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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 繋いだ絆、それが結ぶものは
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/06/30 12:20
 皆様のおかげをもちまして、閲覧者数が30万まで到達しました。
この超スローペース作品を閲覧してくださった、全ての皆様に感謝いたします。



 楽しい自由時間も終わり。夕食時間が近づく中、生徒全員が浴衣に着替えていた。
「これが浴衣、ですの……少々、薄くはありませんか?」
「でも、過ごしやすい服みたいだね」
「――よし。帯の高さが少し高いような気がするが、まあこんな所だな」
「そうね。これで十分だと思うわ。体型的なものもあるからね……」
 海外出身者と一部の日本人の生徒――私を含む、浴衣に不慣れなクラスメート達の着付けをやっていた篠ノ之さんや鷹月さんがそういって満足げに笑みを浮かべた。
ただ、欧米人――具体的にはオルコットさんやデュノアさん、フランチェスカ辺りはやっぱり腰の位置が高い。だから、帯の高さも少し高くなっている。
「そろそろ夕食の時間だし、行きましょうか」
「そういえば、席順って決まってたっけ?」
「いや。テーブル席と座布団席に分かれているらしいな」
 そうだったわね。昼食は各自バラバラでとるようになっていて、しかも全てテーブル席だったから問題はなかった。
でも今回は一学年全員が、大広間で食べるスタイル。座布団の前に置かれた御膳で食べられない人もいるから、テーブルも必要なのよね。
「そうですの。ではわたくし達はテーブル席に参りましょうか」
「い、いや待ってくれセシリア。俺は、座布団席に座るつもりだぞ?」
 いち早くオルコットさんが織斑君を捕まえる。だけど、珍しく彼はそれを拒んだ。
「ど、どうしてですの!?」
「どうして、って。やっぱり、テーブル席は不慣れな娘達の為に空けておいたほうがいいだろ。
最近は、日本人でも正座の出来ない人もいるし。出来る奴は、座布団席で座るべきだろ。なあ、箒?」
「え? ……あ、ああ、そうだな。ま、まあ『私達』は道場で正座などにも慣れているしな!」
 私達、を強調して言った。織斑君は『あれ、何故箒は私達、を強調しているんだろうか?』って顔をしているけど、自己アピールなのは見え見えだ。
「で、ではわたくしも座布団席に座りますわ!」
「だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですわ! このセシリア・オルコット、正座に初挑戦してみせますわ! ですから、隣に座ってくださいまし!」
「お、おう」
「じゃあ、僕はオルコットさんの逆隣に座るね」
「な、何!?」
 オルコットさんの勢いに押されたのか、織斑君はあっさりと流される。
そしてちゃっかりと逆隣をキープするデュノアさん、出遅れて悔しそうな篠ノ之さん……といういつもの流れだった。 
「じゃあじゃあ、私とかんちゃんで~~。おりむーの前をゲットだ~~」
「ほ、本音……!」
 そして、更識さんと本音さんもやってくる。……さてと、私は今のうちに彼らから遠く離れたテーブル席に座るとしよう。




「うわあ……昼のお刺身も美味しかったけど、こっちもおいしいね」
 俺の右隣に座っているシャルが、そう言ってカワハギの刺身を味わっていた。まったくだな。それにしても、豪勢過ぎるぜ。
「カワハギの刺身と肝吸い、それに山葵は本わさだしな」
「本わさ?」
 あ、シャルが知らないのも無理はないか。昼間は、説明し忘れてたし。
「これが、本物の山葵なんだよ。学園の刺身定食は、セイヨウワサビとかワサビダイコンを混ぜてあるんだ」
 勿論、それでも十分に美味しいんだが。香りとかでは、やはりこちらの方に軍配が上がる。
「じゃあ、これも食べてみようかな。昼間は、付けなかったけど」
「そっか、挑戦するのはいい事だぞ――って、おい!?」
「え? ――っ!?」
 山葵に挑戦しようとするシャルだったが、俺は慌てて止めようとした。彼女が、山葵の塊を口に入れようとしていたからだ。
だが、間に合わず。その顔が、涙目になってしまった。
「だ、大丈夫、でゅっちー?」
「お茶、飲む……?」
「う、うん。ありがとう、らいじょうぶだよ……」
 のほほんさんや簪も、心配そうに見ているが……シャル、大丈夫が「らいじょうぶ」になってるぞ。
「ううう……」
 そして、問題はもう一つあった。左隣のセシリアも、少し前から、足をもじもじさせながら呻いている。やっぱり、正座がきつかったんだろうか。
「セシリア、膝を崩したらどうだ? 俺や箒ならまだしも、セシリアには辛いだろ?」
「……! い、いいえ。せっかく日本に来ているのですから、正座というのもやってみなければなりませんわ!!」
「そ、そうなのか。じゃあ、席を替われば――」
「お断りします」
 さっきの発言といい、今といい。何でこんなに気合が入ってるんだろうか。うーむ。
「……大きさでは負けている箒さんには、これ以上負けていられませんわ」
 と思っていたら、小声でそんな事を言ったのが聞こえてきた。といっても、『箒さんには~』よりも前がよく聞こえなかったが。
でも、正座で箒にセシリアが対抗するのか? 努力はかうが、そりゃ分が悪すぎる。あっちは、小学校入学以前から正座をしていた奴なんだから。
クラス代表決定戦時点での、俺とセシリアよりも差があるぞ。下手をすると、現在の俺と現役時代の千冬姉レベルの差だ。
「うーん」
 しかし席を移るのも駄目、膝を崩すのも駄目となると……。正座のままで食べるしかないか。
でも、とてもじゃないがそんな余裕は無さそうだし……。
「あ。それじゃあ、食べさせてやろうか?」
「た、食べ……!? ぜ、是非お願いしますわ!」
「お、おう」
 何か知らないが、やけに興奮しているようだ。やっぱり刺身が楽しみだったんだろうか。
「え、えええ!? ず、ずるいよ一夏!」
「し、仕方がないだろ。それにシャルには以前、焼き魚定食を……」
「わー! わー!!」
 何故かシャルが、膨れていたかと思うと突然わめきだす。はて、シャルも正座がきつかったんだろうか?
「かんちゃん、もっと出て行かないと、でゅっちーやせっしーに押されっぱなしだよ~~?」
「わ、私は……」
 一方、のほほんさんと簪も何やら話していたが。はて、何の話だろうか?


