<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[30054] 天の川の橋と、それを望まぬ者
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/07/23 08:03


 私やフランチェスカ、そして篠ノ之さん達は、温泉に入っていた。ちょうど人気(ひとけ)の無い時間帯で、人数はまばら。
時間割としては、クラス別の時間とフリータイム……全員が入浴できる時間がある。そして今は、後者。
他のクラスの友達とも入れるように、という配慮らしい。
「ふう……やはり落ち着く物だな、温泉というものは」
「本当ね。日ごろの疲れが、取れていくような気がするわ……」
 勿論、いつも入っている学生寮のお風呂だってとても気持ちがいい。でも、やっぱり旅先での温泉というのは気分が変わっていい。
「そうねえ。特に香奈枝は色々と苦労が多いから、ここでしっかりと疲れを落とさないとね」
「……そうね」
 笑顔で、そして私を心配してくれていったフランチェスカの言葉だけど。私は、引きつった笑みしか返せなかった。


「それにしても篠ノ之さん、また大きくなったんじゃないの?」
「な!? 何を言い出すのだレオーネ!」
 私達が温泉を堪能していると、フランチェスカがとんでもない事を言い出した。三組のブラックホールコンビみたいだ、と思った私は多分間違っていない。
まあ、篠ノ之さんはイタリア人であるフランチェスカよりも確実に大きいようだけれど。
「いやいや、絶対にまた大きくなってるよ、それ。何処まで膨らむの?」
「し、知らん!」
 篠ノ之さんは、私達に背を向けてしまった。フランチェスカ、あまり彼女をからかわないの。……言っている事には私も同意するけどね。
「あら、箒さん、宇月さん。何かありましたの?」
「何々、何かあったの?」
「おー、揃ってるね~~」
「こ、こんばんわ……」
 そこへ、私の知っている面々が揃いだした。オルコットさん、凰さん、本音さん、更識さん……他にも、十人近い女子が一斉にやってきた。
「熱っ……! こ、ここのお風呂は熱いですわ」
「あー、そうよね」
 温泉に入ろうとしたオルコットさんが、慌てて身を離す。一般的な温泉は42度くらいだと聞いた事がある。
学生寮のお風呂は、それよりは低いから、彼女がそう感じるのも無理はない。……いや、正確に言うと檜風呂だけはその位の温度なんだけどね。
「こら、鈴! 泳ぐんじゃない!!」
「ナニよ、いーじゃないの。そーれ!」
「こ、こら、お湯をかけるな!」
「……騒がしくなったわね、途端に」
 さっきまで落ち着いたムードだった大浴場は、途端に賑やかになった。まあ、こういうのも嫌いじゃない。
「ねえ鈴、お風呂に入っても大丈夫だったの?」
「大丈夫だって。IS学園の医療技術は伊達じゃないみたいだしさ」
 医療技術? はて、凰さんと神月さんは何の話をしているのだろう?
「どうしたの、何かあったの?」
「ちょっとね、砂浜で足を捻ったのよ」
 え?
「だ、大丈夫なの?」
「うん、平気よ。明日は忙しいし、先生達がすぐに治してくれたからさ」
「そう……」
 足を高々と上げ、無事をアピールする凰さん。まあ、彼女だって代表候補生なんだし、それなりに鍛えているんだろう。
オルコットさんや篠ノ之さんが「さっきは、そんな素振りなど見せなかったのに……」「気付きませんでしたわ」と言っているくらいだし。
……たぶん、大丈夫だろう。
「サウナにも入ってみましょうか。誰か、行く?」
「あ、私行くわ!」
「じゃあ、私も!!」
 そう思っていると、凰さんがフランチェスカや同じクラスの友人・神月さんを連れてサウナルームに行ってしまった。……本当、自由奔放ね。
「ったく鈴ったら、はしゃぎすぎじゃないの? 更識さんもそう思わない?」
「うん。……でも、何か楽しい」
「おー。かんちゃんが、笑ってるよ~~」
「きゃっ!? ほ、本音、抱きつかないで……!!」
 凰さんのルームメイトであるハミルトンに話しかけられた更識さんは、笑顔でそう言い返した。
それを見た本音さんが、こちらも満面の笑みで彼女に抱きつく。その光景は、本当に幸せそうだった。
「無理~~。嬉しいからね~~」
「ほ、本音、だから抱きつか……」
 おや。更識さんが、いきなり黙った。その視線が、自分の背中で潰れている本音さんの胸に向く。
「本音……まさか、また、大きくなった?」
「うん、一昨日計ったら、また1センチ大きくなって……ぎにゃーー!?」
 ……更識さん。他人の胸を鷲掴みというのは、流石にどうかと思うわよ。
「どうして、どうして本音も虚さんも姉さんも大きいのに、私だけ……!」
「かんちゃん、離して~~!!」
 半泣きで本音さんの胸を潰さんばかりに揉む更識さん。まあ、彼女の場合は周囲に大きい人が多いから、ね……。
「や、やめろ更識!」
 篠ノ之さんが、暴走する更識さんを止めに入った。……だけど、それが火にガソリンを撒く行為だと分かった時には既に遅かった。
「貴女も、大きい……」
「なっ!」
 止めに入った篠ノ之さんが、慌てて自分の胸を手で隠す。でもそれは、隠しきれるサイズではなく。
むしろ、手でつぶれてその膨らみが横の方に出て。大きさを強調する結果になった。……彼女が私と同い年である事を、たまに不思議に思う。
「まあ確かに、大きいわよね……」
「な、何を言うのだ宇月まで! だ、だいたい、胸が大きくても困る事だらけだぞ! 夏は汗が胸の谷間にたまるし、剣を振るうのにも邪魔だ。
服のサイズが胸に合わせざるをえなくなるし、下着も高くなる上に可愛らしいものがない。動きが激しければ、すぐに下着が痛んで劣化してしまう。だから……」
 篠ノ之さんは、真剣に胸が大きい事へのデメリットを口にしているのだろう。だけど、どんな熱弁も、それが相手に共感されるとは限らない。
「……ふっ」
「ああ、更識さんがやさぐれている!?」
「か、かんちゃ~~ん!?」
 更識さんが、温泉の中で体育座りをしている。どうしようかしら、本音さんでも今の彼女のフォローは無理だろうし……。
「何やっているのよ、更識?」
「あ、凰さん……実はね」
 凰さんがサウナから出てきた。そして、私から事の顛末を聞いた凰さんは、やさぐれている更識さんの方に向かい。
「更識……同士と呼んでいい?」
 うん、いきなりわけのわからないことを言い出して手を差し伸べた。
「ど、同士?」
「……同じ悩みを持つもの同士。生まれた国は違えど、あたし達は同士よ、更識」
「うん。……私の事は、簪でいいよ」
「じゃあ、あたしも鈴って呼びなさい」
 日中の代表候補生が、裸のまま握手をする。……何この光景。同じ悩みって……いや、言うまい。
私としても中学からの知り合いの凰さんと、高校に入って特に深い縁を持つ事になった更識さんが仲良くなるのは嬉しいんだけど。
「あんたとは、クラス対抗戦以来の関係で、まあ……ライバルだけど。――これからは、よりいっそう仲良くしましょう」
「う、うん」
 こういう形で仲良くなるのは、どうなんだろうかと思う。……まあ、いいか。
「……ん? ちょっといい、簪?」
「え、何?」
 何か凰さんが気付いたようで、更識さんに耳打ちをする。何を聞かれたのか、更識さんが真っ赤になって耳打ちをし返したけど。
「簪……やっぱりあんたも敵よ!」
「え、えええ!?」
 日中同盟は、一瞬で瓦解したようだった。どうやら、彼女達は『同じように見えた』けれど、実は違いがあったらしい。
半泣きの凰さんが聞いたのは、その『違い』だったのだろう。……うん、果てしなくどうでもいいわ。




