・今回は試験的に三人称を混ぜてみました。……如何でしょうか?
・今回はほぼオリジナル話です。
「うーん。結局は引き分けになったのね」
「はい。そして一年一組のクラス代表は、織斑一夏に決定したようです」
私は、自分が勝ち取った部屋で報告書を読んで笑みを浮かべた。その横には、頼りになる幼馴染みが控えている。
「うん。今年の一年生は、面白そうな人材が揃ってるわね」
「そうですね。男性でありながら唯一ISを起動できる者、織斑一夏。篠ノ之博士の妹、篠ノ之箒。英国代表候補生、セシリア・オルコット……」
そして一年生の特筆すべき人材を、私よりも一つ上の幼馴染みがピックアップする。
十数人を挙げて……一人だけを外してくれたのは、彼女なりの気配りだろう。
「どうしますか? もう動かれるのですか?」
「んー、二学期からでも良いかなと思ってたんだけど。今からでも良いかな。まあ、あまり目立つのは良くないけどねえ」
彼に関しては問題が表面化してから動こうと思ったけど、まあ良いだろう。……あら?
そこで何故『どの口が言いますか』的な表情を見せるのよ。私、これでも自重するべき時には自重する女よ?
「失礼します~~」
あら。もう一人の、私よりも一つ下の幼馴染みが来たわね。
「来たわね。……早速、追加報告をしなさい」
「はーい」
姉がそういうと、彼女はノートを開いた。ゆっくりとした動作だけど、これがいつもの彼女。
「おりむーは、とうへんぼく~~。しののんは、ツンデレ~~。せっしーは、ちょろいさんで~~す」
「……なるほどねえ。そういう人間関係なのね」
「今ので解ってしまうのが、少々悩ましいですが……」
こらこら三年主席。理解が早い方が良いでしょうが。
「それで、ISに関してはどうなの? 織斑君は、倉持の専用機貰ったって聞いたけど」
「おりむーは、まだまだです~~。代表戦も、しののんやかなみー達が手伝ったみたいですけど~~」
「かなみー? 資料は、あるの?」
「えっと、かなみーの資料は~~これだよ~~」
それは、さっきのピックアップ人物には入っていなかったような。
「あら、一般校からの入試突破なの」
「それも、織斑君と同じ中学からの入学ですね」
そう言って渡された女生徒の資料に、私達は目に通す。……ふむ、宇月香奈枝か。覚えておきましょう。
「……ねえ。あの子は、どうなの?」
私は最後に、どうしても気になった事を聞いた。同じ学校にいながら、会話も出来ていない。
同じ髪、同じ血、同じ姓を持ちながら。織斑君と女生徒たちよりも遠い、あの子の事を。
「ん~~。あれを、一人で完成させるって言ってました~~」
「……一人で、ですか」
整備科所属、三年主席である彼女は呆れたような表情をした。
本当なら「無理ですね」と言い放つかもしれないが、あの子がそんな事をしようとする理由を知っているから。彼女はそんな事は言わない。
「……」
……う。そんな厳しい目で見ないでよ。……解ってるわ、貴女の言いたい事は。
「ねえ。あの子の事、お願いね」
「はーい」
結局私は、あの子と同い年の幼馴染みに頼むしかなかった。あの二人が同じクラスだったら、私も少しは安心できたのだけどね……。
「お嬢様……一つ、提案があるのですが」
「ん、何?」
……。なるほど。どちらかと言うと、裏のやり方ね。
「正直、あまり良いやり方ではありませんが」
「……いいえ、やってみましょう。……アンテナは、多い方が良いものね」
私は『苦渋の選択』と書かれた扇を広げた。
