言うまでも無いかもしれませんが、シャル父の名前はオリジナルです。あしからず。
「ぼ……僕の父が、ここに、来ているんですか?」
「はい。サプライズという事で、デュノア君にも伝えていなかったと仰っていましたけど。やっぱり、驚きましたね」
笑顔の山田先生だが、シャル……ロットは、引き攣った笑いだった。当然だろう。
俺も、何て反応していいのか解らない。
「談話室で、お待ちです。さあ、さっそく会いに――」
「あ、あの!! ……父は、一人だけですか?」
「ええ。SPの方もおられましたが、寮内への入室は流石にご遠慮いただきましたから。親子水入らずですよ」
「……い、一夏。い、一緒に来てくれない、かな?」
え?
「え? だ、駄目ですよデュノア君。何を言い出すんですか。織斑君は――」
「お、お願いします!!」
「え、えええ……。そ、そうは言われても……」
「どうした。何を騒いでいる」
「あ、織斑先生。実は――」
山田先生が、タイミングよくやって来た千冬姉に事情を説明した。先生としては、千冬姉に駄目出しをして欲しかったのだろうが。
「ふむ。デュノア自身が言い出したのなら、それも良いだろう」
「お、織斑先生!?」
「まあ、勿論デュノア氏に許可を得なければならないがな。……織斑、お前はどうだ?」
「シャルルが希望するなら、俺は同席したいと思います」
「そうか。では、二人ともついてこい」
そして、談話室に千冬姉と山田先生が入っていく。
俺とシャルロットは扉の外で待機していたが、扉が僅かに開いていたので声が聞こえてきた。
「マドモアゼル真耶。――私は、シャルルが臨むのならば織斑君の同席を許可しますよ」
「え、ええ!? で、でも――」
「デュノア氏とデュノア、そして織斑が同意しているのならば問題はないな。――織斑。くれぐれも、失礼のないように入室してこい」
千冬姉が扉越しに注意をする。そしてまだ納得がいかない表情の山田先生と入れ替わりに、俺とシャルロットが部屋の中に入った。
「山田先生。君は、悪いがブローンとクロトーが入浴しに来るまで待機しておいてくれ」
「は、はい! 解りました」
事情を知らないであろう山田先生には申し訳なかったが。
扉が閉じ、室内には俺と千冬姉とシャルロット。そして、俺が初対面の人物――シャルロットの父親が残されたのだった。
奥の椅子――来客用の個人用ソファー二つに大人たちが。出入口側の椅子――通常の椅子二つに、子供達が腰掛けた。
そして、それまで彫像のように動かなかった白人男性が口を開く。
「……さて、織斑君には自己紹介がまだだったな。――リュカ・デュノアだ。シャルルが、お世話になっている」
「……初めまして。織斑、一夏です」
一夏の返事は、硬くはあるが通常の挨拶だった。シャルロットはどうすればいいのか解らず戸惑い、千冬は感情を表に出していない。
そしてそれを向けられたリュカは、それを無表情で受け止めていた。
「さて。織斑君は、シャルルの事を知っていると織斑先生から聞いていたが。――間違いないかね?」
「ええ」
ついでに本名もさっき教えてもらった、とは言わなかったが。一夏は、それを肯定する。
「ふむ。織斑君は、何か、私に言いたい事があるのかな?」
「……あります」
「そうか。では、遠慮なく言ってくれないか? 君はシャルルのルームメイトだ。息子が世話になっているのだからね、何でも言ってくれたまえ」
「……息子、ですか」
先ほど一夏が『秘密』を知っている事を確認しておきながら、息子だと言うリュカ。その言葉に、一夏の眉間の皺が深くなった。
「じゃあ、質問なんですが。……シャルルは、どうなるんですか?」
「質問の趣旨が、明確でないのだが?」
「すいません。――シャルルは『これから』どうなるんですか?」
「先の事は、確定された事ではない。少なくとも、今この場でシャルルをフランスに連れて帰ろう――などとは思っていない」
「!!」
フランスに連れて帰る。その言葉に、金髪の少女が身を竦ませた。それを視界に入れた時、一夏の自制心が切れた。
「……貴方は、子供を守る気はあるんですか?」
「織斑!!」
敵意を隠さない口調と言葉。教師として、姉として千冬が止めに入ろうとしたが。リュカは、それを静止する。
「守る、か。――私にとって第一に守らなければならないのは、デュノア社だ。社長として、当然の事だ」
「……じゃあ、息子は良いんですか?」
今にも掴みかかりそうな程の怒りを向ける一夏。だが、リュカはわずかにため息をついただけ。
「なるほど。では君は、子供と会社の両方を守れると言うのだね?」
「え……?」
「私は、社長だ。――自らの子供可愛さのあまり、会社を捨て去るわけにはいかない」
「会社会社って、そんなに会社が大事なのかよ!! 家族よりも!!」
丁寧語さえも捨てた一夏の言葉。シャルロットが竦み、千冬が眉間に皺を寄せたが。
「家族、か。……では、会社の中にどれだけの『家族』がいると思っているのかね?」