「……何だと?」
 私は、旅館の片隅で、副官であるクラリッサ・ハルフォーフからの通信を受けていた。
更識家の情報を集めるように命令したのだが、ほとんど集められなかった――と今月の初めに報告があったが。今回の通信の内容は。
「篠ノ之束が、この場所に来ていた、だと?」
『はい。本日、正午に。そしてこちらは正確なものではありませんが、明日も出没する可能性があるとの事でした』
「根拠の無い噂に騙されているだけではないのか?」
『その可能性もある。ただ、可能性はゼロではない――との事ですので。一応、留意せよ……との命令でした』
「……了解した。明日はシュバルツェア・レーゲンの『格闘戦能力強化パッケージ』の訓練に入るが、それにも留意しよう」
『はい』
 それで、通信は終了した。……だが、事が事だけにただそれで終わり、とはいかない。
「篠ノ之束が、か……」
 篠ノ之束。この名については、当然ながら留意してあった。ISの開発者にして、三年前から消息の知れない天才科学者。
あらゆる国が身柄を求める存在。そして、その出現する可能性の高い場所として挙げられた一つが、教官のいる場所――IS学園だ。
だが、あくまで可能性の高い場所というだけであって根拠があるわけでもない。
事実、失踪してから今まで、学園に彼女が関わったという情報は『公式には』ない。しかし、それが何故、今になって……?
「何らかの情報提供があった、と見るべきか?」
 しかし、篠ノ之束の情報など、何処の誰が入手できるというのだろうか? 家族や友人関係など、博士の関係者は調べ上げられたはず。
「……そういえば、教官は篠ノ之束と交流があったという話だが」
 わがドイツ軍が教官を迎え入れたのも、その要素がゼロだったわけではないだろう。
IS学園が、博士が出現する可能性の高い場所として挙げられたのにもそれが要因の一つとなっている。
……まあ、博士云々でいえば、結果的には我が軍にとっては意味がなかったようだが。それに、教官もわずか一年で帰ってしまわれて……
「……っ!」
 ――駄目だ。あの人のようであろうとしても、今の私はそうなれないでいる。――あの時。
あのトーナメントで欧州連合の男に敗北し、教官に褒められる篠ノ之束の妹の姿を見て以来。私が、私でいられない。

