、確かにその通りだ。これで、一年生の専用機持ちは……12人(※ドール含む)かぁ。
「あれ、千冬姉……?」
 何を見ているんだろうか、と織斑君の視線と同じ方向に視線を向けると、そこには織斑先生がいた。
……何故か、先生は今までに見た事が無いほど険しい表情をしている。先生の視線の先にいるのは……博士?
「お、織斑先生、大変です!」
 しかし。山田先生の焦った声と共に、その雰囲気は霧散したのだった。


 ……山田先生の焦った声。それは何かの緊急事態だったのだろうけれど、私は専用機持ち達と離れて一般生徒と共に待機を命じられた。
ただ、篠ノ之さんは逆に呼ばれ。何故か、三組の米国代表候補生のマリア・ライアンさんも一緒に呼ばれていた。
「何なのよ、アレ……」
「贔屓だよね、絶対……」
 織斑先生の異様なほど厳しい命令――許可なく室外に出れば、拘束――が下り、専用機持ちの生徒以外は各部屋に戻っていく。
ただ、やっぱり篠ノ之さんへの反発がちらほら聞こえてきた。愚痴がでるのも当然だろう。――そして。
「いくら学年別トーナメントで決勝進出だからってさあ、たまたまドイツの子と組んでたからじゃないの……」
「ゴウ君を負かせたのだって、たまたまアルト・シュトゥルムを使ったら大当たりしただけだし……」
「だいたいさあ、あの娘ずるいよね。専用機持ってなかったのに、織斑君たちとべったりだし……」
「それも、博士の妹だからじゃないの?」
 うわあ、厄介な事になりそうね。だけど、専用機が目の前で、あんな手段で入手された事に対する彼女達の鬱憤も解らないではないから口は挟まない。
いい加減に気の短さを治さないと、いつか、取り返しのつかないことになるだろうし。……ただ、話題はそれだけではなかった。
「でも一体、何だったんだろ?」
「せっかくのIS実習、中止になっちゃうしね……」
「私なんて、後ろの方にいたから博士の姿も殆ど見てないよ」
 突然の中止。それもまた、紅椿と篠ノ之さんの話題と共に皆の話題になっていた。まあ、これも当然だろう。


 そしてそれは、部屋に戻っても同じだった。
一組の生徒用であるこの部屋の場合、篠ノ之さんへの陰口よりも事件の方が当然ながら話題に上っている。
「それにしても、何だったのかしら。やまやんが慌ててたけど……」 
「専用機持ちを全員出すって事は、何かあったのよねえ?」
「もしかして、襲撃者とかでしょうか……?」 
 クラス対抗戦の時の事がある所為か、皆がそんな事を話していた。あの時、具体的に何があったのかは知られていない。
でもアリーナのバリアーが突き破られ、攻撃を受け。避難しようとしたら隔壁が閉鎖されて半ばパニックになった……
というのは、あの時アリーナで観戦していなかったフランチェスカのような人も含めて、皆が知っている。
私の場合、第一の乱入者と織斑君が撃たれた第二の乱入者(?)も見てはいるけど。……今回も、そうなんだろうか?
「心配だなあ……」
 もしも今回の事も襲撃か何かなのだとすれば、専用機持ち達が出撃する事になる。
状況にもよるけど、今日(というか、ついさっき)に専用機を貰った篠ノ之さんが出撃するなんて事態になったら、どう考えてもまずいだろう。
まあアニメじゃないんだから、いきなりの実戦なんて……。……あ。
「……まあ、織斑君の場合はアリーナだったしね」
 一部例外もいる、か。……まあでも、他の専用機持ちの皆もいるし。仮に篠ノ之さんが出る事になっても、フォローしてくれるでしょう。
そもそも、私の心配が杞憂に終わる可能性だってあるんだし。
「――どうしたの、宇月さん?」
「た、鷹月さん……ううん、何でも。ただ、何事も無ければ良いなって思っただけ」
「そうね。ところで、貴女は今からどうするの?」
 私達は待機が命令されているが、それ以外は何も言われていない。まあ、こんな状況でゲームやら通信やらをする女子はいないけれど。
「うーん、白式の資料を見直しておこうかと思ったんだけど……時間が余りそうよね」
「そう。なら、これでも読んで、時間を潰すのはどう?」
 鷹月さんが読んでいたのは『世界の有名ジョーク集』だった。……世界中から学生が集まってくるこの学園では、意外と重要かもしれないけど。
真面目で、中学の頃はクラス委員だった私や、現在のクラス代表達よりも委員長っぽい彼女にはちょっと意外な感じがする。
「ねえねえ宇月さん。貴女って、篠ノ之博士を尊敬とかしていないの?」
「え?」
「だって、整備士志望なんでしょ? だったら、ブローン君やハッセ先生みたいに話しかけたらよかったのに。それとも、尊敬とかはしていないの?」
「いや、尊敬……っていうか、雲の上過ぎて実感が無いわ。それに話しかけたって、織斑先生の出席簿で弾き飛ばされるだけだし」
 岸原さんの割り込み質問にも、そう返す。……まあ、色々と性格に難のある人だったみたいだしね。
「正直、尊敬とかいう次元じゃないわ。余りにも遠すぎるし」
