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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 輝夏の先触れ
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/05/01 12:16
 私達は、水着を買いにレナンゾスに来ていた。色々とある水着を見ていると。
「香奈枝、これどう思う?」
「け、結構大胆なセレクトね」
「そう?」
 そこでフランチェスカが持ってきたのは、光沢のある黒い生地の水着だった。
生地の感じや色は、ISスーツと似ている。……しかし、私が大胆だと感じたのはそこではなく。
「だって、脇腹も足も、丸見えじゃない」
 その水着は、首から胸・お腹と、首から背中・お尻を縦『だけ』覆う生地で構成されていたからだった。
つまり、これを着ると胴体の横の部分――脇や脇腹などが丸見えなのだ。あと、胸やお尻の横の部分も目立つ。
フランチェスカはそれなりに良いスタイルをしているから、着こなせるだろうけど。
「でも、どうせ男子なんてほとんどいないじゃない」
「それはそうだけど……」
 片手で数えられる人数しかいないとはいえ、私にはそういう水着を着る勇気はなかった。
「それにこれ、ISスーツとそんなに変わらないよ? ハヅキが出しているみたいだし」
「そうなの? ……あら、本当だ」
 フランチェスカが身体に当てていた水着を見せてもらうと、ISスーツメーカーの一つ・ハヅキ社のロゴがあった。
どうりで、ISスーツと似ているわけだ。
「じゃあ、試着してみようかな。どうせ、試着はタダだし」
「まあ、そうね。着心地なんかは、実際に試さないと分からないし」
 ここの水着売り場の水着は、女性のみ試着可能。その上、試着した水着はクリーニングに出すというシステムになっていた。
女尊男卑の影響なんだろう。この町はIS学園に近い上に、有名人が出ているので影響も強い――とか、聞いた事があるけど。
「さて、と。私も選ばないとね」
 整備士を目指しているせいか洒落っ気が無い、といわれる私も女だ。こういう時くらいは、きちんと選ぼう。


「良かったわね、安く買えて」
「そうね。でも香奈枝って、やっぱり洒落っ気が薄いわよ」
 私達は、選んだ水着を手に食堂街に来ていた。昼食が軽めだったので、夕食までに何か軽く食べようとしたのだけど。
「う……どうしても、機能性とかを考えちゃうのよね」
 これも職業病(?)だろうか。生地の性質だとか、値段だとか、着心地だとかを優先して考えてしまい。
気がつけば、普通のスポーツ水着を選んでいた。フランチェスカに呆れられたのも、まあ仕方がない。……それにしても。
「……さっきから、何か凄く嫌な予感がするのよね」
「え、何で?」
「気のせいかもしれないけど、何か嫌な予感がするのよ。織斑君と誰かが買い物に来てて、他の娘達も来てて、それに巻き込まれそうな気が……」
「大丈夫よ、それ」
「え?」
「織斑君もこっちに来る予定があるけど、それは明日の日曜日だってデュノアさんが言ってたわよ」
 ……。と、いうことは。私が、彼を中心とする騒ぎに巻き込まれる事はない――ということ?
「フランチェスカ! 私は、人生で最高の幸運に巡り会えたわ!!」
「そ、そう……」
 神様、ありがとうございます。IS学園に入ってから初めて、貴方に心から感謝します。
「あれ? あれあれあれ?」
「おや、貴女は宇月さんではないですか。ここで出会うとは、奇遇ですね」
「都築さんと加納さん?」
 声の主は、ブラックホールコンビとして有名な二人だった。そういえば、さっきの女尊男卑の影響云々は、この二人から聞いたのだけど。
「貴女達も買い物?」
「ええ、そうです。それにしても、奇遇ですね」
「そうね」
 まあ、ここに買い物にIS学園の学生は多いので、誰かに会うのは必然だったのかもしれないけど。
「それにしても、まさかよりにもよって今日、女達と会うとは思いませんでした」
 よりにもよって?
「都築、忘れ物はこれでいいんだ……な?」
「え?」
 そこに駆けてきたのは、ブラックホールコンビと同じクラスの男性操縦者。つまりは、タカぼ……安芸野将隆君だった。
……うん、神様はよほど私が嫌いみたいだ。