「これが、御影……ですか」
俺の目の前には、黒い装甲に包まれた細身のISがあった。俺に与えられる専用機・御影。話は聞いていたが、実際に見るのはこれが初めてだ。
そこにはISの技術者が二人控えている。自衛隊施設に来てから何度もお世話になった、岩元安奈さんと鴨志田麻里さん。
二人ともIS学園のOGで、22歳なのに御影の開発スタッフらしい。
「色々と聞きたいだろうけど、最適化を始めるわよ」
「あ、はい」
麻里さんに言われて、俺は黒いISに背を預けた。そのまま装甲の一部が変形し、俺の体格に合わせて少しだけ変わっていく。
「ふむ……最適化も問題なく進んでいるな」
男っぽい喋り方の安奈さんが満足げに俺と御影を見ている。そして、御影が変形を終え。立体ディスプレイに『最適化スタート』と出る。
「そのまま三十分ほど経てば、最適化は終わるから。リラックスしていて頂戴ね」
「え……このままじっとしていなくちゃいけないんですか?」
「君にそこまで求める気は無い。ここから出てもらっては困るが、そこにおいてある君の私物で時間を費やしても良いぞ」
「私は可愛い物を眺めていれば一時間くらいは過ごせるけど、貴方は無理だものね」
……ああ。だから、格納庫なのに俺の部屋にある筈の携帯ゲーム機や漫画が置いてあったのか。最初見た時はわけが解らなかったぞ。
「……あ。終わったみたいね」
「うむ」
「――あ」
俺が漫画を読んでいると、閉じていたディスプレイが再び現れ『最適化終了』と出た。さてと、これを押せばいいんだっけ?
「しかし、立体ディスプレイのボタンを押す、って言うのも変な話だよなあ」
どういう原理なのか解らないが、スイッチを押す。すると御影が光に包まれ、その形態が変化していく。そして――。
「……忍者?」
手や足を見ると、まるで忍者のような形態へと変化していた。草履のように平べったい足の裏の装甲、鎖帷子を模したような関節部。
頭には鉢金のような物もあるし、手には籠手もある。姿見を持ってきてもらって見てみると、その印象は更に強まった。
「うーむ。まさかこうなるとはな」
「どう、将隆君。身体は大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「よし。じゃあ、次は待機形態に一度戻してみてくれ」
「はい」
確か『ISを解き放つようなイメージ』って言ってたっけ? まあ、イメージは人それぞれらしいけど。
「……」
解除へ向けて、集中する。――そして。
「お」
空気の抜けるような音と共に、御影によって上がっていた俺の視点が元に戻った。……ん?
「足首に、何か……あ」
俺の右足首に、輪っかのような物体がついていた。腕輪……じゃなくて、足輪とでもいうのか?
「成功したようだな。アンクレットになったか」
「アンクレット?」
足輪の事を、そういうようだ。……まあ、何にせよ。問題なく成功したのだから、喜んで良いんだろうな。
「ステルス機能って、どんな物なんですか?」
打鉄を使って学んだ基本動作を御影で体験し終わり、俺はちょっと気になっていた事を聞いた。
その言葉を聞いた途端、安奈さんの目が光る。この人、実は大の説明好きで。いつもこうなるんだよなあ。
「うむ、説明しよう。御影のステルス機能とは、複合機能だな。消音機能・光学迷彩・認識攪乱機能などを合わせた物だ」
「認識攪乱機能?」
「簡単に言うと、物体の出している『色素』の情報を違う情報に書き換える能力だ」
……え?