「さて、と。じゃあセシリア、行くぞ」
「は、はい」
 カワハギの刺身の真ん中の辺りに山葵をちょっとだけ乗せて、刺身を丸める。こうする事で、山葵が直接舌に触れないようにするためだ。
そしてそれを醤油に付け、セシリアの口元に運ぶ。丸められたままの刺身が、セシリアの口に入り、彼女はゆっくりと噛んでいる。
「どうだ、セシリア。美味しいか? 昼間は、俺が食べちゃったけど……」
「さ、最高ですわ!」
「そ、そうか」
 イギリス生まれで、今まで刺身を食べた事がなかったらしいセシリアにも、この美味しさが分かってもらえたのなら幸いだ。
和食は今や世界中に広まっているらしいけど、刺身――加熱していない魚を食べる事には抵抗ある人も多いらしい。
昼間はそう言って、俺に全部くれたんだよなあ。
「あーーっ! セシリア、織斑君に食べさせてもらってる! ずるーーい!」
「いいなー、じゃあ次は私にもしてよ!」
「私も私も!」
「いっ!?」
 だが。セシリアに食べさせるのをみて、周囲の生徒達が我も我もと寄ってくる。……ど、どうしようかこれ。
「――貴様ら、まだまだ体力が有り余っているようだな。なんなら、夜の砂浜を連続ダッシュさせてもいいぞ?」
 だが、その時。少し離れた食事を取っていた千冬姉が、よく通る声で『警告』をしてきた。
その途端、騒がしかった空気が一変する。鶴の一声、という奴だろう。
「せ、セシリア。それじゃあ、この辺で……」
「い、一夏さん、中途半端ですわよ……」
 千冬姉の手前、大声こそ出さなかったが。思いっきり不満そうに俺を睨んでくる。うーん、中途半端なのは俺も解ってるんだが、な。
「そうだ、セシリア。ちょっと良いか?」
「何ですの? ……! ……そ、それは本当ですの?」
「……ああ。後で、俺の部屋に来てくれ」
 こっそりと、セシリアだけに耳打ちをする。ちゃんと食べさせてあげられなかったからな、別のものを味わってもらおう。




 夕食も終わり、皆がお膳を持って立つ中。何人かの生徒が、立ち上がれないでいた。
「ううう……ひ、久しぶりに正座をしたら、足が痺れちゃった……」
「ぐぐぐ……」
 座布団席に座っていた日本人の生徒達のうち、正座で足が痺れた女子が立ち上がれないようだった。
「そういえば、セシリアは大丈夫だったのか?」
「だ、大丈夫ですわ……」
 一夏が、心配そうにオルコットさんを見ている。……明らかに、無理をしてるっぽいけど。彼に心配される彼女が、少し羨ましい。
「かんちゃん、正座に慣れてたのが仇になったね~~」
「ほ、本音……!」
 隣に座っていた本音が、私の心の『本音』を暴く。……そ、そう考えないわけじゃなかったけど。
「そっか。駄目なら、部屋まで送ろうと思ったけど、大丈夫なら――」
「あ……あ、足が痺れてしまいましたわ」
 一瞬で、ものすごく自然に倒れこむオルコットさん。本当に倒れたんじゃないか、って思うくらいの演技だった。
「だ、大丈夫か? なら俺が――」
「オルコットさん、僕が部屋まで運んであげるよ。――はい」
「お、お待ちなさいデュノアさん、私は……」
「――何かな?」
「ひっ!? な、何でもありませんわ」
 オルコットさんを抱えあげて、更に、反論する彼女を一瞬で黙らせたデュノアさん。
その目は『これ以上、一夏とイチャイチャさせないよ?』って目をしている。……ちょっと怖かった。
「そういえば、簪はあんまり食べていないな?」
「え?」
「そうだよー。結局、四分の一くらいは私が食べたし~~」
「う、うん……」
 突然話を振られて、びっくりしたけど。私は、確かに完食は出来なかった。美味しかったけど、少し量が多かったし……。
「かんちゃんも、もっと食べないと駄目だと思うけどな~~」
「本音は、お菓子を食べすぎだと思う……。虚さん、怒ってた、よ?」
「いいもーん、私はおっぱいとお尻にいくからー」
「ぶっ……」
 とんでもない事を言って胸を張る本音に、一夏が慌ててそっぽを向く。どうして本音は『太ってもいい場所だけが』増えていくんだろう。
色々努力している私はなかなか成長しないのに、全然努力していない本音だけが差を広げていく。……神様は、不公平だと思う。
「どうしたんだ、簪?」
「!」
 こっそりと本音を睨んでいると、一夏が顔を覗き込んできた。び、びっくりしたなんて物じゃない。今にも心臓が、口から出そうなくらい。
「な、何でも、ない……! い、一夏には、関係ない、から……」
「そっか?」
 ああ。どうして私は、オルコットさんのように素直に言い出せないんだろう。この学園に入学して、少しは変われたと思うけれど。
やっぱり、変えられない部分もある、よね。




