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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2015/02/17 08:06
「空虚な人形だな、君は」
 俺の言葉を受け、信じられない、といった表情を浮かべてラウラは沈んだ。俺の知る『原作』では、楯殺しを喰らってからの僅かなタイムラグ。
それで『アレ』が発動した。だから俺は、一瞬で彼女の意識を刈り取る事にした。……まあ、失敗しても万が一の備えはしてあったが。
「新型武装『コルヌ・デ・ミコ』か。初めて使ったが、上手くいったな」
 ラテン語で『閃光の角』の意味を持つ武器。シャルの持つ楯殺しの進化形と言えるこの武器は、俺の対ラウラ戦の切り札だ。
攻撃力、一撃の速さ、連射性能、最大装弾数……全てにおいて楯殺しを超える、強力な兵装。
ちなみにこれは衝撃砲同様、トリガーにのみイメージ・インターフェイスを搭載しているめ、第三世代型武装に分類される。
威力も、物理攻撃タイプでありながら、イメージ・インターフェイスにより加減が可能な仕組みだ。
まあ、ラウラに対策を立てられる危険性を考え、今までの試合・模擬戦で使う事は出来なかったが。
「これも、万能兵器ではないからな」
 この武器の欠点としては、量子変換した場合にかなりの容量を圧迫される為に、外付け武装にしかできない事。
そして生産コストと生産時間が通常武装よりもかなり必要となる為に、量産機への配備は考えられていない事がある。
どんなに性能が高くても、生産に支障をきたす存在が『兵器として』正しい存在であるかといわれれば残念ながらNOだ。
だから、イグニッション・プランにも出せていないし、今のところオムニポテンス以外に装備される計画は無い。
もっとも後者の欠点は、俺が使う分には何の問題もないのだが。
『シュヴァルツェア・レーゲン/ボーデヴィッヒさん、打鉄/石坂悠さんの戦闘不能を確認』
 合同授業で聞いたことのある、一年三組の担任教師の声と共に、シュバルツェア・レーゲンの敗北が決定する。
……ただ、やはり俺も無傷ではいられなかったな。
「黒い雨を穿った。……しかし、流石はボーデヴィッヒさんだな」
 今の攻撃をうけ、装甲のあちらこちらを抉り取られ、シールドエネルギーの残り残量もかなり少なくなっている。
まだまだオムニポテンスも、各部の調律が完璧ではないな。流石はシュバルツェア・レーゲンとラウラだ。
シールドエネルギー残量を考えると、残っている敵がもしも代表候補生レベルならば、正直辛い。
だが、掃除道具の駆る打鉄程度ならば充分だ。楯殺しでもくらえば別だろうが、掃除道具にそんな力量は無い。
「……す、すいません、ゴウ君。負けてしまいました」
「いや、君はちゃんと役割を果たしたよ。ありがとう、勝って君の苦労に報いよう」
「ご、ゴウ君……そ、そんな。パートナーとして、当然の事ですよ。……お、お世辞でも嬉しいです」
 近づいてきた剣道女は、申し訳なさそうな青い表情から一転、頬を赤らめる。だがお世辞ではなく、今の俺の言葉は100%の本音だ。
この女の役割は、俺がラウラを撃破するまで、あの掃除道具を足止めする事だった。
足止め役を完遂したのだから、礼はちゃんと言ってやる。万が一、掃除道具に飛びかかられても、うざったかったしな。
「さて、残るは俺と君だけだな。……降参しないか? 君の実力では、俺には勝てない」
「確かにお前の操縦技術、そして機体性能は確かに私よりも上だろう。だが、降伏などしない!」
「……やれやれ。仕方がない、か」
 馬鹿が、どうやら胸にばかり栄養が回って、脳味噌に栄養が行っていないらしいな? 負けを認める事さえ出来ないのか。
そういえば素人の分際で、代表候補生にハンデを付けてやる発言をした馬鹿がいたが。幼馴染み同士、本当にお似合いだよ。お前達は。
類は友を呼ぶ、って諺があるが。こういう時に使うべき言葉だな。
「――力量差が解らないというのなら、証明するとしよう。悪いが、手は抜かないぞ」
「無論だ!」
 近接戦闘用ブレード『葵』を構える掃除道具。俺のパートナーである剣道女や、クソサマーの隣人(※フランチェスカ・レオーネ)を。
更には三回戦で対戦相手の双方を圧倒したというが、このオムニポテンスにはそんな物は通じない。まったく、剣道馬鹿だな。
白式のような欠陥機ならいざしらず、量子変換武装を自由に使える打鉄なのに、銃器の一つも使おうとしないとは。
流石、数々の名作SSでアンチ対象にされているだけの事はある。
「さて、まずは銃器の扱いからレクチャーするとしようか」
 タングステン鋼の弾丸を発射する特注のアサルトライフル『カルブンクルス』二丁を展開し、獲物を狙う。
まずは踊れ、俺に手も触れられない愚者よ。