「ISのハイパーセンサーは、現存するどの観測能力よりも優れた性能を有している。それは理解しているな?」
「はい。確か視覚・聴覚といった人間の感覚の延長線上に当たる奴だけじゃなく……。空間の歪みだとかも認識可能なんでしたっけ?」
「そうだ。御影は、それらに対して誤情報を出す事が可能なのだ」
「えーーと……」
とりあえず、説明を聞いたら更に意味が解らなくなりました。
「たとえば、この白いボタン。これは、物体が光に照らされて出す色素の情報を視覚が認識する事により『白い』となるわけだが。
たとえば、これを赤いライトで照らすとどうなるかな?」
「赤くなる……んですかね?」
「まあ『赤』の度合いにもよるが、色が変わって見えるだろう。御影の持つ認識攪乱機能。
それは、他のISが受け取るべき『白い』と言う情報を書き換える事が出来るのだ」
今のたとえで考えると。自分は白色である、と言う情報の代わりに赤色である、って情報を出せるって事か。
それを受け取った側は、白を赤だと勘違いする……のか? 御影の場合は……
「御影がそこにいる、っていう情報を受け取れなくするって事ですか?」
「その通りだ。結局の所『見る』という行為は光に当たった色素の情報を視覚が受け取る事だ。それを受け止められなければ『透明』になる。
もっともこれは、IS同士でしか通用しない技術だがね。他の存在に対しては消音技術や光学迷彩で対応する事になる」
「当然ながら、レーダー波や各種センサーにも反応しないようになっている。まあ、操縦者次第なのだがね」
「操縦者次第?」
「いくら御影がステルス性能に優れていても、迂闊に動いたりすると相手に見つかるって事よ」
「なるほど。――でも、そもそも。なんで他のISに間違った情報を伝える事が出来るんですか?」
そんな事が出来るなら、ISの戦闘は騙しあいになるような気がするが。今まで学習してきた感じだと、そうじゃないようだし。
「実は、これは元々副産物だ。コア・ネットワークの強化を考えていた時に、机上の空論として出てきた代物でね」
「……コア・ネットワークの?」
IS同士の、繋がりみたいな物だっけ? それを強化するうちに、嘘を教える事が出来るようになったって事か?
「悪く言えば、御影は他のISを騙す事が上手いのだよ」
物凄くイメージが悪いんですが。まあ、安奈さんはこういうのを気にしない人だから仕方が無いか。
「ちなみに、これが御影の限界ではないぞ。その延長線上として、ISと操縦者のリンクを阻害する必殺装備【石屋戸塞ぎ】もある。
……まあこれは、滅多な事では使えないシステムだが」
そういわれて書類を見てみると、思わず唖然とした。これに必要な出力を出そうと思えば、ステルス機能は勿論、少しの加速さえ出来なくなる。
有効範囲は近距離から中距離。相手にある程度近づき、絶対安全な状況、あるいは土壇場で使うしかない。
テストでは、打鉄二機が一時間近くその状態になったらしいが。結構リスクも高いシステムのようだった。
「これって、絶対防御も止めちゃうんですか?」
操縦者を守るISの最後の砦。これまで止めちゃうんだろうか?
「流石にそれはモンド・グロッソ協定違反だ。軍事用ならば兎も角、現時点でそれは無いよ。
あくまで機動や武装操作に阻害を齎すといった程度だ。その間に攻撃し、敵の絶対防御を発動させてエネルギーを削るという仕様なのだがね」
あくまで攻撃補助の武装って事か。ただ軍事用ならば、って事は……。まあ、この話題にはこれ以上触れない方が良さそうだ。
「それにしても、えらく細身の機体ですね。この御影ってISは」
元々女性用、と考えてもやけに細い。ISは元々がシールドエネルギーと絶対防御があるから、それほど重装甲である必要は無い。
だが、それにしてもこれは細身だ。装甲もあるが、それ以外の部分がかなり表に出ている。
比較対象がガード重視の打鉄だったから、よけいに軽装甲であるように感じられるのもあるんだろうけど。
「貴方も知っての通り、ISにはシールドバリアーがあるから。それに、この御影の装甲は特殊合金で出来ているからコストが高くて……ね」
「PICがあるとは言え、機体重量は軽い方がいいのだしな。その分を機動性に回しているのだよ」
ロボットアニメで言うと、機動性重視のリアル系か……。さてと、武装は……。
「実弾兵器ばっかりですね」
「冷却機能や、更に消音システムに光学迷彩。何より認識攪乱機能……ステルス機能は、かなりの出力を必要とする。
コアからの出力を、武装に回す余裕が無かったのでな」
『白騎士』が使ったといわれる荷電粒子砲のように、大威力の火器はない。もうその荷電粒子砲でさえ小型化されてるって話なのに。
最大の威力を持つ武器が振動ブレード『小烏(こがらす)』って辺りはどうよ?