「な……!?」
リュカは、ただ平然と返した。その言葉に、一夏の勢いも止まる。
「仮にデュノア社が倒産・買収などに陥った場合。不幸になる『家族』は十や百ではすまないと思うのだが」
「ぐ……」
「一夏……」
リュカの言葉に、一夏の言葉は封じられた。何か納得できない様子で、しかし何も出来ずに椅子に座る。
隣にいるルームメイトの問いかけにも、何も応えられなかった。相手の言葉に砕かれた怒りが、どんどん冷えていく。
何も出来ない自分への憤慨が、一夏の心を縛りつける。――が、そこへ助け舟が出された。
「――おい、織斑。お前はまず脱衣所で顔を洗ってこい」
「え? な、何でだ?」
「お前は今、冷静ではないようだ。――デュノアが、怯えているぞ」
「ぼ、僕はそんな事は……」
一夏が横を見ると、シャルロットが僅かに怯えた表情をしていた。
それは、彼女の事情を聞いて、怒っていた一夏を見た時と同じ表情。
「顔、洗ってきます」
悔しさと、憤り――自分への物と、相手への物の双方があった――を隠さず。一夏は、部屋を出ていくのだった。
「ぷはっ!!」
脱衣所の水道の冷水で顔を洗うと、少しは頭が冷えたが。一夏の中には、マグマのように蠢いている怒りがあった。
「……でも、俺の役目は怒る事じゃないよな」
『奴のフォローをしてやれ、色々と助けてもらっているんだろう? 少しでも恩を返せ』
シャルロットの正体を知った日に千冬から言われた言葉を思い出し、怒らず、冷静である事を心がける。
しかし、冷静になると今度は逆に何をやれば良いのか解らなくなる。フォロー、といっても限界がある。
「一体、何をやれば……。そうだ!!」
何かを思いついた一夏は、右腕のガントレット――白式の待機形態に手を触れる。……そして。
『将隆、聞こえるか?』
『うお!? ……な、何だ一夏か。どうしたんだよ、個人秘匿通信(プライベートチャネル)を使うなんて。何があった?』
『今、談話室にデュノア社の社長――シャルルの父親が来てるんだ。俺達二人と千冬姉で会うんだけどな』
『ぶっ!? ま、マジか!? 何だそのいきなりの怒涛の急展開!?』
『……なあ、将隆。俺、何を言えばいいと思う?』
『へ?』
『正直、俺、今は冷静じゃなくなってるんだ。……だから、さ。いいアイディアがあったら、教えてくれないか?』
『……そっか。お前、落ち着いているようにも見えるけど実は激情型だもんな』
『そうかよ……って、否定できないか』
『うーん、そうだな。まずは、シャルルをここに送ってきた事情の説明を求めるべきなんだろうけど。
仮にも、一つの会社の社長がペラペラとトップシークレットを喋ってくれるとは思えないしなあ。
……あ。そうだ。俺の意見じゃないけど、一つあったな』
『何だ?』
『お前の助けになるかどうかは解らないけど、以前、クラウスがシャルルの正体を知った日に言っていた事なんだが。
後、俺なりの予想というか妄想も混じってるんだが……』
将隆が教えてくれた、クラウスが言っていたという言葉。そして、将隆なりの予想。
……それは確かに、一夏の冷静さを取り戻す事になったのだった。
「頭は冷えたか? 先方を待たせているからな。――急ぐぞ」
談話室ドアで、千冬が待っていた。それを見た瞬間、一夏の表情が変わる。
「ち、千冬姉!? ……じゃあ今、シャルルと父親が二人きりじゃない、がっ!?」
「落ち着かんか。馬鹿者。深呼吸でもして、落ち着いてから入室しろ」
「……」
拳骨の痛みを深呼吸で抑え、ようやく織斑姉弟が部屋に入った。
中で待っていたデュノアの親子は、それを見て硬くなった空気を僅かに和らげる。
「頭は冷えたかね、織斑君」
「はい。お待たせして、申し訳ありませんでした」
頭を下げ、聞いた言葉を思い出す。それは、脱衣場で将隆から一夏が聞いた言葉。
『いや、クラウスが言っていたんだ。広告塔云々とか言ってたけど、数ヶ月でいなくなる人間が広告塔だなんておかしいだろ、って。
あいつ曰く、シャルル自身が知らない事情があるのかもな――って事だったぜ』
「……あの。一つ、良いですか?」
その時、千冬が僅かに目を見開いた。弟の表情が、先ほどまでとは一変したのを見取ったからだが。
「何だね?」
「シャルルは、デュノア社の為にIS技術を磨かされたんですか?」
「い、一夏?」
「……」
ほのかな想いを寄せている事を自覚していたルームメイトの思わぬ質問に、金髪の少女は驚いた視線を向ける。
そしてその父親も、眉間に皺を寄せた。
「そうだが、親としての自覚が無いとでも言いたいのかね?」
「いいえ。じゃあ、男装をさせたのもデュノア社の為ですか?」
「……」
ここで初めて、リュカが沈黙する。その態度に、その娘も訝る表情を見せた。
「娘を息子として送った事を、怒っているというわけかね?」
「……それも、あります。ただ、何でそんな変な真似をしたのな、と思っただけです」