「箒の奴……的になっているだけじゃないか!」
 アリーナの中では、箒の打鉄がオムニポテンスの射撃攻撃を受け続けていた。
襲い来る弾丸を避け、ブレードで受け、あるいは特徴的な肩の非固定浮遊部位で防いではいる。だけど、それだけだ。
「まるで、クラス代表決定戦の時の織斑君とオルコットさんみたいだね……」
「でも、打鉄には白式ほどの加速性能はないし、オムニポテンスにもまだまだ武器はあるはずだよ」
 クラスメート達の声が聞こえてくる。あの時の俺も、傍から見たらこんな感じだったのか? でも。
「箒の奴、何か手は無いのかよ!」
 ブレードを構えたまま、まったく攻撃を仕掛けない。現時点で、箒とあいつのシールドエネルギーはそれほど差が無い。
だが互いのパートナーがと既に撃墜されている以上、判定になった場合の結果は一目瞭然だ。
「……篠ノ之さん、降参したほうがいいんじゃないかな」
「え?」
「今ここで降参しても、誰も責めたりしないと思うよ。力量も機体性能も上のボーデヴィッヒさんが、ゴウに倒されたんだし。
このままじゃ、彼女は攻撃さえ出来ずに、シールドエネルギーを一方的に削られてノックアウトされるだけだ」
 シャルロットの冷静な言葉に、俺の反論は無かった。このままだと、彼女の言葉どおりになるのは俺でも判ったから。
「デュノアさんの言葉は、正論ですが。――箒さんは、降伏しませんわ」
「え?」
 俺とシャルロットは、二重の驚きに包まれた。セシリアが口を挟んできたこと、そして彼女の言葉の内容に。
「オルコットさん、それは彼女が勝負を最後まで諦めないって事? でも、幾らなんでも今のままじゃ――」
「わたくしと四回戦で戦った、ニナ・サバラ・ニーニョさんのような例もありますから、降伏が悪い事だとは言いませんが。
技量差で負けているから、と攻撃さえせずに降伏するような方ではありませんわ」
「でも、このままじゃ遠からず負けると思うよ。引き際を見極めるのも……」
「でも、そういえば変だな、箒の奴」
 セシリアやシャルロットの言葉を聞くうちに、俺の中に、違和感が生じてきた。……箒の奴は、確かに頑固だ。
だから、あくまで剣だけで勝負しようっていうのも納得できる。だけど、攻撃を仕掛けようとさえしないのは妙だ。
「織斑君、それってどういう事?」
「篠ノ之さん、何かおかしいの?」
「いや。あいつ、何でただひたすら避けたり受けたりしているだけなのかなって思ってさ」
 さっき、今の箒がセシリアと戦った時の俺のようだと言われたが。確かに俺も、最初はセシリアの攻撃を避けたりするだけだった。
でもそれは、白式の初期化と最適化が終わるまでは回避に専念したほうがいい、って宇月さんに言われたからだ。
チャンスが来れば攻撃するつもりだったし、実際に何度か攻撃した。でも、なんていうか……今の箒からは、それさえ感じられない。
「何を狙っているんだ、箒の奴?」
 無策、だとは思わなかったが。幼馴染みが何を考えているのか、俺はさっぱり解らなかった。