「あ、宇月さん。明日はよろしくな」
「お、織斑君? え、ええ。こちらこそ、よろしく」
 旅館の廊下で、一夏と香奈枝が向かい合っていた。一夏は笑顔で、それに対する香奈枝は山葵を丸ごと食べたような表情である。
「それでさ、明日の件なんだけど。白式に、新しい武器とか積めるのかを試すんだよな?」
「簡単に言えば、その通りね。後は、データ取りの補助なんかもやるわよ。詳しい事は、このファイルに書いてあるわ。見てみる?」
「こ、今度な」
 香奈枝が取り出したのは『GX』の名を持つ月間漫画雑誌(小○館発行)ほどもある厚いファイルだった。それを見た一夏も、流石にたじろぐ。
「そう。そういえば、オルコットさん達は大丈夫だったのかしら?」
「大丈夫だろ。正座をしていて足が痺れる、っていうのは良くある事だしな」
「まあ……立てなくなるのは珍しいかもしれないけど、まあオルコットさんは正座初体験だから仕方がないわね」
「そうだな。……そういえば、箒の奴に対抗意識を燃やしてたな。他の事なら兎も角、正座で箒に対抗するのはちょっと分が悪すぎると思うんだが」
「そうね。……その原因、多分貴方だけどね」
 その通りではあるのだが、そもそもの『対抗意識を燃やした原因』が自分である事に気付かない一夏。そんな彼に対して、香奈枝は苦笑いしかない。
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、何も。そういえば篠ノ之さんって、いつごろから正座をしていたのかしら。やっぱり、小学校の頃から、とか?」
「いや。小学校入学以前からだぜ」
「へえ。小学校入学以前から、ねえ。それじゃあ、オルコットさんが勝てるわけないか……」
「ああ」
「……あ。それじゃあ、貴方と篠ノ之さんってそんな昔から知り合いだったの?」
「……え?」
「だって、小学校入学以前から正座をしているのを見たって事は。その頃からの知り合いだったんでしょ?」
「……あれ?」
(俺と、箒が出会ったのは確か――)
 わずかな齟齬に、一夏が過去を思い返そうとする。自身と箒が出会ったのは何時であったか。それは――。
「おー、一夏か。今日は彼女とデートか?」
「……ブローン君。それはありえないか……ら?」
「は? 何でそうなるんだよ、クラウ……ス?」
 と、一夏の思考と香奈枝の言葉を打ち切る驚きを伴いクラウスが出現した。驚きの原因、それは。
「クラウス、それ、ライフル銃か? 何で銃を持ち歩いているんだ?」
「ああ。ちょっと大事な用事で使うんだ」
 クラウスがライフル銃を抱えていたからだった。
一夏も香奈枝も、普通なら持っている事自体を驚くのだろうが、保持ではなくて『今、持ち歩いている事』に驚いている。なぜなら。
「使うって、おい。学園と違って、ここには射撃場なんてないだろ?」
「幾らなんでも、危険じゃないの?」
「いや、使うのは銃器じゃなくてスコープの方だ。銃に備え付けてあるタイプのスコープだから、銃ごと持ってきただけだよ。弾も入っていないしな」
「ふうん。で、何で大浴場のほうに向かうの? 今は、三組の生徒が入っているはずだけど」
「男のロマンだな」
 そう言いながら、いい笑顔を浮かべるドール使いの少年。その笑顔は、一夏に回答を直感させた。
「……ちょっと待て。おいクラウス、お前まさか」
「ふははは! では俺は理想郷(アルカディア)に向か」
「はいそこまで」
「う」
 高笑いしていたクラウスが硬直すると、そのまま倒れた。寝息をたてている事からすると、寝ているらしい。
その後ろには、一夏と同じ男性IS操縦者にして香奈枝の幼なじみ、安芸野将隆がいた。
「……麻酔銃、か?」
「ああ。古賀先生特製、腕時計型麻酔銃だそうだ。十年以上続いている探偵アニメを基に作ったらしいけどな」 
 腕時計を弄くりつつ、副担任の作った代物を解説する将隆。それは、何処か苦笑いの混じったものだった。
「い、良いの? ルームメイトに、そんな事しても」
「心配するな、織斑先生公認のいつもの事だから」
「千冬姉の?」
「そういう事だ。……にしても、珍しいペアだな」
 将隆が、一夏と香奈枝を見ながらそう言う。その表情にあるのは、先ほどまでの苦笑いではなく……。
「まあ、確かに俺たちが二人だけというのは珍しいかもしれないけどなあ」
「まあ、そうね」
「……カナちゃんも、か?」
「ん、何だって?」
「……いや、何でもない。邪魔したな。――んじゃ、俺はこれで失礼する」
 クラウスの首根っこを引っ張りつつ、将隆が去っていく。その表情に込められた真意は、一組の二人には察せられないままだった。


「ぐふふふ、ここぞまさに理想郷……ぐー」
「ったく。相変わらずだな、こいつは」
 自分と担任教師の部屋にIS用ワイヤーで縛り上げたクラウスを置き、部屋に置かれた麦茶を飲みながら、将隆は苦笑いを浮かべていた。
――だが、その顔が曇る。彼が思い浮かべていたのは、先ほどの一夏と香奈枝の姿。
「……いやいや。何考えてるんだ俺は。昼間、凛から変な事を聞いたせいだ」
 そういって、頭を振って思考を追い出そうとするが。一度浮かんだ考えは、少し前に聞いた言葉と共により強く思い浮かんでくるのだった。


