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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 海についても大騒動
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/05/19 08:00


 我が一年三組のメンバーが乗るバスの中で、きれいな歌声が響いていた。その声の主は、ブラックホールコンビの片割れ・都築。
「~~~~~~♪」
 旅行中の貸切バス内での定番といえば、カラオケだろう。そしてこのバスにも、カラオケ店レベルの機器が備え付けられていた。
回線を通じて、20種近い言語で、世界中の歌が歌えるという超高性能機器である。……無駄に高性能すぎる、と思わなくもない。
「~~~~~~♪」
 某、雪国を舞台としたアニメ映画で「雪国の女王が、自分の妹に後を任せて、私は国とはもう関係なく生きる」と宣言するシーン。
あそこで歌われていた歌だった。歌っているのは都築なので日本語バージョンだが、他のメンバーも一緒に歌っている。
その言語はそれぞれだが、リズムは万国共通。知らない・部分的にしか知らない・歌うのが苦手な人間は手拍子で参加していた。
今から待ちに待った臨海学校ということで、皆がハイテンションだ。
「……何故、俺の隣はお前なんだろうな」
 もとい、俺の隣にいるクラウスだけはローテンションだった。俺とクラウスは、バスの運転手のすぐ後ろの席、そして俺が通路側。
そして背後の二席は副担任の古賀先生と副担任補佐のハッセ先生となっている。つまりクラウスは、クラスの女子から隔離されていた。
……いや、違うな。運転手さんも女性だが、ライフル銃さえ防ぐという防弾仕様の強化プラスチック板で遮られ、先生達とは座席で遮られ。
クラウスは、女性全体から離されているんだ。
「まあ、お前という問題児を隔離するためだろ。俺も、先生に聞かれたけどそれでいいでしょう、って言ったからな」
「将隆、貴様……! 俺との友情を裏切ったな!」
「さてな。――お、終わったか」
 都築の歌声が途切れ、あいつが一礼している。拍手が起こる中、さて、次は誰が歌うんだろうか……。
「次に歌いたい方は、いらっしゃいますか?」
 いつもどおりの口調で都築が促すが、誰も手を挙げない。それはたぶん、あいつが結構上手だったからだろう。
上手い奴の後に歌うってことほど、カラオケでやり辛い事は無いからなあ……。
「では、次は安芸野君が歌ってみてはどうですか?」
「お、俺がか?」
 そんな事を思っていたら、俺が指名された。歌うつもりはなかったので、ちょっと意表を突かれた形だ。
……ちなみに、三組女子の何人かを名前で呼ぶようになった俺だが都築は都築のままだった。相手も、苗字呼びのままだしな。
「ええ。男性の唱歌というのも、聞いてみたいですし」
 確かに、この学園の生徒は男性と触れ合う機会が少ないが。
「いや、いきなりそう言われてもな……どれを歌えって言うんだよ」
 生憎と、俺はすぐに歌えるような度胸のあるタイプじゃない。まあ、歌うのは嫌じゃないんだが、心の準備が……。
「よーし、じゃあ将隆君は歌を選んでおいていいよ。それまで私が、スーパーロボットソング第二楽章・昭和の部を……」
「よし分かった、俺が歌おう」
「ちょ!? トーナメントのパートナーに対する友情が少なくないかな!?」
 マイクに手を伸ばそうとした赤ほ……唯の手を払いのけ、マイクを握る。……カラオケの口火を切ったのが、この唯だったのだが。
彼女は、西暦2000年代のアニメソングを思いっきり熱唱した。いわゆる、知らなければアニメソングと分からないタイプではなく。
アニメのOPです! と公言しているような、番組用語が満載の歌だったため、かなりの人間が引いていたのは間違いない。
正直、都築がさっきの歌を歌わなかったらかなり雰囲気が低いままであった事は間違いないだろう。
「んじゃあ、俺が歌わせてもらいます。曲は……」
 クラスメンバーや先生達の手拍子に迎えられ。数少ないレパートリーを披露することになったのだった。