「その辺りは、シャルルから聞いていないのかな? 男性操縦者として、シャルルをデュノアの広告塔として――」
「シャルルは数ヶ月でいなくなるのに、ですか?」
「!」
その指摘に、リュカの口が止まった。シャルロットの訝りも、よりいっそう深くなる。
「い、一夏。どういう事?」
「クラウスが言っていたらしいんだ。数ヶ月でいなくなる人間が広告塔だなんておかしいだろ、って」
「え……?」
「確かシャルルもあの日、俺に言ったよな? データが取れたら頃合を見て休学する予定だった、って」
「う、うん」
「じゃあ、休学した後はどうなるんだ? フランスに帰っても、広告塔として使う気なのか?」
「……あ」
今のことで精一杯だった少女は、その事を考える余地がなかった故に気付かなかった。
データをとった後、自分がどうなるのかという事を。
「仮に表舞台から引退するとしても、男性操縦者は世界で五人もいない存在だ。
だったら、徹底的に調べられるだろうし。――仮にデュノアが画期的なISを作っても、出所を疑われるだけだ」
この辺りは、クラウスや将隆の意見も混じっているが。一夏は、それをしっかりと理解していた上で口にしていた。
「それに、広告塔とか言っている割には全然騒いでいない。――デュノア社は、本当にシャルルを広告塔として使う気があったのか?」
「え? え? ど……どういう、事……なの?」
「……」
シャルルは、自分が事実だと思ってきた事の綻びに戸惑い。その父親は、眉間の皺を深くした。
そして友の助言を生かしてきた一夏も、一息つき。奇妙な沈黙が、談話室をつつむ。それを破ったのは――今まで沈黙していた千冬だった。
「織斑。お前にしては妙に頭が回ったな。誰かに入れ知恵でもされたか?」
「はい、クラウスの話を将隆から聞きました」
「ほう。ブローンが、な」
わずかにおかしげな表情になる千冬。一方のリュカは、皺を深くしたままだった。
「あ、あの……僕は、僕は一体、何なの!? 生徒会に、僕の事を派遣するとか言う書類もあったし!! 何なの!?」
そんな現状に耐えられなくなったのか、男装少女が声を荒げる。机に手をつき、立ち上がって大声をあげる。
しかし、問いかけられた父親は黙ったままだった。
「シャルル。……大丈夫だから、落ち着こう」
「い、一夏……」
一夏が、机に置かれたシャルルの手に自分の手を重ねた。リュカの皺が、別の意味で深くなる。
……なお、一夏自身にとってはそれが齎す『影響』は全く考えていない天然の行動である事は言うまでも無い。
「デュノアさん。……最後に、良いですか?」
「何だね。……それにしても織斑君は、先ほどシャルルを守れと熱く言ってきたが、随分と冷静になったのだね」
「ええ。――俺一人じゃ、必要以上に熱くなったまま。何も出来なかったかもしれない、と思います。
だけど、一人よりも二人。二人よりも三人なら、何かが出来るかもしれない。……今、そう考えています」
「ほう」
心なしか、わずかにリュカの表情が綻んだ。何に対して綻んだのかは、彼のみぞ知る事だが。確かに、綻んでいた。
「シャルルの正体を知ったあの日、クラウスや将隆達が一緒に話し合ってくれたから。
そして今も、あいつらの話を聞けたから、こうやって貴方と話せるんです」
「……話とは、それかね?」
「いいえ。――聞かせてあげてください。貴方の、シャルルへの想いを」
「!!」
「さっきから、シャルルが貴方に、どういう事なのか聞いているんです。――答えてあげて下さい。
生徒会云々とか、俺の知らない事もあるみたいだけど……それも、答えてあげて下さい」
その時、僅かにではあるがシャルルとリュカの視線が交わった。しかし、すぐにリュカが視線をそらす。
「……想いなど、無い」
「……!」
「答える事など、無い」
冷徹な、しかし聞く者によっては苦渋やわざとらしさも感じるであろう声。
しかし、その子供にとってその声は、完全否定でしかなかった。
「……そっか。……僕に対する答えなんて、無いんだね。……っ!!」
「デュノア!!」
「シャルル、待てっ!!」
千冬の反応も一瞬遅く、シャルルが談話室を駆け出した。そして一夏も、それを追う。
残されたのは、千冬とリュカ――大人たちだけだった。
「……何なのかな、僕って。広告塔じゃなかったのなら、僕ってデュノアにとって、何なのかな?」
自室に駆け戻ったシャルロットが、戻ってきた一夏に最初にかけた言葉は悲嘆に満ちていた。
それに一夏が出した答えは。
「スパイとか広告塔とか、どうでも良かったんじゃないのか?」
「え?」
完全な、否定だった。そう返されると思わなかったシャルロットは、涙目をルームメイトに向ける。
「千冬姉もあの日、言ってたんだ。シャルルの事情は編入の可否には関係ない。だけど、スパイ行為などは許されない……って」
「そう、なの? 僕の事は現状維持、としか聞かなかったけど……」
