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No.30054の一覧
[0] IS ―インフィニット・ストラトス クラスメートの視線―[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:41)
[1] 受験……のはずが[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:27)
[2] どんどん巻き込まれていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[3] ある意味、自業自得なんだけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:42)
[4] 何だかんだで頑張って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:44)
[5] やるしかないわよね[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:14)
[6] いざ、決戦の時[ゴロヤレンドド](2012/04/16 08:11)
[7] 戦った末に、得て[ゴロヤレンドド](2014/06/16 08:01)
[8] そして全ては動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:55)
[9] 再会と出会いと[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:45)
[10] そして理解を[ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:58)
[11] 思いがけぬ出会いに[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:47)
[12] 思い描け未来を[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:48)
[13] 騒動の種、また一つ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:49)
[14] そして芽生えてまた生えて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:50)
[15] 自分では解らない物だけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[16] 渦中にいるという事[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:52)
[17] 歩き出した末は [ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[18] 思いもよらぬ事だらけ[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:54)
[19] 出会うなんて思いもしなかったけど[ゴロヤレンドド](2013/04/13 11:55)
[20] それでも止まらず動き出す[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:28)
[21] 動いている中でも色々と[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:00)
[22] 流れはそれぞれ違う物[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[23] ようやく準備は整って[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:01)
[24] それぞれの思い、突きあわせて[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:02)
[25] ぶつかり、重なり合う[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:56)
[26] その果てには、更なる混迷[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:04)
[27] 後始末の中で[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:09)
[28] たまには、こんな一時[ゴロヤレンドド](2012/11/15 08:10)
[29] 兆し、ありて[ゴロヤレンドド](2012/12/10 08:16)
[30] それでも関係なく、私の一日は過ぎていく[ゴロヤレンドド](2013/04/13 12:06)
[31] 新たなる、大騒動は[ゴロヤレンドド](2013/01/07 14:43)
[32] ほんの先触れ[ゴロヤレンドド](2013/01/24 15:47)
[33] 来たりし者は[ゴロヤレンドド](2013/02/25 08:21)
[34] 嵐を呼ぶか春を呼ぶか[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:06)
[35] その声は[ゴロヤレンドド](2013/03/26 08:05)
[36] 何処へと届くのか[ゴロヤレンドド](2013/04/03 08:02)
[37] 私を取り巻く人々は[ゴロヤレンドド](2013/04/27 09:30)
[38] 少しずつ変わりつつあって[ゴロヤレンドド](2013/05/09 11:05)
[39] その日は、ただの一日だったけれど[ゴロヤレンドド](2013/05/21 08:10)
[40] 色々な動きあり[ゴロヤレンドド](2013/06/05 08:00)
[41] 小さな波は[ゴロヤレンドド](2013/07/06 11:24)
[42] そのままでは終わらない[ゴロヤレンドド](2013/07/29 08:06)
[43] どんな夜でも[ゴロヤレンドド](2013/08/26 08:16)
[44] 明けない夜はない[ゴロヤレンドド](2013/09/18 08:33)
[45] 崩れた壁から[ゴロヤレンドド](2013/10/09 08:06)
[46] 差し込む光は道標[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:13)
[47] 綻ぶ中で、新しいモノも[ゴロヤレンドド](2013/11/18 08:14)
[48] それぞれの運命を変えていく[ゴロヤレンドド](2013/12/02 15:34)
[49] 戦いは、すでに始まっていて[ゴロヤレンドド](2013/12/11 12:56)
[50] そんな中で現われたものは[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[51] ぶつかったり、触れ合ったり[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:29)
[52] くっ付いたり、繋がれたり[ゴロヤレンドド](2014/08/18 07:59)
[53] 天の諜交、地の悪戦苦闘[ゴロヤレンドド](2014/02/28 08:27)
[54] 人の百過想迷[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:12)
[55] 戦いの前に、しておく事は[ゴロヤレンドド](2014/03/11 08:40)
[56] 色々あるけど、どれも大事です[ゴロヤレンドド](2014/04/14 08:34)
[57] 無理に、無理と無理とを重ねて[ゴロヤレンドド](2014/04/30 08:27)
[58] 色々と、歪も出てる[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[59] まさかまさかの[ゴロヤレンドド](2014/07/30 07:57)
[60] 大・逆・転![ゴロヤレンドド](2015/01/19 07:59)
[61] かなわぬ敵に、抗え[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:25)
[62] その軌跡が起こす、奇跡の影がある[ゴロヤレンドド](2014/07/19 14:24)
[63] 思いを知れば[ゴロヤレンドド](2014/07/30 08:06)
[64] 芽生える筈のものは芽生える[ゴロヤレンドド](2014/08/18 08:00)
[65] 決意の時は、今だ遠し[ゴロヤレンドド](2014/09/03 08:13)
[66] 故に、抗うしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:13)
[67] 捻じ曲げられた夢は[ゴロヤレンドド](2014/10/06 08:14)
[68] 捻じ曲げ戻すしかない[ゴロヤレンドド](2014/10/23 08:17)
[69] 戦う意味は、何処にあるのか[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:12)
[70] それを決めるのは、誰か[ゴロヤレンドド](2014/12/09 08:22)
[71] 手繰り寄せた奇跡[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:07)
[72] 手繰り寄せられた混迷[ゴロヤレンドド](2014/12/26 14:08)
[73] 震える人形[ゴロヤレンドド](2015/01/19 08:01)
[74] 対するは、揺るがぬ思いと揺れ動く策謀[ゴロヤレンドド](2015/02/17 08:06)
[75] 曇った未来[ゴロヤレンドド](2015/03/14 10:31)
[76] 動き出す未来[ゴロヤレンドド](2015/03/31 08:02)
[77] その始まりは[ゴロヤレンドド](2015/04/15 07:59)
[78] 輝夏の先触れ[ゴロヤレンドド](2015/05/01 12:16)
[79] 海についても大騒動[ゴロヤレンドド](2015/05/19 08:00)
[80] そして、安らぎと芽生え[ゴロヤレンドド](2015/06/12 08:02)
[81] 繋いだ絆、それが結ぶものは[ゴロヤレンドド](2015/06/30 12:20)
[82] 天の川の橋と、それを望まぬ者[ゴロヤレンドド](2015/07/23 08:03)
[83] 夏の銀光、輝くとき[ゴロヤレンドド](2015/08/11 08:08)
[84] その裂け目、膨大なり[ゴロヤレンドド](2015/09/04 12:17)
[85] その中より、出でし光は[ゴロヤレンドド](2015/10/01 12:15)
[86] 白銀の天光色[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:17)
[87] 紅と黒の裂け目の狭間で[ゴロヤレンドド](2015/12/01 12:18)
[88] 動き出したのは修正者[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:01)
[89] 白銀と白[ゴロヤレンドド](2016/02/04 08:02)
[90] その、結末[ゴロヤレンドド](2016/03/02 12:22)
[91] 出会い、そして[ゴロヤレンドド](2016/03/30 12:24)
[92] 新たなる始まり[ゴロヤレンドド](2016/05/12 12:16)
[93] 新しいもの、それに向き合う時[ゴロヤレンドド](2016/06/24 08:40)
[94] それは苦しく、そして辛い[ゴロヤレンドド](2016/08/02 10:08)
[95] 再開のもたらす波、それに乗り動く人[ゴロヤレンドド](2016/09/09 09:34)
[96] そのまま流される人[ゴロヤレンドド](2016/10/27 10:08)
[97] 戻りゆく流れの先に[ゴロヤレンドド](2017/02/18 12:02)
[98] 新たなる流れ[ゴロヤレンドド](2017/03/25 11:46)
[99] 転生者たちはどんな色の夢を見るのか[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:38)
[100] そして、その生をあたえたものは[ゴロヤレンドド](2017/05/27 14:36)
[101] 戦いの前に[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:39)
[102] 決めた事[ゴロヤレンドド](2018/01/30 15:54)
[103] オリキャラ辞典[ゴロヤレンドド](2017/09/12 15:38)
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[30054] 芽生える筈のものは芽生える
Name: ゴロヤレンドド◆abe26de1 ID:2f15c288 前を表示する / 次を表示する
Date: 2014/08/18 08:00
※前回(2014年7月19日)において、幾つかの話の誤字修正をしたのですが、通達を忘れておりました。
 毎度の事ながら内容には一切変更はありませんが、通達忘れをお詫びいたします。
※シャルロッ党の方、今回はお待たせのシーンです。最後まで、しっかりとお読みください。
※セカン党の方、この作品の鈴はまだまだ苦境が続きます。もう暫くご勘弁願います。