 篠ノ之博士とは、世界を文字通り変えた女性。凄いとは思うし私もISの道に踏み込んだ者として敬意がある。
だけど、話しかけようなんて思えなかった。……まあ、私と同じ立場でも『彼』だったら違うのかもしれない。
姉と同じ力を受け継いでいるけど、気負う事無くそれを使い続けている『彼』なら。
「……鷹月さん、本を貸してくれる? 気分、変えたいの」
「ええ、喜んで」
 鷹月さんから借りた本を手に取り、私はとりあえず彼らの事を忘れた。きっと、大丈夫。根拠の無い自信に、溺れながら。




「やっと、見つけた……。彼の情報は半信半疑だったけど、やっと……!」
 ここは、三組の部屋。私……パリス・E・シートンもいるこの部屋で、スペインの代表候補生……ニナ・サバラ・ニーニョさんが怖い雰囲気をかもし出していた。
「……ニナ、怖いです。物凄く怖い、炎が見えるです……」
「炎?」
「周りを焼き尽くしそうな炎……ううん、自分を焼き尽くしてもまだ飽き足らないほどの炎を感じるです……」
 私が共に学年別トーナメントを戦い、ルームメイトでもある少女……マーリ・K・カーフェンは、そういうと私の陰に隠れてしまった。
ルームメイトとなって知ったけれど、この娘は意外と直感が鋭いタイプ。物事の本質を直感的に見抜いてしまう部分がある。
また危険察知にも優れ、怒れる織斑先生や私の天敵のBHコンビを避けたこともある。そんな彼女が、ニーニョさんに何を感じたのだろう……?
「そういえば、篠ノ之さんが専用機を貰ったけど。あれが468番目のコアになるのかな?」
「……推定、推定。……可能性は大。篠ノ之博士が既存のコアを使用する可能性、小」
「468番、め……?」
 その数字の何が不味かったのか、ニーニョさんの雰囲気がよりいっそう危険な物になる。
これはマーリじゃなくても解る。理由は解らないけど、凄く危険な雰囲気。
「――その辺で止めておきなさいよ、ニーニョ。皆、怖がってるんだから」
い物知「!」
 怖らずの一面を持つ、仙道理香さんが止めに入った。と、とにかく助かったぁ……。
「……すまないな、お前達には関係ない事なのに。八つ当たりだった」
「い、いいのよ、ねえ?」
「……別に」
 私のフォローをあっさり受け流すバースさん。……頼むからこういう時くらいは賛同してよ~!
「それにしても、まさか『彼』の情報が正しかったとはな。……これからの付き合いを考えるべきか」
 彼……? 誰の事かわからないけれど、大丈夫、かな? うう、やっぱり荒々しいのは苦手だわ……。




「……」
 私――アメリカ代表候補生、マリア・ライアンは、専用機持ち達と共に大座敷といわれる広い部屋に集まっていた。
昨日は夕食を取ったこの部屋にモニターや端末などが置かれ、険しい顔をした先生達もいる。……並々ならない事態だというのは解った。
「それにしても、まさか篠ノ之博士がまた来るなんて思いもしませんでしたわ」
「そうだな……」
「って、ちょっと待ちなさいよセシリア、一夏。あんたら知ってたの?」
「いや、昨日も来てたんだよ。直ぐに何処か行っちゃったけど……」
「ず、ずるいよ! 一夏、彼女にだけ教えたの?」
「ち、違うぞシャル、セシリアも偶々、束さんに会ったんだ」
「……静かにしろ、雑魚ども。教官が来られたのだぞ」
 雑談はそこで終わり、ボーデヴィッヒさんが言ったように織斑先生がやってきた。……それにしても、篠ノ之博士、か。
――さっき、篠ノ之博士の出現した瞬間。それと同時に端末に手を伸ばしたのは私と二組のファティマ・チャコン――。
アメリカとアルゼンチンの代表候補生(他、数名)だった。確認は出来なかったけど、専用機持ちも同じだっただろう。
――ただ、代表候補生で唯一。二ナだけは、そういう素振りが無かった。ただ、誰よりも視線が激しくなった瞬間があった。
それは――あの紅椿とかいう新型機が登場した瞬間。そして、その理由については、私は心当たりがある。
3年前の博士の失踪により、最も損を被った国の一つであるスペイン。
そして彼女の姉、カリナ・ニーニョとも関わってくる事だった。彼女にまつわる数字……それが、468。
「さて、お前達を集めたのは他でもない……」
 っと、いけないいけない。今は、それどころじゃないのだから。しっかりと、先生の話を聞かなければいけない。
「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代機、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が、制御下を離れ暴走。
監視空域から離脱したと報告があった。そして衛星による追跡の結果、福音は50分後、ここから2㎞先の海上を通過すると判明。
学園上層部からの通達で、この件は我々が対処することになった」
 え……し、銀の福音が!? しかも、強奪されたとかじゃなくて暴走って事は……!