『あ、あの、将隆君。一昨日、香奈枝と買い物に行ったという噂なのですが、本当ですか?』
 その言葉は、夕食前、彼の幼なじみである久遠と旅館の廊下で出会った時に聞いたものだった。
昼間には『久遠が自身に好意を持っている』と聞かされ、将隆にとっては会い辛い人物だったのだが。
『え? ……いや、たまたま同じ場所に行っていたけど、一緒だったわけじゃない』
『そ、そうなのですか? 良かった……』
『良かった?』
『い、いいえ! 何でもないのです!』
『そ、そうか。……そ、そういえば久遠、ロブはどうしたんだ?』
『ロブは、先ほど真田さんと西木さんに連れられていきました。……たまには私から離れて別の人と触れ合うのも、大事ですからね』
 その言葉の裏には久遠のある危惧があったのだが。将隆も、そこまでは読めなかった。その代わり、彼には爆弾が落とされる。
『あ、あの。香奈枝とは、最近親しいのですか?』
『へ? え、ええっとまあ、会えば挨拶はするけど、な』
『そう、ですか。――貴方は、香奈枝の事をどう思っているのですか?』
『……え?』
 どう思っているのか。一夏ほど鈍感ではない彼には、久遠の質問の真意が理解できた。
自分が、香奈枝を恋愛対象としてみているのかどうか。彼女はそれを問うているのだと理解した。
『む、昔馴染みだよ。幼なじみ、とも言えるかもしれないけどな。お前やロブと同じだよ。……そ、それだけだよ』
『そう、ですか』
 笑顔を浮かべながら返答する将隆。だが彼は、自身の笑みが引きつっていた事には気付いていなかった。そして、それを見せられた久遠は表情を消す。
『……先ほど、私のクラスのゴールドマンさんが言っていたのですが。香奈枝は明日、白式に関するサポートを行うようです』
『あ、ああ。それは俺も聞いた。何でも、倉持のスタッフ――うちのクラスの加納の姉が頼んだって話だったな』
『ええ。――ですが倉持は、実は香奈枝を餌に織斑君を釣り上げる腹だというのはご存知ですか?』
『え、餌?』
『はい。香奈枝は、専用機持ちや幼なじみ以外では、織斑君と最も親しい生徒です。そんな彼女を取り込む事で、織斑君の争奪戦に優位に立とう。
それが、倉持の狙いである……と。それが、ゴールドマンさんの話でした』
 餌とはどういう意味なのか。困惑する将隆を尻目に、久遠はそのまま言葉をつむいだ。その、目的は。
『……何だよ、そりゃ。一夏やカナちゃんを、道具扱いかよ』
 将隆は、素直に激昂した。だが、久遠はその言葉に顔色を変える。
『カナちゃん、ですか。……私の事は久遠、なのに。彼女はそう呼ぶのですね』
『!』
 将隆は、思わず口を塞いだ。だが、一度吐いた言葉は決して消す事は出来ない。
そして、少し前にクラスメートのサラ・ディークシトに言われた言葉が思い浮かんだ。

『前々から思ってたんだけど。何か安芸野君って、私達に対して他人行儀だよね。
幼馴染の一場さんとか、デュノアさんは呼び捨てなのに。トーナメントで戦った唯のことも、まだ赤堀さんって呼んでいるし』

あれから一部の女子を名前呼びするようになったものの、今回のそれは意味が違う。久遠が、どこか悲しげな表情をしている故に。
『……香奈枝に対してだけ、ですか。……やっぱり、貴方は』
 久遠が将隆に背を向け、走り去る。そんな彼女に対し、将隆は声さえもかけられないでいるのだった。


『あら、安芸野君じゃないの』
『こんばんわ』
『……あんたは』
 その時、久遠と入れ替わるように現れた女子がいた。一人は四組の女子で、ゴウの協力者であるロシオ・マルティン。
そしてもう一人は、将隆も多少は見知った顔であり……そしてその裏では『ケントルム』と名乗る少女だった。
『先ほど、一場さんがいたようですが。どうしたのです?』
『何かあったの?』
『いや、別になんでもないさ』
『そうですか。……そういえば貴方は、聞きましたか?』
『何をだ?』
『一組の宇月香奈枝さんなのですが。織斑君と、最近親しくなっているという話です』
 ロシオが、まるで天気の話でもするような声で発した内容。それは、将隆にとって青天の霹靂だった。
『一夏と、カナ……彼女が?』
 先ほどの衝撃もあり、平静ではない将隆にはその言葉の裏に潜む悪意を読めない。そして、その悪意はどんどんと潜り込んでいく。
『……へえ、そうなのか』
『おや、思ったより冷静ですね』
『私なんて、びっくりしたのに』
『……俺には、関係のない話だからな』
 そういうと、将隆は踵を返し去っていくのだった。背を向けた二人の少女が、どんな表情をしているのか見ることもなく。


「俺には……カナちゃんが一夏とどうなろうと、関係ないよな」
 香奈枝・一夏らと別れた将隆は、自室へと戻ろうとしていた。そんな中、同じクラスの女子達と出会う。
「あ、将隆君だ! ねえ、ちょっと良いかな?」
「せっかくだし、そこで少しお話しない?」
 同じクラスでも、それほど親しくはない女子だった。いつもの将隆なら、多少は付き合うところであろうが。
「……ごめん、ちょっと具合が悪いんで、また、な」
 女子たちの誘いを断り、去るのだった。残された女子たちの顔に浮かぶのは――困惑と懸念の色。
「ねえ、将隆君、何か変じゃなかった?」
「ええ、確かにそうね……。何かあったのかしら?」
 そして少女達の懸念も関係なく、将隆は自室の襖をやや乱暴に開けた。そこには、まだ眠っているクラウスがいる。
「ぐへへ。そんなに焦らなくても、全員相手をするさ~~」
 夢の中で妄想を楽しんでいるクラウス。それは、将隆にとって珍しい物ではなかった。だが――今日はそれが、勘に触る。
「……!」
 無性に、自身の中に滾るこの思いを開放したくなる。……だが、将隆はそれをやらず。
結果として、澱のように自身の中に溜まっていくのだった。