 トーナメント四日目。一年生の試合は、今日は無い。
昨日の三回戦で勝ち上がった九ペアが四回戦に進むのだが、八試合ある四回戦は試合を組むのに十六ペア必要なわけで。
その不足分、敗者復活するチームが七チーム必要になる。今日は、その七チームを選ぶ日に当てられているのだった。
普通に考えれば、三回戦で負けた九ペアから半分以上が選ばれるだろうけれど、今年は激戦が多く、難航しているらしかった。
何故シード制を導入しなかったのか疑問だけど『少しでも多くの試合を行なって経験を積ませる為』らしい。
……まあ、そもそもこのトーナメントって最初は自由参加の個人戦だったのだから、こういうゴタゴタもあっておかしくはないだろう。
「……まあ、私には関係ないんだけどね」
 一年生の試合はないけれど、二・三年生の試合は存在する。二・三年生は整備課クラスが存在する分、一年生よりも人数は少ない。
だけど、上級生の機体の整備内容は一年生よりもはるかに困難で、私や戸塚さんのような整備課補助候補生は、朝から一緒に働いていた。
「ううう……。本音さんの手も借りたい、って言っていた虚先輩の言葉の意味が解ったわ……」
 以前、そんな事を言っていたけど。でもこの場合、一人でも多い方がいいのは間違いない。
しかし、本音さんはまだ勝ち残っているので自分達のタッグ以外の整備には関われない。
私も頼まれていたアドバイスくらいなら、できるのだけど。……まあ、今の状況も決して苦境ばかりではない。
「宇月さん。本音の事は、仕方の無い事です。……本音の穴は、私が埋めますよ」
「はい、虚先輩」
 いつもどおり、穏やかな笑みを浮かべている虚先輩が私の横で作業をしてくれている。
三年首席のその実力を、存分に発揮してくれていた。そして、すぐ隣では黛先輩が動いているのだけど。
「さて、次は二年生の村谷さんと花守さんのペア! その次は三年生のオダン先輩・クーナウ先輩のペアが待ってるわよ!!
京子、フィー、もう少しだからね!!」
「おうよずっちん!」
「わかりましたぁ」
 黛先輩と組んでいるのは、打鉄弐式の時にもお世話になったあの先輩達だった。
その他にも、整備課の先輩達や私とは来年のクラスメートになるであろう一年生が頑張っている。……私も、負けていられなかった。
「香奈枝ちゃん、布仏先輩の手伝いが終わったら、14番のネジと打鉄用の脚部装甲板を持ってきてくれる?」
「はい!!」
「おう宇月、その時はこっちのレンチも交換しておいてくれ!!」
「了解です!!」
「宇月さ~~ん、マガジン交換の補助も頼みます~~」
「解りました!!」
 目まぐるしく変わる機体の横で、私は休むまもなく動き続けていた。でも、不思議と疲れは少なくそれどころか高揚すらあり。
その高揚は、時間を忘れさせてしまうのだった。