「お、織斑先生! まさか、ナターシャ・ファイルズさんが銀の福音を纏ったままなんですか!?」
「そうだ。――ライアン、お前はあいつと知り合いか?」
「は、はい……。以前、何度かお会いした事があります!」
 そうか。……てっきり、在日米軍絡みかと思ったら。……銀の福音絡みだったから、私も呼ばれたんだ。
「そうか、お前もアメリカ代表候補生である以上、それも当然だな。――それとライアン、お前には米軍側への事情説明をしてもらう。……いいな?」
「はい!」
 つまり私は、これからの事を、出来うる限り『きちんと』記録しなければならない。
……勿論、表ざたに出来ない事もあるだろうけれど。アメリカの代表候補生として、最善を尽くす。そう、誓った。
「では作戦会議を始める。意見のある者は挙手をしろ」
「はい。目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
 その言葉に合わせて、オルコットさんが挙手した。……仕方の無い事なんだけど、少し悔しい。
こんな事で、銀の福音のデータを出さなきゃいけなくなるなんて、思ってもみなかったから。
「分かった。ただし、これらは二ヶ国の最重要軍事機密だ。決して口外するな。
漏洩した場合、査問委員会による裁判と最低でも二年の監視が付けられる。良いな?」
「了解しました」
 そして、銀の福音のデータが公開される。……それを見た各国代表候補生達の顔色が変わった。
「二時間で日本――ハワイ間を飛行可能……巡航速度、マッハ2ですわね」
「戦闘速度はそれ以上、と見るべきね。機動性能とのバランスが気になるけど、どうなのかしら」
「そうだね。このデータを見る限り、広域爆撃機と近しい性質の機体のようだけど。……近接戦闘力も気になるね」
「このデータでは、デュノアさんの『灰色の鱗殻』のような外付け格闘兵器は確認できない。……量子変換武装はどうなの、ライアンさん?」
「……基本的に、量子変換武装はあっても使えないと思っていいと思うわ」
 英中仏日の代表候補生達が、私をチラッと見つつ。データから顔を離さない。はあ。どうしてこうなったのかしらね。
……まあ、この場にいるほとんどの人間が『何となく』ではあるけれど察しているだろうけれど。




「なるほど、な。……それにしても、ここまで高性能だとは。流石は米国、というべきかな」
「金も人材も注ぎ込んでるからなあ、あそこは。羨ましい話だぜ」
 ……千冬姉の説明からこっち、俺は付いていくだけで精一杯だった。見ると、俺と将隆、箒以外は誰もが険しい顔つきをしている。
同じ男子であっても、ドイッチとクラウスは銀の福音のデータを見てため息をついていた。
「織斑先生、この機体のロック状況はどうなっていますの?」
「この機体は、現在のところ、量子変換容量による装備制限のロックを解除した状態にある。
その中にはエネルギー制限も含まれてあり、このまま無補給であっても、数日間は活動可能なエネルギーがあるという事だ」
 何それ羨ましすぎる。白式は兎に角エネルギーを食うからなあ。
「織斑先生、具体的なエネルギー総量の情報は無いのですか?」
「ああ、これだ。使い方次第では『日本の首都を焼き払える』事は容易いと言ってきたな」
「!!」
 ドイッチの質問への回答に、一同が静まり返る。……俺達でも、そのやばさは理解できた。
「あの、質問なんですけど。自衛隊とか在日米軍とかは動いてくれないんでしょうか?」
「安芸野、お前の疑問も当然だが。残念ながら今回のケースに関しては、秘密裏に終えたいという事で在日米軍も自衛隊も動けん」
「お役所仕事ですねぇ……」
「ち……織斑先生。学園からの増援は期待できないんですか? 確か三年の専用機持ちが、アメリカの代表候補生だって聞いているんですけど」
「二・三年の専用機や教師の増援を向かわせるという案も出たが、それらも同様だ。