「ロブと久遠とは、どうなの?」
「最近は……あまり会ってないな。合同授業もあまり無いしな」
 というか、何で私達は軽食喫茶で二人きりで話しているんだろう。ここに入ってみたら、席が空いていなくて。
誰かが二人席に座る必要が出てきて、そして私達二人が座る事になって。これじゃまるで、デートじゃ……。
「無い無い、ありえない……」
「何がだ?」
「う、ううん。何でもないわ」
 それにしても、何なんだろうかこのモヤモヤ感は。……ああ、そうか。今話題に出ている、久遠の事だ。
そういえば、最近私は彼女とロブに全然会っていない。織斑君と篠ノ之さん、あるいは凰さんとは違う事は分かっているけど。
何か、昔馴染みと疎遠になった事をさびしくでも感じているんだろう。……多分、そうだ。うん。
「……なあ、どうかしたのか?」
「え? ……あ、ううん、なんでもない。それで、なんだっけ?」
 いけないいけない。ぼーっとしていて、彼の話を聞いていなかったようだ。
「一夏とシャルロットって、どうなってるんだ? って聞いたんだ。……俺も、ちょっと気になってたんでな」
「あの二人? うん、まあ別々の部屋にはなったけど、仲良くやっていると思うわよ」
 あ、そういえば。
「貴方は、あの二人の事を知っていたの?」
「今だから言えるが、な。……まあ、俺もクラウスも彼女の意思を尊重してしゃべらない事にしていた。
……おかげであっちにいるブラックホールコンビからは、文句の言われっぱなしだ。今日、あいつらと同行したのもその一環さ」
「へえ……じゃあ、四組のドイッチ君も知っていたの?」
 ロブは、流石に知らなかったと思うけど。
「ああ、あいつも知っていた。……そういえば、あいつが最初に知っていたんだったな」
「そうなの? ……それにしても、まさかデュノア君がデュノアさんだったなんて、驚いたわ」
 うん、その前日に織斑君の事を色々と聞かれた時は、そうなるなんて夢にも思わなかったし。
「まあ、俺も最初聞いた時にはまさかと思ったが、な。……最初はあいつだけだったのが、クラウスと一夏が同時に知ってしまって。
で、クラウスから俺にも明かされて。それで、ロブ以外の男子で秘密を守る羽目になったんだった」
 へえ。ドイッチ君が最初に知っていたんだ。
「それにしても、ドイッチ君とデュノア君って、結構仲が良いって言われていたけど。その秘密云々もあったのかしら」
「多分、な。……それだけじゃ、無いかもしれないが」
 それだけじゃない?
「ドイッチ君って結構優等生っぽいのに、何か問題でもあるの?」
「優等生……か」
「ええ。織斑君とかブローン君みたいに、先生に殴られたりした事は無さそうだし」
「……いや。あいつも一度、織斑先生に風呂場で殴られていたけどな」
 へえ。ドイッチ君が織斑先生に殴られたの?
「でも、どうして? 彼の事はあまり知らないけど、何かあったの?」
「理由は、ちゃんとあるんだけどな。ただ、事情はちょっと言えないんだ」
「ふうん……でも彼でも、織斑先生の一撃は避けられなかったんだ」
「ああ。先生の一撃は、ほとんど動きが見えないくらい、早い一撃だったぜ。
倒れ方からすると、多分後頭部か首筋に打撃を加えたんじゃないかと思うが……」
「……そういえばあの人、以前にシュヴァルツェア・レーゲンを、打鉄用のブレード『葵』を使って生身で止めたって聞いたけど」
 ドイッチ君の頭、大丈夫かしら? 織斑先生も、手加減をしているとは思うけど……。
「俺、それを実際に見たんだが。……あの人、何者なんだ?」
「さあ……」
 織斑先生の正体が悪の組織に改造された改造人間や、宇宙人だったとしても。私は驚かないわね。
「宇月と、安芸野……?」
「え? し、篠ノ之さん?」
 聞き覚えのある声に振り向くと、何故か、篠ノ之さんがいた。何で、ここに?
「一人で来たの?」
「いや、鷹月や四十院達と一緒だ」
 彼女の指差す方に視線を向けると、確かに鷹月さんや四十院さんがいた。彼女達は、フランチェスカと話しているようだ。
「えーと、一応聞いておくけど織斑君達は?」
「いや……一夏達は今日予定があったため、駄目だった。残念だが、日程が合わなかったのだから仕方あるまい」
 結構、冷静ね。……いや、デュノアさんとの事を知らないだけだろうか?
「それよりも、すまんな。邪魔をしてしまったようだ」
「じゃ、邪魔って……え?」
 思わず、目の前の彼と見詰め合ってしまった。……って!
「ち、違うわよ?」
「そ、そうなのか? すまん」
「い、いや、謝る事じゃないけど……」
 ちょっと、驚いた。彼女さえ、そういう事を言うのかと。