「お疲れ様。さあ、どうぞ」
「頂きます」
 機体整備も一段落し、皆が休んでいるところに虚先輩がお茶を配っていた。
大型のティーポットに淹れられていたお茶の香気が、整備室横の休憩室を満たす。
「美味しい……」
 まるで淹れたてのような香り、程よい温度、まるでお茶自身が自分の意思で滑り落ちていくような喉の通りのよさ。
何度かご馳走になった事があるけど、先輩のお茶は今日も美味しかった。
「今日は、疲労回復成分を含むフルーツをブレンドしたお茶ですが。如何でした?」
「とっても、美味しかったです」
 子供みたいな感想だけど、ある意味ではそれしかなかった。……ああ、最高。
「なあなあ宇月。お前は、一年生ではどのタッグが優勝すると思う?」
「え?」
 私がまったりしていると、京子先輩が、全く整備とは違う話を持ちかけてきた。うーん、そうは言われましても。
「最有力候補は、やっぱりボーデヴィッヒさんと篠ノ之さんですか」
 ボーデヴィッヒさんの実力は言うまでもないし。篠ノ之さんも、一般生徒なら二人相手で勝てる実力を持っているし。
「まあ、そいつらが本命だろうけどな。だけど、専用機相手の戦いをそいつらはやってないだろ?」
「……ええ、確か、そうですね」
 彼女達の一回戦は私達が相手、そして二回戦は戸塚さん達が相手。三回戦はよく知らないけど、これも専用機のいないタッグだった。
「むしろあたしは、織斑・デュノア辺りが来そうな気がするんだよな」
「でも~。彼らは苦戦続きですよ~?」
 確かに。フィー先輩の言うとおり、二回戦では危うく負けかけ。三回戦も、かなり苦戦していたみたいだし。
「だから狙い目なんだよ。それに、一発逆転の零落白夜があるんだしな」
「そうですね~~。それにしてもアレ、どういう原理で再現したんでしょう~?」
 まあ、確かに織斑君が使う零落白夜は謎だらけだ。姉である織斑先生が、現役時代に暮桜と共に発動させた零落白夜。
それを彼は、白式にのり始めて一時間もしないうちに、しかも二次形態移行しないで発動させた。どれもこれも、常識外れだ。
そんな常識外れは整備課である先輩達にとっては特に興味深い物らしく、何度も聞かれた覚えがある。……私が、だ。
「そういえば、三回戦でゴウ君が使ったあれ。面白そうだったわね」
 今度は黛先輩が話に潜り込んできた。私も映像で見たけど、確かに凄かった。ISに纏わり付いて、その機体の性質を変えてしまうなんて。
外見が何故か蜘蛛だという点を除けば、整備課生徒にとってはまさに最高の興味対象だった。
「そういう意味では、ゴウ君も優勝候補よね。まあ、対抗馬――って所かな?」
「あとは、イギリスのオルコットと三組の宇月の幼馴染みだな。中国の代表候補生は負けちまったし……」
 ……う。安芸野君の話題が出た途端、私への視線の性質が変わったような気がする。
「なあなあ、何か聞いていないのか? 御影の事とか」
「私は何も。むしろ、クラスメートの戸塚さんの方が詳しいんじゃないですか?」
「私も別に、特別詳しい情報は聞いていないわよ?」
 う、戸塚さんに話題を振ろうとしたらあっさりと切られた。どうしよう、黛先輩たちが虎視眈々と狙ってるし……。
「さあ、休憩もそろそろ終わりにしないと。まだまだ、全ての依頼が終了したわけではありませんよ」
 そこへ、生徒会の良心――虚先輩の救いの手が入った。そして、先輩達もそれぞれの仕事へと散っていく。
「あ、ありがとうございました、虚先輩」
「いいえ。それよりも、大丈夫ですね?」
「はい! まだまだ、やれます!!」
「結構です。では、頑張りましょうか」
「はい!!」
 倒れた前科があるので、この辺りはしっかりと自己管理しておかないといけない。
正直に、少し大袈裟にアピールしてみると虚先輩は微笑んだ。――さあて、頑張ろう!!




「鈴!!」
 俺は、朝一番で鈴の部屋に向かった。昨日は、結局消灯時刻まで鈴は帰ってこず。
仕方がないので、一人だけ戻っていたハミルトンさんに伝言を託していたのだが。
「あ……一夏、おはよう」
 そこにいたのは、塩をかけた青菜みたいになった鈴だった。
「……鈴、大丈夫だったか? 昨日、遅くまで用事があったみたいだけど」
「うん、一応一段落ついたわ。……まだ、完了じゃないけどね」
「そっか。確か明日の四回戦、敗者復活もありなんだろ? 一応、準備しておけよな」
「……あー、あたし自分から辞退したから。敗者復活はないわよ」
 さっきシャルルから教わった情報をそのまま伝えてみる。出来るだけ軽く言ったつもり、だったが。
「え?」
「ごめん、あたし急ぐから。――じゃあね」
 突然、思いがけない事を言われ。そのまま鈴は、去っていった。……何も出来なかった俺は、やむを得ず戻ろうとして。
そこにあった、金髪のロールとぶつかる。
「おわ、セシリア!?」
「な、何故そこまで驚きますの!?」
 いや、いきなり背後に人がいたらびっくりするじゃないか。それが知人でも、同じだ。
「それよりセシリア、どうしてここにいるんだ?」
「え? ええっと、それは、その……そ、それは鈴さんの部屋の方に向かう一夏さんが気になったからで」
「え、何だって?」
 小さい声で呟いたせいで『それは、その』から後がよく聞こえなかったんだが。
「と、とにかく、所用ですわ!! い、一夏さんこそどうされましたの?」
「ああ、俺は鈴の事でちょっと気になってな。昨日、代表候補生管理官って人に絞られたみたいだし」
「代表候補生管理官に、ですか……。仕方の無い事とはいえ、同情しますわ」
 セシリアが、梅干でも食べたような表情になった。……いや、セシリアがそれを口にしたのは見たこと無いけど。……あ。
「セシリア、やっぱり代表候補生がああいう負け方をしたら不味いのか?」
 セシリアも、鈴と同じ代表候補生だし。少し、事情を聞いてみよう。
「……そうですわね。我が英国と中国では少々事情が異なるとは思いますが、やはり宜しくないのは間違いないでしょう。
――あの、一夏さんがご希望なら、その辺りを少し詳しくお教えしてもよくってよ? か、カフェなどで如何かしら」
「そうだな、頼む。セシリア」
 そして、何故か上機嫌になったセシリアと共に、俺はカフェ――食堂とは別に、お茶やお菓子を楽しむ店――に向かったのだった。
 

「おほん。……まず、鈴さんの事ですが。代表候補生管理官がいらしたのは戦果を確認する為だったのでしょうけれど。
それが、敗北という予想外の事態により徹底的なチェックを行なったのだと思われますわ」
 紅茶とカロリー控えめのチーズケーキ――俺がお礼に奢った物――を前にして、セシリアはそこから説明を始めた。
「甲龍の機体チェック、鈴さんの戦術選択、機動のログ……昨日行なったのは、その辺りでしょう。
そして今日は、恐らく政府からの詰問をまだ受けなければならないのだと思いますわ。
それは、明日辺りまでかかる物となるかもしれません。それ故に鈴さんは、敗者復活を辞退なさったのだと思われます」
「詰問?」
「わたくしもそうですが。学園にいる代表候補生が専用機を預かる場合、基本的なメンテナンスは候補生自身に任されます。
今回の場合、何故衝撃砲が故障したのかは不明ですが、鈴さんに管理責任があると政府側が考えているのではないでしょうか?」
「そんな……」
 あの時、何故か衝撃砲が使えなくなったとはハミルトンさんから聞いたが。それが、鈴のせいだっていうのか?
「でも、どうして衝撃砲が使えなくなったんだろう? その辺り、予想は出来るか?」
「そうですわね。……ISには自己修復能力があります。何かで傷を負ったのだとしても、軽い物ならばすぐに修復する筈。
ならば、よほどのダメージを受けていたのでしょうけれど……。鈴さんの一回戦や二回戦では、そこまでの損傷は聞いていません。
あの試合で考えられるとすれば、装甲パージ後の『クラッシャー』連射で損傷を受けた……という可能性もありますが」
「でも、鈴ならその位は解りそうなんだよなあ……」
「ええ。あの試合の時、衝撃砲は『それまで普通に使っていて、更に使おうとしたのに』突然使えなくなったようですが。
何らかのトラブルがあったとしても、鈴さんがそれを見落としていたとは、思えませんわね」
 うーん。、どういう事なんだろう?
「別の可能性としては……何らかの知られざるトラブルが、知らないうちに甲龍に発生していたのかもしれませんわね。
 知られざるトラブル、か。でもそんなの……あれ?
「!」
 思い出した……! あの時、俺を庇ってあの巨大錐の攻撃を受けた鈴。それが突き刺さっていたのは――甲龍の非固定浮遊部位!!
「まさか……!?」
「どうしましたの、一夏さん。顔が青ざめていますわよ? 具合でも悪いのですか?」
「いや……ありがとう、セシリア。――俺、用事を思い出したからこれでごめんな。代金は前払いしてあるから、ゆっくりと楽しんでくれ」
「え? あ、あの、い、一夏さん!?」
 戸惑っているであろうセシリアを置いていくのは少し後ろ髪を引かれたが、今は仕方がなかった。
俺の思いついた仮説――それを、鈴や中国の人たちに伝えないと!!