あくまでこれは『超音速飛行が可能なISの、他IS搭載時の速度測定試験』という名目で行われる。
福音との遭遇を『偶発的な遭遇』として片付ける為だ。学園教員による哨戒も、あまり範囲を広げては行えん」
「……大丈夫なんですか、それで」
「不足している点は山のようにあるがな。出来る事と出来ない事がある以上、出来る範囲でやるしかあるまい」
 当人も不本意そうには見えたが。結局、これ以上の事は出来ないって事か。


「さてボーデヴィッヒ。遅刻の罰のオマケだ、この機体、お前ならばどう落とす?」
 と、苦々しい表情だった千冬姉があいつに問いかけた。寝坊したりしたけど、具合が悪いとかじゃないみたいだが。
「……はい。この機体は音速巡航が可能な戦闘機と、都市を焼き払えるほどの爆撃能力を持つ攻撃機の複合体、とでも言うべき存在です。
移動コースが判明しているならば、その地点での迎撃。出来うるならば、一撃粉砕が望ましいかと」
「上出来だ。……他の者はどうだ?」
「一回きりのチャンス……ということは、やはり一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」
「ま、そーなるでしょうね」
「……やっぱり、織斑君が最適だと思います」
 アイツの返事を聞いた千冬姉の問いかけに、セシリア・鈴・簪が答える。……え? ……俺?
「何鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしてるのよ一夏、あんたの『零落白夜』で落とすのよ」
「それしかありませんわね。ただ、問題は―――」
「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。白式には高速飛行用のパッケージは無いみたいだから他のISで運ぶしかないかな」
「当然だけど、目標に追いつける速度が出せるISでなければ駄目。超高感度ハイパーセンサーも必要……」
「そうなると……選択肢は限られるわね」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! お、俺が行くのか!?」
「「「「当然」」」」
「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない」
 中英日仏米……各国代表候補生の声が見事に重なった。
そして畳み掛けるように千冬姉にそう言われて、俺はわずかに及び腰になっていた自分を蹴り飛ばす。
「――やります、俺がやってみせます」
「よし、それでは作戦の具体的な内容に入る。攻撃役は織斑だが、移動距離およびエネルギー消費のことを考え、移動役も必要だ。
現在、この面々の中で高速飛行可能なパッケージを保持している者は――」
「それならば、ブルー・ティアーズの強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』では如何でしょうか。
最高速度も福音に追いつけるレベルですし、当然ながら超高感度ハイパーセンサーもありますわ」
 セシリアが、いつものポーズを取りつつ主張する。……音速の二倍で飛行中の銀の福音に追いつける、って事はとにかく速い、って事だな。
「そうか。――他の者はどうだ」
「一応、御影にも高速飛行用パッケージっていうのが送られて来てますけど……」
「ふむ。オルコット、安芸野。お前達は、超高速下での戦闘訓練時間はどれだけある?」
「わたくしは、二十時間です」
「俺の方は、三時間……打鉄用の高速飛行パッケージを使って、です」
 将隆が、おずおずと手を挙げた。そして、他のメンバーからは全く発言は無かった。
「ならば、オルコットが適任――」
「待った待ったー。その作戦はちょっと待ったなんだよ~!」
 声に振り向くと、そこにいたのは、天井から逆さになって顔を覗かせている束さんだった。……え?