「やれやれ。威勢は良かったが、逃げるだけかな?」
「……」
 箒の打鉄のシールドエネルギーは、既に五割を切っていた。一方のオムニポテンスは、四割少々。
まだ箒の方が上回っているとはいえ、残りの試合時間とシールドエネルギーの削られ方を見る限り、いずれ逆転するのは明白だった。
「それにしても、銃器を使わないとは。こだわるのは結構だが、勝つ為の努力が足りないね」
「……」
 ゴウの軽口にも、箒は反応しなかった。そのまなざしは鋭く、ひたすらにゴウを捉えている。
「ふう、まあ仕方がない。怪我をする心配はいらないよ」
 ため息に嘲笑を潜めさせ、ゴウが箒への射撃を再開した。それを、箒は避けようとするがやはり幾つかは被弾する。
「回避に専念しだしたか……」
 そろそろとどめを、と考えたゴウ。空中を自在に移動しながらも、射撃の手を緩める事は無かったが。
(射撃兵装でしとめるのも良いが……まあいい、とどめは瞬時加速からの一撃で止めといくか。残弾も少なくなってきたしな)
 箒が、壁を背にしたその瞬間。――彼の『エンディング』は決まった。
(馬鹿が、あれでは抜刀もし辛くなる。所詮は姉頼りの専用機無しでは何も出来ないクズか。
二回戦で、ラファール・リヴァイヴカスタムⅡが壁際に押し込まれてシールドエネルギーを削られたのを見ていなかったのか?)
 ゴウが歪んだ哂いを浮かべ、機動を止めた次の瞬間。
(惨めにノックアウトされろ、クソモップ!)
 彼を慕う女子にはとても見せられないような笑みを隠しながら、オムニポテンスが打鉄に迫る。
そして、その刃が箒に届かんとしたその瞬間。
「捉えたぞ、お前を」
「っ!?」
「あ、あれは、アイゼン・シュトゥルム!?」
 打鉄の肩アーマーの『内側』に、対人地雷が出現した。その非固定浮遊部位は、90度回転して本来は内側の部分を前面に向ける。
それは、このトーナメント一回戦において、宇月香奈枝がラウラ・ボーデヴィッヒ対策として準備していた武器。
彼女がAICに捉えられた時に使用した武器が、ゴウの眼前に現れた。
「ば、馬鹿なっ!? ぐあああああああああああっ!?」
 ゴウも『与えられた』反射神経で避けようとしたが、あまりにも距離が近すぎた。そして、攻撃を届かせるには少々距離が遠すぎた。
二つの非固定浮遊部位に隠されていた弾丸の嵐が炸裂し、オムニポテンスとゴウを包み込む。
アイゼン・シュトゥルムに詰め込まれていたベアリング弾が全て放出されたとき、ゴウの機体は既にノックアウト寸前だった。
「貰ったぁ!」
 更に、ブレード『葵』での追撃を加えんとする箒。だが、ゴウも決して口先だけの人間ではない。
「舐めるなあ!!」
「なっ!?」
 ボロボロのオムニポテンスが、葵を回避した。それと同時に、展開されたアサルトライフル・ヴェントが火を噴く。
箒も多少ダメージを受け、葵が砕け散った。そして、両者の間合いは再び大きく開いてしまった。
「惜しかったな……。だが俺は、二度と間合いには入らないよ」
 屈辱と怒りを薄ら笑いで隠しつつ、ゴウは再び宙を舞う。箒の、一か八かの秘策はゴウに止めを刺しきれなかった。
――誰もがそう考えた次の瞬間。打鉄が、オムニポテンスに肉薄していた。
「へ?」
 ここぞ、という時のブースター使用による急加速は、一般生徒にとっての最終手段だった。
このトーナメントでもロミーナ・アウトーリや宇月香奈枝など、多くの生徒が使用した手段。
瞬時加速を使えない生徒にとっては、切り札、あるいは高速機動の手段として当然選ぶべきものとさえ言えた。
――だからある意味では、箒がそれを使ってくるのは必然だった。ゴウが間の抜けた声を漏らしそれに気付いた時には、既に遅かった。
「ごほっ……!」
「ご、ゴウ君!?」
 石坂悠の悲鳴とともに、オムニポテンスが、ゆっくりと崩れ落ちた。
アルト・シュトゥルムのベアリング弾で皹が入っていた黄金色の胸部装甲が砕け、絶対防御発動レベルのダメージを受けたのは明らかだった。
それをなしたのは、打鉄の拳。――この試合で初めて、篠ノ之箒が武器を使わない攻撃を行った瞬間だった。
「ば……馬鹿、な!」
『オムニポテンスのシールドエネルギーゼロを確認! 勝者、篠ノ之・ボーデヴィッヒペア!』
「なっ……!」
「成功率は決して高くなかったが、何とか成功できたか」
 愕然と自分の機体に、そして次にアリーナのスクリーンに視線を向けたゴウ。
その目に飛び込んできた現実は、自身の敗北が決定したという現実だった。目を見開き、口元を愕然とゆがませ。
手はあらぬ方向に硬直し。普段の彼からは想像も出来ない有様だった。――もっとも、それに気付いたのはごく一部のみ。
その、あまりにも意外すぎる展開に、ほとんどの者達が唖然としていたからだった。しかし、それもすぐに破られる。
「やったな、箒!」
「すっごい! 篠ノ之さん、ゴウ君に打鉄で勝っちゃったあ!」
 箒が荒い息を吐き、ゴウが呆然とするなか。一夏や一組の(自称)ウザキャラ・岸原理子らが喝采を挙げ。
更に、一組メンバーを起点として拍手と、どよめきが広がっていった。
「うわあ……。マジか、これ」
「ううう、ゴウ君に賭けてたのに~~。ボーデヴィッヒさんを倒した時に、これで決まりだと思ったのに~~!」
「キタァァァァァァァァ! 逆転劇だあ!」
「やるもんだねー、篠ノ之さんも」
「……まあ、正直あの戦術はどうかと思ったけどねー」
「ゴウ君も、篠ノ之さんに足をすくわれちゃったか」
 ゴウの敗北を悲しむ者あり。箒達の勝利を喜ぶ者あり。箒の奮戦に感心するものあり、ゴウの戦術に引っかかる物を感じた者がある中。
「とんでもないな、彼女は」
「確かにね。アルト・シュトゥルムを、あんなふうに使うなんて思わなかったよ……」
 この後の試合に勝ち、決勝に残れば箒達と戦う事となる安芸野将隆と赤堀唯も、驚きを隠せないでいた。
「ねえねえ安芸野君、唯、あの二人に勝てるの? 篠ノ之さんも、意外と強そうだよ?」
「まあ、ここまで残ってきたんだから弱いって事は無いだろ。――それよりもまずは更識と、一夏を罠に嵌めたあの娘だ」
「そうだね。まあ織斑君に使ったような戦術はもう無いと思うけど、注意しないといけないし。――それじゃ、行こうか!」
「おう」
 三組生徒の中で、唯一生き残っている二人は、クラスメートらに見送られてピットへと向かうのだった。


「……ふう」
 箒は、試合が終了してピットに戻った後も荒い息を吐いていた。劇的な勝利のように思えるが、自身にとっては緊張の連続だった。
アルト・シュトゥルムを使うタイミング、追加ブースターを着火するタイミング、そして攻撃のタイミング。
全てが、綱渡りだった。もしもどれか一つでもずれていれば、敗北していたのは自分だと解っていた。
「お疲れ様、篠ノ之さん!」
「凄かったわね。まさかの、大逆転。決勝進出、おめでとう」
「ああ。……ありがとう、ございました」
 そんな彼女の元に、香奈枝を含む整備担当の生徒達が集まってくる。
かなり疲労は溜まっていたが、箒はしっかりと一礼した。そして激戦を勝ち抜いた打鉄を解除し、箒は地に降り立つ。
「それにしても、ゴウ君相手によく思いついたね、アルト・シュトゥルムを使うなんて」
「ああ。あれは……宇月が落とした小さい螺子を、私が掌全体で抑えて拾った時に、思いつきました」
「え? 私の落とした螺子がネタ元なの?」
「ああ。もっとも、あれだけではドイッチに勝てなかっただろうが……な」
「篠ノ之さん、どういう事?」
「不規則に動く螺子を、指ではなく掌全体を使う事で抑える。機動性の高い相手へ、ある程度の範囲もろとも攻撃するというわけです」
「なるほどね」
 そういう理屈なのか、と納得する一同。だが、不思議なのはそれだけではなかった。
「でも、あのタイミングの取り方って……ゴウ君の動きを、読んでいたの?」
「そういえば、ゴウ君の接近をまるで読みきったように切り札を使ったよね。あれって……」
 二年生の整備課の生徒の問いに、箒は深くうなづく。そして、同時に思い出していた。
「今までの彼の試合や模擬戦を見てみると、必ず何処かで接近戦で仕掛けてくる可能性が高い。……だから、です」
「へー。そんな情報、持ってたんだ!?」
「もっとも、これを教えてくれたのはルームメイトでしたが」
「そうだったわね」
 昨夜、香奈枝と共にいたときにやってきた、意外な訪問者の事を。