「その時、こうも言われたんだ。シャルロットはカモフラージュ、本命のスパイが何処かにいるんじゃないかって」
「……え?」
「シャルロットが本当にスパイをやるかどうか安心できないから、見張りがいるかもしれないって千冬姉は言っていたんだ。
……でも、シャルロットを見張っている奴も、俺に近づいてきた奴も殆どいなかった。そんなのは、楯無さんくらいだった」
「楯無さん?」
「ああ」
一夏の脳裏には、将隆との個人秘匿通信が思い出されていた。そして彼は、その時気付いたのだ。シャルルの境遇の、不自然さに。
『そうか。そんな事を織斑先生が言っていたのか』
『ああ。まあ、シャルルが転入してから近づいてきたのは一人くらいだったけどな』
『一人? 誰だよそれ。ひょっとして、その人が真のデュノアのスパイか?』
『それはないって、だいたい――ん?』
『どうした、一夏?』
(デュノアのスパイが、俺に近づいてくる事は無かった……いや、待てよ? もしかしたら、シャルロット自身も……?)
『おーい一夏、どうしたんだよ?』
『いや。……将隆、ひょっとしたら俺達、誤解していたのかもしれないな』
『は?』
『色々とありがとう。俺、そろそろ戻るから』
『そっか。よく解らないけど、じゃあ、頑張れよ。シャルルの父親に、負けるなよ』
『おう!!』
そんなやりとりが、個人秘匿通信上で交わされたのだが。
「あの人、ゴウが言っていたけど公には出来ない家柄の出身、とかなんだろ? でも、そんなのを全然感じさせない。
多分、スパイって言うならあの人の方がよっぽど向いている気がするんだ」
「そう……だね」
一夏の言葉に、彼の射撃訓練の際に手玉に取られた事を思い出したシャルロットも頷く。
自分と楯無、どちらがスパイ向けかと言われれば。後者であるのは、自分でも理解できたのだ。
「そう考えた時、本当にデュノア社がシャルルをスパイとして学園に向かわせたのか、疑問に思ったんだ。
だって、そうだろ。穴が多すぎるし、それにシャルロットは情報を集めたりはしなかった。模擬戦とか訓練はやったけど。
多分、一番知りたいであろう『何で俺や将隆がISを動かせるのか』『何で俺が零落白夜を使えるのか』は調べようとしなかったし」
「そ、それは、僕がやらなかっただけじゃ――」
「ああ。でも、それじゃデュノア社は困るだろ? せっかく男装までして送ったのに、成果なしなんだぜ?」
「それは、そうだけど……でも、意外だね」
「意外?」
「……一夏も、結構色々と考えていたんだね」
その言葉に、一夏もつんのめる。ルームメイトが意外に毒舌であった事を思い出し、引き締まっていた表情も緩んだ。
「そ、そりゃ酷くないかシャルロット……」
「え……あ!! ご、ごめん、そ、そうだね」
「いや、良いんだけどな。……実際、途中まで色々と考えていた事が吹き飛んだし。一度冷静にならなかったら、やばかった」
そう苦笑いする一夏に、シャルロットは自分が好意を抱く男子の顔が見えたことに安堵する。……しかし、ここで話は終わらない。
「じゃあ、何で僕は男子として送り込まれたの……? 一夏達のデータ取りが目的じゃないのなら、僕は……」
「それは――俺にも解らない。でも多分、シャルロットが知らない事情が、まだあるんだと思う」
「……」
その言葉に、シャルロットはベッドに崩れ落ちた。自分が信じてきた事、それにとんでもない綻びが見つかったのだ。
それも、やむなしだった。だが、先ほどよりも悲嘆の色は薄れていた。
「ところで、生徒会云々とか言っていたけど。何なんだ?」
「あ、あのね。実は――」
布仏虚から受けた、書類の事を告げるシャルロット。本来ならば、告げるべきではなかったのかもしれないが。
精神的に弱っている上、親に『言う事は何も無い』と言われた彼女にとって、誰かに話を聞いて欲しいという欲求は止められなかった。
「そっか、そんな事が。……じゃあやっぱり、変だよな。シャルロットの身柄を、生徒会に渡そうなんて」
「そう、だね。……何か僕、もうわけがわからなくなっちゃったよ」
完全に弱り、萎れたシャルロットにかける言葉もない一夏。――だが、救援は外からやって来た。
「おい一夏、シャルル、いるか?」
「将隆か? 今、開ける……って、何やってるんだ?」
一夏が扉を開けると、まだ体から湯気をあげている将隆と、部分展開した御影の手で捕まっているクラウスがいた。
将隆は寝巻きとして使用しているTシャツ姿、クラウスは暗視ゴーグルとカメラを用意した不審者状態だったが。
「まあ、いつもの事だ。――入っても良いか?」
「あ、ああ」
「くそう、寮長室侵入を防がれるとは……」
「く、クラウス、そんな事をやろうとしてたんだ」
「……クラウス、お前そんな格好で、千冬姉の部屋で何する気だったんだ?」
「おい落ち着け一夏、とりあえず雪片弐型は収納しろよ」
今までのムードが、一気に四散し。部屋に、あの時と同じメンバーが揃うのだった。