『ボーデヴィッヒさん、大丈夫?』

 あの、男に化けていたデュノア社の女。なぜか、奴の笑みが浮かんでいた。
教官から『しばらくは、奴の監視をしてくれ。仲たがいするなよ』と言われ。嫌々ながら、共に行動をする事が多くなった。何なのだろうか、あいつは。
「いや……どうでも、いい」
 あの女がどうであれ、何かをしでかしたりしなければ関係は無い。……私にとっては、教官が全てだ。……全て、なんだ。
「さてと。つまり明日は、篠ノ之束に留意しつつ、パッケージの訓練に集中しなければならないということか……」
 当初の予定では砲撃能力強化パッケージ『パンツァー・カノニーア』だったが、突然変更になった。
まあ、どのようなパッケージであれ私がやるべき事は一つ。完璧に、そのパッケージの能力を引き出し、データを収集するだけだ。そうだ。……何も、変わらないんだ。


「……!」
「む……」
 三組に所属するスペイン代表候補生、ニナ・サバラ・ニーニョ。彼女は、風呂から出たばかりの箒達と大浴場前で出会ってしまった。
かつてニナは、箒を睨んでしまった事がある。それは、彼女の姉の死と関わる個人的な感情の暴発だったのだが。
「あら、ニーニョさんですの。――こんばんわ」
「ああ……こんばんわ」
 二ナと同じく欧州連合の所属国家の代表候補生であるセシリアの存在が、場の空気を救った。
淑女らしく一分の乱れもない礼をするセシリアと、ややぎこちないがこちらも礼を返す二ナ。そんなニナを、じっと見つめていた箒だったが。
「篠ノ之さん、ニーニョさんと何かあったの?」
「……いや、別に何もない」
 フランチェスカの質問に、踵を返して自室へと戻ろうとした。……そんな箒に、かけられる声が一つ。
「……篠ノ之箒!」
「……何だ?」
(え、何このピリピリとした空気? 何があったの?)
(箒さんとニーニョさん……? お二人に、関わりがあったんですの?)
 二ナの呼びかけに、事情を知らない香奈枝やセシリアが怪訝そうな視線を向ける。そして、以前の一件から警戒気味だった箒が先に口を開いた。
「ニナ・サバラ・ニーニョ……で良かったか? 三組にいる、スペインの代表候補生という話だが。私に、何か用か?」
「いいや。……以前の一件について、ちゃんと謝罪をしていなかったので、な。――すまなかった」
「え? な、何よそれ。箒とあんたに、何があったの?」
「ど、どういう事?」
「私的な感情を、彼女にぶつけてしまったというだけの話だ。――許して、もらえるだろうか」
「あ、ああ。……もう、気にしていない。だから、貴女も気にしないでくれ」
 困惑する周囲同様、箒もやや困惑気味だった。何かあるのか、と警戒していれば出てきたのは謝罪であり。箒も、意表を突かれたのだ。
「……そうか。では、また」
 女子達に無数の疑問符を浮かばせながら、ニナは去っていく。……残された女子は困惑気味な表情だったが。結局、二ナの事情は誰にもわからずじまいだった。


「……ふう」
「あら、ニナ。上手くいったの?」
「マリア、か……」
 大浴場から暫く歩き、角を曲がった所でそれまで一分の隙もない表情だった二ナが安堵の息をついた。何故なら、それは。
「ああ。――昼間に君と話をしてみたお陰だ」
「そう。それにしても『篠ノ之さんにちゃんと謝罪したいのだが、どうすればいいだろうか』って夕食後に言われた時はどうなるかと思ったけどね」
 同じクラスのアメリカ代表候補生、マリア・ライアンより教えられた謝罪。それを、やり遂げられたからだった。
「しかし、本当にあれでよかったのだろうか?」
「大丈夫よ。こう言ったら何だけど、彼女には貴女の事を考えている暇はなさそうだし。……まあ、どうしても心配なら」
「ちょっと、良いかな?」
「ゴウ君……?」
 マリアの言葉を遮って現れたのは。男性操縦者の一人、通称ゴウだった。一体何の用事なのか、怪訝と不審が混じった視線を向けるマリアだが。
「俺は、ニーニョさんに用事があるんだ。欧州連合から届いた情報なのだが、ね。できれば――席を外して欲しいのだが」
「欧州連合……」
 それは、マリアにとっては踏み込みがたい領域だった。……勿論、興味がないわけではない。むしろ、知りたくすらあるのだが。
「じゃあ、私は失礼しましょうか」
 介入する理由もない以上、それを断る理由はなかった。そして、マリアの退席を確認してゴウは爆弾を落とす。
「さて、単刀直入に言おう。白式には、君が一番会いたがっている『博士』が絡んでいると噂があるようだよ」
「!? そ、それは本当……い、いや! 何故それを知っている!?」
「スペインの代表候補生である君が、何故『受験を許されなかったのか』気になってね。調べてみた。
それと『468』番目と、君の家族のかかわりの事も……知っているよ」
「!!」
 今度こそ、ニナの顔が驚愕に包まれた。468、その数字こそニナの心の闇を象徴する数字だった。そして……。
「それにしても。篠ノ之博士の人間関係というのを知っているかい?」
「……ああ。酷く狭い、とは噂に聞いている。それが、どうかしたのか?」
「いや、その狭い範囲の中に、ある意味では当然だが妹である篠ノ之さんも入っている、という情報があってね。もしかしたらだが。
――彼女が、姉にISをねだったのなら。それが468番目になるのかな、と思っただけだよ。
それに今日、篠ノ之博士の姿が確認されたという情報もあるしね」
「なん……だと?」
 彼女の心に。マリアによって消されたはずの、負の感情が再び沸き起こってきた。何故なら……。
「まあ、今のは俺の勝手な予想だ。忘れてくれたまえ」
「……ああ。忘れるとしようか」
 ゴウはニナに背を向けると、そのまま去っていく。その顔に、自らの『知識』を披露した優越感と『仕込み』を上手くやれた達成感を浮かべながら。
「……篠ノ之束、か」
 当然ではあるが、ニナは束との面識などはない。だが、どうしても聞いてみたい事があった。何故、あの時……。
「いや……関係、ない、な」
 僅かに険しい顔をしながら、ニナは浴衣に包まれた肢体を自らの腕で抱きしめるようなポーズをとる。それは、自らの心の闇を閉じ込めようとしているようにも見えた。