 ――あれは昨夜、私と宇月が整備について話していたときだった。ルームメイトの鷹月静寐が、唐突に整備室にやって来た。
あの試合の後、せめて何か話をしたかったが結局は何も言えず。
そんな状況での鷹月の突然の来訪に何もいえない私達に、彼女はデータディスクを取り出し。
『これ、私達はもう必要ないから――使って』
 と渡したのだ。そこには英語で「Forth.date」とあった。……四番目、これが意味するのは。
『これ、まさかゴウ君のデータなの?』
『そうよ、宇月さん。それと、オルコットさんからの伝言。箒さんに庇っていただいた、借りをお返ししますわ……だって』
『か、借りだと?』
『あ、最後のあの攻防じゃないの? 葵でレールガンを弾いた時の……』
『ええ、そうよ。それと、私からも返すの。私が倒されたとき、駆け寄ってくれたでしょう? だから、よ』
『あ、あれは別に……』
『いいの。どうせ、私達はもう使わないデータだから。使って頂戴』 
『し、しかしいいのか? お前達を破ったのは、私達なんだぞ? それを――』
 ボーデヴィッヒの凶行を詫びようとしたが、鷹月は笑ってそれを制止した。
『あれは篠ノ之さんがどうこう言うことじゃないわ。それに。――私達は、貴女に託すの』
『し、しかし……』
『せっかくなら、私たちに勝った人に優勝して欲しいじゃない。それじゃ、駄目なの?』
『だ、駄目というわけではないが……』
『そう。それじゃ、また後でね』
『あ……』
 戸惑う私にデータディスクを押し付け、鷹月は戻っていった。どうすればいいのか、悩まされたが。
『じゃあそのデータ、あそこで見ましょうか。どんなデータなのか、調べないといけないし』
『う、宇月……。し、しかしこれを本当に私が見てもいいのか?』
 宇月は、何事も無かったように再生機器を持ってきた。そして彼女は、まだ戸惑っていた私を変な表情で見ると。
『オルコットさんと鷹月さんが渡したんだから、良いでしょう? 彼女達の善意、無駄にしちゃだめだと思う』
『む……』
『はい、そこに座って。――じゃあ、再生するわよ』
 私自身のデータを再生して分析する時と同じように、データを開示したのだった。
ちなみに、翌朝、ボーデヴィッヒにもデータは渡したのだが。あまり、役には立たなかったようだった。


「よくやったな。篠ノ之」
「ち、千冬さん」
 ピットから出て、一夏たちがいるであろう観客席に向かおうとすると。なぜかそこに、千冬さんがいた。
「――織斑先生、だ。まあ、今日は大金星に免じて見逃してやるか。それにしても、よく勝てたものだな」
「はい。宇月や、皆の力があってこそ石坂に、そしてドイッチに勝てたんです」
 セシリアのくれた情報が。それを届けてくれた鷹月の思いが。石坂の思いに負けない思いをくれた九重先輩の言葉が。
私の突拍子も無いアイディアを実現してくれた宇月達、整備課の人達の技量が。全て、私の勝因だった。
「そうか。……お前達の次の相手は、安芸野達か更識達だ。あと一つだ、全力を尽くせ」
「は、はい!」
 珍しくも、千冬さんが楽しげな笑みを浮かべている。本当に、珍しい光景だ。
千冬さんを慕う連中はこの学園に大勢いるが、もしも彼女達がコレを見たら、気絶してしまうのではないだろうか……と思えるほどだ。
「教官……」
 私の後ろから、ボーデヴィッヒの声がした。ドイッチに敗れた事がよほどショックなのか、その声に勢いは無い。
……そういえば、先ほどは一つ勝因を忘れていたな。ボーデヴィッヒが、ドイッチのシールドエネルギーを削ってくれたというのも勝因だ。
雪片の偽物を使われ、ドイッチに対して激昂し、翻弄されていたが。最後に、何とか一矢報いてくれた。
あの最後の猛攻が無ければ、あの策が決まっても勝利を得る事は出来なかっただろう。
「ボーデヴィッヒ。お前も」
「教官。申し訳……申し訳ありませんっ!」
「お、おいボーデヴィッヒ?」
 千冬さんが声をかけようとすると、ボーデヴィッヒはなぜか謝罪し、そのまま遁走した。
何故だろうか。――あいつの声が、泣きだしそうな子供のように聞こえた気がした。
「あの。あいつは、一体どうしたのですか?」
「……以前、二年の更識とあいつが組み手をしたことがあった。まあ、ボーデヴィッヒが負けたのだが。
その時あいつは、試合を組み、審判をした私に謝罪したが……それとも少し違うようだった。奴に、何かあったのか?」
「そ、そうなのですか」
 あのボーデヴィッヒを負かす、というのが想像できなかったが。あの先輩は、そこまで強かったのか?
確か、国家代表――かつての千冬さんと同じ立場である以上、ISにおいては強いのは当然だと思っていたが。
まさか、生身においてもそこまで強いとは思わなかった。
「……! すまん、篠ノ之。今のは一応、極秘事項だ。口外しないでくれよ?」
「は、はい」
 千冬さんにしては、珍しいミスだった。……ボーデヴィッヒの奴は、大丈夫だろうか?