「それで、単刀直入に聞くが――どうだった?」
「ああ。実は、な」
一夏が説明した、自身とリュカの会話。それを聞き終えたクラウスの表情は、先ほどまでとは打って変わって訝るものになっていた。
「……妙だな」
「妙? 何が妙なんだよ、クラウス?」
「いや。俺はてっきりデュノアの社長は『シャルルは手駒だ』な人かと思ってたんで。想いが無い、って言うのは変だと思ったんだ」
「変?」
「もしも、利用していたのを隠そうとするなら、適当に涙の一つも浮かべるだろうし。
もしも何か思っているなら『すまなかった……』って滂沱の涙と共に謝罪するシーンじゃないのか? 想いが無い、って言うのは……」
「確かに、そうだな。って事は、結局どうなるんだ?」
「……」
父親への態度について語られると、シャルロットの表情が硬く強張る。それに気付いた一夏が、彼女の頭を優しく撫でた。
「い、一夏!?」
「ほら、そんなに強張った表情をするなよ。大丈夫だ、俺達はシャルロットの味方だからな」
「う、うん……」
頬を赤らめ、明らかに今までとは別の空間を発動させる一夏とシャルロット。それを見た残る二人の男子は、顔を見合わせた。
「……おい将隆。シャルルは、やはり」
「ああ。完全に撃墜されたようだな」
「くうううっ!! おのれ一夏!!」
「いや、お前が悔しがる場面じゃないだろこれ」
部屋の空気が、先ほどまでの緊迫した物ではなく混沌とした物になっていた。結局、もう消灯時刻も近いのでこの日はお開きとなったのだが。
「俺達も、少しはフォローするけど。一夏、シャルルをしっかりフォローしてやれよ」
「おう!!」
その言葉で締められた事は、彼らの男装少女への配慮を何よりも表すものだった。
一方。談話室のリュカと千冬は、シャルロットの逃走後も部屋にいた。沈黙を破ったのは、リュカ。
「一つ、お聞きしても良いかな?」
「ええ。何でしょう」
「――貴女はあの時、弟さんをドイツに連れて行こうとは考えなかったのですか?
いや、正確には――そこで、鍛えようとは思わなかったのですか?」
ドイツ、そしてあの時。それが、第二回モンド・グロッソを指している事は明白だった。
そして千冬は、やや苦笑いのような表情で懐古する。
「一度、連れて行こうかと思った時もありました。――ただ、最終的にはそれを止めただけです」
「ほう」
「一夏の人生は、あいつ自身で切り開く物です。――私は姉として、それが明らかに間違っていない限りは止めようとは思いません」
中卒で働こうとした際は、流石に(肉体的言語も交えて)止めたりもしたのだったが。
その際の担任のコメントは『織斑君もお姉さんも本当にブラコンね』だったりした。
「……羨ましいものだ。貴女は、一貫している」
「そうでしょうか。これでも、迂曲を何度もやっている人生ですが」
「いいや……何処までも中途半端なのだよ、私は。親として“娘”を守るために全てを捨て去る事も出来ず。
社長として“好き勝手に使える優秀なIS操縦者”を骨の髄まで利用する事も出来ない……半端者だ」
自嘲するリュカ。そんな、自分よりも年長の男性が見せた態度を、千冬はただじっと見ていた。その目に映る感情は……。
「――先ほどの、シャルロット・デュノアに対する言葉もそれですか。
親としても、社長としても、何処かで触れ合えない部分がある。だから、彼女にかける言葉はない。――と」
「……貴女が、心理学を学んでいたとは知らなかったな」
「いいえ、知り合いの真似をしてみただけです」
「……織斑先生。君がもし娘の立場なら、どうしたかね?」
娘――シャルロットの立場。それに千冬が置かれれば、どうしたのか。
答えが返ってくるとはリュカ自身も思っていなかったし、そもそも口から不意に出た問いだったのだが。
「それは答えられません。――何故なら、貴方の娘と私とでは決定的な違いがある。弟――守るべき者の有無、というものが」
「弟、か。……もしも私の子があの子一人で無ければ、あるいは全てを捨てられたのかもしれないがな」
「……」
「……二人の女性を同時に愛したのが私の幸福であり。……この過ちの元だったのだ」
幸福であり、過ち。それを自嘲しつつ、リュカは椅子により深く座った。まるで、力が抜けてしまったように。
「母親が死んで父親が引き取るのは当然とはいえ、私の元では、普通の女子としての幸せなど望むべくも無い。
だからこそ、IS操縦者としての力を鍛えさせた。15歳で、高速切り替えを使いこなせるほどに……」
そして、普通ならば社外の人間に漏らすべきではない事情までもその口から漏れ始める。
その様子は、娘であるシャルロットが生徒会との事情を一夏に話したのとよく似ていた。
「仮にデュノアから追い出されても、今の世界において高いIS適性と技術を持っていれば生きる事に困る事はない。
私はそう考え、そしてあの娘もそれに応えて技術を学んでくれた。だが……今年の二月。全ての予定は狂ってしまった」