「どこへ行く気だ、織斑」
「中国の、代表候補生管理官って人の所だ!!」
 走る俺の前に、千冬姉が現れた。普段ならちゃんと敬語を使わないといけないが、今はそれどころじゃない。
たしか、楊麗々さん……だっけか? あの人に事情を話せば、もしかしたら衝撃砲の不調の原因が解るかもしれない……!!
「中国……? もしや、凰の敗戦についての事か?」
「そうだよ! だって、鈴が負けたのは俺の責任かもしれないのに……!!」
「ほう。あの敗戦の原因を、あの夜の一件だと考えているか?」
「そうだよ!!」
「――駄目だ。それを説明する事は許さん」
 正直な話、千冬姉とこうして話している時間も惜しい。――だが、その時告げられた言葉に思わず絶句する。
「何でだよ!? そりゃ、知らない生徒には言うなって言われたけど鈴は当事者の一人じゃないか!!」
「凰がお前を庇った事を教えれば。連鎖的に、学園への侵入者の一件も明かす事になる。それに、そもそも――」
「それがどうしたって言うんだよ! 鈴を、学園の為に犠牲にす――が!?」
「馬鹿者。意見を述べるならば、人の話を最後まで聞いてからにしろ」
 強烈な出席簿の一撃で、俺は黙らせられた。くう、いつもよりは小さい痛みだがやはり痛い。
「それと、お前の言っていた中国の代表候補生管理官は既に帰国の途についている。今からお前が会う事は、不可能だ」
 あ、ありゃ?
「まあ、お前も納得しきれない部分があるのは解った。――ついてこい」
 そして勢いを削がれた俺は、寮へと向かう道を歩いていく。鈴に話したかったけど、千冬姉の言葉を聞かないわけにはいかなかったからだ。


「さて、凰の一件だが。――お前を庇って受けた一撃が衝撃砲の故障に繋がったのか。仮にそうであるとしても、それは立証できない」
「え?」
 寮監室に入るやいなや言われた一言。それは、予想外の言葉だった。
「立証、出来ない? そうだとしても出来ない、って……?」
「あの一件は、トーナメント開始日の夜だ。もしあの夜の一撃が原因ならば、二回戦で不調が出ていなければおかしい計算になる。
仮に微細な損傷があったとしても、自己修復能力を持つISであれば通常ならば一日あれば修復が完了する。
また、あの時の錐の一撃で受けた損傷が自己修復能力で完治しないレベルのものならば、操縦者である凰が気付かない筈はない。
また、記録を調べれば『いつから』損傷していたのはすぐに解る事だ。
そして最後に。凰があの時受けた一撃は、非固定浮遊部位『だけ』だ。腕部に装備された小型衝撃砲までもが使用不可能になる筈はない」
 じゃあ……?
「あの故障は、あくまで甲龍の整備不良か新兵器を取り付けた事によるトラブルか……どちらかだろう。お前が気に病む必要はない」
「で、でもそれは……ひょっとしたら、未知の新兵器なのかもしれないじゃないか」
「ふむ。――まあ、確かにただの巨大錐をわざわざ使うとは思えない以上、その可能性はあるだろう。
仮に、衝撃砲の作動を阻害する時限式のウイルスのようなものがあの錐を通じて物理的に潜り込んだのだとすれば、可能性はゼロではない。
現在、甲龍は中国政府側の調査を受けているが……それでも、誰が原因かと言う立証は難しいだろうがな」
「え? 調べたら、解るんじゃないのか?」
 そういう物じゃないのかな?
「ISに影響を及ぼせるようなものが、そう簡単に足がつくほど単純な代物だとは考えられん」
「な、なるほど……」
「それと、別の観点からの教えられない理由もある。……聞くか?」
「あ、ああ」
 少し、いつもとは違う怖さを漂わせていた千冬姉。どういう物か見当は付かなかったけど、聞くしかなかった。 
「お前にも教えたな? あの時の侵入者のドールは、日本に向かう筈だった物が中国・モンゴル国境付近で強奪された物だ、と」
「それが、何の関係……え?」
 中国・モンゴル国境?
「中国政府は、今、その一件でピリピリしている。自国の国境付近で、日本に向かうドールが襲撃された。これが『どう見られている』と思う?」
「まさか……ドールの強奪に、中国政府が絡んでいる、とか?」
 そんな事、ありえるのか?
「ああ。実際のところはどうか解らんが。――少なくとも中国政府側は『そう見られるのを』恐れている」
「じゃ、じゃあ逆に、ちゃんと言った方がいいんじゃないのか? 甲龍が、中国の機体がやられたんだぜ? 強奪とは関係ない事が」
「ああ。もしもドールだけならば、言っても構わなかった。だが――ここで、お前も出会ったクラス対抗戦のときの乱入者が出てくる」
 あの巨大錐を使ってきた奴の事か?
「あの時の乱入者が何処の組織の所属なのかは未だに不明だが。――もしも、どこかの国の所属であった場合、どうなると思う?
結果的とはいえ、甲龍を敗北させられて大恥をかかされた中国政府が、黙っていると思うか?」
 そりゃあ、黙っていないだろうけど……って!?
「理解したか。――あの乱入者の所属国家・あるいは組織と中国政府の、最悪の場合を避けるため、だ」
「……つまり、あの巨大錐の元を探るとあの乱入者に繋がるから――って事か?」
「その通りだ。まあ、あの一件は、未だに調査中だ。もしも凰に対する有益な情報があれば中国側に提供するのも吝かではない」
「……でも、鈴と甲龍があのISと出会ったのは調べたら解るんじゃないのか?」
「あの夜の事は、公式記録からも消してある。凰にも極秘だとは言ってあるが……。こうなると、あれは悪手だったな。
こちらの一手にも、失策があったということだ」
 なるほど。
「納得したら、とっととトレーニングなりデュノアとのコンビネーション確認なりをしてこい。
二回戦や三回戦のような苦戦を、また繰り返す気か?」
「は、はい!!」
 鈴の事もまだ気になるけど、俺は慌てて寮監室を出た。
トーナメントの事も、考えなきゃいけないし。……ひとまず俺は、自分の事を考えよう。