「はあっ、はあっ、はあっ……」
 ラウラは、ただ一つの感情のみに心を縛られ走り続けていた。――それは、恐怖。
雪片レプリカに我を忘れ、ゴウに翻弄され。かろうじて一矢は報いたが、それでも結局撃墜された。
更識楯無との戦いに続き、この学園での二度目の敗北。だが、恐怖の内容はそれではなかった。彼女が感じた恐怖とは。

『よくやったな、篠ノ之』

 箒に向けられた、賞賛の言葉。それに込められた、千冬の感情。結果を残した者への賞賛……だけではない。
かつて山田真耶を評した時に感じた、生徒への優しさ――ラウラ自身は、それを媚だと判断したが――を感じたのだ。
そしてそれを向けられている箒を――羨ましい、と思っている自分に気がついたのだ。
それは、ラウラの考える『自分』にはあってはならない物だった。しかし、それを何処かで否定しきれていない自分がいて。
そして彼女は『自分で自分が解らなくなる恐怖』に囚われていたのだった。
「私は、私は何をやっているのだ……! 教官の見ている前で、またも敗北を喫するなど……!」
 息は荒く、心臓の鼓動が早くなり。それなのに手足が冷え、悪寒がする。
軍人であれ、と自覚している彼女を恐怖が覆い隠す。――しかし、彼女にもまだ『光』はあった。
「い、いや。まだだ、まだ、挽回の機会はある。欧州連合の男に負けたとはいえ、私はまだ『優勝』できる可能性がある。
ステルスの男か、更識を倒せれば……教官が戻ってきてくださるんだ!!」
 現在の彼女の拠り所。この大会に優勝すれば、彼女の望みをかなえてくれると千冬が言ってくれた事。
それこそが、彼女の今の『光』だった。――だが先程、千冬に会った際に、もしも問えたならばその場で判明していたであろう。
――彼女の縋り所である、打鉄を使った個人秘匿通信が、真っ赤な偽物であったことに。


「アレを出せ……今すぐ、だ!」
『はあ? お前、負けたんだろ? アレは、お前への反感を潰すためのスケープゴート――生贄だったんじゃないのか?』
 人目のない場所で、ゴウが秘匿回線――欧州連合に巣食う『闇』のみがつかう回線――を使い、がなりたてていた。
――彼の最初のシナリオでは、こうだった。ラウラ達を撃破した後に『乱入者』を仕立て上げる。
それを、ラウラとの激戦を繰り広げた直後のゴウが苦闘の末に撃退する。乱入者から皆を守ったヒーロー。
そう仕立て上げる事で、レプリカ雪片を使いラウラを翻弄した事によるマイナスイメージを払拭するつもりだった。
織斑千冬というカリスマの武器を使って挑発した事への、カウンター。そんな自作自演を用意していたのだった。
もちろん、今からでもその茶番劇は開演可能である。――だが。
「うるさい! あの掃除道具に負けた後で、そんな茶番がやれるか!」
 彼のような自負心の強いタイプにとって、箒への敗北はあってはならないものだった。
そもそも、彼の箒への評価は最悪の物であり。箇条書きにすると。

・姉を嫌っているくせに困った時には姉に頼る、性根の腐ったクズ
・自分の思い通りにならないと木刀や竹刀を振るう、暴力女
・胸だけでかい、人気度で最下位のメインヒロインww
・クラスでも、ヒロイン間でもボッチの空気女

 などであり、そんな対象――しかも、打鉄を使っている彼女に自分が負けるなど、夢想だにしなかった事態である。故に。
(こんな馬鹿みたいな大会、すぐさま潰してやる……俺『達』の、新しい力でな!)
 理性も予定も、何もかも捨て去って。ゴウの悪意が、学年別タッグトーナメントを包もうとしていた。


(これで、後はどうとでもなればいい。――できれば死人の一人や二人は出た方が『覚悟』が固まるだろうがな)
 連絡を終えたゴウは、いつものように偽りの仮面を被るとアリーナに戻っていた。
そんな彼の視界に、姦しい二年生の集団が入る。挨拶くらいは、と視線を向けると、その会話の内容が先に聞こえてきた。
「ねえねえ、聞いた? 篠ノ之さんのこと」
「友人に助けてもらったんでしょ? それが、ゴウ君に勝った勝因なんだって話よね」
「誰?」
「例の娘よ。織斑君と中学時代からの同級生で、布仏先輩や黛さんの愛弟子って言われている……」
「!」
 自身の敗北の理由。その内容に刺激されたゴウは、二年生の集団に早足で近づいていった。
何人かがこの学園では五人しかいない男子生徒の来訪に驚く中。
「え、ゴウ君!?」
「ど、どうしたの?」
「いいえ。……今の話、もう少し聞かせてもらえませんか?」
 ゴウは、あくまで丁寧に話しかけた。――そのまま、仮面をかぶったままで彼は尋ねる。
「今の話?」
「ええ、今回の敗北の分析をしたいと思いまして。――お話を、聞かせてもらえますか?」
 自分にとって、絶対にあってはならなかった展開の裏にあった事情を知るために。