「やれやれ。けっこう大変だな、これも」
 レナンゾスを、安芸野将隆は歩いていた。その手には、ジュースが二つ。
自身のものと宇月香奈枝のジュースを、買いに行っていたのである。二人で買いに行けばいいだけの話なのだが。
「……彼女とは何かがずれるんだよな」
 思いがけず再会した昔馴染み・宇月香奈枝。……互いが新しい環境の中での生活に手一杯、という事もあってかあまり交流はなかった。
今も、昔飲んだジュースの話題が出てきて、それをレナンゾス内で見たと将隆が言ったのがきっかけとなり。
香奈枝が『私も飲んでみたいわね』と言い、それで彼が買いにいく羽目になったのだが。
最初は面白がって『二人で買いに行けば?』と言う二人組がいて、少々揉めたりもした。
「まあ、関係ないよな」
 何かすっきりとしない感じを持ちながら、将隆は歩いていた。その感じの分だけ、注意力が散漫になっていたのだろう。
女性が目の前に座っており、その女性とぶつかる距離に自分がいたと気付いたのは、ぶつかった瞬間だった。
「きゃっ!?」
「や、やば……」
 そして、彼の手に持っていたジュースが二つとも女性にふりかかっていた。女性のスーツの胸元の辺りから、スカートまで。
更にはストッキング、ヒールの辺りまでが、ジュースで濡れていた。
「な、何するんのよ、あんた!!」
「す、すいませんっ!」
「これ、私のお気に入りだったのに!! どうしてくれるのよ!! ああもう、これだから男っていうのは!」
「ほ、本当にごめんなさい!」
「ごめんですむと思っているの!? どんな躾をされているのから、まったく!」
 ヒステリックにわめく女性。どうやら女尊男卑が強い女性らしく、将隆に向ける言葉は必要以上に険しい。
……だが、将隆にとって幸運だったのは。そのヒステリックな声が、彼の知り合いを呼び寄せた事だった。
「あの、どうしたんですか?」
「この男が、持っていたジュースを私の服にぶちまけたのよ!!」
「そ、そうだったんですか? ご、ごめんなさい」
「――? どうして貴女が謝るのよ?」
「そのうちの一つは私が、彼に買って来てもらったジュースなんです。だから――」
「あら、これが貴方の男なの? ちゃんと躾をしておきなさいよね」
 その言葉に、将隆も香奈枝も一瞬茫然自失し。そして女性の言葉を理解し。
「おとっ……そ、そ、そういうわけじゃ!!」
「そ、そうです! 俺とカナちゃんは、ただの幼馴染みで……」
「デートしに来たんじゃないの?」
「ちちちちちち、違いますっ!!」
「そ、そうそう! 俺達は別に、そんな仲じゃ……」
「……」
 二人の泡慌てっぷりに毒気を抜かれたのか、女性のヒステリーがやや和らいだように感じる。そこに、他の面々もやってきた。
「宇月、大丈夫か?」
「どうしたの、将隆君」
「おやおや、トラブルですか?」
「うわ、何か美少女が集まってきたぞおい。外人の子もいるし……」
「何あれ、アイドル集団? ……あ。もしかして、IS学園?」
「な、なんなの貴女達? この男の知り合いなの?」
 箒、フランチェスカ、静寐、神楽、空、恵乃などいずれも平均を超える美少女ぞろい。それらが一気に集まり、人々の注目も集まり。
女性もややたじろいだようで、将隆に向ける視線も弱弱しくなっている。
「どうしたんですか、一体?」
「いや、俺がこの女性にジュースをかけちゃったんだ。それで……」
「そういう事ですか。――では、クリーニング代としてお納め下さい」
「え、えええ!?」
 何事もなかったかのように、ブラックホールコンビの片割れ・都築恵乃が一万円札を取り出した。
女子高生にしかみえない(というか、本物の女子高生なのだが)彼女が高額紙幣を取り出したことで、女性もさらにたじろぐ。
「な、何で貴女がそんなことをするのよ?」
「まあ、彼には色々とお世話になっているので。――それとも、年下の子供から賠償金を受け取るのはお嫌ですか?」
「う……」
 女性も、何もいえなくなってしまった。ここで受け取っては、明らかに自分のイメージが悪くなる。
どう見ても自分より年下の『子供』からこんなものを受け取れば、自分がどう見られるか。それが分かる程度には、冷静だった。
「まったく……! ああ、せっかく新しい水着を買いに着たのに、こんな気分じゃ買えないわ! 明日にしましょう!」
 わざとらしくヒステリックにわめきながら、女性は去っていった。
まだざわめく観衆を残し、IS学園の生徒達は、騒ぎを聞いて駆けつけた店員に事情を説明して悠々と去るのだった。


「……それにしても、驚かされたわね。都築さんが、一万円札を普通に出した時には何事かと思ったわ」
「そうね、フランチェスカ」
 学園に向かうモノレールの中では。先ほどの一幕が一組と三組の面々の話題に上っていた。
「ああすれば、彼女もこれ以上何も言えなくなるでしょうから。まあ、本当にあげても良かったのですがね」
「金銭で解決、というのはあまり好ましいとは言えないが……」
「まあ、篠ノ之さんの言うとおりなんでしょうけど。あの女性、見栄っ張りそうでしたからね。こういう手が有効だと思ったんですよ」
「……怖いやつだな」
 やや人の悪そうな笑みを浮かべる恵乃に、将隆が少し引いた。そんな中、話が女尊男卑の方へと向いていく。
「躾とか言っていたけど、やっぱりアレも、女尊男卑の悪影響なのかな?」
「あそこまでヒステリックなのは珍しいけどね……」
「いや、流石に今回は俺が悪いからな。よそ見してて、あの女性にジュース掛けちまったし」
「そもそも、ジュースを頼んだ私にも責任があるわよ」
「いや、やっぱりぶつかった俺が――」
「そこまでにしておいたら? もう、終わった事だし」
「む……」
「う……」
 自己責任のループ会話になりかけた将隆と香奈枝を、静寐が止めた。止められた方は、なんとも言えない表情になり。
「……ふむ、安芸野君と宇月さん、怪しいですね」
「……これはもしかしたら、もしかするかもね」
「え、どういう事?」
「だから……」
 それを見ていた一部の面々は、想像力を働かせるのだった。


「香奈枝、例の件は決めたの?」
「うん。――受けようと思うの」
 2016号室では、香奈枝がフランチェスカの質問に答えていた。それは、臨海学校二日目の白式の整備補助の事。
ルームメイトに負わされた選択を、フランチェスカも心配していたのだが。
「でも、良いの? また彼らの騒動に巻き込まれるのに」
 その言葉は、断定だった。もっとも、事情を知る者ならば誰でも断定になるであろうが。
「ええ。……じつは、あれから黛先輩や虚先輩にも話を聞いたの。そうしたら、経験は積んでおくべきだって言われたわ」
「それはそうかもしれないけど……」
「そんなに心配そうな顔をしないで。もう、無理はしないから」  
「でも、香奈枝だし……」
「し、信用ないのね私」
「そりゃあ、ね。先輩達からも言われなかった?」
「う」
 香奈枝が、酸っぱい物でも飲み込んだような顔になり。フランチェスカは、自らの予想が当たっていたことを悟った。
「じゃあ、織斑先生の所にはもう言ったの? 確か明日、香奈枝の家に家庭訪問だって聞いたけど」
「それが、織斑先生が今日は不在で。だから、明日にならないと言えないのよ」
「大変ね」
「ええ。まあ、これも経験だと思ってがんばるわ」
「なんだかなあ……」
 しみじみと呟くルームメイトが、疲れきったサラリーマンのように見えた……とは口にしないフランチェスカだった。