「……では、間違いないのだね?」
「はい。――博士の姿、私は確認しましたわ。てっきり、学園が呼んだスペシャルゲストなのかと思っていましたけれど」
「……ジョークにしては、笑えないな。まあ、三年前までならばそれもありえたんだが」
 ここは、教員用の部屋の一室。一年生の担任や副担任の過半数が集まるこの部屋に、セシリアはいた。
足の痺れも取れた彼女は、一夏に伝えられた『約束』を果たすべく彼と千冬の部屋に向かったのだが。途中で、彼女達に捕まったのである。
その理由は――彼女と一夏が、篠ノ之束の姿を確認したため。その情報は昼間、一度学園で捉えていたのだが。
捜索網も何も捉えられなかったため、再びセシリアに情報の確認をしていたのである。
「……そうか、それで以上だねオルコットさん。――すまなかった」
「いいえ。では――失礼しますわ」
 古賀水蓮に一礼して襖をゆっくりと閉じ、教師達の部屋を去るセシリア。その表情は、一夏には見せたことがないほど硬く――そして真剣なものだった。
「篠ノ之博士……三年前に行方不明になったはずの方が、まさかここに来るなんて思いもしませんでしたわ」
 あの時は突然過ぎる遭遇で驚いたものの、篠ノ之束は超国家法に基づき、手配中の人物だった。
インターポールの国際情報照会手配書、あるいは行方不明者手配書に近いこれは、発見次第情報を該当組織に齎す義務を生じさせている。
――もっとも『いかなる国家・組織・宗教などに所属しない、完全なる独立地帯』であるIS学園はこの例外なのだが。
やはり、相手が相手だけに、その情報収集をやらないわけにはいかなかった。セシリアの得た情報は、既に世界を駆け巡っていると言っても良かった。
「……どうして、博士はここに来られたのでしょうか? 箒さん、もしくは織斑先生関連ですの……?」
 恋する十五歳の乙女ではなく、誇り高き戦士の表情でもなく、英国の重要人物の一人として、深謀深慮を巡らせるセシリア。
……目の前にいたクラスメートに気付いたのは、10秒後だった。
「っ!? の、布仏さん!? ど、どうしましたの?」
「んー、せっしーが何処行ったのかなーと思って~」
「ちょ、ちょっとこちらに呼び出されただけですのよ。もう、終わりましたわ」
「そっかー。それじゃ、戻ろうかー」
「い、いいえ、まだ大切な用事がありますのよ!」
「さっきの、えっちい下着の事ー? それとも、レリエルの香水ー?」
「!」
 先ほどまでとは違い、恋する十五歳の乙女になったセシリア。先ほど彼女は一夏に呼ばれた為に『万が一』に備えて準備をしていた。
それが本音曰く『えっちい下着』と香水なのだが。共に見抜いたのは、この一見はおっとりとした少女だったのである。
「むふふー、せっしー、何を期待しているのー?」
「ぱ、パパラッチのような真似はおよしなさい! はしたなくてよ!」
「良いではないか、良いではないかー」
 セシリア自身からすれば必死の、横からみれば滑稽な言い争いが続く。……セシリアが本音を振り払って一夏の元に迎えたのは、それから三分後だった。




「……どう思う、ゴールディン先生?」
 そんな外の喧騒とは裏腹に、教師達の部屋では険しい顔の女性達が意見を交し合っていた。
「あの博士が、わざわざここに来る理由ですか。……織斑先生ならば、今までにもあって然るべきです。なのに、それはない」
「となれば――篠ノ之箒、か?」
「しかし、何故彼女に? 今まで、篠ノ之束が妹に接触したケースはない筈です」
「……強いて言うならば、明日が彼女の誕生日のようだが。プレゼントでも持ってくるのかな?」
 冗談じみた古賀水蓮の言葉だが。周囲の顔は、それに対して顔を強張らせるだけだった。
「プレゼント、ですか。……普通の姉から妹へのプレゼントならば、問題はないでしょうが……」
「それがどんなもので、どうやって渡す気なのか……。懸念は耐えませんね」
「……織斑先生に聞ければ、一番早いのでしょうけれど」
「新野先生、それは虎穴に生肉を持って入るような物だ。……彼女からの情報提供が望めない為に、私達は独自で動いているのだから」
「ええ」
 同僚を。それも、決して嫌っているわけでもなく、敵対している訳でもない織斑千冬を除外した、一年生教師の話し合い。
それは、当人達にとっても辛い物だった。だが、千冬は束に近すぎる。故に、この話し合いには参加させられないのだった。
「それに、そういう意味では一番つらいのは山田先生だろう。なあ?」
「え、あ……は、はい。……そう、ですね」
 そしてそこには、千冬のクラスの副担任である山田真耶の姿もあった。千冬にもっとも近い教師である彼女も、やはり気は重そうだったが。
――その理由は、同僚達とは少々異なっていた。昼間、ゴウより渡された手紙。IS委員会(の一部)より届けられたその内容は、簡潔に言うとこうだった。

『織斑千冬を監視し、その情報をこちらに届ける事』

 勿論、IS学園教師である真耶にそんな義務は生じない。ただ、多少はISの腕に長けているとはいえ、彼女は千冬や束とは違う。普通の、人間だった。
故に、それが心に暗い影を落とし。結果、その手に抱くファイルを胸に押し付けながら黙っているしかなかったのだった。