「まあその辺りは、貴方が御影に慣れてくれれば追加できるわよ。そもそも、ステルス機能に慣れるだけで相当の時間が掛かるだろうし」
それもそうだな。そもそも、強い武器があったとしても俺が使いこなせるとは限らないし。
「よしっ……。じゃあこの『御影』を、しっかりと使いこなせるように頑張っていきます!」
やや虚勢気味ではあったが。俺は、しっかりと宣言するのだった。
「……平和だなあ」
クラス代表になってから、織斑一夏の日課はほぼ決まっていた。朝起きて食事を箒やセシリア達と取り、授業を受ける。
授業が終わった後は白式を駆り訓練、または篠ノ之箒と剣道の稽古。そして夕食後は、ISの勉強だった。そんなある日。
「箒? 探しモノか? 俺も手伝……」
「な、何でもないのだ! お、お前は復習でもしていろ!!」
ルームメイトが、何やら探し物をしていた。協力しようかとしたが、断られる。
「何なんだ、一体……ん?」
僅かに不満げに机に座ると、視界に奇妙な物が映る。よく見ると、机と壁の間に何かが挟まっていた。
「何だこれ?」
引っ張ってみると……白、そして薄いピンクと青に彩られた布だった。
「……あれ? これって――」
「――!! か、返せっ!!」
そして箒が瞬時に腕を伸ばし、その物体を奪ったが。一夏には、しっかりと記憶された後だった。
そして同時に先ほどの態度や、何故彼女が慌てて『それ』を奪ったのかも理解する。
「……あー。箒?」
「……な、何だ」
「ブラジャー、付けるようになったんだな」
場を和ませるジョークのつもりだったが。それは最悪のジョークだった。
「天誅ぅーーーーっ!!」
「どわああああっ!?」
好きな異性に下着を見られた恥ずかしさか、それとも今のジョークへの怒りか。瞬時に竹刀袋から竹刀を抜いた箒が、一夏へと斬りかかる。
慌てて鞄で防御するが、中学時代に全国優勝を勝ち得た剣はそれ越しですら強い衝撃を伝えてくるのだった。
「今日という今日は、性根をたたきなおしてくれる……!!」
「ま、待て箒! 俺は決して悪気があったわけでは……」
「問答無用!!」
何とか言葉での解決を目指すが、それは相手にその意思が無ければ全くの無意味であった。そして、じりじりと竹刀が一夏を押す。
「お、落ち着け箒! 俺はこんな物に興味は無い! だいたい、下着程度で今更動揺するか!!」
――静寂。自分は動揺しない、と一夏が言った直後。まるで音が消えたような静寂が訪れた。
「……箒?」
「そうか……。貴様は、こんな物、と言うほどに。動揺しないほどに女性の下着に触れた事があるという事か……」
「げっ!? ちょ、ちょっと待て箒!!」
一夏は自分の一言がどれほど迂闊であったのかを理解した。だが、吐いた言葉は二度と戻らない。
「一夏さん、ご一緒に夕食を……な、何をなさってますの!?」
しかし天佑か、セシリアが現れた。思わぬ救援に、一夏は一縷の希望を見出す。
「この不埒者を成敗している所だ!! ……ぬっ!?」
セシリアの登場で気がそれた箒の竹刀を、鞄を傾けて受け流し。そして、脇から逃走に成功した。
「ふう……」
ごく僅かではあったが、死の恐怖を感じるほどの死闘に体温は上昇し。それを冷まさんと、汗が出ていた。
それを拭わんと、手近にあったタオルを手に取り、顔に当て……
(ん? 何か変だな、このタオル……)
「……!! …………!! ………………!!」
「い、一夏……さん?」
一夏は違和感を覚え、箒は声にならない声をあげ。そしてセシリアは、自分の見たものが信じられないように一点を見ている。
「どうしたのよ、いった……あれ? 織斑君の手に持ってるの……え゛?」
「ぶ、ブラジャー? しかも何、あの大きさ……? スイカでも入れるの?」
「……え゛!?」
「…………」