「デュノア、いつもすまんな。ボーデヴィッヒの事、辛くはないか?」
「いいえ、大丈夫です。あの娘は、いい娘ですよ」
 先ほど、一年生の専用機持ち+箒が集められた千冬と一夏の部屋。今そこには、千冬とシャルロットのみがいた。
シャルロットのルームメイトであるラウラ。彼女の今を、千冬が知りたがったためである。
「そうか。……お前とは、合わないと思っていたのだがな」
「いいえ……あの娘と僕は、似た所がありますから」
「そうか」
 千冬にはその言葉の意味は分からなかったが、指摘するような事はなかった。
「しかしお前にも、苦労をかけるな。――そういえばあいつとは約一ヶ月一緒だったが、さぞ迷惑をかけただっただろう?」
「いいえ。さっきも言ったけど、一夏は――優しくしてくれましたから」
「そうか」
 断言した生徒に対して素っ気無い口調の千冬。だがシャルロットには、わずかながらに、優しい笑みを浮かべているようにも見えた。
それが微笑ましくもあり――未だ父親の事が解らない自身にとっては、少しばかり羨ましくもあった。
「さてと。ボーでヴィッヒの件の礼だ。これを飲んでみるか?」
「え? こ、コーヒーですか?」
「私に合わせた物だからな、少し苦いかもしれんが。……飲むか? まあ、この位なら眠れなくなる事はないと思うが」
 千冬が取り出した魔法瓶の中身。それはコーヒー独特の香りがした。アイスコーヒーであるらしく湯気はなかったが、とにかく香りが強い。
シャルロットもコーヒーを飲めないわけではないが、それはやや苦手に感じるレベルである。
「え、ええっと……」
「口に合いそうにないのなら、無理をするな。なんなら、他のものを奢ってやるぞ?」
「い、いいえ。ちょっとだけ、いただきます」
 そして、紙コップに半分ほど注いだそれがシャルロットに手渡された。黒いそれは、完全なブラックコーヒーのようだ。
(に、苦いっ……!)
 一口含んだ途端、コーヒー特有の苦味が口の中を暴れまわった。それは、シャルロットの許容範囲を越えており。
「ごめんなさい……僕には、まだ早かったみたいです」
 少しだけ減ったアイスコーヒーを、テーブルに置いた。夕食時の山葵のダメージ以上のそれが、よほどきつかったらしく。涙目である。
「そうか、一夏特製のアイスコーヒーなのだが、やはりブラックは合わなかったか。ならばこれを――」
「やっぱり頂きます!」
 何かを取り出そうとした千冬の言葉を遮り、そのまま、ブラックコーヒーを一気飲みするシャルロット。
アイスなので火傷はしないが、その独特の匂いと苦味が口から鼻から吹き出んばかりに少女を襲う。
(うう、や、やっぱり苦い……で、でも一夏のなんだから、絶対に、吐き出しちゃ駄目だよ……!!)
 シャルロットは、半ば涙目になりながらそれをゆっくりと飲み干した。苦々しいそれは、喉を通る時も引っかかりそうなほど辛かったが。
何とか、飲み干す。その痛々しい様子は、千冬でさえも形容しがたい表情にさせるものだった。
「ふうう……」
「大丈夫か、デュノア? 無理をする必要はなかったんだぞ?」
「い、いいえ。だ、大丈夫ですから」
「そうか。……砂糖とコーヒーミルクがあったのだが、使わなくてもよかったのか」
(え、ええええええええ~~~~~~!?)
 自らの勇み足を嘆くシャルロット。この思い出が、文字通り苦々しく残ったのだった。