「……なるほど、あの女、か。あの女が、掃除道具に余計な猿知恵を植えつけやがったか!」
 二年生達と別れ、にこやかに手を振っていたゴウ。――誰もいなくなると同時に、その拳が硬く握り締められた。
宇月香奈枝の事は、一応頭に入れていた。織斑一夏のIS起動の第一発見者、そして寮における隣人。
『知識』の中には『IS学園における、中学時代からの同級生』が凰鈴音以外にはいなかったため、イレギュラーであるとは認識していたが。
特に秀でた能力も無く、多少ヒロインとは関わっているものの、それほど注視する存在ではないと考えていた。
強いてあげるなら打鉄弐式建造にかかわった事が挙げられるが、そこにはもう一人……。
『知識』の中に存在し、生徒会役員であり、数多の『模倣』の中でも重要な役割を果たし、準ヒロインとも言える存在――布仏本音がいた。
数多の『模倣』の中のキャラと友好・恋愛関係を結んだ彼女を注視すべきだと考え。
だからこそ、今までゴウの中では香奈枝はスルーしても関係ない存在であったのだが。
「あいつか……あいつこそが、この『ストーリー』のイレギュラー、癌細胞! 排除すべき存在って事か!」
「ご苦労さん、負け犬」
「!」
 ゴウの神経を逆撫でする言い方で話しかけてきたのは、ケントルムだった。
その表情は、面白くてたまらない、という感情をそのまま固めたような表情。
「ケントルム。――宇月香奈枝を、除外するぞ」
「はあ?」
「宇月香奈枝だ……! アイツを除外しなければ、俺達のシナリオは完成しない!」
「宇月香奈枝? ……ああ、織斑一夏のIS起動の第一発見者か。あの女がどうかしたのか?」
「俺の敗北は、あの女の影響で掃除道具が猿知恵を働かせたからだ。――今後、他の連中にも影響を及ぼす可能性がある」
「なるほど。――まあ、その推測はあながち間違いとは言えないだろうな」
 ケントルムから見て、香奈枝の存在は本人の思っている以上に大きくなっていた。
一夏とシャルロットの隣人であり、専用機持ちのほぼ全員と友人であり。生徒会とも、既に結びつきを有している。
それが、ゴウよりも深く理解できていた。何故なら彼女は……。
「なら、欧州の連中に伝えるのか?」
「そうだ。一学期中……遅くても、九月にはあの女を排除する!」
「殺(や)れば手っ取り早いだろ?」
「馬鹿が。――そんなに簡単に済ませてたまるか。俺の屈辱は、そんなものじゃ晴らせないからな……!」
(やれやれ。あの女も、とんだ奴に目を付けられたな)
 吼えるゴウと、あざ笑うケントルム――本来、知り得ない筈の『知識』を持って生まれ、様々な『加護』を受けてここにいる二人。
亡国機業とすら繋がりを持ち、ケントルムの方は知られていないとはいえ、いずれも専用機を持つ二人。
そんな彼らに、警戒対象とされた。――宇月香奈枝は、自身の知らぬ所で大きな『敵』を作ってしまったのだった。