「おい、一夏。ちょうどいい頃合だ、風呂に入ってこい」
「え。でも、ちょうど皆揃ったし、今から……?」
「時間がない。こいつらは引き止めておくから、早く入って来い」
「はいはい……」
 一方。千冬と一夏の部屋では、彼と特に親しい女子の大半が集められていた。先ほど本音の追撃を振りほどいたセシリアも、その中にいる。
そして一夏がタオル等を持って部屋を出ると。千冬の目が、いつもの教師のそれから一変した。
……もっとも、ビール缶を二本開けている時点で既に教師ではないという指摘もあるのだが。
「さて、はこれくらいでいいだろう。そろそろ肝心な話をするか」
「肝心な話?」
「何なんです、千冬さん?」
「僕達五人にだけ、ですか?」
「一体……?」
 箒と鈴、一夏の幼なじみコンビが怪訝そうな表情をし。シャルロットと簪も、不思議そうな表情になったが。
「お前ら、あいつのどこがいいんだ?」
 あいつ。その単語が指し示す人物を悟った五人の少女達の顔が、一斉に赤くなる。そんな少女達を楽しげに眺めながら、千冬はまず左端の箒へと視線を向けた。
「では篠ノ之。お前から言ってみろ」
「わ、私は別に……以前より腕が落ちているのが腹立たしいだけです。だから、剣の腕を鍛えただけです」
「ほう。それで、剣の腕は戻ってきているのか?」
「は、はい。あの頃とは比べづらいですが、入学直後とは別人のようにはなりました」
「ふむ……凰、お前はどうだ?」
「あたしは、腐れ縁なんだし……ま、まあクラス代表同士だし、一組と二組とで合同授業も多いですから!!」
「クラス代表同士、か。安芸野や更識も同じなのだがな? ……ではオルコット、お前はどう思っている?」
 本音を言わない一夏との幼なじみコンビを苦笑いしながら見つめ、すまし顔のセシリアへと視線を向ける。
「わ、わたしくはクラス代表としてしっかりしてほしいだけですわ」
「おや。では、織斑はクラス代表に相応しくない点があるのか? まあ、アイツは『枯れた技術』という言葉を理解していなかったが」
「ちちち、違いますわ! その、えっと……」
「まあ織斑は、お前に比べればまだまだ不勉強な部分も多いだろうな。さてデュノア、お前はどうなんだ?」
「僕―――あの、私は……優しいところ、です」
「ほう。しかし、あいつは誰にでも優しいぞ?」
「そ、そうですね……。そこがちょっと悔しいかなぁ」
「まあ、解らないでもない。それがあいつの長所でもあり、短所でもあるからな」
「長所でもあり短所、ですか?」
「そうだ。例えば、お前達がそれぞれ別の場所で危機に陥ったとする。お前達自身ならば、どうする?」
「それは――その、危機の状況によるんじゃないんですか?」
「そうですわね。危機の内容、わたくし達の状況、その他にも色々と考慮すべき要素がありますわ」
「それだけじゃ、回答できません……」
 国家代表候補生達は、それぞれ回答を拒否した。箒も内容は理解できているのか、口出しは無い。そしてふむ、と納得した千冬が。
「そうか。お前はどう思う? ――ボーデヴィッヒ」
「!?」
「盗み聞きするくらいなら、入ってこい」
 観念したように、ラウラ・ボーデヴィッヒが姿を表した。盗み聞きされている事を悟れなかった五人は、微妙な表情になる。
「さて、ボーデヴィッヒ。質問は聞いていたな? ――そうだな、お前の預かる部隊。
シュバルツェア・ハーゼにおいて、要救出者が、違う場所で二名発生した、と仮定する。――お前の回答を聞かせろ」
「は、はい! まず、どの危機が最も急を要する事態であるのか、他に友軍はあるのか、それに危機とは何なのか。
あらゆる状況が考えられる為、その言葉だけでは返答が出来ません」
 その質問を投げかけられるやいなや、ラウラがその問いに答えた。
「それがこの状況での模範解答の一例だな、ボーデヴィッヒ。だが一夏の奴は、こう問われれば迷わず『全員を助け出す!』というだろう。
自分の力量、その時の状況など他の事情を一切省みることなく、な」
「……なるほど。日本語では取捨選択、でしたかしら。一夏さんはそれが出来ない……という事ですの?」
「ああ、あいつには無理ね。特に、仲間だとか友達だとか、自分の大切な人が絡むケースではね」
「ああ。無理だな」
 各人が頷く中。千冬は、ラウラへと視線を向けた。彼女の一夏に対するコメントが無い中、その視線が鈴に向く。
「ふむ……そういえば凰、お前は今日戻ってきたのだったな?」
「は、はい。学園によらず、こっちに直接戻ってきました」
「そうか。――ではいい機会だ。オルコット、凰、ボーデヴィッヒ。握手をしろ」
「え?」
「は?」
「き、教官?」
 英中独の代表候補生が、目を丸くした。正確には、残る三人――箒・簪・シャルロットも目を丸くしているが。