「では、装備は以上ですね?」
「各国代表候補生の分も合わせて、全てです」
 旅館から離れた一角では、学園関係者が明日納入される予定の専用機の試作パッケージや一般生徒の使う装備品の搬入がチェックされていた。
既に現物が届いているもの、明朝に届く予定のもの。全てがチェック終了し、教師達にも安堵の表情が浮かぶ。……だが、それは心底の安堵ではなかった。
「ふう、ようやく終わりましたね。明日一日、何も無いといいのだけれど」
「無理ですね。――本日、篠ノ之束が目撃されたそうです。おそらくは……クラス対抗戦や学年別トーナメント以上の混乱になるかと」
「はあ。……しかし、何故博士がここに来たんでしょうね?」
「さて。……だが、天災に対して我々が出来るのはただ一つ。……通り過ぎるのを待つしかないでしょう」
 一人の教師の声と共に、落胆と諦観が広まる。……そして、彼女達の想いを尻目に。――天災は動き出していた。


「さてと。暇だねえ……」
 海岸の一角では、怪しげな女性が一人たたずんでいた。名を、篠ノ之束。天災といわれる科学者であり、世界各国が行方を追い求める人物である。
「……」
「ん、ご苦労様」
 そして、そんな束の元に近づく影があった。地面は砂浜でありながら足跡を残さず、束に近づき――片膝をつき、臣下の礼をとる。
そして、その影は自らが担いでいたものを地面へと置いた。――それは、正八面体の水晶のような物体。
それを見た束の声は、感謝ではあったがどこかどうでもよさそうな空気を含んでいた。
「……じゃ、もう良いから戻りな。ここは、束さんだけで十分だからさ」
「しかし、何やら蠢く虫がいるようです。その露払いでも――」
「必要ないさ。……変えられるものなら、変えてみろってかな」
「……はい」
 影は、すっくと立つと自らの手をかざした。その翳した手を中心とし、まるで空間を切り取ったように黒い穴が開く。
「では、ご武運を」
 長い黒髪を三つ編みにした、うねる蛇のような文様のついた黒い鎧と純白のローブのような衣を纏う女性――ティタン。
彼女は自らの主である篠ノ之束に一礼すると、去っていったのだった。


「香奈枝、まだ起きてるの?」
「うん……。明日の見直しをもう一度、ね」
 生徒達に振り分けられた部屋の一つでは、香奈枝が倉持技研より届いた白式の資料を点検していた。
既に他の女子は就寝している為、襖を閉めて外に面した広縁(室内縁側)での作業である。
「ねえ、そこまで気負わなくても良いんじゃないの?」
「そうなんだけどね。請け負った以上は、しっかりとやりたいから」
「……くれぐれも、無理はしないでよね? ――お休みなさい」
「うん、ありがと」
 ルームメイトに微笑むと、香奈枝は表情を引き締めてまた資料に向かい合う。それは一夏のためだけではない、自分のためでもある。
――その表情は、真剣そのものだった。
「ふう……。明日は、平穏無事に終わってくれますように」
 その願いが、あっさりと裏切られるなど夢にも思わずに。
――否、彼女にとっても人生を大きく左右する一日になるとは知らず。香奈枝は十分後に作業を終え、床に就くのだった。