「あの時の篠ノ之さんが壁を背にして借地したのは、ゴウ君が攻撃を仕掛けてくる角度を限定する為だよね」
「空中に浮いていれば、前後上下左右から攻撃を仕掛けられる可能性があるけど……。
壁を背に着地すれば、背後と下方からの攻撃は無くなる。……そういうことよね、ブローン君」
「ああ、そうだろうね」
 次の試合が始まるまでのインターバル。その時間で、先ほどの試合の事が一年三組女子の間でしきりに交わされていた。
ゴウの奇策、そして彼女の大逆転。……俺も、予想外の展開に驚いていた。
良く言えば信念を曲げない、悪く言えば頑固で固執するタイプであろう彼女からは考えられない戦術だった。
あの戦術は、ひょっとしたら誰かに教えられた物なんだろうか? 一夏辺りだろうか? うーん、解らん。
「でも、ゴウ君……意外とあっさりと負けちゃったね。何か意外だった」
「彼が、ボーデヴィッヒさん対策に全振りしてたからじゃないかな??」
 長身・巨乳のフランス系美少女のシェザンヌ・ロリオちゃんと、探査系を得意とする高尾莉美ちゃんがそんな会話をしていた。
まあ、それは確かにあるよな。ゴウの奴、彼女を舐めきっていた。まあ、俺もあいつのことはとやかく言えない。
俺だって、この試合はボーデヴィッヒさんVSゴウだと思っていたからな。
「ねえねえブローン君。安芸野君と赤堀さん、勝てるかな?」
「さあなあ。ステルス機能は、ミサイルの雨には弱いかもしれないしな」
「そっかあ。一箇所だけを狙うんじゃなく、雨霰と来るミサイルだと、やっぱり不利かな?」
 将隆と簪ちゃんは、三組と四組のクラス代表として合同授業でも顔を合わせることが多かった。
ただ、俺とゴウの奴が。あるいは他の専用機持ち達がやったように、授業で戦った事は無い筈だ。
放課後や休日のアリーナ利用でも、あの二人が戦ったという話は聞いた事がない。
打鉄弐式を自分の手で作り上げる事を目標にしていた簪ちゃんが、それどころじゃなかったというのが理由だろう。
それに将隆も、自分の力量アップやクラス代表として三組をまとめるのに必死で、他のクラスの連中とつるむ機会が少なくなっていた。
正直、一夏や(実は美少女だとはいえ、皆には知られていない)シャルルがいる一組辺りは将隆の事をほとんど知らない連中も多いらしい。
……もっともあそこには、将隆の幼馴染みだという宇月香奈枝ちゃんがいるから、そっちの方で知られているらしいけどな。
「まあ、俺達としては将隆と唯ちゃんを応援するだけだな」
「そうだね~~。三組で残っているのは、あの二人だけだし~~」
 四回戦(16ペア、32人)の時点で10人以上残っていた三組メンバーも、今や残っているのは将隆と唯ちゃんだけだった。
少し席をはずしていたが俺の後部席に戻ってきた真美ちゃんとロミちゃんも、敗者復活で四回戦に残っていたのだが……。
「……そういえば真美ちゃんとロミちゃんは、さっき勝ちあがった二人に負けたんだっけな」
「ええ」
「負けちゃったね~~」
 二回戦で一夏とシャルルを大苦戦させた、ロミちゃんと真美ちゃん。この二人がドイツの最新鋭機に挑む。
番狂わせもあるかも、と期待された試合だったが……。ラウラ・ボーデヴィッヒは甘くなかった。
直前の三回戦ではパートナーにほとんど任せていたのが嘘のように、序盤から猛攻を繰り出してきた。
単純な近接戦闘の力量なら、ロミちゃんも引けを取らない……が、AICに捉えられた時に全ては終わっていた。
救出せんとした真美ちゃんの攻撃を無視して只管にゴウの奴にやったような猛攻を加え、開始10分で撃墜。
そして必死で食い下がる真美ちゃんを、ワイヤーブレードで撃墜。半減開始だったシールドエネルギーを二割残しての勝利だった。
「やっぱAICは反則だよな」
 正直、勝てる気がしなかった。……二回戦であの二人に負けた春井姉妹が『何も出来なかった』って落ち込んでいたが。
正直、このトーナメントは専用機部門と一般生徒部門に分けるべきじゃなかったのかと今更だが思う。
今年の一年生には俺の『プレヒティヒ』や『舞姫』みたいなドールも含めれば、十機以上の専用機がいるのだから。
「いいえ。そうは思わないわ」
「え?」
「さっきゴウ君がやったような手段を、私達は思いつけなかった。だから、私達が負けたのは私達自身の責任よ。
私達のプランとしては、篠ノ之さんを先に落として、二対一に持ち込んでボーデヴィッヒさんと対峙するつもりだったんだけど……。
篠ノ之さんを落とそうとしたロミがAICに捉えられて、撃墜された時点で私達の負けだったわ。
正確には、私がボーデヴィッヒさんの足止めも出来ず、ロミをAICから助けられなかった時点で、かしら」
「それも機体性能の差だろ?」
「ええ。だけど多分、私達のプランは読まれていたんだと思うわ。……だからこそ、負けたのだろうけど」
 悔しさを感じさせず、しかし諦めているのとは全く違う真美ちゃんの眼差しは鋭かったが。
「次は、負けないわ。――君もそうじゃないの、ブローン君?」
「……そうか。俺とした事が、とんだ失言だったな」
 我ながら、とんだ失言だったな。……いやはや、情けないもんだ。
「俺もまだまだ要精進、って事か。なあ、ニナちゃん」
「……」
 はて、俺のタッグパートナーだったニナ・サバラ・ニーニョちゃんにあからさまに無視されたぞ。
うーむ、理由は見当がつかない。何故だろうか? ニナちゃんといえば、元スペイン代表候補生のカリナ・ニーニョの妹だが。
……そういえば、カリナ・ニーニョのグラビア写真集――ソル・イ・ルナ(太陽と月)はまさに最高の一品だったな。
特にあのバストからヒップにいたるライン、あれこそまさに至高のボディだ。二年前に亡くなったと聞いた時は、思わず神を呪ったものだ。
「最高だったな、あの写真集は」
「……!」
 ……はて、ニナちゃんの視線が俺を射殺さんばかりに強まっているが。何故だろうか?




「あれ、久遠とロブか」
「ヤッホー、マサ兄!」
「こ、こんにちわ」
 俺と赤堀がピットに向かう途中。待ち構えていたかのように、久遠とロブに出会う。
……それはいいんだが、久遠が少し緊張しているようだ。どうしたんだ?
「いよいよ今日で、この学年別トーナメントも終わりですね。……将隆君は、凄いです」 
「そうだよね。ベスト4に残ってるんだから」
「……いや、組み合わせが幸運だっただけだ。専用気持ちとは今まで当たらなかったしな」
「それでも、です。――あの、よろしければ今宵、祝勝会として私達の部屋に来ませんか?」
「え?」
 祝勝会、か。……うーん。
「悪い、万が一、俺達が優勝したら三組メンバーで祝賀会をやるって予定になってる。ベスト4や準優勝でも、打ち上げをやるんだけどな」
 名称が『安芸野君&赤堀さん・優勝おめでとうパーティー』になるか『皆の健闘を称えて』になるかは、今日の俺達の結果次第だが。
既にイベント自体の開催は決定している。……俺、クラス代表だけど蚊帳の外だったな。
「そう、ですか。……では、それに一緒に参加してもよろしいでしょうか?」
「え、ええっと……」
 あくまで三組のイベントなので、二組である久遠とロブが参加しても良いものなんだろうか?
「良いんじゃないかな? 二組でそういうイベントをやらないのなら、一場さんやクロトー君が参加してもいいと思うよ。
ブラックホールコンビだって、四月に織斑君がクラス代表になった際のイベントに潜り込んだって言ってたし」
「あ、赤堀……マジかそれ」
「うん」
 都築と加納らしいな。一夏の奴が以前『クラス代表が決定した事へのイベントなのに、クラス全員よりも参加者が多かった』って言っていたが。
あいつら二人も、紛れ込んでいたのか。
「では、構いませんか?」
「あ、ああ。まあ、詳しい時間は後で生徒用端末で知らせる」
「ありがとうございます。……良かったですね、ロブ」
「うん!」
 満面の笑みを浮かべるロブと、それを優しく見守る久遠。……なんか、本当の姉弟みたいだった。
「それでは、私は観客席で応援しています。……ご武運を」
「がんばってね!」
 そう言いながら、二人は去っていった。……しかし、このタイミングで出会うなんてなあ。
「……もしかして、待っていたのかな?」
「え?」
 赤堀が、二つあるロボットアニメのどちらを見るかで悩むのと同じ表情で考え込んでいる。
……言い方がおかしいかもしれないが、これは赤堀にとって『真剣に考えている』事でもあるが。
「待っていたって、わざわざ俺達をか? いや、そんな事しなくても端末とかで言えるだろ?」
「安芸野君『も』女心が解っていないねー」
 苦笑いをされたが、意味が解らない。少なくとも、一夏よりは解る気でいたんだが……。
「ま、いいか。それよりも、一場さんとクロトー君、それに皆の笑顔の為にも――優勝しようね!」
「お、おう!」
 女らしくない、というか男っぽいガッツポーズで気勢を上げる赤堀。
……口には出せないが、女らしさが少ない赤堀がタッグパートナーで、少し助かったなと思った。