 ――そして、IS学園を遠く離れた地中海・エレティコス島では。暗躍する者達が、今日も蠢いていた。
「アレのデータは取れたのか?」
「ああ。中国の調査から、ばっちり横流し済みだ。まあ、こっちのデータと照合しないとわからないデータだしな」
「だが、思ったよりは影響は小さかったな」
「ああ。もう少しデータが集まればよかったんだがな」
「仕方がないだろう。あの『主役が務まらないイレギュラー』が『元』を使わなかったからな。無理は無い。
 そこには、日本の国旗と共に『石屋戸塞ぎに関するシステム上の法則』と書かれた書類があった。
――そのデータが、鈴の苦境の原因を更なる悪辣な物へと変化させていくのだが。それを止められる者は、今はいなかった。




「何だと……?」
 オムニポテンスの整備も終わり。寮の入り口で生徒用端末を見た俺に、驚愕の情報が届いていた。
それに入っていたのは『シャル』からのメッセージで『大浴場の入浴許可が下りたけど、ゴウはどうするの?』とあった。
……焦る俺の前に、山田真耶が現れる。
「あ、ドイッチ君。ここにいたんですね、良かった」
「おや山田先生、こんにちわ。何か、俺に用事ですか?」
「はい。実は今日、大浴場の排水溝が故障したので業者さんを呼んでいたんですが、それが予想よりも早く終わりまして。
女子には『今夜はお風呂は使えない』と一斉に連絡していたので、どうせなら男子に使ってもらおうと思いまして」
 やはり、か。まさかこのイベントが今日来るとは、な。俺の『知識』では、三日前――トーナメント開始の日だった筈なのだが。
「……そうなんですか。でも、山田先生自身がわざわざ伝えに来なくても良かったのでは?」
「どうせなら、直接伝えた方が良いと思ったんです。喜ぶ顔も、直接見たいですし。織斑君なんて、物凄く喜んでましたよ」
 俺は、ニコニコと笑う目の前の教師の顔を殴りたい衝動を押さえつけた。っったく……。この胸だけ育った乳牛教師、どれだけ無能なんだ。
何でそんな大事なことを、もっと早く伝達しなかったんだ。何が『喜ぶ顔を直接見たい』だ。そんな自己満足の為に、連絡を遅らせただと?
生徒用に配布されている端末を使えば、それこそ一瞬で男子生徒全員に『同時に』伝えられただろうに。
織斑千冬よりはまともだと思っていたが、所詮はIS世界の人間……あの屑作者の創作物か。
「ありがとうございました、山田先生。わざわざここまで来て伝えてくださり、ありがとうございます。では、これで」
「い、いえ、私は、先生ですから!!」
 偉そうにそのでかすぎる胸を張る馬鹿女を無視し、俺は即座に大浴場に向かった。
もしも『シャル』がクソサマーと一緒に風呂に入っていたら。あの女は欧州の連中に渡して(XXX版風の表現の為、削除)してやる!!




「……え? シャルル、悪いけどもう一回言ってくれるか?」
「だ、だからね将隆。そ、その――。い、今から僕も入ってくるから、見張っておいて欲しいんだ」
 大浴場の使用許可が下り、そこにやって来た俺と一夏とシャルル。話し合いの結果、男子が先に入る事にしたのだが。
あっという間に風呂に向かった一夏に続き、服を脱ぎだした俺の袖をシャルルが掴み。とんでもない事を言い出した。
「……一応聞くけど、一夏が入ってるんだぞ?」
「う、うん……」
 俯くシャルル。……あー。やっぱりこれ、一夏に完全に惚れてるわ。篠ノ之さん、オルコットさん、凰に続いて四人目か。
「それじゃあ俺はここで待ってるぜ。……出来れば、手短にな」
「う、うん! そ、その、ゴウやクラウス達が来たら……お、お願い、ね?」
 俺は入り口付近に移動し、シャルルが着替え終わって大浴場に入るのを待った。
普通なら止めるべきなんだろうが、何かそういう気が起きなかった。まあ、あの唐変木の一夏だし……。いや、でも。
「……ん? 万が一にも一夏が暴走したら――やばくないかコレ?」
 世界初の男性操縦者が、フランスの代表候補生と……って、不味いような気がしたが。
まあ、一夏だから大丈夫な気がするし、それに今更入って止めるのもなあ……ん?
「……ちっ、少し遅れたか」
「ゴウ?」
 ……俺にとっては少々不可解な奴、ゴウだった。こいつも、おそらくは山田先生から話を聞いてきたんだろうが。
「ああ、すまないが今はシャルルが貸しきり中だから後で――」
「邪魔をするな」
「!?」
 こいつもシャルルの正体は知っているので、説明を……と思った瞬間、視界が横になる。
柔道の技・足払いみたいに、バランスを崩され倒された、と気付いたのは床に叩きつけられた後だった。い、痛ってえ……。
「な、何しやがる……!」
「知識も無いノーマルが、知識のあるチーターに勝てると思わないことだ」
 ノーマル? チーター? 何の事だ? いや、そんな事はどうでもよくて――げ。
「何を騒いでいる、馬鹿ども」
 入り口に、地獄教師(By一夏)こと織斑先生がいた。や、やっべえ……。
「織斑先生。デュノアが――ぐがっ!?」
「以前のボーデヴィッヒとオルコットと凰のいざこざから、私も学習した。
学園内で起きた騒ぎを、最低限で鎮めるのが私の仕事だとな。――それが男だろうと女であろうと変わらん」
 ゴウは、何か言おうとする前に、顎へのパンチ一撃で沈められた。……ちょっと待て。
まさか、この人も止めろと仰るかシャルルさん! この人を止めるなんて、俺には無理だぞ!! 御影を使っても勝てる気がしない!!
「で、安芸野。お前は風呂にも入らず、ここで何をしている? 中に、何かあるのか?」
「い、いやー、シャルルから、僕も(一夏と)お風呂に入りたいって言われまして。で、ちょっと見張ってくれ、って言われました」
「お前も知っている筈だが、あいつは女だぞ。では同性であり、正体を知っている私が風呂を見ても問題はないな?」
 ただ普通に先生は歩いているだけなのに、こっちが後退してしまうほどの迫力を感じる。
すぐに、入り口のガラス戸が俺の背中に触れた。……こうなったら、口八丁で誤魔化すしかない!! 
「い、いや、それはちょっと不味いと思うんですよ。誰が来ても入れないで欲しい、って言われましたし。
想像ですけど、あいつもフランスで凄い訓練を受けてきたんだろうし、見られたくない傷跡とかあったんじゃないんですかね?」
 ……よし、嘘は言っていない。ちなみに傷跡云々は、俺の実体験半分だ。IS実機搭乗は兎も角、それ以外の基礎修練。
特に体力トレーニングとかでは、怪我する事もあった。もっともその時には最高級の治療を受けられたので、傷跡とかは無いけど。
「なるほど、な。まあ良かろう。――お前にも迷惑をかけたようだな、すまん」
 ……え? あ、あの織斑先生が、俺に「すまん」と言ったぁ!?
「何を呆けた顔をしている。豆鉄砲をくらった鳩でもあるまい」
「い、いえ、べ、別にそういうわけでは……」
「ふっ」
 ……? どこか噴出したように先生が笑う。……え、何でだ?
「ああ、別にお前を笑ったわけではない。私のクラスの宇月香奈枝も、以前に同じような反応を示したのでな。それを思い出しただけだ」
 ……か、カナちゃんが?
「まあいいか。安芸野、トーナメントもまだまだ続く。ゆっくりと疲れを癒せよ。――デュノア『達』があがったあとでな」
「……はい」
 以前、転入生紹介イベントでうちのクラウスを担いでいったように。軽々とゴウを担ぎ上げ、帰っていった。
……まあ、IS用ブレードを持ち上げられたんだから人間一人くらいは軽いもんだろうな。
しかし、デュノア『達』って事は……ばれていたようだった。ああ、寿命が縮んだぜ。この借り、ちゃんと返してもらうぞシャルル。