「……何だ、あれ?」
「!」
 俺が、旅館について千冬姉と同じ部屋となり、そこに荷物を置いて。更衣室になっている別館に向かう途中、箒と会ったのだが。
俺達が、別館に向かう途中で目にしたのは、建物の横の地面から生えているウサギの耳だった。
とはいっても、勿論本物ではなく、いわゆる『ウサミミ』だった。
しかもそのウサミミには、ご丁寧に『引っ張ってください』と張り紙がしてあった。
「…………」
「…………」
 あまりにも怪しい物体。しかし、俺も箒も、この怪しげな物体の正体に心当たりが有るのだ。……というか、ほぼ確定だろう。
「なあ、これってやっぱり――」
「……すまん、私は先を急ぐ」
 箒は、俺の問いに答えずに向こうへと行ってしまった。……何でだろうか、まるで鈴が千冬姉から逃げる時みたいに見えてしまったのは。
これが『あの人』だとすると、逃げ出す理由なんて無いと思うんだが……。
「まあ『引っ張って下さい』って書いてあるし、引っ張るか」
 まさか危険物じゃないだろう、と俺は地中に埋まっているウサ耳を力一杯引っ張った。それは思いの外、簡単に抜けた。
それは良かったんだが、勢いあまって後ろに飛んでしまった。……あれ、何か暗くなったぞ?
「何なんだ、一体?」
「な、な、な、何をしていますの?」
「お、セシリアか。実はこのウサミミを引っ張って――っ!」
 いつの間にか、後ろにセシリアがいたのだが。抜けた衝撃で、彼女の足元に俺の頭があった。
……正確には。彼女は浴衣だったのだが、その裾の下に俺の頭があった。
白い二本の足と、その中央にあるレースのついた白い下着が、俺の視界に……って、何を思いっきり見ているんだ、俺は!
「せ、セシリアすまん! これは、だな。このウサミミを抜こうとしてこうなったんだ!」
「う、ウサミミ? は、はあ?」
 怒るよりも困惑が先に出ているのか、呆けた返事のセシリア。
そしてほぼ同時に、何かが唸りを上げながら近づいて来る音が聞こえてきた。
「な、何ですの、あれは!?」
 セシリアの指差す方向から、何かが飛んでくる。そして、次の瞬間。振動が、旅館の地面を揺らす。
砂塵がおさまり、視界が晴れてくると、そこに深々と刺さっていた落下物があった。
それは……イラストチックなディフォルメをされた、巨大なニンジンだった。
「に、にんじん……?」
「……ですの?」
 俺とセシリアは呆気に取られてそれだけしか言えなかった。
「あっはっはっは! 引っ掛かったね、いっくん!」
 そのニンジンから、能天気に笑う声がした。この声は……!
「やー、前はほら。ミサイルに乗って飛んでたら危く何処かの偵察機に撃墜されそうになったからね。私は学習する生き物なんだよ、ブイブイ」
「お、お久しぶりです束さん」
 意気揚々と挨拶する、箒の姉――篠ノ之束さん。俺は、辛うじて挨拶の言葉を絞り出した。
しかし、今日の格好は……エプロンドレス?
「うんうん。お久だねー。本当に久しいねー。ところでいっくん、箒ちゃんはどこかな? さっきまで一緒だったよね?」
「えーっと……」
 返答に詰まる。とてもじゃないが「貴女に会うのが苦手そうな感じでしたよ」とは言えない。
しかし束さんは、俺の反応など気にも留めずに軽快に俺の引っ張ったウサミミを受け取り、それを自分の頭に付け。
「まあ私の開発した『箒ちゃん探知機』で直ぐに見つかるよ。じゃあね、いっくん。またあとでね!」
 言うだけ言うと、束さんはウサミミの示す方向へと走り去っていった。あれ、レーダーみたいなものだったのか?
「い、一夏さん? 今の方は一体……?」
 ようやくセシリアが再起動したようで、呆然とした声だ。……そりゃあ、そうだよな。
「あ、あの人は篠ノ之束さん。箒の姉さんだよ」
「え? で、では彼女があの、篠ノ之博士ですの!?」
「そう、その篠ノ之束さんだ」
「そ、そうなんですの。ま、まさか、ISの生みの親があんな人だったなんて……」
「あはは……」
 まあ、確かに常人には理解しがたい人だろうとは思う。
「でも、どうしてこちらに? あの方は、三年前から行方不明だったはずでは?」
「さあなあ。箒の行方を聞いてきたから、箒に用事なんじゃないのかな」
 それにしては『一日早い』気もするんだけどな。だって、明日が箒の……。
「でも、あの方が……。もう一度会えたのなら、お話をしてみたいですわね」
「え……」
 笑顔でそういうセシリア。だが、それに対して大きな『壁』があることを知っている俺は、それを言うべきかどうか悩んだ。


「おー、おりむーだ」
「あら、布仏さんですの」
 更衣室になっている別館の方から、のほほんさんがいつもどおりゆっくりと歩いてきた。しかし、その格好は……。
「今日も着ぐるみなのか? あ、暑くないのか?」
「狐……ですの?」
 いつもどおりの、着ぐるみだった。寮内では、空調が聞いているから兎も角。海岸には、そんな物はないんだぞ?
「えへへー。これでも、通気性は凄いんだよー」
「通気性云々ではないような気もしますが……」
「えー。じゃあ、せっしーも着てみれば~?」
「お、お断りしますわ。わたくしの威厳が、損なわれますもの!」
「ん、じゃあしょうがないか~。くるくる~♪」
 その着ぐるみのまま一回転する、のほほんさん。お、尻尾もあるのか。無駄に凝った作りだな……え?
「あれー?」
「あ……っ!」
「危ないっ!」
 足がすべり、横に倒れそうになるのほほんさん。そこに、花を生けた大き目の花瓶があるのを認識した俺は、とっさに彼女と花瓶との間に入る……!


「痛う……だ、大丈夫か、のほほんさん」
「うん、大丈夫だよー」
 とっさの行動で、のほほんさんと花瓶の間に入り込んだ俺。かなりの衝撃を受けたが、怪我は無い。そして、のほほんさんも無事だ。
どうなるかは分からなかったが、どうやら俺は、のほほんさんを庇えたようだった。
「そ、そうか、良かっ……た」
 体勢としては、俺が仰向けで、のほほんさんがうつ伏せ状態で俺の上にいたのだが。……つまり、のほほんさんは、俺に身体を預ける形になっていた。
「どうしたのー、おりむー?」
「一夏さん?」
 のほほんさんの、きょとん、とした幼い表情。それとは真逆の感触が、俺に伝わってきた。
「あれ、もしかして足でも挫いたのかなー?」
「そ、そうなんですの!?」
「だ、大丈夫だ。なんでもない」
 前から知っていた事だが、のほほんさんは結構グラマーだ。普段の制服や着ぐるみ姿では分からないが、ISスーツなどになると良くわかる。
胸の大きさはフランチェスカやセシリアさえしのぎ、箒や楯無さんに並ぶのではないかというレベル。
身長が二人よりはやや低めな分、大きく見える……って俺は何を冷静に解説しているんだ!?
「そう? ごめんねおりむー、クッションになってもらってー」
 のほほんさんがうつ伏せから立ち上がろうとすると、重力に引かれて着ぐるみの中の胸の大きさがよりいっそう誇張される。
……い、いかんいかん。冷静になろう。そ、そうだ、素数を数えよう。2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31、37、41……
「97、101、103……」
「廊下に座り込んで何をやってるんだ、お前は?」
「ま、将隆……」
 気がつけばのほほんさんは去っていき、目の前に将隆がいた。……あれ?
「さっきオルコットと、袖の長い服を着た、更識とも仲の良い子……なんていったかな。
お前のクラスの子が『転びそうになったのを、おりむーに助けてもらったよー』とか言っていたけど。足でも捻ったのか?」
「そ、そういうんじゃない、大丈夫だ。……よーし、じゃあ俺も海に行くか」
「ちょ、待てよ一夏!」
 さっきまでの、のほほんさんの感触を忘れようと。俺は、更衣室に足早に向かうのだった。