 米国、ハワイ州オアフ島沖合い。現地時間、七月六日午前十時(日本時間、七月七日午前五時)のこの場所で。
沖合いに浮かぶ太平洋艦隊所属の航空母艦の甲板上に、一機のISが出現した。――それは。
『ナターシャ・ファイルス、準備は良いか?』
「OK。いつでも行けるわ」
(――行くわよ、ゴスペル!!)
「La…………♪」
 歌うような声と共に、白銀のIS――米国第三世代型ISの一つである銀の福音――シルバリオ・ゴスペルが飛翔した。
その外見は、全身を銀色の装甲が覆い、頭部に一対の翼を生やした天使のようであり。銀の福音と名づけられたのもそれに由来する。
「ターゲット、確認……ファイア!!」
 その天使を狙い、10機の戦闘機――F-15イーグルの部隊が空対空ミサイルを放つ。それも一発ではなく、合計20発。だが。
「La……♪」
 それらの火線を、まるで踊るように回避していく。そして、最後は余計な宙返りまでつけての回避だった。
「第二陣、放て!」
 そして、イーグルから次のミサイルが放たれた。一見は、先ほど放たれた20発と同じように見えるが。
「へえ、あれが新開発の高速ミサイル……。加速力を最大限に高めた、ISに『当てる』為のミサイルね。でも……」
「La……♪」
 ナターシャ・ファイルスと銀の福音は、先ほどよりも段違いに速いミサイルでもまるで苦にしなかった。
そして、ミサイルを全て回避した銀の福音は空母の甲板近くに空中停止する。その視線の先には。
「バルカン・ファランクスA……」
 空母の自衛力といえるCIWS(近接戦闘システム)バルカン・ファランクス。
20世紀には既に搭載されていたそれの、アドバンスタイプ――改良型である。
椿ほのかが学年別トーナメントで使用した『クラッシャー』と同じ、40ミリ機関砲を束ねた兵器が銀の福音を狙っていた。
そして、一気に弾丸が放たれる。しかもそれは、空一面を覆うような広域攻撃――第二次大戦期のような、弾幕の雨だった。
これでは、幾ら機動性に優れた銀の福音といえど回避は不可能――と思われるほどの攻撃だったが。
「さあ、上空へと行きましょう。――貴方の好きな、空へ!」
「La……」
 福音が、まるで瞬間移動したように範囲外へと逃れた。今のは、トップスピードの速さとそこへ至るまでの時間の短さ――加速性能の実験。
目標に逃げられたファランクスAの模擬弾が、空しく海へと散っていった。
「ふふ」
 楽しげに笑うナターシャ・ファイルズ。そしてそこに待っていたのは――文字通りの、ミサイルの雨だった。
旧式とはいえ、海対空、空対空ミサイルがこれだけ密集して放たれれば回避は不可能だった。――あくまで『回避』は。
「さあ、見せてあげましょう。――銀の鐘の、もう一つの使い方を!」
 翼のように展開されていたスラスターが止まり、羽毛にあたる部分が展開される。――まるで砲口のように。
「銀の鐘(シルバー・ベル)……さあ、散りなさい!」
 その羽毛が圧縮エネルギー弾へと変わり、全方位に放たれる。福音に迫らんとしたミサイルは、全てその圧縮エネルギー弾によって撃墜された。
かろうじて避けた物も、爆風と破片によって誘爆させられる。ミサイルの爆発による轟音と閃光が、空を覆いつくし。
そしてそれらが終わった後。その空間には、60近いミサイルを放たれて『被弾さえ』していない空の王者がいた。それを見た観測所では、歓声や笑顔が乱れとぶ。
「予想通りの性能だ。……素晴らしいな」
「ええ。これならば中東に存在する『連中』を全て相手取っても優勢です」
「マッハ2を超える超音速巡航能力、36の目的を同時攻撃可能な攻撃力、そして何より濃密な火線を完全回避した加速力やあの機動性能……。
これら全てを、パッケージの使用無しで実現出来たことは、大変に喜ばしいことだ」
 観測所の中心部に立つ、一際大柄な白人男性――マサイアス・トランス。米軍のISに関する総責任者である彼は、今このハワイ沖での実験の宋責任者だった。
ちなみに一年三組に所属する米国代表候補生、マリア・ライアンも彼の管轄に入っている。
「現在開発中の高速パッケージならば、マッハ12は出せるとの事です。仮にイスラエルに配備すれば、東南アジアまでカバーできる計算になりますね」
「ああ。ファング・クエイクとの搭載高速飛行実験に成功すれば、戦力をより機動的に活用できる。
……だが、まだ遠い。――目標は、白騎士。そしてプロフェッサー・シノノノなのだからな」
「ええ。だがそれも、今や決して届かない目標ではありませんよ」
 ――笑う米軍幹部達。だが、その部屋の天井で一匹の小さな鼠が走り出したのには気がつかなかった。
金属の皮膚とステルス性能、高い集音機能を持つ、何故かおむすびの模様の鼠には。


 現地時間、七月六日午後一時(日本時間、七月七日午前八時)のハワイ沖。先ほど実験を終えて帰還した銀の福音が、データチェックと整備のために格納庫にいた。
「ファイルズ、具合はどうだ?」
「ええ、ノープロブレムよ」
 整備担当者の男性――40歳、独身――が、ナターシャ・ファイルズに声をかける。彼女が纏ったまま、福音の整備は行われていた。
「そうか。だけどよ、整備中までISを纏う必要はないんじゃないのか?」
「ISは長い時間装着する事により、いっそう操縦者との絆を深めるの。これも、必要な事なのよ」
「そうかいそうかい。まあ、整備には問題ないけどな」
 本当は、ナターシャが銀の福音を収納したがらないためであるのだが。それを知っている整備の面々は驚きもなかった。
かつてあるIS操縦者が「お前、福音と結婚したらどうだ?」と冗談半分に言ったら「出来るなら、それも選択肢の一つかもね」と冗談とも本気ともとれる態度で返され。
ほとんどの者は苦笑いし、一部の男性が意外すぎるライバルに絶望したりもしたのだが。……閑話休題。
「さて、と。終了だ。これでまた、存分に飛べるぜ」
「ええ。そうね。じゃあ、イーリの準備が出来るまで……っ!?」
 その瞬間、銀の福音がいきなり機動体勢に入った。ハンガーに固定されたままでも、この体勢を取るのは普通ではあるのだが。
「おいファイルズ、急ぎすぎだぞ。まだ実験開始まで時間が……おい!?」
 何処かのんびりした整備担当者の声が、一気に緊迫の色を帯びる。――銀の福音が、ハンガーを破壊したために。
「ど、どうしたんだファイルズ! お前、一体……いや、違う!?」
 その動きは、何処かナターシャとは違っていた。今銀の福音を動かしているのは、彼女ではない。直感的に、彼はそう理解した。
「ふぁ、ファイルズさん!?」
「ど、どうしたんですか!?」
 そして、他のスタッフ達も異変に気付く。だが、何も返事はなく。――事態は、米軍にとって悪い方向へと動き出していた。