「……粗茶ですが、どうぞ」
「ありがとうございます」
 日曜日。レナンゾスより車で十数分の位置にある、宇月家。この家に、間違いなく過去最大級の大物である来訪者がいた。
その名は織斑千冬。この家の唯一の子供である宇月香奈枝の担任である彼女が、本人を伴い来ていたのだった。
「あ、あの織斑先生。娘に、何かあったのでしょうか? 赤点をとったとか、問題行動があったとか……?」
「あらあら……大変ねえ」
「いいえ。むしろ宇月香奈枝さんは、優秀な生徒だと言えるでしょう」
 香奈枝の父・宇月宏一(うづき こういち)が不安げにいい、母・美乃理(みのり)がおっとりと言う。
父親に生徒の面影を、そして母親には他人の筈の自分の受け持つ別の生徒のような雰囲気を感じつつも、その懸念を完全否定した。
「そ、そうなのですか。それでは、今日は一体どうしたのでしょうか?」
「はい。私の弟……織斑一夏の事は、ご存知ですか?」
「ええ。確か香奈枝とは中学校の三年間同じクラスで、史上初の男性操縦者となったと聞いていますが……?」
「お聞きになっているかもしれませんが、本年度も同じクラスです。そして今、彼は白式という専用機を預かっています」
「まあまあ。確か専用機って、優秀な人にしか与えられないって香奈枝から聞いた事がありますけど……弟さんは、優秀なんですね」
 100%本気で褒めている美乃理の口調だが、千冬は何も動じなかった。その代わりに、鞄の中から書類を取り出し。
「ただのデータ取り目的です。それはさておき。
じつは、その白式の整備を明後日の一日間だけですが、香奈枝さんに頼みたい……と話が持ちかけられました」
「あらあらまあまあ……」
「え? か、香奈枝がですか? しかも、明後日だけというのは、一体何をやらせる気なんですか?」
「明日からの臨海学校で、いくつか専用機を預かる人間が行わなければならない作業があるのですが、その補助です。
白式は、倉持技研という所から織斑に預けられた機体なのですが、その倉持技研からの要望です。
操縦者である織斑本人も、香奈枝さんがそれを行う事に関しては賛成のようです。そして香奈枝さん自身も、それを受諾しようとしています。
ただ、今回の事は彼女の将来を決めてしまう可能性もあります。だからこそ、ご両親にもお話を、という事で御伺いしました」
 この家の娘に飛び込んできた、とんでもない案件の説明をしたのだった。
「あらあらまあまあ。それって、凄い事なんですか?」
「ええ。通常であれば、ISの専門整備は二年生からでしょう。一年生で専用機の専門整備、というのは異例です。
専用機を受領している生徒は一年生でも十名ほどいますが、専門整備という役目についている生徒は存在しません。
全て、受領している生徒自身が整備しています」
 正確にはクラウス・ブローンの機体は従兄妹で三組副担任補佐のゲルト・ハッセが中心に整備をし。
そして最年少操縦者のロバート・クロトーの機体はお目付け役兼世話役の一場久遠が整備を担当しているのだが。……閑話休題。
「将来を決める可能性もある、というのはどういうことなでしょうか……?」
「倉持技研は、既に娘さんを将来の有望株として見込み、囲い込もうとしているという事です。もちろん、悪い話ではありません。
ただ、繰り返しになりますが彼女の将来を決めてしまう可能性もあります」
 淡々と。だが、しっかりと要点を宇月夫妻にも分かりやすく説明する千冬。
……ちなみにこれをちゃんと説明するために、千冬が副担任相手に練習したのは、彼女達だけの秘密である。
「なるほど。……では私達が聞きたいのは、一つだけです。――香奈枝自身は、それをどう受け止めているのでしょうか?」
「……わ、私としては、これも経験だと思ってる。だから、やってみようと思うの」
 そして、今までじっと黙っていた香奈枝が口を開いた。その声には緊張が強くこめられたが、意思は明確だ。
「じゃあ香奈枝は、その白式というISの整備をやってみたいのね?」
「う、うん。一般生徒である私に、そういう機会なんて滅多にないし。パッケージのインストールとか、新武装の搭載実験とか。
今の私じゃ、まだやれない体験ができるの。……だから、やってみたいと思ってる」
 父親の、そして母親の問いにも明確に頷く娘。それを見た両親は、目線を合わせると娘の担任教師に正面から向き合い。
「私たちとしましては、娘の選択を尊重したいと思っています。その、白式……というISの専門整備。
香奈枝がそれを受けるつもりならば、私達はそれについて、何もいうことはありません。
もしも、何らかの必要な手続き等がありましたら、こちらに送ってくだされば行いましょう。……よろしく、お願いします」
「こちらこそ。愚弟が、娘さんにご迷惑をおかけします」
 互いに、礼をしあうのだった。


 家庭訪問も終え、学園からの迎えの車が宇月家を出発していた。その後部座席には、千冬と香奈枝が身体を預けている。
「私は次の用事があるからもう戻るが、お前は良かったのか? 何なら、少し家族と過ごしてもかまわなかったのだが」
「いいえ、あまり里心がつくのもよくないですから。――夏休みになってから、ゆっくりと戻ります」
「そうか。……くれぐれも、無茶はするなよ」
「はい」
 そんな会話が続く中、千冬をレナンゾスで降ろし、車はIS学園用のヘリポートへと向かう。
そこから更にヘリコプターや車を乗り継ぎ。午後の時間を整備課で過ごした香奈枝が学生寮に戻ったのは、既に夕食時であった。