「私の弟――織斑一夏のIS起動ですね」
「それだけではないが、ね。ドールの開発成功なども、私にとっては悪夢だったよ」
一夏や将隆のIS起動成功、ドールの開発成功。それが齎したショックは、デュノア社を大きくゆるがせた。
第三世代型を開発できず、苦境に立たされていたデュノア社。乾坤一擲を、必要としたのは当然だった。
シャルロットをIS学園に送る事で織斑一夏に近づき、その秘密を明かしたい――デュノア社に、そんな狙いがあったのは間違いない。
だが、それだけでは不十分だった。何故なら、英国、日本の代表候補生が既にこの学園に入学する事は解っていたのだから。
「織斑には、ただの代表候補生では近づくにも限界がある。また、日英以外の国も同じような事を考えるであろうとも予想されていた。
だからこそ、織斑や安芸野に近づきやすくする為に。あわよくば、ルームメイトとなる為に男装させた。――そんな所ですか」
「一部には、取れるかどうか解らない情報の為に使うよりは、あの娘を別の手段の道具として使おうという人間もいたのでね。
そういう人間を納得させる為に、ハニートラップ紛いの道具として使わざるをえなかったのだよ」
「それも全ては学園に送る為、ですか。その為に、わざわざあんな手の込んだ真似をしてまで……」
「三年間。三年間だけでも、猶予が欲しかった。その間に、決着をつけなければならない。あの娘が、卒業するまでに……」
自嘲から一点、狂おしいほどの叫びを堪えるような表情になるリュカ。その手も、ソファーを硬く握り締めていた。
「……私の弟が、迷惑をかけました」
「いや、君が謝る事ではないさ。――君自身がそれを望んだのではないのだろう、し」
わずかに含みのある言い方をして、リュカは表情を平静に戻す。先ほどまでの狂おしい表情は、既に無い。
「IS学園に所属する、担任教師として。――シャルロット・デュノアの身柄は、こちらでお預かりします」
「……頼みます。織斑先生」
そして彼は立ち上がり、深々と頭を下げた。それは、紛れも無く子を思う親の姿であり。
(思い出すな、あの書類の事を)
シャルロットの転入届と共に届いた、一通の書類のことを千冬に思い出させていた。
書類には色々と政治的・経済的な側面から書かれた文章が並んでいたが。最後には「娘を頼みます」とあった。
それ故に、千冬はそれを握りつぶしかけつつも。そして学園も、シャルル・デュノアという生徒の編入を受け入れたのだ。
「これから、帰国されるのですか?」
「……ええ。用件は、全て終わりましたから」
寮の外で見送る千冬も、見送られるリュカも平静なままだった。時刻も遅く、また呼び出してもいないために生徒の姿は無い。
「では失礼――ブリュンヒルデ」
あくまで、最後まで人前では仮面を掛け続けてリュカは去っていった。結局、娘と語らう事も無く。ただ、大きな波紋を残して。
「……」
自室でふて腐れていたゴウは、自分の貰った能力の一つ・偶然の遭遇(アクシデンタル・エンカウンター)を使っていた。
その結果、シャルロットは一夏と共にいて、動かないと判明する。
距離的な感覚からして、自室ではないが、何処かの部屋の中のようだった。だが、千冬が一緒にいる事も同時に認識できた。
「ああはいったが、あの教師失格女から説教でもされているのか? ――なら、いい気味だがな」
ちなみにゴウの能力では『出会ったことの無い人物の居場所』は認識できない。
故に、同じ部屋にデュノア社の社長リュカ・デュノアがいる事は解らないのだった。
「ならば、近場で――よし。こちらから攻めるか」
ゴウが、足早に寮を歩き出す。そして程なく、特徴的な髪形を持つ金髪の少女――セシリア・オルコットと出会った。
「あら、ドイッチさん。こんばんわ」
「ああ、こんばんわ、オルコットさん。――突然の話だが。明日、ボーデヴィッヒさんと会ってみる気はないかな?」
「え……?」
唐突な言葉に、セシリアも戸惑いを隠せない。そんな彼女に、畳み掛けるようにゴウは言葉を紡ぐ。
「まあ、突然の事で驚いているのは解る。だけど、こういうのは早い方が良いのでね」
「ですが……鈴さんは、どうなさいますの?」
「彼女は、正直な話、一旦置いておこうと思っている。――まあ、凰さんというよりは中国政府が関わってくるのを恐れてだがね」
「……一理はありますけれど。やはり、鈴さんと一緒の方が――」
「だが、直接対戦する前に会った方が良いだろう? もしも直接当たれば、彼女がどうなるかは解らないからね」
「どういう意味ですの?」
「君に負けた場合、彼女のプライドはズタズタだろう。そんな彼女が、和解を受け入れると思うかい?」
セシリアがラウラに勝つ、とさりげなく持ち上げを交えながらゴウはセシリアを誘う。――だが、その時意外な声が聞こえてきた。
「あれ、オルコットさんと……ドイッチ君?」
「鷹月さん?」
(鷹月静寐……だと?)