「どうした! テロリストか!?」
 士官用食堂で昼食をとっていたマサイアス・トランスがやってきた時、既に管制室は悲鳴と困惑で満ちていた。
「し、銀の福音が……暴走しています!」
「何だと!? ファイルズ! 応答しろ、ファイルズ!」
「どうしたんだよ、ターシャ!?」
 画面の先では、銀の福音を纏った女性――ナターシャ・ファイルズが必死で食い止めんとするスタッフを引き剥がしていた。
先ほどは別行動だった現米国代表のイーリス・コーリング――先ほどナターシャが『イーリ』と呼んだ女性――も呼びかけるが、返事がない。
「コーリング、福音を抑えるぞ! 外に出られては、ファング・クエイクでは追いつけん!」
「了解!」
「だ、駄目ですっ! 福音……出てしまいます!」
 そして。――格納庫の扉が開かれ、銀の福音は一気に飛翔した。
「は、速いっ!!」
「だ、駄目だ……もう、追いつけない!」
 超音速巡航可能なIS・銀の福音は更に加速を続けた。あっという間に、レーダー範囲からも消えうせてしまう。
「福音に追いつけるものはいないのか!? それと、福音の進路予想を出せ! 空母のダメコン(ダメージコントロール)も忘れるな!」
「だ、駄目です! 現在のわが軍の装備では、超音速巡航の福音に追いつける機体は……」
「進路予測……このままのコースですと、日本近海に向かう見込みです!」
「ダメージは……格納庫に多少の損傷あれど、それ以外の箇所、および艦載機の損傷はありません!」
「……日本か、我が軍が駐留する地域であればまだ幸いというべきかもしれんな。
――在日米軍の所属ISに通達をだせ。銀の福音の静止、そして確保。……最悪の場合、福音のコアだけでも構わん!」
「……!」
 トランスの苦渋に満ちた声は、その場にいた全ての人間の総意だった。ナターシャ・ファイルスを見捨てたくなどない。
だが、銀の福音の能力を万が一、都市破壊に向けられれば。米国にとっても日本にとっても、途方もない災厄となる。
故に、操縦者の生死は問わない。それが、トランスの出した結論だった。
「……准将、一つよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「IS学園に、対応を任せるというのはどうでしょうか?」
「IS学園に?」
「はい、たった今届いた情報と、それに基づく分析なのですが……」
 歩み出た参謀の一人が、わずかに声のトーンを落として『たった今届いた情報』を口にする。――その内容は、トランス以下全員を驚かせるものだった。
「……貴官は、今回の一件がプロフェッサー・シノノノによるものだというのか?」
「はい。日本時間の昨日正午頃、プロフェッサー・シノノノがIS学園一年生の臨海学校宿舎に出現したという情報が届きました。
その後の足取りは不明ですが、銀の福音の進路予測、そして謀ったかのようなタイミングからすれば、その可能性もあると判断しました」
 その参謀は、自信に溢れた表情で提案した作戦を述べた。参謀とは、入ってくる情報を整理し、それに基づいた作戦を提案する仕事である。
その提案を受け入れるかどうかは、責任者であるトランスに託された。――そして。
「良かろう、貴官の提案を受け入れ、銀の福音拿捕に対してIS学園に協力を要請しよう。――IS委員会、政府にもそう伝えろ」
「はい!」
 トランスの即断と共に、暴走した銀の福音への対処が始まっていった。――ある者達の『予定通り』に。


「あーら、久しぶりじゃない。久しぶりに、どう?」
「オーケー。俺のビッグマグナムが、久しぶりに大噴火を起こすぜ!」
 同時刻、ハワイ・オアフ島の一角。――島の中でも最も治安の悪い地域で、互いに絞まりのない笑顔を浮かべる一組の男女が下品な会話を繰り広げていた。
共にアングロサクソン系で、ハワイでは何処にでもいるような顔立ちや服装の男女。周囲が羨望の視線やからかいの言葉を送るが、まるで無視している。
そして、二人が連れ立ってホテルに入り個室に入った途端……。絞まりのない笑顔は、無表情へと変化した。まず口を開いたのは、女性。
「それで、米軍はどうなっているの?」
「こちらは、予定通りさ。――銀の福音は、動き出した。そちらはどうなっているんだ?」
「ええ。スーニーからの情報ではこちらも予想通りよ」
「マオ・ケーダ・ストーニーか……。カコ・アガピ会長秘書がしばらく前に動いたのは、このためだったのか」
「そうだ。カコ・アガピに中国の港の使用許可を得させ、そしてそこからカコ・アガピが西太平洋の公海上に所有する無人島までのルートを確保するための、ね」
 女性は、何の躊躇いもなくあっさりと男性の言葉を肯定した。……それが『受け取った代金』の内に入っている故に。
「そしてルートを確保して……今回の一件か」
「そうよ。――こちらの『予想』通りにすすんだならば、IS学園による銀の福音迎撃は失敗する。
そしてその代わりに『偶然にも中国から太平洋に向けて渡航中の、カコ・アガピの所有するドール部隊』が銀の福音を迎撃。
そのまま、銀の福音を止める。――そして、ドールの性能の高さとIS学園の不甲斐なさを世界中に公表する」
「しかし、そう上手くいくものかな?」
「さあ。まあ、どうでもいい事ね」
 この二人は、ゴウやケントルムのような人間ではない。カコ・アガピに通じている、外部協力者――単なるスパイである。
だからこそ、この作戦――正式名称、ゴスペル・ブレイクの成否など、どうでも良かったのだ。既に、報酬は支払われているのだから。
「オーケー。では、特等席で見させてもらおうじゃないか、銀の福音とIS学園、そしてカコ・アガピが演じるこの大喜劇をね」
「――さて、どうするの? 今すぐ出ていったら、不審に思われるかもしれないけど。ああ、盗聴器などが無いのは、確認済みよ」
「生憎、俺の好みはアジアンビューティーでね。……だが、そっちがその気ならそれも悪くは無いが」
「……ふふ。まあ、良いわ。大噴火を見せてもらうとしましょうか」
 互いに淫靡な笑みを漏らし、女性は男性へと抱きついた。……なお、二人がその部屋を出たのは六時間後であったという。