「す、すごかった……」
 皆より遅れてきてアリーナに到着していた更識簪は、第一試合決着をモニターで見ていた。
昨日の段階では、彼女が日本政府に呼ばれるかもしれないという話だったが。
幸い、打鉄弐式取り上げの話も立ち消えとなり、トーナメント参加続行が決まったのだった。
「あ、あの、更識、さん。今日も、よろしく……」
「ど、ドレさん。お待たせ。うん。……一緒に、頑張ろう」
 そしてパートナーと合流し、ピットへと向かう。一夏やシャルルに勝った事で、簪とマルグリットの絆は強まっていた。
準決勝に残った四ペアのうちで、彼女達こそが最も深いチームワークを持っていたといえた。
……ただし、互いに何事も言えるというわけではなかった。


「……なあ、更識。お前、昨日は眠れなかったのか? 目が充血してるし、顔色が真っ赤だぞ」
「え、えええ!?」
(わ、私は言い出せなかったけど……やっぱり安芸野君も気付いたんだ……)
 準備が整い、アリーナに出撃した簪だが。その異変を、御影のハイパーセンサーが捉えていた。
そして将隆とすれば、気になった事を口にしただけなのだが。言われた簪の方は、まるで電流でも流されたかのように体を仰け反らせた。
ちなみに整備課の面々はというと、全員がマルグリットの整備を担当し、簪自身が打鉄弐式のメンテナンスをしたために気付かれなかったが。
「べ、別に、織斑君の事とか考えていたわけじゃない!」
 語るに落ちた、とはこの事だった。
「え? 一夏の事?」
「そ、それってまさか、昨日の一件で? ……早過ぎない?」
「さ、更識さん、ま、まさか貴女も織斑ガールズに加わる、の……?」
「ち、違うの! そ、その……そ、そういう事じゃないから! べ、別に織斑君の事が気になって眠れなかったからじゃないから!」
 ……解りやすい。それが、将隆・唯・マルグリットの共通認識だった。
なお、これらの会話をアリーナ管制室で聞いていた教師達が、戻ってきた千冬に視線を向け、それから千冬は目をそらし。
この音声記録をロシアで聞いたある二年生が、扇子を思い切り握り締めて破壊してしまったのは全くの余談である。


「う、ううう……」
 簪の呼吸は既に一試合終えた後のように荒く、顔色は真っ赤だった。
幸い、ここにはそれに対して追及するようなタイプの人間はいないのでスルーされていたが。
(……これ、クラウスの奴が知ったら騒ぎそうだな。あと、ブラックホールコンビも)
(うーん、更識さんと織斑君が関わっていたって聞いて、いつかはそうなるとは思っていたけど。まさかこんなに早くだとは……)
(だ、大丈夫かな……? 準々決勝とは別の意味で、平静じゃなさそうだけど……)
『では学年別トーナメント、一年生の部・準決勝第二試合を開始します』
 三者とも、やはり気になるようであった。しかし、試合開始のアナウンスが聞こえればそれは既に意識外へと置かれ。
そしてそれぞれが、自身の相手に視線を移したその時。
「え?」
 それは、誰の声だったか。今にも始まらんとしていた試合を切り裂く、閃光が走ったのだ。
その閃光と共に、新たなる影がアリーナに降り立つが。
「……え? な、何、これ?」
「…………ぅ!?」
「嘘、だろおい。こいつ、ひょっとして……!」
「また、なの……!?」
 それを見たマルグリットはまだ半ば状況がつかめず、唯は慌てて自分の口を塞いだ。
そして将隆と簪――二人のクラス代表が、共に顔色を変えた。黒を基調としたボディ、長大な腕部、そして無機質な雰囲気。
女性的なフォルムを持つ全身ラバースーツ姿の存在が中央に位置するそれは、しかし何処か非人間的であり。
その乱入者は、クラス対抗戦時の乱入者・ゴーレムやプロークルサートルを知る者にとって、それらと似た存在だと感じられた。
そして、その直感は正しく。その機体は、製造した者達からこう呼ばれていた。――ゴーレムα、と。



 というわけで、アニメ版ゴーレム登場です。本作のゴーレムはMF文庫版、あるいは赤星先生版なので……。
こちらの方が、皆さんにとってはイメージしやすいかもしれませんね。αはanimeのa……ではありませんよ。


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