「いやー、いい天気だな。明日からも晴れみたいだし、臨海学校も楽しみだな」
「そ、そうだね」
 七月五日。臨海学校前日の日曜日は、まさに快晴だった。俺とシャルはモノレールに乗り、レナンゾスに向かっている。
幾人か同じ用事であろう女子生徒がいたが、何やらヒソヒソと話しているだけだ。
……もしもシャルの事で何かいってきたら、と警戒していたが、幸いにもそんな様子はないようだ。
「ね、ねえ一夏。僕の私服、どうかな?」
「おう。いいと思うぞ」
「そ、そう? 良かったぁ……」
 今日のシャルの服装は、白いブラウスとふんわりとしたティアードスカートだった。
何でも、通信販売で注文したものらしい。……シャルはこの間まで男子のふりをしてたから、こういうのを持っていなかったんだよな。
「ね、ねえこれを見て、一夏。ここの喫茶店のカフェラテって、美味しそうだよね?」
 と、笑顔のシャルの取り出したそれは、本日の目的地・レナンゾスのチラシだった。
「あれ? シャルが、何でそれをもってるんだ?」
「レオーネさんから貰ったんだよ。前に、彼女や宇月さん達とも行ったんでしょ?」
 ああ、あったな。箒やセシリア、鈴とも一緒に。
「そうだな。前は行ってなかったけど、新しく出来た店みたいだし……ここで、飯にするか?」
「うん!」
 シャルは、ものすごく嬉しそうだった。……誘ってみて、良かったな。


「やっぱりすごい人だかりだな」
 いつもながら、ここは人が大勢いて。気をつけないと、はぐれてしまいそうだった。
鈴や宇月さんのようにこの場所をよく知っているならともかく、シャルは初めてだから、気をつけないとな。
「……あ、あのね一夏。僕、このレナンゾスっていうところは、は、初めてなんだよね」
「ああ、そりゃそうだな」
 と思っていたら、シャルも同じ事を考えていたのか。そんな事を言い出した。
「だ、だからさ。その……は、はぐれちゃうといけないから、あの」
「そうだな。じゃあ、手を繋ぐか?」
「ええええええええええええええええええ!?」
 な、何でそんなに驚くんだ? 嫌だったのか?
「ほ、本当に良いの!? 僕で、いいの?」
「あ、ああ。それじゃ、いくか」
「あ……」
 そろそろ開店時間なので、シャルの手を引っ張る。勿論女の子だから、そんなに強くは引っ張れないが。
「……こ、こんなに上手くいくなんて。う、嘘みたい……」
 何か言っていたようだが。人の多さを気にしていた俺は、それを聞き流したのだった。




「おー。おりむー、でゅっちーの手を握っているねえ」
「……握ってましたわね」
「……握っていた」
 その後ろから、二人を見つめる視線が合った。セシリア・オルコット、更識簪、布仏本音の三名。
元々、出かける際に一夏と出会った本音が、今日の買い物の一件を知り。
そして一緒に行こうと誘う本音と、偶然にもそれを知ったセシリアに引っ張られて簪もやってきたのだった。
楽しそうな本音に対し、セシリアと簪は手を繋ぐ二人を射抜かんばかりの視線を向ける。
「それじゃー、私達も一緒に行こうかー」
「ま、待って本音、まだ、こ、心の準備が……」
「そ、そうですわ。口実というのも大事なのですわよ!」
 無邪気に合流しようという本音を、セシリアと簪がとめる。勿論、二人も合流したくないわけではない。
だが、どうやって合流するのか。一夏らをつけてきた、とは言いたくない二人が、口実を求めていたからだった。
「おーい、おりむー」
「え? あ、のほほんさん? それに、セシリアと簪も……?」
 だが、相手は学年一・二を争うマイペース娘の布仏本音。巧妙に代表候補生二人の拘束をかいくぐり、一夏へと声を掛けた。
なお、一夏からは見えなかったがシャルロットが絶望の表情になったのは言うまでもない。
「ご、ごきげんよう、一夏さん。き、奇遇ですわね!」
「こ、こんにちわ、い、一夏……」
「どうしたんだ? 三人とも、買い物か?」
 あくまで上品な姿勢を貫かんとするセシリア、何を言っていいのか分からない簪、そんな心中を理解していない一夏。
カオス空間が広がっていた。代表候補生二人は、どうやって合流を申し出るかと頭を悩ませていたが。
「そーだよー、買い物に来たんだー」
「そっか。じゃあ、一緒に買い物に行くか?」
「ええ! 喜んで!」
「う、うん!」
 そんな必要もないのだった。一方、まだ手を繋いでいたシャルロットはというと。
「……分かっていたよ、こうなるって事。あはは……」
 空虚な笑いを浮かべるしかなかったのだった。




「うまうま♪」
 今、私達は買い物を一段落させてベンチに腰掛けていた。一夏は、ジュースを買いにいってくれている。
ちょっと申し訳なかったけど、じゃんけんで決めた結果だからしょうがない。
そしてオルコットさんとデュノアさんは、私の貸した携帯ゲーム機にくびったけだった。
「……ところでかんちゃん、おりむーに『簪』って呼ばせてるのー?」
 そんな中。クレープを頬張っていた本音が、少し小さな声で問いかけてくる。――それは、いつもの本音とは違っていた。
「分かってる、よねー? それって……」
「う、うん……」
 下の名前で呼ばせる事。それは私達、更識の家の女にとって、とても重要な事。本音が指摘するのも、当然だった。
「そっか。じゃあ応援するよー、かんちゃんのことー」
「え?」
「おりむーは唐変木だけど、悪い人じゃないしー。大丈夫だよー」
 そこにはクレープを平らげ、いつものように笑っている本音がいた。
「い、良いの?」
 虚さんだったら、きっと何かを言ってくると思うんだけど……。
「悪いわけ、ないよー。じゃあ、これからはおりむーの情報をかんちゃんに渡そうねー。どこのアリーナに行くとか~」
「え? で、でもそんな……」
「大丈夫だよー。かなみーも、時々りんりんに情報を流しているみたいだったからー」
「宇月さんが、凰さんに……?」
 そう、なんだ。……私も、彼女に頼むっていう方法もあったのかな?
「それじゃ、かんちゃんもおりむーに向けて突撃だー」
「ま、待って本音……!」
「え? な、何だ?」
「あ! な、何をしていますの更識さん!」
「ず、ずるいよ!」
 ジュースを買ってきてくれた一夏が見え、本音が私の腕を引っ張って突撃する。
困惑する一夏、出遅れたとばかりに追いかけてくる二人。……めちゃくちゃな空気だけど、それが何処か心地よかった。