「そういえば一夏。お前、部屋はどこなんだ?」
 更衣室になっている別館の前で、将隆がそんな事を言い出した。そういえばさっきも、そんな事を気にしている女子がいたな。
「俺か? 俺は、千冬姉とだった」
「織斑先生とか? まあ、それが一番問題がないか」
「将隆、お前は?」
「俺は、新野先生とだ。ロブは久遠達と一緒の部屋らしい。ただ……クラウスの奴は、ドイッチと一緒だって言ってたな」
「へえ、そうなのか」
 男子を纏めた、というわけでもないようだが。ただ、最後が少し引っかかるような気がする。
「……」
 そして将隆の方も同じなのか、それ以上は何も言わなかった。そして、俺達はそのまま別館へと入る。
……だがここで、予想外の歓迎が待っていた。
「ティナ、胸大きいわねー。水着も大胆だし」
「そう? このくらい、普通よ?」
「そりゃ、アメリカだとそうかもしれないけどさあ……」
 鈴の友人である、ハミルトンさんと神月さんの、あまりにもオープンな会話が聞こえてきた。……な、なんていう会話をしているんだ!
「でも、一場さんも大きいじゃないの」
「そう、でしょうか……」
 今度はハミルトンさんと、一場さんの声がした。隣を見ると、将隆がそっぽをむいている。うん、その気持ちは良くわかる。
俺だと、箒に関して言われたようなものだし。……そういえば箒の奴、さっきは逃げたけど何処にいったんだろうか。
束さんが追いかけていったみたいだけど、出会えたのかな?
「それじゃ、行くぞー!」
「こ、こら待ちなさいロブ、まだ私は……」
 そんな中、元気なロブの声がした。それは良かったんだが、海が待ち遠しかったのだろう。彼は、俺達の隣にあったドアを勢いよく開けて飛び出したのだ。
「あれ、イチ兄とマサ兄だ! やっほー!」
 元気よく声をかけてくるロブだが、俺達は硬直していた。何故なら、ロブの開けたドアは二組女子の着替えていた更衣室のドアであり。
そこを開けた事により、俺達の視界に二組女子の……着替え中の姿が入ってきてしまったのだった。
「きゃああああああああああっ! ち、痴漢~~!」
 ちょ!? 誰だか知らないけど、そんな声をあげないでくれ!
「痴漢、ですって!?」
「え、そんな命知らずがいたの?」
「捕まえましょう! 痴漢に生きる価値なし、です!」
 さらに、悲鳴に連鎖して一組・三組・四組のドアまで開けられた。
そちらは着替え終わった女子ばかりが外側だったが。彼女達には、開かれた二組のドアで硬直する俺と将隆(+ロブ)がいるわけで。
「さあロブ、行きますよ。ここにいては危険ですからね」
 着替え終わった一場さんがロブを連れて行き。……俺達はそのとき着替えていた女子達に、釈明を始めるのだった。