「艦長、福音は動いたとのことです。――こちらの『予定』通りなら、数時間後、作戦は開始されるでしょう」
「そうか。では、動き始めるとしようか」
「了解しました。――巡航速度で移動を開始する! 各員、配置に付け!」
 何処の領海でもない海域――公海。その一角である太平洋の深海では、潜水艦の中で蠢く者達がいた。
先日中国領の軍港を出発したこの潜水艦は、現在この海域に留まっている。そして、今――日本の領海に向けて、動き出していた。
「艦長。いよいよなのだな?」
 そして、それに呼応するように格納庫より通信が入った。それは、髭面のドールを纏った男。
「そうだ、ドレイク・モーガン。お前達に、福音を任せる。出来れば撃破と操縦者の確保が望ましいが、手に余るようならば殺害も構わん。
最低でも、コアだけあればいいだろう。」
「おう」
 怒りと、待ちに待った機会を得られた歓喜とが混じった表情でドールを纏う男――ドレイク・モーガン。
その身を包むドールには、あちらこちらのアタッチメントにガトリング銃、ホーミングミサイル、拡散型のマイクロミサイルなどが備え付けられている。
緑や黄土色などの混合……いわゆる迷彩色の装甲を持つそれは、これ見よがしの、重火力装備のドールであった。
そして、その下の格納庫では、赤い頭部装甲と本体より長めの長銃が特徴的なドール達が一糸乱れない列を作って並んでいた。
それをもし更識簪が見たら、思わず目をそむけるであろう代物。それは――。


 潜水艦の別の一角では、ゴウやケントルムの『同類』が三名集まっていた。その一人が、他の者へと呼びかける。
「フィッシング、ヤヌアリウス。……君達は、篠ノ之束だ。あいつによる『捕捉』は――紅椿受領後辺りになるだろう。連絡を受けたら直ぐに動いてくれ」
「おうよ。あの肢体を味わえるのは、楽しみだな」
「フィッシング。……愉しむのはいいが、あの女は最後には俺が殺すんだ。それだけは忘れるなよ」
「おうよ」
 フィッシング、と言われたスーツ姿の白人男性はニヤリと笑った。顔立ちは人並み以上ではあるが、その笑いは卑しさと欲深さを隠し切れないでいる。
一方、ヤヌアリウスと言われたアジア系の男性――こちらは首から下は真っ黒なローブに覆われている――は殺意と憤怒を込めた視線だった。
ヤヌアリウスは白目部分が小さい、いわゆる三白眼といわれる目つき。そして、隠そうともせずに殺気をばら撒いていた。
それを見つめるのは、龍と虎を刺繍した鎧を纏う、少年といっていい年齢の男性。フィッシングとヤヌアリウスを、穏やかな目で見ている。
だがその穏やかさは、親和や友愛の穏やかさではなく。己が望む結末を確信しているが故の、傲慢さの隠れた穏やかさ。
(フィッシングは魔術師的な能力と剣術の使い手、ヤヌアリウスは様々なドールを複数同時併用可能な能力者……。篠ノ之束といえど、十分に捕らえられるだろう。
懸念があるなら……共に能力を『貰った者』同士だからな。連携に難があるだろうが……まあ、目的が途中まで同じ以上は頑張ってもらうしかないか)
(いいのか、我らの力を使わなくても。我らを解放すれば、ISなど……)
 鎧を纏う少年に語りかけた声は、他の者には聞こえなかった。何故ならそれは、少年のうちにいる者からの声であったために。
(君達の力は、まだだよ。――それに、今こいつらに力を見せるのは得策じゃないさ)
(それならば、我らはそれでよい。だが……)
(ああ。この『間違った』世界を建て直す。その為に、ここにいるんだからね)
 カコ・アガピより派遣された、鎧を纏う少年は自己の内に潜む存在にそう呼びかける。そして、これこそ。オペレーション・ゴスペルブレイクの始まりだった。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.044509887695312