「うう……せっかくのデートだったのに」
 水着コーナー。予定なら、どんな水着がいいか色々と選び。で、出来たら一夏に見せてみたいな……と思っていたんだけど。
僕と同じ事を、全員が考えていたようで。一夏に興味のなさそうな布仏さんまで便乗して、一夏に水着を見てもらっていた。
オルコットさんや簪さんは代表候補生としての『着なければいけない水着』もあるはずなのに、それとは別に選んでもらうって言っていたし。
「はあ……」
「どうしたんだ、シャル。ため息なんかついて」
「唐変木の誰かさんのせいだよ……って、一夏!?」
 振り向くと、そこにはオルコットさんと一緒にいる筈の一夏がいた。
「も、もう終わったの?」
「ああ。セシリア曰く『残念ながら、ここにわたくしに相応しいものはないようですわね』って言う事らしい」
 なるほど、ね。でも、事情はいいんだ。ここに一夏がいる、それが大事なんだから。
「じゃ、じゃあ僕の番だよね? い、一緒に来てくれるよね?」
「おう。……とはいっても、また絡まれたくはないけどな」
「絡まれる?」
 何の事か、と思ったけれど。一夏が簪さん・布仏さんと一緒にいた時、一夏に水着を片付けさせようとした女性がいたらしい。
その時は、女子二人が上手くカバーしたらしいけれど。
「そういう人もいるんだね」
「まあ、ストレスが溜まっていたんだろうけどな。何か、昨日は女を引き連れていた男にジュースをかけられたとか言っていたし」
 ……一夏って、優しいね。普通、そんなことを言われたら怒る筈なのに。それにしても、女性を引き連れている男性、かあ。
まるで一夏だね。一夏みたいな人が、他にもいるんだ。
「ところでシャル、水着の候補は絞ってあるのか?」
「う、うん。いくつかあるんだけど……」
「そっか。じゃあ、着替えたら見せてくれるか? 俺はその間、何処か行ってるから」
「あ……」
 ようやく僕のところに来てくれた一夏が、また行ってしまう。二人きりの時間は、もうほとんど取れないだろう。
そう、12時になると消えるシンデレラにかけられた魔法のように、時間は少ない。――そう思った瞬間、僕は一夏の左手を掴んでいた。
「し、シャル?」
 戸惑う一夏の声を聞こえないふりをして、僕は更衣室に入る。左手には候補の水着を、そして右手には――。一夏の手を掴んだまま。
「お、おいシャル!? な、何を……うわあっ!?」
 一夏の戸惑う声がするけど、それも聞こえないふりをして、僕は更衣室に一夏と共に入る。
そして彼を奥に押し込んで、一気にホワイトブラウスを脱いだ。今日のデートの為の、とっておきの装いだったけれど。
「し、シャルロットさん? ど、どういう事なんだ?」
「こ、ここにいて、一夏!」
「で、でも俺は――」
 困惑して、固まっているであろう一夏に背を向けながら。僕は次にライトグレーのタンクトップを脱いだ。
……一夏が、思いっきり硬直するのが背中越しにでも判る。
「お、おい、これ以上は洒落にならないって……」
「ど、どうせ今までだって同じ部屋で着替えていたんだから、大丈夫だよ!」
「そ、そうなのか? え? いや、でも……」
「だ、大丈夫だから! ま、待ってて!」
 無理矢理一夏を納得させ、僕はスカートを脱ぐ。……ううう、ものすごく恥ずかしいけど。
こんな事がなければ、絶対にやらなかっただろうけど。それから僕は、一夏の感触を感じながら水着に着替えた。


「もう、着替え終わったから……い、良いよ?」
「お、おう」
 そして、とうとうお披露目の時が来た。へ、変じゃないかな僕? 水着を着るなんて、本当に久しぶりだし。
ああ、それともこの水着、大胆すぎるのかな? む、胸が強調されて、いやらしく見えてないかな!?
「ど、どう、かな……?」
「お、おう! そ、それで良いと思うぞ!?」
「そ、そう? ほ、本当に? 嘘じゃないよね?」
「う、嘘なわけないだろ!」
 大慌ての一夏が、少し笑えてしまう。唐変木だけど、ちゃんと、僕にこういう風な態度をとってくれているんだ……。
「と、とにかく、もう良いな? 俺は、出てるから!」
 そして、一夏が大慌てで僕の横を通り抜けて更衣室のカーテンを開く。――そこには。
「予定を早めて来てみれば、何をやっているんだ馬鹿者ども……」
「               」
 織斑先生の呆れた声と、山田先生の声にならない悲鳴がして。僕の冒険は、終わりを告げた。