「あー、びっくりした。まさかああなるなんて、思わなかったぜ」
「そう、だな……」
 あれから釈明を終え、俺達は着替えたのだが。何か、遠泳でも済ませた後のような疲労感があった。
「まさか俺が、あんなイベントに出くわすなんてな。一夏と一緒にいたせいか……?」
 はて、何が俺のせいなんだろうか。さっきの事なら、ドアを開けたロブが原因だと思うのだが。
……まあ、勿論ロブだって悪気があったわけじゃないし、そもそも年下の男の子のせいだ、なんて言う気はないが。
「い、一夏さん! 更衣室の一件で、お話があります!」
 と、パラソルとシートを手にしたセシリアがやってきた。さっきは更衣室の中にいなかった筈だが、どうやら話を聞いたのだろう。頬が真っ赤だ。
「せ、セシリア! さっきの事は、誤解なんだ。だから……」
「ええ、分かっていますわ。一夏さんが、故意にやった事ではないと」
 おや。思ったよりもセシリアが冷静のようだ。
「ですが、先ほどのスカートの一件といい、一夏さんに女性に対する扱いが欠けているのも事実。
ここは、わたくしが一夏さんを一人前の紳士にしてさしあげますわ!」
「し、紳士?」
「ええ。――ですから一夏さん、わたくしにサンオイルを塗ってくださいな」
「え、えーーとセシリア。紳士とサンオイルが、どう繋がるんだ?」
 シートとパラソルを広げ、その上にセシリアがうつ伏せになる。……これもイギリスの風習なのだろうか?
だとしたら正直、日本人の俺には意味が分からないんだが。
「じょ、女性にサンオイルを上手く濡れるのも、大人の男性のたしなみでしてよ!
……それに、シャルロットさんにはシルバーブレスレットを買ってあげたそうですわね?」
 う……。確かに昨日、俺は用事に付き合ってくれたシャルに、ブレスレットを買ってあげた。
銀色のそれは、別に高いわけでもなかったがシャルがとても喜んでくれた。……そこまでは良かったんだが。
それをシャルが臨海学校にも持ってきて、こっそりと買ったはずのそれの存在を皆が知る事になってしまい。
レナンゾスに同伴していたセシリアや簪にも、何か買う羽目になったのだった。
ちなみに、のほほんさんは『何かお菓子を奢ってくれたらいいよー』との事だった。
「そもそも、シャルロットさん『だけ』を誘ったのだって……」
「わ、分かった分かった。……でも、俺でいいのか? 俺、サンオイルとか塗った事ないし、上手に出来ないぞ?」
「そ、そうなんですの? い、いいえ、是非ともお願いしますわ!」
 『だけ』を強調して不満そうに膨れていたセシリアが一転、笑顔になる。初めてなのが、そんなに良いんだろうか?
「で、ではお願いしますわね……」
 セシリアが自分の水着の紐を解く。……のほほんさんには負けるが、セシリアも十分に大きい。その膨らみが、横につぶれて。セクシーだった。
「じゃ、じゃあ行くぞ」
「ひゃんっ! お、オイルは人肌に、温めてくださいな……。手で少し保持してから、塗るのですわ……」
「そ、そうか、悪い」
「い、いいえ。わたくしも、きちんと伝えていませんでしたから……」
 そして、もう良いかな? という頃合になり、セシリアの背中にオイルを塗る。
「……どうだ、セシリア?」
「え、ええ。とても、良いですわ」
 ならよかった。そ、それにしても、セシリアの肌ってすべすべしてるな。そういえば、色々と手入れをしているらしいけど。
「努力の結果、なんだろうな……」
「努力?」
「い、いや、何でもないぞ! そ、それよりも、背中は塗り終わったぞ。もう良いかな?」
「い、いいえ。出来れば、手の届きづらい場所を全てお願いしますわ。足と、その……お、お尻、も」
「い!?」
 お、お尻? そ、それはいくらなんでも不味いぞ! え、ええっと……そうだ!
「う、宇月さん! セシリアに、サンオイルを塗ってあげてくれないか!?」
「……え?」
 一番近くをとおりかかっていた、宇月さんにバトンタッチをした。……彼女には迷惑をかけっぱなしなので、避けたかったが。
背に腹は変えられない。……ごめん。
「ちょ、ちょっと一夏さん! 途中で投げ出すなど、紳士失格ですわよ!」
「せ、セシリア!」
「ちょ、不味いって!」
「え? ――きゃあああっ!」
 セシリアが、立ち上がろうとした。その行動も言葉も、もっともなのだが。……彼女は、水着の紐を解いていた。
つまり、そのまま裸の上半身が、俺の視界に入ってきて……。
「ご、ごめんセシリア! み、見えてないからな! また後で!」
 幸い、胸の先端部だけはセシリアの特徴的なロールヘアで隠されていて、見えなかった。
だけど、とてもじゃないがこの場所にとどまる事は出来ず。……俺は、二人を置いて逃げてしまったのだった。