その時。セシリアの横から部屋を覗いた1026号室コンビの放った一言が、一夏に真実を教え。セシリアの表情を消した。
箒が奪い返し、竹刀と入れ替わりにテーブルの上に置いた下着。それをよく確認しなかった一夏が、タオルと間違えて手に取ったのだが。
「一夏さん……まさか、篠ノ之さんの下着を盗もうとするとするなんて……」
「違っ!? 違うぞセシリア!?」
「そこまで欲望が抑え切れなかったのですね……。それでしたら、わたくしが何とかしてさしあげましたのに……」
「何言ってるんだセシリアーーーー!?」
セシリアは完全に暴走していた。とんでもない事を口走っている自分にも、全く気付いていない。
それなのに、実体化したスターライトやブルー・ティアーズの照準はしっかりと一夏を捉えている。国家代表候補生の訓練の賜物だろうか。
「……はっ! ちょ、ちょっと落ち着いてオルコットさん! 多分、貴女の考えてるような事態じゃないから!!」
「ちょ、ここじゃ幾らなんでもまずいって!」
我に返った香奈枝が必死でセシリアを止める。フランチェスカも止めてはいるが、一夏の処刑には賛成のようであった。
「……なるほど、織斑先生の下着を洗っていたのね」
「それならばまあ、納得しないわけではありませんが……」
「……ふん!」
そして。一夏の『自分は姉の下着を洗っていたので、女性の下着に対し耐性があった』という説明で事態は落ち着いた。
「それにしても、織斑君ってご両親がいなかったのね……」
「……」
一夏の両親不在を知らなかった欧州コンビは、視線を落とした。何故母親ではなく弟なのか、という疑問が生じたための説明だったが。
特に自身も両親を亡くしているセシリアは、先ほどの激昂が嘘のように暗い影を落としていた。
「まあ、誤解も解けたし。ご飯にしましょう。私も、お腹減ったし」
「そうですわね。……それにしても、織斑先生の下着を一夏さんが洗っているとは思いませんでしたわ」
ややわざとらしいが、明るく言い放つ香奈枝。そこまでなら良かったのだが。セシリアの一言が災いを招いた。
「……ほう。個人情報を漏らすとは、いい度胸だな織斑? そして貴様ら。聞いてはならない事を聞いてしまったようだな?」
廊下と部屋のちょうど境目から聞こえたその鬼の声に、全員が理解した。……今日は厄日だと。
「どうして、こうなるのかしらねえ」
香奈枝は達観したような声を漏らすが。当然、事態は好転するわけも無いのだった。
「あら、織斑先生。今から夕食ですか?」
「ああ、そうだ。今も一仕事終えた後だからな、飯も美味いだろう」
「一仕事……?」
食堂に向かう廊下の途中で、織斑千冬と山田真耶が出会った。同僚の『一仕事』に心当たりの無い真耶は、首を傾げるが。
「なあに、織斑と連中が騒いだだけだ。それで少々『説教』をしてきただけさ」
「そ、そうでしたか……」
『説教』の本当の意味を悟りつつも、愛想笑いを浮かべるしかなかった。
「それにしても、篠ノ之さんとオルコットさん……織斑君の周りで、何か重大なトラブルでも起こすんじゃないでしょうか?」
それは、クラス代表決定の言い争いから今までを見た彼女の危惧だった。何かあれば、彼らの立場が学園内の出来事では終わらせない。
世界でも二人しかいないISを動かせる男性。ISのコアを唯一生産できる開発者・篠ノ之束の妹。英国貴族にして、代表候補生。
いずれも国家レベルの大問題になりかねなかった。――だが、副担任の危惧を担任は一蹴する。
「まあ、その時は我々が介入すればいい。今の程度ならば、むしろやらせて置いた方が良いだろう。
――篠ノ之もオルコットも、中学時代は笑うどころではなかったからな。角が取れてちょうど良いさ」
「あ……」
真耶も、二人の事情は知っている。箒は、姉が篠ノ之束である為に監視生活だった。ある事件をきっかけにそれは悪化し。