やって来たのは、ファイルを胸に抱えたセシリアのタッグパートナー……鷹月静寐だった。
真面目でしっかり者の彼女は、セシリアとタッグを組み今までの三試合を勝ち抜いてきたのだが。
「こんな時間に、どうかしましたの?」
「ううん、装備について話したい事があったけど――取り込み中だった?」
「……いいえ。ドイッチさん、それでは失礼しますわ」
「……ああ。じゃあ、この話はここで終わっておこうか。さようなら、オルコットさん、鷹月さん」
にこやかに笑い、そして一礼して去るゴウ。……だが、自室に戻った瞬間その表情が歪んだ。
「チッ……まさかあのキャラに邪魔されるとは、な。確か『知識』通り、今は掃除道具のルームメイトになっている筈だが。
うさったさがルームメイトから伝染したのか?」
口元を歪め、顔を顰めるゴウ。浮かんでいるのは、八つ当たりその物の怒りと、自分の思い通りにいかなかった事による不満だった。
そして改めて大浴場に向かうと、既にその時将隆は大浴場から出ていたのだった。
「……遅れた、か」
「え? ドイッチ君、なにか言いましたか?」
「いいえ、何も。風呂に入っていないのは俺一人、ですか?」
ゴウと、今だ大浴場に現れないロブやクラウスを待っていた山田真耶が不思議そうにゴウを見る。
怒鳴りつけたい衝動を抑えながらも、笑顔を作った。
「いいえ。ブローン君やクロトー君は、まだですよ」
「そうですか。――山田先生、せっかくの申し出ですが私はやはり入浴しません」
「そうなんですか? 残念ですけど、無理に勧めるものでもないですから、ね。
わざわざ言いに来てくれて、ありがとうございます」
「いいえ。――では少々、用事が出来ましたので。失礼します」
真耶に一礼し、ゴウは去っていく。それぞれの夜は、こうやって更けていくのだった。
――IS学園よりはるか西の地。中国首都、北京の一角では。
壁に埋め込まれた大型プロジェクターの映像を見つめる、軍の高官や中国外交部(※日本における外務省)の役人達がいた。
「では、甲龍を徹底的に調べるのですか?」
「ああ。ドイツの第三世代型に二人がかりで敗北し、更に一般生徒にまで負け。我が国の威信は、著しく傷つけられた。
その原因を徹底的に究明し、白日の下にさらさなければならない」
「――では、凰鈴音も?」
「当然だ。いっそ、甲龍を取り上げても良いが、それでは今までの経験値が無駄になる。――帰国させるしか、あるまい」
「了解しました。……しかし、何が原因なのでしょうか」
「その辺りは、専門の者に聞くとしよう。――楊代表候補生管理官、君の意見を述べろ」
その言葉と共に、一同の末座に座っていた女性――中国の代表候補生管理官、楊麗々が立ち上がった。
その表情はいつもよりも更に神経質に歪み。疲労の色も、隠してはいたがかすかに見えた。
「はい。甲龍のログを調べましたが、衝撃砲――それも、追加武装である腕部衝撃砲『崩拳』も含めた武装の故障。
それが、直接の敗因と考えて間違いないでしょう。問題は、何故その故障が起きたかにあります」
「凰候補生の、自分のISに対する管理が不十分だったのではないのかね?」
「その可能性は、低いと思われます。他の稼動部分は、問題なく稼動していました」
「となると、あの戦いにおいて衝撃砲にダメージを受けた……からなのか?」
「その辺りも、こちらで徹底的に調べます。学園では、やはり調べにくい部分がありましたので」
「そうか。では、徹底的にやりたまえ」
「はい!!」
その言葉で、この会議は終焉を迎えた。そして。
鈴のあずかり知らぬ所で、その身と甲龍は学園から引き離されようとしていたのだった。
「……これは、本当ですか?」
轡木十蔵は、久しぶりに他者の前で素の驚きをあらわにしていた。それは、トーナメント一日目の乱入者関連の報告。
「ええ。あのときの乱入者は、一般人と変わらないチンピラ――ドールの操縦時間は、ほんの数時間との事でした」
「ほう……。それにしても、ほんの数時間で一般的な動きが出来るようになる、とは」
「一人当たり50万円の前金を渡され、雇われていたようです。情報は、得られないでしょうね」
暗がりに潜む者からの報告を聞き続ける十蔵の顔が、顰め面になる。手がかりと思っていた物が、ただの屑だったのだ。