「あー、びっくりした。後で、二人に謝らないとな」
 サンオイル塗りを途中で止めてしまったセシリア、そして丸投げしてしまった宇月さん。……我ながら、情けない対応だった。
「やっほー、織斑君!」
「こんにちわ。貴方達は相変わらずですね」
「ようやく見つけたよ、もう!」
「あれ、二組の皆か……」
 声に振り向くと、そこには、鈴のルームメイトのハミルトンさん、そして鈴の友人の神月さんやゴールドマンさん、チャコンさん達がいた。
どうしたんだろうか、四人で何か長い布を持っている。地面に敷く、マットシートくらいはあるぞ。……ん、何か後ろにうつっている?
あれ、何か見覚えのあるシルエットなんだが。長く伸びた二本のあれは、もしかして……。
「それでは、ご開帳~~♪」
「り、鈴!?」
 ハミルトンさんの声と共に、その布が、一気に落とされ。その後ろにいたのは、俺のセカンド幼なじみ――凰鈴音だった。
スポーティーな、タンキニタイプの水着を纏い、仁王立ちしている。
柄はオレンジと白のストライプで、へその辺りが出ているのは鈴の夏服と一緒。快活なこいつには、ぴったりの水着だった。
「ただいま、一夏! 帰ってきたわよっ!」
 そして、まるで猿か猫のように飛び掛って俺の身体を登る鈴。中学の頃にも、監視塔ごっこ、とか言って俺の肩に登ってきたが、今回もそうだった。
肩車体勢になり、身体を押し付けてくるが……。うん、のほほんさんで耐性が出来ていたので平気だった。
「凰さん!? 戻ってきていたの!?」
「まあ。間に合って良かったですわね、鈴さん――って、何をやっていますの! 下りなさい!」
「へへーん。こんなイベント、あたし抜きでやろうなんて、させるわけないじゃないの!」
 宇月さんとセシリアが、鈴を見つけて駆け寄ってきた。そしてあっという間に地面に降りると、宇月さんやセシリアと話し始める。
「もう、大丈夫なの?」
「……うん、大丈夫よ。色々と、心配かけたわね」
「そうなんですの。でも良かったですわね、間に合って」
「うん。まあ、これからまたよろしくね!」
 それは、もう既にいつもの光景だった。少しだけ学園を離れていたなんて、感じられないほどの自然な会話。……いいよな、こういうの。
「ところで……あんた誰? 三組か四組の女子? 何か、見覚えあるんだけど……」
「え?」
 鈴の指差す先には、シャルがいた。……あれ、鈴はシャルの事を知らなかったのか? そういえば俺も、電話ではシャルの事は言わなかったけど。
「ちょっと鈴、いい?」
「何よティナ。今からがいい所なのに……え? 何よ、耳打ちして……」
 いい所? 何がだろうか。そしてハミルトンさんは、何故耳打ちをしているんだろうか? おや、鈴の様子が……?
「い、い、一夏ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 いきなり、真っ赤になって怒り出した。な、何を言ったんだハミルトンさん!?
「その女がデュノアで、あんたは一緒に風呂に入って、ししししししししかも一線を越えたですってぇぇぇ!?」
「まて鈴!! それは、えーーっと……三分の一が間違いだ!!」
 い、一線を越えたわけじゃないから、三分の一、だよな?
「なあああっ!? って事は、まさか一線を越えたの!?」
「何でそうなるんだよ!?」
「ふぁ、凰さん、落ち着いて……」
「あんたもあんたよ、デュノア! だいたい……なんで……なんで……」
 あれ、視線がシャルの方に向いている? いや、正確には――。
「何でそこまでデカイのよ!?」
「…………え?」
 シャルが、ぽかんとした表情になった。結構、レアかもしれない。
「何アンタ、今までペッタンコだったじゃないの!? 何その胸!? パッド!? それとも豊胸なの!?」
「ち、違うよ、今までは男性用スーツをつけていただけで、この胸は、自前で……」
「自前ぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「ひいぃぃぃぃぃっ!?」
 呪われてしまいそうなほど、おどろおどろしい鈴の声。シャルも、胸を手で隠しながら怯えている。
「あたしとそんなに身長は変わらないくせに、何でそこまでデカいのよ! きいいいいいっ!」
「り、鈴、落ち着け。シャルは、だな、その……」
「シャル? ……ちょっと待った、あんた、シャルロット、って名前なのよね?」
 鈴が正気に戻った――筈なのだが、俺をジト目で睨んでくる。な、何がお気にめさなかったんでしょうか?
「いつから、そう呼んでいるわけ? セシリアとかレオーネだって、あだ名なんてつけてもらってないでしょ?」
「そ、それはその――」
「ああ、それはちょっと前からだ」
 何故かシャルが言いづらそうにしていたが、俺はなんだ、そんな事か……と安堵していた。――が
「ふーーん……へーー。ほーー」
 何か、鈴が先ほどとは少し違うジトっとした目で俺達を睨んでくる。な、何でだ?
「……あんた、意外と油断も隙も無いわね」
「えええ!?」
 鈴は、明らかに敵意を持った目でシャルを睨んでいた。……いや、敵意というには変か? 俺のボキャブラリーじゃ、説明できないな。
「そういえば、レナンゾスっていう所でデュノアさんが織斑君を更衣室に連れ込んだって聞いたけど。あれって本当なのかしら?」
「何ですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
 ……ここで、さらっとゴールドマンさんが地雷を踏んでくれた。鈴の顔色が、一瞬にして真っ赤になる。
「こ、こ、更衣室に連れ込まれたぁ!? あ、あんたねええ!」
「ちょ、ちょっと待て鈴! 落ち着け!」
「デュノアァァァ! あ、あんたも、何してくれてんのよおおおおお!?」
「そ、それは、その。えっと、ええっと……」
 確かに、普通じゃ考えられない事態だというのは分かるが、落ち着け! 今にも衝撃砲を撃ちそうな空気だぞ!?
「ほら、凰さんも落ち着きましょう。せっかく臨海学校に間に合ったんですから、仲良くしましょう。ね?」
 そこへ、わが一組の副担任・山田先生が現れた。先生は、鈴を説得するために腰を曲げてお辞儀のような体勢を取った。……するとどうなるか?
……重力に引かれて、鈴の目の前に強調された『それ』が出現したのだった。オノマトペを使うなら『たっぷんたっぷん』って感じで。
「う……」
「う?」
「うわああああああああああああああああああああああああんっ!! 神様の馬鹿~~!!」
 鈴は、オリンピック選手になれるんじゃないだろうかという速度で走り去る。砂埃が消え残されたのは鈴の二組の友人達と俺達。
「あ、あの……どうしたんでしょうか、凰さんは」
「や、山田先生は悪くないですよ。……うん」
 困惑する山田先生だが、俺は天を仰いで悲しみをこらえた。セカンド幼馴染みに与えられた、試練の大きさに。