「……」
 自室で目覚めたゴウは、流石に怒りを隠さない視線を千冬に向けていた。もっとも、それでどうこうなる千冬ではない。
「織斑先生……暴力を振るうというのはどうかと思うのですが」
「同級生に謂れなき暴力を振るったお前に、制裁を加えただけだが?」
「……あれは、少し揉み合っていただけで暴力ではありませんよ?」
「ほう。では何故そんな事態になったのだ?」
「シャルル・デュノアが男子――織斑一夏と同じ風呂に入りました。それは風紀上、許される事ではありません。
だからこそ、私は止めようとしただけです。それを邪魔しようとした安芸野君と揉み合っただけですが?」
「ふむ。では、何故デュノアが織斑と風呂に入ったのだ?」
「さあ、理由までは知りませんが風呂に入ったのは確かなようです。万が一の事態が起これば、国際的な大問題になるでしょう?」
「その心配は無用だ。その位で暴走するならば。――最初から、織斑と篠ノ之を一緒の部屋などにしていないさ」
「それは、弟さんへの過信ではないですか?」
「弟だけではなく、デュノアへの信頼もあるがな」
「……そういえば織斑先生。今回の話は、山田先生が直接伝える事にしたのですか?」
 突き刺さるようなゴウの言葉だが、千冬はそれを涼風のように受け流す。
そしてこの話題ではこれ以上押せないと感じたゴウは、話題を変えだした。
「ああ、彼女に全てを任せたが。それにも何か抗議でもあるのか?」
「そうです。何故わざわざ、山田先生が一人一人の部屋を訪ねていくなどという非効率的な方法を取ったのでしょうか?
私は一番最後に知らされたのですが、これは不公平ではないでしょうか?」
「ああ、その事か。実は男子生徒の中に、生徒用端末をあまり持ち歩かん奴がいるのでな。直接伝えさせる事にしただけだ」
「な!?」
 その事は考えていなかったのか、ゴウの表情が驚きで歪む。千冬も、苦笑いしか無い。
「お前は自分が一番最後だと思っているようだが、その持ち歩かん奴は今も知らん。
まったく、あの不屈の根性をもう少しまともな方向に向けられない物かな……」
 ちなみに、その理由は『風呂場などへのしんにゅ……もとい、潜入の練習中に場所を知られたくないから』という理由である。
誰なのかは、言うまでもなかった。偶然にも、シャルルの正体がゴウ以外の男子にも発覚した時と、同じパターンである。
シャルルの正体同様に、今回もゴウの企みは(本人も知らないうちとはいえ)同じ『彼』に邪魔されてしまったというわけだ。
なお、今現在『彼』は更衣室荒らしの罪で特別指導室行きになっているのだが、それを口にする事はなかった。
「で、話は終わりか? 私も別の仕事があるのでな、話が無いのならこれで終わりだぞ?」
「……では、ボーデヴィッヒさんの事ですが。彼女に対して、織斑先生は何もしないのですか?
一度だけ、話をしたと聞きましたが。このままでは彼女は、何らかの事件を起こしかねないと思うのですが」
 正確に言えば、千冬とラウラは一度ではなく何度か会話をしているのだが。
それらはゴウの知識にも無く、そして他には数人しか知らない話であった為、ゴウは千冬がラウラを放置していると考えていた。
その誤解は解こうと思えば解けるものだったが、千冬はあえて真実を教えない。
「――アレは、ガキが癇癪を爆発させたような物だ。転入時に織斑の頬をぶった事からしても、そうだ。
本当にボーデヴィッヒが織斑を害する気なら、ナイフでも拳銃でも突きつけている。
あるいは、障害を起こすレベルの打撃を与える事も容易いだろう。単に、自分の感情を持て余しただけだ」
「ずいぶんと、彼女のことを軽く見ているようですね」
「そう取るのは、お前の自由だ」
「……わかりました、これで失礼します。――俺は、貴女を教師として認めませんから」
「好きにしろ」
 普段の千冬なら制裁の一つも下しそうな一言を告げられても、彼女は微動だにしなかった。
なお、ゴウが大浴場に着いたときには一夏もシャルルも将隆もおらず。
それがより彼の不満を増大させたのだが、それはまた別の話である。




「……やべえ」
 大浴場の使用許可。唐突に告げられたその吉事に喜ぶ俺が事の重大さに気付いたのは、山田先生が帰ってからだった。
狂喜乱舞していたであろう俺の後ろで、無言のまま困った表情をしているシャルルに気付いたが、時、既に遅し。
「い、一夏、どうするの?」
 シャルルが、捨てられた子犬のような視線を向けてくる。……物凄くよく似合ってるが、そんなことは今どうでもいい。
「ど、どうするってそりゃ、シャルルと俺達が一緒に入るわけにはいかないからな。
とりあえず、将隆や他の連中とも話してから決めようぜ」
 俺一人だけなら、シャルルを入らせて俺はシャワー……でも良いんだが。他に男子は四人いる為、俺一人だけでは決められないからな。
とりあえず、大浴場に向かおう。