「……ふんっ!」
「おっとぉ!」
 逆さになって顔を覗かせている篠ノ之博士に対し、織斑先生がさっきクラウスとハッセ先生を沈めた出席簿を投げつけた。
しかし博士はそれさえ避け、回転しながら着地する。……何者だこの人、俺の担任の新野先生や副担任の古賀先生でも無理だぞ。
「何の用だ、束。紅椿を渡して終わりではなかったのか」
「ふっふっふ! ちーちゃんちーちゃん、もっといい作戦が、私の頭の中にナウ・プリンティング!」
「……山田先生、部外者を追い出せ」
「は、はい! え、えっとですね博士、ここは関係者以外立ち入り禁止でして――」
「ん? 何を言っているのかな君は、私以上にISに関係ある人間はいないよ?」
「え? えっと……は、はい、そうですね」
 いや、そこで言い負かされちゃ駄目でしょ、やまや……じゃなかった、山田先生。まあ、確かに博士の言っている事にも一理あるんですけど。
というか、何故今更『部外者』扱いするんだ? さっきの砂浜では、そんな事を言わなかったのに。
「おいおい山田先生、それじゃ駄目だろ」
「う……」
「古賀先生、今のは私のミスです。山田先生に非はありません」
「お、織斑先生……」
 と思っていたら、古賀先生が俺と同じことを言ってのけた。織斑先生のフォローが入り、山田先生がうれしそうな表情になり。
「……なんなのかな、そこのおっぱいおばけは。ちーちゃんに優しくされて、潤んだ瞳になっているのは何故なのかな」
 何故か博士が不機嫌な表情になった。……あれ、ひょっとしてまずくないか?
「この、おっぱいおばけめ……ちーちゃんを誑かしたな~~!」
「き、きゃあああああっ!? は、博士、何をするんですか!?」
「良いではないか、良いではないか~」
 ……更に予想外の事態になった。なんと、博士が山田先生の胸に手を伸ばしてそれを鷲掴みにしたのだった。
なお、俺の目測だと山田先生と博士の胸のサイズはほぼ互角。織斑先生や新野先生がそれに続く……といった所だろうか。
「やめんか馬鹿者」
 そして、織斑先生の三連撃が炸裂した。……ちなみに三連といっても、博士に命中したのは一発。
残り二発は、今の映像を記録しようとしたクラウスとハッセ先生に命中している。
「何をやっている、だいたいお前も山田君くらいはあるだろうが」
「えへへ、ちーちゃんのエッチ」
「……」
「へぐっ!? ほ、箒ちゃんがまたぶった~~!」
 流石に見かねたのか、篠ノ之が姉である博士に制裁を加えた。……後頭部への一撃ってやばいと思うんだが、博士は平然と立ち上がる。
「……それで束、良い作戦とは何だ。聞くだけ聞いてやる」
「ふふふ! まあ一撃必殺の白式を出すのはいいとして! 運搬役には、紅椿を推薦するよ!」
「わ、私を……?」
「どういう事だ」
 いきなり妹に与えた機体の名前を出す博士。……うん、何を考えてるのか全然解らない。妹自身も、織斑先生も同じようだ。
「紅椿の展開装甲を調整して……ほいほいっと! ほら。これでスピードは、ばっちりだよ!」
「展開装甲……?」
 初めて聞く単語に、一夏が怪訝そうな視線を向ける。他の専用機持ちたちも、そして先生達も。
「ああ、いっくん達は知るはずも無いね。だって展開装甲は、第四世代型ISの装備なんだからね」
「……第四?」
 その言葉は誰がいったのか解らなかったが、場の相違だっただろう。オルコットのブルーティーアーズ、凰の甲龍、俺の御影。
他にもボーデヴィッヒのシュバルツェア・レーゲンなどなど……。これらは最新鋭機だが、全て第三世代。なのに、その更に先――第四世代。
「これは大きく出た物だな。まさか、第四世代という言葉が出るとは。……どういう意味ですかな、博士」
「ああ、そういえばいっくん、雪片弐型も展開装甲なんだけど。これを機に覚えておいてね」
 ……古賀先生の質問を完璧スルーして博士が告げた内容。うん、雪片弐型も展開装甲? ……というか、そもそも展開装甲ってどんな代物なんだよ。
「あ、あの束さん。雪片弐型が展開装甲って言われても……どういうものなんです?」
 流石に疑問に思ったのか、一夏も質問する。そういえば、雪片弐型も零落白夜を発動する際に刃部分が展開してエネルギー刃が出てくるが。あれの事かな?