「やっぱり、夏はスイカね……」
 凰さんの大逃走の後。私は備え付けの長椅子に座って、貰ったスイカを食べていた。やっぱり、これが美味しい。
さっき一組メンバーでやったスイカ割で砕けたスイカを、更に切った物だから大きさも形も不ぞろいだけど。
割る前にちゃんと冷やしていた為、物凄く美味しかった。夏の太陽で火照った身体に、スイカの水分と糖分が沁み込んで行く。
「平和だわ……」
 さっきは、織斑君にサンオイル塗りを押し付けられそうになったけれど。まあ、その分の借りはジュースの奢りで勘弁してあげた。
ちなみにオルコットさんは『途中で投げ出すなど、紳士失格ですわ!』『ご、ごめん。その代わり、日本の夏の過ごし方を教えるから!』との事で。
今は、二人きりで海の家にいるらしい。……まあ、どうせ誰かが見つけて乱入するような気がするけど。
「あ、カナ姉だ!!」
「こんにちわ、香奈枝。最近ご無沙汰していましたが、お元気でしたか?」
「ロブ、久遠……」
 そこへ、織斑君関係ではないけど目立つ二人がやってきた。浮き輪を抱えたロブと、麦藁帽子を被った久遠。
水着は、ロブは競泳用と思しき男性用水着(柄は星条旗)で、久遠は某水着メーカーのロゴの入ったスポーティーな水着。
……そういえば、本当に久しぶりだ。私と二人は、織斑君の部屋を挟んですぐ近くなのに、ろくに会話もしなかったわね。
「ここ、よろしいですか?」
「ええ」
 久遠が、私の隣に座る。……なんだろうか、変に緊張してしまって二人とうまく話せない。
以前、凰さんが口にした『久遠は、織斑君や安芸野君を取り込む米国の手先』って話。あれが、こんなタイミングで思い出される。
「……香奈枝は、学年別トーナメントで整備を頑張ったようですね。二組にも、話は届いていますよ」
「そう? でも、私は別に大したことはしていないわ」
「おや。篠ノ之さんがゴウ君に勝てたのは、貴女のお陰という噂なのですが?」
 え? な、何でそんな話になっているの?
「しかも、織斑君の白式の整備を明日するそうですね。倉持技研から、頼まれたとか。あの織斑先生が、貴女のために動いたという話もありますが」
 ……いや、確かにそうなんだけど。織斑先生が(家庭訪問のために)動いたのも事実だけど。噂が、ものすごく広がってるわね。
「わ、私は別に……」
「カナ姉、すっごいんだね!」
 目を輝かせて私を見てくるロブに、私は何もいえなくなった。わ、話題をそらさないと……そうだ。
「……私よりも、貴方達のほうはどうなの?」
「問題はありません。皆さん、良くしてくれますよ。凰さんが帰国していたので、今はチャコンさんがクラス代表代理になっていましたが。
本日凰さんが戻ってきましたので、また戻るのでしょうね」
「そうだったの」
 まあ、当然か。アルゼンチンの代表候補生、ファティマ・チャコンさんは凰さんが来る前はクラス代表だった。
だから、凰さんの不在時には彼女が代表代理というのがまあ、筋だろう。
「……ところで、香奈枝。ひとつ聞いてもよろしいでしょうか?」
「何かしら」
 どんな質問が来るのか、と身構えてしまう。そして、久遠の口に出した質問は――。
「織斑君は、ラッキースケベだと聞いたのですが。あれは、昔からなのですか?」
「……は?」
 私の顔を、埴輪にする内容だった。


「……はあ」
 ため息をつきながら、私はスイカに続いてカキ氷を食べていた。久遠に、織斑君がラッキースケベなのかどうかを説明する……という時間。
彼の事を他人に説明する事は学園に入ってから多かったけれど、その中でも間違いなく最も馬鹿な説明だったといえる。
「……それにしても、久遠は真っ赤だったわね」
 ロブが原因で二組の着替えていた更衣室のドアが開き、そこに織斑君がいた、という展開だったらしいけれど。
しかし、久遠の顔が真っ赤だったのは彼の為ではなく。彼と一緒にいた、安芸野君もそこにいたことにあるのだろう。

『貴女の男なの?』

 レナンゾスで、彼がジュースをかけてしまった女性の言葉が思い出される。……私は、カキ氷を少し多めにほお張った。
「宇月さん、ここにいたんだ」
「デュノアさん……と、ボーデヴィッヒさん」
 声に振り向くと、元隣人のデュノアさん。そして今は彼女と同室の、ボーデヴィッヒさんがいた。
同じ欧州の代表候補生でありながら、とにかく色々と対極的なコンビだけど。……一緒に行動しているの?
「あ、デュノアさん……とボーデヴィッヒさんだ」
 そこに谷本さん達がやって来た。やっぱり彼女達も、ボーデヴィッヒさんとデュノアさんが一緒にいるのは少し不思議みたい。
「うわー、デュノアさん、結構スタイル良いなあ……」
「水着も、似合ってるし……羨ましい……」
「そう? えへへ、ありがとう」
 はにかむデュノアさんは、かつての『貴公子』の面影がちょっとだけ残っていた。ただ、その体格は女性そのもの。
セパレートとワンピースの中間のようなタイプの、上下に分かれているそれらを背中でクロスして繋げる構造の水着。
彼女の機体、リヴァイヴカスタムⅡとお揃いの色の生地で構成されたそれが、その身体を包んでいた。
そして、その専用機の待機形態であるネックレスが胸の谷間で光っていた。……うん、どうやって今までコレを隠していたの?
「おい、私は水分補給をしに来ただけなのだが」
「うん、分かってるよ」
 こちらは、相変わらず無愛想なボーデヴィッヒさん。……ただ一つ言いたいのは。
「あの……ボーデヴィッヒさんは、何でスクール水着なの?」
 彼女の白い肌を包む水着。それは、学園から支給されたスクール水着だった。ISスーツと似ている部分もあるから、ある意味で違和感はないけれど。
やっぱり、色とりどりの水着が輝く中でのスクール水着は、その……浮いていた。
さらに、右太腿には彼女の持つ専用機、シュバルツェア・レーゲンの待機形態であるらしいレッグバンドがある。
オルコットさん(イヤーカフス)やデュノアさん(ネックレス)とかと比べると、目立ってしょうがないと思う。
「もう、だから言ったじゃない。何か水着を買いに行けばよかったのに」
「必要はない。この水着はきわめて機能的だ」
「でも、さっき出会った織斑先生も言っていたでしょ? 『ボーデヴィッヒに、何か水着を買いに行くように言えばよかったな』って」
「う……そ、それは、そう、だが……」
 織斑先生のことを出されると弱いのも、相変わらずのようだった。
「そういえば宇月さん、それ、何?」
「ああ、これ? カキ氷よ」
 もう七割がた食べてしまっていて、残りもほとんど水になっているけれどね。
「か、カキ氷……?」
「日本のシャーベットなの?」
「シャーベット……なのかな? 簡単に言うと、細かく砕いた氷に果物の味のついたシロップをかけた物よ」
「へえ、美味しそうだね。ねえ、ボーデヴィッヒさん。食べてみようか」
 笑顔でそういうデュノアさん。どうでもいいけど、いつのまにこんなに親しくなったんだろうか?
……いや、違う。どちらかというと、デュノアさんがボーデヴィッヒさんによく話しかけている、というべき?
「おい、私は水分補給をしに来ただけだと……」
「氷だから、水分も取れるよ。それに、糖分も合わせて取れるみたいだし」
「だが……」
「織斑先生も『かき氷でも食べて、夏を経験してみろ』って言っていたよね?」
「む……」
 どうやらデュノアさんの方が一枚上手のようで。ボーデヴィッヒさんも結局、カキ氷を食べる事になったのだった。