「以前のトラブル、まだしっかりと決着をつけていなかっただろう。――和解の仲介だ。凰も戻ってきた事だし、ちょうどいいだろう」
「は、はあ。そりゃ、まあそうですけど……」
 教師の顔をたてる、という点からすればやらないわけにはいかない。だが、やりたくはない。鈴は、そんな表情だった。
「あの、わたくしとボーデヴィッヒさんのそれはドイッチさんがやっていましたけれど。織斑先生が引き継いだ、という事ですの?」
「え、そうだったの、セシリア?」
「……何? ドイッチが、か? そうなのか、ボーデヴィッヒ?」
「は、はい。確かに、あの男がそんな事を言っていました。正式なものは、中国の代表候補生が帰ってから、とのことでしたが」
「ふむ……ならば、ちょうど良い。ここでやっておけ。――そうだな、それぞれ握手でもしてみろ」
「は、はあ……」
「わ、解りましたわ」
「や、Ja(ヤー、ドイツ語ではい、の意味)」
 三人共に、不本意そうな表情だったが。それぞれ、握手をする。……そして。
「――よし、以前の遺恨はこれでおしまいだ。……といっても、お前達は納得できんだろうな?」
「千冬さん、それじゃ意味ないんじゃな――痛!?」
「今は、教師として仲裁をしている。……まあ、握手は形式的なものだ。ここからが、本題だ」
「……本題とは、何ですの?」
「この臨海学校終了後、期末テストが始まる前までの一組と二組の合同授業で、あの戦いを正式に許可する」
「あの戦いって……ひょ、ひょっとしてあたしとセシリアが、ボーデヴィッヒと戦うって事ですか!?」
「察しが良いな、凰。その通りだ」
 にやり、と豹のような笑みを浮かべる千冬。いったんは仲裁をしておきながら、そもそもの原因を穿り出すようなやり方に六人の女子は戸惑いしかない。
「どうだ、オルコット、凰。受けてみるか? お前達も学年別トーナメントで鷹月やハミルトンと組んで、連携の重要さを理解しただろう? それとも……」
「雪辱の機会を、先生から与えてくださると言うのであれば、受けない理由はありませんわ」
「ま、しょうがないわね。……やってやるわよ」
「そうか。ではボーデヴィッヒ、お前は――」
「教官からの申し出ですが、それはお断りします」
「!」
 その言葉は、室内の空気を一変させた。あのラウラが、敬愛する千冬の言葉を受け入れなかった事に、他の女子も驚きを隠せない。
「ほう。何故だ?」
「今更戦っても、私には特にメリットがありません。……それよりも、私は」
「……?」
 ラウラが、今までにない表情で千冬を見る。口に出せない思いを必死で悟って欲しいとばかりに。だが、千冬にはそれが解らない。
そもそも、ラウラの思う『約束』とは出鱈目でしかないのだから、千冬には思いの種類は判っても意味が解るわけはなかった。
「おいボーデヴィッヒ、一体……?」
「――では、失礼します」
 いつもの鉄面皮に戻ると、ラウラは部屋を出た。千冬ならば止められたであろうが、彼女は止めようとしない。 
今の自分では、それしか出来ないとはいえ。それがラウラにとって、決して望ましいとはいえないのは判っていたから。
「はあ。やはり、あの人のようには上手くいかんか」
 わずかに落胆した様子で、そのまま、ビール缶を呷る千冬。その飲みっぷりは、先ほどまでよりも苦々しそうだった――と全員が感じるものだった。
(……こんなだからこそ、束が出てきて動き出している他の教師達と共に動く事も出来ないのだろうな)
 千冬は、自分以外の教師達が『篠ノ之束出現』を知り動いているのを知っていた。だが、彼女には何も出来ない。
故に珍しくも自己嫌悪を交え、更にビール缶を開ける。だが、その時生徒達の怪訝そうな視線が集まっている事に気付いた。
「あの、織斑先生。あの人、って誰です?」
「私が昔、日本代表だった頃にメンタルトレーナーをしていた人だ。……ああ、篠ノ之は会った事があったか?」
 珍しくも苦々しい表情でため息をつく千冬。そして箒も、その言葉で千冬が誰の事を指しているのかを理解した。
彼が千冬のメンタルトレーナーをしていた事は、既に知っていたから。
「は、はい。海原裕さんの事ですよね」
「そうだ。……鵜の真似をするカラスだったな。……さて更識、最後になったがお前はどうだ? 織斑の事を、どう思う」
「……私にとっても、彼は強い人だと思います」
「ふむ。何処が、だ?」
「私が、彼やデュノアさんと闘った時。――本当に大切な事に気付かせてくれたのは、彼とドレさんでした」
「本当に、大切な事……」
 簪の言葉に反応したのは、箒だった。彼女もまた、あのときの一夏の言葉を聴いている。
「ちょっと、何の事よ?」
「ああ、鈴さんは聞いていなかったんですのね。準々決勝の時、一夏さんとデュノアさんが、更識さんと戦った時の事なのですけど……」