最近何かと物騒な学園において、久しぶりに前向きになれる物だと思っていただけに落胆も大きい。
「ではあのステルス機と、それに随伴していた人間については……」
「そちらは、ただの傭兵だったようですね。織斑君が倒した女子に関しては『街で声をかけられた』のが切っ掛けだったようですが。
それから、随分と学園への憎悪を煽られたようです。……こちらからも、情報元を辿るのは難しいかと」
「そう、ですか。……ならば、この襲撃はそもそも何だったのかという点から考える必要がありそうですね」
報告を聞き終えた老人の顔に、わずかに皺が刻まれた。今現在、生徒会長である更識楯無が一時的に学園を離れる事が決定している。
その間、学園の防御力は確実に弱体化する。……もしも、何処かの組織が侵入を狙うのならば今からこそが狙い目だ。
「やれやれ。侵入を試みる者が絶えないのはこの学園の宿命ですが。――今年は、特に厄介ですな」
様々な組織の侵入の可能性を考え、対策をめぐらせる真の学園の長。
――しかし、次なる騒動の張本人が既に学園に入っている事は、流石の彼でも想像がつかないのであった。
「……」
そして『本来いない筈の者』達も既に動いていた。日本政府のIS機関――その一室の会議室では。
「ほ、本当ですか、その話は」
「ええ。これは会長直々のお話です。ですから、私がこちらにお伝えに来ました」
一人のアジア系女性を前に、それ以外の全ての人間が気圧されていた。
その女性――アジア系でありながら、類稀なプロポーションを持つ鋭い刀のような女性――の声が、大きくはない筈なのに室内に響く。
そして、その内容に防衛省や外務省の局長級、更には国立の研究所のトップまでもが目を丸くしている。
それは、ドールコアを奪われてしまった『お詫び』として、本来とは別口でのドールコアの供給を約束するという物。
「しかし、その……どういう事ですかな。何故『彼女』を引き渡す必要があるのですか?」
研究所のトップが口を開く。日本政府に提示されたそれは、少し前に中国政府に齎されたような一方的な条件ではなかった。
日本政府は、一名の人員を渡す事。それが、この取引の条件だったのである。
「彼女は、この日本のIS発展において欠かせぬ人員であり――」
「建前は、そこまでにいたしましょう。日本政府からすれば『彼女』はさておき。この『少女』はそこまでではないでしょう?」
官僚や研究者らは、その言葉に反論を失った。それは、周知の事だったからである。
「この『少女』一人でドールコア四つ。損な取引ではないでしょう? 我々が欲しいのは、この『少女』のみ。
別に、今持っている『コア』まで渡せとは言っていません」
「し、しかしですな……」
「五月蝿い『彼女』は今、海外に向かうそうですね? ――なら、あの『少女』を渡すにはちょうど良いではありませんか」
「で、ですが……。今『彼女』を動かす事は、その、不可能です。本人が希望するならば、別ですが……」
「ああ、あの規則ですか。ですが、侵入者を許すような学園に貴重な人員を置く事を考え直せば良いだけでしょう?」
「そ、そうは言っても、建前というものがありましてな」
「本人に希望させれば良いだけでしょう? ――貴方達でもあの『少女』一人を言いくるめる事くらい、出来るでしょう」
その突き刺すような言葉に、場の人間が全員黙る。そして密やかに『取引』は成立した。
もっとも、この場の閣僚や研究者らはそれぞれが女性に弱みを握られており。会議の前から、決着はついていたともいえる。
そして、この場における唯一の勝者である女性はというと。
「会長。日本政府は抑えました。これであの『少女』を切り離せるかと」
『ご苦労。まあ俺の趣味じゃないが【彼女】を欲しがる奴がいたんでね、ちょっと早いが切り離させてもらおう』
「――では、すぐにそちらに戻ります」
それだけで通話を終えると、すぐに国際便に乗るべく走り出すのだった。
――カコ・アガピグループ会長の第一秘書。マオ・ケーダ・ストーニーは。
※最後の辺りは『彼女』と『少女』でややこしかったでしょうが。
マオの言う『少女』=他の人間の言う『彼女』であり。マオの言う『彼女』は別人です。あしからず。