他人と親しくなる前に転校と転入を繰り返し。性格は荒れ、力に溺れ。剣道で全国優勝という実績すらも誇れる物ではなかった。
そしてセシリアも、両親を二年前に亡くしている。それ以来、財産目当ての輩との対峙を余儀なくされ。
それらから自分を守る防壁が、あの誇り高さだったのだ。あの暴言が生まれたのも、それが原因の一つだとも言える。
――だが、今の二人は年相応の少女に戻っている。それが一夏との再会(もしくは出会い)が原因である事は、間違いなかった。
「でも、宇月さんは大丈夫なんでしょうか……? 二人の間に挟まれてますけど」
「なあに、あいつもある意味で特殊な奴だ。恋ボケしたあの二人を刺激せずに間に入れる、稀有な奴だよ」
「こ、恋ボケ……」
言い様に、思わず絶句するが。ある意味、言いえて妙でもあった。
「あいつはそれなりに場に入り込み、場が乱れればそれを纏められる力もある。まあ、少々短気なのが欠点だが。
如何しても駄目そうなら、さっきも言ったが我々の出番さ。そうだろう?」
「そう……ですね。生徒の自主性を信じて。でも、放任も駄目なんですよね」
いつもよりも引き締めた表情になる真耶。その表情を保てれば、生徒達からも親しみよりも敬意をはらわれるだろう……
と織斑千冬が思ったのは彼女だけの秘密である。
亡国機業。それは、ネット上で語られる秘密組織の一つである。一説には、20世紀半ばより存在するといわれるその組織。
国家・民族・思想・宗教などに左右されず。結成理由も、規模も、目的も。何もかも不明な組織。
ただ一つだけ確定しているのは。――その組織がネット上の妄想などではなく、実在しているということであった。
「来たわね」
その拠点の一つでは、その一員・スコールが、自らの知る最大の問題児を呼び出していた。
そこには、黒と銀。更に赤に彩られた一体のISが鎮座している。そしてその前にいるのは、笑っている一人の問題児。
「これが、そうなのか?」
「ええ、貴方のIS。名前は『Procursaotor』よ」
「プロークルサートル……。ラテン語で『先駆者』と言う意味か」
「ええ。それじゃあ、フォーマットとセッティングをやるから乗りなさい」
「おう」
スコールに促され、問題児はISに背を預けた。体格に合わせてフィットした機体は、そのまま初期化と最適化を開始する。
「始まるわね」
心なしか嬉しげなのが、ハイパーセンサーで解った。
(……それでも微妙なあたり、こいつが本心を隠すのが上手いって言うのが解るな)
そして初期化が終わるが。偶然にも同じ日に最適化と初期化を終えた御影と比べれは、それはかなりの重武装ISだった。
最強武装である大口径荷電粒子砲『イムペリウム』と近接戦闘ブレード『ワスターティオ』を標準装備として量子変換され。
ビーム砲の下部に高性能スラスターを繋げた筒状の一体形成ユニット『デーポルタティオ』を二つ背に纏い。
シールドにビーム砲を装備させた非固定浮遊部位『エクェス』と近接戦闘用防御部位『オールドー』を標準装備し。
他にも多数の火器が量子変換されており、その上それらを同時使用するための補助アーム『ミーレス』まであった。
「いいねえ、気に入った」
「それは良かったわ。じゃあ、早くそのISに慣れて頂戴。それと貴方のコードネームだけど……。
機体に合わせて『centrum』って言うのはどうかしら。ふふふ」
「ケントルム……ラテン語で『中心』か。まあ、悪くは無い」
「それと貴方の身分だけど、偽装が完了したから。いつでも学園に入り込めるわよ。くれぐれもソレがばれないようにお願いするわね。
解っているとは思うけど、最初は手出しは禁物よ。それと……」
(……。さて、こいつに慣れるのには……数週間って所か。なら、ちょうど良いな。アレにぶつけてみるか。くくくくく……!!)