「なるほど、ねえ。……一夏らしいわ」
「そうだな。……あいつは、妙に『女』を刺激する所があるからな。お前らも、それにやられたのだろう?」
 事情を聞かされた鈴は苦笑いを浮かべ、他の女子にもそれは伝染していった。
だが先ほどまでのからかうような表情を取り戻した千冬に、少女達はそっぽを向く。そしてそんな中、一人の生贄が選ばれた。
「そういえば更識。お前は以前、一夏と一緒に雨の中を帰寮した事があったな。どうだったんだ?」
「え? あ……あの時の一夏は、その……落ち込んでいた私に、強引だったけど、や、優しく抱きかかえてくれました」
 ゴウに負けた直後。アリーナ付近で一夏(+シャルロット)と出会った簪は、白式を纏った一夏に連れられて帰った事があった。
その時の事を、思い出したのだが。恋する乙女達の回路は『強引だったけど、優しく抱きかかえてくれた』という単語を聞き逃さない。
「や、優しく抱きかかえてくれた!? な、何だそれは!」
「ど、どういう事ですのそれは! き、聞き捨てなりませんわよ!」
「簪! あ、あ、あんたまさか――」
「え? っ! ……ち、違うの、あの、その」
「やめろ馬鹿者、それでは喋るに喋れないだろうが」
「違うよ皆、それはね……」
 簪にくってかかるシャルロット以外の少女の頭を、千冬の出席簿が一閃した。そしてシャルロットのサポートにより、何とか誤解は解けた。
というよりも、そもそも『一夏が簪を抱きかかえて帰寮した』のは全員が知っているはずなのだが。
「す、すまん。……そういえば、一夏からも事情を聞いたのだったな」
「あ、あの時の事でしたのね。し、失礼しましたわ」
「ご、ごめんね」
「う、ううん、いいよ……」
 誤解はとけ、先ほどよりも自然に謝罪が成立した。もっとも、一夏に抱きしめられて飛んだことへの羨望は(シャルロットを含めて)消えていないが。
「やれやれ、あいつも高めの評価を得ているものだな。……まあ、あいつはそれなりに役に立つ。
家事も料理もなかなかだし、マッサージだってうまい。マッサージもかなりの物だ。そうだろう、オルコット?」
「え、ええ……」
 先ほど、一夏に特別に呼ばれたセシリアは彼のマッサージを受けていた。
なお、その際にマッサージではない別の事を想像していたのは、決して一夏には明かせないセシリア的黒歴史である。
「まあ、あいつと付きあえる女は得だな。……どうだ、欲しいか?」
「「「「「くれるんですか!?」」」」」
「やるかバカ」
 期待を込めた言葉を、一刀両断する千冬。そのあまりの言い切りぶりに、女子の勢いも止まった。
「何を落ち込んでいる。女なら、奪うくらいの気持ちで行かなくてどうするのだ。自分を磨けよ、ガキども。
それを怠れば、案外、ここにいない誰かに掻っ攫われるかもしれんぞ? たとえば――宇月とかな」
「い、いやそれはないでしょ、ち――織斑先生」
「そ、そうですわ! そもそも宇月さんは、一夏さんに対して恋愛感情を有していないようですし……」
「そんなもの、どう転ぶかなど解らんさ。たとえばオルコット、デュノア、更識。お前達が、今の様子を今年の三月ごろの自分に聞かせたとする。
おそらく過去のお前達は、そんな事はありえないと否定するだろう。それと同じだ」
 その言葉に、今年になって一夏と出会った三名は黙る。否、幼馴染み二人も。
「……宇月も、敵に回れば案外と強敵になるかもしれんぞ?」
 からかうような千冬の言葉。彼女は実際には、そんな可能性は無いだろうと思って軽い冗談のつもりであった。
しかしその一言に、女子達は香奈枝と一夏について考えて始めていた。今年も含め、四年連続で同じクラス。寮では隣同士。
専用機持ちでも幼なじみでもないが、何かと親しい。暴走しがちな自分達に比べ、一夏に対しては冷静で普通の対応がとれる。
一夏自身も、香奈枝に対しては気軽に話しかける。一時期疎遠だったが、最近はまた話す機会が増えてきた。
そして一夏から聞いた話では、この三日間限定だが、白式の専門整備担当になったという。
(ま、不味いではないか!! も、もしも宇月が一夏に好意を持ってしまったら……!!)
(き、危険すぎますわ! 白式の開発元である倉持技研からも、白式の事を一日限りとはいえ任されるようになったのですし……!)
(そ、そういえば中学からの知り合いでもあるんだし。あたしのアドバンテージが、かなり消されてる……!?)
(そ、そんな事は無いと思うけど……。ど、どうなるかなんて解らないんだし……ひょ、ひょっとしたら……?)
(本音が言ってたけど……。クラスでも一目置かれているらしいし……それに、私じゃまだまだ不利だし……)
(やれやれ。……知らぬは当人達ばかりなり、か)
 見る見るうちに顔色を変えたり不安そうになる教え子達に、千冬も苦笑する。
「あ、あの。い、一夏はどう思っているのでしょうか? まさか、宇月の事を――」
「さて、な。だが、現時点ではお前達と同一線上だろうと私は思っている」
「そう、ですね……。同級生、ってカテゴリーです……」
「違うぞ、更識。――仲間、というカテゴリーだ」
「仲間……?」
「さっきの言葉では無いが。まあ、何かあれば守ろうとする存在といった所か。現状は逆ばかりだがな。
むしろ、一夏の奴が迷惑をかけてばかりいるからな……」
「そう、ですね……」
 一番長く、IS学園での一夏と香奈枝の繋がりを見てきた箒が同意した。
セシリアとのクラス代表決定戦に協力した事から始まり、訓練のサポートもしていた時期があった。
香奈枝が打鉄弐式に関わり始めて疎遠になったとはいえ、今なお学園内でもトップ級の親しさを持っている事には変わりはない。
「まあ宇月はありえないにせよ、ぐずぐずしていると誰かが織斑の心を射止めるかもしれん。
繰り返しになるが、自分を磨くことだな。そうすれば、織斑の方から告白をしてくるかもしれんぞ?」
 からかい半分で、煽るような言葉を吐いた千冬だが。その反応は、予想とは違っていた。
「い、一夏が……?」
「わ、わたくし達に……」
「告白ぅ?」
「う、うーん」
「先生……たぶん、ありえないと思います……」
「……そうか、すまん。私が悪かった」
 五人全員が顔を曇らせ、千冬は僅かに引いた。同時に、育て方を間違えたかと不安にもなるが。
「でも、さっきの話だけど。宇月さんは、将隆の方なんじゃないのかな?」
 ……だが、シャルロットの何気ない一言で場の流れは一変した。
「何? 安芸野と宇月が、そういう関係だったのか? 奴らは、私と一夏、あるいは鈴のように昔から知り合いだったらしいが」
「確証の無い、単なる噂なんだけど。宇月さんが、将隆を好きだったんじゃないかって……」
「あれ? でも、うちのクラスの一場もそうだって噂だけど?」
「ほう……? 三組担任の新野先生達も呼んで、詳しい話を聞くか」
 そして話題は香奈枝と将隆・久遠の事へと移っていく。
故に、その時の香奈枝と将隆と久遠の背中に同時に悪寒が走ったのは、気のせいでも何でもなかった。


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