「うーん、冷たくておいしいなあ」
 メロン味のカキ氷を、本当においしそうに食べるデュノアさん。それがもう一枚の絵のようになっているあたり、我が身との格差を感じる。
「……」
 一方こちらは、黙々とイチゴ味のカキ氷を食べるボーデヴィッヒさん。あの、ちょっとは時間を空けた方が良いわよ、だって……。
「~~~~!?」
 あ、連続で食べ続けて頭が痛くなったみたいね。……まあ、誰でも一度はやる事よね、これ。
「な、何だこの頭痛は……!」
「冷たい物を一気に食べるからだよ、もう」
 デュノアさんが、頭を抱えるボーデヴィッヒさんを撫でてあげている。その光景は、娘を世話するお母さんみたいだった。
「でゅっちーは、お母さんみたいだね~~」
 と思っていたら、いつの間にかやってきていた本音さんが同じことを口にした。
他の皆も、頷いたり納得の表情になっているところを見ると、同じ感想だったらしい。
「母、だと? 私には両親と言う物はよく解らんが。――そんな物なのか」
 だけど、ボーデヴィッヒさんの一言で一気にそんなムードは消し飛んだ。
どういう意味なのかは知らない。死別・捨て子・あるいは……。そんなマイナスイメージしか湧いてこない反応だった。
「……そうだねー。あるいは、お姉ちゃんかもねー」
「あ、姉?」
「そ、そういえば本音って、三年生にお姉さんがいるんだったわよね!?」
「あ、わ、私も聞いた! 生徒会の会計で、凄く頭のいい人だって聞いたけど!!」
「た、確か宇月さんが、整備を習った人なんでしょう!?」
「そ、そうそう! 名前は、布仏虚先輩! とっても、頼りになる先輩よ!」
 ムードブレイカーの本音さんの発言に、自分の発言の影響がよく解っていないボーデヴィッヒさんを除く全員が便乗する。
傍から聞いていると、なんとも奇妙な会話だっただろうな、と思う。
「そうだよー。でも、でゅっちーみたいに甘くなくて、とっても厳しいんだよー、ねー、かなみー」
「え。虚先輩って、そんなに厳しいの?」
「そうだよー。お菓子を食べ過ぎちゃ駄目とか、壁紙収集して夜更かししちゃ駄目とか、かんちゃんをかんちゃんって呼んじゃ駄目とか……」
 お餅のように膨れる本音さん。……言わせて貰うとすれば、三番目以外は、ごく普通の事だと思うわよ?
いや、本音さんが更識さんに仕える境遇なのだとすれば、三番目も『普通』なのかもしれないけれど。
実際、虚先輩も更識会長の事を『お嬢様』と呼んでいる時があるし。そういう時は、本人が訂正するけれど。
「本音、呼んだ……?」
 すると、偶然近くにいたらしい更識さんが反応してきた。何人かの四組女子と一緒に、かき氷を食べに来たらしい。
更識さんの水着の色は、意外にも黄色。水着自体はスポーティーなタイプだけど、普段の彼女からは想像できないパターンだった。
「あ、かんちゃんだー」
「マルグリットさんと周さんも一緒なのね」
 よく見れば、打鉄弐式を作る時に荷物運びをしてくれていた周さんと、トーナメントでタッグを組んでいたマルグリットさんもいた。
どちらかというと更識さん同様に引っ込み思案な二人だけど、水着は結構冒険をしている。……ただ、その視線がある女子生徒に集まっていた。
「え、えっと、あの。の、布仏さん……暑くないの?」
「着ぐるみで、泳いだり出来るのかな……」
 二人にとっては打鉄弐式関係くらいでしか関わったことの無い、本音さん。彼女は、なんと狐の着ぐるみだった。
頭は狐の耳のヘアバンドのみだけど、首から下はすっぽりと覆っている着ぐるみ。しかも、尻尾までついているという凝りようだ。
寮での普段着とほとんど同じなので、見慣れた人は今更それにびっくりする人はいないけど、二人はそうではなかったようだ。
「大丈夫だよー♪」
 あまりボディーラインが分からない着ぐるみで、ゆっくりと二人に近づく本音さん。そして、着ぐるみを背中から脱いで――って、えええ!?
「下には、泳ぐための水着を着ているからね~~」
「わ、わわ……!」
「す、凄い……」
 着ぐるみを肌蹴た本音さん。その下には、白いビキニを着ていた。胸の下と、首周りで支えるタイプの白いビキニ。
それは、彼女の大きな胸にフィットした大胆な水着だった。その格好に、ドレさんも周さんも驚きを隠せないでいる。
「……本音って、何であそこまで大きいんだろう」
 気のせいか、恨みがましさをこめたような更識さんの声がした。……同感だけど、胸の大きさの謎トップ3in一組(命名・岸原さん)の一つだからね。
もう二つ? M・Y先生とH・Sさんに決まっている。最近、これにT・Dさんを加えてトップ4にしようとかいう動きがあるとかないとか。
「……私も、本音くらいじゃなくても、もう少し大きかったら良かったのに」
 自分の胸に手を当てて落ち込む更識さん。……この中では、彼女は平均より下のようだった。ちなみに、私は平均である。
「さ、更識さん。胸なんて、大きくてもいいことなんて無いよ?」
 落ち込む彼女を見かねたのか、デュノアさんがフォローに入る。だけど、彼女には更識さんのフォローに入れない決定的な理由がある。
「……持っている人の、余裕?」
「え、えええ!?」
 ダウナーモードに入った更識さんにとって、デュノアさんの言葉は届かなかったようだった。