「やれやれ、要らん気遣いをするものだな……」
 あれから、俺とシャルは山田先生からの説教を受け。それが終わると、山田先生がシャルやセシリア達を連れて行った。
それが、俺と千冬姉とを姉弟水入らずにしようとしていた、と気づいたのが千冬姉が嘆息した後だった。
「え、えーっと、織斑先生?」
「今は就業中ではないから、名前でいい。この場では、只の姉弟だ」
「わ、分かった、千冬姉。そういえば、千冬姉達も水着選びに来たのか? 確か、宇月さんの家に家庭訪問だって聞いてたけど」
「ああ、それが終わったのでな、山田君と早めに合流した。――ああ、そうだな。一夏、私の水着を選べ」
「へ?」
 俺が、千冬姉の水着を?
「男の視点、というのも参考にしたいのでな。――候補としては、この二つなんだが。お前は、どっちが良いと思うんだ?」
「え……? えっと………」
 それは、白と黒の水着だった。黒い方はメッシュ地のクロスがセクシーな、スポーティーなタイプ。
白は一切の無駄を省いた、機能性重視な実用タイプ。両方共、露出の多いビキニだ。
(どっちが良いか……か。どっちも千冬姉には似合ってそうだし……俺的には黒、かな? いや、待てよ?)
そう思って、考え直す。こういう物を着ていると、変な男が寄ってくるかも知れない。そう考えるとここは、白の方が良いかも知れない。
「じゃあ、白で」
「では黒だな」
「ちょ、ちょっと待てよ?」
「何だ?」
「俺は白って言ったのに、何で黒にするんだ!?」
「お前は本当は黒がいいと思ったのだろう? 昔からお前には、気に入った方を注視する癖があるからな。バレバレだ」
「んげ……」
 た、確かに最初は黒の方が良いと思ったけど……。
「どうせ『黒を着たら、千冬姉に変な男が寄ってくるんじゃないか?』などと、考えていたのだろう?」
「う……」
 そこまで読まれていたようだった。俺って、そんなにわかりやすいのだろうか。
「ちなみに臨海学校の宿舎は、学園の貸切だ。旅館にも女しかいないぞ。つまり男はお前、安芸野、ブローン、クロトー、ドイッチだけだ」
「そ、そうなのか」
 まあ、普通に考えてみればそうだろうけどな。普通の女子高なら兎も角、ここはIS学園なんだし。
「まあ、男が寄ってきたところで今はそんなつもりはない。手のかかる弟が自立するまで、そんな事に気を回すつもりはないからな。
それよりも……一夏、お前はどうなんだ?」
「え、俺?」
「そうだ。女だらけの学園だ、選り取りみどり、だろう?」
 選り取りみどりって……。そういえば、昔これの事を黄緑色と同じ、緑色の一種だと思ってたなあ。
「……まじめに考えろ。お前も、もう高校生だろうが」
「い、今はそんなつもりはないよ」
「そうか。……まあ、それならそれでいい。さてと、戻るか」
「え、もう戻るのか?」
「まあ、用事は済んだからな。お前達はどうするのだ?」
「もう一つ用事があるから、そっちを済ませたら戻るよ」
「そうか。――七月七日の事か?」
 ……うん、どうも俺の考えは全てお見通しのようだった。
「まあ、あまり騒動を起こすなよ?」
 そういうと、千冬姉は俺の選んだ水着を手に取りレジの方へ向かった。その姿は、わが姉ながら格好いいと思う。
「……一夏、もう織斑先生との用事は終わったの?」
「先生も、水着を選んでおられたようですけど……」
 するとそこへ、山田先生と一緒にいた皆がやってきた。先生はいないが、千冬姉と一緒に戻ったのだろうか。
「ああ。もう戻るってさ。俺に水着を選ばせたら、用事は終わったらしい」
「おりむーが、織斑先生の水着を選んだの?」
「ああ」
 すると、のほほんさん以外の皆が顔色を変えた。はて、何でだろうか?
「……やっぱり、ラスボスは織斑先生」
「同感ですわ、簪さん。――ここは第二次英日同盟といきませんこと?」
「ま、待って。僕も、加わるよ」
「うん。じゃあ、日英仏、新三国同盟だね……」
 うーん、さっぱり判らない。何を言っているんだろうか、この三人は。
「かんちゃんも、苦労するねー」
 唯一会話に加わっていない、のほほんさんまでもが俺を呆れた視線で見てくる。……何でだ?