スコールの言葉を聞き流し、ケントルムは嘲る。この世界の全ての者を見下す、その性根。それは間違いなく邪悪であった。
「ふふ、単純な子ね」
「スコール。……アレで本当によろしいのでしょうか?」
そしてケントルムは、与えられた『玩具』を嬉しそうに着たまま地下の訓練用アリーナに向かった。
プロークルサートルの初期化と最適化を実行した技師が、疎ましげな視線を向けてくる。その感情は理解するも、スコールは受け流す。
「言いたい事は解るけど、ああいうのも使い方次第よ。それよりも『あちら』の方はどうなっているのかしら。
Mやオータムの方からはまだ報告は無いの? それに『12』との接触も。玩具で遊ぶ子供に構っている暇は無いわよ?」
「そ、その。え、Mもオータムもまだ……。と、トゥウェルブとはその……」
咎めるつもりは無いのだが、立板に水のような言葉に返せないのか、技師はしどろもどろになる。
――その時、何かの報告が入ったらしくスコールのISが反応した。
「あらオータム。貴女が私に通信を送るって事は……」
『ああ。アラクネ奪取成功だ。別に問題なく奪えたぜ』
「ご苦労様。ふふ、帰ってきたら髪を梳いてあげるわね」
『お、おう』
普段は荒々しいオータムだが、スコールに対してはこういう態度を見せる。それが彼女にとっては可愛らしくてたまらなかった。
「さて、と。次は――あら」
待ちわびた『12』との接触であった。とはいえ、スコールの態度は変わらない。
「ごきげんよう。――あら、そうなの。それではこちらはこう動くとしましょうか。――ええ、そう。私達は――」
言葉の雨が鳴り響く。それが、自分達にどのように関わるのか。織斑一夏達は、まだ知らずにいるのだった。
★オリジナルIS紹介
●プロークルサートル
ラテン語で先駆者を意味する重火力のIS。????改めケントルムの専用機となるISで、重武装を誇る。
亡国機業はISの強奪事件を繰り返しているが、これもその戦利品に当たるのかどうかは不明。
外見イメージは、赤と黒に包まれたゴーレム(漫画版)。関節部などを除いては殆どが装甲や武装に覆われている。
・イムペリウム
ラテン語で『支配』を意味する、量子変換された大口径荷電粒子砲。イメージ的にはZZガンダムのハイパーメガカノン砲。
長射程と高い破壊力を持つが、小回りがきかないのとチャージに少しだけ時間がかかるのが欠点。
・ワスターティオ
ラテン語で『略奪』を意味する、量子変換された近接戦闘ブレード。
外見は、イスラム教徒の使っていた円月刀・ファルシオンに近い『切り裂く』剣。
・デーポルタティオ
ラテン語で『追放』を意味する、直線的な加速力と砲撃力を上昇させるためのユニット。筒状の部位が二つ、という装備。
元ネタはゾイド・パワーアップパーツのCP-09・ブースターキャノン。基本的にブースターと逆方向にしか攻撃できない。
・エクェス
ラテン語で『騎士』を意味する、丸い楯の中心部にビーム砲を装備した非固定浮遊部位。
純粋に楯として使用したり、少しだけならブルー・ティアーズのように遠隔操作する事も可能。
威力はイムペリウム・デーポルタティオに劣るが、ビームは扇形に広がる為に攻撃範囲が広く、速射性能でも勝る。
オールドー
ラテン語で『秩序』を意味する、ゴーレムの肩から下方に広がるマント状部位。自動で近接攻撃を防御する。
ミーレス
ラテン語で『兵士』を意味する補助アーム。本来の腕に比べれば細くて脆いが、銃器を扱えるだけの耐久性と器用さは併せ持つ。
デーポルタティオの筒と筒の間にバックパックが存在し、その中に収納されている。手先は人間並みに器用。
何とかオリジナル話も書き上げられ、御影やプロークルサートルといったオリジナルISも出せた……けど。
ステルス機能に関しては、まだまだネタがあったり。問題は私がソレを上手く扱えるのかということだ。
うん。文中で言っていた『操縦者次第』と同じですな。