 ……。それから連絡をしてみたものの。将隆は大浴場に向かっている途中だったが、ロブは『今忙しいから駄目だって』と返され。
クラウスは音信不通というか電源が切ってあり。ゴウはシャルルが連絡したものの、こちらは留守電モードだったのでメッセージを残しておいた。
そしてこれからゴウに伝えに行く、と言っていた山田先生から鍵を開けてもらい、俺達は将隆と共に浴場に初めて入ったのだが……。
「で、だ。どっちが先に入るんだ?」
 将隆が、まっさきに口を開いた。こいつも、やはり困った表情だ。そりゃそうだよなあ。
「俺は、シャルルを先に入らせようと思う。将隆は、それで良いか?」
「まあ、良いけ――」
「ま、待って!! 一夏達が、先にお風呂に入ってよ」
 将隆も同意しかけたのだが、肝心のシャルルが先に入る事を拒んだ。あ、あれ?
「シャルル、一夏が譲ってるんだぞ。せっかくの大浴場なのに、待ってても良いのか?」
「だ、大丈夫だよ。僕は、そんなにお風呂が好きってわけじゃないし……」
 む、それはもったいないぞ。フランス人はあまり入浴しないとか聞いたけど、やっぱり風呂の気持ちよさは世界共通だぞ。
同じヨーロッパ人でも、フランチェスカ辺りは喜んで入っているようだし。
「い、一夏たちはお風呂が好きなんでしょ?」
「おう、好きだ!!」
「まあ、好きってほどでもないが。一度見てみたい、とは思ったな」
 風呂こそ日本人の命の必須アイテム!! 入学してからずっとシャワーだけで過ごしてきたからな、喜びもひとしおだ。
将隆は少し喜びが小さいようだが、俺にとっては最高レベルの喜びだ。
「……」
 はて、何でシャルルは真っ赤になっているんだろうか? もう湯あたりしたとか……そんなわけないか。
「よし、じゃあ将隆、入ろうぜ。あ、シャルル。悪いけど、クラウスやロブ達が来たら……」
「う、うん。ちゃんと伝えるよ」
「頼んだぜ!!」
 シャルルの許可を得られたことで、俺の大浴場への入場を制止する物はなくなった。
将隆を待っている時間も惜しく、俺は喜び勇んで浴場に突撃するのだった。


「ふーー。生き返る~……」
 風呂場での俺ルールである、一度身体を洗ってからの入浴を心の底から満喫する俺は、間違いなく天下一の幸せ者だった。
さて、この湯船(大)を味わった後はもう一度身体を洗って、更にもう一度入浴するのだが……。
次はどれにしようか? 打たせ滝を体験するのもいいし、檜風呂も捨てがたい。ジェットバスのある湯船(中)も忘れてはならないだろう。
「ふははははは! 最高の贅沢だな!!」
 二月にISを動かしてから、本当に色々な事があったが。今、その全ての苦労が溶けていく気がした。風呂だけに。
「ん?」
 その時、脱衣場の扉が開く音がした。何だ将隆、ようやく来たのか。中々来ないから、どうしたのかと思っていたぞ。
「おー、将隆。遅かったなー?」
 振り向かずに後ろに声をかけると、ドアが閉じられ、タイルの歩く音が聞こえてくる。
しかし、妙に綺麗だ。将隆って、こんなに歩く音が綺麗だったっけ? どちらかというと……。お、止まったな。
「何していたんだよ、一体……ん?」
 振り向いて将隆を迎えようとした俺は、とてつもない違和感につつまれた。
将隆は、あんなに髪の毛が長かったか? 将隆は、金髪だったか? ……将隆は、タオルで隠してもわかるくらい胸が大きかったか?
「――し、し、し、シャルルゥゥゥ!?」
 そこにいたのは、脱衣場で待っているはずのシャルルだった。な、何でシャルルが大浴場に入ってくるんだ!?
……そ、そうか。やっぱり風呂に入りたくなったんだな、だから将隆に代わって貰ったんだろう。よし、じゃあ俺も――。
「い、一夏。お、お邪魔します」
「お、おう!! お、お邪魔だったな俺! じゃあ、ゆっくりと湯船を楽しんでくれ!!」
「――!? きゃあああっ!?」
 慌てて浴槽から出た俺を見て、シャルルが悲鳴をあげる。……その意味を理解し、慌てて再び浴槽につかる。
「し、シャルルさん、あの、入浴したいのならですね、俺が出るまで待って――」
「い、一緒に入ろう。一夏……」
 半分以上パニックになっている俺がもたもたしている間に、シャルルが同じ浴槽に入ってきた。え? ど、どうなってるんだこれ!?
「だ、大事な話があるんだ。……聞いて、くれない?」
「だ、大事な話? え、えっと、今じゃないと駄目か?」
「う、うん」
 どうせなら、入浴し終えてからの方が良かったが、シャルル自身がそう言っている以上は拒めず。
俺とシャルルは、同じ浴槽に身を沈めるのだった。


「……」
「……」
 俺は、どうすればいいのか解らなかった。シャルルが、背中合わせで俺と密着してきたのだ。
背中に押し付けられる髪の感触とシャルロットの匂いが、俺から平常心を奪っていく。
これがレベルドレインなら、あっという間にレベル1だろう。
「そ、それで、大事な話って何だ?」
「あの、ね。――ありがとう、って事だよ」
 あ、ありがとう?
「僕を、僕としてみてくれて。――ありがとう」
「そ、そうか」
 言っている意味は解らないが、シャルルが感謝してくれるほどの事なら良かったんだろう。
何故今それを、と思わないわけじゃなかったが。
「そ、それとね。僕のあり方。――やっと、決められた気がする」
 あり方?
「これも、一夏のお陰で決められたんだよ。ありがとう」
 そ、そうか。これもよく意味は解らないが。俺はシャルルの為に何かやれたのなら、これ以上嬉しい事はない。
「そ、それとね。呼び方の事なんだけど――僕の事は、シャルロットって呼んでくれない? 二人きりの時だけでいいから」
「え? ……あ、もしかして、それが?」
「うん。僕の、本当の名前。お母さんがくれた、本当の名前なんだ」
「シャルロット、か」
 シャルルじゃなく、シャルロット、か。ちゃんと、使い分けをしないといけないな。
皆の前で『シャルロット』なんて呼んだ日には、大変な事になるし。
「……ふふ。一夏に最初に教えられて、良かった」
「そ、そうなのか」
 大事な話なんだろうが、俺は上の空になっていた。
「こ、これで大事な話は終わりなのか? じゃ、じゃあ――」
「ううん、まだ――だよ」
 !? その時、シャル……ロットが、体の前後を入れ替えた。俺が湯船の底に置いていた手に、自分の手を重ね。
そして、体重も預けてくると同時に俺の頭に自分の顔を密着させんばかりに近づかせる。
今までも感じていたシャルロットの匂いがさらに強まり。タオル越しに、その胸の膨らみの感触も感じられた。
「し、し、シャルロット、さん? あ、あのですね、今更だけど、どうしてやってきたよ?」
「ぼ、僕じゃあ、一緒に入るのは嫌?」
 我ながら湯の暑さと緊張でわけが解らない質問になっているのは解ったが。
健全な十五歳男子として、これ以上はやばいと思っていた。人並みに異性に興味はあるつもりだし、当然興奮もする。
だけど、そんな事を背後の少女に言えるわけも無く。
「そ、そういえば、どうしていきなり本名を教えてくれたんだ?」
「うん……僕はね、強くなりたいんだ」
「……強く?」
 話をそらすような質問になった。だけど、その答えの『強くなりたい』と言う言葉が、俺の理性を取り戻してくれる。
「うん。強くなりたいんだ。……一夏みたいに」
「俺、みたいにか?」
「一夏は、強いよ。――僕よりも」
 そうだろうか。たった一人、親の命令で男の格好をしてきたシャルル。
普通なら逃げ出してもおかしくなかったのに、異国の地で必死で頑張ってきたシャルル。
俺達もある程度はフォローしてきたつもりだけど、やっぱり至らない点が多かっただろう。
そんな彼女よりも俺が強いとは、俺自身には思えなかった。
「シャルロットだって、強いよ」
「……ううん。僕は、強くないよ」
 そう、謙遜しなくても良いのにな。あ、じゃあ。
「それなら、俺とシャルロット。二人で強くなろうぜ。トーナメントも、まだ残ってるしな」
「うん……」
 それから俺達は、少しだけのんびりとした時間を過ごした。
本当はもう一度別の浴槽を満喫したかったが、将隆が待ってくれている以上は長湯は出来ないからな。