「宇月さんが、か……」
 さっきまでいた食堂で、千冬姉から聞かされた内容。それは、明日からの臨海学校の二日目――つまりは明後日。
その日、倉持技研から白式用に色々と試してほしいものが届くらしいのだが。
その作業の補助を、宇月さんに頼むという話が正式に決まったとの事だった。
俺も以前、彼女や千冬姉達、それと倉持技研の加納さんとかいう人と一緒に話をしたので、内容は知っていたけれど。
「また彼女に迷惑をかけることになるなあ。……今度、何かしないといけないな」
 こうなると、何かお返しをしないといけないだろう。とはいえ、俺が彼女に出来る事は限られている。
操縦関係くらいなら俺にも多少の経験はあるが、学年別トーナメントも終わった今、彼女がそれほど必要としていないみたいだし……。
「お菓子か何かでも、奢るかな?」
 俺も、多少蓄えはある。お金に頼るのは友人関係として正しくないかもしれないが、これ位しか思い浮かばない。
……あ、そうだ。フランチェスカ辺りなら、いいアイディアを出してくれるかもな。
「今度、聞いてみるか。……ん? ――げ」
 部屋に忘れていた端末に振動があり、開いてみるとそこには不在着信履歴が7つ並び。そして全ての通話相手の欄には『鈴』とあった。
そして、8つ目の着信が届いている最中であり。俺が、慌てて通話モードにすると。
『遅い! ったく、何処をフラフラしてたのよ!』
「……開口一番にそれかよ」
 懐かしくも賑やかな、鈴の怒鳴り声がした。そりゃ、電話に出られなかったんだから仕方がないけどな。
『し、しょうがないじゃない! ようやく時間が取れたから、あんたに声を聞かせてあげようと思ったら、三時間も不在だし!』
「ああ、二時間半くらい、アリーナで訓練をしてたんだ。で、今終わってから飯を食って、部屋に戻ったところだ」
『そ、そうなんだ。じゃあ、しょうがないわね……じゃないわよ、ちゃんと端末持ち歩きなさいよ!
訓練中はともかく、それが終わってからなら気がつけたでしょうが!』
 う、まあその通りなんだが。
「悪い。それよりも、そっちはどうなんだ? 電話すればよかったのかもしれないけど、調査とか色々大変だろうから遠慮してたんだが」
『……別に、遠慮なんてしなくていいのに』
 ん? 何だって?
『そ、それよりも、こっちならもう一段落ついたわ。甲龍にも、問題は無し。まあ、当然だけどね!』
 問題なし、か。……俺の推論は、言うべきだろうか。……いや、今はいいか。
「そっか。……って事は、戻ってこれるんだな?」
『当たり前でしょ! それよりも、トーナメントはどうなったのよ。何か、中断されたみたいだけど』
「ああ、それは……」
 俺は、鈴に手短に鈴が中国にいってからのトーナメントの経緯を説明した。
『……ふうん。そんな事になってたんだ。それにしても、あんたも情けないわね。更識とタッグを組んでいた子の罠に嵌るなんて』
「うっせ。まあ、彼女は本当に強かったな」
 マルグリット・ドレさん。彼女は、本当に強かった。力量云々ではなく、心が。
『しっかし、ドイツのアイツが四組の男に負けて。で、その男が箒に負けるなんてね。そっちも驚きだわ』
 まあ、な。箒が勝った時は、アリーナ中が大騒ぎだったし。
「そういえば、お前はいつ戻ってこれそうなんだ?」
『ふっふっふ。――臨海学校に、現地で合流するわ』
「マジか!? 間に合って、良かったな」
 正直、今日まで戻ってこれなかったからアウトだと思ってたんだが。
『まあ、色々とギリギリだったけどね。中国の方も、パッケージのテストとかあるから急がせたのよ。……あたしだけ、負けたくないし』
 ああ、さっきの宇月さんに頼むことが決まった試験の絡みか。しかし鈴は、何に負けたくないというのだろうか? まあ、それはいいか。
「鈴。俺達も、二組の女子も待ってるからな。一秒でも早く戻ってこいよ」
『うん、ありがと。……じゃあ、また明日ね!』
 また明日。いつも言っていた台詞が、ここまでうれしかった事はない。
色々とゴタゴタもあったけれど、これで臨海学校にはちゃんと全員がそろうんだな。良かった良かった。




「……ドールの方は、どうなっている?」
「順調です。Ⅹデーまでには、全て仕上がるでしょう。その日こそ、ISの落日の始まりなのです」
 その声の調子は、明らかに高揚していた。質問をする方も、される方も。興奮を隠せないでいる。
「そうか。――猟犬は、数がそろっているのか?」
「はい。コードネーム『フィッシング』や『ヤヌアリウス』他、いつでも出られる、と」
「よし。だが、準備を怠るなよ」
「はい、大尉!」
「……」
 大尉、と呼ばれた髭面の男の表情が、わずかに強張った。そして呼んだ方の若い男も、顔を青ざめさせる。
「も、申し訳ありません! 何度も、直すように言われたのですが……」
「かまわん、正確には『元』大尉だ。まあ、いい」
 髭面の男が、まるで噴火寸前の火山のような表情になる。それは、数年間溜め込まれた鬱憤と怒りという名のマグマ。
それを、押さえ込まんとしている表情だった。だがその表情が一変するような、抑揚の薄い声がかけられる。
「ドレイク・モーガン。預けた『アレ』は使いこなせているか?>
「ドクトル・ズーヘ……!」
 髭面の男――ドレイク・モーガンが振り向いた先には。ドールの開発者であり、謎多き人物、ドクトル・ズーヘがいた。
だが、山羊の頭蓋骨を数頭分は使用した巨大な仮面を被り。きらびやかな宝石を多数彩ったベルトを身につけ。
それ以外の部分は、黒い外套に覆われているという異形の姿だった。
手足も手首や足首だけが覗くが、高級時計を身につけたその手首は気味が悪いほどに白く染められ、それでありながら手袋は黒い毛皮の手袋。
靴もまた黒い毛皮で仕立てた靴であり、これではとてもまともな人物に見えるはずもなく。ドレイクの顔も、わずかに歪んでいた。
「アレを使いこなせれば、その望みは適うだろう……>
「分かっている。……ISに奪われた空を取り戻すためにも、使いこなして見せよう」
「それでいい……>
 そう呟くドクトル・ズーヘはそれ以上何を言うこともなく去っていく。
ドレイクも、彼を大尉とよんだ若い男も、薄気味悪そうな視線を向けそれを見送る。
「や、やっぱり何か薄気味が悪いですね……。ドールの開発成功以来、あの仮面と黒尽くめの格好を止めたらあんな姿になりましたし……」
「だが、ISに対抗するには絶対に必要な人物だ。――だからこそ、俺はここに来たのだからな」
 そういうと、ドレイクはズーヘの去った反対方向を見上げた。そこには、美女を連れた男が気だるそうに開発状況を見ている。
それこそが、カコ・アガピのトップであるクリスティアン・L・ローリーであり。
そしてここは、そのクリスティアン達の策謀を実行するための実動機関の一つなのだった……。


 ドクトル・ズーヘの台詞が「~~~~>なのは仕様です。誤字ではありませんので、あしからず。
格好に関しては、ノーコメントです。そしてようやく臨海学校本編に突入です。……長かったなあ。


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