「そうだね、それじゃ、説明してあげようか。まずは~~」
 ……それから博士は、心底楽しそうに展開装甲の説明をした。装甲が展開し、エネルギー刃を生み出す特性を持つ展開装甲。
第四世代機の開発コンセプト――パッケージ換装を必要としない万能機。
それに応えるため、攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替え可能な、より発展したタイプの展開装甲を紅椿に、しかもその全身に搭載したらしい。
つまり、展開したエネルギー刃をあらゆる用途に使用可能な万能機。それが紅椿だと博士は言ったのだった。
……正直、俺の脳味噌では理解できた部分とそうでない部分があるので、これで正しいのかどうか解らないが。一つ言えるのは。
「……何なのよ、あたし達の国の技術者の努力って」
 凰が呟いた言葉が、弾三世代のISを預かる俺たちの総意だった。俺も、麻里さんや安奈さん達の努力を知っている。
その結晶が、俺の足首にアンクレットの待機形態で収まっている御影だ。だが、博士はそんな努力を軽々と超えていく。
それが、何処か寒々しかった。……博士の事を『天才』じゃなく『天災』と呼ぶ人がいるが、その意味が解った気がする。
「だいたい、何なのよあれ……」
 凰は、何やらまだ不満気だ。一体何を……と視線の先を見ると、そこには博士の胸が鎮座していた。
「箒といい千冬さんといい、山田先生といい、そして博士といい、更識の姉といい、布仏といい……どうしてあんなにでかいのよ。
中国人と日本人は人種的には近いはずなのに、何でこんなに違うのよ」
 ……先ほどのご乱行で、凰のコンプレックスが刺激されたようだ。……凰、俺も中国人の知り合いは多くないが。
別に中国人と日本人が違うんじゃなくて、たまたまお前さんの胸が小さいだけだと思うぞ。実際、三組の中国出身の……。
いや、これ以上は何も考えないようにしよう。どうやら不穏当な考えを女の勘で察したと思しき凰が、俺を睨んできたから。
「ちょ……ちょっと待ってくださいな、博士! いくら博士といえど、作戦への口出しは許されませんわよ!?」
「んー、何を言っているのかな、そこの金髪ドリルは。それを決めるのはお前じゃなく、ちーちゃんでしょ?」
「そ、それはそうですが……そ、それより金髪ドリルとは何事ですの!」
 悪い、オルコット。……言いえて妙、だと思ってしまった。
「束……以前にも、やり過ぎるなと言っただろう?」
「そうだっけ? えへへ、ついつい熱中しちゃったんだよ~」
 ようやく織斑先生が、口を挟んでくれたが。……今のオルコットへの言葉は、完全にスルーされていた。
一夏や篠ノ之も諦め顔なので、ひょっとして博士って『こういう』人物だという事なんだろうか。
「あ、ほらほらいっくん。もっと笑顔にならないと。束さんはイタズラしちゃくなっちゃうよん?」
それに紅椿がフルスペックを発動しなくても、今回の一件位なら夕食前なんだよ?」
 ……今も、一夏にしか話しかけていない。やはり、そうなのだろうか。夕食前、って日本語は意味が解らないが。
「まあ、しかしあれだね。海で事件っていうと。思い出すよね。――白騎士事件を」
 ……さらり、と博士がもう一つ大きな爆弾を落としたが。その瞬間、俺は見た。織斑先生が、何故か悔やむような表情をしている所を。



「……!」
 俺達の眼前には、篠ノ之束がいた。……俺の『知識どおり』の展開だった。そして――ここからが、俺の本日一つ目の『役割』だ。
「……」
 展開装甲について説明中の篠ノ之束を見つめ、意識を集中させる。……これで俺の能力の一つである、偶然の遭遇(アクシデンタル・エンカウンター)に捉えられた。
これは距離制限のある能力だが、その中であれば一度捉えれば篠ノ之束であろうと補足可能だ。――そして、すぐさまコア・ネットワークを通じて伝える。
篠ノ之束の出現と、その捕捉成功を。……これこそ、オペレーション・ゴスペルブレイクにおける、俺の重要な役割だった。
「……くくく」
 失敗するであろうクソサマーとモップの攻撃。その間に、俺の『偶然の遭遇』でこれを見ているであろう篠ノ之束を補足し、刺客で捕えるなり殺すなりする。
そして攻撃が失敗した後、俺と一部の専用機持ち達、それと『援軍』で銀の福音を落とす。これがオペレーション・ゴスペルブレイクの全容だ。
その時の無能な連中の顔が、見物だな。……おっと、ここでの俺の出番はまだあったな。
「まあ、しかしあれだね。海で事件っていうと。思い出すよね。――白騎士事件を」
 自作自演の茶番劇を偉そうに語る女を尻目に。俺は、役割を果たす時をじっと待つのだった。



 ……明らかに、それぞれのキャラの視点の文章量バランスがおかしいですね。
しかし香奈枝視点で書く紅椿受領は妙に筆が走りました。……やっぱり香奈枝が苦労しているからかなあ。
それとも、次の話では香奈枝の出番が一気に減るせいだろうか。


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