「……うわー。やっぱり男の子、だよねえ」
「凄いねえ」
「この位、軽いよ。さて、次は誰かな?」
 海岸の一角では、ゴウが女子達のフロートやビニールボールへの空気入れをしていた。
空気入れを押す速度が、やはり男子だけあって速く力強い。気付けば、十人分の仕事があっという間に終わっていた。
「ありがとう、ゴウ君。でも、良かったの? デュノアさんとか、親しい人と一緒じゃなくて」
「ああ、確かに専用機持ちとの交流も大事だが。やはり、他の生徒とも分け隔てなく交流する事も大事だからね」
「あー、そうだね。織斑君とかだと、専用機持ちがびっしり集まってるし……」
「凰さんは、二組のメンバーとあまりかかわらないって二組の子がぼやいていたよ」
「安芸野君は、まだ私達とも交流があるよ? まあ、マリアとかブラックホールコンビが多いけどね」
「更識さんは、打鉄弐式に忙しくて石坂さんとかドレさんとか周さん位だよね」
「まあ、彼らはそれぞれ事情があるのだろうけれど。俺は、同じ学園に通う事となった皆とも、交流を持ちたいと思う。
もしも俺に助けられる事があったら、いつでも頼ってくれ」
 その言葉と共にさわやかな笑みを浮かべるゴウ。それは、確かに大切な事であっただろう。
――彼の狙いが、自身が『モブ』と呼ぶ少女達への関心をひきつける為の、撒き餌のようなものでなければ。


「ふう……」
 三組のスペイン代表候補生、ニナ・サバラ・ニーニョはパラソルの下で休んでいた。先ほど、クラスメートとしばらく泳いでいたのだが。
それも一段落し、休憩に入ったのである。ワンピースタイプのシンプルな水着に包まれた肢体と、炎のように濃い赤い髪をパラソルの下で休め。
わずかに、まどろみ始めたその時……その頬に、冷たいものが押し当てられた。
「な、何だ!? ……ライアンか」
「ええ。飲む?」
「……頂こう」
 クラスメートのアメリカ代表候補生、マリア・ライアンからスポーツドリンクを受け取っニナは、それを半分ほど飲み干した。
程よく冷えた水分が、身体に染み渡る。
「どうしたのだ。私に、何か用事か?」
「ちょっと、代表候補生同士の交流を――って所かしら。貴女の、お姉さんについてだとか」
「……」
 姉。その単語が出たとたん、わずかにニナの顔が曇った。
「どうして、スペイン代表候補生の貴女があんな時期に編入してきたのか、少し気になって調べたんだけど。
……その鍵を握っているのが、篠ノ之箒さんだとは思わなかったわ」
「……ああ」
 彼女の編入の、奇妙な遅れ。それは『篠ノ之箒がこの学年にいたから』だった。
ある意味、この学年における最重要人物といっても過言ではない彼女。そんな彼女に、ニナが危害を加える可能性がある。
そういう危惧が、スペイン政府内で生じたゆえであった。入念な心理チェックの上、やや遅れて編入する事になったのだが。
そもそも何故、ニナが箒に対して危害を加える可能性が示唆されたのかというと。
「……お姉さんの死、よね?」
「……」
 ニナの返事は、無言だった。だが、そのきつくなった表情がそれが正解であると何よりも明確にしていた。
「逆恨み、なのは分かっている。姉さんの死が、篠ノ之博士には何の関係もない事は、分かっているんだ。
……ましてや、妹である篠ノ之さんに危害を加えるなど、八つ当たりでしかない。……分かって、いるんだ」
 ちなみに、ラウラ・ボーデヴィッヒも似た可能性をドイツ政府内で示唆されたのだが。
彼女は第三世代型ISを預かっておりその運用が必要な事、そして彼女をコントロールできる(と思われていた)千冬がいた事。
この二点ゆえに、当初の予定通り編入してきたのだった。
「でも、最初は相当荒れていたみたいね」
「……八つ当たり先を見つけただけだ。……日本語のスラングでは『黒歴史』とか言うらしいが、な。
だが……以前、夕食時に彼女を見つけた際、睨んでしまった。……まだまだ、未熟だ」
 ため息をつき、残っていたスポーツドリンクを一気に飲みほす。その表情は、自己嫌悪と苦笑いに包まれていた。
「この学園は、とても過ごしやすい。……できれば、このままこの傷も癒えてくれると良いんだが、な」
 パラソルの下から出て、夏の太陽にその身を晒すニナ。そんな彼女を、マリアが笑顔で見つめ。
「それじゃあ、あっちでビーチバレーをやるんだけど。一緒にやらないかしら」
「……ああ、参加させてもらうとしよう」
 笑顔でその手を引っ張り、クラスメート達が待つ砂浜へと駆け出したのだった。





 祝! 凰鈴音再登場! ……のわりには絶叫したり走り去ったりと、何か踏んだり蹴ったりでしたね。
次回は臨海学校のきゃっはうふふ、な第二ラウンド! ……え、銀の福音? 紅椿? ……しばらくお待ちください。


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