「……僕、凄い事をしちゃったよね」
 寮での普段着として使っているジャージ姿(男子に見えるような矯正パッド含む)に着替えた僕だけど。
まだ、自分のやった事が信じられなかった。――発端は、ほんの少し前。
僕が一夏への好意を完全に自覚して。その後、自室にいた時に山田先生から大浴場が男子も使える事を知らされて。


『織斑君、デュノア君、朗報ですよ!!』
 ぐっとガッツポーズをした山田先生の、大きな胸が強調されて。それが一夏の視線を集めたのを見た時から、少しおかしくなった。
『や、山田先生。朗報って何ですか?』
『実はですね』
 山田先生の話を聞いていくうちに。目のやり場に困っていた一夏の表情が、見る見るうちに変わっていった。そして。
『ありがとうございます!!』
『え、ええっ!? お、織斑君!?』
 子供のように輝く目をした一夏が、山田先生の手を握った。そういった経験もなさそうな山田先生が、今度は困惑して。
『お、織斑君、あの、その、先生、こ、困ります……』
 顔を真っ赤にしつつも。けっして、嫌がってはいない表情になった。それを見て、ますます気分がおかしくなって。
『じゃ、じゃあ先生は安芸野君とブローン君にお伝えしてきますね!! 隣のクロトー君には、もう食堂で伝えましたから!!』
 慌てて山田先生は去っていく。そしてガッツポーズをした一夏と視線が合い。ようやく、僕の事に思い至ったようだった。
そして、僕も気分を普通に戻すけど。心に溜まったモヤモヤは、消えなかった。


『頼んだぜ!!』
 大浴場に入れる、と解った途端、瞬時加速でも使ったように一夏は向かっていった。本当に好きなんだなあ、と思うけれど。
『おう、好きだ!!』
 僕の事を言われたんじゃないのに、あの言葉にドキドキした。……でも、一夏を好きな人って多いよね?
幼馴染みだという篠ノ之さん。それにオルコットさんや二組の凰さんも……。僕じゃ、勝てるのかな……? と思っていたら。
『あいつ、本当に風呂好きなんだな。クラウスなら、女子が間違えて入っているって知らない限りはあんな速度は出さないぞ。
まあ、今度は入学当時みたいに裸の女子が待っているわけじゃないから、突撃しても問題ないだろうけど……』
『……え゛? ……将隆、それってどういう意味? 入学当時、って事は僕のケースじゃないよね?』
『え? ――あ、その、だな』
 ……将隆が『俺も聞いた話だから、又聞きになるんだけどな』と言って話してくれた内容は、意外すぎるアクシデントだった。
一夏が、入学初日。ルームメイトだった篠ノ之さんのシャワー上がりの姿を目撃したというアクシデント。
篠ノ之さんは、バスタオル一枚だったらしく。宇月さんが偶然一緒にいなければ、大騒ぎになっていただろう……という事だったけど。
(し、篠ノ之さんは一夏にセミヌードを見せていたの!? そ、そんな……!! ぼ、僕ももっと大胆に行かないと、駄目なのかな?)
 そんな事を考えてしまった僕は、とっさに、自分でも思いがけない言葉を口にしていた。
『将隆。い、今から僕も入ってくるから、見張っておいてくれないかな?』
『……え? シャルル、悪いけどもう一回言ってくれるか?』
 将隆の唖然とした表情で、自分がとんでもない事を言ったのがわかったけれど。……もう、止まらなかった。
お風呂の魔力なのか、自分の気持ちをそれなりに伝えられて。そして、本当の名前も自分の口で教えられて。
一緒に『強くなろう』と言われて。今でも凄くドキドキしているけれど。後悔は、していなかった。
……でもね、一夏。強くなろうって思ったのには、一夏には言わなかった理由があるんだよ?
篠ノ之さんや他の皆に負けたくないから。強くなろう、って思ったんだよ。


「あ、デュノア君! 良かった。ちょうど今、お風呂から上がったんですね?」
 脱衣場に戻り、待ってもらっていた将隆に礼を言い。そして脱衣場を出ると、そこには山田先生が待っていた。
さっきと同じか、それ以上の笑顔を浮かべている。何か、良い事でもあったのかな?
「は、はい。どうしたんですか、山田先生?」
 ……少し、自分の声が上ずっているのが解る。だって、僕達は男女混浴をやらかしたばかり。
もしこれが織斑先生にばれていたら……と、今更ながらに恐怖を感じていたけれど。
「はい。デュノア社の社長さん――デュノア君のお父さんが今、いらっしゃっています。デュノア君への、激励みたいですよ」
「「!」」
 笑顔の山田先生が言った、何気ない一言。
それは、一夏に『シャルロット』という名前を教えた日の最後に待っていた、とんでもない出来事の始まりだった。




 次回は、いよいよシャル関連の一つの山場(オリジナル)です。
今まで何十、何百人もの方が書いてきたシャルと父親の関係。……うん、今からそれを書く困難さに震えております。


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